Fallout archive   作:Rockjaw

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情けは人の為ならず
―――日本の諺


Observe the Past and Learn the New

アビドス復興の最大の障害として認識されたデカグラマトン第三の預言者『ビナー』。

 

その討伐作戦に動き始めたアビドス高校だが…

 

「う~む…確かに記録は残ってはいるが…。」

 

「せいぜい名前と出現場所くらいしかないねぇ…。」

 

さっそく調査は難航していた。

 

ホシノは古い生徒会の資料でビナーという名前は確認したと言っていたが…その内容があまりにも少ない。

 

せいぜいここ数世代の生徒会…つまり衰退した後のアビドス高校の生徒会がまとめたごくわずかな資料に名前と出現場所が記されているくらいだ。

 

「もっとこう…戦いの様子とかの記録はないのかしら…?!」

 

「当時のアビドスはそんな戦力もなかったんだよ、セリカちゃん…。」

 

「ん…でも市街地にでも出てくるのはすごく危ないね…。」

 

砂漠だけではなく市街地であってもお構いなしに現れるのは確かに憂慮すべき事態だ。

 

記録では出現の際に発生した大穴の影響で建物の崩壊などの大きな被害が出てるらしい。

 

「ネイトさん、黒服アイツが何か話してませんでしたか?」

 

「いつから出現とかは言ってなかったが…ケテルの比ではない強さ、だとは言ってたな。」

 

「ケテル以上…!」

 

「スフィンクスよりヤバいなんてゾッとしないわね…!」

 

黒服からの情報もそれほど多くはない。

 

ただ戦力の指標ができたことは唯一の救いだ。

 

ケテル、アビドス高校に配備されている『スフィンクス』を凌駕する戦力となると生半可な備えでは歯も立たないだろう。

 

だが、もっと明確なデータが欲しい。

 

すると、

 

「お待たせしましたぁ~。」

 

「おかえりぃ~、ノノミちゃん。」

 

ノノミは資料を抱えてやってきた。

 

さらに…

 

「やッほ~ネイト社長!」

 

「この前ぶり~。」

 

「ノゾミにヒカリ?どうしてアビドスに?」

 

ハイランダー鉄道学園のノゾミとヒカリの姿もあった。

 

「どちら様ですか?」

 

「ハイランダーの橘ノゾミに橘ヒカリだ。廃墟区画からの物資運搬にはいつも世話になってる。」

 

「よろしくねぇ。それでぇ二人はどうしてノノミちゃんとぉ?」

 

「セイント・ネフティス社にも『ビナー』のデータがないか調べに行ってたんですけど…。」

 

アビドス土着の企業のセイント・ネフティス社。

 

一時アビドスから撤退していたとはいえかつてアビドス復興のために様々な活動をしていた企業だ。

 

そこならアビドスにはないビナーのデータもあると踏んだノノミが実家に戻り情報収集を行っていた。

 

そんな中…

 

「十数年前セイント・ネフティス社が起死回生の手段として始めた事業に『アビドス砂漠横断鉄道』というものがありました。そこで…。」

 

「当時のハイランダーの理事会とセイント・ネフティス社が手を組んでその建設工事を行ってたってわけ!」

 

「十六夜社長の要請でウチにあったビナーっていうやつの戦闘記録持ってきたよ~。」

 

「ホントなの!?」

 

セイント・ネフティス社と懇意にしているハイランダーにもビナーの記録がありそれを持ってきてくれたのだ。

 

「ウチもビナーって奴のせいで路線が引けなかったって言う苦い過去があるからね!」

 

「ビナーってやつ倒すんでしょ~?そうすればハイランダーもハッピーってこと~。」

 

無論、ハイランダーも打算ありきの行動だ。

 

もし、アビドスがビナーを討伐できればアビドス砂漠に鉄道事業を展開できる。

 

それは莫大な利益を生むだろう。

 

だからこうもあっさりビナーの情報を提供してきたのだ。

 

「…アビドス生徒会長として感謝するね。ひょっとしたらまた何かお願いするかもだからよろしくね~。」

 

それでもアビドスにとっては願ってもない協力だ。

 

「パヒャヒャッ料金さえ支払うのならどこへでも何でも運ぶよ!」

 

「仕事はシュバッと、行政それなりに、だねー。」

 

「その時は頼むさ。…ほら、これで帰りに何か買うといい。」

 

「いいの!?やったー!」

 

「いつもありがとー。またねー。」

 

ネイトのポケットマネーからお駄賃を貰いご機嫌に二人は帰っていった。

 

「さて…有益な情報があるといいが…。」

 

「大丈夫ですよ、ネイトさん!お父様のお墨付きですから!」

 

こうして新たなるビナーの情報が得られこれで調査が進むと気合が入る面々。

 

確かにセイント・ネフティス社とハイランダーのビナーに関する情報はアビドスに現存しているそれを超える量と質だった。

 

「全幅20m以上で全長は正確には不明ながら優に数百m~1㎞…飛んだ化け物だねぇ…!」

 

「ん…マサチューセッツやゴールデンフリース号よりも大きい…!」

 

「そんなのがまるでプールみたいに砂漠を泳ぎまわれるなんて…!?」

 

ネイトが遠景で見てもはっきりわかるほどの巨体だったため覚悟はしていたが…とんでもないスペックだ。

 

しかもそんな巨体にあってはならない機動性も持ち合わせている。

 

まさに常識外れの存在だ。

 

「しかもハイランダーの記録じゃ装甲列車の機関砲じゃ歯が立たなかったらしいわね…!」

 

「おそらく装甲はケテルと同じ材質…。分厚さも考えると生半可な武器では…。」

 

しかも、ケテルと同質の存在となると待ち受けるのは超軽量かつ頑強な装甲である。

 

それをあの巨体が覆っているとなると防御力はケテルを凌駕することは確実だ。

 

「…あッ!でもパルス兵器!パルス兵器だったらケテルにも有効だったですし…!」

 

するとアヤネがかつてのケテル戦のことを思い出し作戦を発案する。

 

確かにいかに巨体だろうと相手は機械だ。

 

ならばこちらには対機械に抜群の効果があるパルス兵器がある。

 

だが…

 

「残念だがアヤネ。奴にパルス火器は効果が薄いと思った方がいい。」

 

「ど、どうしてですか…!?」

 

そのパルス兵器を持ち込んだ張本人であるネイトがその作戦に異を唱える。

 

「奴の体は常にどこかが砂に埋もれている。その状態では…。」

 

「…奴の体自身が電流を逃がす『アース』の働きをして過電流が意味をなさないってことだね?」

 

ようは家電の落雷対策と原理は同じだ。

 

地面、それも砂漠という強力な導体に身体が埋まっているビナー。

 

この状況でパルス兵器を食らわせても肝心の過電流がビナーの体内回路を焼き尽くす前に地面に逃げてしまう。

 

「そう言うことだ、ホシノ。多少は効果はあるだろうが…ケテルの時のような劇的な物は期待できない。」

 

「う~ん…とことん厄介なやつね…!手札がすでに一枚封じられてるなんて…。」

 

「ん…それにビナーの肉弾攻撃以外の攻撃手段も明らかになってない。」

 

しかも、まだこれでも情報は少ない。

 

あの巨体そのものがビナーの強力な武器であろうが…何の武装も備わっていないわけがない。

 

ケテルですらあれほどまでバリエーションにとんだ武装パターンがあったにもかかわらず、だ。

 

「資料では…殆どその巨体に任せた攻撃ばかりで武装などのことは載ってませんね…。」

 

「それを使うまでもなかった…ということでしょうか…?」

 

あり得る話だ。

 

この資料を見るにビナーに立ち向かったのはセイント・ネフティス社の警備部門とハイランダーの施工部門だ。

 

武装も貧弱というほどではないが…自分たちのような兵力ではないはず。

 

と、なると…

 

「うへ~…どっかにビナーとガチでやりあってそうな組織ないかなぁ…。」

 

より強力な兵器、それこそ『軍』との戦闘データが欲しい所だ。

 

「ホシノ、ここはアビドスだぞ?そんな大規模な他勢力の軍隊が展開できるわけが…。」

 

ネイトも若干呆れつつツッコもうとした、その時…

 

『………あぁッ!!!』

 

いたではないか。

 

ビナーと『軍』とも呼べる戦力で戦っていそうな勢力。

 

それもすぐに詳しい話を聞けるような人物が。

―――――――――――――

「で、私の所に来たわけか…。」

 

「まぁそんなとこだな。」

 

「で、店長はなんか知ってるの?」

 

ネイトとホシノは『アビドス・ルインズ・ガレリア』の事務所で店長と向かい合っていた。

 

すると、

 

「店長!またゲヘ…!」

 

「いつものように送りつけろ。修理できそうなら持って帰って来い。それからしばらく人払いを頼む。」

 

「了解した!」

 

飛び込んできたロボットに店長は慣れたもので冷静に指示を飛ばす。

 

「…繁盛してるようだな。」

 

「お隣の学校の厨房がしょっちゅう吹っ飛ぶおかげでな。」

 

「それでどうなの?」

 

「…あぁ、知らない奴じゃないどころか我々にとっても目の上のたん瘤だったさ。」

 

どうやら予想は当たっていたらしい。

 

店長の元いた組織、カイザーPMCは長くアビドス砂漠で部隊を展開し暗躍を続けていた。

 

そして、

 

「我々もビナー用の部隊『対デカグラマトン大隊』を擁し幾度か交戦していた。」

 

当然、その中でビナーとの交戦の経験もある。

 

「奴に搭載されている武装は分かるか?」

 

「目立つ奴だとビナーの背部に搭載されているVLS、あの長い体だ、夥しい数のミサイルが飛んでくるぞ。」

 

優に数百mはある体全体にVLS。

 

数だけでいえばマサチューセッツに搭載されているそれを上回るセル数だろう。

 

「威力はどれくらいなの?」

 

「せいぜい携行型対空ミサイルの域は出ないがそれでも脅威だ。」

 

「回避方法はあるか?」

 

「どうやらロックオンは奴のアイセンサーで行ってるようで一度にロックオンできる数は限られているようだ。」

 

「アイセンサーか…。なら妨害も可能か…。他には何かあるか?」

 

ロックオンの方法が分かるなら対処の使用はある。

 

さらにネイトが店長に質問すると…

 

「あぁ…奴のもっとも強力な武装は口腔内にある熱線砲だ。」

 

「ねっ熱線砲…!?そんなものまで乗ってるの…!?」

 

これまたとんでもない武装までビナーは有しているようだ。

 

「それの熱エネルギーは?」

 

「砂漠の砂が一瞬で液状化するほどだ。戦車もまるで飴みたいにドロドロになっていたぞ。」

 

「アサルトロンの頭部レーザーよりも弱いとはいえ直撃はできないね…。」

 

「むしろあんな小型なのにあんなレーザーを放てるあのロボットがおかしいと思うのだが…。」

 

「それに関してはノーコメント。」

 

考えてみればアサルトロンも同じような武装を持っている。

 

要はそのスケールアップ版と考えていいだろう。

 

「………。」

 

「ネイトさん?どったの?」

 

「いや、少し個人的に調べてみることができたなと。」

 

「それから武装というわけではないが…ビナーは動くと砂嵐を起こすのは把握してるな?」

 

「あぁ、俺が確認している。」

 

「そのせいで命中率がかなり下がっていたと記憶している。さらには辺り一帯を吹き飛ばすような威力の物もあったとの報告があった。」

 

「うへ~…砂嵐まで武器に使うなんて無茶苦茶もいいとこだね…。」

 

まさに動く災害と言っていい驚異的な能力だ。

 

「店長、映像とかのデータは…。」

 

口頭のデータが得られたのも大きいがより詳細な映像のデータもないかと店長に尋ねるも…

 

「社長、貴様らがウチの基地どころか本社も全部吹き飛ばしたのを忘れたのか?」

 

「………やっちまったぁ…。」

 

「…どんまい、ネイトさん。」

 

カイザーPMC関連の施設は戦争時に比喩ではなく全て『吹き飛ばし』てしまっている。

 

当時はこうなることなど予想も出来なかったので仕方ないが…痛い損失だ。

 

頭を抱えるネイトを慰めるように頭を撫でるホシノであった。

 

「悪いが私が語れる情報は以上だ。…本当にビナーを仕留めるつもりなのか?」

 

報告を終え…店長は改めてネイトたちに問う。

 

はっきり言って相手は常識外れもいい所の超常的な性能を持つ化け物だ。

 

生半可な兵力では歯が立たないだろう。

 

だが…

 

「…そのつもりだ。俺の使命を邪魔するのなら叩き潰して糧にしてやる。」

 

目の前の男、ネイトは一切の躊躇なく答える。

 

何も変わらない。

 

アビドスを取り戻すためにカイザーに戦いを挑んできたあの時から。

 

「…フンッはっきり言ってかつての我々との戦いと比較しても楽な戦いになるとは言えんが…健闘を祈ってるぞ。」

 

そうだ、この男はそう言う人種だ。

 

策を弄すればその策すら自らの糧にする。

 

そして、健闘を祈るという店長の言葉に…

 

「健闘じゃダメなんだよ、店長。祈るなら…勝利を祈ってて。」

 

ホシノも同じような目線で答える。

 

思えば…この少女もかつて幾度となく仕掛けてきた自分たちの妨害を撥ね退けてきた強者だ。

 

以前から感じていた危うさもなくなりとなりにいる男のように泰然自若の雰囲気を得ている。

 

そんな二人に…

 

「…言うじゃないか、小鳥遊ホシノ。ならば訂正しようか。…勝って来い、貴様らがいなくてはこの店も回せん。」

 

店長もビナー討伐の成就を改めて願うのであった。

 

「フフッ、分かった。勝ってくるから売上上げてくれよ。」

 

そんな店長のエールにネイトも軽口で返し二人は事務所を後にしていくのであった。

 

「これでまた情報収集が成功したね。」

 

「あぁ、武装が分かったのはかなり大きい。知らないと知ってるのでは大きく違うからな。」

 

ネイトとホシノは店長から得られたデータについて話し合いながら学校への帰途についていた。

 

「それで?大まかな出方は決まったの?」

 

「まず…スフィンクス以外の大規模なロボットソルジャーの投入は見送るべきだな。」

 

「えぇ~どうして?」

 

「頑丈でも精密機械だ。砂嵐で舞い上がった砂が入り込んで戦闘中に故障してしまう危険だってある。」

 

砂漠の砂はとにかく細かい。

 

銃のような器械であってもメンテナンスが欠かせないというのに機械であるロボットとなるとその負担はかなりの物だろう。

 

さらに言うとネイトの作るロボットは頑丈さと引き換えに気密性に欠ける。

 

内部基盤を損傷し故障、下手をすると暴走する可能性すらある。

 

「…確かにアサルトロンちゃん達と戦うのはおじさんでも骨が折れるからねぇ。」

 

その強さは共に戦ってきたのでホシノもよく分かっている。

 

オートマタを凌駕する戦闘能力のアサルトロンや生半可な銃弾をはじき返すセントリーボット。

 

例えホシノであっても気が抜けない屈強なロボット達だ。

 

「じゃあ、編成もちょぉっと見直さなきゃねぇ。」

 

早速戻って作戦を練らねばと意気込むホシノだが…

 

「…その前に。」

 

「んン~?」

 

「奴をどうやって俺達が待ち受ける戦いの土俵に上げるかも考えなきゃな。」

 

「…あぁ~。」

 

ネイトの言葉を聞き立ち止まる。

 

ビナーは砂漠の中を自在に泳ぎ回ることができるだけではない。

 

活動していない間はこちらに存在を悟らせないほど隠密能力にも長けている。

 

つまり、ビナーはいつでもこちらに対し奇襲を仕掛けることができるということだ。

 

この戦い、ポジションとしてはオフェンスがビナーでディフェンスがアビドスという構図になる。

 

オフェンス側の優位な点は『何処を何時攻撃するかの選択肢』を有していることだ。

 

もっと最悪な可能性としては…こちらに手出しをさせない。

 

ビナーからしてみれば砂漠を好き勝手泳いで砂嵐を起こし続ければ勝利を得られるというなんともアンバランスな構図である。

 

対して、こちらは全戦力を一度に叩きつけなければ勝利は危ういだろう。

 

つまり…待ち伏せしかとる手段はない。

 

どこに現れるか一切不明なビナー相手に対して、だ。

 

「…モモイちゃん達じゃないけど…なに、このクソゲー?」

 

もっともな意見である。

 

「………ホシノ、ちょっと寄り道してもいいか?」

 

「およ?何か思いついたの?」

 

「一か八かだが…何かヒントが得られるかもしれない。」

 

「え?」

 

しばし考えこんだネイトがルートを変更し向った先は…

 

「いらっしゃいませ。おや、こんな時間にお二人がくるのは珍しいですな。」

 

「いらっしゃい、二人とも。」

 

「いっいらっしゃいませ、ネイト兄様にホシノさんっ!」

 

「やぁマスター。アルとハルカも頑張ってるようだな。」

 

「ちょいと一服しに来たよ~。」

 

今やアビドス生行きつけの憩いの場となった『Cafe Franklin』だ。

 

何時ものようにカウンターでコップを拭いているマスターにテーブル掃除中のアルに観葉植物の世話をしているハルカがいた。

 

「ご注文は?」

 

「コーヒーを。ミルクと砂糖もお願いする。」

 

「おじさんはミックスジュースで。」

 

「かしこまりました。」

 

ネイトとホシノはカウンター席に腰掛け各々飲み物を注文。

 

「今日は二人してどうかしたの?」

 

「お話がしたいってネイトさんがねぇ~。」

 

「お、お話って誰とですか…?」

 

「ちょっと…な。」

 

アルとハルカもやってきてしばしお喋りしていると…

 

「お待たせいたしました。」

 

マスターが注文した品を持ってきてくれた。

 

「ありがとう、マスター。」

 

「ではごゆっく「ちょっといいか、マスター?」ネイトさん?どうかしましたか?」

 

立ち去ろうとしたマスターをネイトは呼び止め…

 

「マスター…『ビナー』というやつに心当たりは?」

 

「ッ!」

 

いきなり切り込んだ質問をされ一瞬ぎょっとしたような表情を浮かべるマスターだが…

 

「…またなんとも懐かしい名前ですな…。」

 

すぐに懐かしさと…どこか悔しさがにじむ声でそう呟いた。

 

「…ふぅーそうですか…。また奴が活動を…。」

 

「ビナー…って何なの?」

 

「アビドス砂漠で砂嵐を起こしてるでっかい機械の怪物だよ。」

 

「そっそんなのがアビドス砂漠に…!?」

 

「…マスター、何か知ってるの?」

 

「…もう数十年前、私がまだアビドスのある『分校』に在籍中のことです。」

 

マスターは手を止め過去を語り始めてくれた。

 

「最初はアビドス砂漠の奥地で微震が観測されたのが始まりでした。」

 

「それが…。」

 

「えぇ、おそらくそれが初めて『ビナー』が活動した時でしょう。」

 

「ま、マスターってそんなに前のアビドス生なの…!?」

 

「フフッ、アルさん。これでも長生きしているのですよ?」

 

想像以上に昔の話となっているが…

 

「…待って、マスター。ひょっとして…!?」

 

ホシノがある推測に行きつく。

 

その推測を…

 

「…おそらくホシノさんが想像している通りでしょう。アビドスを襲った『大砂嵐』…その経験者ですよ。」

 

苦笑を浮かべながらマスターは正解と告げる。

 

そして…

 

「ッ!それじゃ…!」

 

「アビドスの栄枯盛衰を見続けてきた…ということか。」

 

「ビナーには…私も浅からぬ因縁があるというわけですな。」

 

彼もまた…ビナーに苦汁を飲まされた一人だということだ。

 

「それで…ネイトさんは何を知りたいので?」

 

「かつてのアビドス、キヴォトスの最強校が何の手立てもなく奴を野放しにしていたわけがない。」

 

黒服曰く『新たな神』であるビナー。

 

だが、神を称しようがビナーには実体がある。

 

つまりこの世の理の内にはおさまっている部分もあるはず。

 

ならば…

 

「奴に対抗するために何かしらの研究を進めていたはずだ。その研究内容を知っていたら…教えてほしい。」

 

その当時の生き残りであるマスターなら有力な情報を知っているかもしれないとネイトは考えたのだ。

 

「…ネイトさん、まさかビナーに…。」

 

「あぁ…アビドス高校の総意だ。」

 

『最強』と呼ばれたアビドスですらなす術がなかったビナーに何のためらいもなく挑むというネイト。

 

となりのホシノも力強く頷いて見せる。

 

「…フフッいいものですな。若さというものは…。私ももう30ほど若ければともに駆け抜けられたというのに…。」

 

二人がマスターには眩しく思えた。

 

向こう見ずな勇気と行動力、今の自分には持ちえない若さの特権だ。

 

マスターには2人と現在のアビドスを築いている生徒たちが眩しく思えた。

 

そう羨望と諦観を含ませたマスターの言葉に…

 

「だったら…当時のアビドス生の想いも背負って戦おう。」

 

ネイトは一も二もなく彼の想いも背負って戦うというではないか。

 

「ほぉ、ネイトさん…。貴方に古豪アビドスの想いを…背負えますかな?」

 

少し目線を鋭くしマスターはネイトに問うも、

 

「アビドスならとうの昔に背負ってる。それに…娘にアビドスの夕日を見せてやるっていう約束もしているからな。お邪魔虫がいるなら駆除するまでさ。」

 

これまたネイトは即答、

 

「…はッはッはッ、貴方には敵いませんな!」

 

呵々大笑、普段はクールなマスターは大きな声で笑う。

 

「きっと…きっと貴方たちならやり遂げられるでしょうな…。」

 

「ま、マスター?」

 

「あぁすみませんね、アルさん。…いいでしょう、私が知る限りの情報をお教えしましょう。」

 

こうして、マスターはかつてのアビドスについて語り始める。

 

「当時、ビナーの出現に際してアビドスも奴の研究を始めました。実地での観察、実証実験を始め部隊を編成し威力偵察なども行いました。」

 

やはり当時のアビドスもなされるがままではなかったようだ。

 

その戦力は相当なものだろうが…

 

「数十年前の兵器だったという理由もあるでしょうが…やはり一筋縄ではいかず苦戦してましたね…。」

 

「昔のアビドスも倒せなかったんだ…。」

 

「そんな昔だと…戦車も博物館にあるようなのしかないでしょうしね…。」

 

最強の力をもってしてもやはりビナーは脅威だった。

 

「そこでアビドス生徒会は『ビナー討伐』と並行して新たな方針『ビナーとの共生』に向け研究を行っていました。その研究を行っていたのが…。」

 

「ま、マスターが在籍していた分校…!」

 

倒せぬのなら制御する、当然の帰結だ。

 

「その折、最初期のアビドスで作られたであろうビナーに関するある石板が発見され解析すれば研究が進むと少々騒がれていましたが…。」

 

おそらく今ネイトたちが一番欲しいであろう情報のありかも分かったが…マスターの歯切れが悪くなる。

 

「が?…何があったんだ?」

 

ネイトが問いかけると…

 

「見計らった様に再び大規模な砂嵐が発生し…私の分校も一晩のうちに砂に沈んでしまいました…。」

 

「ウッソぉ…。」

 

間が悪いというのはこういうことを言うのか。

 

学校を飲み込む程の砂嵐とは想像もつかないが…情報は失われてしまった。

 

「…つまり、その学校に行きさえすれば。」

 

「はい、当時の研究データやその石板も残っているでしょう。砂の奥ならば保存状態も良好なはず。」

 

「マスター、その学校の名前は…?」

 

満を持して、マスターはかつて通った学び舎の名を明かす。

 

「『アビドス高等学校・アレクサンドロス分校』。別名…『知識の宮殿』です。」

 

「アレクサンドロス分校…!」

 

「マスター、知識の宮殿ってどういう意味なの…?」

 

なんとも大仰な名前だが…

 

「10万㎡の敷地の大半がキヴォトス各地からアビドスの財力を利用し蒐集した古文書や古典にその学区では禁書指定された文献などが収められた『図書館』と研究施設なのですよ。」

 

「なるほど…それは確かに知識の宮殿だな…。」

 

それに名前負けしない学校である。

 

「蔵書は億は軽く超えているかと。読み終えるには一生かけてもとてもとても…。」

 

「お、億ぅッ!!?そんな本が収められた図書館、ゲヘナにだってないわよ!?」

 

「間違いなく古今東西を見ても最大最高の図書館でしょうな。毎日図書館内で迷子になる方が続出したのはいい思い出ですなぁ。」

 

「随分詳しいね、マスター。」

 

ホシノの言うように通っていた…という割にはかなり内情に精通している。

 

それも当然だ。

 

「私、こう見えても図書委員会の警備司書部隊『ミューズ』に所属しておりましたから。何分貴重な文献も多く不届き者がいつもいつも…。」

 

「し、司書さんってそんな物騒なお仕事でしたっけ…?」

 

その図書館を護る立場であったのなら当たり前ともいえる。

 

いまでこそ落ち着いたナイスシルバーな御仁だが…

 

「マスター、学生時代はブイブイ言わせてたクチか?」

 

「貴方にはおよびませんよ、ネイトさん。」

 

当時のアビドスを考えるとかなりの強者だったのだろう。

 

「…その校舎があった場所、分かるか?」

 

「少々お待ちを。」

 

そう言うとマスターは一旦奥に引っ込み少しして…

 

「これが私が在籍中のアビドスの地図、こちらが現在連邦生徒会が発行している同縮尺のアビドスの地図です。」

 

二枚の年代の違う地図を持ってきてくれた。

 

片方は古ぼけており今では想像もつかないほど大都会の様相を現した数十年前のアビドスの地図。

 

もう一枚は大半が砂に覆われた今のアビドスの地図だ。

 

「ここがアレクサンドロス分校でこれを今の地図に照らし合わせると…。」

 

「…結構砂漠の奥地だね。」

 

その場所はかなり距離があり砂漠を突っ切って行くにはかなり苦労しそうだ。

 

だが…

 

「なるほど座標は…よし、登録できた。」

 

ネイトはすぐさまPip-Boyに座標を登録、

 

「…行かれるので?」

 

「当然、ヒントがあるなら向かわない手はない。」

 

あっさりとアレクサンドロス分校へ向かうことを決断。

 

「だったら念入りに準備しなきゃねぇ~。」

 

「ホシノも来るのか?」

 

「もっちろん、知識の宮殿…気になるじゃぁん♪」

 

ホシノもノリノリのようだ。

 

「なんだかすごく大変そうだけど気を付けてよね、兄さんもホシノも。」

 

「お、お水はしっかり持って行ってくださいね!も、もし大変だったらすぐに駆け付けますのでいつでも呼んでください!」

 

「うん、気を付けるけどその時はよろしくねぇ。」

 

「…ありがとう、マスター。これで一歩前進だ。ごちそうさま。」

 

「ご馳走様ぁ。」

 

アルとハルカの忠告も受け二人は飲み物を飲み干し店を後にしようとする。

 

すると…

 

「ネイトさん、アレクサンドロス分校に向かうのなら一つ頼まれてはくれませんか?」

 

「ッと、マスター?」

 

ネイトを呼び止めマスターが差し出したのは一冊の古ぼけた本だ。

 

「実は学校が砂に飲み込まれる寸前に借りてた本でしてこれまでずっと返せないでいたんです。」

 

「…数十年も延滞してたら怒られないの?」

 

「ふふふっ本当だったら大目玉を食らうでしょうな。」

 

その本を返却してきてほしいというマスターの頼み。

 

ホシノが冷静にツッコむ一方、

 

「…フフッたった数十年程度じゃ怒られないさ、ホシノ。」

 

今度はネイトがどこか懐かしそうな表情を浮かべた。

 

そう、たった数十年。

 

100年単位で延滞していたとあるグールのマダムに比べたら大したことはない。

 

「分かった。代わりに俺が怒られて来よう。」

 

「感謝します。それからこれを、私の認識票です。これがあれば施設のどこへでも入れますよ。」

 

「ありがとう。じゃあ、行ってくる。」

 

返却期限を過ぎた本とマスターのかつての認識票を受け取り、ネイトとホシノは店を後にした。

 

「さて…まずは買い物だな。」

 

「…ネイトさん、一番大きな水筒を買いましょう。」

 

「だな。砂漠の長旅だ。水はいくらあってもいい。」

 

待ち受けるのは砂漠を突破する長旅だ。

 

万全を期すため二人は念入りに準備するのであった。




温故知新
―――『論語』より
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