Fallout archive   作:Rockjaw

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そのときの出逢いが、人生を根底から変えることがある。よき出逢いを
―――詩人『相田みつを』


Wanderer, to the Dwelling Place of Angels Part1

数日後…

 

「さて、少し早く着き過ぎたかな…。」

 

ネイトはアビドスを離れある学区に『潜入』していた。

 

この日のためにかねてよりミレニアムに発注していたデバイスを装備しホシノ達にコーディネートされた『ネイト』だとばれないような服装をしている。

 

Pip-Boyも今は外している徹底ぶりだ。

 

護身用に腰に提げている銃はこれまた普段は一切使わない拳銃『H&K P7』と呼ばれるものである。

 

一目で初対面の人物でネイトだと分かるものはそうはいないだろう。

 

…周囲の生徒から奇異の目が向けられているがいまのところバレた様子はない。

 

今はある人物を待つためにこの学区の中心地から少し離れた『ノイヌ駅』という駅の前の広場で時間を潰している。

 

すると…

 

「あの~…もしかして『ウィリアム』さんでしょうかぁ?」

 

背後からなんとも甘い色香を発する少女が声をかけてきた。

 

「あぁ、そうだ。…久しぶりだな、Ha,P。」

 

浅い笑みを浮かべながら振り向くと…

 

「うふふっお会いできるのが待ち遠しくて思わず『なぐs…。」

 

そこには蠱惑的な表情を浮かべ何時ものようになんとも『意味深』な発言をしようとする生徒『浦和ハナコ』がいた…が、

 

「…グフッ!」

 

ネイトの正面からの姿を見た途端に発しようとしていた言葉を忘れ吹き出してしまった。

 

「どうかしたか?」

 

「ネッ…ネイトさん…!そ、その恰好は…!」

 

肩を震わせながら思わず事前に取り決めていた偽名を忘れて指をさして指摘するハナコ。

 

現在、ネイトは『観光客』という設定でここ…『トリニティ』に潜入している。

 

そのせいか、バックパックを背負い普段ではあまり着込まないキャップと短パンに加え…

 

「…ノノミめ、やっぱり根に持ってやがったな…。」

 

「フフフッ…!こ、ここでそんなシャツ着ている方は観光客でもいませんよぉ…!」

 

どでかいサングラスをかけ完全に土産屋で買うようなお上り感満載のデザインのTシャツ一丁だった。

【挿絵表示】

 

ネイトの反応から見てアビドス生のおすすめであるとハナコも察する。

 

「…すまんな、少しでも溶け込もうと思ってな。」

 

「いっいえとてもお似合い…フフフッ…!」

 

しばしの間、ハナコの笑いは収まることはなかった。

 

数分後、

 

「あぁ~本当に愉快な方ですね、ウィリアムさんは♪」

 

ようやく落ち着いたハナコは取り決め通りの偽名で呼んでくれるようになり、

 

「でも…頭の上のそれはどうなっているんですか?」

 

もう一つネイトの姿で気になる部分を指摘する。

 

ネイトの頭上、本来は何もないはずだが…

 

「ヘイロー…ですよね?」

 

その頭上には確かに自分たちのようなヘイローが輝いていた。

 

「潜入だからな、普段の『ヘイローの無い俺』という先入観があったらまず気付けないだろう。」

 

「…ミレニアムの協力ですね?」

 

「流石Ha,P、察しがいいな。」

 

ネイトと他学校との関係性を勘案しハナコは一発でミレニアム産の技術だと見抜く。

 

「この帽子自体がホログラムの投影デバイスなんだ。」

 

かねてよりヘイローがないためにネイトは注目されることが常だった。

 

そこでエンジニア部にホログラムで疑似的にヘイローを作るデバイスを発注。

 

最近完成したので今回のトリニティ潜入に際し初実戦を迎えたのである。

 

「ちなみにポッチを捻ると色が変わる。」

 

「やっぱりミレニアムの技術はすごいですね。」

 

「それからサイズ調整のベルトを完全に外してから投げると爆発するらしい。」

 

「…それは無くした方がいいんじゃないでしょうかぁ?」

 

「まぁ、簡単には外れないようにはなってるから安心してくれ。さて、それじゃさっそく本題だが…。」

 

と、さっそくネイトがハナコの元を訪れた目的を果たそうとすると、

 

「もうっそんなにがっついたら女の子に嫌われますよぉ?」

 

「むっ?」

 

ハナコはネイトの口に人差し指を当てて言葉を制し、

 

「せっかくの『デート』のお誘いだったんですから一緒に楽しみましょうよぉ♪」

 

ネイトがハナコとのアポをとった際に発したあの言葉を忘れていなかったようだ。

 

「…別に深い意味で言ったわけじゃないんだけどなぁ。」

 

「まぁっそんな軽い気持ちで乙女の心を弄んだのですかぁ?」

 

「…はぁホシノ達にもそんな感じのこと言われたよ。」

 

「ウィリアムさんがそんな軽薄な方だったなんて…私は悲しいです…。」

 

ヨヨヨ…となんとも分かりやすいウソ泣きをするハナコ。

 

ネイトもネイトで…『デート』という言葉を使ったがそれほど深い意味はない。

 

戦前アメリカでは付き合っていない親しい異性の友人で出かける際によく使われる文言だ

 

が、あの後にホシノ達から『お話ガン詰め』されたことも思い出し…*1

 

「…分かった。少しハナコに付き合うよ。」

 

ここは折れることにした。

 

「…うふふっ決まりですね♪」

 

そう言うや否や悪戯が成功した幼子の様に舌をチロッと出し微笑むハナコ。

 

「だが、俺はここに来たのは初めてだから君にお任せすることになるがいいか?」

 

「もちろん、『初物』の殿方を『エスコート』するのも淑女の嗜みですから♪」

 

何時ものような思わせぶりな言葉でネイトを呷るが…

 

「よく言うよ、電話口じゃ初心丸出しで慌ててたくせに。」

 

「…もうッ早く行きますよぉっ!///」

 

「ハイハイ。よろしくな、My lady。」

 

ネイトは一切動じないどころかカウンターを叩きこまれ逆にハナコが顔を赤らめて彼の手を引っ張っていくのであった。

 

二人が去った広場では…

 

「は、ハナコってあんなに慌てることあるんだ…!」

 

「顔を真っ赤にするハナコちゃん初めて見ましたね…!」

 

「流石は教官だ。ハナコを言葉だけであれだけ動揺させるなんて。」

 

物陰からヒョコっと顔を覗かせるコハル・ヒフミ・アズサの三人。

 

数日前…

 

《早速で悪いんだが俺とデートしてくれないか?》

 

「えぇッ!!?///」

 

「わぁッ!!?ちょっちょっと何よ、いきなり!?」

 

「ハナコちゃん、ネイトさんになんて言われたんですか?!」

 

「むっハナコがそんなに驚くところは初めて見た…。」

 

ネイトから電話を貰った時、ハナコはいつものメンバーでお茶をしていた。

 

いつものようにモモフレンズグッズの話や学校の話、ハナコがコハルをからかったりと何気ない普段通りの時間だった。

 

が、ネイトからの連絡を受けいつものように思わせぶりな発言をしていた矢先に…これだ。

 

普段からふわふわと掴み所がないハナコが顔を赤らめここまで動揺するのは見たことがない。

 

「あ、あの一体どういう…!?///」

 

顔を赤くしたままハナコが尋ねると…

 

「ハイッ///…ハイ…つまり私の力が借りたいのですか?」

 

徐々に冷静さを取り戻していき…

 

「…もぅっそれならそうと仰ってくださいよぉ~!」

 

頬を膨らませプリプリと怒り出したかと思うと…

 

「…本当に仕方のない人ですねぇ。…分かりました、ネイトさんの頼みなら微力かもしれませんがお手伝いいたしましょう。」

 

呆れ4割嬉しさ6割といった微笑を浮かべつつネイトの頼みを了承。

 

「はい、では今度の日曜日にお待ちしております。詳しい集合場所は後程。」

 

日程を軽く決め通話を終了した。

 

「ふぅ~…ふふっ全く仕方のない人なんですから♪」

 

「はっハナコッ!ネイトさんになんて言われたのよ!?」

 

「…フフッ♪聞きたいんですか、コハルちゃん?」

 

「うん、ハナコがあんなに慌てるような内容が気になる。」

 

「あらあら、アズサちゃんも興味津々ですねぇ♪それじゃ教えてあげましょう♪それはぁ…。」

 

「そっそれはッ!?一体ネイトさんはハナコちゃんに何をお願いしたんですか!?」

 

勿体ぶるようにハナコは少々間を置き…

 

「…デートのお誘いでしたぁ♪」

 

微笑みながらネイトのお願いを打ち明けると…

 

「でッでででっデートオオオオオオオ!!?///」

 

コハルは顔を真っ赤にして大声を上げ…

 

「わぁッネイトさんって大胆なんですね…!」

 

ヒフミはネイトが見せた大人の余裕に息をのみ、

 

「デート?…遭遇戦訓練でもするの、ハナコ?」

 

俗世にいまだに少々疎いアズサは少しずれた反応をするのであった。

 

そして、ハナコから聞き出した約束当日…

 

「追うわよ、二人とも…!」

 

「でッでもコハルちゃん…!」

 

「女子高生と大人が二人っきりで出かけるなんて何があってもおかしくないじゃない…!正義実現委員会として見逃せないわ…!」

 

というコハルの意見でここまでハナコの後をつけてきたのだ。

 

「うん、私もネイト教官とハナコのデートは見てみたい。」

 

「あ、アズサちゃんまで…!」

 

「スニーキング技術には少し心得がある。ネイト教官ともなれば追跡対象として絶好の相手だ。」

 

アズサもアズサでベクトルは違うがネイトたちを追っかけることに賛成のようである。

 

「そう言うアンタはどうなのよ、ヒフミ…!興味ないの…!?」

 

「そ、それは…やっぱりこれも青春の1ページですし気には…なります…。」

 

そしてなんやかんや年頃の乙女のヒフミも興味津々だ。

 

「二人とも、早く行こう。見失ったら多分追いつけない。」

 

「分かったわ、アズサ…!さぁ、少しでもエッチなことしようものなら死刑なんだから…!」

 

「じゃ、邪魔するのはダメですからね…?」

 

こうしてハナコの仲良しメンバー出歯亀の一行の追跡が始まるのだった。

 

――――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

その後、ハナコの案内で始まったトリニティでのデート。

 

「来たのは初めてだが…歴史を感じる街並みだな。」

 

「キヴォトスではアビドスに続いて歴史ある学校ですから観光業にも力を入れているんですよぉ。」

 

二人は一旦バスに乗りトリニティの中心地へ。

 

発展具合は語るまでもなくさすがは三大校の一角といった感じだ。

 

発展具合だけではなく新しい建物と古い歴史ある建造物が調和し見事な街並みだ。

 

校舎一つとってみてもまるで宮殿のような外観をしている。

 

「ミレニアムとはまた違った…いい場所だな。」

 

裏では日夜熾烈な諜報合戦を繰り広げている間柄だがそれはそれ、これはこれだ。

 

政治と人、そして文化は別物だ。

 

それをすべてまとめて否定するほどネイトは狭量な男ではない。

 

「うふふっ気に入っていただけたようで何よりです♪」

 

「あぁ、なんだか地元を思い出すよ。」

 

「あら?ウィリアムさんのご地元のことは初めて聞きました。」

 

「俺の地元もこんな感じに古さと新しさを活かした街作りをしてたからな。」

 

ネイトの故郷、マサチューセッツ州ボストンはまさに『アメリカ』が生まれた場所だ。

 

独立戦争時代の建造物も多くある一方科学を研究する学園都市で先進企業も多く進出していたという側面もあるので性質的にはトリニティとかなり近しい。

 

「でしたら一度訪問してみたいですね、ウィリアムさんの故郷へ♪」

 

「…できたらな。それでどこへ行くんだ?」

 

「それじゃあ…。」

 

そして、ハナコが向かった先は…

 

「ウィリアムさん、どちらがいいと思いますかぁ?」

 

「そうだなぁ…。」

 

『意外』にもトリニティのショッピングモール内にあるアクセサリーショップだった。

 

ネイトの予想としてはイタズラ目的で下着ショップにでも連れ込まれると覚悟していたが…安心したやら拍子抜けしたやらで複雑な感情だ。

 

今は新しい髪飾りをチョイスしているところだ。

 

「う~ん…ハナコは素材が物凄くいいからどれでも似合うと思うが…。」

 

「まぁ嬉しい♪でも決断力の無い殿方は嫌われますよぉ?」

 

「いや、そうじゃなくて俺のセンスで悪いが…これなんてどうだ?」

 

そう言い、ネイトがチョイスしたのは…淡い紫のリボンに黄緑色のリーフがあしらわれたヘアゴムだ。

【挿絵表示】

 

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「これをこんな感じで…どうだ?」

 

「わぁ…。」

 

それを今ハナコが付けている白いリボンと白いヘアゴムの位置に宛がうとどうだ?

 

ハナコ自身のキレイな桜色の髪と合わさって一気ににぎやかな色彩になったではないか。

 

「淡い紫でハナコの髪の色を際立たせて下に行けば色彩を落ち着かせる効果がある黄緑があるからこれだけで視覚的にグラデーションが出るんだ。」

 

「髪の色は変わってないのに鮮やかさが増しました…!」

 

「元からこの二つは桜色と相性がいいってのもあるがな。…というのが俺のチョイスだが、どうだ?」

 

「…フフッ、大変魅力的な提案をありがとうございます♪」

 

ネイトのチョイスに満足げに頷き、

 

「じゃあ、この二つにしますね♪」

 

それらをもってレジへと向かう。

 

「いいのか?こんなオッサンのセンスで選んだので?」

 

正直90の自分のセンスが今の子にウケるとは思えないが…

 

「はい、ウィリアムさんが選んでくれたから意味があるんです♪」

 

ハナコにとってネイトが『選択』したという事実にこそ価値があるようだ。

 

「…そっか、じゃあ代金は俺が出そう。」

 

「そんな悪いで…。」

 

「いいからいいから、こういう時位格好つけさせてくれ。」

 

「…では、お言葉に甘えさせてもらいますね♪」

 

とまぁ、こんな感じで二人はしばしショッピングを楽しみ…

 

「それで…これが例の物だ。」

 

「拝見します。」

 

ショッピングモールを出て人目の少ないカフェの奥まった席でいよいよ本題に入る。

 

そこでネイトはバックパックの中に入れていた石板の写しを差し出す。

 

「…なるほど、アビドスの…それも初期のころの古代文字のようですね…。」

 

一目見ただけで文字の年代まで推測するハナコ。

 

ネイトの『生涯一のキレ者』という評価は伊達ではなかった。

 

「やはり君に見せて正解だった。それで…解読はできるか?」

 

彼女なら…と希望を見出したネイトだったが…

 

「………申し訳ありません。今この場で解読というのは少々…。」

 

そんな彼女でもやはり古代のアビドスの言語の解読は一筋縄ではいかない。

 

「いや、謝らないでくれ。むしろこんな唐突な話を聞いてもらえただけで幸運だったんだ。」

 

「時間を掛ければ少しずつですが内容が明らかにできるかもしれません。…こちらをお預かりしても…。」

 

なんとかネイトの力になりたいと思い持ち帰っての解読を提案しようとした…その時、

 

「…あ。」

 

「どうかしたか?」

 

「…ひょっとしたらあの方なら…。」

 

「…何?」

 

ハナコの脳裏にある人物が思い浮かんだ。

 

ハナコを『万能』とするなら…彼女は『一芸の超エキスパート』。

 

この手に関する知識では遥かに自分を凌駕している。

 

「…まだお時間の余裕はありますか?」

 

「時間ならたっぷりあるぞ。」

 

「でしたら…。」

 

ハナコはネイトに次の目的地を提案。

 

「…分かった。ただ…。」

 

ネイトはソレを了承するも…

 

「なんですか?」

 

「…お友達のパパラッチ、いい加減撒くことにしないか?」

 

「…そうですね。ここから先は…。」

 

トリニティに来てから今までずっとつけてきている三人娘にそろそろ対処することに。

 

ネイトはおろかハナコですらかなり最初のころから追跡に気付いていた。

 

別に今までは対処する必要はなかったが…ここから先はネイトとしてはアビドスの機密に関わる問題だ。

 

出歯亀にはそろそろ退場願おう。

 

ハナコも朧げながらもこの紙の情報が重要なものだと察知しネイトの案に了承する。

 

「だったら少し寄りたい場所がある。そこに寄ってから向かってもいいか?」

 

「分かりました。でしたら私が…。」

 

ちょうど、ネイトが個人的に会いたい者たちがいるので作戦は決まる。

 

「ムムム…出てこないわねぇ。」

 

「ここからだと店内の二人は見えないな…。」

 

「一体何のお話をしているんでしょうか?」

 

その出歯亀三人娘はちょうど真向いの店に入って監視を行っていた。

 

「あ、出てくるわよ!」

 

用件が済んだか二人は店の外に出てきた…がちょうどその時店の前にタクシーが停まり、

 

「あぁッ!!!二人ともタクシーに乗っちゃったわよ!?」

 

「事前に呼んでたんだ!くッスニーキングに気付かれたか!?」

 

「わわッ!は、早く追わないと!」

 

ここまで二人の移動はバスか徒歩。

 

そんな二人がいきなりタクシーを使うとは考えにくい。

 

考えられるのは…とっくに自分たちの存在には気付いており追跡を断念させるためにタクシーを予約したということだ。

 

このままでは逃げられると思い三人も急いで店を出るが…

 

「行っちゃったわよ!?」

 

「だったら私達もタクシーで…!」

 

「たっタクシー!」

 

すでにネイトたちが乗ったタクシーは出発。

 

急いで追いかけようとタクシーを止めようとするが…そう簡単には来ないし止まらない。

 

しかも反対車線なのですぐに乗れてもかなり引き離されるだろう。

 

こうしてあっさりとヒフミたちを撒いたネイトとハナコが向かったのは…

 

「へぇ、ダウンタウンもアビドスとはだいぶ雰囲気が違うな。」

 

中心街から少し離れ下宿屋などが軒を連ねた下町に来ていた。

 

正直雰囲気自体は少し暗いがここにこそネイトが会いたい者たちがいる。

 

「ここに一体どんな方が…。」

 

ハナコもネイトが会いたい人物に興味がある。

 

メモ用紙とにらめっこしながらある住所を探し…

 

「…あった、ここだ。」

 

一軒の古びたアパートにたどり着いた。

 

単身者用ではなく元から大人数でシェアハウスするような造りである。

 

その一室の前につきインターホンを押すと…

 

《はぁいどちら様~?》

 

何やら気だるげな生徒の声が帰ってきた。

 

「ネイトだ。休日に突然訪ねてすまないな。」

 

「え…?」

 

するとネイトは今日初めて自分以外に本当の名を明かした。

 

ハナコが少し驚いていると、

 

《え、アニキっ!?すっ少し待ってて下せぇ!》

 

相手の方はもっと驚き、

 

《おっおい早く服着ろ!ごみ隠せッ!》

 

中にいるであろう同居人たちも一緒になって部屋の中が騒がしくなってきた。

 

着替えやら片付けやらで待つこと数分、扉が開かれ中から現れたのは…

 

「うっす、お疲れ様です!」

 

「息災のようだな、『七転八倒団』。」

 

「え、七転八倒団…!?」

 

トリニティ内部でもそこそこ名の知れたグループ『七転八倒団』のメンバーだった。

 

「お、今日はアビドスの姐さんたちが一緒じゃないんすね。」

 

「こ、こんにちは。トリニティの浦和ハナコと申します。」

 

「…アァっ!よくアビドスにモモフレグッズを買いに来てるメンバーの!」

 

「少し訳あって俺一人で潜入中だ。彼女にはガイドを頼んでる。あまりここで会話するのもよろしくないから上がらせてもらってもいいか?」

 

「どぞっす、少し散らかってますけど!」

 

あまり外で会話し続けるのも都合が悪いので中にあげさせてもらうことに。

 

部屋に上がると、

 

「アニキ!よくいらっしゃってくれました!」

 

「こっちに来てるんなら一声かけてくださいよぉ!」

 

「狭いっすけどくつろいでって下さい!」

 

中にはほかに数人の七転八倒団のメンバーがいてネイトを迎えてくれた。

 

「皆、元気なようで安心したよ。」

 

「どうぞ!お連れさんも!」

 

「失礼する。」

 

「失礼しますねぇ。」

 

二人は彼女たちが用意してくれたクッションに腰掛け談笑を始める。

 

「こうして顔を合わせるのは…この前の輸送作戦ぶりだな。あの時は助かったよ。」

 

「いやいや、あたし等は運転してただけですって。」

 

以前、ミレニアム廃墟区画で行われた突破輸送作戦。

 

その際にも七転八倒団ほぼ全員が参加し輸送に大きく貢献してくれていたのだ。

 

「そうそう、差し入れ持ってきたんだ。他のメンバーにも渡してくれるか?」

 

そう言うとバックパックからPip-Boyを取り出し空いてるスペースに米や野菜などの食料を出現させる。

 

「いつもすんません。有難くいただきます。」

 

「あとで他の連中にも分けておきます。」

 

「他の七転八倒団の方もここに?」

 

「あぁ、別フロアに部屋借りてるんだよ。」

 

と、そんな風に七転八倒団の近況などの世間話をしていると…

 

「それで今日はどうしてここに?」

 

話題はネイトがトリニティに、それも身分を隠して潜入していることになった。

 

「Ha.P…いや、ハナコの力を少し借りたくてな。」

 

ネイトがそう答えると…

 

「潜入ってただ事じゃなさそうっすけど…アビドスの化け物退治の件ですか?」

 

「ば、化け者退治…?!」

 

七転八倒団の一人がぽろっと口にしたその単語にハナコが引っ掛かる。

 

「おい、それは一応機密事項なんだが…。」

 

「すっすいやせん!」

 

今日初めて表情を苦くしネイトが苦言を呈するも…

 

「ネ、ネイトさん…化け物退治…とは…?!」

 

どう考えてもただならぬ内容にハナコも目を見開き尋ねる。

 

「…いいか、Ha,P。君の口の堅さを信じて打ち明けるが…他言無用で頼む。」

 

ハナコ相手では隠し立てはできない。

 

ネイトは現在のアビドスの状況を端的に説明し…

 

「あの石板の写しはその化け物…『ビナー』に関する情報が記されている。」

 

「…つまりその内容を解明すれば…。」

 

「勝ち目が薄いこの戦いを少しは優位に進められるはずだ。」

 

今日、ネイトがハナコの元を訪ねてきた理由と…

 

「では…七転八倒団の方々はどうやって…。」

 

「その…うちらの別のメンバーが日雇いに行ってたタイミングでその化け物が起こした砂嵐に襲われてよ。」

 

「その時にうちらも参戦するってことで話が纏まってたんだ。」

 

「アニキやアビドスには世話になりっぱなしだからよ。少しでも恩を返してぇんだ。」

 

他学区の七転八倒団がなぜこの情報を知り得ていたかを明かす。

 

「すまない、ハナコ。あまり知りすぎると…君がトリニティの上層部に目を付けられてしまう…そう思って明かせなかったんだ。」

 

ネイトもトリニティにとって自分がどんな存在かは把握している。

 

そんな自分と接触しアビドスの機密に関わるような情報を知っているともなれば…ハナコにどんな影響が及ぶか分かったものではない。

 

元より派閥間の対立が激しいトリニティ。

 

ハナコも引き込みに関する派閥闘争に嫌気がさし心をすり減らしていた。

 

ヒフミの話によれば…4人で絡むようになり以前よりも笑うことが増えてきたという。

 

…一方、好色家な側面はいまだ健在とコハルが嘆いてもいた。

 

ようやく手に入れられた安寧を…ネイトも奪いたくはなかったのだ。

 

だから、あえてハナコには『アビドスで見つかった石板の解読』という最小限の情報しか明かさず協力を仰いだのだ。

 

「…あとは俺一人で何とかする。だから君はここで…。」

 

これ以上関わらせると…と思いネイトはハナコに離脱を促すと…

 

「むぅっ?」

 

「…こぉ~ら、ネイトさん。また悪い癖が出てますよぉ。」

 

今朝あった時のように、ハナコがネイトの唇に人差し指を当てて言葉を制する。

 

今朝と違うのは…いつもの蠱惑的な雰囲気は一切感じない柔らかな笑顔だった。

 

「私、嬉しかったんですよ?ネイトさんがデートに誘ってくれて。そして…私を頼ってくれて。」

 

「………。」

 

「ようやく…私の肩の荷を軽くしてくれた貴方の力になれる。そう思うと今日が楽しみで仕方がなかったんです。」

 

ヒフミたちとクルセイダーで砂漠を横断しネイトたちの元を訪れたあの日…ハナコもネイトに救われたのだ。

 

初めて自分を『トリニティの才媛』としてではなく『浦和ハナコ』という一人の女の子として真っすぐに見てくれた大人。

 

自分を『生涯一のキレ者』と認め、それでいて自分ではまだ至れない領域にいる初めての大人。

 

そして…自分に『青春』を送る道筋を示してくれた大人。

 

「アビドス独立戦争の時…本当に心配でたまらなかったんですよ。もし貴方の身に何かあったら…と。」

 

「………。」

 

「貴方のために何かしたくても出来なかった…そんな自分が歯痒かったんです。」

 

そんな恩人が謂れのない批判を浴びたアビドス独立戦争。

 

『トリニティの才媛』と呼ばれた自分ですら手出しができなかった大戦争。

 

出来るなら…自分もネイトのために力を振るいたかった。

 

だが、ネイトはカイザーの企てを粉砕し勝利を収め凱旋した。

 

安堵と共に…自分の小ささも知った。

 

「そんなネイトさん…いえ、アビドスの皆さんがまた大きな戦いに挑もうとしているんですよね?」

 

「…そうだ。」

 

「でしたら…私を突き放すのではなく今だけは最後までお付き合いをさせてください。」

 

だから…アビドスの命運がかかったビナーとの戦い。

 

この戦いの重要な部分でネイトがハナコを頼ってくれたことが嬉しかったのだ

 

「だが…。」

 

「大丈夫です。こう見えても私、綱渡りは上手なんですよぉ?」

 

「………。」

 

「ですから…遠ざけるのではなく手を取ってください。エスコート…してくださいますよね?」

 

年端も行かない少女がここまで自分を重い決意を固めてくれているのだ。

 

「…分かった。じゃあ、Ha,P…今日は最後まで付き合ってくれるか?」

 

大人の自分が覚悟を決めなくてどうする?

 

「はい♪最後まで『しっぽり』とお付き合いいたしますねぇ♪」

 

「『しっかり』、な。よろしく頼む。」

 

「…なんだかんだうちら以外にもトリニティで仲いい子がいたんすね。」

 

普段の様子に戻った二人をみて七転八倒団の面々も笑顔を浮かべる。

 

「そして、七転八倒団の皆さんもネイトさんをお願いしますねぇ♪」

 

「オウ!頭脳面はアンタに任せっからドンパチはうちらに…!」

 

七転八倒団もハナコの頼みを快諾した…その時だった。

 

突如、インターホンが鳴る。

 

「ん?今日は客が多いな…。」

 

七転八倒団の一人が立ち上がり、

 

「はい、どちら…。」

 

応答すると…

 

《あッどうもっす。『正義実現委員会』っすけど…ここ開けてもらえるっすよね?》

 

『~ッ!!?』

 

このトリニティにおける治安維持武装組織『正義実現委員会』が突如としてこのアパートにやってきたのだった。

*1
昨日くらいまでスピーチチャレンジを繰り返しまくって何とか留守番してもらえた




謀は密なるを貴ぶ
―――古来からの諺
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