―――漫画家『やなせたかし』
温泉開発部との戦闘後、ネイトたちはヒナが手配してくれた風紀委員会の公用車に乗り込み万魔殿へと向かっていた。
道中、ヒナからゲヘナに来てからの行動などの聴取を受けていたが…
「…そう、美食研究会も貴方の仕業だったのね。」
まさか美食研究会とも出会い片手間に一網打尽にするお膳立てをしていたことには目を見開いていた。
「フウカさんが誘拐されていたのでネイトさんが救出したんですよぉ。」
「そ、その時にムツキ室長の鳥もち爆弾を仕組んだそうです。」
「迷惑だったか?」
「いいえ。むしろあの美食研究会を手玉にとれる人がいることに驚いてるわね。」
「…そんなにか?」
正直、ネイトの美食研究会に対する印象はまともな『食事』の礼をすればかなり御しやすい集団だが…
「何度捕まえても懲りない連中なのよ?どうやって言うこと聞かせるか知りたいくらいだわ。」
「だから言ったでしょ。兄さんが美食研究会を手懐けすぎてるだけのよ。」
「あいつら普段絶対あんなすんなり引き下がらないからね?」
ヒナはおろかアル達にまで若干呆れ気味にネイトと美食研究会との関係性の特殊さを指摘する。
「…ねぇ、たまにこちらに来て風紀委員会を手伝っては…。」
自分達でも対処に苦慮する問題児たちを制御し容易く仕留めるネイトの腕前。
風紀委員長として見逃せない逸材だが…
「よその学区の会社の社長をヘッドハンティングするんじゃない。」
自分は生徒でもなければゲヘナの人間でもない。
今回のことは本当にたまたまであてにされては困る。
「そう、それは残念ね。」
ヒナも話のネタのつもりだったのであっさり引き下がる。
「それにしても…やはりゲヘナは魔境だな。あんなぶっ飛んだ部活があって三年生が二人も仕切り役とは…。」
しかし、ネタとはいえヒナにそこまで言わせる温泉開発部。
聞いた話ではゲヘナ最大規模の部活であれでも部員全員ではないらしい。
そのトップがあのカスミとメグ、一癖二癖では足りない曲者だ。
今回はあちらが油断していたので楽に対処できたが…。
と、そんなことを呟くネイトだが…
「三年生?部長の鬼怒川カスミは二年生よ?」
「………え?」
「あれ?ネイトお兄ちゃん、知らなかったの?」
まさかの真実を聞かされ今度はネイトがあんぐりとした。
「…空崎ヒナ、君は三年生だよな?」
「そうよ。」
「奴が三年生になったら卒業だよな?」
「留年しなければね。」
それらの質問をヒナに問いかけ…
「………大丈夫なのか?」
純粋に心配な気持ちで最後にこう尋ねた。
それに対し、
「………大丈…夫よ、きっと…。」
ヒナは詰まりながら答えるのであった。
強さはさておきカスミは交渉や扇動に長けた狡猾な知能犯だ。
言ったら悪いが…直情的なイオリとの相性は最悪だろう。
そんな二人がヒナ卒業後もこのゲヘナに残る。
その結果は…
「…週一回はW.G.T.C.主催の実戦訓練をやっている。鍛えてほしいなら来させても構わない。」
隣接するゲヘナの治安悪化はアビドスのそれに直結する。
将来的な脅威を未然に防げるのなら協力することは決して損ではない。
「声は掛けておくわ…。」
ヒナも後輩が成長してくれるのであればそれに越したことはない。
それがアビドスを育て上げた訓練ならばなおさらだ。
「…あれ、ひょっとして今結構まずい話進んじゃってる?」
と、アルがはたと気付いた。
自分たちもネイトに鍛えられて強くなった自覚はある。
それがゲヘナ風紀委員会も参加するとなると…
「だったらお前たちもさらに強くなればいいだろ、義妹よ。」
「あっさり言わないでよ、兄さん!?」
なんとも脳筋な解決策を出すネイトに突っ込むアルだが…
(元から私が出動しなければイオリ達にも負けないことを忘れているのかしら…?)
戦闘能力において便利屋68はゲヘナトップクラスを誇っていることを知るヒナは彼女を不思議そうに眺めるのであった。
そんな会話をしているうちに…
「委員長に皆さん、万魔殿に到着しました。」
車は会談場所である万魔殿の庁舎に到着。
「わぁ…ここが万魔殿ですかぁ…。」
目の前に聳えるバロック様式の白亜の巨大な高層建築物。
トリニティでみた歴史ある建築物とはまた違った荘厳さを醸し出している。
「構造は国会議事堂に近いが…豪華さはこっちが上だな…。」
「権威をひけらかしたいだけよ。さ、中に入りましょう。」
「まさか私たちが万魔殿に入る日が来るなんて…。」
ヒナは見上げるネイトやアル達を促し建物の中に入っていく。
このまますんなりマコトを交えた会談が行われるかと思いきや…
「さっき外出したですって?」
「はい、まだ『時間があるから代わりのプリンを買ってくる』と言って先ほど…。」
「…また勝手に『あの子』のを食べたのね、マコト。」
なんと肝心のマコトは外出中とのこと。
「彼らをここに連れてくると連絡を入れていたはずよ?」
「それがかなり慌てて出ていかれたようでおそらく耳に届いてなかったかと…。」
「はぁ…全く…。」
自分から招いておいてこの始末にヒナも呆れるしかない。
「…ごめんなさい、ネイトさんに十六夜ノノミ。」
「いいさ、待たせてもらえばいいだけだからな。」
「早く来てしまったのは私たちの方ですから大丈夫ですよぉ。」
謝る彼女にそう軽く返すネイトとノノミ。
事実、時間まではかなりあるのに事情があったとはいえやってきたのは自分たちの方だ。
マコト側の準備ができていなくても責めることはできない。
「ヒナもアコを呼んできたら?アイツも一応参加するんでしょ?」
「…そうね。申し訳ないけど彼らをロビーで待たせててもいいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「ありがとう。じゃあ、私はアコを呼んでくるわ。」
カヨコの提案でヒナも参加者の一人であるアコを呼ぶため一旦この場を後にすることに。
「…しかし、あのマコトがプリンとはな。」
「なんだ意外ですねぇ。」
「会談のお菓子にでも出すのかしら?」
「でも、慌ててっていうのは変じゃない?」
ネイト一行はロビーに合った待合スペースのソファに腰掛けおしゃべりしつつ二人を待つことに。
「というか…あの行政官も参加するっていうのは聞いてないぞ、カヨコ。」
「ごめん、ネイト兄。でも、アコもこの学校の幹部クラスの3年生だからいなくちゃダメなの。」
「それはそうだろうが…。」
カヨコの説明にも理解は示しているが…
「や、やっぱりネイト兄様はアコ行政官のことが…?」
「はっきり言うとあまり関わり合いたくない。」
ネイトの中のアコに対する評価はほぼ最低ランクだ。
これはどれほどかというと…ニヤニヤ教授やプレジデントより上で黒服未満と言えばどれくらい良く思っていないか分かるだろう。
あれほどの大騒動を権力を乱用して引き起こし自分は遠くゲヘナでふんぞり返っていたともなればさもありなんである。
イオリに関しては砲撃の是非はともかく現場を指揮し最後まで戦っていたのでまだ評価はいい方だ。
「まぁ、今回は非公式とはいえ会談だ。私情は分けるさ。」
「それは助かるけど…。」
「問題はあっちが私情抜きで話せるかなのよね…。」
「会談が滞りなく進んでくれるといいですねぇ…。」
と、若干テンション下降気味でおしゃべりしていると…
「…ん?」
「どうかしたの、ネイトお兄ちゃん?」
「あの子は?」
「え?」
ネイトの視線がある場所に注がれた。
ここはゲヘナ学園、アビドスと同じ『高等学校』だ。
ここにいるのは最低でも15歳の生徒のはずだ。
が…
チラッチラチラッ
「わー…!」
少し離れた柱の影からこちらを窺う万魔殿の制服を着た少女は…どう考えても高校生には見えなかった。
「あの子は?」
「万魔殿の関係者のようだけど…。」
「ホシノ先輩より小っちゃい子ですねぇ…。」
アル達もどうやら初めて見るようで全員首を傾げている。
「ほら、そんなとこで隠れてないでこっちにおいで。」
そんな彼女をネイトは手招きして呼ぶと…
「いいのっ?!わーい!」
彼女は喜んでこちらに駆け寄ってきた。
見るとコウモリのような翼と絵にかいたような悪魔のような尻尾が生えている。
「やぁ初めまして、お嬢ちゃん。」
「初めまして!イブキはゲヘナ学園一年生の『丹花イブキ』っていうの!」
「イブキか。よろしくな。」
「よろしくおねがいします!あなたがマコト先輩が言ってたお客様のしゃちょ~さん?」
「ネイトって言うんだ。君の言うように社長を務めている。」
「イブキ、ヘイローのない大人の人初めて見た~!」
どうやら彼女『丹花イブキ』はネイトのことを聞いていたようだ。
先程の行動は好奇心旺盛故の行動だったのだろう。
「だからさっき隠れながら見てたのか。」
「うん、優しい人でよかったぁ~。お隣のお姉さんはアビドスの人~?」
「初めまして、私は十六夜ノノミって言います。アビドスでは副生徒会長を務めていますよぉ。」
「副生徒会長!すごぉい!」
「そんなことはないですよぉ。それでイブキちゃんは…高校一年生なんですよね?」
ノノミも軽い自己紹介を終え気になっていたことを尋ねると…
「うん!イブキは11歳なの!」
やはりというべきかまだ中学生どころか小学生の年齢ではないか。
「なるほど、飛び級か。」
「うん!マコト先輩がゆ~しゅ~だからってイブキを万魔殿のぎいんにしてくれたんだ~!」
「それってとても成績がいいって事よね…?!」
「さして珍しい話でもないがな、俺にとっては。」
キヴォトスではなかなか聞かないがネイトにとっては飛び級というのはそこそこ身近な存在だった。
「ね~ね~ネイトさん達は何してるの~?」
「あぁ、マコトが呼んだんだがいま出てるらしくて待たせてもらってるんだ。」
「じゃ~イブキと遊ぼ~!」
イブキはそう言い、ネイトの腕を引っ張りおねだりを始めた。
「ね~マコト先輩が来るまでならいいでしょ~?」
「くふふ~懐かれちゃったね、ネイトお兄ちゃん♪」
「フフッ、アリスが見たら嫉妬しちゃいそうだね。」
「茶化すな、ムツキにカヨコ。…分かったよ、マコトが来るまでならいいよ。」
マコトが戻って来る様子がまだないのでネイトはイブキのおねだりを了承。
「やった~!なにして遊ぼっか!?」
「それじゃ…イブキがやった事ない遊びでもやろうか。」
――――――――――――――
――――――――
―――
ゲヘナの街中を万魔殿へと猛進するティーガーⅠが一輌。
名を『『超無敵鉄甲虎丸』というが…
「全く…何やってるんですか、マコト先輩。」
乗っているのは運転手である万魔殿戦車長のイロハと、
「キシシッそう言うな、イロハ。虎丸の足がなければ会談の時間にもイブキが帰って来るのにも間に合わなかったんだ。」
いつものように偉そうにふんぞり返っているマコトだった。
「それにしたって何度目ですか、イブキのプリンを間違って食べちゃうの?」
「うぐッ…えぇいうるさい!詫びに高級店のプリンを買ってきたのだ、イブキも許してくれるはずだ!」
そう、マコトが慌てて飛び出したのはイブキのプリンを食べてしまったことの証拠隠滅のためだ。
彼女はイブキをまるで『妹』のように『溺愛』している。
それはもう蝶よ花よといった具合に。
が、基本は調子に乗り浅慮な部分もあるのでしょっちゅうイブキが用意していたプリンを間違って食べてしまっている。
そのたびにイブキのご機嫌を直すためにこうして高級プリンを買いに行っているのだ。
「しかも今日はまだイブキのおやつの時間まで猶予はある!このプリンを冷蔵庫にしまっておけばバレずにイブキも大喜びというわけだ!」
「上手くいくといいですね。…ッと、そろそろ到着しますよ。」
そうこうしているうちに戦車は万魔殿の駐車場に到着。
「さぁ、あとは冷蔵庫にこのプリンをしまえば万事解決だ!」
「…アビドスとW.G.T.C.との会談のこと忘れてませんよね?」
「無論だ!そっちも時間に余裕が…。」
虎丸から飛び降りて建物内へと急ぐマコトだが…
「な…何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!?!??」
立ち止まり絶叫する。
「どうしたんですか…ってあらら…。」
イロハも何事かとみると…納得したような声を上げる。
万魔殿の入り口…そのわきにある芝生で…
「いっくよ~!エイッ!」
今しがた話題に上がったイブキが…
「わぁ、上手ですねぇ!これで20点目ですよぉ♪」
「やったぁ~!」
「ネイト兄さん、追い抜かれちゃったわね。」
「これはうかうかしてられないな。」
会談予定のネイトとアビドスの代表者のノノミ、護衛である便利屋68の面々と仲よく遊んでいるではないか。
見ると…少し離れた場所に建てられた棒に向って湾曲した物を投げている。
「いっイブキイイイイイイイ!??」
「あっマコト先輩だ~。」
「ッと、やっと戻ってきたか。」
慌ててマコトはイブキの元に駆け寄り、
「平気か、イブキ!!?そいつらに変なことはされていないだろうな!?!」
屈んで彼女の肩を掴み身の安全を尋ねる。
「うぅん、マコト先輩が戻ってくるまで遊んでもらってたの~!」
対するイブキは満面の笑みを浮かべて答え、
「見て~、お馬さんのお靴を投げて競争するんだ~。」
手に持った湾曲した金属の棒を見せる。
『蹄鉄投げ』、要は輪投げの一種で決められた回数投げて点数を競う遊びだ。
アメリカでは子供から大人まで根強い人気を誇り競技協会まで存在している。
「こうして直に顔を合わせるのは初めてだな、羽沼マコト。」
「…あぁ、ネイト社長。今日はゲヘナによく来たな。イブキと遊んでくれて…感謝する。」
「彼女、良いセンスしてるぞ。初挑戦でここまで競られたのは初めてだ。」
変なタイミングではあるがネイトと落ち着きを取り戻したマコトは初めて握手を交わす。
「ふむ、実物は意外に小さいのだな。」*1
「よく言われる。それで…。」
「どうかしたのか?」
「…あれ、大丈夫なのか?」
「あれとは何の…。」
ネイトに尋ねられ視線を追いかけて背後を見ると…
「あ~ぁ…。」
そこには無残に地面に落ちた紙箱があった。
「そ、そんなあああッ!!?!??」
イブキのご機嫌のために用意した物がまさかの台無しになってしまい絶望するマコト。
「マコト先輩、あれ何~?」
「えッ、いっいやあれはだな!」
イブキに尋ねられるが答えるわけにはいかない。
もし答えようものなら…100%泣かれる。
だが、答えず誤魔化してもこの後100%泣かれる。
「………あぁ~、なるほど。」
紙箱とマコトの反応を見比べネイトは何かを察した。
「…そうだ、思い出した。イブキ、これを君に預けよう。」
そう言い、一計を案じネイトは今しがた潰れた紙箱よりも一回り大きいものを取り出した。
「これなぁに~?」
「この後、マコトたちと話し合うときに出してもらおうと用意していた俺がアビドスで一番おいしいと思う喫茶店で買ってきたケーキの詰め合わせだ。」
「ケーキ!?こんなにたくさん!?」
紙箱を渡され中身を想像しイブキの目が輝く。
「これを…カヨコ、参加者は何人になる?」
「えぇっと…私達を含めると10人かな。」
「分かった。じゃあこれを皿に取り分けてきてもらえるか?もちろん、イブキの分もあるから好きなのをとりなさい。」
「は~い!」
ネイトから重要な役目を任されやる気十分のイブキ。
そこへ、
「ではイブキ、私と一緒に行きましょう。飲み物も用意しなければいけませんから。」
「うん、イロハ先輩!」
「君は?」
「初めまして、万魔殿で戦車長をやってます『棗イロハ』です。噂はかねがね聞いてますよ、ネイト社長。」
「君がか。あの時は世話になった。ネイトだ。よろしくな。」
イロハもやってきてイブキを連れて万魔殿に入ろうとする。
その間際…
「はい、ではまた後程。…先輩、ネイト社長にお礼を忘れずに。」
「わ、分かっている…!」
「どうかしたの~?」
「いいえ、何でも。さ、早く行きましょう。」
イブキに聞こえないよう耳打ちでマコトにそう伝えていた。
「…貸し一つな。」
「借りておく。いずれな。」
イブキが去った後、二人はこんな会話を交わしていた。
「返すんなら早めに返したほうがいいよ、マコト。」
「キキキッ、鬼方カヨコ。今回はお手柄だったぞ。」
「別に。ネイト兄が依頼に来なかったら分からなかったし功労者はネイト兄とアビドス高校だよ。」
続いて、やけに親しげに言葉を交わすマコトとカヨコ。
「え、カヨコってマコト議長と知り合いなの?」
「知らない仲じゃない…ってだけ言っておこうかな。」
「つれないな。まぁよかろう。便利屋68よ、よくぞこ奴を守り切った。」
「ふふん、私達にかかれば温泉開発部なんか怖くないわよ。」
「まぁ一番大暴れしてたのはネイトお兄ちゃんなんだけどねぇ♪」
アウトローながらも体制側のトップであるマコトに褒められてアルも気分がいいようだ。
すると、
「あら、マコト。ちょうど戻ってきてたのね。」
時を同じくしてヒナと…
「集合時間前に全員が揃うなんてゲヘナだと奇跡ですね…。」
流石不良の巣窟の学校と言わんばかりの感想を漏らすアコがやってきた。
「お帰り、空崎ヒナ。」
「…外で蹄鉄なんて持って何してたの、ネイトさん。」
なんとも場に合わない持ち物を持つネイトにヒナは思わず尋ねるも、
「万魔殿の可愛い議員殿に遊戯を所望されてな。俺の国の遊びで楽しんでもらってたところだ。」
「…なるほど、イブキに構ってあげてたのね。」
やけに仰々しい言い回しながら何をやっていたか察した。
が、
「キキキッどうだ、空崎ヒナ。イブキはあの『熱砂の猛将』をいとも簡単に御するほどの可愛さだそうだ。」
何故かマコトが調子に乗り始め、
「はぁ!?確かにイブキちゃんも可愛いですがヒナ委員長の可愛さも負けていませんよ、マコト議長!」
アコがヒナの愛らしさを声高に叫び噛みつく。
「何を!?美少女という言葉が服を着て歩いているイブキをそんなちんちくりんと一緒にするんじゃない!!!」
「ちんちくりんとは何ですか、ちんちくりんとは!?貴方にはこの小動物的愛らしさが分からないのですか!?」
「ハン!ただ成長が止まっているだけではないか!イブキとは将来性が違うのだ、将来性が!」
「非の打ちどころのない完成された愛らしさの権化と言ってほしいものですね!」
ギャーッギャーッギャーッ!!!
突如始まった愛らしさ合戦。
「…なぁ、実は万魔殿と風紀委員会って仲良かったりするのか?」
「そんなわけないわよ…。」
「フフッ行政官さんに愛されているようですね、風紀委員長さんは♪」
「それはいいけど…公衆の面前では止めてほしいわ。」
それを遠巻きで眺める蚊帳の外の面々。
「…とりあえず止める、ヒナ?」
「そうね、鬼方カヨコ。」
このまま騒がせ続けるわけにもいかず…
「アタァッ!?」
「マコト、そういうのは私たちが帰ってからにして。」
「キャン!?」
「アコも。これから話し合いなのだから少しは落ち着きなさい。」
カヨコとヒナのそれぞれの得物で軽く叩き二人を正気に戻したのであった。
すると、
「グヌぅ…!そうだ!おい、ネイト社長!貴様はどっちだ!?」
「どっちって何がだ?」
「我が愛する万魔殿のアイドルであるイブキとそこの風紀委員長ッ!どっちがキヴォトスで最も愛らしいと…!」
何を思ったか今度はネイトに先ほどの議論の意見を求めた。
アコも中途半端な答えは許さないとこちらをにらみつけるが、
「お前…娘がいる俺にそんな質問するのか?」
呆れたようにネイトは返す。
「…チィッ何も言い返せん!!!」
「クゥ…!まさかの強敵が…!」
少し考えこれには二人とも納得するしかない。
誰しも自分の子供が一番可愛いものだ。
「…そろそろ中に入らないか?いい時間だろ?」
「そうだね。」
「マコト、アコ。うなだれてないで行くわよ。」
時計を見るとあと少しで約束の時間なので万魔殿の中に入ることに。
そそくさと入っていくネイトやヒナにマコトたちだが…
「…それにしても意外だね。」
「何がですか、カヨコさん?」
あえて一歩遅れたカヨコとアコが言葉を交わす。
「アコのことだから顔を合わせたら真っ先に噛みつくものだと思ってたからね。」
先程も話した通り、ネイトとアコの相性は最悪と言っていいだろう。
彼女の性格からして嫌味の一つでも零してもおかしくなかった。
「…カヨコさん、私ってそんなに分別が無いように見えますか?」
ジト目でカヨコに異を唱えるアコだが…
「あったらあんな『馬鹿』な真似やらかさないでしょ?」
「うぐッ…!」
生憎その反論は意味をなさない。
言葉に詰まったアコだが…
「………えぇ、えぇっそうですともッ!!!出来るなら先ほどのイブキちゃんと遊んでいたことを出汁にして連行とかいろいろ考えましたよッ!!!幼気な少女を養子にする大人なんてろくでもないに決まっていますからっ!!!」
「やっぱり…。」
「あんな野蛮人がマコトならともかくヒナ委員長と対等に接してるだなんて腹立たしい事この上ありませんよッ!!!それにたった半日足らずで美食研究会と温泉開発部を制圧!?風紀委員会をどれほどバカにすれば気が済むんでしょうか!?」
出るわ出るわ、あの日から相当ため込んでいたのだろうネイトへの不満と憎しみの数々。
だが、
「…でも、それと同じくらい…!」
「ん?」
「同じくらい…!ヒナ委員長を『孤高』から解放してくれた感謝もあるんです…!」
「………。」
「どれほどの表現を用いても表しきれないほど屈辱ですが…ッ!ヒナ委員長は変わりましたっ…!よく笑い、風紀委員だけではなく一般生徒とも盛んに交流されるようになりました…!」
ネイトのおかげでヒナが変わったという事実も誰よりも分かっている。
アコもおんぶにだっこだったというつもりはない。
それでも…自分達ではヒナを変えられなかったのも事実だ。
先生との交流も大きな要因だろう。
事実、先生とはたまに連絡を取り合っているのも知っている。
だが…
「どれほど尽くそうと私では真の意味での『対等』にはなれない…!なれるはずがない…!その強さも気高さも…私には届くはずがありません…!ヒナ委員長も『孤高』であることを諦めていました…!」
誰にも踏み込めない、到達できるはずがないと思っていた『空崎ヒナ』の領域を…
「その領域に小鳥遊ホシノさんと共に…彼は到達しました…!到達し孤高から救い…ヒナ委員長をまた『一人の女の子』に戻してくれました…!」
ネイトとホシノは根底からぶち壊した。
ぶち壊しただけでなく、その手を取ってくれた。
立っていた巨峰の頂は打ち砕かれ…そのおかげでヒナは回帰した。
出会った頃の…まだごくごく普通の生徒だった頃のヒナに。
立場こそ違うが…ずっとそばで彼女を見てきたアコにはそれが手に取るように分かっている。
「できれば…私がその役を担いたかった…!でも、できなかった自分が悔しくて仕方ないんです…!」
「そっか…。」
ヒナを傷付けたネイトへの怒りもあるが…それと同じくらい不甲斐ない自分への怒りもあった。
三年ともにいて成し遂げられなかったというのにネイトはほんの30分にも満たない衝突と1日ほどの交流でそれを成し遂げた嫉妬もあるだろう。
様々な思いがくちゃぐちゃになりどう感情を表現したらいいか分からなくなっているアコに…
「…だったらさ、アコもネイト兄と話してみなよ。」
「…ハイ?」
アコにネイトとの交流を提案するカヨコ。
「アコのことあまり関わり合いになりたくないって言ってたけどさ、ネイト兄ならちゃんとアコの話も聞いてくれるはずだからさ。」
「…そんな印象でどうやって話しかけろと…。」
「かくいう私達だって最初は撃ち合い寸前まで行ってたのに今や義兄妹なんかになっちゃってるんだからどうにでもなるって。」
そう、便利屋68も最初からネイトと円満な関係ではなかった。
むしろ、初手ストーキングなんてやらかしてたので印象的にアコとどっこいでもおかしくはない。
「…いまさら何を話せばいいのですか…?」
「さぁ?それを考えるのは得意でしょ?」
「肝心なところは投げっぱなしですか…?!」
と、面倒見がいいのか悪いのか分からないカヨコの提案を受け…
「…いいでしょう!貴方の策に乗ってあげましょう、カヨコさん!!!あんな野蛮人のお猿さんなど私の話術で下僕にして見せましょう!!!」
アコはどうやら完全に吹っ切れたようだ。
「ハイハイ、それができるのなら楽しみにしてるよ。」
確実に無理な発言だがカヨコも浅い笑みを浮かべながら彼女にエールを送るのであった。
と、
「カヨコー!なにしてるのー!」
「アコ、思い出話は会談を終えた後にしなさい。」
「ごめん、今行くよ。」
「お、思い出話なんかしていません!」
それぞれの主に呼ばれ二人も急いで後を追うのであった。
その後、一行は会談が行われる部屋の前に通される。
「入室前に武装解除にご協力を願います。」
の前に入念なボディチェックと武器の提出を求められた。
「議長、『唯我独尊』をこちらへ。」
「キキキッわが愛銃を手に取れることを光栄に思うがいい。」
(WA2000…実物は初めて見たな…。)
マコトも自身の愛銃ワルサーWA2000『唯我独尊』を預け、
「はい、よろしくね。」
「私はこれだけです。」
ヒナとアコもそれぞれの銃を差し出し、
「重たいでしょうけど大事に預かっててくださいねぇ♪」
(さっき見た時から思ったけど…とんでもない武器ね…。)
「下手な細工はなしよ?大切な私の相棒と兄さんからの選別なんだからね。」
(ほぉ見慣れない拳銃だ。あれが奴のオリジナルの武器の一種か…。)
「弄らない方がいいよぉ♪万魔殿が火のついた蝋燭みたいになっちゃうからぁ~♪」
(あの銃の下についてるのは何でしょうか…?)
「わっ私のも下手に触ったら大変なことになりますから気を付けてくださいね…!」
「脅かさないの、二人とも…。私はこの拳銃とナイフだけだから。」
(((メリケンサックとナイフ…?)))
ノノミと便利屋68の面々も武装解除していく。
そして、
「ネイト社長、こちらに。」
「あぁ。」
ゴトッ
ネイトも懐から『デリバラー』を抜き取りトレーに置き、
ゴトッ
腰からウェスタンリボルバーを抜いておく。
「ほぉ古風な銃を…。」
マコトがネイトの得物を興味深そうに眺めるが。
ゴトッ
「…え?」
「ハンドガン3挺目…?」
先の二挺に比べ見るからに安価で簡易な造りの銃が置かれ、
カタッ
「よ、4挺目…。」
踝のホルスターから38口径の小型リボルバー
ガララッ
「ちょ、ちょっとネイト兄さん…?」
ドカッ
「ショットガン!?」
ホルダーに装着された各種グレネードに水平二連のソードオフショットガン、
ガタンッ
「ら、ライフルなんかどこに…?!」
愛用のM4コンパクトカービン、
ガラッ
「ぐっグレネードランチャー…!?」
ショートストックのM79グレネードランチャーとその弾丸、
カタン
「…いや、ホントどこに隠してたの?」
カヨコのそれを遥かに凌ぐ大きさの刃物である『ディサイプルズ・カトラス』。
と、どうやって隠し持ち悟らせなかったのか分からないほどの大量の銃火器が山と積まれていく。
「こ、これで終わり…。」
万魔殿の職員が目を白黒させながらやっと終わったと安堵する…
「あっとそれから…。」
が、
『え?』
「これ。」
ガラン
『ッ!!?』
さらに巨大なマチェットを置いてノノミ以外の全員が驚愕する。
そして止めと言わんばかりに…
「あぁっとこれを忘れてた。」
ドォンッ!!!
「じゅ、重機関銃ーッ!?」
「ついでにオイル挿しててもらえると助かる。」
Pip-BoyからKPV重機関銃を台を壊さんばかりの勢いで取り出した。
「よし、行こうか。」
「なぁ…ネイト社長…。貴様、ゲヘナに戦争でも仕掛けるつもりだったのか…?!」
流石にマコトもこの重装備にはツッコまざるを得ない。
「まさか当然の用心だ。」
「だよな…。それを聞けて安心…。」
ネイトの返答に安堵するも…
「戦争仕掛けるつもりならこんな『お行儀の良い』武器なんか持ってこない。」
「っておいぃぃぃぃぃッ!!?」
不穏すぎるにもほどがある言葉に声を荒げて再びツッコみ、
「…ねぇカヨコさん、私心配なんですけど…。」
「…がんば。」
この後行おうとしていたネイトとの会話に一抹では済まない不安を覚えるアコなのであった。
何はともあれ…これで準備は整った。
「どうぞ、お進みください。」
職員によって目の前の扉が開けられ…
「やっと来たわね、マコトちゃん。」
中には何やら妖艶な雰囲気が漂う桃色の髪をした長身の生徒がいた。
「『サツキ』、『殺菌』は万全か?」
「えぇ、何度も確かめたわ。」
「よかろう。ネイト社長、紹介しよう。『京極サツキ』、我が万魔殿の情報部長だ。」
「『京極サツキ』よ。今日はよろしくね、ネイト社長。」
「よろしく。君も参加するのか?」
「…えぇ、私も『世代』だもの。」
「『世代』?」
「それも会談で話すわ。さ、席について。」
サツキの自己紹介も終え、
「では…始めようか。」
「お手柔らかにお願いしますぅ。」
「有意義な会談にしていこう。」
いよいよ三組織合同の極秘会談が始まるのであった。
秘密は人を多忙にする。怠け者は秘密を持つこともできず、秘密と付合うこともできない。
―――作家『三島由紀夫』
周年の記念エピソードの案は今週の日曜日を締めきりにしたいと思います