ご協力お願いします。
「はぁ~…どうしたもんかなぁ…。」
日も暮れたアビドスの街を途方に暮れながら歩く一人の獣人系のキヴォトス人。
それだけ見るとキヴォトスでは見慣れたものだが…注目すべきは彼の荷物と腕章だろう。
手には家庭用ではない本格的な撮影用のカメラ。
そして腕章には…『テレビD.U.』と書かれてあった。
アビドス独立戦争、この戦争で大きく影響を受けたのはカイザーだけではない。
クロノスを始めとした多数の報道機関、それらも多大な痛手を負っていた。
なにせ裏取りもせずにカイザーの口車に乗り偏向報道を発信してしまいその信用は大きく低下。
戦後、ネイトに訴訟を起こされそのツケを払わされたが一度失った信用はそう簡単に回復しない。
普段から強引な取材を行っていたクロノスはもちろんキヴォトスに存在する多数のキー局は苦境に立たされている。
…そんな中にあってなんと一切の被害を免れたキー局があった。
それがこの『テレビD.U.』である。
キー局ではある物の規模は小さめだが他局にはない特色がある。
端的にいうと…『我が道を行く』というものだ。
他局にはない個性的なバラエティ番組にドキュメンタリーなどを多く制作しコアな人気を獲得。
さらに報道に関しても他局とは一線を画している。
アビドス独立戦争時の例を挙げるとプレジデントの会見をどこの局も特番を汲み生中継している中…通常の放送スケジュールでアニメとスポーツ番組を放送していた。
その後も『他所がやってるからウチはいいだろ』と言わんばかりにニュースでも会見の様子のみを報道するだけ。
コメンテーターもいないので一切の意見もなかった。
…予算が足りず他局のような報道体制が敷けなかったのは内緒の話だ
つまり、図らずもテレビD.U.は翌日の朝のニュース番組までこの戦争にはほぼノータッチだったのである。
その後はセイント・ネフティス社やネイト自身から発信された情報によって中立的な報道に終始。
これを受けネイトや先生にセイント・ネフティス社の弁護団も…
『ここはいいだろ。』
と一切の訴訟を起こさなかった。
結果、報道各社が四苦八苦する中にあって特段変わらず番組作りが行えている唯一と言ってもいいキー局となったのである。
そんな『テレビD.U.』のとあるバラエティ番組のスタッフが何をしに夜も深まったアビドスを歩いているのかというと…
「人が戻ってきたからって言ってもやっぱり夜はほとんど人通りがないなぁ…。」
そう、いかにアビドスに人が戻ってきたからと言ってもすぐに栄えるわけではない。
今のアビドスの街は例えるとするなら小規模な地方都市の様な物。
こんな夜になるとそもそも人も出歩かない上営業している店がそもそも少ない。
彼の番組の取材ターゲットは一般人なので人がいなければ話にならない。
普段は大都会のD.U.で取材しているので勝手がかなり違う。
「ふ~む…いったん駅まで戻ったほうが…。」
だいぶ駅から離れた場所まで来てしまったのでいったん戻ろうかと思った矢先…
「…ん?」
スタッフの視界に明るい一角が目に入った。
見たところ屋台のようだが…営業中を示す赤提灯は上がっていない。
それでも賑やかな大人の声が聞こえてきている。
「…一丁行ってみるか。」
駄目で元々、わずかな望みをかけてそのスタッフはその屋台の元に向かう。
近づいていくと…
「私だって…!私だって必死ににやってたんだ…!」
「まぁまぁそう悲観的になるなって。」
「今は忙しいけど充実してるんだろう?」
「そう言う暗い話は無しにしとくれよ、店長。」
人数は四人、一人はオートマタが混じっているようだ。
「ごめんくださーい。」
スタッフが近づき声をかけると…
「へいらっしゃい!すみません、今日もう終わっちゃってて…。」
屋台から割烹着姿の獣人…大将がそう声をかけてきた。
「あ、いえ客じゃなくて…。」
スタッフがそう断ろうとすると…
「ん?誰なんだ、一体?」
「…えッ!!?」
暖簾を挙げて顔をのぞかせた人物に驚愕する。
「…テレビクルーがこんな時間にここに来るのは珍しいな。」
(だ、W.G.T.C.のネイト社長!!?)
多くのテレビ局を叩き潰した張本人と言ってもいい人物、ネイトだった。
さらに、
「おぉ?ちょっと~アポはもらってないよ~?」
(セイント・ネフティス社のセヘジュ十六夜!?)
ネイトより出来上がっている十六夜社長に…
「なんだというのだ?こんなとこに来ても面白いことなどなかろうに。」
(か、カイザーPMCの理事!?)
かつてキヴォトスに君臨していた一大PMCの長である理事…もとい店長が顔をのぞかせた。
(なんだ!?なんだ、この集まり!?)
ここにいるメンツだけでキヴォトスがひっくり返るであろうメンツである。
一体何がどうしてこんな遅くの赤提灯がない屋台で屯しているのかさっぱり分からない。
「で?いったい何の御用で?」
「はっはい!私こういうもので…。」
柴大将に促されスタッフは四人に名刺を渡す。
その内容を見て…
「…あぁ~テレビD.U.、よく見てるよ。あのお宝鑑定番組は好きだな。」
「私はそうだなぁ~…。たまに襲撃受けてる充電バイク旅を楽しみにしてるよ~。」
「昔、企業ドキュメンタリーで取材にきたことがあったな…。あの時は対応が大変だった…。」
三者三様、割と好印象を抱いている反応を見せる。
「…ひょっとしてこれも番組の撮影?」
「はい、私…『お宅、連れてってもらえませんか?』という番組のディレクターで…。」
ネイトに尋ねられスタッフは自分の番組を明かすと…
『おぉ~。』
四人の声が揃った。
どうやら見たことがあるらしい。
「まぁなんだ。そこに立ってないで座ったらどうだ?」
「い、いいんですかッ!?そ、その撮影は…!」
「あぁ、構わないよぉ~。ねぇ、大将~?」
「おう、でも今度は店が開いてるときに来てくれよ。」
「おいおい…。まぁ、もう辞めてるしいいか。」
「ありがとうございますっ!」
諦めていたところにまさかの僥倖、こんな大物ぞろいの集まりに出会え撮影もできるとは思ってなかった。
空いている席に腰掛けるとカウンターにはラーメンではなく…
「あの…これは?」
「あぁ、うち明日定休日だからチャーシューとか中途半端に残ってても廃棄しなきゃいけないんだ。」
「で、それが勿体ないからこうやってたまに大人が集まって消費してるってわけさ。」
皿に盛られている軽く調理されたチャーシューに煮卵にメンマなど。
それらを肴にビールやハイボールなどを楽しんでいるのだ。
「はじめはネイトさんと俺だけだったんだが…。」
「こんなひっそり楽しむなんてもったいないよぉ~。」
「どこで聞きつけたかこの出来上がってる十六夜社長が聞きつけてやってきて…。」
「今は私までネイト社長に連れてこられてるというわけだ。」
「な、なるほど…。」
経緯は分かったが…それにしても大物が集まりすぎている。
それにしてもスタッフが疑問に思うのは…
「それでどうして撮影を許可して…。」
柴大将は別にしても…この三人一人取材するのにも交渉が相当かかるはずなのにこんなにすんなり受け入れたのか?
特にネイトは報道機関にはいい印象は持っていないはず。
すると、
「そりゃあ、おたくのテレビ局はちゃんと報道してくれたからな。」
「うん、カイザーに言いくるめられないで情報を発信できてたからねぇ~。」
メディア嫌いであるはずのネイトと十六夜社長があの時の報道姿勢を評価するコメントを発し
「クゥ…低予算局向けの情報発信方法をもう少し考えるべきだったか…!」
メディア戦術が少し失敗したことに悔しそうな表情を浮かべる店長。
「そ、そうですか…。」
予算に悩む番組作りがまさかこんなところで役立つとは…。
普段の苦悩のおかげでこんな特ダネが転がり込んでくるとは分からないものだ。
その後も…
「そしたらこの男が一個分隊程度の人数で私の基地に殴りこんできたんだ!」
「い、一個分隊!?10人程度で!?」
「そりゃあ、あの時は大半の生徒を防衛にあててたからな。」
「そこにネイトさんも加わってたんだからすごい話だよねぇ~。」
一般にはあまり広まっていないアビドス独立戦争の一幕の話や、
「ウチとはアビドスが賑やかになる前からの付き合いでねぇ。」
「今もアビドス生徒会の会計がここでバイトしているぞ。」
「そんなご縁で…。」
「初めて来たときは…なんだったっけ?」
「俺がトカゲで朝飯作ろうとしてたとこを見られて大目玉喰らってな…。」
ネイトと大将の出会いの話、
「そうそう美食研究会も来たんでしたね、大将~。」
「美食研究会!?あの店を良く吹き飛ばしてる!?」
「おう、あんときはすごかった!アカリちゃんがよぉ、パワートッピング全部マシマシを材料無くなるまでお替りするもんだからさ!」
「あの時はすまなかったな、大将。」
「いやいや、若い子がたくさんウチのラーメンを食べてくれるってことは嬉しい事だよ!」
「あの美食研究会が認めたラーメン…!」
気に入らなかったりまずい店を爆破する美食研究会からお墨付きをもらったエピソードや、
「そしたらネイトさん、うちの娘の誘いを断るんだもん!」
「大人としてのしっかりとした対応だと言ってほしいな。」
「でも、あの子の親としては複雑なんだよぉ~!」
「セヘジュ十六夜って…愉快な方なんですね…。」
「出来上がるとこんな感じだぞ。私も初めての時は面食らった。」
普段の様子では絶対に見られない十六夜社長の姿や、
「それで理事…いえ、店長さんは何を?」
「今はネイト社長の所でリサイクルショップを任されている。」
「PMCの元トップがリサイクル店の店長…?!」
「意外だろ?結構盛況でな。意外と板についてるんだ、これが。」
「あの頃よりも慌ただしいが…まぁ充実はしている。」
戦争後から表舞台から姿を消していた理事の意外な就職先など。
酒も入っているからか普通なら絶対に聞けないようなエピソードがポンポン飛び出てくる。
スタッフはそれらすべてをきちんとカメラに収めていた。
その後、しばらくし…
「ッと、そろそろ宴もたけなわかなぁ~?」
「これで廃棄しなきゃならないものはなくなったよ。何時もすまないねぇ。」
「なに、こっちもいい酒のつまみにありつけて助かってるんだ。」
「こうやって騒ぎながら飲むのもいいものだな…。」
用意されていたつまみも底を付きお開きの時間に。
さて、ここで問題になるのが…
「さて、スタッフくん。誰のお宅に来るんだい?」
「え…!?」
この番組の最大の売りである『お宅訪問』の行き先だ。
柴大将は別にして…
「うちは家内に許可とらなきゃだけど僕は構わないよぉ。」
キヴォトスに名だたる大企業のセイント・ネフティス社の十六夜社長。
「私の家は…別に来ても構わんが何もないぞ?」
かつてはカイザーPMCを率い今は敵対企業に転職したという店長。
「うちは家というより根城だが…まぁいいか。」
いま最も注目されているであろう謎のベールに包まれたW.G.T.C.社長のネイト。
…誰一人とってもこんなチャンスは二度とないと言わざるを得ない人物ばかりだ。
「う、う~ん…!」
これにはスタッフも腕を組んで悩む。
と、
「よし、じゃあこうしよう!」
助け舟を出したのは柴大将だ。
取り出したのは三つのサイコロ。
「三人とも、一回ずつこれ振って…そうだなぁ…よし、一番出目の多い人が連れて行くってことで。」
「よし、そうしよぉ!」
「それならば公平だな。」
「じゃあさっそく。」
なんと軽く決められる訪問先。
そして、スタッフが向かった先は…
「ここが俺の家…というより住んでる場所だな。」
「アビドス高校にですか…!?」
「ここにきてずっとだぞ。」
出目16(現在のLuck値17)を出したネイトの住むアビドス高校だった。
「んじゃこれ、来客用のパス。」
「ありがとうございます。」
「それからセキュリティがあるから部屋につくまではカメラストップで。」
「分かりました。お邪魔します。」
パスを渡し注意事項を伝え二人はアビドス高校に踏み入り、
「…よし、もういいぞ。」
「ここが…!」
ネイトの根城である技術室にカメラが初めて入った。
中はいくつかの作業台の上に整理された様々な資材やメンテナンス中か銃器やアーマーが置かれてある。
他には大型の工具箱や工具や銃器を掛けるラックなども置かれてある。
かと思えば教壇がある方にはベッドやテレビに冷蔵庫などの最低限の家具が揃っている。
「…なんだか想像と違いますね。」
「カイザーの言ってた金ぴかな部屋じゃないがここが俺の根城だ。」
確かにカイザーの言っていたようなカルト教祖の部屋では絶対ないが…かといって一企業の社長が暮らしているような部屋にも見えない。
「どうしてここに?」
「ここに来た頃に使っていいって言われてな。それからずっとここだ。」
「引っ越そうとかは?」
「愛着があるし一応この学校の用務員でもあるから色々都合がいいんだよ。」
早速取材ということで様々なことを質問するスタッフ。
「こちらの作業台は?」
「武器のメンテナンスやカスタムをやってるからな。あっちはアーマーの改造用でそっちが薬品製造用。」
「へぇ…カスタムもやってるんですね…。」
「で、あっちがロボット製造用の作業台。ここに来る道中見かけたのは全部あれで作ってる。」
「自家製のロボットだったんですか…!?」
「キヴォトスじゃ見ないロボットだったろ?まぁ、大したもてなしはできないが掛けてくれ。」
そして、ネイトとスタッフは向かい合うように座る。
「ネイトさんはどうしてこのアビドスに?キヴォトス人じゃないですよね?」
「俺はシャーレの先生と同じ普通の人間だよ。頭や心臓撃ち抜かれたらすぐに死んでしまう。」
「…銃撃戦もあるこの場所は怖くないですか?」
「そりゃ怖いさ。でも、経験がないわけじゃない。」
「というと?」
「前職はエンジニアだがその前は軍にいた。だから銃撃戦にはかなり免疫があるのさ。で、アビドスのOGに依頼されてここの復興を手伝っている。」
「アビドスの復興…。」
「…そう言えば公に言ったことはなかったな。」
確かに戦争前はそれこそ存在を知られないように活動していたネイト。
戦争中もカヤ経由で連邦生徒会にはここにいる理由は伝えたがマスコミに明かしたのは初めてだ。
「まぁ、別に秘密にすることでもないからいいか。」
「そのつながりでセヘジュ十六夜とも?」
「来た次の日に知り合った。」
「そんなにあっさり…!?」
「運が色々とよかったのさ。」
口を開けばどんどん新情報が出てくるネイトにスタッフの驚きも止まらない。
「そ、それでネイトさん。」
「なんだ?」
「あそこの写真は?」
次にスタッフが注目したのは窓際においてあるいくつもの写真立だ。
そこにはネイトと一緒に生徒たちが写った写真が飾られている。
「あぁ、あれか。ここに来る前はそんな習慣はなかったが…節目節目に撮影してたらこんなに増えてな。」
そんな写真立てをいくつか手に取りスタッフに見せるネイト。
「これがここにきて最初に撮った写真。このころは俺も含めてたった6人しかいなかったんだ。」
「あっ、現在のアビドス生徒会のメンバーですね。」
「あのときは来て早々ヘルメット団の襲撃にあっててなぁ…。」
もう一年近く経つがまだ昨日のように思い出せる。
連邦で仲間たちに見送られてユメに頼まれで第二の人生スタートから僅か一時間足らずで銃撃戦。
「その日から俺のアビドスでの生活はスタートしたんだ。」
「じゃあこの人数が増えてる写真は?」
「これはここにきて一月たったころにアビドスに転入生が来た時の記念写真。」
「…なんだが…その?」
「ガラが悪い?」
「いっいえそんなことは…。」
「無理もない。全員この日の前日に俺にカツアゲやら強請り仕掛けてきた不良やスケバンなんだからな。」
「え、これ全員ですか!?」
「全員一回拳骨で伸したがな。」
「ひえ~…。」
実に数十人の不良を拳骨で仕留めたという話や、
「これがカイザーから払い下げられた重機で初めて現場に出た時の写真。」
「カイザーってカイザーコンストラクションですか?」
「ちょいと契約の裏かいてな。支払いに困ったコンストラクションから機材で現物払いもうけてたんだ。」
カイザーとの表に出ない裏話、
「これがミレニアムのゲーム開発部と遊んだ時の写真、俺にアビドス以外でできた初めての友人だ。」
「ゲーム開発部というと先日のミレニアムプライスでグランプリをとった…!」
「うちの会社だと機材オペレーターの訓練用シミュレータとかも作ってもらってる。」
「なんだか…ご友人というより保護者みたいですね。」
「はッはッはッ!よく言われるしセミナーの生徒にはお目付け役を任されてるな!」
ミレニアムのモモイ・ミドリ・ユズと撮ったプリクラ写真を引き伸ばしたものなど。
今まで他局では今まで取り上げられたことのないネイトの普段の様子や交友関係などが次々に明らかになっていく。
「そんなに驚くようなことか?」
一つ一つの話にリアクションするスタッフにそう尋ねるが、
「いや、SNSとかW.G.T.C.の公式アカウントだとそんなに発信されてないのでそれは新鮮ですよ。」
「…そう言えば俺も全くモモッターで呟いたりしてないな…。」
以前としてW.G.T.C.…というよりネイトの詳細はどのメディアもつかめていない。
それがこうもあっさり明かされるのは情報の洪水と言ってもいいだろう。
と、そんな写真の中で…
「あの…その写真は?」
一際『異彩』を放つものが一枚あった。
それはネイトと…ミレニアムの制服を着たとても長い黒髪の少女が写ったものだ。
二人ともとても幸せそうに笑みを浮かべ抱きしめ合っている。
「あぁ、それか?その子は…。」
ネイトが答えようとしたその時…ネイトのスマホが震えた。
「ん?」
「あ、どうぞお気になさらず出てください。」
「すまないな。っと、これは…。」
スタッフに断りを入れスマホの画面を見ると…
「…運がいいな、君は。」
「え?」
そう浅く笑い電話に出ると…
「やぁ、アリス。もう寝る時間じゃないか?」
(アリス?)
「まぁたモモイ達が?夜更かしもいいが程々にな。」
電話の相手はどうやら生徒のようで優しく窘めるように会話を交わす。
「俺か?俺は…いまテレビの取材を受けてるところだ。」
相手に尋ねられたか自分の状況を明かすと…
《―――ッ!》
「ッ!あぁ、あぁ分かった。ちょっと待ってくれ。」
離れていても聞こえてくるほどの大声が受話スピーカーが木霊する。
「あぁ~…どうしても自分も話したいって言ってるんだがスピーカーにしてもいいか?」
「どうぞどうぞ。」
「ありがとう。よし、いいぞ。」
再度断りを入れてハンズフリーモードにするや否や…
《こんばんは!》
こんな夜遅い時間には不釣り合いな元気な少女の声が響き渡った。
「こんばんは。えぇっと君は?」
《はい!私はミレニアムサイエンススクール一年生のアリスと言います!》
「この写真の子さ。」
「はじめまして、アリスさん。」
電話の相手、アリスとスタッフはあいさつを交わし、
「それでアリスさん。君とネイトさんはどういう関係なんだい?」
テレビクルーの定めか簡単なインタビューを始める。
いまはもうかなり遅い時間、一般の生徒は就寝しているはず。
そんな時間にネイトに連絡を取り本人も嫌な顔せずに出るというのは相当気心が知れた仲なのだろう。
だが…
《はい!アリスと『パパ』は親子です!》
「…んんっ!?」
帰ってきたスタッフの斜め上にカッ飛んだ答えに言葉に詰まった。
「あ、あの…ネイトさん?」
「聞いての通りだ。アリスは俺の養子さ。」
《はい!この前家族になりました!》
「え…えー…。」
今日一番の特ダネの投下にとうとうスタッフも少しフリーズ。
まさかあのネイトに養子とはいえ娘がいたとは…。
おそらく…殆ど出回っていない情報だろう。
「…すみません、少し時間をください。」
スタッフはしばし静かになり脳内を整理し始め、
「…ハイ、もう大丈夫です。」
「まとまったか?」
「あの、アリスさんにもインタビューしてもよろしいですか?」
《アリスは大丈夫ですよ。》
「もう遅いからあまり長くしないのならな。」
「ありがとうございます。」
やはりテレビに携わる者、アリスへのインタビューを始めるのであった。
「ネイトさんはどんな人かな?」
《パパはとっても強くて優しいです。アリスの憧れの人でもあります。》
「ネイトさんと家族になった経緯は?」
《私がパパに『アリスのパパになってほしい』とお願いしました。アリス、パパという存在に憧れていましてパパができて嬉しいです!》
「そっか。とてもいいお父さんなんだね。」
《はい!お休みの時はミレニアムまで来てくれてアリスたちと遊んだりお出かけしてくれます!》
こんな感じにインタビューは進んで行く。
朗らかに答えるアリスに『本当に幸せ』だという思いが伝わってきてスタッフも自然と笑顔を浮かべていた。
「ッと、そろそろいいか?」
時計を見ると短い針がてっぺんを過ぎていた。
「はい、ありがとうございます。」
「アリス、もう遅い時間だ。そろそろちゃんと歯を磨いてベッドに入るんだぞ?」
《わかりました。…おやすみなさい、パパ。》
「あぁ、おやすみ。」
アリスに注意しおやすみの挨拶を交わし通話は終了。
「…元気な子ですね。」
「そうだな。俺まで元気をもらってるよ。」
「では、その写真が…。」
「そう、この子がアリスだ。」
改めてその写真を見るスタッフ。
そして…
「…みれば見るほど…養子だなんて信じられませんね。」
「そうか?」
「はい、そうでなければ…こんなそっくりな笑顔はできませんよ。」
いい意味で『血の繋がり』を疑った。
それほどまでに…アリスとネイトの笑顔は『実の親子』そのものだったのだ。
「…フフッありがとう。」
その言葉にネイトも写真と同じような満面の笑みを浮かべるのであった。
その後しばらくし…
「今夜はどうもありがとうございました。」
「いやなに、こっちも賑やかな夜にしてくれて礼を言うよ。」
スタッフはアビドス高校の外でネイトに取材を受けてくれた礼を述べていた。
「俺や屋台の映像は構わないがここでの話は一応二つの学校に許可は取ってくれよ?」
「分かっています。放送日時が決定しましたら改めて連絡しますので。」
「楽しみにしている。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい、ネイトさん。」
こうしてネイトが初めてメディアの取材を受けた夜は終わった。
「さぁ~て…これ編集大変だなぁ…。」
その帰り道…スタッフはこの後の仕事に忙殺されることが確定したことを察するが…
「…ま、特ダネ撮れたし頑張りますか。」
望外の収穫に胸を躍らせ足取り軽くD.U.へと返っていくのであった。
――――――――――――――――
―――――――――
―――
後日、『お宅、連れてってもらえませんか?』でこの様子は放送された。
あまりの情報量に編集長肝いりでスペシャルとして。
アビドスは元よりミレニアムもこの放送に即座にGoサインを出してくれたおかげでもある。
ミレニアムとしてもネイトとアリスの関係を大々的に広めることにより他の学校に対して『ネイトと深い関係を結んでいる』というアピールする狙いもあった。
結果、番組はかなりの視聴率を記録。
他の局を出し抜きネイトの取材を成し遂げたテレビD.U.にクロノスをはじめ噛んだハンカチを引きちぎるほど悔しがったという。
そして…
「ネ・イ・ト・さぁん?随分と盛り上がってたねぇ~♪」
「ん…あんな楽しいのを大人達だけなんてずるい。」
「私が知らないうちにあんなことを…!」
「お父様も一緒だったなんて…水臭いですよぉ♠」
ホシノ達に大人の付き合いを知られ若干詰め寄られたネイト。
「ま、まぁまぁ皆さん。ネイトさんにもお付き合いというものが…。」
唯一アヤネがあの酒盛りに理解を示してくれ皆を宥め…
「あんな時間に外歩いてたらヴァルキューレに補導されるぞ?第一、酒も出てたし。」
『グヌヌ…!』
ネイトもネイトでキヴォトスの法律を盾に四人を納得させるのであった。
これにはさすがのホシノ達も反論できず『二十歳になったら連れていくこと』を条件に許してくれた。
なお…
「だ~か~ら~!別に誰と養子縁組組んでもいいだろうが、マコト!」
ネイトもネイトで放送後に主にゲヘナからの問い合わせを捌くのに少々忙しかったという。
ある日の深夜、ミレニアムにて…
「そぉっとそぉっと…。」
誰もいない廊下を小さな影が忍び足で歩いていた。
その背後には…とんでもなく分厚い金庫の扉のようなものがある。
その影は着実に歩を進め…
「よし、ちょろいもんです…!」
教室にあった端末から何かを操作しニンマリと笑顔を浮かべる。
「これで『お金』の心配はなくなりましたが…もう一つ何か欲しいですねぇ…。」
そう言い、その影…いやローター式暗号機のローターのようなヘイローが浮かぶ長い桃髪をした小柄な生徒は考え込む。
そして…
「…ッそうだ…!」
あることを思いついたようだ。
その後…
「にはははは…!ここの物ならどこの学校でも喜んで買い取ってくれるはず…!」
再びニンマリとした表情である部室を後にする。
「さて…ここの監視網を抜けた後に高飛びすれば晴れて自由の身です…!」
こうしてその生徒は闇夜に紛れミレニアムの学区を抜け出すために行動する。
そんな中…
(それにしても一体何なんでしょう?外部通信できない端末のデータでしたので相当大切な発明品なんでしょうけど…。)
その生徒は今しがた抜き取ったデータについて考える。
正直、適当に選んだ端末で中身を検める暇はなかった。
非常に『厳重に』プロテクトされていたが…自分には全く問題にならない。
(ま、あれだけ厳重だったのならとても高く売れるはずです…!)
難しい事を考えるのは売り先の仕事だ。
そう言い聞かせ、その生徒は闇夜を駆ける。
…先ほど彼女が忍び込んだのは…『新素材開発部』の部室だ。
そして…彼女が持ち出したデータの中身の正体。
それは…ある『繊維』に関するデータと…製法が記録されたものであった。
ネイトの苗字は…
-
なくていい
-
あったほうがいい
-
作者に任せる