Fallout archive   作:Rockjaw

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見えないと始まらない。見ようとしないと始まらない
―――自然哲学者『ガリレオ・ガリレイ』


Whales in the Desert and Night Sky

ビナーは…静かに機能を停止し瞑想していた。

 

あの日…自分は砂漠を泳ぎ砂を巻き上げていた。

 

それが…己の使命だからだ。

 

太古の昔、自分が生み出され時から命じられた務めだった。

 

しかし…あの日、その務めは妨げられた。

 

同じく大地に恵みをもたらす『雨』が降り始め…砂は巻き上がらなくなってしまった

 

こんな経験は初めてだった。

 

雨が自分の邪魔をしたこともそうだが…『奴』だ。

 

奴は…自分に『怒り』を向けていた。

 

自分よりも遥かに小さな存在がこの地を護る自分をあたかも外敵のように。

 

しかし、奴の奥底にある計り知れない力も感じ取った。

 

そう、それはかつて…もう数えるのも忘れてしまうほどの昔のこと。

 

自らの前に立ったあの『小さき存在』と同質なものだった。

 

懐かしくもあり…なぜあれほどの怒りを向けてくるのかが分からなかった。

 

…考えるのも馬鹿らしい。

 

小さき存在を最後に見て幾星霜経った?

 

同じはずがない、そんなわけがない。

 

そんな突飛な思考は奥にしまい込め。

 

自分は…己に与えられた務めを果たし続けるのみだ。

 

次の務めのために今は力を蓄えよう。

 

…だが、その時だ。

 

『あの声』が聞こえた。

 

甘美なる…抗いがたい『本能』に訴えかけるあの声だ。

 

追いかけよう…!

 

いつぶりか、この声を聴くのは…!

 

行かなくては…!

 

何時ぶりだろうか…!

 

これほど近くにいてくれたとは…!

――――――――――――

《こちら、『営巣地』。現在、『魚群』より音波を発生中。『カモメ』、観測結果を求む。》

 

アビドス砂漠の奥地、延々と続く砂漠の真ん中で…

 

「こちら『カモメ』、現在効果を観測中。」

 

砂丘の頂上から砂漠迷彩を施した外套でその身を隠し双眼鏡を構えネイトが『結果』を観測していた。

 

双眼鏡で覗く先には何かの装置が置かれている。

 

周囲を探るように見まわしていると…

 

「………来た…!」

 

装置目掛け…遠くから大量の砂を巻き上げ何かが猛スピードで迫ってきた。

 

まるで小さな砂嵐が意志を持っているかのようだ。

 

「こちら『カモメ』、『クジラ』が『魚群』に接近中…!繰り返す、『クジラ』が接近中…!」

 

その様子をネイトは察せられない様に報告。

 

そうこうしている内に迫りくる存在は装置のすぐそばにまで接近。

 

その勢いのあまりネイトのいる場所にまで微かな揺れが伝わってきている。

 

(潮時だろう…!)

 

効果は十分わかった。

 

これ以上、こちらの『手札』は晒せない。

 

「こちら『カモメ』、『魚群』をバラバラにしろ。」

 

ネイトはすぐさま無線を飛ばし、

 

《了解、『魚群』を解散させる。》

 

司令部である『営巣地』はすぐさま信号を飛ばし音を止める。

 

するとどうだ?

 

先ほどまで舞い上がっていた砂はピタリと止む。

 

そして…ビナーが頭部だけを砂上にあげ周囲を窺うように見回す。

 

見るからに不思議そうな様子が伝わってくる。

 

ビナーはしばし周囲を見回し…再び砂中に没しどこかへと去っていくのであった。

 

ネイトはその後もしばらく姿を隠し続ける。

 

水を飲むことすら細心の注意を払い1時間後…

 

「………こちら『カモメ』、『クジラ』は去った。これより『魚群』を回収する。」

 

ビナーが周囲にいなくなったことを確認し行動を開始。

 

外套を羽織るようにまき直し…

 

(数十年ぶりのスキーが雪じゃなくて砂だとはな…。)

 

両手にストックを持ちスキー板を装着し砂丘を滑り降りる。

 

感触こそアラスカのパウダースノーと比べかなり硬いが滑れないわけではない。

 

これで普通に歩くより素早く足音も立てずに砂上を移動できる。

 

ビナーの探知能力がどれほどかはいまだ不明だが用心に越したことはない。

 

安全を考慮し数㎞離れた場所に設置した装置まで滑っていき…

 

「こちら『カモメ』、『魚群』に飛び込んだ。『帰巣』を頼む。」

 

《『営巣地』、了解。すぐに『帰巣』を始める。》

 

装置をPip-Boyに収納し通信を飛ばした。

 

しばし待っていると…上空にベルチバードが飛来。

 

ネイトのすぐそばに降下し、

 

「アニキ、早く乗ってくれ!いつアイツが戻ってきてもおかしくねぇ!」

 

「あぁ、さっさとずらかるぞ!」

 

素早く乗り込み砂漠を後にするのであった。

 

しばし後、ベルチバードはアビドス高校に帰還。

 

「ただいま、『カモメ』が戻ったぞぉ~。」

 

「おかえりぃ~、いやぁ、無事でよかったよぉ。」

 

「全く…一人で偵察だなんて無茶苦茶よ。」

 

「ん…でも一番ネイトさんが隠れるのが上手だから仕方がない。」

 

「何はともあれ…実験は大成功のようでしたねぇ♪」

 

「まさに石板の通りの生態でしたね。」

 

砂まみれのネイトをホシノ達が出迎えてくれた。

 

そう、あの装置はあの時に放送室に押し込まれた番長が収録したアビドスオオハイギョの鳴き声を再生するためのものだ。

 

突貫工事で制作したので音質や音量に不安があったが…効果は覿面。

 

アイボットが砂漠の広範囲に探知していた弱い反応。

 

サイズを考えてネイトが単身潜伏し監視を行っていたが…ビンゴ。

 

あの砂漠の反応こそあのビナーだった。

 

「これで奴の所在と誘引方法が分かった。」

 

これで『懸念』の一つは消えた。

 

そしてもう一つ…

 

「…番長たちが向かった方面はどうだ?」

 

アイボットが探知したもう一つの小さいが強力な反応。

 

アビドス高校からの距離がネイトがいた砂漠よりも若干近いためそちらには番長率いる戦車二個小隊とアパッチ・ロングボウ一個小隊が向かっている。

 

さらにはマサチューセッツも照準を終えいつでも攻撃可能だ。

 

最悪の想定であった2体目のビナーが出てきたとしても抵抗できる戦力は差し向けたつもりだが…

 

「そっちはこれからだね。万が一の場合に備えてネイトさんが戻ってくるまで待機してもらってるよ。」

 

万全を期すに越したことはない。

 

「分かった。とりあえず司令部へ行こう。」

 

ネイトもそれに同意し一同は作戦司令部へと向かう。

 

「アーこちら『カモメ』、『アシカ』応答せよ。」

 

《こちら、『アシカ』!『カモメ』、無事で何よりですぜ!》

 

「ありがとう。では、これより『魚群』を放つ。有事の際は遅滞戦術を意識し撤退を開始するように。」

 

《了解!》

 

現場指揮官の番長と言葉を交わし…

 

「では3…2…1…再生開始。」

 

カウントダウンを行い番長たちが設置した再生装置を起動させる。

 

「『魚群』放流完了。同地にて30分待機せよ。」

 

《こちら『アシカ』、待機する…!》

 

あとはアイボットの探知した物がどういった反応を示すか待つだけだ。

 

ネイト達もすぐに出撃できるように武装は整えている。

 

現場の番長たちも固唾を飲んで待ち構える。

 

刻一刻と時間が過ぎていき…

 

「………こちら『カモメ』。『アシカ』、何か変化は見受けられるか?」

 

《こちら『アシカ』、変化は一切なし。報告にあった迫って来る砂嵐も確認できねぇ。》

 

「…了解、30分経過。『魚群』を解散させる。」

 

規定していた30分が経過し再生装置を停止させる。

 

これ以上流すと砂漠のビナーが反応を示しかねないからだ。

 

「『カモメ』より『アシカ』へ。あと30分待機の後にヘリで『魚群』を回収に向え。」

 

《了解した。なんもなければいいなぁ…。》

 

その後、ネイトと同様にしばし待機し…

 

《こちら『アシカ』、『魚群』を回収した。これから帰還するぜ。》

 

「了解、帰りも気を付けて戻って来いよ。」

 

番長は発生装置を回収し、帰路に就く。

 

セリカが言っていたような最悪の事態は回避できたが…

 

「…さて、これで岩山地帯の反応がビナーの類じゃないことは分かったが…。」

 

「じゃあ、これは一体何なのか…ってことだねぇ。」

 

これはこれで新たな謎を生む。

 

「…最低限、現地に赴いて調査する…というのが妥当ですね。」

 

「ひょっとしたらカイザーがまた何か企んでる可能性だってあるものね…。」

 

「だな。」

 

幸い、ビナーもあれから活動を活発化させるような兆しは確認されていない。

 

ここは時間を消費してでも正体を確かめるのが得策だ。

 

「オッケェー。で、メンバーはぁ?」

 

「ドンパチの可能性がある。『セタス部隊』で行くぞ。」

 

大部隊で向かうと時間がかかるため、ここはアビドス最精鋭部隊である『セタス部隊』を投入。

 

カイザーコーポレーション最終進攻作戦を遂行した部隊と言えばどれほどの精強さか分かるであろう。

 

「移動方法はベルチバードで?」

 

「ここは渓谷のようだから気流が読めない。安全性を確保するために陸路で行こう。」

 

「では『ストライカー』を用意しておきますねぇ。」

 

「…いや、その前に一声かけたいところがある。」

 

ネイトはそう言い、スマホを取り出しある場所にコンタクトを取り始めるのであった。

――――――――――――――――

 

―――――――――――

 

―――

翌日、

 

「やーやー、アビドスの皆!出発時間前の集合、感心感心!」

 

「本日はハイランダー鉄道がくえーんをご利用いただきーありがとねー。」

 

「わざわざすまないな、ノゾミにヒカリ。」

 

完全装備のネイト率いるセタス部隊の姿はアビドスのある駅の一角にあった。

 

そして目の前にいるのはハイランダーの橘姉妹。

 

「でもいいのぉ?おじさん達は『軌陸車』貸してもらえたらそれでよかったんだけど?」

 

あの時、ネイトがコンタクトをとったのはハイランダーのCCC。

 

しょっちゅう世話になっているがそんな組織にネイトは『軌陸車』、公道と線路を走れる自動車のレンタルを頼んだのだ。

 

目的地までは古いとはいえ線路が繋がっている。

 

砂に埋もれている可能性もあるが『軌陸車』ならば関係なく通れるという算段だったが…

 

「いいのいいの!『理事会』の方針だから!」

 

「売れるうちにー恩は売っとこうってことー。」

 

どうやら話がCCCのさらに上、生徒会である『理事会』にまで上がり客車付きディーゼル機関車と運転手としてノゾミとヒカリを派遣してくれたのだ。

 

しかもただの機関車ではない。

 

「見てみて!レッドウィンターの永久凍土の雪原でも難なく走れる『ラッセル車』だよ!」

 

「これで線路が埋まっててもー問題なーし。ずごごごーっって押しのけて進んじゃうー。」

 

「よく分からないけど…すごい列車持ってきたのね…。」

 

「ん…至れり尽くせり。」

 

行き先は線路が埋まってる可能性もある砂漠地帯。

 

その場所を突破するようにわざわざラッセル車をアビドスに派遣してくれたのだ。

 

「協力には感謝しますが…どうしてここまで…。」

 

確かにアビドス…もといW.G.T.C.はハイランダーにとっては太客だ。

 

それでもあまりにも気前が良すぎる。

 

「それはー…。」

 

ヒカリがアヤネの問いかけに答えようとした、その時…

 

「理事会が『アビドス』そのものに旨味を見出したからだ。」

 

客車の方から鋭い声が上がり代わりに答えた。

 

そちらを見ると軍服のような鉄道服を纏いくすんだ金髪をして眼帯を装着した生徒が佇んでいた。

 

腰にはショットガン『モスバーグ M500 クルーザー』が収められたホルスターを提げている。

 

見るからに…橘姉妹と違い荒事を経験してきた雰囲気を感じ取る。

 

「…君はぁ?」

 

「『朝霧スオウ』、ハイランダー鉄道学園『監理室』所属の監督官だ。」

 

「監理室…話には聞いていたが確か理事会直属の部署だったか?」

 

「そうだ。お上の使い走りだと思ってくれて構わない。」

 

彼女、スオウは淡々と自身の所属や役割を語っていく。

 

「…そういえばCCCと仲が悪かったんじゃないか?」

 

「そうだけどぉ…理事会の指示だから仕方ないねぇ…。」

 

「私だってアンタたちと仲良しごっこしてたまるか。」

 

ハイランダーはいくつかの組織があるがそれぞれが独立した権限を保有している。

 

その組織ごとに管理する路線が『派閥』となるとネイトもノゾミから聞いたことがある。

 

以前のケテル輸送の際、ヒカリとノゾミが監理室の検問を気にしていたのもこれが原因だ。

 

そんな違う部署のメンツがこうして一堂に会すこと自体が珍しい。

 

「それで?それがハイランダーがここまで手を貸す理由なのか?」

 

「以前までの…それこそ、そこにいる『用務員』がいなければこのような協力は一切する気はなかっただろう。」

 

「ん…アビドス砂漠の横断鉄道が行き詰まっていたのに?」

 

アビドス砂漠横断鉄道、かつてセイント・ネフティス社が起死回生の一手として進めた計画だが…

 

「ふん、以前の状態で再開したところで結局は宝の持ち腐れ。死にゆく学校自治区に巨大インフラを敷いて何になる?」

 

スオウは一笑に付す。

 

「ちょ、ちょっと!それってどういう…!」

 

その態度にセリカが食って掛かろうとするが…

 

「…まぁ、そうだよな。」

 

「ちょ、ネイトさん!?」

 

ネイトがそれに同調する。

 

「インフラ、つまるところ『公共事業』が経済を活性化させるのはあくまで『発展』出来る下地がある場合だ。俺の来る前のアビドスじゃ…効果は無に等しいだろう。」

 

「ほぉ、用務員にしては随分と詳しいじゃないか。」

 

「俺の爺さんの爺さんの時代に全く同じ事やっていたからな。」

 

『ニューディール政策』、世界恐慌時にアメリカが事態打開のためにとった一連の経済政策だ。

 

銀行の救済や労働者の権利保護なども有名だが最たるものというとテネシー川流域のダム建設や道路工事などの『公共事業』による失業者の大規模雇用だろう。

 

要はアビドス砂漠横断鉄道もこれに近い所があるが…ビナーの妨害によりとん挫。

 

それによりアビドスはさらに弱体化しネイトが来る前の状況となった。

 

こんな状態で計画を再開させたとしても…

 

「クラッカーにLサイズのピザのトッピングを大きさそのままで乗せるようなものだ。土台ができてない状態じゃ旨味がほとんどない。」

 

「そんなバランスが悪いピザは嫌だなぁ。」

 

「生地もおっきくートッピングもたっぷりがいいー。」

 

「それでは今のアビドスは…。」

 

「…カイザーの支配を脱し人口も増加し景気も向上。発展の兆候もあり計画の再開をしても『採算』が取れる、というのが理事会の判断だ。」

 

それがネイトの来訪とアビドス独立戦争の勝利がその状況を変えた。

 

カイザーも撤退し、抑圧されていた自由な経済活動も始まりつつある。

 

ならば、ビナー討伐後の利益確保のために全面協力するのはやぶさかではないのだろう。

 

「それに我々の管轄で我々があずかり知らぬ存在が確認されたとあればそれを確かめる必要がある。」

 

「…要はおじさん達を護衛にしようってこと?」

 

「そちらは移動手段を手に入れられる。Win-Winだろう?」

 

ハイランダーとしてもあの反応は気になるところだろう。

 

その調査にキヴォトス切っての精鋭部隊が同行してくれるのであれば機関車と客車の一輌など安いものだ。

 

「目的地は一緒…だとするなら『旅は道連れ』ってやつだ。よろしく頼むよ。」

 

「あぁ、この馬鹿どもはこう見えて仕事には真面目だ。そこは安心しても大丈夫だろう。」

 

腹に一物を抱え打算もりもりな両陣営だがそちらの方が安心できるというものだ。

 

互いを代表しネイトとスオウが握手を交わしていると…

 

「ブーブー、バカバカってやっぱり監督官嫌いだ。」

 

「少しはネイトさんやアビドスを見習えー。」

 

彼女の物言いが気に喰わないのかヒカリとノゾミからブーイングが飛ぶ。

 

「貴様らがもう少しその態度を改めればな、橘ヒカリに橘ノゾミ。さぁ仕事の時間だ。」

 

「言われなくてもちゃんとやるよーだ。」

 

「それじゃーアビドスの皆も乗り込んでー。」

 

「お邪魔しまぁーす♪」

 

何はともあれセタス部隊とハイランダー組一行は目的地である渓谷地帯に向かうため客車に乗り込む。

 

「まぁピザでも食べてリラックスしててよ!機関車の面倒は私たちがしっかり見てるからさ!」

 

「ハイランダー特製のーペパロニのピザだよー。激ウマだよー。あとで一枚持ってきてー。」

 

「うへー、腹ごしらえの準備もしてくれるなんて助かるよぉ。」

 

中には確かにハイランダーのブランドであろうデリバリーピザの箱がいくつか置かれてある。

 

「…おい、馬鹿ども。」

 

「なにさー、監理官?」

 

「これは『経費』じゃなく『自費』で用意したんだろうな?」

 

それを見たスオウは目線を鋭くしヒカリたちに尋ねると…

 

『………。』

 

二人は黙りこくって明後日の方向を向いてしまった。

 

「…面白い奴らだ、気に入った。報告は帰ってからにしてやる。」

 

スオウはそう言い残し、客車に乗り込むのであった。

 

そんなこんなで始まったアビドスとハイランダーの合同調査。

 

「あぁ~…ペパロニにトマトソースにチーズ…。懐かしき故郷の味だ…。」

 

「ウマっ!そこらのデリバリーのピザなんか訳ねぇぜ!」

 

「ピリッと辛いのがまた堪らないねぇ~。」

 

「見てください、もう砂漠地帯に入りましたよぉ♪」

 

客車で座るネイトたちはせっかく用意してくれたのでピザに舌鼓を打ちつつ車窓からの風景を楽しんでいた。

 

相当高性能な車両を用意してくれたのだろう。

 

ディーゼル機関車だというのにかなりの速度で進んでいる。

 

「………。」

 

一方、スオウは隅の方にポツンと座って窓の外を眺めている。

 

「スオウ、アンタも一切れくらいどうだ?」

 

「いらん。」

 

「ふ~ん。」

 

ネイトが近づいてピザを進めるも素っ気なく拒否する。

 

「…アンタたちは随分のんびりしているな。」

 

「ずっと警戒してても疲れるからな。安心しろ、有事の際は皆しゃんとするさ。」

 

「…本当にカイザーを仕留めたのか疑問だな。」

 

スオウが言うように、今のホシノたちは旅行気分の学生もいいところだ。

 

景色を楽しみピザを食べおしゃべりに興じる。

 

身なりこそ完全装備だが…精鋭部隊かと言われると疑問符がつく。

 

「それはあの配信の通りだ。なんならカイザーPMCの元理事がウチにいるから今度会ってみるといい。」

 

「ふん、懐かしい名前だな。」

 

ネイトの口から出た店長の話題に反応するスオウ。

 

「ほぉ?カイザーPMCと仕事していたのか?」

 

「…以前はそこの社員だった。」

 

「へぇ、それは…。」

 

「時期が違えば…アンタたちと戦場で相まみえていたかもな…。」

 

ようやく、スオウが対面に腰掛けたネイトに視線を向ける。

 

「その時はその時だ。今は違う。別段、気にすることでもないだろう。」

 

利き手はピザを持ちなんともリラックスした姿勢だ。

 

「そうだな…。」

 

興味がわいた。

 

この男が…本当にあの『熱砂の猛将』なのかを。

 

口ではあぁ言ったがスオウにもアビドスのメンバーの実力はひしひしと伝わっている。

 

並の不良やPMC…各校の治安組織の一般隊員程度では足元にも及ばないであろうその練度を。

 

「………。」

 

ふと、懐に忍ばせているもう一挺のポンプアクションショットガン『スーパーショーティ』に視線を送る。

 

手を伸ばせば一瞬で引き抜ける。

 

スオウは隙を窺うようにネイトを見つめる。

 

「もう終わった戦争で元PMCだったとして俺達がどうこうする理由もないしな。」

 

そう言いつつ、ネイトが手に持ったピザを口に運んだ。

 

(今…!)

 

そう思い、スオウがスーパーショーティのグリップを掴もうとした。

 

が、あることに気付く。

 

アビドス生のおしゃべりが…ピタリと止んでいることを。

 

動きを止め、スオウがそちらを見ると…

 

『………。』

 

全員が動きを止めスオウを見つめている。

 

その手はいつでもスオウを撃ち抜けるように銃に伸ばしながら。

 

一番大人しいと思っていたアヤネでさえコモンセンスに手を添えていた。

 

「………。」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「…いや、ピザばかりでくどいだろう?口直しにドライフルーツでもどうだ?」

 

スオウは懐に入れていたドライフルーツのパックをネイトに投げ渡す。

 

「おぉ、すまないな。」

 

ネイトはそれを受け取るとアビドス生たちもお喋りを再開した。

 

「それじゃ、俺はヒカリたちに陣中見舞いにでも行ってくる。」

 

そう言い残しネイトも席を立ち運転席へと向かう。

 

…その左腰に差してあった『ディサイプルズナイフ』のホルスターのボタンが外れていた。

 

(なるほど…これがアビドスの最精鋭部隊…か。)

 

もしあのまま抜いていたら…

 

「フッ…用務員、もしアンタがもっと早く来ていたら…。」

 

スオウは視線を窓の外に戻し自嘲気味に呟くのであった。

 

一方、ネイトはというとピザをPip-Boyにしまい器用に機関車外にある通路を通り…

 

「お~いピザのデリバリーだぞー。」

 

「あッネイトさん!持ってきてくれたんだ!」

 

「ちょうど小腹が空いててー助かるー。」

 

機関車を操縦中のヒカリとノゾミの元に到着していた。

 

「ほら、差し入れだ。」

 

Pip-Boyからピザの箱を取り出しヒカリに渡すと

 

「いつ見ても凄い機能だね!温度もそのままで砂も入らないから助かるけど!」

 

「それ欲しー。ネイトさーん、それヒカリにちょうだーい。」

 

手が空いているヒカリがぺちぺちとネイトを叩きつつPip-Boyをねだる。

 

「それは無理だな。俺だってなくなると困る。」

 

「むーけちー。」

 

「たぶんヒカリだと腕が細くて抜けちゃうから諦めなって!」

 

「姉に向かってなんだー、その口の利き方はー。」

 

「おいおい、操縦には集中してくれよ。…しかし、機関車の操縦席は初めて入ったな。」

 

「あっそうなの?!じゃあたっぷり見ていきなよ!」

 

「でもーなにも触らないでねー?」

 

いかにエンジニアのネイトでも機関車の操縦は門外漢だ。

 

対するヒカリとノゾミ。

 

自分よりも遥かに幼いが間違いなく列車の操縦に関してはプロフェッショナルで自分の仕事にも誇りを持っている。

 

「分かってる。プロの二人に従うさ。」

 

ネイトも素直に二人の指示に従うのであった。

 

すると…

 

「あッと前みて、ネイトさん!」

 

ノゾミがそう言い、前を見てみると…

 

「…やはり砂で埋まっている部分があるか。」

 

行き先の線路が一部砂に埋もれているのが見える。

 

普通このままいけば脱線の危険性もあるが…

 

「え―御乗客の皆さまー。当列車はーこれより砂を押しのけて進みますー。窓はしっかり閉めてねー。」

 

「ネイトさんもしっかりつかまってて!いっくよ―!」

 

この車両は特別仕様、ノゾミは列車の速度を上げてそのまま突っ込む。

 

すると、先頭部に装着されたブレードが砂を吹き飛ばし前方の視界が砂で覆われる。

 

「おっオイオイ、前見えないぞ!?」

 

「安心して!路線図はきっちりここに表示されてるから!」

 

「速度さえ守ってればー心配ナーシ。」

 

「後部座席、そっちはどうだ!?」

 

《ペッペッ!砂が少し入っちゃったわ!》

 

《お嬢が外なんか覗いてるからですぜ!》

 

《こっちはセリカちゃんが砂まみれになっちゃいましたけど大丈夫ですよぉ~♣》

 

どうやら少々トラブルはあったようだが運行には支障がないようだ。

 

ネイトもこの状況で戻るわけにはいかず操縦席に残ることに。

 

が、そのまま砂漠の上の線路をしばらく進んで行くと…

 

「…うん?」

 

「ノゾミー、どうかしたー?」

 

「なんか変な表示が出てきた…。」

 

「なに?」

 

ノゾミが不審がる様子を見せたのでネイトが手元を覗くと…

 

これより先『セクター35ー9』。進入制限地帯のため操作を制限する。

 

という警告文が表示されていた。

 

「セクター35—9?」

 

「ヒカリ、ちょっと調べて。」

 

「りょうかーい。」

 

ヒカリがどこからか路線図を引っ張り出し素早く調べると…

 

「この先はー『アビドス砂漠閉鎖地区』でー横断鉄道の分岐があるみたいー。」

 

「ヒカリ、例の地点に行くにはどうすればいい?」

 

「そこがーセクター35—9でー止まったほうがいいかもー。」

 

ヒカリがそう進言する間もなく…

 

「あぁ、勝手に操作が!」

 

どうやらシステムが作動し列車の速度が落とされていく。

 

そのまま速度はどんどん落とされていき…

 

「…ここがセクター35—9か…。」

 

「ボロボロー。」

 

まさに絵にかいたような廃駅である『セクター35—9』に停車するのであった。

 

「…仕方ない、一旦降りよう。」

 

「そうだね。帰るにしたって転換作業あるし。」

 

「御乗客の皆さまー一旦降りてー。」

 

このままではどうしようもないので一旦降りて周囲を捜索することに…

 

「ここは…。」

 

「どうかしたか、ホシノ?」

 

客車から降りたホシノがしきりにあたりを見回していると…

 

「…思い出しました。私、ここに来たことがあります。」

 

「えぇ、そうなの!?」

 

かつての記憶を思い出したようにそう呟いた。

 

それはまだユメがいた頃の話。

 

「ユメ先輩が歴代のアビドス生徒会長が作った『展示館』の資料を見つけたんです。」

 

「展示館…ですかぁ?」

 

「そこにはかつての貴重な展示品が収蔵されていてそれを手に入れて借金返済に充てようとのことでした…。」

 

「ん…でも、それならホシノ先輩より前の生徒会がもう売っちゃったり盗まれたりしてるんじゃないの?」

 

「あははっ私もそう言っていたんだよ、シロコちゃん。でもその展示館は一般には非公開の場所にあったらしくて…。」

 

「そこを見つけよう、とかつてのユメ先輩が?」

 

「見つけてきた資料も黒塗りばかりで内容なんてちっともわかんなかったけど…唯一分かったのが…。」

 

「このセクター35—9だった…ということか?」

 

「はい。」

 

過去を懐かしむように語るホシノだが…

 

「…で、その展示館は…!?」

 

「…うへ~見つけてたら借金は少し減ってると思うよ、セリカちゃん?」

 

「…そうよね。」

 

無邪気なセリカの質問にいつもの緩いホシノに戻った。

 

すると、

 

「みんなー、ちょっとこっちに来てー!」

 

駅舎を捜索していたノゾミがネイトたちを呼ぶ。

 

向かった先には…

 

「ここは…。」

 

「たぶん、アビドス砂漠横断鉄道の管制室…だと思うけど…。」

 

様々なレバーや無数のモニターが設置された一室があった。

 

「ヒカリ、操作できるか?」

 

「ダメー、ロックが掛かっててー私にも操作できないー。」

 

「ハイランダーの二人でも操作できないってどういう…。」

 

ここは鉄道、ハイランダーの縄張りのはずだ。

 

なのにそのハイランダーの幹部が操作できないとなると…

 

その時、

 

「当然だ。この路線自体はハイランダーの物ではないからな。」

 

入り口に凭れ掛かりつつスオウがそう声を発する。

 

「…どういうこと、監理官?」

 

「ここは『アビドス砂漠横断鉄道』の路線だ。発注元はかつての『セイント・ネフティス社』で施設使用権もそこが持っている。」

 

「…なるほど、ハイランダーはあくまで鉄道の管理運営を行う学校。新たな路線を引くには出資者が必要な訳か。」

 

キヴォトスの巨大なインフラである鉄道を握るハイランダー。

 

しかし、『独自の自治区』を持っていないという自治権の弱さという弱点もある。

 

そのため、鉄道の敷設…つまるところ領土の拡大のために他学区や私企業と手を組むことも少なくない。

 

現在、セイント・ネフティス社と業務提携しているのはそれが理由でもある。

 

そして…『アビドス砂漠横断鉄道』はセイント・ネフティス社が行った工事だ。

 

「つまり…ネフティスの権限があれば…。」

 

「この制限は解除され管制室も息を吹き返し先に進めるだろう。」

 

スオウはそう言いこちらに向き直り…

 

「…あとは分かるな、『ご令嬢』。」

 

真っすぐに彼女を見据える

 

そう、この場には彼女がいるではないか。

 

アビドス高等学校生徒会副会長にしてセイント・ネフティス社社長令嬢である…

 

「………。」

 

十六夜ノノミが。

 

「…分かりました、やってみましょう。」

 

「の、ノノミ先輩…。」

 

意を決したようにノノミは装置に近づく。

 

そこにはカードリーダーが設置されている。

 

そしてノノミが取り出したのは…彼女が実家から手渡されているクレジットカードである『ゴールドカード』だ。

 

それをカードリーダーに読み込ませると…

 

読み込み中…

 

とモニターに表示され…

 

『セイント・ネフティス社』の高位有資格者の認証を確認

アビドス砂漠横断鉄道の関連施設始動及び制限地域への進入を許可します

 

と文が変わると…モニターが一斉に点灯し制御装置にも電気が入った。

 

どうやらシステムがアクティベートされたようだ。

 

「やりました…!」

 

「ん…さすがノノミ…!」

 

「どうやらこの鉄道はまだセイント・ネフティスの所有物のようだな。」

 

「よぉーしあとはまっかせてー!」

 

こうなれば後はハイランダーである橘姉妹の出番である。

 

手慣れた様子で制御盤を操作していく。

 

「凄いね!この路線、アビドス市街地から砂漠のいろんなところやゲヘナまで続いてる!」

 

「うへ~大オアシス駅なんてのも出来てたんだぁ…。」

 

「…なるほどな。」

 

「あ、見てみてー。ここにも列車があってーそれでこの先にも行けるみたいー。」

 

「起動できますか、ノゾミさん?」

 

「パヒャヒャッこんなの楽勝だよー!」

 

そう言い、ノゾミはキーボードを叩き一番目立つ部分にあったレバーを押し上げると…どこからか踏み切り音のような音が鳴り…

 

「皆っ!別の列車が来たぞ!」

 

外にいた隊員からの報告で外に出ると…

 

「おぉー!また立派な列車だねー!」

 

ハイランダーが用意したラッセル車よりも一回り巨大な機関車が停車していた。

 

「よし、ヒカリにノゾミ。もうひと仕事頼むぞ。」

 

「りょーかーい。ではー、まもなく列車が出発しますー。御乗りの方はーお忘れ物なさいませんようにご注意くださいー。」

 

「『セタス部隊』全員乗車!俺たちはこれからアビドス未踏の地に踏み込む!全員気を引き締めろッ!!!」

 

『Sir, yes sir!』

 

ネイトの号令でホシノたちは整然とした様子で持ち込んだ装備や弾薬などを乗せ換えていく。

 

ネイトも指示を飛ばすだけでなく積極的に作業を手伝う様子を見て…

 

「フン、これではカイザーも形無しだな…。」

 

スオウもなぜカイザーが負けたかを理解する。

 

「こちらネイト、総員乗車完了した。」

 

《了解だよー。目的地まではーあと一時間の予定だよー。》

 

《それじゃ、アビドス砂漠渓谷地帯へ出発進行!》

 

こうしてネイトたちは列車を乗り換え…いよいよアビドス砂漠の渓谷地帯に突入するのであった。




Respice, adspice, prospice.
過去を考え、現在を考え、そして未来を考えよう
―――ラテン語の教訓
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