ネイト「…あれがOKならマサチューセッツもアリだろ?」
各校代表『勘弁してください…。』
ネイト、アビドスの代表者であるノノミ。
ゲヘナからは便利屋68、風紀委員会に万魔殿。
錚々たるメンツが集い開催された会談だが。
「さて、まずは何から話すとしようか…。」
「って、決めてないのか?」
「そう言うな、ネイト社長。本題に入る前にもいろいろあるのだ。」
マコトは顎に手を当て何やら考え…
「…ともかく貴様らは色々とあったようだ。一先ず飲み物でもどうだ?」
まずは飲み物を進めてきた。
「コーヒーも茶もあるが何がいい?」
見ると、さまざまな種類の豆や茶葉に道具が揃えられている。
確かに温泉開発部との戦闘後からここまでほとんどノンストップで事態が動いているため少々息を付けたいところもある。
「…じゃあ、カヨコ。コーヒー淹れてもらえるか?」
「分かったよ、ネイト兄。」
ならばとネイトはカヨコにコーヒーを頼んだ。
カヨコも快く了承し手慣れた様子で道具を準備し始める。
「あら、カヨコさんもコーヒー淹れられたんですか?」
その様子をアコは意外そうに眺め、
「………。」
ヒナはまじまじとその手つきを注視していた。
「今お世話になってる喫茶店のマスターに仕込んでもらってね。」
「ふふん、今じゃマスターが忙しいときには任されるほどの腕前よ。私のも頼めるかしら?」
「おだてないでよ、アル。私なんてまだまだなんだから。他に欲しい人は?」
「あ、では私もいいですかぁ?」
「カヨコっち、私も!」
「わっ私の分もお願いします。」
と、ネイトに続きノノミやほかの便利屋の面々もコーヒーを頼み…
「…鬼方カヨコ、私の分もいいかしら?」
「いいよ。」
ヒナも彼女にコーヒーを頼んだ。
「いっ委員長!?委員長の分は私が…!」
すかさずアコが引き受けようとするも…
「アコ、たまにはあなたも飲む立場に回ってみるのもいいものよ。」
ヒナにしては珍しく食い気味に答え引き下がらせようとする。
「そ、そんなぁ…。」
「キキキッ興味がわいた。私の分も頼もうか?」
「私もお願いしようかしら。」
「全員、コーヒーだね。」
そんなこんなで結局全員がカヨコのコーヒーを飲むことになった。
数分後、
「お待たせ。砂糖とミルクはお好みで入れてね。」
ドリップが終わり全員の前にカヨコが淹れてくれたコーヒーが注がれたカップが置かれる。
「ふふん、どれ…。」
挑発するかのように鼻を鳴らすマコトが出されたコーヒーに口を付けると…
「…ッ!」
目を見開いてカップの中のコーヒーをまじまじと眺める。
(…普段使ってる豆と同じはずだよな…?!)
どうやらカヨコのコーヒーは普段の物よりもはるかに美味しかったようだ。
「砂糖とミルクを入れるのが勿体ないわ…。」
サツキもその味を楽しむためブラックのまま飲み進める。
「おぉ~、また腕を上げたな。」
「本当!美味しいですよ、カヨコさん!」
「ふふん、社長として鼻が高いわ。」
「フフッ、ありがとう。」
ネイト達もカヨコの淹れたコーヒーの味を称賛する。
「…いい味、あのカフェで飲んだ時の味を感じるわ。」
かつて飲んだ『Cafe Franklin』を思い出しヒナも満足している。
一方、
「どうして…どこがカヨコさんと…!?」
普段、風紀委員会でコーヒーを淹れる担当であるアコはカヨコとの差に愕然としていた。
風紀委員会にとって『コーヒー』とは単なるカフェインの補充アイテムでしかなく味は二の次であった。
なので…アコの淹れるコーヒーの味は…『美味しくない』と不評とのこと。
特に変わったことはしていないはずのカヨコのコーヒーとなぜ味がこうも違うのか不思議でならなかった。
こうしてしばしの間、全員コーヒーを堪能し…
「…よし決めたぞ。」
半分ほど飲んだ際にマコトが最初の議題を思いついたようだ。
「ネイト社長、そしてアビドス副生徒会長に問おう。…『雷帝』、この言葉に心当たりは?」
先ほどまでとは打って変わって鋭い目線で質問するマコト。
下手な答えや誤魔化しは許さない、そう言った気迫が伝わってくる。
「………。」
傍らにいるヒナも同じような目線をこちらに向けていた。
「『雷帝』…ですか?」
その視線を浴びてもノノミは一切動じることなく…
「…申し訳ありません、議長さん。私はそう言う方に心当たりはありません。」
そう謝りながら知らない旨を伝える。
「フム…世代が違う二年生ならば無理もない…か。」
マコトはそんなノノミの答えに納得し、
「ではネイト社長、どうなんだ?」
続いてネイトの答えを求めると…
「…『イヴァン』のことか?」
少々考えてそんな言葉を返した。
「『イヴァン』?それは何だ?」
「学生の時に歴史の授業で習った大昔の皇帝の名だ。」
「それ以外で心当たりは?」
「『雷帝』というワードで心当たりがあるのはそれだけだな。」
「…そうか。ならばいい。」
と、ネイトの答えた者とマコトの言う人物はどうやら違ったようだ。
「…その雷帝というのはどんな奴なんだ?」
ここまでの話でその雷帝何某が今回の会談の大きな議題であることはネイトも察せられマコトに質問を返す。
「フム、ゲヘナ以外や外から来たネイト社長には話しておいた方がいいか。『雷帝』…それはかつてゲヘナに所属していた生徒会長…いや、『暴君』の通称だ。」
キヴォトスにおいて最も治安が悪いとされるゲヘナ。
その地をかつて長きに渡り統治していた者、それが『雷帝』と呼ばれる人物だ。
「戦略家としても発明家としてもまさしく『天才』、さらに政治手腕もそれに匹敵するゲヘナの支配者で当時はキヴォトス全土を混沌に陥れたわ。」
ヒナもその人物の情報を補足するが、
「…その口ぶりだと今はいないのか?」
その言葉は全て過去形、ネイトがその部分について尋ねると、
「そのせいで政敵やら反乱分子も多かったからね。2年前に部下に『反乱』を起こされて『卒業』、その後はキヴォトスの外に出ていったよ。」
「以降は『雷帝』の存在は公にされず、存在を知るものは今のゲヘナ学園にも多くはいません。」
「ですから私もそんな人を知らなかったんですね…。」
「えぇ、いなくなっても影響力は馬鹿にできないから資料は破棄か厳重に管理してるわ。」
「だから私も知らなかったのね…。」
既に雷帝は過去の人物、しかも表立っては派手な動きをしていなかったせいかアルですらその存在を知らないらしい。
「…それでその『雷帝』に俺達がどういう関係が?」
既に失脚しキヴォトスにはいない過去の人物、そんな人物がなぜ取り上げられるかと尋ねるネイトだが…
「蒙昧なふりをするな、ネイト社長。貴様ほどの傑物が…こちらの意図を読めぬはずがないのは百も承知だ。」
鋭い視線を向けマコトはそう断言する。
「…フフッ少しとぼけ過ぎたか。」
そう少し笑い…
「つまり…俺が便利屋68に調査を依頼した『ある兵器』が…その雷帝関連の代物だと?」
この会談の核心を突く質問を投げかける。
「…そう、貴方たちアビドスが見つけたというゲヘナのエンブレムが刻まれた『兵器』。おそらく…いえ確実に雷帝が遺した『遺産』ともいえる物よ。」
「雷帝は発明家としても天才、それもミレニアムの技術力を超える兵器を開発していたという証拠があり今なおキヴォトス各地に秘匿されていることが確実なんです。」
「私達、万魔殿情報部も日々調査に当たってるけど…やっぱり雷帝は天才ね。なかなかその遺産の情報が出てこないのよ。」
「なるほど…。」
確かにそのような人物の遺産など脅威以外の何物でもない。
キヴォトス外部のネイトから見ても…アレは理外の代物だ。
だが、
「…それでゲヘナの皆さんは何が目的なのですか?」
問題はゲヘナの目的だ。
確かにアレはアビドスの学区にあるが…ゲヘナも製造に大きく関わっている。
ノノミがらしくない鋭い眼を向けてマコトたちに問いかける。
「…さて、どうしたものかな?」
今度はマコトが何やら思わせぶりな表情ではぐらかすような答えを返す。
が、
「じゃあ、あれは製造段階から元々アビドスの所有だ。俺達が使っても問題は…。」
ネイトがアレを使うという意思を見せた瞬間、
「「「「………。」」」」
「「ひっ…!」」
「おぉっと…!」
アルとハルカが震えあがりムツキですら冷汗を流すほどの迫力が対面にいるマコトとヒナたちから放たれた。
「…面白くない冗談だな、ネイト社長。」
「冗談?」
「雷帝の遺産を使う…それがどういう意味か…。」
射殺さんばかりも目力でマコトはネイトを睨むが…
「ですがぁ、アレをどう用いようとゲヘナには一切関係ないのではないのですかぁ?」
ノノミも一切動じずに返す。
そう、いかにかつてのゲヘナの暴君の遺産と言えど所在地はアビドスにある。
しかも、発注もアビドスとセイント・ネフティス社だ。
ゲヘナにアレをどうしようとこちらに意見する筋合いはない。
マコトたちはなぜこの場にホシノではなくノノミが派遣されたか理解した。
ノノミはアビドス副生徒会長だけでなくセイント・ネフティス社のご令嬢だ。
より一層…その兵器の使用に関する権限は高位なものだ。
「…貴方たち、雷帝の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるのよ。」
「だが、それほどの威力があるのならアビドスの防衛力に組み込むのも一計だろう?」
「正気ですか…!?雷帝の遺産一つでキヴォトスにどれほどの混乱をもたらすか分かっているのですか…!?」
「ですから、アレは曲がりなりにもアビドスの所有物。そこにゲヘナが意見するのは…内政干渉に当たるのでは?」
規模が雲泥の差とはいえ…内政干渉は学園による自治が認められているキヴォトスでもご法度だ。
しかし…
「…そうか。ならば…我々もそれを黙って見ているわけにはいかんな。」
マコトは止まらない。
「…だったら、どうするんだ?」
「決まっている。アビドスがそれを使うというのなら…我々もそれ相応の行動に移るということだ。」
つまりそれは…
「戦争を…始めるおつもりですか?」
「えぇ、そうよ。それを使うことは…いかに貴方たちであっても許容できることじゃない。」
ノノミの質問にヒナが即答する。
「穏やかじゃないな。俺らの強さは…ゲヘナが最も把握しているはずと思っていたんだが…。」
アビドス独立戦争からゲヘナはアビドスを最も近くからその戦いぶりを目の当たりにしていた。
下手に手を出せばどうなるか分からないはずがないとネイトは尋ねると…
「キキキッ…貴様ら程度で我々に勝てるとでも…?」
不遜な態度を深め自信満々にマコトは答えた。
万魔殿の全戦力を跳ね返す戦車部隊?
レーザーを搭載した航空部隊?
流星の如き攻撃を放つ未知の兵器?
今目の前にいるゲヘナ最強を打ち破る猛将?
…それがどうした。
「我らは『ゲヘナ学園』だ。嘗めるなよ、アビドス…!」
数多の不良たちの頂点に立ち…悪魔の学園を統べる者としてマコトは堂々と答えた。
…が、
「…プっ、ククク…!」
「…は?」
対面にいる…カヨコが堪え切れず噴出した。
「どッどうかしたのか、鬼方カヨコ…?!」
予想外の反応にマコトも毒気が抜かれたような声を出す。
ヒナやアコにサツキも目を丸くしている。
「…カヨコ、もう少し我慢してくれよ。」
「そうですよぉ。これからがいい所だったですのにぃ。」
対するネイトとノノミは傍らの彼女を呆れたような目で見つめる。
「ごッごめんごめん…!あんまりにも予想通りの反応をあっちがするものだからさ…!」
「よ、予想通り…?」
――――――――――――――――――
何が何だか分からないマコトたちだが…昨日のこと。
「…ということなんだ。」
実は『雷帝』関連の情報は伏せられていたが会談の概要の予想をカヨコから聞いていたネイトたち。
「…それでネイト兄やアビドスの皆はそれを…。」
マコトたち同様にカヨコもあの兵器に関してアビドスが使うことを懸念していたが…
「あぁ、あれ?正体確かめたらスクラップにでもしようかなって思ってねぇ。」
「あんなデカくて使いにくいのあっても邪魔だからな。」
「…え?」
ホシノとネイトはあっさりと放棄する旨を伝える。
そう、あの列車砲は確かに強力だろう。
だが…移動のための線路は複線が必須で運用するにしてもアビドス生徒全員を用いても足りないほどの扱いにくさだ。
それでいて…
「ん…アビドスにはもうあの『戦艦』がある。便利屋の皆もあの戦争で見たでしょ?」
「射程も精度も扱いやすさもずっとこっちのほうがいいからはっきり言って邪魔なのよね。」
戦艦『マサチューセッツ』を所有しており『非対称戦力兵器』という計画は違う形で達成されているのだ。
そこへさらに別の…しかも扱いにくい兵器を導入するメリットが少なすぎる。
「ですから、便利屋68の調査結果を待ってセイント・ネフティス社と協議の後に鋼材に解体しようという結論がまとまっているんです。」
「お父様も今のアビドスには必要がないとおっしゃっていましたしセイント・ネフティス社も意見は一致してますよぉ。」
ならば、ばらして資材としてアビドス発展に協力してもらおうと結論付けられるのも当然の帰結だ。
「そっそうなんだ…。」
「でも、ゲヘナがアレに興味をねぇ…。」
唖然とするカヨコだがホシノは何やら思いついたように顎を撫でる。
「ふふっ、要らないものに価値を見出してくれたんだ。…売りつけてやろう。」
どうせ解体してスクラップにすることは決定済みだ。
ならば…一計を案じる価値は大いにある。
―――――――――――――――――
「一つ聞く。ゲヘナはアビドスがその兵器を引き渡すとして…どうするつもりだ?」
ネイトがそう問いかけると…
「…我々の目的は雷帝の遺産の破壊だ。使用するつもりは一切ない。」
「それは風紀委員会と万魔殿の共通の見解よ。」
普段は対立しあっているはずのヒナとマコトの意見は一致。
「なるほど、寄越せとか言われなくて安心した。」
「…もしその場合はどうするつもりだったのですか?」
「アビドスに帰り次第ネイトさんに解体してもらう計画でした♪」
もし最悪の場合でもゲヘナが動くよりも早く決着はつけられる状況だ。
どう転んでもゲヘナにできることは最初から少なかったようである。
「…最初からアビドスにしてやられてたって訳ね…。」
「どおりで鬼方カヨコが冷静だったわけだ…。」
思えば同世代のカヨコが先ほどのネイトとノノミの発言に無反応だった
雷帝を知る世代ならばそれはおかしい。
「ネイト兄はアイツとは違う。わざわざキヴォトスを混乱に陥れる真似はしないって信じてるからね。」
「その分敵には容赦しないけどね、兄さんは…。」
「…では、一体何が目的なのだ?」
ネイトやアビドスが雷帝の遺産に興味がない事は分かった。
ではこの会談にはなぜやってきたかという疑問が残るが…
「アレを破壊するにはゲヘナでも相当大部隊を動員する必要があるだろう。」
「でしたら…アビドスからある条件を飲んでいただけるのならばその部隊派遣を了承してもいい、とホシノ生徒会長から了解を取り付けています。」
ある条件をゲヘナに飲ませるためである。
「その条件は…?」
「…アビドス高等学校及びW.G.T.C.、便利屋68の三組織は近々ある化け物を討伐する作戦が行われる。」
ここで初めてアビドス側の現状をマコトたちに明かすネイト。
「これがその化け物…ビナーの現状把握できているスペックだ。」
さらにマコト側へこれまで調べ上げたビナーのデータを渡す。
「………これほどの怪物がアビドスをうろついているのか…。」
「アビドスにネフティス、それにカイザーのデータまで…。」
「信憑性はかなり高いようですね…。」
「情報部でも把握できていないこんなものが…。」
雷帝の遺産に匹敵する脅威の存在にマコト達も驚いている。
そして…
「…それで我々とこれがどういう…。」
「ある程度作戦と戦術、兵器運用のプランは出来上がっているが…頭数がもっと欲しい。」
『!』
ネイトが何を言わんとしているか、ようやく理解した。
「つまり…ゲヘナがビナー討伐に協力しろということか?」
「どうせ大部隊を送り込むんだ。それを認める対価にはちょうどいいだろ?」
調査が進んでいるとはいえビナーには未知の部分が多い。
そして、作戦遂行にあたってアビドスの人員も決して十分いるわけではない。
ならば…不要な列車砲を使ってさらなる人員、それも三大校の一角の助力を得るというのは理にかなっている。
「それにどっちみちアビドス砂漠を渡るにはビナーが障害になる。それの排除はゲヘナにとってもメリットはあるぞ。」
「ですからぁ…ここは協力してビナーを倒し、アビドスは自学区内の脅威の排除。ゲヘナは雷帝の遺産の破壊という利益を両校で得ようということですぅ♪」
「…なるほど。」
この提案を受けマコトは考える。
アビドスとW.G.T.C.が雷帝の遺産を使うつもりがない事は理解できた。
だったら処分も任せた方がいいか…というと、
(ネイト社長…こいつに解体を任せれば…。)
ネックになるのはネイトだ。
兵士や指揮官としての能力もさることながら…技術者としての能力もずば抜けている。
未知のロボットやキヴォトスの技術を用いた発明品も多く開発していることは知れたところ。
さらにミレニアムとの関係も深くメキメキとテクノロジーを吸収している。
そんな人物に雷帝の遺産の解体を任せようものなら…雷帝の技術すら手に入れかねない。
ネイトでなくても…外部に雷帝の技術が流出するのは避けたい。
雷帝の遺産を破壊できるというメリットと…アビドスとW.G.T.C.に協力しビナーを討伐で発生する出費。
マコトは脳内でそろばんを弾き勘定を付けていると…
「いいわ。雷帝の遺産を破壊できるのなら風紀委員会はビナー討伐に協力する。」
「なっ…!?」
マコトよりも早くヒナがビナー討伐への協力を承諾。
「いっ委員長!?そんなあっさり…!?」
「いい、アコ?遺産の破壊には多くの人員の動員は必須。それをアビドス側からお膳立てしてくれるのであれば…協力するのは得策よ。」
ゲヘナほどの勢力が一斉に他学区に押し寄せるのであれば…当然キヴォトス中の注目を集め真実が露見することは時間の問題だ。
ならば、別の目的を用意しその目的を覆い隠すことは理にかなっている。
ビナー討伐という一大作戦ともなれば隠れ蓑としては文句なしだ。
…それ以上に、
「それに…フフッ、怪物相手に久々に大暴れするのも悪くないわ。」
やはりヒナもゲヘナの生徒だ。
この学校では稀有な善性を持ちつつもやはり力の限り戦うことは好きなのである。
「マコト、貴方たちはどうするの?」
彼女には珍しく挑発的な笑みを浮かべマコトに尋ねると…
「フンっ愚問を。雷帝の遺産だけではない、怪物を討ち取ったという栄光も我が万魔殿が頂くとしよう…!」
「うふふっ風紀委員会ばかりにいい恰好はさせないわ。」
風紀委員会だけにいいところを持っていかせるわけがない万魔殿も参戦を決定した。
「感謝する。」
話も纏まりあとはこの取り決めの契約を交わすだけとなったが…
「…それでもう一つはっきりさせておかなきゃいけないことがあるな。」
「あぁ、我々としてもはっきりさせておきたい。」
話は次の議題に移る。
「この会談の情報…一体どこから漏れた?」
この会談はあくまでも極秘に開催されていることだ。
ネイトとノノミがここにいることを知るのはごく限られた生徒のみ。
議題に関して知るのはこの場にいる者のみだ。
そんな議題の情報を…鬼怒川カスミは掴んでいた。
『千丈の堤も蟻の一穴より崩れる』という言葉もある。
今後、この穴を塞がなければ…より一層重大な事態になりかねない。
「貴様はどう思う、ネイト社長?」
「少なくとも漏らしたのはここにいるメンツではないと想定している。」
試すように尋ねるマコトにネイトは即答。
「ほぉ?貴様にしては甘い見立てのように思うが?」
「なぜだ?」
「なぜ?ここに貴様に恨み骨髄の駄犬がいるんだが?」
「なッなんですって!?」
マコトの言葉にアコは噛みつく。
確かに以前の一件でネイトに対しアコは思うところがあるだろう。
ネイトを害そうと情報を漏らす可能性は大いに考えられる。
「私が温泉開発部に!?仮にもゲヘナを護る風紀委員会に所属する私があのテロリストたちに助力を求めたと!?」
当然アコはマコトの言葉を否定。
「キキキッしかし…このゲヘナで誰よりも奴らに詳しいのもまた貴様らだ。痕跡を残さぬよう連絡できる手段があってもおかしくはあるまい?」
「マコト、それは聞き捨てならないわ。」
「だが否定も出来まい?ではもうネイト社長を心から許したというのか、天雨アコ?」
「そっそれは…!」
にわかに剣呑な空気が漂い始めるゲヘナ側の面々だが…
「だからだ。」
「…なんだと?」
「俺を許していない、脅威に思っているからこそそれはない。」
今のマコトの言葉からネイトはその可能性を完全に否定する。
「天雨アコ、俺を討ち取るのに温泉開発部『たった』200人を差し向けるか?」
「そっそれは…!」
なんとも物騒な話にぎょっとするアコだが…
「仮の話だ。忌憚なく言えばいい。」
ネイトが仮定であっても自分を倒そうという話だというのに容赦ない意見を求めると…
「…少なくとも機械化した風紀委員会4個中隊。可能なら万魔殿を言いくるめて戦車中隊は派遣したいです。」
「わぁおすっごい大部隊…。」
以前のアビドスに連れてきた部隊を凌駕する大部隊が必須と答えた。
「ということだ。俺が温泉開発部程度に遅れをとる、それは風紀委員会がゲヘナの一般生徒の集まりにも劣ると言ってるようなものだからな。」
このゲヘナでネイトの脅威を知るのはおそらく風紀委員会だ。
例えネイトを討ち取ろうと策を巡らすにしても…動員した兵力が少なすぎる。
確実に勝てない人員を送り込んで尻尾を掴まれるなど愚の骨頂もいいところだ。
「…なるほどな。風紀委員会が貶められることを殊更に嫌う行政官ならそのような手を取るはずがない…ということか。」
マコトもネイトの説に納得する。
「それに…温泉開発部の言っていたことも引っかかる。」
さらにネイトは根拠としてカスミの言動を挙げる。
「言動?鬼怒川カスミは一体何を言っていたの?」
「あのフィクサー気取りはこう言っていた。俺が持つ情報は知らないが価値は知っている、持っていると思わせるだけでゲヘナの重要機関は手を出せなくなるともな。」
「それが…どうしたの?」
「なぜ、情報を持っていることを知っていてどんな情報か知らない?いや、なぜ持ってきたものが情報だと分かる?」
『ッ!』
そうだ。
なぜ持っているのが情報だと分かった?
アビドスから持ち込まれる価値あるものは情報だけではない。
設計図や現金、あちらはネイトだと分かっていなかったようだがネイトの持つ技術製の代物だという可能性もある。
だというのに、カスミは…
「確かに『コレ』が奴の手に渡れば相当都合の悪いことになっていただろうが…奴ほどの狡猾な者がその中身を知らないのはどうも引っかかる。」
ネイトはPip-Boyから列車砲シェマタの情報をまとめたファイルを取り出しマコトの方に滑らせる。
「ッと、これは…?!」
「アビドス奥地で見つかった雷帝の遺産、『列車砲シェマタ』のスペックだ。場所はまだ伏せさせてもらっているがな。」
『ッ!?』
それを聞き、ヒナたち四人の顔がこわばる。
その変化を見て…
「第一として雷帝の脅威を知らず、第二に会談が開かれることは知っている、第三にそれでいて内容と出席者はアビドス関連しか分からない、これらの特徴に当てはまる奴が『蟻』だと俺は考えている。」
「…マコト、彼の言う条件に当てはまる万魔殿の関係者の人数は?」
先程とは違いヒナが鋭い目線でマコトに尋ねる。
風紀委員会でこの会談が行われると知っているのはアコとヒナのみ。
となると会談の開催場所から見て…
「…かなりの人数だ。しかも…おそらく『雇い主』がいる。温泉開発部を動かしたのはおそらくそいつだ。」
万魔殿の中の誰か…と考えるのが自然であろう。
「…サツキ、調査を頼めるか?」
「任せて、マコトちゃん。情報部の総力を挙げるわ。」
「アコ、押収した温泉開発部のスマホをすべてチェックさせて。」
「了解しました、ヒナ委員長。」
三大校の一角のゲヘナに間者を忍ばせるのは並大抵ではない。
相手は相当な実力か規模を持つ組織であろう。
万魔殿情報部と風紀委員会、ゲヘナの二大機関が総力を挙げて『蟻』の捜索に動き出す。
と、議題が一段落したこのタイミングで…
「皆さん、ケーキとお茶をお持ちしましたよ。」
ドアの向こうからイロハの声が聞こえ扉が開かれた。
そこにはティーセットが乗せられたキッチンワゴンを押すイロハとケーキが乗ったトレイを持つイブキに…
「おぉ!これは錚々たる顔触れがそろってますねぇ!」
カメラを持ったチアキもそこにいた。
「イロハと一緒にいてカメラを持っているとなると…君がチアキか?」
「はいっ!元宮チアキと申します!よろしくお願いしますね、ネイト社長!あ、あとで一枚いいですか?!」
「よろしく。こんなオッサン撮ってもいい写真になるか分からないぞ。」
イロハ同様、チアキにも戦争時に世話になった。
そんな風にネイトとチアキが挨拶を交わしている一方、
「おぉイブキ!ケーキを持ってきてくれ…!」
愛しのイブキがやってきたことで先ほどまでの鋭い表情が切り替わり満面の笑みを浮かべるマコトだが…
「…!」
「いっイブキ…?!」
そっぽを向いてイブキはトレイをテーブルに置き、
「ハイどーぞ、ネイトさんにノノミ先輩♪」
「ありがとうございますぅ♪」
「ありがとう、イブキも自分のケーキは選んだかい?」
「うん!イブキもここで食べようと思って持ってきたんだ~♪」
打って変わってネイト達には満面の笑みを浮かべてケーキを置いていく。
「はい、便利屋の皆さんも♪」
「あら。ありがとう、小さな議員さん。」
「くふふ~かぁわいい~♪」
「まっ眩しいです…!」
「ホント…ゲヘナ生とは思えないほどいい子だね。」
次にアル達、
「はい、ヒナ先輩にアコ先輩!」
「ありがとう、イブキ。」
「お手伝いできて偉いですね。」
ヒナとアコにも笑顔で渡していき…
「サツキ先輩、これ好きだったよね?」
「イブキちゃん、残してくれてありがとう♪」
サツキもご機嫌な様子で渡すが…
「はいマコト先輩。」
「いっイブキ…?!」
マコトにだけは頬を膨らませ素っ気なくケーキを置いた。
「どッどうしたのだ…!?」
訳が分からず困惑するマコトだが…
「あっそう言えばマコト先輩!駄目じゃないですか!」
チアキが少々立腹気味にマコトに注意する。
「だっ駄目とは何の…!?」
何のことか分からずマコトの頭に疑問符が浮かぶが…
「給湯室のゴミ箱見ましたよ!またイブキちゃんのプリン食べちゃって!」
「…あぁッ!!?」
…どうやら証拠を残してしまっていたようだ。
「ネッネイト社長…!」
「いや、それとこれは全くの別件だろ。」
確かにイブキのご機嫌取りにネイトは協力したが…マコトの不始末までは面倒見切れない。
「…イブキ、嘘つくマコト先輩のこと好きじゃない。」
ネイトのケーキのおかげで泣きこそしないがやはり勝手に自分のおやつを食べられイブキもご立腹のようだ。
そんなイブキを見て…
「い、イブキィー!!!私が悪かったああああ!!!この通りだ、許してくれえええええ!!!」
テーブルに両手を突き頭を叩きつけん勢いで彼女に提げるマコトなのであった。
「ククク…!これは珍しいものが見れましたね…!」
「アコ、やめなさい。…フフッ。」
普段いいようにやられているマコトの情けない姿を見てアコとヒナもご機嫌だ。
「ふ~んだ!」
一方のイブキはまだご機嫌斜めのようで…
「よいしょっと。」
何故かネイトのそばに自分のケーキを置いて…
「ねぇねぇネイトさん。」
「ん?どうかしたか?」
「イブキ、ネイトさんのお膝に乗ってもい~い?」
「なぁッ!!?」
ネイトのそばでケーキを食べると言い始めた。
「別の椅子じゃなくていいのか?」
「うん!イブキ、ネイトさんのお膝がいい!」
正直座りにくいだろうがイブキ本人がそれでいいと言っているので…
「…そうか。じゃあ万歳してくれ。」
「は~い!」
万歳した彼女の両脇を抱えて自分の右ひざに腰掛けさせた。
「ネイト社長ッ貴様ぁッ!!?」
そんな状況に羨ましいやら妬ましいやらで怒鳴り散らすマコト。
「子供のやってることにいちいち目くじら立てるな。」
「まさかイブキを手籠めにしようという計略かぁッ!?!」
「娘いるって言ってただろ。少しは落ち着けって。」
ネイトは涼しい様子で受け流すが…
「ケーキ持ってきてくれたネイトさんに怒るマコト先輩はもっと嫌い。」
「ガハァッ!!?」
イブキのこの一言に完全にノックアウト、血反吐でも吐きそうな断末魔を上げて真っ白に燃え尽きてしまった。
「…まだ契約書にサイン貰ってないんだが…。」
「大丈夫よ、ネイト社長。了承は得ているんだから復活してからサインをしてもらうわ。」
ネイトの心配にサツキは心配ない旨を伝え、
「サイン?ネイトさん、マコト先輩のサインが欲しいの?」
「ん?あぁ、取り決めで必要でな。」
「じゃあ、イブキからもお願いしてあげるね!」
イブキも協力してくれるようだ。
「では心配ないですねぇ♪」
「そっか。ありがとうな、イブキ。」
「私はすぐにでもサインして大丈夫だからあとで契約書を渡してちょうだい。」
と、少々騒がしいながらも会談は一応終了しそのままささやかなお茶会と相成った。
「美味しいか、イブキ?」
「うん、ゲヘナのお店にも負けないくらい美味しいよ!」
「それはよかった。マスターもきっと喜んでくれる。」
イブキはネイトの膝に乗ったままケーキを堪能。
「ネイトさんのケーキも美味しいの?」
「あぁ、ここのガトーショコラは俺のお気に入りなんだ。」
「ねぇねぇ、イブキにもちょうだぁい。」
「あぁ、良いぞ。ほら、あ~ん。」
「あ~んむ♪ッホントだ、とっても美味し~!」
それだけでなくネイトのホイップクリームたっぷりのガトーショコラを分けてもらって口の周りが汚れることも構わず頬張りとてもご満悦だ。
「あらっイブキちゃん、クリームが付いちゃってますよぉ♪拭いてあげますからこっち向いてください♪」
「んむぅ…ありがとう、ノノミ先輩♪」
「どういたしまして♪」
ノノミも手慣れたようにイブキの世話をしてくれている。
「戦場にいるときの雰囲気と全然違いますね、ネイト社長。」
「うふふっすっかり懐いちゃってるわね、イブキちゃんったら。」
「おぉっ!これは今度の『週刊万魔殿』に載せなくては!」
「…………。」
いまだに魂が抜けっぱなしのマコト以外の万魔殿メンバーもその様子を微笑ましそうに眺めている。
チアキに至ってはもう何枚とったか分からないほどシャッターを切っている。
万魔殿のメンバーが知るネイトは交渉にも長け戦場を走り回る『猛将』としての姿だ。
だが、今の彼にそんな猛々しい様子はなくごくごく普通の子供好きな大人のようにしか見えなかった。
「やっぱり兄さんって小さい子に好かれるわねぇ。」
「くふふ~アリスちゃんがどれだけ可愛がられてるか分かっちゃうね♪」
「あれが素で出来るんだからホント人たらしの才があるよ。」
「のッノノミさんもとってもお世話が上手です。」
アリスとの触れ合いを見慣れたアル達はしょうがない人といった様子でネイトに温かい視線を向けていた。
一方…
「どう、アコ?あれでもネイトさんが子供を狙う不審者のように見える?」
ヒナは先ほどネイトに不審な目を向けていたアコを窘め、
「ぐッ…さ、さすがは娘さんがいらっしゃる人だけあってイブキちゃんのあやし方が上手ですね…!」
アコもこの様子を見てネイトの評価を改めるのであった。
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―――
その後、少ししてから再起動したマコト。
ネイトに文句を言おうとしたが…
「イブキ~、これにマコト先輩のお名前書いてほしいなぁ~。」
「書くッ、書くともおおおおおお!!!」
イブキのおねだりのおかげでビナー討伐への参戦の契約書にサインをしてくれた。
こうして、マコト主催の極秘会談は終了。
あとは帰るだけとなったが…
「わがまま聞いてもらってすまないな、空崎ヒナ。」
「構わないわ。校舎内なら『蟻』も簡単に手は出せないでしょうし。」
ネイトの姿はゲヘナ学園の校舎内にあった。
ヒナに案内され向かっているのは…
「しかし、立派な校舎だ。フウカもとんでもなく忙しそうだな。」
「ある意味、給食部は風紀委員会以上に多忙な部活よ。」
「懐かしいわね、ここの廊下を通るのも何時ぶりかしら…。」
数時間前にフウカを救出した際に約束した給食部を訪れるためだ。
万魔殿の庁舎を見て覚悟していたが…やはり三大校の一角。
生徒が勉学に励む校舎も今のアビドスと比べ物にならないほど巨大だ。
これクラスの校舎がいくつもあるのだから恐ろしい。
「いつかアビドスもこれくらいの賑わいを取り戻せたらいいですねぇ。」
「そうだな、ノノミ。不良が増えることは勘弁願いたいがな。」
「あれだけ不良やヘルメット団を雇って問題を起こしてないW.G.T.C.がおかしいと思うのだけど…。」
「『実直な仕事には、ふさわしい報酬を』。これさえ守ってたら不良でもちゃんと働いてくれるぞ。」
「俄かには信じられませんが実績が伴ってるので何も言えませんね…。」
「いや、ネイト兄がヒナ並に強いっていうのも大きいと思うよ。」
そんな風におしゃべりをしながら廊下を進んで行き、
「ここがゲヘナの食堂よ。」
給食部の活動場所である食堂にたどり着いた。
体育館をいくつも繋げたような部屋に長机がいくつも並び椅子もかなりの数置かれてある。
「おぉ~流石に広い…。ウェストポイントを思い出すな…。」
「ウェストポイント?」
「俺がいた陸軍士官学校のことだ。数千人の士官候補生が一斉に食事をとってたからこんな感じに広い食堂だったなぁ…。」
と、郷愁に少し浸ってしまったネイトだが…あることに気付く。
「…ところで、給食部って何人なんだ?」
これだけの収容人数の食堂。
それは用意しなければならない料理も莫大な量となることとイコールだ。
士官学校でもかなりの人数の料理人がいたが…。
「それは…。」
ヒナが言い淀んでいると、
「あ、ネイトさんに皆さん!来てくれたんですね!」
食堂の向こうにある厨房からフウカの声がした。
「やぁフウカ。お誘いありがとう。」
「ご飯を頂きに来ましたぁ♪」
「どうぞ空いてるお席へ!今お水を用意しますね!」
「…とりあえず座りましょうか。」
せっかくなので全員厨房近くの席に座ることに。
「…あれ?」
そこでようやくネイトも不審な点に気付いた。
ランチタイムが過ぎ確かに今は手が空いている時間だろう。
だが…それにしても厨房に生徒の姿が見えない。
いや、見えないではない。
「フウカ先輩、これはどこに…。」
「それは使うかもしれないからそこに置いといて、ジュリ。」
お冷を準備しているフウカと食材が入っているであろう段ボール箱を抱えているエプロンと三角巾を付けた生徒の二人しかいない。
「…なぁ、空崎ヒナ。まさかとは思うが…。」
嫌な予感がしてヒナに再度尋ねると…
「えぇ…そのまさかよ…。」
なんとも重々しい雰囲気で答えた。
「お待ちどうさま、お冷をどうぞ。」
ちょうどそのタイミングでフウカがお冷を持ってきてくれた。
「あぁ、ありがとう。」
「本当に来てくださってありがとうございます。何でも言ってください、腕によりをかけて作りますから!」
と、気合十分なフウカだが…
「その…フウカ。つかぬことを聞くが…。」
「なんですか?」
「給食部って…君とさっきの子の二人なのか?」
ネイトのこの質問に…
「…ハハッ。」
先ほどまでと打って変わって目が死んで*1乾ききった笑いが返ってきた。
「…えぇ、私たち給食部は私と後輩の『牛牧ジュリ』っていう生徒の二人体制なんです…。」
『えぇ…!?』
これにはネイトもノノミも便利屋68もあんぐりするしかない。
このマンモス校の厨房をたった二人で?
正気の沙汰とは思えない。
「一食用の目玉焼きだけでも4000枚は作らないといけないんですが…やっぱり大変なんですよね…。」
「よ、4,000枚…ですって…!?」
「しかも美食研究会や不良たちが暴れるんでその対処とかも…。」
「そっそれは…。」
「そのたびに備品や厨房の機材は壊されるしハルナは私を攫うし…。」
「Oh…。」
聞くだけでも尋常ならざる職場環境だ。
「でッでも!私って料理作るのが大好きですし、お腹が空いてる生徒さんたちのために何かしたいから自分で給食部に入ったんでこのくらいへっちゃらです!」
そんな環境であっても誰かのために料理を作ることを誇りにしている健気なフウカを見て…
「「「「「「なんていい子なんだぁ(ですか)(の)…!」」」」」」
「えぇッ!?ちょっと皆さん!?」
ネイトたちは涙を流すのであった。
「そっそうだ!ネイトさん達、アビドスの給食ってどうなっているんですか?!」
空気を換えようとフウカがネイトに尋ねる。
今やアビドスもそこそこの規模の学校となった。
そんな学校の給食事情、やはり給食部として気になるのだろう。
「特に変わったところはないな。なんだっけ…ワンスープ?」
「一汁三菜ですね。基本的にそんな感じの献立ですよぉ。」
「たまにカレーとか牛丼とかも出てきてたわね。」
「へぇ…でも生徒さんだけじゃなくて日雇いの方とかもいらっしゃるんで用意する生徒さんたちも大変そう…。」
聞く限りは自分たちと特に変わらない給食事情にフウカも作り手の苦労を考えるが…
「ん?作るのは殆どロボットだぞ?」
「…ハイ?」
ネイトのこの一言に固まった。
「ろ、ロボット?ロボットが給食を?」
「はい。他にも事務作業や電話応対など多くの場面でアビドスではネイトさんのロボットが活躍してますよぉ。」
「事務作業まで…!?」
「凄いわよ。オートマタなんか目じゃないっていうくらい人みたいな応対するんだから。」
「料理だって人が味見して調整すれば学習してアドリブ利かせられるようになってたね。」
「そ、そんなロボット…ミレニアムだって作ったなんて話聞きませんよ…!?」
これにはフウカだけでなくヒナとアコまで驚いている。
『アサルトロン』や『セントリーボット』といった戦闘用ロボットの存在はすでに広く知られたところ。
ヒナも一応柴関ラーメンで『タカハシ ジロウ』を見ているので料理ができるロボットの存在は少し知っていたがまさか事務作業まで携わっているとは知らなかった。
「今は生徒や日雇いに短期雇用も増えたから…余裕を持たせて8機体制で飯場を任せてる。」
「栄養も味もばっちりで日雇いの人たちにも大好評なんですよぉ♪」
と、ここ前アビドスの給食事情を紹介してきたネイトとノノミだが…
「う、羨ましいぃぃぃ…!」
それをフウカは羨望の眼差しで聞き入り、
「疲れを知らないロボットの事務員…!」
「そんなのズルです…!インチキですよ…!」
ヒナとアコも羨ましそうに話を聞いていた。
「「………。」」
ネイトとノノミはそんなフウカやヒナを見て顔を見合わせ頷き合い…
「リースとしてならそっちに派遣することも可能だが?」
「「「…え?」」」
「ご要望に合わせて武装も装着可能ですよぉ♪」
「今ならそうだな…5機纏めて契約してくれるなら1機オマケしよう。」
突如としてセールストークが始まった。
先に挙げたロボット、つまりMr.ハンディやMs.ナニーだが…今はW.G.T.C.の製造品だ。
資材さえあれば量産でき、だから労働力として重宝されている。
今更数十体ほど増産しようと大した負担ではない。
リースであるなら所有権をネイトたちにしたまま労働力を給食部や風紀委員会に派遣できるということだ。
「…いいんですか?」
恐る恐る尋ねるフウカだが、
「まぁ…これで労働環境が少しでも良くなるなら協力させてほしい。無論、受け取るものは受け取らせてもらうが。」
「フウカさんや風紀委員長さんたちが倒れたら大変ですもんね。」
ネイトはこの学校の食事事情を小さな体で支える彼女への敬意を表して答える。
無論、ビジネスなので利益は確保させてもらうが…それでも彼女の努力と健気さを聞いてどうにかしたいという思いもネイトの中には確かにあった。
「それに店長も業務用冷蔵庫の調達に苦労してるらしい。部下の悲鳴を無視するのは上司のすることじゃないからな。」
「うッそれは…!」
「それでどうする、フウカ?」
改めてフウカにどうするか尋ねると…
「………お願い…してもいいですか?」
おずおずとではあるが彼女はネイトの申し出を承諾した。
「私もいいかしら、ネイトさん?」
さらにヒナもこのリースを受けたいと申し出る。
「分かった。帰って見積もりと契約書を作成して郵送しよう。」
「はぁ…なんだか肩が軽くなったような気がします…。…さぁ、改めてネイトさん。何を召し上がりたいですか?」
先程よりも表情が明るくなったように思えるフウカが笑顔を浮かべ再びそう尋ねる。
「それじゃあ…。」
しばらくし、
「お待たせしましたぁ!」
ネイトたちのいるテーブルのど真ん中にどんと大皿が置かれた。
「ネイトさんのお話の通り作ってみましたけどどうですか?」
トマトソースで和えたスパゲッティにデミグラスソースを絡めたミートボールがごろごろと入った料理…
「…うん、完璧だ。『スパゲッティ・ウィズ・ミートボール』、まさにこれだよ。」
「よかったぁ。ちょうどハンバーグのタネも残ってたので再現できてよかったです。」
『スパゲッティ・ウィズ・ミートボール』、アメリカで広く親しまれているイタリア系アメリカ料理だ。
フウカはこれをネイトの話だけで完璧に再現して見せたのだ。
「いい匂いです♪フウカさんは本当に料理が上手なんですねぇ♪」
「これがネイト兄さんの故郷の料理…!」
「ごッ豪快な料理ですね…!」
「でもすっごくおいしそう!」
「フフッネイト兄もわんぱくだね。」
「これは…初めて見るパスタ料理ね…。」
「ミートソースじゃなくてミートボールなんですね…。」
ノノミ達も中々キヴォトスでは見られないその料理に見入っている。
「はい、取り皿です!冷めないうちにどうぞ!」
「じゃあ…いただきます。」
取り皿に料理をよそいネイトが一番最初に口にすると…
「…うん、旨い。そう、こういう味だったなぁ…。」
ピザやホットドッグなどキヴォトスに来てから戦前を思い出せる料理はいくつも食べてきたが…その中でもフウカが作ってくれたスパゲッティは最高のものだ。
「ほぅっお口にあったようでよかったです。」
「ありがとう、フウカ。また故郷を思い出す味に出会えたよ。」
「ふふ、ありがとうございます。さ、皆さんも食べてください。」
「では、いただきまぁす♪」
そして、ノノミ達もそれぞれの取り皿によそい料理に舌鼓を打っていく。
「んん~おいしい♪今度自分たちでも作ってみようよ、アルちゃん♪」
「そうね。…お金がないときでもパスタならお財布にもやさしいし…。」
「そういう暗い話は無しにしようよ、アル…。でも本当に美味しいよ、フウカ。」
「はっハンバーグもスパゲッティも一緒に食べれるなんて…こんな贅沢していいんですか…!?」
「今度のお昼に作ってみるのもいいかもですねぇ♪作業員の皆さんも喜びますよぉ♪」
「シンプルだけど美味しいわ、フウカ。メニューに加えたらいいんじゃないかしら?」
「あら委員長、お口にソースが…。」
「いやぁ本当に旨い。これは止まらんな…。」
「ちょ、ネイト兄さん!?よそい過ぎよ!?」
「フフッたっぷり作ってますからあわてないで、アルさん。」
賑やかに進んで行く食卓。
こうして、ゲヘナで繰り広げられた策謀と暴力が渦巻いた一日は美味しい料理で幕を閉じるのであった。
なお…
「なっなんだこれはあああああああああ!!!」
後日、チアキが発行した『週刊万魔殿』の表紙がイブキを膝に乗せたネイトと彼女をお世話するノノミの写真だったのでマコトが大いに荒れたというのは別の話。
周年記念の企画のご提案、ありがとうございました
今週日曜に向けて選択し執筆を始めていきたいと思います