Fallout archive   作:Rockjaw

133 / 209
例えわたしは死の陰の谷を歩むとも、災いを恐れません
―――旧約聖書詩篇23篇—4


New Steel Giant Shadow

「うわぁ…アビドスにこんなところがあったなんて…。」

 

「ん…砂漠は見慣れてるけどこんな渓谷は初めて…。」

 

セクター35—9を超えなおも進むアビドス『セタス部隊』とハイランダーの一行。

 

目の前に広がるのは砂ではなく切り立った崖、アビドスではなかなか見れない風景にホシノ達も見入っているが…

 

「気を抜き過ぎるなよ。風化が進んでるから崖崩れを起こす危険だってあるんだからな。」

 

「ちょ、おっかないこと言わないでよ…!」

 

ネイトが気を引き締めるように声をかけた。

 

手には落石を粉砕するようにコンバットショットガンが握られている。

 

「ネイトさんはこんな風景見たことあるぅ?」

 

「行ったことはないが西海岸には『グランド・キャニオン』っていうシャーレのビルがすっぽり埋まるような平均1000m越えの深い渓谷地帯があったな。」

 

「せ、1000m以上の渓谷って想像つきませんね…!」

 

「もし落っこちたら例えキヴォトス人でも無事じゃすまないだろう。」*1

 

そんなお喋りを交わしつつも、

 

「ノゾミ、屋根の上に上りたいが大丈夫か?」

 

《この速度だったら飛んじゃう心配はないから平気だよ!》

 

「分かった。シロコと何人かはグレネードランチャーかミサイルランチャーをもって付いて来てくれ。」

 

「ん…了解。」

 

万が一に備え射線が確保しやすいシロコと数人の生徒を伴い屋根の上に陣取る。

 

「…こうして銃持って屋根の上に乗っかってるとまるで西部劇の用心棒だな。」

 

その様子にネイトが戦前に見た白黒の西部劇映画を思い出していると…

 

「そんな事言ってっと本当に強盗団に襲われますぜ、アニキ。」

 

「それも馬じゃなくてバイクに乗ってな。」

 

「ん…キヴォトスだと結構よく襲われてるらしいよ。」

 

そこはやはりキヴォトス、戦前アメリカでもめったに起こらないであろう列車強盗は日常茶飯事のようだ。

 

「そりゃハイランダーの列車に『ミートチョッパーM45四連装対空機関銃架』なんか乗せるわけだ…。」

 

かつて橘姉妹との初対面時に乗っていた装甲列車を思い出しなんとも言えない気持ちになるネイトであった。

 

「むしろ、ネイトさんの世界はハイランダーみたいな列車なかったの?」

 

「あるにはあったが…俺が生まれる100年前くらいには廃れて使ってたのは独裁国家の支配者くらいだ。」*2

 

「一国の独裁者の装甲列車って…とんでもなさそうだなぁ…。」

 

「ンなモン無くても親分にゃ『お袋さん』がいるじゃねぇか。」

 

「フフッ確かにな。」

 

警戒しつつ話をしながら列車は渓谷を進んで行く。

 

幸い、警戒していたような落石やここまで遠出してきた強盗団などとも出くわさず…

 

《ネイトさーん、そろそろ終点だよー》

 

いよいよ列車は渓谷最深部、アイボットが探知した地点付近までやってきた。

 

「了解、ヒカリ。ノゾミ、止まる時は一声かけてくれ。」

 

《乗客の安全を守るのも私たちの仕事だから言われなくても!》

 

「…の割には初めて乗った時に車掌が銃振りかざして襲いにかかっていってたが?」

 

ノゾミの言葉を聞きかつてのハイランダーの一般生徒の荒ぶる姿を思い出し尋ねると…

 

《それは無賃乗車の奴に対してでしょ?それはノーカンだよ、ノーカン!》

 

《お金払わず乗ってるのはー乗客じゃないよー。泥棒と一緒ー。》

 

《用務員、アンタもカイザーが支払いを渋って襲い掛かってきたから叩き潰したんだろう?》

 

橘姉妹だけでなく仲が悪いはずのスオウですら意見が一致した。

 

「それは言えてるな。支払い渋る輩は客じゃない。」

 

《うへー、ネイトさんは怖いよー。カイザーなんか味しなくなるまでしゃぶられ尽くしたのにまだ出汁とるために煮詰めてるんだからぁ。》

 

『アッハッハッハッハッ!』

 

ホシノのシャレの効いたカイザーの末路に笑うアビドス組と橘姉妹。

 

「まだまだ煮詰めるから安心しろ。さぁ、この先は鬼が出るか蛇が出るか分からない。気を引き締めろ。」

 

「ん…出るなら鬼がいい。蛇はもうビナーでお腹いっぱい。」

 

そんな風に軽口で答えているがシロコの目も鋭さが増している。

 

おそらくホシノ達も警戒度を引き上げているだろう。

 

そして…

 

《しゅーてーん。これより先にはお乗りになれませんのでーお降りになってくださーい。》

 

いよいよ渓谷地帯の最深部にたどり着いた。

 

「総員降車!」

 

ネイトの号令でセタス部隊全員が列車から降り周囲に展開。

 

ネイトもコンバットショットガンをスリングで提げ代わりにレーザーライフルを手に持つ。

 

さらに…

 

「橘ヒカリ、橘ノゾミ。お前たちも来い。」

 

「えぇ~私たち転換作業あるんだけど?」

 

「そんなのはあとでもいい。調査に向うぞ。」

 

「撃ち合いはー苦手ー。」

 

スオウとヒカリにノゾミも列車から降りる。

 

口ではそう言いつつ橘姉妹もおそろいのリボルバー拳銃『マニューリンMR73』の『チケット・パンチ』*3と『デッドリー・スイッチ』*4を抜く。

 

「それじゃ、ノゾミとヒカリを陣形の中心にして進むぞ。」

 

「おぉ―護ってくれるのー?」

 

「二人になにかあったら帰りが困るからね。」

 

「安心してください♪セタス部隊はとっても強いですから♠」

 

「こいつらも最低限自分の身は守れる。あまり甘やかさなくていい。」

 

「まーまー、ここまで連れてきてくれたんだからそれくらいはやらないとねぇ。」

 

「ホシノ、先頭に立て。セリカとノノミを筆頭に隊員は左右の崖上、アヤネはドローンで後方を。シロコ、俺と前衛だ。…行くぞ。」

 

『了解!』

 

「私も前衛に付こう。」

 

「分かった、スオウ。」

 

素早く立ち位置を決め一行は前進を開始。

 

砂漠を吹くものとはまた違うどこか涼しさを含んだ風が一行の間を吹き抜ける。

 

「アヤネ、反応までの距離は?」

 

「…あと500mを切っています。マップからみて道なりに行って構いません。」

 

「こぉんなとこにそんなおっきな何かがあるのかな?」

 

「鉄道以外人の手が入っていない場所なのにね。」

 

「本当にハイランダーに心当たりはないのかい?」

 

「言っただろう。ここはネフティスの領域だ。」

 

「帰ったらうちの資料を見てみる必要がありますねぇ…。」

 

場所としては寂れたアビドスの辺境も辺境。

 

こんなところにアイボットが何を見つけたのか、その答えがもうすぐわかる。

 

だが、その正体を見つける前に一行を出迎えたのは…

 

「な、何…ここ!?」

 

全くの想定外の光景だった。

 

眼前に広がるのはアビドスの校章が刻まれた石造りの建造物群。

 

さらにそこに…

 

「おい、これ…!」

 

「た、大砲に高射砲、対空機関砲まで…!?」

 

その至る所に武装やサーチライトなど後付けの改装が施されている。

 

「これじゃまるで…要塞じゃねぇか…!?」

 

そんな光景に圧倒される中、

 

「あ、見てください!あそこ!」

 

アヤネが指さした場所にアビドス古代文字が刻まれた石碑を見つけた。

 

「ちょっと待ってくれ。」

 

スマホを取り出しその石碑の写真を撮るネイト。

 

「ん…写真撮ってどうするの、ネイトさん?」

 

「ウイの翻訳データをデジタルに置き換えて画像から翻訳できるようにしたんだ。」

 

「…ネイトさんがどんどんキヴォトスの技術を吸収していってる。」

 

「人はな、進歩を止めた時に本当の『老い』が来るものだぞ?…ッと翻訳できた。」

 

翻訳が済んだ写真の画面にはこう表示されていた。

 

「『生徒会の谷』…。」

 

「…多分、この場所が…。」

 

「おじさんとユメ先輩が探してた場所…だろうね。」

 

名前からして間違いないだろう。

 

此処こそが…かつてのアビドス歴代生徒会長の展示館なのだ。

 

なのだが…

 

「でも…あの兵器や設備は一体誰が…。」

 

問題は明らかに年代が違う設備や兵器だ。

 

「ヒカリ、あぁいう大型兵器は詳しいか?」

 

「う~ん、装甲列車の装備で使うから少しはー。」

 

「少し手伝ってくれ。俺も多少は詳しいが知見は多い方がいい。」

 

「りょーかーい。」

 

ネイトはヒカリを連れ立って近場の建造物に設置されている大砲などの調査に向う。

 

「口径は210㎜…この短砲身は榴弾砲というより『臼砲』とかの分類が近いか…。」

 

「高射砲は88㎜のFlaK 41でー対空機関砲は20㎜のー砲弾は20×138mmB弾だねー。」

 

大口径砲こそ珍しい口径だが88mmの高射砲とこの弾種を使う対空機関砲を好んで扱う組織は限られる。

 

「…ゲヘナ製の兵器だな。」

 

「あそこで運行中のー装甲列車の兵装でー見たことあるねー。」

 

製造元は分かったが…アビドスに、それもこれほどの量の兵器が存在しているという大きな疑問はそのままだ。

 

「どだったぁ?」

 

「兵器はゲヘナ製で規模からしてあの学校が直接設置したものとみて間違いない。」

 

「お金も凄くかかるからー並みの学校じゃ絶対無理ー。」

 

「ん…どうしてゲヘナがこんなところにこれだけの兵器を…?」

 

「スオウ、横断鉄道の計画にゲヘナは関わっているのか?」

 

「私の知る限りでは聞いたこともない。そもそもアビドスを復興させる計画に他学区を関わらせて借りを作る意味がないだろう。」

 

「…どうするの、ホシノ先輩にネイトさん?明らかにこれはアビドスだけの問題じゃなくなっちゃったわよ。」

 

セリカの言う通り、これは明らかなアビドス学区への重大な侵犯行為だ。

 

真相を明らかにするのは急務であるが…

 

「…ここに来るにはノノミちゃんクラスの権限が必須なんだよねぇ?」

 

「はい、そのはずです。帰りに私がカードで施設を閉鎖すれば列車ではもうここには入れなくなるはずです」

 

「ノゾミ、ここに通じている路線はあの一本だけか?」

 

「うん、ここは元々支線だからあそこを通るしかここに入る方法はないね。」

 

ホシノとネイトは素早く情報を精査し…

 

「…よし、帰り際に線路にセンサーを設置しよう。ネイトさん、もしおじさんたちが帰ってからおじさんたちじゃない反応があったらすぐにここを吹き飛ばせるように手配お願い。」

 

「了解した。」

 

有事の際の対処を手早く決める。

 

「事の真相も確かめないといけませんね…。」

 

「そこらへんはマコトあたりに尋ねるとして…アヤネ、反応はどっちだ?」

 

「あの大きなゲート、そこを抜けた先が反応の大本です。」

 

何はともあれ…今はここの調査が先決である。

 

アヤネの言う巨大なゲートは目の前にありどうやら奥の空間へと続いているようだ。

 

その光景が…まるですべてを飲み込む怪物が大口を開けているようにも思えた。

 

「総員、前進するぞ。」

 

それでも立ち止まるわけにはいかない。

 

一行は警戒心を最大にしゲートをくぐり先に進んで行く。

 

正直、ここまででも想定外続きだ。

 

しかし…ネイトたちを襲った本日最大の驚愕は…門を抜けた先に鎮座していた。

 

暗闇になれた目が門を抜けた際に眩みしばし間を置き…

 

「なっ…!?なに、これ…!?」

 

「こっこんなの見たことない…!?」

 

「お…おっきいー…!」

 

ホシノ達はもちろん、動じる様子を見せないヒカリですら言葉を失っていた

 

それは『大砲』というにはあまりにも大きすぎた

 

大きく…

 

分厚く…

 

重く…

 

そして規格外過ぎた。

 

それはまさに『史上最大の列車砲』だった

 

「オイオイオイ…なんでこんな代物が…!?」

 

そして…ネイトはその威容に心当たりがあった。

 

「ね、ネイトさん…!これは…!?」

 

「間違いない…!『80cm列車砲』、世界が燃えた二度目の戦争で生み出された怪物だ…!」

 

『80㎝列車砲』、第二次世界大戦でドイツがフランスが建造した要塞線『マジノ線』攻略のために開発・実用化した世界最大の巨大列車砲だ。

 

その名の通り、40.6口径80㎝砲を主砲とし榴弾で4.8t、対要塞用徹甲弾『べトン弾』で7.1tもの規格外の砲弾を発射する。

 

史実ではフランス戦時は未完成だったが対ソ連戦における『セヴァストポリ要塞攻囲戦』にて1番砲『グスタフ』が投入。

 

同地にて猛威を振るっていたマキシム・ゴーリキ砲台*5に砲弾を直撃させ破壊している。

 

その後は目立った活躍はなく鹵獲を恐れたドイツ陸軍によって爆破処分された。

 

目立った活躍こそないものの『世界最大』の称号は100年以上後に生まれたネイトも知るところだ。

 

しかし…

 

「だが…こいつは違う…!」

 

「ち、違うって…どういうことですか…?!」

 

「俺が知ってる『80㎝列車砲』は…あれほどの副武装は搭載されていない…!」

 

その姿はネイトの知るものではない。

 

砲台基部がより強化され三連装砲が搭載され各所には高射砲にガトリング砲も搭載されている。

 

砲身も目測だが40mはあるだろう。

 

これではまるで『陸上戦艦』ではないか。

 

「アイボットが反応してたのは…間違いなくこれね…!」

 

「ん…見て…!あの大砲の側面…!」

 

「アビドスの校章と…ゲヘナの校章…!?」

 

「あ、アビドスとゲヘナがこれ造ったってんですかい…!?」

 

さらに一同に衝撃を与えたのがアビドスとゲヘナの二つの校章だ。

 

つまり…かつてのアビドスはこの列車砲の存在を把握しゲヘナに建造のためこの地を貸し与えていた…という可能性が浮上。

 

「…ネイトさん、指示を。」

 

「…よし、アヤネ・ヒカリは俺と一緒にあの大砲の調査だ。」

 

「はい!」

 

「りょーかーい…!」

 

「スオウ、ノゾミ。アレの機関部を調べてくれ。いいか、絶対に弄るなよ。」

 

「分かったよ、ネイトさん!」

 

「了解した。」

 

「他の面々は周囲を探して紙切れや壊れた端末、何でもいい。手掛かりになりそうなものを片っ端から集めてくれ。」

 

『了解!』

 

ともあれ真相を確かめるほかない。

 

役割分担をし一行は周囲に散らばり情報収集を行う。

 

「全長50mで全幅7.1mの全高は16.2m…砲身長は44m…!こんなものが本当に線路の上を…!?」

 

アヤネはドローンに『F・ハカール君Jr』を装着させこの列車砲の詳細な諸元を計測、

 

「見てみろ、この三連装砲。この仕組みは『陸』の砲じゃない。間違いなく『艦艇用』の速射砲だ…!」

 

「高射砲もー…10.5㎝ー…。装甲列車にもーこんなの乗せれないー…。」

 

「そのほか至る所に37mm機関砲に機関銃座…。こんなのが火を噴いたら小規模な学区は一時間で瓦礫の山だぞ…!」

 

ネイトとヒカリは再びそれぞれの知識を動員し列車砲の兵装を確認。

 

中でも驚かされたのは…

 

「こんなおっきな砲弾―見たことないー…!」

 

「あぁ…俺とヒカリが合わさったより大きいだろう…!」

 

至る所に無造作に放置されている主砲弾だ。

 

全長は…およそ6m。

 

榴弾であろうが…構造は普通の砲弾ではない。

 

「…見てみろ、ノズルがついてる。コイツはRAP…『ロケット推進弾』だ…!」

 

「燃料はー固形燃料みたいだねー。」

 

「分かるのか?」

 

「たまにー速度が欲しいときはー燃料にヒドラジン混ぜるからー。」

 

「………今回は持ってきてないよな?」

 

放置されている砲弾のほぼすべてにロケットが取り付けられ射程が伸ばされたものばかりだ。

 

80㎝列車砲の射程は榴弾で48㎞、べトン弾で38㎞とされている。

 

そこからさらに砲弾に見合った量のロケット燃料が搭載されているとすると…

 

「射程は…数百㎞は行くだろうな…。」

 

「それはもうーミサイルー…。」

 

最早それは大砲のそれを凌駕するものになる。

 

「しかし…列車砲か…。」

 

「どうかしたのー?」

 

「…またヒカリたちに仕事を頼むかもしれないな、と思ってな。」

 

一方、機関部の調査を任されたノゾミとスオウは…

 

「うひゃー…!これ、牽引式じゃなくてこれ自体が自走するの…!?」

 

「そんなことが可能なのか、橘ノゾミ?」

 

この化け物が自らの意志で線路を疾走できる可能性に驚愕していた。

 

「うん、上の砲台とは別に線路に設置されている部分。ここがそれぞれ超高馬力の機関車になってるみたい…!」

 

「うちで扱う機関車と比べてどうだ?」

 

「……これだけ大きい機関部なら『大型貨物船』動かすような馬力だね。」

 

「動かせるのか?」

 

「機関部は出来上がってるみたいだけど…動くかどうかは…。」

 

機関士として一流の技能を持つノゾミですら舌を巻く高出力な動力車。

 

それと同時に長年放置されていたせいか至る所に劣化が見られ動くかどうかは不明だった。

 

「ネイトさんの言うように弄らない方がいいよ。下手したらエンジンが吹っ飛ぶからね。」

 

「分かった。一先ず出よう。お前が勝手に動かさないうちにな。」

 

あらかた調べ終わりそそくさと機関室を後にするスオウ。

 

「こんなおっかないの動かせたって動かしたくないよーだ。」

 

ノゾミもぶー垂れながらその後に続く。

 

そして…

 

「ノノミちゃ~ん、そっちはど~ぉ?」

 

「めぼしいものはありませんねぇ…。」

 

周囲の捜索に当たっていたホシノ達は難航していた。

 

「PCどころか紙の一枚も出てこないなんて…。」

 

周囲の廃墟や洞窟などを片っ端から調べるがこの列車砲に関する資料が一切出てこない。

 

「ん…どこかに飛んで行っちゃったのかも。」

 

「だとしてもあんまりにも無さすぎやしやせんか、姉貴。」

 

確かに長い間人が立ち入った痕跡がない場所だ。

 

資料がどこかに紛失していてもおかしくないが…それにしても『綺麗すぎる』。

 

ネイトの話では廃墟区画の防衛室の施設は夜逃げしたかのような荒れようだったらしい。

 

「慌ててこっから出てった…訳じゃなさそうっすね。」

 

「計画が中止…もしくは完成したから撤収したのかなぁ?」

 

「だったら資料を残していくわけねぇっすよねぇ…。」

 

アビドスとゲヘナが秘密裏に進めていたであろう計画だ。

 

表沙汰になるのは避けたいはずだ。

 

となると…

 

「…ノノミちゃん、またちょっと頼まれてくれなぁい?」

 

「分かりました。横断鉄道関連の資料を探してみます。」

 

もう一つ関与しているであろう組織『セイント・ネフティス社』を調べるよりほかない。

 

砂漠横断鉄道はノノミが生まれるか生まれないかの時代の計画だ。

 

彼女も知らない何かしらがある可能性がある。

 

こうして、各々一通りの調査が終わり…

 

「行くぞッ!起ばーくッ!!!」

 

ネイトは持参した爆薬で列車砲に繋がる線路を爆破し簡易的ながらも列車砲を無力化する処置を行った。

 

「ネイトさん、列車砲は解体したりしなくていいの?」

 

「アレは立派な証拠だ。どうこうするのは真相が分かってからでも遅くはない。」

 

「万が一のために『ビーコン』も設置してるからピンポイントでたたき込めるよぉ。」

 

「…それじゃ一旦帰還しよう。二人とも、帰りも頼んだ。」

 

「まっかせてー!」

 

「私達のでばーん、パートツー。」

 

集められるだけのデータは得られた。

 

ここから先の調査は帰った後に行うことに。

 

「スオウも今日は協力してくれて感謝する。」

 

「用務員、アンタといると飽きないな。」

 

「それで眼帯ちゃーん、これの報告に関してだけどねぇ。」

 

「(眼帯ちゃん?)…分かっている。いつまでもは無理だが少しの間は誤魔化しておこう。」

 

ハイランダーとしてもこの列車砲は寝耳に水だ。

 

馬鹿正直に報告すればどんな事態になるか分からない。

 

しかも、ハイランダーは部署間の対立が激しい。

 

この列車砲を手に入れようと各派閥が我先にとここに押し掛けかねない。

 

つまりそれはアビドスと一戦交える可能性をはらんでいることだ。

 

列車砲を手に入れる前に叩き潰されることは目に見えている。

 

「橘ヒカリに橘ノゾミもいいな?ここで見たことは口外厳禁だ。」

 

「分かってるよ、監理官。私達だってアビドスと戦いたくないし。」

 

「ネイトさんとーアビドスとはー仲良くしたいからねー。」

 

それは橘姉妹も理解しているようで情報の秘匿に同意してくれた。

 

「じゃあ、皆早く乗ってー!」

 

「セクター35—9まで―出発―。」

 

こうして、アビドスとハイランダーの合同調査はまた新たな謎と脅威を発見し幕を閉じるのであった。

―――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

さて、そんな合同調査の翌日…

 

「なるほど…そんな代物がアビドス砂漠の奥地に…。」

 

「詳細は話せないが…ゲヘナの関与は間違いないだろう。」

 

「兄さんがいきなり訪ねてきて驚いたけど…確かに由々しき事態ね。」

 

ネイトの姿は便利屋68のオフィスにあった。

 

「こちらでも調べているがアビドスが根拠地の俺達じゃ調べるのにも限界がある。」

 

「そこでぇ~私たちの出番って訳だねぇ、ネイトお兄ちゃん♪」

 

「あぁ、便利屋なら表立って知られていないゲヘナの情報も探れると思ってな。」

 

そう、いまでこそアビドスに社を構えているがアル達便利屋68の社員はゲヘナ生徒だ。

 

アビドスの自分達よりもゲヘナのことを探るのは容易と、ネイトは考えたのである。

 

「そっそういえばビナーについての調査はどうなっていますか、ネイト兄様?」

 

「比較的順調だ。皮肉なことにソレを見つけたことで奴を仕留める算段が立てられるようになったな。」

 

「戦いのときは私達にも声をかけてね。便利屋68総力を挙げてアビドスに助太刀するわよ。」

 

「…あぁ、その時はぜひ頼らせてもらおう。」

 

まだ計画段階であるというのにビナー討伐の参戦を確約するアル、

 

「約束だよぉ?もし黙って始めちゃったらお仕置きしちゃうからねぇ~♪」

 

「わっ私も全力で兄様たちの力になりますっ!ビナーなんか吹っ飛ばしちゃいます!」

 

ムツキとハルカも躊躇なくネイトたちの力になってくれると宣言してくれた。

 

「…フフッ相変わらず頼もしい義妹たちだ。」

 

アビドス独立戦争の時もこうだった。

 

彼女たちは1も2もなく自分たちのもとに駆け付け最初から最後までともに戦い抜いてくれた。

 

「アル達みたいな兄妹を持てて俺は幸せ者だよ。」

 

そんな子たちとここまで強い絆を結べた幸運にネイトは感謝するしかない。

 

「なっ何よ。急に改まって…。///」

 

「くふふ~♡アルちゃんったら顔真っ赤~♪」

 

「そ、そんなことないわよ!それに兄妹なんだから困ってる時に助けるのは当然でしょ!?」

 

「そんなこと言って~お兄ちゃんに『家族』ができた時に一番驚いてたのアルちゃんじゃ~ん♪」

 

「ム~ツ~キ~ッ!それは内緒って約束でしょ~!」

 

「キャ~♪」

 

と、ムツキがアルを揶揄い追いかけっこを始める一方、

 

「そう言えばカヨコは留守なのか?」

 

「はっはい、今はお気に入りのバンドの新作CDが出るらしく外出してます。」

 

「そうか。まぁいつでも会えるしいいか。」

 

ハルカにここにいない参謀役のカヨコのことを尋ねてからネイトは席を立ち、

 

「それじゃ調査の件は頼んだぞ。報酬に関しては経費込みで請求してくれ。」

 

「わっ分かりました!」

 

「アル、ムツキ。仲良く喧嘩するのもいいがしっかりな。」

 

「バイバ~イ、ネイトお兄ちゃん♪」

 

「ま、任せなさい!」

 

今一度調査の件を頼み便利屋のオフィスを後にするのであった。

 

オフィスを出て階段を下りていると…

 

「あれ?ネイト兄、来てたんだ。」

 

「よぉカヨコ。」

 

ちょうど買い物帰りのカヨコと鉢合わせた。

 

「ちょっと調査の依頼でな。」

 

「ふ~ん、砂漠のビナーってやつについて?」

 

「いや、それとはまた別件だ。詳しくはアルに聞いてくれ。」

 

「分かったよ。今度来た時はコーヒー淹れてあげるから。」

 

「おっ、それは楽しみだ。じゃあな。」

 

「うん、またね。」

 

用件はすでに済ませてるので短く言葉を交わし二人は分かれる。

 

「ただいまー…て何やってんのさ、アルにムツキ?」

 

オフィスに入るとまだあるとムツキは追いかけっこをやっていた。

 

「おかえり、カヨコ!ちょっと待ってて。ムツキ直ぐに捕まえるから!」

 

「あっお兄ちゃんに会ったぁ、カヨコちゃ~ん?」

 

「そこでね。ハルカ、調査依頼だったらしいけど何があったの?」

 

まだ追いかけっこは終わりそうにないのでカヨコはハルカに依頼内容を尋ねる。

 

「ネ、ネイト兄様がアビドス砂漠の奥地で変わったものを見つけてそれの調査を依頼されました。」

 

「変わった物?」

 

大概のことなら自分たちで解決してきたネイトがわざわざそれくらいで自分たちを頼るだろうか?

 

「他には何か言ってなかった?」

 

「詳細はまだ言えないそうでしたが…。」

 

さらに情報を得るため質問を続けるカヨコだが…

 

「なんでも…ゲヘナのエンブレムが刻まれた兵器を見つけたらしくて…。」

 

ハルカからその言葉を聞いた瞬間、

 

「~ッ!?」

 

カヨコの目が見開かれ総毛立った。

 

「か、カヨコ課長…?!」

 

「…ごめん、また少し出るよ。」

 

心配そうに見つめるハルカにそう断ってカヨコはまたオフィスから出ていく。

 

所変わって…ゲヘナ風紀委員会。

 

「はぁ~…全く終わりませんね…。」

 

書類の山の中でそれらを捌きながらも愚痴る行政官の天雨アコ。

 

「アコ、口より手を動かして。」

 

そんなアコを窘めつつ次々に書類を捌いて行っている委員長である空崎ヒナ。

 

無論これらは風紀委員会関連の書類ではあるのだが…

 

「しかし、ヒナ委員長!今日もまた万魔殿の仕事ばかりじゃないですか!」

 

「今に始まった事じゃないわ。それに内勤の委員を増員したのだからまだ楽になった方よ。」

 

半分近くは万魔殿、さらに細かく言うとマコトが嫌がらせとして風紀委員会に押し付けた書類だ。

 

さらにここに不良生徒の制圧や拘束などの業務も加わりゲヘナ風紀委員会は毎日多忙を極めている。

 

「現場は何とかなってるんだから私たちが仕事できるうちに終わらせないと後が面倒よ。」

 

だが、これでも以前と比べるとまだマシなのだ。

 

(クッ…!まさかあの野蛮人たちに借りを作ってしまうなんて…!)

 

アコは内心苦虫を噛み締めた表情を浮かべるが紛れもない事実だ。

 

以前のヒナとホシノ・ネイトとの会談の際に支払われた謝礼金。

 

これによって貧困に苦しんでいた風紀委員会は何とか持ち直せ活動も活発化させることに成功。

 

さらに供与されたカイザーからの鹵獲兵器の数々。

 

万魔殿の嫌がらせによって普段から予算を削られていた風紀委員会には喉から手が出るほど欲した装甲車などの装備は不良生徒の制圧などに大いに活躍。

 

余程の相手でもない限りヒナが出撃し鎮圧、という事態は少なくなった。

 

ヒナの業務も軽くなり良い事なのだが…

 

(納得できません…!どうして皆、あれだけ痛めつけてきたあの野蛮人に…!)

 

アコはずっと腑に落ちないでいた。

 

あの日以来、風紀委員会は変わってしまった。

 

多くの生徒は未だ深い心の傷を抱え現場に戻れないものも少なくない。

 

可愛い後輩も…数少ない休みは罰としての奉仕活動で奪われている。

 

かくいう自分も外出も制限されできたとしても万魔殿の監視付きだ。

 

(ヒナ委員長の雰囲気が柔らかくなったことだけは評価しますが…。)

 

ヒナもあれからかなり変わった。

 

風紀委員長としての風格はそのままだが…学友と言葉を交わす頻度は確実に増えた。

 

さらには現場に出てもいきなり自分が動くのではなく委員の判断に任せ必要な時は力を貸すという方針をとるようになっている。

 

結果として風紀委員会の空気は軽くなり、

 

「委員長、ここの所ですが…。」

 

「そこは…。」

 

一般風紀委員もヒナに声をかけやすくなりコミュニケーションが盛んになっている。

 

いいことづくめのようだが…

 

(どうして…どうしてこんなに胸が…。)

 

アコはそんな風紀委員会に居心地の悪さを感じてしまっていた。

 

…その時、アコのスマホに着信が入る。

 

「すみません、委員長…。」

 

「構わないわ。」

 

ヒナに断りを入れ画面を見ると…

 

「え?」

 

そこに表示されていた名前に固まる。

 

「少々席を外します。」

 

一旦その場から離れ…

 

「…あらぁまさか貴女から連絡が来るなんて明日は砲弾でも降るんでしょうか?」

 

かつての慇懃無礼な口調となって電話に応じる。

 

相手は…

 

《はぁ…。アコ、しばらくだね。》

 

便利屋68室長の鬼方カヨコだ。

 

「えぇ、ご無沙汰してます。こうして会話するのは『あの日』以来でしょうかぁ?」

 

なんとも嫌味な言い方で返すアコだが…

 

《それに関してはこっちは一切謝るつもりはないよ。10:0でアンタたちが悪いしそのくらいですんでむしろラッキーだったのは理解してるでしょ?》

 

カヨコもきっぱりと切り返す。

 

事実…ネイトが本気で風紀委員会を潰すつもりだったなら被害はあんなものではなかっただろう。

 

「…フン。それで?わざわざあなたが私に電話を掛けてくるとはどういう風の吹き回しですか?あっ、ひょっとして出頭のご相談ですかぁ?それなら風紀委員会はいつでも貴方方を捕縛しにまいりますのでいつでもご相談を…。」

 

不利を察したか、アコは話題を変えつらつらと嫌味を並べていくが…

 

《…いい、用件が用件だから端的に言うよ。》

 

カヨコはそんな彼女の言葉を無視し…

 

《『奴』の遺産が見つかったかもしれない。》

 

「…え?」

 

その言葉を発した途端、アコのマシンガントークは止み呆気にとられるのであった。

 

その後、

 

「………分かったわ。私はこれから万魔殿へ向かう。あとのことはよろしくね。」

 

「行ってらっしゃいませ、ヒナ委員長。」

 

アコからの報告を受けたヒナは単身不俱戴天の仇である万魔殿へと向かうのであった。

*1
ジョシュア・グラハムは除く(Fallout: New Vegasより)

*2
現在のユーザーはお隣の半島の北の将軍様が使っているのが有名

*3
ヒカリ

*4
ノゾミ

*5
前大戦の弩級戦艦用主砲を装甲を強化した最新式砲塔に搭載した12インチ連装砲が二基配備されていた




呉越同舟
―――中国春秋時代の故事成語
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。