Fallout archive   作:Rockjaw

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富者と詐欺師は、メダルの表裏の違いしかない。
―――革命家『ウラジーミル・レーニン』


The White Rabbit and the Ferocious Bunnies

そんな電子の大決戦が行われていたなど露知らず

 

「「フアアァァァ~…。」」

 

「…おはよう、アリス。」

 

「んみゅ…おはようございます、パパぁ…。」

 

ネイトとアリスは空が明らみ始めるくらいの時間に目が覚めた。

 

「ぐっすり眠れたようだな。さ、顔を洗ってくるといい。」

 

「はぁい…。」

 

眠たげに目を擦るアリスを洗面所に向かわせ…

 

「おぉ…これはいい景色だな…。」

 

備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーを入れつつネイトはテラスに出てその景色を楽しむ。

 

まだ夜明け前の空は絵にも言われぬコントラストを露にしている。

 

少々肌寒い潮風を浴びつつその景色を楽しんでいると…

 

「わぁぁぁ…綺麗です…。」

 

顔を洗いすっきりしてきたアリスもやってきてネイトと並びその景色に見入る。

 

「パパ、何を飲んでいるのですか?」

 

ふと、アリスがネイトを見上げつつそう尋ねてくる。

 

「ん?コーヒーだが?」

 

「…アリスもコーヒーが飲みたいです。」

 

「…飲みかけだぞ?」

 

「パパのなら全然気にしません!」

 

「…そうか。じゃあほら。」

 

これが夜ならアリスが眠れなくなる可能性もあるので断るが起きたばかりなのでネイトもすんなり差し出す。

 

「んくっんくっ…プハァ美味しいです!」

 

「お気に召したようでよかったよ。」

 

「ブラックではないのですね。」

 

「俺がいたところだと逆にブラックで飲む方が珍しかったからな。」

 

そう、キヴォトスでも眠気覚ましに飲むコーヒーは大概ブラックコーヒー。

 

対して、ネイトがいたアメリカだと薄めのコーヒーだったりミルクや砂糖などを入れて飲むのが一般的だ。

 

その味がアリスの舌にもあったようである。

 

「大人や先輩たちは絶対ブラックを飲むものだと思っていました。」

 

「こういうのはな、自分が好きなように作って他人と比較しないのが大事なのさ。」

 

「ほぉ~…。」

 

そんな会話をしていると…

 

「お、日の出だな…。」

 

「夕焼けと違って眩しいですけど…綺麗ですねぇ…。」

 

水平線から朝日が昇り空と海が一気に赤く染まる。

 

また新たなる一日の始まりだ。

 

「さて…身嗜みを整えて朝食に行こうか。」

 

「はい!じゃあまた髪を梳いてください、パパ!」

 

「はいはい。」

 

「あっ『はいは一回』ってユウカに怒られますよ?」

 

「フフッ、ハイ。さ、中に入ろう。」

 

一日の始まりは朝食からだ。

 

二人は賑やかに部屋に戻りアリスの寝癖を直し身嗜みを整えて着替えを済ませて朝から営業しているレストランに向かった。

 

「トースト二枚とスクランブルエッグにベーコン、トマトとブロッコリーのサラダを。飲み物はオレンジジュースで。」

 

「アリスはパンケーキで後はパパと同じものをください。」

 

「畏まりました。」

 

店員にメニューを注文し料理が来るのを待っていると…

 

「あ!いました!」

 

「ん?」

 

何とも元気な声がネイトに掛けられた。

 

そちらを見ると…

 

「おはようございます!」

 

「あぁ、昨日の。おはよう。」」

 

「にはははは、昨日の夜はどうも!いやぁ本当に助かりました!」

 

昨晩と同じ格好をした生徒がこちらにやってきた。

 

「おはようございます!」

 

「あれ、お子さん…ですよね?」

 

「そうだ。」

 

「私は天童・アリス・マーティンと言います!」

 

「これはどうも!私は『黒崎コユキ』です!よろしくお願いします、アリスちゃん!」

 

「俺のことは…昨日の騒動で知ってるっけ?」

 

「はいっ!改めて初めまして、W.G.T.C.社長のネイトさん!」

 

その生徒『黒崎コユキ』は元気いっぱいにネイトたちに自己紹介をする。

 

「これから朝食か?」

 

「はい!いやぁ、あの後結構遅くまではしゃいじゃってお腹ペコペコです!」

 

「よかったら座っていくといい。俺達もこれからだ。」

 

「はい、一緒に食べましょう!」

 

「いいんですか!?ではお言葉に甘えさせてもらいます!すみませーん!」

 

こうして食卓にコユキも加わり、

 

『いただきます。』

 

それぞれの朝食を食べ始める。

 

洋食のネイト達とは対照的にご飯に味噌汁におかずという和食をコユキはチョイスした。

 

「お二人はいつまでここに?」

 

「三泊四日の予定だからあと二日ってところだな。」

 

「まさか、初日でAランクになったんですか!?」

 

「いや、元から俺達はオデュッセイアから招待を受けてるんだ。」

 

「ここにいる間はAランクで過ごせるんです!」

 

「う、羨ましいです…!」

 

無邪気にアリスが見せるAランクのフリーパスを羨ましそうに見つめるコユキ。

 

このゴールデンフリース号においてこのフリーパスが意味する意味の重さはやはり相当なようだ。

 

「そう言うコユキはどうなんだ?」

 

「にゃはは…実はあの後結局全部すっちゃいまして…。」

 

「…確かあとBランク真ん中くらいの量があったはずだったが…?」

 

「それがですね!ルーレットで一発当てようと思っていいとこまで入ってたんですよぉ!」

 

コユキ曰く、あの後自力でA目前まで行くくらいには盛り返したらしい。

 

だが…欲に目がくらみかなり無理なベットを仕掛けてしまい素寒貧になってしまったとのこと。

 

「…賭け事は勝負時もそうだが潮時もちゃんと見極めなきゃな。」

 

「うぅ~…昨日のネイトさん見てたら行けると思ったんですよぉ~…。」

 

「…あれ?でもコユキが頼んだ朝食は…。」

 

ここでアリスは疑問に思う。

 

前述のとおり、ゴールデンフリース号では何をするにもS~Dの『ランク』が立ちはだかる。

 

一応、オデュッセイア側も船内で餓死者などが出てはかなわないのでDランクでも最低限の食事は保証されている。

 

素寒貧になったというのならコユキもDランクのはず。

 

だが、先ほどコユキが頼んだ内容はBランクくらいでなければ頼めないはずだ。

 

すると、

 

「あぁ、それなら大丈夫です!お金ならたっぷりあるので!」

 

事も無げにコユキは現金でBランクになったと言ってのけた。

 

「おいおい…DからBに現金だけで昇るのって相当かかるんじゃ…?」

 

これにはさすがのネイトも少々怪訝な表情を浮かべる。

 

ネイトも昨日のプレイラウンジでの最初の軍資金はせいぜいCランクくらいから始めた。

 

これは一般人くらいのランクだがそこからBに上るまででもスロットで結構稼がねばならなかった。

 

それを現金だけでDからBまで上がるとなると…。

 

「そんな気にしないでくださいよぉ!私、こう見えてお金集めの才能はあるんですから!」

 

「…それならいいが。」

 

朗らかに答えるコユキに…ネイトは警戒度を上げる。

 

恰好や声からしておそらくコユキはどこかの高等学校の一年生程だろう。

 

背は確かにアリスに近いが声や体つきは発達している。

 

そんな少女が…そんな大金をポンポン使えるものなのか?

 

ノノミのようなお嬢様という線もあるがそれにしては周りに人がいなさすぎる。

 

ほぼ独力でそれだけ自由に金を動かせる少女、警戒しない方がおかしい。

 

「それはそうと少し調べましたけどネイトさんって本当にお強いんですね!カイザーと戦って勝っちゃうなんて!」

 

「知らなかったのですか、コユキ?」

 

「にははは…実は私、最近まで訳あって情報から隔離されたところで働いていたのでネイトさんのことを知ったのは本当に昨日調べてからなんですよ。」

 

「………。」

 

この言葉にネイトはさらにコユキを警戒する。

 

昨日のあの騒動、自分の正体が露見した際には誰も彼も自分のことを見て驚いていた。

 

以前一度テレビにも出ていた上に情報化社会のキヴォトスなら無理もない。

 

そんな中にあって…『昨日初めて自分を知った』というコユキ。

 

今時、矯正局でもテレビはあり情報の入手はできるはず。

 

そんなご時世において『情報から隔離された場所』にいたというのは…。

 

「あ、よかったら連絡先を交換しませんか?!」

 

ネイトに怪しまれているなど露知らずコユキはスマホを取り出しアドレス交換を求める。

 

「ごめんなさい。パパとアリス、スマホは部屋に置いてきているのです。」

 

「ここは陸から離れた場所だ。通話はできないし朝早いから特に連絡も来ないはずだからな。」

 

「むぅ…それは『残念』ですね…。」

 

それを聞きコユキはあからさまにがっかりする。

 

「さて…と。俺達は食べ終わったから先に失礼させてもらうよ。ここはご馳走させてくれ。」

 

「えぇッ!?いいんですか!?」

 

「これも何かの縁だ。それに子供が大人に遠慮するもんじゃない。」

 

「いやあそんなあ~!昨日と言い、本当にありがとうございます!」

 

「それではコユキ!また会いましたら一緒に遊びましょう!」

 

「バイバイ、アリスちゃん!」

 

コユキに別れを告げ、ネイトとアリスは伝票を持ちレジに向かう。

 

「………むぅ~なかなかうまくいきませんねぇ…。」

 

二人を見送りつつコユキはそう呟く。

 

「はぁ~…。W.G.T.C.…あそこの社長やその娘さんのアカウントの一つでも手に入れられれば…。」

 

彼女はため息交じりに自分のスマホの画面を見つめる。

 

それはあるニュースの記事で見出しは…

 

カイザーコーポレーション、W.G.T.C.に対し巨額の違約金発生か!?

その総額、なんと6000億円以上!!!

 

ネイト氏、全面勝訴!!!

賠償金総額、実に数十億円にも達するか!?

 

 

 

「う~む…なんて恐ろしい企業…!しかも個人資産もとんでもない額…!このお金さえ手に入れられれば私は自由に…!」

 

その記事を…純真無垢なキラキラした目で見つめるコユキ。

 

まるで悪意を微塵も感じさせない…いや、善悪の区別がない幼子のような眼差しだった。

 

…そして、物語が動き出したのはこれより少しあと。

 

「…こちら問題なし。」

 

「……私の方も問題ありません。」

 

「…OK。」

 

「ここがゴールデンフリース号かぁ…!」

 

「プはッ!まさかこんな経験をするなんて…。」

 

「なんか呆気ねぇなぁ…。」

 

ゴールデンフリース号の機関室に『招かれざる客』達が乗り込んできていた。

――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

コユキと別れた後、ネイトとアリスは腹ごなしに船内の散策をしていた。

 

全長400mの巨大船だ。

 

歩いて回るだけでもいい運動になる。

 

「今日は何したい、アリス?」

 

さらに、まだ人が少ない朝方の内に今日の予定をついでに決める目的もある。

 

「そうですねぇ…。」

 

アリスが考えながら周囲を見回すと…

 

「…あ!アリス、あれで遊びたいです!」

 

ある場所が目に留まった。

 

そこは…

 

「プールか。ウォータースライダーまであるとはさすがは豪華客船…。」

 

様々な遊具やアクティビティが楽しめる本格的なウォーターパークだ。

 

ネイトも戦後アパラチアで廃墟なら見たことはあるが稼働中の物では最大のものだ。

 

「よし、じゃあ今日は泳ぐか。水着は持ってきてるか?」

 

「旅行が決まってからモモイ達と買いに行きました!」

 

「そうか。じゃあ、営業が始まるまで時間があるからもう少し散歩して戻ろう。」

 

「はいっ!」

 

今日の予定も決まり、初めてのプールをアリスもワクワクしながら散策に戻る。

 

そのまましばし、ちょくちょく買い物したりしながら船内を見て回り…

 

「パパは水着持ってきてますか?」

 

「一応持ってきてるが俺の場合は上も着なきゃな。」

 

いい時間となったため水着に着替えるために部屋の近くまで戻ってきた。

 

すると…

 

「失礼します、お客様!」

 

「おっと、なんだ?」

 

「トラブルでもあったんでしょうか?」

 

バニー服を着たゴールデンフリース号のスタッフが慌ただしく走っていく。

 

「…ここは彼女たちの学校だ。対処は彼女たちに任せよう。」

 

あくまで自分たちは余所者。

 

自分の身に何かが起こった場合は無論対処するがわざわざでしゃばる必要もない。

 

そう、まさに『他人事』だ。

 

「さて、じゃあさっそく着替えて…。」

 

ネイトはあっさり結論付けて早く部屋に戻ろうとする。

 

…だが、ネイトは忘れていた。

 

自分がとんでもなく…トラブルというものを引き付けてしまう体質であるということを。

 

「リーダーに皆、こっちこっち!」

 

「ホントに大丈夫なのかい!?」

 

「コイツの勘を信じるっきゃねぇ!!!」

 

遠くの方からなんとも聞き覚えのある複数の声が聞こえてきた。

 

「…は?」

 

「この声は…?!」

 

そんなことはあり得ない。

 

『彼』がいるならゴールデンフリース号で相応に話題になっているはず。

 

しかも…『彼女達』まで一緒だとすると騒動の一つや二つ起きているはず。

 

「…アリス、急いで部屋に…。」

 

ともかく、落ち着くまで引っ込んでおくのが吉だと判断し部屋に入ろうとしたその時だ。

 

部屋から実に30mほどの距離の非常ドアが吹き飛び…

 

「あッ!ほらあそこ!!!」

 

聞き覚えのある何とも溌剌とした声が廊下に響いた。

 

さらに…

 

「あぁッ!?なんでお前らがここに!?」

 

「えぇッ!?師匠にアリス!?」

 

これまたガラの悪いものとどこか気弱だが芯を感じる聞き覚えのある声が二つ加わる。

 

「………。」

 

こんな絶海の巨大船に騒動が追いかけてきたと、遠くを見つめるネイト。

 

「あ、先生にチビメイ…。」

 

アリスが現れたメンツに挨拶をしようとした、その時…

 

「ッ!!!」

 

「キャッ!?」

 

アリスを抱え駆けだすネイト。

 

「ーッ!!!待てッ!!!」

 

「り、リーダー!?」

 

それを見たガラの悪い声の持ち主…美甘ネルが迫る。

 

彼我の距離、約30m。

 

ネイトは即座に部屋のロックを解除。

 

内開きのドアなのでなだれ込むように部屋に入る。

 

「待てって、このぉっ!!!」

 

だが、人外のすばしっこさを持つネルはすでに部屋の目前まで迫る。

 

「アリス、押せっ!!!」

 

「分かりました!!!」

 

だが、人並外れているのはこちらも同じだ。

 

ネルが扉に取りつくよりも早くネイトとアリスはドアを押すが、

 

「待てッとって食ったり…!」

 

あと一歩のところでネルも扉に取りつき中に押し入ろうとする。

 

キヴォトス人換算で中の下であるネイトと華奢なアリスにネイト曰く『スーパーミュータント級』のネルを押し返せるかと疑問だろうが…

 

「アリスッ!!!」

 

「はいっ!!!」

 

アリスの力はキヴォトス人換算でも怪力を超えたそれだ。

 

単純な出力は…パワーアーマー級である。

 

「ぐぬぉッ!!?」

 

ネルを勢い良く弾き飛ばしドアが閉ざされた。

 

「ネルッ!?大丈夫!?」

 

「閉められちゃったね、リーダー。」

 

「イテテテ…テメェッコノッ!開けろや、コラァ!」

 

ネルは扉を破ろうとどうやら蹴りつけているようだが…扉はビクともしない。

 

それもそうだ。

 

ここはAランクしか泊まれない客室。

 

強盗があっては事なので特別頑丈に設計されているのだ。

 

「アカネッ、ここ吹っ飛ばせ!!!」

 

「だっ駄目ですよ!ユウカからスマートにと…!」

 

「空き部屋だったら他にもあるからそこへ行こう、リーダー!」

 

どうやら他のC&Cのナンバー持ちも来ているようだ。

 

「どうしますか、パパ?」

 

「何もしない。休暇中に厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだからな。」

 

そう素っ気なく返すネイト。

 

先程のオデュッセイアの生徒の慌てよう。

 

おそらく…いや、確実にあのメンツが何かやらかしたのだ。

 

第一、オデュッセイアの学区でもあるゴールデンフリース号にミレニアムがC&Cを派遣している時点で表沙汰にできるような事態ではないはず。

 

確かにミレニアムとは協力関係でシャーレにも戦争の折に世話にはなっているがそれはそれでこれはこれだ。

 

首を突っ込んでいいことは絶対にない。

 

「あと少しでオデュッセイアの生徒が来るだろう。それまで引き籠ってよう。」

 

「は~い。」

 

薄情なようだが今はW.G.T.C.の社長としてではなくアリスの父親としてのネイトだ。

 

このまま静観を決め込もうとする。

 

…だが、この程度でネイトを逃すほど厄介ごともまた薄情ではなかった。

 

ガチャッ

 

「…は?」

 

突如鳴り響く開錠音、そして…

 

「お邪魔しまぁす!」

 

「けッ素直に開けてりゃいいものを!」

 

「り、リーダー…!」

 

「い、いくらなんでもそれは…!」

 

「あ、アハハハ…すみません、師匠…。」

 

部屋の中になだれ込んでくる厄介ごとの根源たち。

 

「わぁっお客さんがいっぱいですね、パパ!」

 

(…さらば、俺達の休暇…。)

 

そんな無邪気なアリスの声を聴きつつ…ネイトは天を仰ぐのであった。

 

少しして…

 

「で、先生?なんでわざわざ俺の部屋に?それもハッキング仕掛けてまで鍵を開けて?」

 

「……………。」

 

「…おい、馬鹿弟子。いつになく無口じゃないか?具合でも悪いのか?」

 

テラスに出て正座する先生の前に仁王立ちするネイト。

 

少し前に全く同じ光景を見たが…今回は本当にネイトの背後が陽炎のように揺れているように錯覚する。

 

先生もこれには海風が涼しいというのに汗が止まらなくなる。

 

事情はすでに聞いてはいる。

 

いまから3日ほど前、ミレニアムからある生徒が脱走したとのこと。

 

それも七囚人とは別ベクトルに凶悪な生徒がだ。

 

通称『白兎』、なんと電子系統のセキュリティや防護プログラムを本能的に突破できるという異能の持ち主らしい。

 

結果、その生徒はミレニアムの資産を次々に債権化し食い荒らし続けている。

 

このまま放置しておけば今日中にはミレニアムが財政破綻するというではないか。

 

しかも厄介なことにミレニアムの重要なデータまで持ち去ったことも判明している。

 

その生徒が…このゴールデンフリース号に逃げ込んだというところまではつかめセミナーはC&Cをその生徒の確保のために秘密裏に派遣。

 

先生は任務で暴れまわり余計な経費を発生させる彼女たちのお目付け役として同行している。

 

…で、だ。

 

「なんで俺の部屋に?」

 

「す、すみません…!ミレニアムの危機でどうしてもこの任務を遂行させなくては…!」

 

「そうじゃなくてなんで俺達を巻き込んだ?」

 

だからと言ってネイトたちを巻き込む理由にはならない。

 

C&Cは拠点となる部屋を探していたようだが空き部屋ならそこら中にある。

 

なのにわざわざネイトとアリスの部屋に、それもハッキングまでして入り込んできたのかさっぱり分からない。

 

「まさか手を貸せとかいうんじゃないよな?」

 

「そっそんなまさか…!」

 

「俺とアリスはバカンス中だ。ここには招待されてきている。で、そんな客の部屋にスタッフを叩きのめした他所の学校の秘密工作員がやってきた…オデュッセイアはどういった対応をとるかな?」

 

これには先生の汗がさらに噴き出す。

 

無断での他学区での部活動、それも諜報部隊の秘密任務など言語道断だ。

 

オデュッセイアとミレニアム間で確実に問題になる。

 

それもオデュッセイアの招待客を巻き込んだとなると…。

 

どうすればいいか、キヴォトスに来て一番頭を回転させる先生。

 

すると…

 

「………はぁぁぁ、もういい。」

 

これ以上ないほど深いため息をつきネイトは気迫を引っ込め

 

「え…?」

 

「今日一日だろ?間借り位させてやる。ばれた時はお前らが押し入ってきたとオデュッセイアに突き出す。それからミレニアムとシャーレ…いや、連邦生徒会が今この瞬間からかかった『あらゆる旅費』を折半で負担すること。それが飲めるんなら…ここにいてもいい。」

 

条件付きでC&Cがこの部屋を拠点として使うことを渋々…では済まない位渋々了承した。

 

「い、いいんですか…!?」

 

「ミレニアムに恩を売っておくのも悪くない。但し、場所を貸すだけだ。それ以外の援助は一切抜きだぞ。」

 

「ありがとうございます…!それだけでも十分です…!」

 

「さ、部屋に戻るぞ。」

 

そう言い、ネイトは先生を立たせ室内に戻る。

 

「お、話はまとまったか?」

 

そこにはソファーで寝転がり我が物顔でくつろぐ小さな暴君がいた。

 

「…随分くつろいでるな、美甘ネル。」

 

「ネルでいいぜ、『ダンナ』。一度はぶつかり合った仲だしよ。」

 

「そうじゃなくて…もういい。」

 

ここで口論になって騒ぎになるのは困るため色々と諦めるネイト。

 

「この度は強引にお邪魔してしまい申し訳ございません…。」

 

「無関係な二人を巻き込んでしまってすまない…。」

 

対して、アカネとカリンはその服装に違わぬ恭しい所作でネイトに謝罪する。

 

そして…

 

「見てください、アスナ先輩!アリス、昨日ものすごく勝ったんですよ!」

 

「すっごーい!アリスちゃん、すっごくゲームが上手なんだぁ!」

 

アリスが昨日撮影した写真を仲良く見ているアスナ。

 

「…ちょっと待ってろ。今取り決めに関する契約書を書くから。」

 

フリーダムなメンツに少々頭痛を覚えながらもネイトは契約書を認める。

 

「…これでどうだ?」

 

「拝見しても?」

 

「あぁ。」

 

数分後出来上がった契約書をアカネが確かめると…

 

「…承知いたしました。リーダー、こちらにサインを。」

 

「オウ。」

 

この取り決めにアカネも納得しネルもサインと捺印をする。

 

「お前は見なくていいのか、ネル?」

 

「アタシこういうのは苦手だからよ。アカネが判断して問題ねぇならそれを信じるようにしてんのさ。」

 

「なるほどな。それじゃ先生も。」

 

「分かりました。」

 

先生もこれにサインと捺印しこれにて契約完了。

 

「では改めまして…C&Cエージェント。コードネーム『ゼロスリー』、室笠アカネと申します。よろしくお願いいたします。」

 

「同じくコードネーム『ゼロツー』、角楯カリン。スナイパーを務めている。協力に感謝する。」

 

「はいは~い!コードネーム『ゼロワン』の一ノ瀬アスナだよ~!よろしくね、『旦那様』!」

 

「アタシはもう紹介いらねぇよな?」

 

意外にもネル以外はネイトに自己紹介をしたことがないC&Cナンバーズ。

 

「旦那様?」

 

そんな自己紹介の中でアスナの自分に対する呼び方が引っ掛かったネイト。

 

「うん!ご主人様のお師匠様だしリーダーが『ダンナ』って呼んでるから『旦那様』!」

 

「…フフッ。」

 

「どうかしましたか、パパ?」

 

「いや、懐かしさを覚えてな…。」

 

ネイトの脳裏には…かつて連邦で自分を待ち続け自分が死ぬまで仕えてくれた『鋼の忠臣』と『鉄の淑女』が思い出された。

 

「ご迷惑でしたか?」

 

「いいさ、好きに呼べば。」

 

過去は過去と区切りをつけることはできている。

 

今更呼ばれ方云々で動揺するネイトではない。

 

「でよぉ、ダンナ。アンタなんか知らねぇか?」

 

「お前たちが追っているミレニアムの脱獄囚をか?」

 

「協力はしねぇってことだが話くらいは聞かせてくれよ。」

 

来たばかりの自分たちと違いネイトとアリスは前日からこの船で過ごしている。

 

何か有益な情報を持ってるかと思いネルが尋ねるが…

 

「ネル、この船にはスタッフ含め1万人以上乗ってるんだぞ?来て一日の俺やアリスが知ってるとでも?」

 

「…だよなぁ~。」

 

ここはただの客船ではない。

 

生徒の数だけでも相当数いる中で存在すら知らなかった『白兎』を知っているのは無理がある。

 

「おい、チビは?」

 

「アリスも心当たりがありません。」

 

「それらしい名前は聞いてねぇか。奴の名前は…。」

 

とネルがさらに情報を明かそうとすると…

 

「リーダー、それ以上情報を開示すると二人を巻き込むことになりますよ?」

 

「うん、旅行中の二人をこれ以上私たちの捜査に手を貸させることはできないからね。」

 

アカネと先生がそれを止める。

 

「…ちぃ、わぁーったよ。後はあたし等で何とかする。」

 

ネルもそれに納得し、言葉をそこで打ち切った。

 

「それで?どうするんだ?その恰好でうろつくと一発でお縄だぞ?」

 

「リーダー、乗り込んで早々にここのスタッフに見つかって金属パイプで殴っちゃったもんねぇ~。」

 

「るせぇ、緊急事態だったんだからしょうがねぇだろ。」

 

「でも、ネイトさんの言う通りだ。私たちのメイド服姿はここだと目立つ。」

 

潜入任務だというのにもう指名手配を食らっているC&Cと先生。

 

先生はともかく…確かにこの船でメイド服は目立ちまくる。

 

「そう言えば、先ほどスタッフがさも『バニー姿の衣装』がここの通常の服装かのような言い方をしていましたね。」

 

「はい、アリスたちを出迎えてくれた生徒以外は殆どバニー服を着ていました。」

 

「今まではメイド服でいればどこでも潜入しやすかったけど…。」

 

「ふ~む…これはシステムルームに向かう前に円滑に動けるよう着替えたほうがよさそうですね。」

 

そう言い、アカネがトランクから取り出したのは…

 

「先ほどいくつか衣装を拝借してきて幸いでした。サイズもおそらく大丈夫かと、いつも見てましたし。」

 

色とりどりのバニー服とうさ耳を取り出した。

 

が、確かに今『拝借してきた』と彼女は言った。

 

「…え?まさか…お前ら捕まえようとした生徒から?」

 

「そうですがそれが何か?」

 

さも当然のようにケロッと答えたアカネ。

 

「…彼女たちに神のお慈悲を…。」

 

それを聞き、職務を全うしようとしていただけだというのに叩きのめされ服までひん剥かれた名も知らないオデュッセイアの生徒に祈りをささげるネイトなのであった。

 

神などとうの昔に信じることは止めたが祈るのは自由だ。

 

「流石アカネ、手際がいいぜ。」

 

「恐れ入ります、リーダー。」

 

「…ちょっと待って。」

 

「どうかしましたか、カリン?」

 

そんなアカネをネルが褒める一方、カリンは引っかかることがあった。

 

「入手経路はいいとして…よく考えるとサイズとかは一体…。もしかして今言った『いつも見てました』って…?」

 

真実に達しようとする彼女だが…

 

「カリン、世の中知らない方が幸せなことってあるんだよ…。」

 

同じく、プライベートなどはるか彼方となっている遠い目つきの先生がその思考を止める。

 

「ふふっ先生の言う通り、まぁ細かいことはいいじゃないですか。とにかく一旦着てみましょう?」

 

アカネもこれ幸いと言わんばかりに状況を進めようとする。

 

「あ、リーダーはこちらへ。私が着させてあげます。」

 

「はぁ?ガキ扱いしてんじゃねぇぞ?」

 

「あら、着方が分かるのですか?」

 

「…分からん。」

 

「フフッ、では私がお手伝い…。」

 

と、さっそくメイド服からバニー服に着替えようとするC&Cの面々だが、

 

「お~い。」

 

「はい、何か?」

 

「恥じらいがないのは構わんがここは俺達の部屋だ。バスルーム貸してやるからそこで着替えてくれ。先生がもう目ん玉飛び出るくらい見つめてるしな。」

 

「なぁッ!?そそそそっそんなわけないじゃないですかぁ!やだなぁ師匠はぁッ!!!」

 

「ハイハイ、お若いお若い。ついでにアリスの水着の着替えも手伝ってくれると助かる。」

 

ここには自分と先生もいる。

 

先生は興味津々だが…ネイトに女子高生の生着替えショーを見物する趣味はない。

 

「…お気遣い感謝いたします。では、バスルームをお借りしますね、旦那様。アリスちゃんもいらっしゃってください。」

 

「はぁーい!」

 

そう言い、全員仲良くバスルームに入っていく。

 

「ではアリスちゃん、ばんざいしてください。」

 

「ばんざーい!」

 

「はい、よくできました。」

 

「おいこれどうやって着るんだよ。つーかなんだよ、この形?本当に服なのか?」

 

「あらあら、ちょっと待っててくださいね。」

 

「…アカネ、やっぱりさっきのことが気になるんだけど。なんでサイズが分かって…。」

 

「……………細かいことは気にしないでください♪ね?」

 

「さて、俺も着替えるか…。」

 

ドアの向こうで聞こえてくる少女たちの声をBGMにネイトも水着に着替え始めると…

 

「…あの、ネイトさん。」

 

「なんだ、先生?」

 

「…アスナがどこに行ったか知りませんか?」

 

「…え?」

 

ふと疑問に思った先生がそう尋ねてきた。

 

確かに…いつの間にかアスナの姿が忽然と消えていた。

 

思い返してみてもバスルームに入っていった記憶はない。

 

「…まぁ、あの子はどう考えても『遊撃』が一番合ってるようだしな。ネルたちが何も言わなければこれが普段通りなんだろう、うん。」

 

付き合いはあまりないが一見して自由人だと分かるアスナ。

 

伊達にゼロワンのコードネームは持っていないはず。

 

単独行動させても問題ないのだろう。

 

…多分、おそらく、きっと、メイビー…。

 

「大丈夫…ですかね。」

 

「それをどうにかするのがお前の仕事だろ?上手くやってくれ。」

 

これも弟子の成長の一助となる。

 

素っ気ないがネイトはあとのことは全部先生に押しつ…任せるのであった。

 

「わぁ…先輩たち、大きいです…。」

 

「そ、そのアリス…。///そんなじっと見られると恥ずかしい…。///」

 

「フフフッ恥ずかしがるカリンも可愛いですね♪」

 

「綺麗ですよ、カリン先輩!まるでチョコアイスにサクラン…!」

 

「ワーワーッ!声に出さないでぇー!!!」

 

「けッもう見慣れてなんも思わねぇ…。」

 

「でもアリス、チビメイド先輩には勝ってますよ!」

 

「んだと、チビィッ!!?いいぞ、表出ろやぁっ!!!」

 

「…大丈夫かなぁ…。」

 

そんな少女たちのにぎやかな声が響く中…先生の不安げな声が虚空に消えるのであった。




禍福は糾える縄の如し
―――中国の諺
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