Fallout archive   作:Rockjaw

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仕事関連が忙しく投稿が遅れ申し訳ありませんでした。


Operation: Returning Pequod:Disturbances and Briefings

ゲヘナ学園のアビドス勢力との実弾演習の通達。

 

三大校と今メキメキと復活を遂げている古豪のこの動きにキヴォトスの有力な組織は大いに注目する。

 

中でも特に大きな動きを見せたのは二組織。

 

「防衛室、何か最新の情報は?!」

 

「現地の情報では万魔殿の戦車及び車両部隊がすでに貨物列車にてアビドスに入っているとのこと!」

 

「他にも歩兵部隊の移動も確認、一部風紀委員会の部隊も動員されています!!!」

 

一つはこのキヴォトスの統治組織である連邦生徒会。

 

ゲヘナからのこの通達はまさに寝耳に水。

 

主席行政官兼連邦生徒会長代理のリンを筆頭に各部署が大慌てで情報収集を行っているが…

 

「交通室より報告、ハイランダー鉄道学園中央委員会が連邦生徒会の協力を拒否!」

 

「なんですって!?」

 

「『正当な依頼に基づく行動のためゲヘナ及びアビドス両校から許可がない限り情報公開は行わない』との通達が!」

 

「では、昨日のW.G.T.C.の貨物に関する情報は…!」

 

「そっそちらもW.G.T.C.との契約の関係で情報公開は行わないと…!」

 

正直あまりうまくいっていないのが現状だ。

 

なにせ、相手は三大校の一角であるゲヘナ学園。

 

軍事力は言わずもがな、万魔殿の実質的な独裁状態故に治安の悪さ以上の内政の実情が漏れることが少ない。

 

その学校規模によって生半可な学校の批判などどこ吹く風なのも大きい。

 

それ以上に…アビドスが問題だ。

 

あれほどの戦力を開戦勃発まで隠し通し今なお連邦生徒会ですら把握できていない兵器まで保有しているその防諜能力はキヴォトスで間違いなく最強クラスだろう。

 

おまけに連邦生徒会との関係性は『最悪』の一言。

 

再三のコンタクトにも沈黙を貫き続けている。

 

W.G.T.C.に対する探りも杓子定規な機械音声の対応で全く進んでいない。

 

「クゥ…!シャーレの先生はまだ戻らないのですか!?」

 

こうなれば超法規的捜査機関のシャーレの出番なのだが…

 

「さ、昨日『百鬼夜行連合学園』からの要請で出張中で戻られるのは移動日込みで少なくとも数日はかかるかと…!」

 

折り悪く、先生は別の学校へ生徒の困りごと解消のため出張中。

 

数少ないアビドスと連邦生徒会の窓口も使えないとなると…

 

「一体何がアビドスで起こっているのですか…!?」

 

こんな一大事だというのに連邦生徒会にはもう打つ手がない状況だ。

 

僅かに把握できているのはこのタイミングでW.G.T.C.が何らかの物資をアビドスへ輸送しているということのみだ。

 

実弾演習、W.G.T.C.の極秘輸送物資…どう考えてもこの二つが無関係なわけがない。

 

しかし、それを結びついた結果が一切分からない。

 

ただでさえ連邦生徒会の弱体化と各地の学校からの支持率の低下が進んでいる現状でこの一大事だ。

 

「クゥ…!エデン条約締結も間近だというのにゲヘナは一体何が目的で…?!」

 

さらにはタイミングも理解不能だ。

 

近々、ゲヘナとトリニティという長年いがみ合ってきた三大校の内二校が不可侵条約を結ぶというこのタイミングだというの一切情勢を省みない行動。

 

(それを行うだけの何かがアビドスに…!?)

 

だが、そのなにかは一切分からない。

 

「…とにかくどんな些細な情報でも構いません!ゲヘナ、ハイランダー、アビドス、W.G.T.C.が何を企図してこの演習を行っているかを解明してください!」

 

まるで暗闇の中でもがく様にリンたちはこの事態の解明を急ぐ。

 

連邦生徒会ですらこの慌てようだがさらに大混乱なのは…

 

「ナギサ様、パテル分派に侵攻準備の兆候が!!!」

 

「一部派閥も不穏な動きが認められています!」

 

「事態鎮静化のために正義実現委員会に出動を要請してください!!!今、ゲヘナに踏み込むなどあってはなりません!!!」

 

ゲヘナのライバル校トリニティ総合学園だ。

 

あの通達がキヴォトス全体に広がってから学区内はまさに二分化されてしまった。

 

要はこの事態を見守る穏健派と今が好機と攻め込もうとする過激派の二派閥だ。

 

確かに万魔殿を筆頭にゲヘナの戦力がアビドスに出払っている今ならゲヘナは手薄だ。

 

長年の仇敵を攻め落とすなら絶好のチャンスだろう。

 

だが、そんなことをしようものなら全面戦争は避けられない。

 

『エデン条約』という不可侵条約を結ぼうとしている中でそのような不意打ち同然の行動をしようものなら…。

 

「軽はずみな行動を控えるよう全派閥に通達を!!!今、ゲヘナと戦端を開こうものならトリニティはキヴォトスで未来永劫後ろ指をさされる恥辱をこうむることになるのですから!!!」

 

最早それは戦争ではなく大規模な武装テロだ。

 

あの声明以来、ナギサは暴走しそうなトリニティの派閥を抑え込むのに忙殺されている。

 

だが…

 

「大変だねぇ、ナギちゃん。」

 

同じくティーパーティのミカはのんびり紅茶を楽しんでおり全く慌てている様子を見せていない。

 

「ミカさん、貴方もパテル派の方々に落ち着く様に声明を…!」

 

暢気な幼馴染であり同僚の彼女にナギサは事態収拾を求めるが…

 

「…ナギちゃん、それは…私がパテル派の長だって分かっていってるの?」

 

「クッ…!」

 

ミカは冷静にそう返す。

 

そう、ミカはパテル分派…『力』を信奉するアンチゲヘナの急先鋒ともいえる派閥の長だ。

 

「私としては今がゲヘナを攻め落とすチャンスだっていう派閥の子達の気持ちはとっても分かるよ。出来るのならここでお茶飲んでるんじゃなくて早く戦いの準備をしたいところなんだよねぇ。」

 

「………ッ!!!」

 

そんな派閥の長がゲヘナが手薄になっている今を見逃すわけがない。

 

パテル分派の行動はミカにとっては何のことはない。

 

派閥の方針にこれ以上ないほど合致している当然の行動なのだ。

 

例えナギサの幼馴染とは言えど…ここはティーパーティという政治の場で彼女は別派閥のフィリウス分派の代表。

 

公私はきっちり分けるのは当然、故にこの事態に対する態度も違って当然なのだ。

 

では、なぜそんなミカがこうしてこの場でティータイムを楽しんでいるかというと…

 

「まぁ、戦争起こすにはホストであるナギちゃんの承諾がいるからできないんだけどねぇ…。」

 

そう、これはあくまで『政治』の場だ。

 

幼子がやる取っ組み合いの喧嘩とはわけが違う。

 

現状のティーパーティのホストはナギサだ。

 

彼女がGoサインを出さない限り、いかにパテル分派と言えど独断でゲヘナに攻め込むわけにはいかない。

 

それくらいの分別はミカも持ち合わせていた。

 

「ですからパテル分派の方々に冷静になるようミカさんから声明を…!」

 

と、再度ナギサがミカに事態の鎮静化への協力を要請していると…

 

「失礼します!!!情報部より報告が!!!」

 

執務室に一人の生徒が飛び込み…この日二度目の衝撃的な情報を報告する。

 

「ぱっ万魔殿がW.G.T.C.に不在中の戦力補填として戦闘型ロボットの派遣を要請しW.G.T.C.が承諾!!!」

 

「なっ…!?」

 

「すでに機体名『アサルトロン』及び『セントリーボット』の大部隊が現地入りして風紀委員会と協力し学区内の警戒に当たっているとのこと!」

 

W.G.T.C.のゲヘナへの支援戦力の派遣。

 

ただの一機であっても並のキヴォトス人を凌駕するロボットソルジャー。

 

不本意ながらその脅威を最も知るのがトリニティである。

 

それが万魔殿の要請で多くがゲヘナ入りしたというのだ。

 

ゲヘナを離れた戦力を差し引いても…おそらくおつりがくるだろう。

 

「さ、さらにW.G.T.C.から指揮官として同社所属の元カイザーPMC理事も派遣されたという情報も!!!」

 

「か、カイザーPMC理事が…!?」

 

さらに悪いニュースもあった。

 

カイザーPMC理事、確かにあの戦争で敗れはしたものの元はキヴォトス最高峰の民間軍事会社を率いていた人物。

 

その指揮能力は決して甘く見れるものではない。

 

「なぁんだ。ただのロボットなんて物の数じゃ…。」

 

この事態をなんとも楽観的にとらえているミカだが…

 

「学区内全域に『戦闘準備解除命令』の放送を掛けます!!!すぐに準備をしてください!!!」

 

「はっはいぃッ!!!」

 

「ちょ、ちょっとナギちゃんッ!?」

 

ナギサは血相変えて情報部の生徒に命令し、ミカの声を無視し執務室を飛び出していった。

 

今まではもし『有事』であってもそれはゲヘナとの戦争になるだけだ。

 

だが、W.G.T.C.の勢力が現地入りしたとなると…事態はより一層悪くなる。

 

それはすなわち…有事の際はゲヘナ+W.G.T.C.の連合軍がトリニティと戦争状態になることに他ならない。

 

その場合、アビドスからW.G.T.C.本隊がトリニティに攻め入るだろう。

 

カイザーを一方的に叩き潰したあの戦闘集団が、だ。

 

そんな勢力とゲヘナという二正面攻勢を凌げる余裕はトリニティにはない。

 

(なんとしてもッ!!!なんとしても全面衝突は避けなければ!!!)

 

トリニティの未来、そして『エデン条約』を締結させるためナギサは動く。

 

「…あぁ~あ…やっぱりあの人もセイアちゃんみたいにしてもらおうかなぁ…。」

――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

さて、キヴォトス各所が混乱状態に陥っている中、アビドス砂漠の一角にて…

 

「キキキッ貴様が明星ヒマリ、情報では知っていたが生で見るのは初めてだな…。」

 

ゲヘナ学園『万魔殿議長』羽沼マコト、

 

「えぇ初めまして、羽沼マコト議長。ミレニアム『特異現象捜査部』で部長を務めています明星ヒマリと申します。」

 

ミレニアムサイエンススクール『全知』明星ヒマリ、

 

「やぁやぁどうも、マコっちゃん。おじさんも君とは顔を合わせるのは初めてだねぇ。」

 

アビドス高等学校『生徒会長』小鳥遊ホシノ、

 

「フンッ小鳥遊ホシノ…風紀委員長が警戒していたやつとはとても思えんな。…あと、マコっちゃんと呼ぶな。」

 

「まぁ硬い事いいっこなしでぇ。ヒマリちゃんも初めましてだねぇ。」

 

「初めまして、ホシノ生徒会長。その節はW.G.T.C.との協定を承諾していただき感謝します。」

 

錚々たる顔ぶれが一堂に会していた。

 

「しかし、妙なものだ。『自由と混沌』が校風の我がゲヘナがこうして他校の重鎮と顔を合わせともに同じ方向を見ることになるとはな。」

 

「私たちミレニアムは今回オブザーバーですが…確かにこんな状況は奇妙な気持ちですね。」

 

「おじさんも少し前までこんなことになるなんて思ってなかったよぉ。長生きしてみるもんだねぇ。」

 

学校=国家でもあるこのキヴォトス。

 

そんな場所において強力な力を有する者たちが一つの目的のために一堂に会することなど非常にまれだ。

 

「キキキッ全く…あの男は片手間にこのようなことを実現してしまうとは…。」

 

「えぇ…連邦生徒会長がいた頃でもこんな事が実現した記録すらないというのに…。」

 

「うへぇ~本人は一切そんなこと考えてはいないんだろうけど…本当にやっちゃったんだもんねぇ。」

 

そう、ここに一堂に会したのは全てあの男の手腕によるものだ。

 

状況が大きく作用した部分もあるだろうが…彼によってこの三つ…いや『四つ』の学校は束ねられ一つの共同体としてこの日を迎えた。

 

「さて…そろそろブリーフィングが始まる。私達も向うとしよう。」

 

「熱砂の猛将にして『ロンギヌス』のお手並み拝見ですね。」

 

「うん…きっと勝てるよ。ここに集まったみんななら。」

 

三人はともに踵を返し…『大オアシス駅』の格納庫へと歩を進めていくのだった。

 

中が見えないように垂れ幕が提げられた入り口を通り格納庫内に入ると…

 

「戦車の砲弾・燃料は満載しろ!それからエアフィルターのチェック!」

 

「戦車長!88㎜タングステンAPFSDS装弾筒付翼安定徹甲弾をW.G.T.C.から受領しました!」

 

「了解、全車両に積んでください。それから足回りの総点検を。」

 

「よぉし、砲身内ピカピカだ!見てろよ、ビナー…!お前に240㎜砲弾を叩きこんでやるぜ…!」

 

「ん…チェーンの張りも問題なし。オイルも…大丈夫だね。」

 

「よし、カーゴボットのセッティングも完了…!これで皆さんを支援できますね…!」

 

「モニターの電源コードのチェック、急げ!本番で使えませんじゃお話にならないぞ!」

 

アビドスとゲヘナの生徒が入り混じり戦車や車両に通信機材などの準備とメンテナンスを行っている。

 

昨日からハイランダーの協力によって運び込まれ来る決戦に備え万全の状態を期しているのだ。

 

そんな面々の中には…

 

「よし、誰かレンチをくれないか?」

 

「すまないな、ウタハ先輩。オブザーバーなのに手伝ってもらって…。」

 

「気にしないでくれ。皆が動いてる中じっとしてるのは性に合わないし未知の戦車のエンジンを弄れてとても楽しいんだ。」

 

オブザーバーであるはずのウタハが戦車の整備を手伝い。

 

「…ハイ、これで現場に出てる人員のビーコンと画面がリンクできたよ。ついでに無線音声でドローンが場所を自動判別して支援物資を届けられるようにもしたから。」

 

「い、いやぁ…何が何やらちんぷんかんぷん…。」

 

「これがミレニアムのヴェリタスのスキルか…!」

 

ハレがデータリンクや支援システムの構築など各々のスキルを活かし協力してくれている。

 

「キキキッここの様子をトリニティや連邦生徒会の連中が見たら度肝を抜かすだろうな。」

 

「かつてのサンクトゥムタワーの混乱の時ですら各校の連携ができなかったというのに…。」

 

「いやぁおじさんもここがアビドスだなんて信じらんないよ。時代も進んだものだねぇ。」

 

その様子をしみじみと眺めている三人だが…

 

「…あれ?」

 

「どうかしたか、小鳥遊ホシノ?」

 

「ネイトさんの姿が見えない…。」

 

「そう言えば…ゲーム開発部の子たちの姿も…。」

 

「…むむっ!?いっイブキ!?イブキはどこだああああ!?」

 

ネイトを始め一部の面々やヒナの姿もこの場にない。

 

彼の気質からしてサボりで抜け出した…とも思えないが…。

 

「アヤネちゃーん、ネイトさん達どこ行ったか知んな~い?」

 

「ネイトさんですか?そういえば…。」

 

「どこへ行ったかご存じなんですか?」

 

「30分くらい前に電話がかかってきて苦い表情を浮かべて出かけていきました。」

 

「苦い表情だと?」

 

「はい、それで風紀委員長さんと出かけようとしたらモモイちゃん達やイブキちゃんが一緒に…。」

 

近くにいたアヤネに尋ねると数人を引きつれ外出したようだ。

 

こんな時に外出、しかもネイトが苦い顔をする相手とは?

 

三人が首を傾げていると…

 

「すまない、今戻っ…って何入り口で固まってるんだ、三人とも。」

 

「少し外して申し訳なかったわね。」

 

覆いをまくってネイトとヒナが戻ってきた。

 

「おかえりぃ~。どこ行ってたのぉ?」

 

「まぁ…なんというか急な来客があってな。」

 

「来客?こんな砂漠のど真ん中にか?」

 

「そうよ。私も少し驚いてしまったわ。」

 

「こんなタイミングに一体どんな方が…。」

 

事情は分かったがその来客という人物に全く見当がつかず首を傾げる三人だが…

 

「ッ!そうだ、ネイト社長!イブキはどこへ!?」

 

一緒に出ていったはずのイブキの姿がない事を慌ててマコトは尋ねると、

 

「あぁ~…一つ約束。絶対物騒なことはなしだからな。」

 

そう一言断ってから覆いをめくり外を見せるとそこには…

 

「わぁ…ふわふわだぁ…♪」

 

「ずっと触っていたいですねぇ…♬」

 

目を輝かせながら夢中でそれをモフリ倒すイブキとアリス、そして…

 

「あぁ…///!も、もう少し優しく触ってくださいましぃ…///!」

 

頬を赤らめそんなことを言いながらも二人に自らの尻尾をいいようにさせている目元だけ隠した仮面をつけた着物の生徒がいた。

 

「「「あわわわわ…!」」」

 

それをモモイ達は顔を青くして眺めていて、

 

「「なぁッ!?」」

 

その姿を見たマコトとヒマリは愕然とする。

 

そう、この生徒は…

 

「あら、ワカモちゃんじゃん。お久ぁ。」

 

「ど、どうもアビドスの生徒会長さん…///!こ、このような姿で申し訳ありませんわ…///!」

 

七囚人が一角、『災厄の狐』と称される大犯罪者『狐坂ワカモ』だ。

 

「きっ貴様!!!イブキに何…ッ!!!」

 

イブキの身を案じたマコトが声を張り上げ食って掛かろうとするが…

 

「待て、マコト。物騒なことはなしだといっただろう。」

 

その肩を掴みネイトは彼女を制する。

 

「しっしかしネイト社長!?」

 

「いいから、話はもう付けてる。」

 

「は、話…?!それよりもなぜネイトさんと災厄の狐が…?!」

 

「まぁ話せば長くなるが…。」

 

状況が呑み込めないマコトとヒマリにネイトは説明を始めた。

 

アビドス独立戦争での強襲がファーストコンタクトだったネイトとワカモ。

 

ネイト自身、正直それまでの縁だと思っていたが…

 

「たまに…どうしても自分の中の『衝動』が抑えきれなくなってきたときに俺がその発散に付き合ってるんだ。」

 

割と再会は早かった。

 

先生との約束で自らの破壊衝動を抑えているワカモだが…何事にも限界がある。

 

先生にも迷惑を掛けたくない、それでもこれ以上我慢できない。

 

そんな時に頼ったのが…ネイトだ。*1

 

「まぁ、ここには廃墟もあるし暴れる場所には困らない。ちょうど模擬戦相手も欲しかったところだからウチも助かってる。」

 

「あの晩の熱いひと時が忘れられず…いつもいつもお世話になっていますわ…。」

 

「たまぁにおじさん達も訓練がてら付き合ってるよぉ。」

 

ここはアビドス、ワカモのお眼鏡にかなう強者に事欠くことはない。

 

ネイトも『訓練』の一環としてワカモに胸を借りるつもりでアビドス生徒達を模擬戦に参加させている。

 

なお、フィナーレはいつもネイトかホシノとの一対一のガチンコバトルだが*2

 

「で、ではなぜ今日ここに…!?」

 

アビドスとワカモの関係性は分かった。

 

だが、なぜ今日この場にいるかはまだ理解できずにマコトが尋ねると…

 

「彼女…とんでもない大きな『戦い』の気配を感じて飛んで来たそうよ。」

 

ネイトの代わりにヒナが答えた。

 

あの時もワカモはネイトが行った強烈な『暴』の気配を感じ取り単身乗り込んできた。

 

破壊と略奪を好む彼女故に発達した最早第六感と言ってもいい嗅覚だろう。

 

それを聞いたとき、ネイトも不思議と納得してしまった。

 

「で、追い返すにも後が怖いから…引き入れた。」

 

「はぁッ!?貴様、『災厄の狐』を手勢に加えるつもりか!?」

 

サラッととんでもないことを明かすネイトにマコトは目をかっ開いてツッコむ。

 

犯罪が日常的なキヴォトスにおいて別格の危険人物である狐坂ワカモをだ。

 

正気の沙汰とは思えないが…

 

「じゃあマコトがお引き取り願ってくれよ。」

 

「うぐッ…!」

 

そう言われると言葉に詰まる。

 

相手は七囚人、自分の口八丁でどうにかできる相手ではない事はマコト自身がよく分かっている。

 

それが証拠に…

 

「ウフフフ…。」

 

露になっている口角が吊り上がるワカモ。

 

これはてこでも動かないようだ。

 

「大丈夫ですよね、マコト先輩!ワカモ先輩はパパとしっかり約束しましたから!」

 

と、ワカモの尻尾を撫でながらアリスがマコトに彼女が今は安全であると伝える。

 

「約束…ですか?」

 

「はいっ!パーティに加入する代わりにパパの指揮下に入るとパパと約束してました!」

 

「そうだよ~、ねっワカモ先輩♪」

 

「フフッえぇ。此度、ワカモは先生の『師父』であるネイト様の命に従いますわ。」

 

アリスとイブキに尻尾を撫で回されながらで少々格好はつかないが胸に手を当てネイトに恭順を誓うワカモ。

 

「…分かった。ネイト社長、奴が何かしでかしたら貴様の責任だからな。」

 

「無論だ。その時は俺がきっちりカタを付ける。」

 

こうなるともうマコトも認めざるを得ない。

 

「私としては…これほどまで強者の方々がお集りならば一戦交えるのも…。」

 

と、内なる凶暴性をにじませワカモがそんなことを言うが…

 

「そんなことしたら二度と発散に付き合わないぞ?」

 

「あぁん…それはいけずですわぁ、師父様ぁ…。」

 

「………なんだか話に聞く災厄の狐と同一人物とは思えませんね。」

 

ネイトのその一言で尻尾と耳がへたり込み凶暴な表情が引っ込むのであった。

 

「というより…命知らずすぎないか、貴様の娘…?」

 

「それはいわゆるブーメランですよ、マコト議長?」

 

「何を言う!イブキのは『勇敢』という…!」

 

「邪な気持ちがなければこれくらいはワカモも許容しますわよ?」

 

「ともかくアリスにイブキ、お楽しみの所悪いがワカモをこっちに貸してくれ。」

 

「「はぁ~い。」」

 

「よし、皆も中に入れ。ブリーフィングを始めるぞ。」

 

こうしてひょんなことからワカモという新たな戦力も加わったビナー討伐チーム。

 

それからワカモ加入の混乱などを収めて十分ほど後、

 

「よし、少々遅刻してすまなかったがこれよりビナー討伐作戦のブリーフィングを始める。」

 

巨大な地図が置かれたテーブルとプロジェクターが用意され格納庫内に各勢力が一堂に会しビナー討伐作戦、

 

「なお、余りにも名前が味気なさすぎるから俺個人で作戦名を決めさせてもらった。それが…これだ。」

 

そういってネイトがでかでかと地図に作戦名を書き込む。

 

「『Operation: Returning Pequod』…?」

 

「そう、俺の国で長年コアな人気を得ていた小説に出てくる船の名前だ。」

 

「なぜ、その船の名を?」

 

「その船は捕鯨船で…巨大な白い鯨を追いかけていた。ビナーを仕留めるのなら…中々に相応しいだろう?他に何か案はあるか?」

 

『………。』

 

「ないということで話を進めさせてもらう。」

 

こうして『Operation: Returning Pequod』の概要の説明が始まった。

 

「本作戦はアビドス高等学校・ゲヘナ学園・ハイランダー鉄道学園の三校が合意した合同作戦だ。そして…、」

 

ネイトがそういうとプロジェクターによってビナーが映し出される。

 

「目標はただ一つ…ここにいる面々が一堂に会したのはアビドス復興の最大の脅威『砂漠の化け物』退治だ。」

 

改めて見るその巨体と圧倒的な威圧感に息をのむ各校の参加者たち。

 

「要は俺達はこの化け物と一大総力戦を行う。喜べ、化け物退治の栄誉を得られる栄えある一等賞を引いたぞ。」

 

『ハハハッ…。』

 

ネイトの笑えないジョークに乾いた笑いが上がる中…

 

「…やっぱり面倒ですね…。私、後方に控えていていいですか?」

 

ゲヘナの戦車長であるイロハが面倒くさそうにネイトにそう要望を出すが…

 

「キキキッ喜べ社長、前線に出るメンバーが一人決まったぞ。」

 

面白いものを見たようにマコトがティーガーⅠを模した小型の模型を地図の上で滑らせる。

 

「げっ…余計なこと言っちゃいました…。」

 

「安心しろ、イロハ。最初から戦車部隊は前線で殴り合って貰うつもりだったさ。」

 

「安心はできないですね、ネイト社長…。」

 

追い打ちと言わんばかりに最初から前線行きが決まっていたことにげんなりするイロハだが、

 

「話を戻して。戦場はここ、アビドス大オアシス跡地だ。ここはかつて湖底だった場所で他所と違って地盤がある程度安定しているからな。」

 

「先ほど部下に歩かせて確認させましたが確かに虎丸でもスタックせずに走れそうでしたね。」

 

流石は万魔殿の戦車長、戦場の確認は怠っていないようだ。

 

「さて、次は標的『ビナー』についてだ。奴は武装もさることながら脅威となるのはその装甲だ。アヤネ、データと説明を。」

 

「はい。」

 

プロジェクターに映し出される内容がネイトが潜伏調査の際に収めた写真に変わる。

 

「ビナーの装甲は以前我々が破壊した巨大兵器『ケテル』と同一の材質であると想定。比重はアルミの半分でありながら数㎝の厚さがあれば戦車装甲を上回る強度を有します。」

 

「対戦車ミサイルの直撃でも撃破には至らない怪物が持っていた装甲の優に十数倍。まさに鉄壁の守りだ。」

 

この話にざわつくゲヘナの生徒達。

 

アビドスがそんな怪物を討伐していたこともさることながらその怪物を上回る防御力が想定されるビナー。

 

「そんな装甲を持つ相手にどうやってダメージを与えるつもりなんですか?」

 

そんな生徒たちを代表するようにアコが不敵な笑みを浮かべながらネイトに尋ねる。

 

「安心しろ、奴の防御を突破できるであろう方法は二つ用意している。シロコ、準備はいいか?」

 

「ん…準備万端だよ。」

 

ネイトが声をかけるとシロコは格納庫の少々離れた場所に向かう。

 

そこには一枚の金属製の板が置かれている。

 

「アレはケテルの装甲と同材質の板だ。シロコ、撃ってみてくれ。」

 

指示を受けてシロコが板に向って弾丸を放つも火花を少々散らすだけで傷もつかない。

 

「なっなんて強度…!」

 

「あんな金属が存在したなんて…?!」

 

「あれほどの装甲を持つ相手をネイトさんやゲーム開発部の子達は…!」

 

素材にも精通しているミレニアムの面々は顔を青くする。

 

あれほどの金属、しかもそれをアビドスは大量に用い戦力を拡充している。

 

改めてその脅威を認識した。

 

「そしてここからだ。シロコ、次は『アレ』を浴びせてからもう一度だ。」

 

「ん…。」

 

すると、シロコは何やらパラボラアンテナが取り付けられたハンドガンを取り出し引き金を引いた。

 

瞬間、赤黒い波動のようなものが放たれ装甲板に命中。

 

そしてすぐさまシロコが銃で撃ち抜くと…どうだ?

 

装甲板は先ほどよりも鈍い音が鳴りひびが入り深い弾痕が刻まれた。

 

『なッ!?』

 

「『ゼータ放射線』、ある特殊な周波数の波長を浴びせるとこの装甲は脆くなる特性を発見した。」

 

『ゼータ放射線』、かつて古代の遺物で強靭で不老の肉体を得て数百年生きた『ロレンゾ・カボット』という男をその特性を無効化させ死に至らしめた放射線の一種だ。

 

一般的な生物には無害だが…ある種の異常体質を持つ存在にはその力を奪う効果がある。

 

ケテルの装甲も人智を超えた代物、ゼータ放射線の効力はいかんなく発揮された。

 

「そして、これを用いた特殊兵装も開発している。」

 

そう言い、次にネイトが見せたのは…安定翼がついたフットボール大のものだ。

 

「『ゼータパルスボム』、いわば『対神秘』の電磁パルス兵器だ。これを奴に撃ち込めば奴の防御力を提げられるはずだ。」

 

「た、『対神秘』ですか…!?」

 

「安心しろ、喰らったところで死にはしない。死にはしないが…いつもより弾丸が痛くなるから注意してくれ。」

 

「注意は必要だが強力な兵器だな…!」

 

『対神秘』のパルス兵器、その脅威度を感じマコトは冷や汗を流す。

 

「では、ネイトさん。もう一つの手段とは?」

 

「焦らないでくれ、ヒマリ。もう一つの手段…というよりビナーを仕留めるための切り札と言ってもいいだろう。…モモイにミドリッやってくれ!」

 

「オッケェイ!」

 

「はいっ!」

 

「「せぇーのっ!」」

 

ネイトの声に答えるように離れた場所に置かれていた貨物車両にいたモモイとミドリが息を合わせてその車両を覆っていたシートをはがした。

 

「なっなんだあれは!?」

 

「あれがネイトさんが運んでいた切り札ッ?!」

 

その正体を目の当たりにした瞬間、マコトは大声を上げウタハも声をあげて驚愕する。

 

貨物車両数台分の大きさを持つその正体は…

 

「た、大砲…!?」

 

鈍い銀色の輝きを放つ大口径長砲身の一門の大砲だった。

【挿絵表示】

 

「ネッネイトさん、あれは…!?」

 

「『80口径10インチガウスキャノン』、本来は『艦砲』だが保守パーツを組み上げて列車砲として建造し直した代物だ。」

 

かつてケテルを容赦なく粉砕しカイザーの野望を打ち砕いたW.G.T.C.…延いてはアビドスが誇る決戦兵器だ。

 

あれほど厳重な情報統制を行っていたのも納得の代物だが…聡い者はすぐに理解した。

 

「かっ艦砲だと!?今ッ艦砲だといったか、ネイト社長!?」

 

「まさか…あの戦争でカイザーの施設に叩きこまれた青い流星は!?」

 

「そうだ。この砲を搭載するW.G.T.C.保有の艦艇からの超長距離精密砲撃、それがあの流星の正体だ。」

 

その言葉を聞きゲヘナの生徒とオブザーバー達の目がガウスキャノンに釘付けになる。

 

あれがキヴォトスに類を見ない威力を見せつけた正体と何とか理解するように。

 

「わぁ、凄い!アリスの光の剣のグレードアップ版ですね!!!」

 

アリスはというと『光の剣:スーパーノヴァ』の進化系を目の当たりにして大興奮だ。

 

「で、電源は?!」

 

「複数車両に常温核融合リアクター3基と超電導キャパシタ5基設置している。運用に支障はない電力は余裕で得られる。」

 

「じ、常温核融合!?今、常温核融合と仰いましたか!?」

 

「しかも超電導キャパシタ…!?そんなのミレニアムでもまだ構想すら…!?」

 

さらに飛び出す初耳のネイトの技術の数々にヒマリとハレ、ミレニアム最高峰の頭脳を持つ彼女たちですら目を白黒させてしまった。

 

「他にもレーダー搭載のFCS用の車両も用意している。少々微調整は必要だが威力と精度には問題はないはずだ。」

 

「それをビナーに叩きこむ、というわけね。」

 

「そう言うことだ、空崎ヒナ。さて…まだ聞きたいことはあるか、天雨アコ?」

 

「いッいいえ、以上です…。」

 

想像以上の方法が用意されていたためこれにはアコも引っ込むしかなかった。

 

「では次に部隊の振り分けと配置についてだ。」

 

そしていよいよ…作戦の内容に入る。

 

「まずは先に挙げたように万魔殿2個中隊とアビドス戦車部隊1個大隊からなる戦車隊、部隊名『クイークェグ』をイロハと番長の二名が指揮する。」

 

「了解しました。よろしくお願いします、番長さん。」

 

「ゲヘナの戦車長と一緒に戦えるなんざ光栄だぜ。」

 

「両部隊は互いに同数の戦車を率いビナーを包囲するように走行し砲撃を浴びせてくれ。但し、走る方向に関しては必ず同じ方向に走るように。」

 

「狙いをバラつかせるためですね、了解です。」

 

先程は怠惰な言葉を放っていたが自らの役割をしっかりと理解し番長と握手を交わすイロハ。

 

「そして、『クイークェグ』の後方指揮部隊、部隊名『スターバック』はサツキが仕切ってくれ。」

 

「了解よ、ネイト社長。イロハちゃんがいるのなら普段通りにやれそうだわ。」

 

無論、前線の判断だけでなく冷静に戦況を見れる後方指揮もきちんと用意する。

 

「次にテクニカルと歩兵戦闘車混成の機械化部隊と機動砲撃部隊『セクレタリーズ』、部隊名『タシュテーゴ』は部隊長としてノノミとムツキ。奴に目掛けて手あたり次第撃ちまくってくれ。」

 

「は~い♪お立ち台に乗ってビナーの気を引きつければいいんですねぇ♪」

 

「そう言うことならぁまっかせてよぉ、お兄ちゃん♪ビナーの視線を独り占めしちゃうよぉ♪」

 

ある意味戦車部隊よりも危険な『囮』役と言ってもいい部隊にはノノミとムツキ、頑丈さと度胸を兼ね備えた突入役の二人を起用。

 

「『タシュテーゴ』の後方指揮は…カヨコ、やってくれるな?」

 

「いいよ、ネイト兄。私の銃じゃ射程が足りないし今回はムツキとノノミのお守りに回るよ。」

 

「頼んだ。では、後方指揮部隊『スタッブ』を任せる。」

 

その後方部隊を便利屋でもバックアップを担当しているカヨコに任せる。

 

「続いて、オフロードバイク編成の遊撃部隊『パース』をシロコと七転八倒団に任せる。素早い判断が命だ。シロコ、アビドス一の切り込み隊長の実力を見せてやれ。」

 

「ん…任せて。車輪が二つある乗り物ならどんなものでも乗りこなしてみせる。」

 

「頼もしいな。ありったけのロケットランチャーをかき集めた派手な花火大会にしてやれ。」

 

かつてのアビドスとビナーの戦いのデータを基に編成した現代の騎馬部隊であるバイク機動部隊をシロコに託す。

 

「そして、砲撃部隊。残存のアビドス自走砲及び万魔殿自走砲二個中隊の部隊名『ダグー』、奴から距離をとっての砲火支援を頼む。」

 

「任しときな、親分!奴に155㎜を叩きこんでやるぜ!」

 

「フンメル自走砲部隊も万魔殿の名に恥じぬ働きをお見せします。」

 

「頼んだ。そして、砲兵指揮部隊『フラスク』の指揮官として…マコト、行けるか?」

 

「キキキッ誰に物を言っている、ネイト社長?砲兵の扱いでゲヘナにおいてこのマコト様の右に出るものはいないぞ?」

 

これまたかつてのデータで一応有効とされた砲兵部隊の指揮にマコトを選出。

 

「自信満々なのはいいが前線部隊を巻き込むなよ?それからマコト直属にウチの『ブラックヒュドラ』野砲部隊を預ける、適宜ビナーに撃ち込んでくれ。」

 

「ほぉ、なんとも美しい響きの部隊だ…。この私にふさわしい部隊だろうなぁ?」

 

「240㎜野砲一個小隊だ。うまく扱えよ。」

 

「………え?240㎜?」

 

まさかの大物を託されあんぐりするマコトなのであった。

 

こうして続々と編成が決まっていく中…

 

「…ではネイトさん、あの『列車砲』と『ゼータパルスボム』を撃ち込む役目を担う方は?」

 

ヒマリがこの作戦の成否を左右すると言ってもいいガウスキャノンとゼータパルスボムの使用者について質問する。

 

「せっかちなのは淑女らしからぬ振舞いだぞ、ヒマリ。」

 

「なぁッ!?」

 

「そうだよ、部長。早いのは自称言ってるときの口だけにしとこうよ。」

 

「エイミッ!?」

 

「冗談はさておき…ガウスキャノン部隊、部隊名『フェダラー』は想定される戦場から20㎞離れた線路上に布陣。同所までの運転はハイランダーの橘姉妹担当だ。」

 

「パヒャヒャッちゃんと指示通りの場所に運ぶから任せてよ!」

 

「うおー私たちがー切り札ー、大活躍間違いなしー。」

 

ガウスキャノンは列車砲型、やはりここは列車の専門家であるハイランダーのヒカリとノゾミが起用され…

 

「そして、射手には…アル。いけるか?」

 

射手としてこの場で最も優れた狙撃手であるアルが選抜され、

 

「フフフッ…謹んで拝命するわ、兄さん。こんな大役を任せられるなんてアウトロー冥利に尽きるってものよ…!」

 

不敵な笑みを浮かべアルもそれを受け入れた。

 

「頼んだ。W.G.T.C.最強の兵器を預ける。便利屋68社長の実力を遺憾なく発揮してくれ。」

 

「任せて、狙撃には自信があるわ。」

 

が、そうやって自信満々に返すものの…

 

(…どどどど、どっ、どうしましょーーーーーー!!!???幾ら最後の微調整だけとはいえ20㎞の狙撃なんて聞いたことないわよーーーーー!!!???)

 

内心白目を剥きこの作戦の成否に自信が持てないアルなのであった。

 

「ふむふむ…あとは『ゼータパルスボム』は誰が当てに行くか…だね。」

 

そのウタハの問いに…

 

「最前線で殴りに行くメンバーはもう決まっている。」

 

胸を張ってネイトは堂々と答える。

 

「部隊名『エイハブ』、アビドスからは俺、ホシノ、セリカ。」

 

「了解だよ、ネイトさぁん。」

 

「任せなさい。」

 

「ゲヘナからはハルカ、空崎ヒナ、銀鏡イオリ。」

 

「はっはい、兄様!」

 

「準備はできてる。」

 

「わ、私もか…!」

 

「そして…狐坂ワカモ。喜べ、特等席で大暴れできるぞ。」

 

「ウフフフ…委細承知いたしましたわ…!」

 

「わぁお…なんてオールスターズ…!」

 

「キッキキキ…戦争を起こすつもりかと言いたくなるな…!」

 

おそらくこの場にいるメンバーの中でも最高戦力が選抜される。

 

「この7人を二部隊に分ける。俺・ワカモ・ハルカ・セリカが『エイハブ1』。ホシノ・空崎ヒナ・銀鏡イオリが『エイハブ2』だ。」

 

「あら、そういえば…私に弾丸を撃ち込んだ仔猫が貴方でしたわね。」

 

「なっ何よ、また14.5㎜弾撃ち込まれたいの!?」

 

「おっお二人が喧嘩を…!わ、私が消えれば二人とも仲良く…!」

 

「よろしくねぇ、風紀委員長さん。」

 

「小鳥遊ホシノ…今回は仲間として戦場に立てるわね。」

 

「………。」

 

「そして、総合指揮所にアヤネと天雨アコの『ピップ』を置く。各所への補給物資と戦術的再分配を頼む。」

 

「分かりました。オペレーターとして精いっぱい頑張らせていただきます。」

 

「ふふん、この私の活用法を良くご理解しているようで安心しました。お任せを、委員長のサポートは万全に…。」

 

「アコ、個人的な感情を持ち出さないで。貴方がいわばこの作戦の頭脳でもあるんだから。」

 

「…はい。」

 

そして、総合指揮所としてアヤネとアコという二組織でオペレーターとして活躍していた面々を挙げる。

 

今回は多数の対空ミサイルを有するビナーは相手なので航空騎兵隊はそれぞれカーゴボット部隊に分配されている。

 

「以上、これが『Operation: Returning Pequod』の概要だ。何か質問か要望は?」

 

現状の手札で組めるであろう最高の布陣を組んだつもりだ。

 

マコトでさえ腕組みして満足気である。

 

が…

 

「あっあの…!」

 

「…どうかしたか、銀鏡イオリ?」

 

イオリが手を挙げた。

 

全員の視線が一斉に彼女に注がれ…

 

「うっ…!」

 

一瞬言葉に詰まるが、

 

「そっその…私の部隊編成について…。」

 

『エイハブ部隊』についての意見を行う。

 

「なんだ?」

 

「…わ、私をネイト社長の部隊に…加えてほしい…!」

 

ネイトの部隊に加えてほしいと意見した。

 

「なぜだ?」

 

当然、ネイトはその理由を問う。

 

自分たちはその特性上、とにかく身軽である必要がある。

 

連携という点からもヒナと同じ部隊ならイオリもやりやすいという判断だ。

 

それを崩してまで自分の部隊に入りたいというにはそれ相応の理由が必要だ。

 

「そっそれは…その…。」

 

「近接、火力、狙撃。それぞれの役目を振っての部隊構築だ。どういう理由でそれを崩したいか、それを説明しろ。」

 

「………。」

 

説明を求めるもイオリはうつむき言葉が続かない。

 

ネイトも決して意地悪で行っているわけではないが、それでもイオリにネイトを納得させるだけの材料は持ち合わせてなかった。

 

すると…

 

「…私からもお願いできるかしら、ネイトさん。」

 

「い、委員長…?」

 

ヒナも彼女の意見を後押しする。

 

「空崎ヒナ、なぜだ?」

 

「風紀委員会の彼女なら確かに私や小鳥遊ホシノの動きに合わせられるはずだわ。でも…それではイオリにはいつものことなの。」

 

「………。」

 

「だから、この子が新たなステージに上るため…貴方の背中を見せてあげてほしいわ。」

 

そんな部下を思うヒナの意見を聞き、

 

「………はぁー、セリカ。」

 

「分かったわ。」

 

「よし、銀鏡イオリ。そこまで言うならセリカと変われ。死ぬ気で喰らい付いて来い、でなければ置いていく。」

 

「も、もちろん!」

 

同じマークスマンであるセリカと交代させることでイオリを自分の隊に加えるのであった。

 

「他に何かある者は?」

 

そう言い、ネイトが周りを見回していると…

 

「はいは~い!」

 

「ッと、イブキ?」

 

いつの間にか傍らにやってきていたイブキが元気に挙手し…

 

「見てぇ、ネイトさん!これ、イブキが描いたんだ!」

 

書き込み用に用意していたカラーペンで地図の隅に描いたお絵かきを見せてきた。

 

それは…

 

「アゲハチョウか?」

 

「うん!」

 

子供の絵心で一生懸命に描かれた黄色と黒の鮮やかなコントラストのアゲハチョウだった。

 

「どうしてそれを?」

 

「それはぁ…。」

 

ネイトに題材の理由を尋ねられイブキは新たにこう書き足していく。

 

『ア』ビドス

『ゲ』ヘナ

『ハ』イランダー

 

この作戦に実働部隊として参加する三つの学校の名前だ。

 

その頭文字をとって…

 

「ねぇ、これで『アゲハ』になるでしょ?」

 

「…フフッそうだな。」

 

「キキキッさすがはイブキだ…!」

 

なんともシンプルな題材だ。

 

だが、そんなイブキの純粋な言葉がある種張り詰めていたこの場の空気を弛緩させる。

 

「どうだ、ネイト社長?せっかくだからコレを我々の同盟の旗印にするのは?」

 

「たしかに三校の合意とかじゃ寂しいし格好つかないもんねぇ。」

 

「名前は大事ー。やる気も全然違う―。」

 

と、各校の代表からそんな意見が出たので…

 

「それじゃ…イブキの案だが今作戦の間は…『アゲハ同盟』を名乗ろうと思うが…どうだ?」

 

ネイトが全員に意見を求めると…

 

『賛成ッ!』

 

満場一致でこの名前が採用されるのであった。

 

「なになに?なにが決まったの?」

 

「イブキの絵が上手だってことさ。」

 

「ホント~!やった~!」

―――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

―――

ブリーフィング終了後、準備も終え食事もさっさと済ませ夜を迎えた一同は…

 

『Zzz…Zzz…。』

 

歩哨に立っている生徒以外はネイトがクラフトしたテント、ハイランダーが用意してくれた寝台車のベッドに入り寝息を立てていた。

 

「んむぅ…。」

 

日々業務で数時間しか寝られないヒナも今日ばかりは書類仕事から解放され思う存分眠れているようだ。

 

そんな中…

 

「………。」

 

風紀委員会行政官の天雨アコは眠りに付けないでいた。

 

緊張しているわけではない。

 

訓練や業務で遠出したりもするので寝床の際で寝付けないというわけでもない。

 

だが、どうにも胸のざわめきが収まらないのだ。

 

「………少し外の空気でも吸いに行きますか…。」

 

そう言い、アコは音をたてないように寝床から抜け出す。

 

「う~ぅ、冷えますね…。」

 

夜の砂漠の空気は冷たいがそのおかげで少しざわめきも収まったように感じた。

 

「…綺麗。」

 

そして、頭上には遮るものや周囲に明るい物もなくどこまでも広がる満天の星空が広がっている。

 

こんなに落ち着いて夜空を見られたのはいつぶりだろうか。

 

そんな風に夜空を眺めていると…

 

「あれ、アコちゃん?」

 

「イオリ?歩哨では…ないですよね?」

 

「いや、私もなんだか…ね。」

 

どうやら彼女も眠れないようだ。

 

すると…

 

「あら…?」

 

「どうかしたのアコちゃ…て格納庫が…。」

 

格納庫の一部の電灯が点灯しているのを見つけた。

 

こんな砂漠のど真ん中に盗人が来るとも思えないが…

 

「…行きますよ、イオリ。」

 

「あぁ…。」

 

アコは愛銃であるルガーP08『ホットショット』を抜きイオリもクラックショットを構え格納庫内を確かめるために忍び足で近づいていく。

 

ひっそりと中を窺うと…

 

「どうだ、ウタハ?」

 

「…うん、ばっちりだね。」

 

「こっちも同期が確認できたよ。」

 

ガウスキャノンのそばで何やら作業を行っているネイトとウタハにハレがいた。

 

ネイトが持っているそれは…ある物と全く同じ形をしていた。

 

「夜遅くまで手伝ってもらってすまなかったな。」

 

「気にしないで。こんな凄いのに関われるなんてとても楽しいから。」

 

どうやら作業は終わったようでネイトはその機材をガウスキャノンに備え付けられたケースにしまう。

 

すると…

 

「…おや?ネイトさん、どうやらお客さんのようだよ。」

 

「ん?…そこで何やってるんだ、二人とも。」

 

ウタハが二人を見つけ声をかけてきた。

 

「あっ…その…。」

 

「な、なんだか眠れなくて…。」

 

「そうか…。まぁいい、俺らも一服するつもりだったからこっちに来たらいい。」

 

そういうとネイトはテーブルとイスをクラフトしそれに腰掛ける。

 

「…いやはや何度見ても奇妙奇天烈な力だ。」

 

「もう私は深く考えるのは止めたよ、ウタハ先輩。」

 

やれやれと首を振るウタハと諦めたように息をつくハレも腰かけた。

 

「…で、ではお言葉に甘えて。」

 

「わ、私も…お邪魔します…。」

 

ここまで来て引き返すわけにもいかずアコとイオリも用意された椅子に腰かけるのであった。

 

数分後、

 

「眠れないときと言ったらこれに限る。今日は冷えるからな。」

 

ホットプレートで作ったホットハニーミルクを作り全員に振舞うネイト。

 

「あっありがとう…ございます。」

 

「…美味しい。」

 

アコとイオリもそれを受け取り舌鼓を打つ。

 

温かくまろやかで優しい甘さのそれは二人の胸のざわめきを確かに鎮めてくれた。

 

「そういえばこんな夜中に三人でこっそり何をやっていたんですか?」

 

「ん?万が一の対策を講じてたってところだ。」

 

「対策?」

 

「使わないことに越したことはないが出来ることはしておきたい。」

 

それがあのネイトが持っていた物なのだろうがいまいち要領を得ず首を傾げるアコとイオリ。

 

「それにしても…ミレニアムきっての技術者お二方も駆り出すとはよほど高度な…。」

 

「いや、そうでもないよ。理屈さえわかっていればミレニアム生なら誰でも出来ることさ。」

 

「それをこんな大きなのでやるっていうのは流石に私も初めてだけどね。」

 

「でもこんなのミレニアムでも作れないんじゃ…。」

 

改めて見ても圧巻な姿であるガウスキャノン。

 

このキヴォトスでこんな代物が存在するなど思いもしなかった。

 

「全く…こんなところで私達の夢の一つの『到達点』を目の当たりにできるとは思ってなかったよ。」

 

ウタハもしみじみとガウスキャノンを見上げそう呟く。

 

そう、このガウスキャノンはまさに…

 

「夢の到達点?」

 

「いや、これは個人的な話だから気にしないでくれ。…できるなら思う存分ばらしたいのだが…。」

 

「私もFCSのシステムを一から解析してどんな構造かを調べ尽くしたいなぁ…。」

 

そんな代物が目の前に鎮座していてもう我慢しきれないといった様子のミレニアムの二人だが…

 

「ダメだぞ、ウタハにハレ。」

 

「…分かってるよ、ネイトさん。」

 

「大事なものだもん。今は手を出さないよ。」

 

ぴしゃりとネイトに諫められるのであった。

 

と、

 

「…ついでだ。そっちの武器もカスタムしようか、銀鏡イオリ?」

 

「え?」

 

イオリのクラックショットを見てネイトがそんな提案をしてきた。

 

「いや、別にそんな…。」

 

突然の申し出もあって断ろうとするイオリだが…

 

「マウザーkar98k、確かにいい銃だが…正直扱いに難儀してるときがあるだろ。」

 

「うっ…。」

 

ネイトの指摘を受け言葉に詰まる。

 

イオリの銃は精度の良いボルトアクションだがそ装填数が少ないという欠点もある。

 

『スナイパー』として遠距離に専念すればいいのだろうが…イオリはどちらかというと切り込み隊長。

 

突撃スタイルのため度々その装填数の少なさに悩まされても来た。

 

その時は蹴とばしたり銃で殴ったりという戦闘方法もあるのだが…それは以前シロコにほぼ完封されてしまっている。

 

となると…今のままでは対応しきれない場面も当然発生しうるわけだ。

 

「大丈夫、ネイトさんは凄腕のガンスミスでもあるから。」

 

「ゲーム開発部の子達の銃も以前に比べて性能が格段に向上している。エンジニア部マイスターの私が太鼓判を押そう。」

 

と、そんな技術者集団でもあるミレニアムの二人からそう言われ…

 

「…じ、じゃあお願いします…。」

 

イオリはネイトにクラックショットを差し出した。

 

「確かに。」

 

ネイトもしっかりと受け取り…

 

「なるほど、手荒いが決して粗末に使っているわけじゃないな。しっかりメンテされている。」

 

部品の歪みなどから普段のイオリの扱い方を察しつつ…

 

ガシャン!

 

「ホレこんなもんでどうだ?」

 

「え…ッ!?こ、こんな一瞬で…!?」

 

「装填数を増やす『トレンチマガジン』、威力と精度を高める『キャリブレートパワフルレシーバー』、銃身は『ロングアラインバレル』、ストックに『精密ストック』、照準をつけやすくする『グロウサイト』。あと…専用の銃剣もオマケしておく。」

 

装填数と威力、近接戦を想定し強化された新たなクラックショットの姿をしげしげと眺めるイオリ。

 

その目はまるで新しいおもちゃを貰った子供のように輝いていたが、

 

「ま、それで明日活躍してくれよ。」

 

「!わっ分かってる!アンタたちにだって食らいついて見せるさ、ネイト社長!」

 

ネイトに発破をかけられいつもの勝気な彼女に戻った。

 

「ふっその意気だ。」

 

そんな彼女を不敵に笑い見つめるネイト。

 

すると…

 

「んみゅ…パパぁ~…。」

 

「ん?アリス、どうした?」

 

格納庫のドアを開け眠い目を擦りながら寝間着姿のアリスがやってきた。

 

そううとうとしながら近づき…

 

「パパと先輩たちぃ…夜更かしはいけませんよぉ…。」

 

ネイトの腕に抱き着きトロンとした声で五人に注意する。

 

「…フフッ、そうだな。もう終わったから俺も休むよ。」

 

「じゃあ抱っこしてくださぃ、パパぁ…。」

 

「あぁ、いいよ。アリスもベッドに戻ろうな。」

 

そういうとネイトはアリスを抱きかかえ、

 

「それじゃ四人も早く眠るように。明日も早いんだからな。」

 

アコたちも休むように言い置き格納庫を後にしていくのであった。

 

「フフッもうすっかりパパさんだね。さて、私達も床に就くとしようか。」

 

「そうだね、ウタハ先輩。こんな時間に眠れるなんて久々だなぁ…。」

 

ウタハとハレも用意された寝床へと向かう。

 

「よぉし…そうと決まれば私もさっさと寝ないと…!」

 

カスタマイズされた得物を抱えイオリも寝床へ戻っていった。

 

「………本当に何なんですか、あの人は…。」

 

一人残されたアコはそうぽつりとつぶやく。

 

ここ最近で彼女は様々なネイトを目の当たりにした。

 

『猛将』としてのネイト。

 

『交渉人』としてのネイト。

 

『戦術家』としてのネイト。

 

そして…『父』としてのネイト。

 

「…分かりませんよ、余計に貴方のことが。」

 

アコはそういい、今一度ホットハニーミルクを飲んだ。

 

眠りを妨げていた心のざわめきは…いつの間にかすっかり収まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…アビドスの歴史上類を見ない激闘が幕を開けるのであった。

*1
セカンドコンタクトの被害、廃墟街ワンブロック壊滅

*2
無論、命に別条がない範囲で




アゲハチョウ:『幸運、運気の上昇』、『復活・不滅』などの象徴
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