Fallout archive   作:Rockjaw

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不幸に対する特効薬はありません。ただ昔から退屈な忍耐とか、あきらめといった美徳があるのみです。
―――著作家『オルダス・ハクスリー』


Castle on the Sea swirling with Desire

「はぁ~…もう…!」

 

ミレニアムの廊下をヌッヌッと進むユウカ。

 

一見して相当お冠で相当焦っているようだが…

 

「…いいえ、先生たちを信じるしかないわ…!」

 

焦っても何もならないことも分かっているようで一旦冷静になろうとするが…

 

「…あぁぁあぁぁあああ!!!もう!!!」

 

頭を掻きむしりどうにもこうにも落ち着けない様子だ。

 

普段の彼女らしくない行動だが…無理もない。

 

「あの子ったら…!!!『お金』の件もだけどよりにもよってあのデータを…!」

 

現在…ミレニアムは二つの危機を迎えている。

 

もし、どちらかの危機でも見逃せば…ミレニアムは終わる。

 

「あと36時間…!いいえ、実質的に使えるのは8時間少々…!」

 

しかもこの危機はタイムリミットがある上…

 

「ネル先輩たち…本当に『スマート』にやってくれるのかしら…?!」

 

事態の収拾に派遣したC&Cにも不安がある。

 

確かにエージェントとしては一級品で任務もほぼ成功している。

 

だが…金がかかりすぎるのだ。

 

目的は達成するものの…建物を吹き飛ばすのは日常茶飯事。

 

結果、賠償金などで経費がとんでもないことになっている。

 

先月のC&C向けの予算は本来の6倍くらいはかかっている…と言えばどれほど金食い虫か理解できるだろう。

 

さらに…今回は場所がまずい。

 

何時ものように騒ぎを起こされるのは本当に拙いのだ。

 

「ホンットに…!!!帰ってきたら覚えてらっしゃい、『コユキ』…!!!」

 

これ以上ないほど恨めしそうにユウカは呟く。

 

すると…

 

「あ、ユウカ!おはよう!」

 

「ど、どうかしたの?」

 

「モモイにミドリ…。」

 

自分とは対照的に元気にあふれるモモイとミドリに出会った。

 

「お疲れみたいだね。これ、いる?」

 

そう言い、モモイは軽食のつもりで用意していたサンドイッチをユウカに差し出す。

 

「…ありがとう。」

 

こんな時だ。

 

何気ないモモイのやさしさが少しユウカの心を癒してくれる。

 

「何かあったの?」

 

「ちょっとセミナーで問題がね…。」

 

「えぇーッ!?大丈夫!?」

 

「平気よ。今はもう解決に動いているわ。」

 

ミドリの質問に少し気丈にふるまい答えていると…

 

「…あら?そう言えばアリスちゃんは?」

 

何時もモモイ達と行動を共にしているアリスの姿がない。

 

珍しく別行動中かと思い尋ねると…

 

「あれ?ノア先輩から聞いてないの?」

 

「ノアから?」

 

「アリスちゃん、ネイトさんと一緒に旅行に行ってるんだよ。」

 

「へぇ~ネイト社長と旅行。いいじゃない。」

 

「アリスったらずっとルンルンで旅行の準備してて。あぁ~あ私も行きたかったなぁ~。」

 

なんとも愛らしい答えが返ってきて今日初めてユウカの表情が和らいだ。

 

ネイトとアリスの仲睦まじさはすでにミレニアム中の噂だ。

 

そんな二人が旅行、アリスが楽しみにするのも無理はない。

 

「お姉ちゃん、ユズちゃんと一緒に決めたでしょ?親子水入らずの初めての旅行だからそう言うの無しって。」

 

「分かってるよ、ミドリ。でも~あんなとこ早々行けないから羨ましいじゃん。ミドリもでしょ?」

 

「それはそうだけどアリスちゃんもお土産買ってくるって言ってたんだから我慢だよ。」

 

「分かってるよ~だ。」

 

「フフッ、モモイもなんだかんだ良いお姉ちゃんやれてるみたいね。」

 

ぶー垂れながらもアリスのことを大切に思うモモイをそう褒めていると…

 

「それでアリスちゃんとネイト社長はどこに行ったの?」

 

単純な興味で旅行の行き先を尋ねるユウカ。

 

…だが、

 

「そうそう!凄いんだよ、ユウカ!行先はなんと豪華客船だよ、豪華客船!」

 

「ネイトさん、オデュッセイア海洋高校から『ゴールデンフリース号』の招待券貰ってそれでアリスちゃんと一緒に…。」

 

二人から行き先を聞いた途端…

 

「………え゛?」

 

普段の彼女からは出ないような声を上げて固まった。

 

「…ユウカ?大丈夫?またなんかすごい顔してるけど…。」

 

明らかな異変にモモイも心配して声をかけると…

 

「…ごめんなさい、もう一度言ってくれるかしら?」

 

これまた聞いたこともないような低い声で聴き直すユウカ。

 

夢であって欲しい、聴き間違いであってほしい。

 

そんな切なる願いが込められていたが…

 

「う、うん。ネイトさんとアリスちゃんは『ゴールデンフリース号』に…。」

 

無情にも…行先は間違いなかった。

 

『ゴールデンフリース号』…その場所は…

 

「…………きゅう。」

 

「ゆ、ユウカ!?」

 

「しっかりして!!!」

 

それまでのストレスが合わさったか…ユウカは力なく床に倒れる。

 

(どうして、神様…!?なんで…そんな意地悪するの…!?)

 

遠くなっていくモモイとミドリの声を聴きつつ…ユウカは一連の不幸を嘆くのであった。

――――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

「フンフフ~ン♪」

 

「ご機嫌さんだな、アリス。」

 

「はい!ずっとずっと楽しみにしていましたから!」

 

「そうか。俺も楽しみでワクワクしてたよ。」

 

そのネイトとアリスは今まさに機上の人となっていた。

 

後部座席でアリスは外を眺めたり鼻歌を口ずさんだりと絵にかいたようなルンルン気分だ。

 

ネイトが操る一天号は現在キヴォトスの南方の洋上を飛行中。

 

延々と続く青い海、ネイトも久しく見る光景だ。

 

「いいな、青い海というのは…。」

 

「綺麗ですね…。」

 

操縦に集中しつつもそんな光景に見入るネイト。

 

そんな青い水面の先に、

 

「おっ見えてきたぞ、アリス。」

 

「本当ですか?!」

 

とうとう見えてきた。

 

「わぁぁぁ…!」

 

戦艦マサチューセッツを『黒鋼の要塞』とするなら…それは『白亜の城都』。

 

「凄い!とっても大きいですね!」

 

「これが『ゴールデンフリース号』か…!」

 

全長400m、全幅72m、総トン数287,000t、デッキ数24階、搭乗人員は最大で11,500人。

 

マサチューセッツが並ぶと巡洋艦に錯覚するほどの巨艦にして『海に浮かぶ街』。

 

これこそがキヴォトスに名だたるオデュッセイア海洋高等学校が保有する豪華客船『ゴールデンフリース号』だ。

 

《こちら、ゴールデンフリース号管制。接近中の機体、応答願います。》

 

「こちら、W.G.T.C.所属機『一天号』。搭乗者はネイトと娘一名。」

 

《確認中。…確認が取れました。ようこそ、ネイト社長。船首のヘリポートにお進みください。》

 

「了解した。」

 

ゴールデンフリース号からの案内で一天号は船に近づいていく。

 

見ると艦首にベルチバードが駐機してもかなり余裕があるヘリポートまで用意されているではないか。

 

航行中の船への着陸はかなりの難易度だがオデュッセイアの生徒からの指示もあって…

 

《オーライッ!オーライッ!そのまま!》

 

「…ふぅ、陸軍出身の俺がまさか海軍のヘリ乗りの真似をするとは…。」

 

無事、一天号はゴールデンフリース号に着艦できた。

 

「よし。降りるぞ、アリス。」

 

「はい!」

 

エンジンを止めアリスは旅行バックにネイトは武骨なダッフルバックを担ぎゴールデンフリース号に降り立った。

 

ネイトは『綺麗なグリーサージャケットとジーンズ』を着てサングラスをかけアリスは青い生地にエメラルドグリーンの水玉模様のサマーワンピースにカーディガンを羽織り白いつば広ハットをかぶっている。

 

そんな二人の元に、

 

「ネイト社長、ゴールデンフリース号にようこそいらっしゃいました!」

 

正しい意味での『セーラー服』をきたオデュッセイアの生徒がやってきた。

 

「招待してくれて感謝するよ。」

 

「いえ、わが校も貴方からの多大な援助に感謝してもしきれません!本日より3泊4日、ぜひ我がゴールデンフリース号を満喫してください!」

 

「お世話になります!」

 

「はい、よろしくね!では、こちらにご記帳ください!」

 

そう言い、オデュッセイアの生徒はタブレット端末を差し出す。

 

「あぁッと、よく知られてる俺の名前は短縮形なんだが…本名でちゃんと書いた方がいいか?」

 

「できればキヴォトスのセントラルネットワークに登録されているお名前でお願いします。」

 

「分かった。」

 

そう言われ、ネイトはタブレットにこう記入した。

 

Nathanael Martinと。

 

「これでいいか?」

 

「…ハイ、乗客名簿に登録ができました。では次にお嬢さんを。」

 

「分かりました!」

 

ネイトの乗客としての登録が完了し続いてアリスが…天童・アリス・マーティンと記入する。

 

「できました!」

 

「ありがとう。…うん、アリスちゃんも問題ないですね。」

 

アリスも確認と登録ができた。

 

すると…

 

「ふふふ♪」

 

アリスがネイトに向って満面の笑みを向けてきた。

 

「アリス、どうかしたか?」

 

「はい!アリス、本当にパパの娘になれたんだと思って嬉しいんです!」

 

初めてのネイトとの旅行、そしてネイトと一緒に初めて『自分の名前』を書いた。

 

モモイ達が付けてくれた『天童』とネイトがくれた『マーティン』という二つの苗字。

 

アリスがアリスとして、そしてネイトの娘としての大切な象徴だ。

 

それがちゃんと認められていることが…どうしようもなく嬉しかったのだ。

 

「そっか。俺もアリスの父親になれてうれしいよ。」

 

ネイトもアリスの言葉に笑みを浮かべる。

 

「大変仲がよろしいですね、お二人とも♪それでは、部屋にご案内しますね。」

 

オデュッセイアの生徒も仲睦まじい光景に笑顔となり部屋に案内してくれた。

 

エレベーターで上層階層まで昇りしばし歩き通されたのは…

 

「こちらがネイト社長とアリスさんがお泊りになられるお部屋です。」

 

「わぁ~広いです!ベッドも大きいです!」

 

「おぉ~オーシャンビューか。しかもテラス付とは…。」

 

ここがクルーズ船とは思えないほど広くクイーンサイズのべッドが二つにソファと家具だけでなくインテリアまで豪華な内装だった。

 

さらに海を見渡せる大きな窓にテラスまで備え付けてある。

 

「本当にこんな良い所に泊まっていいのか?」

 

「はい、ぜひ満喫してください。それでは、このゴールデンフリース号のシステムについてご説明してもよろしいですか?」

 

「アリス、こっちに来てくれ。」

 

「ハ~イ♪」

 

はしゃぐアリスを呼び寄せ生徒の説明を聞き始める。

 

「本船、ゴールデンフリース号のお客様には『等級』というものがございます。」

 

「そこは普通のクルーズ船と同じだな。」

 

「ですが、この等級は上下しお客様が受けることができるサービスの質や待遇が変化します。」

 

「レベルダウンもするんですか?アリスたちはどうなのですか?」

 

「お二人は今回のご乗船中に限り『Aランク』、当船に於ける最上級のサービスをポイントの有無に関係なくご提供させていただきます。」

 

そう、これこそがゴールデンフリース号の一番の特徴にして売りと言ってもいいだろう。

 

通常のクルーズ船なら部屋などの等級などは乗船してからは変化しない代わりにサービスは殆ど一律に受けることができる。

 

乗船後等級を上げることは難しい上に料金もかかるはず。

 

だが、ゴールデンフリース号は乗船してからこの等級を変化させることができる。

 

それを可能とするのが…

 

「感謝する。…ちなみにだがランクはどう変化するんだ?」

 

「この船には『プレイラウンジ』と言います巨大なゲーム場がございます。」

 

「!ゲームセンターですか!?」

 

「というより『カジノ』と言った方が近いですね。そこで遊んでいただき得られた財貨によって得られる引換券でそのサービスの等級が変化いたします。」

 

そう、このゴールデンフリース号はカジノのような遊戯施設『プレイラウンジ』を擁している。

 

そこで一発当てさえすればいいのだ。

 

つまり上手く行けば低い等級で乗船しほぼノーコストで最上級まで昇るような下剋上も可能だ。

 

そんなシステムも相まって今まさにこの時も乗客たちがより良いサービスを受けようと必死に遊んでいるのだろう。

 

「ではアリスたちはプレイラウンジでは遊べないのですか?」

 

「いえ、財貨は現金とも引き換えできますので他のお客様と変わりなく遊べますよ。頑張ったら…Sランクも夢じゃないですから頑張ってね。」

 

「分かりました!アリス、ランクアップを目指して頑張ります!」

 

「止めはしないが程々にな。後、俺と一緒に行くこと、良いな?」

 

「そしてこちらが…お二人にお配りする『Aランク』のフリーパスとなります。お買い物や当船の施設やアトラクションをお使いの際はこちらを担当の生徒にご提示ください。」

 

「分かった。大切に使わせてもらう。」

 

「説明は以上です。何かご質問は?」

 

「俺は大丈夫だ。アリスは?」

 

「アリスも大丈夫です!」

 

「ではネイト社長にアリスさん。当ゴールデンフリース号を心行くまでお楽しみください。」

 

説明も終わりオデュッセイアの生徒は部屋を後にしていった。

 

「さて、何はともあれまずは荷ほどきを…。」

 

そう言い、ネイトがダッフルバックを置き荷物を整理し始めようとすると…

 

「パパっ!早くっ早く行きましょう!」

 

「ッとぉ!?待ったっ待ってくれ、アリス!」

 

待ちきれないのか旅行バックを置くや否やアリスがネイトの手を引っ張って部屋を飛び出す。

 

身構えていなかったとはいえネイトを容易く引っ張るアリスの膂力はやはり驚異的だ。

 

「そ、そんなに走ったら危な…!」

 

本来なら注意すべきなのだろうが…

 

「アリス、待ちきれません!」

 

「…分かった。時間はたっぷりあるんだから落ち着きなさい。」

 

こんな機会は中々ない。

 

ネイトも少しスピードを落としてもらいアリスの好きにさせるのであった。

 

その後、ネイトとアリスはゴールデンフリース号のアクティビティを満喫。

 

流石は超大型クルーズ船だけあってアクティビティの種類も量もけた違いだ。

 

「パパ~!撮れてますか~?!」

 

「撮れてるよ、アリス~。」

 

船内にあったミニ遊園地で回転木馬を楽しんだり、

 

「よっほッ…!」

 

「凄いですね…!初めてなのに上級者コースを…!」

 

「頑張ってくださ~い、パパ~!」

 

「オ~!…これは絶景だな…!」

 

ネイトが猿のようにロッククライミングの壁を上り切り高さ数十mの絶景を楽しんだり…

 

「怖いか、アリス?」

 

「あっアリスはこッ怖くなっなんかありません!」

 

「そうか?じゃあ行くぞ!」

 

「まっ待ってパパってきゃあああああ!?」

 

デッキを渡すように通されたジップラインを二人一緒に滑ったりと親子水入らずでゴールデンフリース号のアクティビティを満喫。

 

渡されたAランクのフリーパスのおかげもあって行列もスキップできストレスフリーで楽しめた。

 

「ふぅ~…。」

 

「アリス、楽しめているか?」

 

「はい!パパも一緒ですからもっともっと楽しいです!」

 

今、二人は船内にあった芝生エリアで寝転がり休憩中。

 

アリスも疲れを忘れるくらい楽しんでいるようだ。

 

すると…

 

「わぁ…!パパ、見てください!」

 

「おぉ…これは…。」

 

ちょうど水平線の向こうに太陽が沈む時間帯となり海が夕焼けで赤く染まる。

 

「綺麗ですね…。まるでゲームのワンシーンみたいです…。」

 

「そうだな…。アビドスの砂漠の夕焼けも好きだがこれもまた捨てがたいな…。」

 

「本当ですか?アリスもアビドスの夕焼けを見てみたいです。」

 

「いつでも来るといい。ホシノ達も歓迎してくれるさ。」

 

二人並んでしばし夕日を楽しんでいると…

 

「パパ、アリスを連れてきてくれてありがとうございます。」

 

「ん?」

 

「アリス、パパと一緒に旅行に行けることを楽しみにしていました。」

 

どこか儚げな笑顔でアリスは語る。

 

「パパはアビドスのお仕事で会いに来づらいのは分かっていますしそれでも時間を作って会いに来たり夜に電話したりできるのでアリスは寂しくありません。」

 

「………。」

 

「でも…こうやってパパを一日中アリスのものにできるなんて初めてで時間も忘れて楽しんじゃいました。」

 

思えばアビドスの業務などもあってアリスに会えるのは週に一日か二日がいい所だった。

 

その時も遊んだり出かけたりしていたが今日みたいに過ごすことはできない。

 

「…ごめんな、アリス。」

 

「謝らないでください、パパ。パパはお仕事お頑張るものとアリスも理解していますから。」

 

「いや…それでももっと過ごす時間を作るべきだった。」

 

表面上は強がっているが…アリスも寂しい思いをしていたのだろう。

 

「…おいで、アリス。」

 

「はいっ。」

 

ネイトは腕を広げアリスもその中に飛び込み二人で抱きしめ合う。

 

「アリス、パパとこうするの大好きです…。」

 

「俺もだよ、アリス。これからは俺もトラブルが無ければアリスともっと会えるように頑張るよ。」

 

「アリス…パパともっと会えるのを楽しみにしています…。」

 

「だから、今までの埋め合わせと言っては何だが…この旅行は一杯楽しもうな?」

 

「はいっ!」

 

ネイトとアリスは抱きしめ合いながらこの旅行を満喫することを改めて誓いあっていた。

 

が、

 

クゥ~…

 

「「………フフッ。」」

 

アリスのお腹から可愛らしい音が鳴った。

 

「よし、食事に行こうか。アリス。」

 

「はい、パパ!」

 

腹が減ってはなんとやら、ネイトとアリスは手を繋いでレストランへ向かうのであった。

 

「美味しいですね、パパ!」

 

「こんなに旨いのは本当にいつぶりだ…。」

 

これまたさすがは豪華客船といったところか。

 

レストランも様々な種類の料理が楽しめる店舗が軒を連ねている。

 

そんな中でネイトたちはイタリアン風の店をチョイス。

 

アリスは『ペスカトーレ』、ネイトは『鹿肉のベリーソース掛け』と『シーフードリゾット』を頼み舌鼓を打っていた。

 

ネイトも料理こそできるが…ここまで手の込んだものを食べたのは本当に何十年ぶりかという領域である。

 

二人して食べ進めていき、デザートのジェラートも堪能して…

 

「さて、アリス。今度はどこに行こうか?」

 

今後の行き先を尋ねるネイト。

 

まだ日も暮れたばかり、まだまだ寝るまで時間がある。

 

「では、アリスはジョブチェンジしたいです!」

 

「ジョブチェンジ?」

 

「はい、アリスは今から『遊び人』になります!」

 

「…なるほど。」

 

元気に答えたアリスの答えにネイトも行き先を察する。

 

「よし、行ってみるか!」

 

「わーい!」

 

本当は止めるべきなのだが…せっかくの初めての親子旅行だ。

 

無礼講と行こうではないか。

 

こうしてとうとうネイトとアリスは…『欲望の坩堝』に足を踏み入れた。

 

「わぁぁ…ここが『プレイラウンジ』…!」

 

「凄い熱気だな…!」

 

ゴールデンフリース号最大に人気スポット…プレイラウンジだ。

 

「くっそー!また負けたぁー!」

 

「せめて、せめてBランク…いやこの際Cでも…!」

 

「あぁぁぁぁあああ!!!また飯がお粥にいいいいい!!!」

 

そこら中から欲望に塗れた生徒や大人たちの声が賑わいの一部となって聞こえてくる。

 

と、そこへ…

 

「いらっしゃいませ、私ラウンジガイドを務める者です。」

 

ここを担当しているオートマタがやってきた。

 

「失礼ですがパスを拝見…。」

 

「これでいいか?」

 

「ッ!これはこれはネイト社長にアリス様、よくぞいらっしゃいました。」

 

どうやら話は通ってたようでパスを見せるとネイトたちに頭を下げる。

 

「ではお遊びになられるにあたって少々注意事項が…。」

 

「何かあるのか?」

 

「当ラウンジはハッキング等電子不正の対策のため電子機器の持ち込みを制限しておりまして…。」

 

「…なるほど。」

 

ガイドの言わんとしていることは分かった。

 

ネイトは何も言わずに左腕のPip-Boyを外し、

 

「じゃあ、これを預かっていてくれ。」

 

「ご協力に感謝いたします。ご退出の際にご返却いたしますのでお声がけください。」

 

「あの!アリス、ゲームを作っているのですが資料にしたいので写真を撮っても構いませんか?」

 

「あ~少々お待ちを…。」

 

今度はアリスの頼みを聞きどこかへと連絡すると…

 

「分かりました。…ハイ、スタッフを同行させますので他のお客様のご迷惑にならない範囲でなら大丈夫と許可が出ました。」

 

「ありがとうございます!」

 

「すまないな、ついでにそのスタッフの子に娘の案内も頼めるかな?」

 

「もちろんでございます。」

 

条件付きだが許可も出してくれた。

 

「それでは心行くまでプレイラウンジをお楽しみください。」

 

「よぉし…行こうか。」

 

「はい!」

 

こうして二人はプレイラウンジに足を踏み入れる。

 

まずは軍資金だが…

 

「いいか、アリス。30,000円、これが今日ここで遊ぶ限度額だ。これが無くなったら俺のところに戻ってくること、良いな?」

 

「分かりました!」

 

「じゃあスタッフくん、娘を頼んだ。」

 

「承知いたしました。」

 

あまり羽目を外しすぎるのもいけないのできっちり上限を設けバニー服姿のオデュッセイアの生徒にアリスを託す。

 

「…さて、俺も一当て行きますか。」

 

そして、ネイトもカジノに繰り出す。

 

「…お、コイツは…。」

 

まず目に留まったのはスロットマシーンだ。

 

「懐かしいな、アパラチアのキャンプにもあったっけな。」

 

実はネイト、カジノは初めてではない。

 

戦後のアパラチア、アトランティックシティにあったカジノにレジデントの子孫に連れて行かれたことがある。

 

その際の結果は…

 

「よし、ここにしよう。」

 

適当な台を選んで腰かけるネイト。

 

コインを入れレバーを引きリールを回し始めると…

 

(…あれ、ずいぶん遅いな…。)

 

絵柄がはっきり見えるほど回転速度がゆっくり見えた。

 

(でもこういうのは…)

 

一先ず様子見として適当なタイミングで止めてみる。

 

案の定…リールは止めたタイミングよりも少し滑って止まる。

 

(なるほど…)

 

滑り具合は理解できた。

 

あとは…

 

「さて…程よく稼がせてもらいますよ。」

 

30分後…

 

「フッフッフッフッ…♪」

 

懐にコインがたっぷり入ったバーレルサイズのカップをいくつも抱えたほくほく顔のネイトがいた。

 

目を付けられない様にいい当たりは避け最高でも真ん中ほどの当たりを連発し稼いだのだ。

 

少ししてスタッフが周りに集まり始めていた。

 

どうやらイカサマを疑っていたようだが…

 

(無駄無駄…今の俺は目も耳もいいんだからな…♪)

 

そんなのどこ吹く風と言わんばかりに当たりを出し続けたネイト。

 

「どうだった…?」

 

「いいや、完全な『目押し』で当ててますね…!」

 

「ば、化け物か…!?あれが『アビドス解放の英雄』…!」

 

そう、ネイトのやった事はイカサマでも何でもない。

 

鍛えに鍛えた数値17にも及ぶPerceptionを用いた完璧な『目押し』だ。

 

ついでに…あるS.P.E.C.I.A.L.もノリに乗っている。

 

これでもセーブしていた方なのだ。

 

「さぁて次は…」

 

軍資金がかなり増えたことで次に何をしようかとあたりを探っていると…

カシャンッ

「…ん?」

 

あるテーブルに目が留まった。

 

そこは…

 

「フッフッフッ…今度こそ勝たせてもらいますよぉ~!」

 

「はっはっはっ勝負は最後までわかりゃしまへんでぇ。」

 

白いタイツの黒いバニー服の上にジャケットを着た桃色の長髪の生徒とサングラスをかけ着物姿の年を取った猫獣人が相対しゲームを興じている。

 

ゲームは『テキサスホールデム』、カジノのカードゲームの鉄板だ。

 

「………。」

 

目線を鋭くしネイトはその台に近づく。

 

「よぉしそれじゃあ…!レイズです!」

 

「ほぉそう来るんかいな…。ほな、わてもコールや。」

 

盤面に出ているカードは

♣9 ♠A ♢8 ♣A

 

『おぉ~…。』

 

あと一枚で決着、ショーダウンの状況だ。

 

ギャラリーから声が上がる。

 

盤面だけでAのワンペアが揃っている。

 

これはかなりの混戦が予想されるが…

 

「よろしいですね?では…フィフスストリートと参ります。」

 

ディーラーがそう言い、最後のボードカードをめくる。

 

それは…

♣9 ♠A ♢8 ♣A ♡Q

 

「…フフフッ!天はついに私の味方をしましたよ!!!」

 

桃髪の生徒は勝ちを確信したかボルテージが上がり…

 

「勝負っ!オールインです!!!」

 

自分のチップのすべてを賭けるオールインを宣言。

 

「若いもんは怖いわぁ。怖いもの知らずやさかい…。」

カシャンッ

相手の獣人はこの想いきりの良さに困ったような表情を浮かべるが…

 

「…せやけども、わても男や。乗ったろうやないかい!オールインや!」

 

その意気に応えるべくオールインで答える。

 

「では、ショーダウン。」

 

「これでッどうですかッ!?」

 

桃髪の少女は勢いよく手札を裏返す。

 

手札は…♢A ♣7

 

「Aのスリーカード。」

 

『おぉ~!』

 

Aのスリーカード、この場の組み合わせではかなりの強い手札だ。

 

「にははははッ!どうですか!?これでこれまでの負け分を…!」

 

「悪いな、嬢ちゃん。」

 

「…え?」

 

そんな少女の勝利宣言を遮るように獣人は手札をめくる。

 

それは…♠10 ♢J

 

「えぇッ!?」

 

『ッ!?』

 

まさかのストレートで切って返し…

 

「8~Qのストレート。こちらのお客様の勝利となります。」

 

「ほッほっほっおおきに!えろぉ儲けさせてもらいましたわ。」

 

「うあぁああああーなんでーッ!!?」

 

少女の賭けたチップがすべて獣人の元に送られた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーッ!!!せっかくあと一歩でAランクになれたのにーッ!!!」

 

「それは惜しかったなぁ。せやかて、これも勝負。諦めることも肝心やで?」

 

「う゛ー!!!いいですもん、お金ならまだまだありますからまたここまで昇って見せますよ!!!」

 

「オウ、楽しみにしとるで!」

 

悔しがりながらもリベンジを誓う生徒とそれを受けて立つと宣言する獣人。

 

すると、

 

《おぉっと、ここで新たなAランク到達者が現れました!おめでとうございまーす!》

 

そこかしこにある大きなモニターにその獣人が映し出される。

 

「はっはっはっ!こりゃどうもおおきに!」

 

周りの客から羨望の眼差しと拍手が送られる獣人だが…

 

「せやけど、わては止まりまへんでぇー!このまま伝説のSランク『VIPチケット』までまっしぐらやぁー!」

 

さらにこの上…Sランクを目指すことを宣言する。

 

「さぁ、お次は誰や!?誰でもドォンと来いやぁ!」

 

次なる獲物を探し周囲を見渡す獣人。

 

そんなギラついた瞳が…

 

「…んんッ!?そこのアンさん!」

 

「………。」

 

「えろう儲けとるやないかい!どや、ここで一つもう一山当ててみぃひんか!?」

 

大量のカジノの財貨を抱えたネイトを捉えた。

 

周囲のギャラリーの視線がネイトに注がれる。

 

(なるほど…こうやって相手を見つけるわけか…。)

 

この状況で指名された相手は逃げにくい。

 

逃げることも可能だが…場の空気が悪くなる。

 

ネイトはそんなことは一切気にしないが…気が弱かったりお調子者は引き下がれないだろう。

 

だが…

 

「…分かった。」

 

「ぃよっしゃ!アンさん男やねぇ!わて、アンタんような男は大好きや!」

 

ネイトはあえて挑戦する。

 

「すまないが、そこを変わってくれ。」

 

「は、はい…。」

 

ネイトは少女が座っていた席に腰掛け、

 

「これを全てチップに変えてくれ。」

 

「承知いたしました。」

 

抱えていたカップを全てディーラーに差し出しチップの山を作る。

 

額でいうと…ネイトが若干少ない位だろう。

 

「IDをご提示いただけますか?」

 

「これでいいか?」

 

「…大丈夫です。このテーブルには成人済みのプレイヤーしかおりませんのでドリンクの制限を解除いたします。」

 

そう言うとテーブルの周りに立ち入りを制限するようにロープが張られる。

 

「お飲み物のご注文はありますか?」

 

「せやのぉ…。景気づけや、清酒の純米大吟醸もらおか!」

 

「俺はビールをグラスで頼む。」

 

「承知いたしました。」

 

すぐにスタッフが二人が頼んだ飲み物を持ってくる。

 

「本テーブルは1ゲームに4回のベッティングラウンドのノーリミットとなっております。よろしいですね?」

 

「あぁ。」

 

「では…プレイヤーの参加を締め切らせていただきます。」

 

「よろしゅうな!えぇゲームにしよな!」

 

「…あぁ、よろしく頼む。」

 

これでもう逃げられない。

 

今ここに…1対1の勝負が幕を開けた。




第一のルール:損をしないこと。
第二のルール:第一のルールを決して忘れないこと。
―――投資家『ウォーレン・バフェット』

余談ながらネイトの苗字は日本の苗字のランキングに当てはめると『木村』となるみたいです
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