《外しはしないわ…!》
―――――――――――――ッッッ!!!!!
満を持して戦艦『マサチューセッツ』の力の権化と言える10インチガウスキャノンが放たれた。
砲弾は『ミョルニル砲弾』。
誘導用センサーと可動主翼が装着された弾体直径6インチの総重量120kgにもなるタングステン製の矢だ。
そんな砲弾が…マッハ20でアビドス砂漠を駆け抜ける。
空気摩擦による放電現象によってその軌跡は蒼く輝き、音速を突破した際に生じる衝撃波によってその軌跡に沿って砂漠の砂が舞い上げられ溝が刻まれた。
戦域から20kmというとんでもない超長距離からの砲撃、通常の砲弾なら優に1分近くはかかる距離だ。
それをマッハ20、秒速にして6.8㎞…3秒ほどで駆け抜け…
ズバガオオオオオオオンッッッ!!!!!
「―――――ッ!!?!??!」
ビナーの頭部から10節程離れた胴体右際を抉り取り軌跡上にあった胴部数か所を串刺しにし勢いそのままにオアシス跡地の畔に突き刺さった。
ゼータ放射線による弱体化も収まり本来の強度に戻っていたビナーの装甲。
それらを物ともせず連邦最強の砲から放たれた新型誘導砲弾は今日最高のダメージを刻み込んだ。
そして一瞬遅れて響き渡る砲弾の飛翔音と衝撃波。
「グゥッ!?」
「なっなんて威力と音…!?」
「あっあれが破壊の流星の…!」
「全員、無事かッ!?」
耳を劈く爆音に全員が顔をしかめる。
その光景はミレニアムのオブザーバーたちも目の当たりにし言葉を失っていた。
「な…なんて威力なんだ…!?あの距離からわずか3秒ほどで着弾…!?」
『マイスター』のウタハは自らの夢の到達点の遠さに、
「しかもミレニアムの技術無しでこの精度なんて…!?」
『天才』であるハレは自らが知る技術を上回る性能に。
一方、
「当たった!!!さすがマサチューセッツの大砲だね!!!」
「あの時のよりもずっと速いし正確になってる!!!」
「わ、私のプログラムも、今も役に立っててよかった…!」
この砲撃をかつてマサチューセッツの艦上で生で目の当たりにしいていたモモイ達ゲーム開発部の面々は大興奮。
「あれが…光の剣の別ツリー最高強化形態…!」
アリスも自らの得物『光の剣:スーパーノヴァ』の行き着く先を見て目を輝かせている。
そんな中、
「なぜケテルがここに…!?それにビナーに攻撃を…!?」
ヒマリはガウスキャノンはもちろんだが現れたケテルを分析していた。
特異現象捜査部の部長として見逃すことができない事態だ。
しかも、
(先ほど、ネイトさんは『スフィンクス』と呼称していた…。)
『ケテル』という名称を知っているはずのネイトがそう呼んでいたということは…
(まさか…ケテルを制御下に…!?)
あのケテルはアビドスが戦力化に成功しているということに他ならない。
現にケテル…もとい『スフィンクス』はビナーに攻撃を仕掛け続けている。
「一体どのように…!?」
なんとしても解き明かさなければならない事態だが…
「部長、それは終わってから直接聞いた方がいいかも。」
「エイミ…?」
「これからが本番みたいだね…。」
エイミは冷静に状況を見極めていた。
確かにガウスキャノンの超長距離砲撃は強力無比だった。
だが…
「シギィアアアアアアアッ!!!」
悠久の時を存在してきた中で最も深手を負ってもなお…ビナーは一切怯まない。
アビドス全盛期ですら仕留めきれなかった怪物、そのタフさも理外のそれだった。
その証拠になおも熱線砲のチャージは止まらずその狙いを…
「こ、こっち狙ってッ!!!」
孤立したネイトとイオリに定めていた。
口から放たれる光球は今にも弾けそうだが…
「これならどうだッ!!!」
ガシャン!
ネイトは眼前に黒く艶のある防壁をクラフト。
「そ、そんなので防げるわけが…!」
イオリもあの攻撃の威力が砂を容易に溶かすほどだと聞かされている。
生半可な防壁など役に立たないはずだが…
「いいから隠れて伏せてろッ!!!」
「アテッ!?」
そんな彼女を半ば無視しネイトはその壁の影に押し込む。
「ネイト兄様っ!!!」
「いいから行けっ!!!ワカモッ、ハルカを頼ん…!!!」
ハルカが悲鳴に近い声を上げた次の瞬間、
カッ!!!
ビナーの口から閃光が迸り…
バゴオオオオオオオオオオオッ!!!
かつてカイザーPMCを震え上がらせた熱線砲が発射された。
熱線砲はその直線状の物を薙ぎ払うように奔り、
「か、各車停止してください!」
「クゥッ…間一髪…!」
その軌道上に差し掛かろうとしていたイロハの戦車部隊とシロコのバイク部隊がギリギリで回避した。
熱線砲の通った後は店長の情報通り砂漠の砂が解け赤熱していた。
「ねっネイトさんっ!!!」
「そんなッ!?」
こんな状況ではネイトも…といやな予感がよぎる面々だが…
「あっあれっ!?」
あれだけの熱線の只中にいたというのに灰になっているどころかやけど一つ負っていないことに驚くイオリ。
「行くぞ、銀鏡イオリ!!!」
「わぁッ!!?」
ネイトはThe Problem Solverでビナーをけん制しながら呆けているイオリを抱え遮蔽物から脱出する。
X-02の強度なら焼けた砂の上を数m歩くくらいなんともない。
「ど、どうしてっ!?」
「グラファイト100%の壁だッ!!!」
「ぐ、グラファ…!?」
「要は鉛筆の芯の塊みたいなもの!!!」
「はぁ!?鉛筆の芯であんなの防げるわけがッ!?」
イオリが驚くのも無理はない。
鉛筆の芯など容易く折れてしまうほどの強度しかない。
そんなものであのビナーの熱線が防げた等冗談にもほどがあるが…
「理科の授業サボってたな、お前っ!『炭素』は最高の融点を持ってるんだよ!」
店長からの情報によりビナーの熱線のおおよその温度は把握できていた。
『砂』を構成する主な元素はケイ素である。
ケイ素が液状化、つまり溶解する『融点』は摂氏約1,700℃だ。
対するネイトが構築した『グラファイト』。
炭素で構成された鉱物で『黒鉛』とも呼ばれる柔らかい物質だ。
しかし、その融点は優に摂氏3000℃を超える。
それを『アルケミー・カルドロン』によって生産。
Pip-Boyのクラフト能力によって『グラファイトの壁』をクラフトしたということだ。
強度に関してはそこらの金属にも劣るがビナーの熱線は『温度』による攻撃、実弾などと違い運動エネルギーは無に等しい。
「師父様、よくぞご無事でッ!!!」
「お転婆娘の世話には慣れてるからなッ!!!」
「おっお転婆ってな…!」
なんとか二人はワカモとハルカと合流。
「『フェダラー』、次弾発射までどのくらいだッ!?」
《電力に問題なし!でも…砲身冷却にあと3分はかかるわ…!ごめんなさい、兄さん…!》
ネイトの全幅の信頼を受けて任された役目を果たせず悔しそうな声を上げるアル。
命中はしたが…浅かった。
しかも、マサチューセッツと違い砲身冷却は空気冷却のみのため時間もかかる。
その間、ネイトたちは再びビナーと真正面から対峙しなければならない。
それなのに自分は戦場の遥か彼方で引き金を引くだけだ。
(もっと…もっとよく狙ってたら…!)
最後の最後で詰めが甘かった。
手を握りしめ歯を食いしばるアルだが…
《謝るな、アル!!!お前がやった事は無駄なんかじゃないっ!!!今は次に直撃させることだけを考えろッ!!!》
「ッ!」
《3分くらい俺達で持たせてやるッ!!!お膳立てだってしてやるッ!!!だからお前はお前のできることに集中しろ!!!》
無線から夥しい銃声と爆発音交じりの中でネイトの檄が飛ぶ。
《お前にはそれができるさ、兄妹!!!なんたって俺の妹なんだからな!!!》
そんな激を受け…
「…任せなさい、兄さん!次こそ直撃させて見せるわ!!!」
アルの目に力が蘇った。
「全員、3分だっ!!3分間、なんとしても気張るんだッ!!!」
タイムリミットは決まった。
その間、ビナーにとどめを刺すその瞬間まで全員生き残るだけだ。
そして、ネイトが言っていた通りアルの砲撃は無駄ではない。
「アビドス戦車隊各車、弾種は多目的榴弾!!!狙える奴はビナーの傷口を狙えッ!!!」
「万魔殿戦車隊は弾種、高炸薬榴弾…!こうなればこちらのもの…叩きこんでください…!」
戦車隊『クイークェグ』はその砲口を抉り取られたビナーの傷口に向け砲弾を発射。
ズババババァンッ!!!!!!
「シギィヤアアアアアアアッ!!?」
M1A4E2 Thumperは持ち前の射撃精度、ティーガーⅠは鍛え抜かれた射手の能力で次々に砲弾をビナーの傷口に叩きこむ。
さらに、
《こちら、スターバック。『パース』隊、応答願うわ。》
「ん…どうかしたの?」
《奴の傷口はイロハちゃんたちに任せて貴方たちはさっきの攻撃で脆くなった場所を狙ってちょうだい。》
クイークェグの指揮部隊である『スターバック』のサツキからシロコたちに支援要請が入る。
《ロケット火器では傷口への攻撃は外す可能性があるわ。だったら、イロハちゃんや番長ちゃん達の攻撃が通じる個所を増やす援護をお願いしたいの。》
位置関係でいうとクイークェグの後方にパースは位置している。
しかも、バイクによる高速移動のさ中で直径10m少々の傷口にロケット弾を叩きこむのは確かに困難だ。
ビナーの装甲はゼータパルスボムの影響で損傷が拡大している。
ならば…
「ん…任せて。いろいろなものをこじ開けるのは得意だよ。」
シロコは肩に担いだパンツァーファウストⅢでビナーの傷だらけの胴部に向け発射。
「はッはぁッ!!!ゲヘナの情報部長さんの話は分かりやすいやッ!!!」
「だなっ!!!ウチの茶ぁしばいてる奴等はまどろっこしくていけねえ!!!」
「任せな、ぶっ壊すのなら七転八倒団の出番だぜっ!!!」
七転八倒団の面々もサツキの指示を受け攻撃を再開。
ゲヘナと敵対しているトリニティに所属している彼女たち。
本来なら死んでもゲヘナの…それも万魔殿のサツキの指示など聞きたくもないはず。
が、彼女たちは七転八倒団だ。
ティーパーティへの反骨精神旺盛な上、陰険な気質を嫌う不良にはサツキのシンプルな指示と説明はすっと受け入れられた。
こうして再びロケット弾の煙の緒が多く曳かれ始めたと同時に、
《タシュテーゴはそのまま対空防御。そして…『セクレタリーズ』、狙える?》
カヨコから車両部隊『タシュテーゴ』に指示が飛ぶ。
「待ってたぜ、カヨコの姐さん!!!」
「よぉしテメェら、今まででいちばん急いで準備しなッ!!!」
機動砲撃部隊『セクレタリーズ』、今日初めての出番に湧き上がる。
すぐさま停車し素早く発射態勢を整える。
「じゃあ、何台か『セクレタリーズ』の防衛に回ってー!」
「私もお守りますよ~♪」
その動きに答え周囲に防衛用に数台のタシュテーゴ車両が停車する。
『セクレタリーズ』の日々の訓練の結果、30秒足らずで展開完了。
「砲弾装填!!!」
「装填完了!!!」
「照準完了!!!」
「ぶっ放せぇッ!!!」
ドォンドォンドォンッ!!!
僅か1分足らずで155mm砲弾をビナーに向け発射。
元よりティーパーティ所属の砲兵隊で鍛え上げられた手腕は数百m先のヒナを撃ち抜く腕前がある『セクレタリーズ』。
その腕前はこのアビドスで戦争を経て鍛え上げられ…
ズガガガァォオオオオオンッ!!!
「ギィヤアアアッ!!?」
ビナーの傷口に戦車砲以上のヘビーパンチを叩きこむに至った。
だが、
「カァァァァァッ!!!」
ビナーも黙っているわけではない。
再び全身から発光し熱線砲の発射態勢に入る。
ガウスキャノンは未だ砲身冷却中のため発射はできない。
その代わりに…
「ぶわッぷッ!!?」
「起きたか、マコト議長!!!指示はッ!?」
「し、指示ッ!?と、とにかく撃て!!!」
「あいよ!『ダグー』全車、野郎のドタマにぶち込め!!!ここにある大砲はアル社長のだけじゃねぇってとこ見せつけるんだ!!!」
《オウよッ!口径は小せぇが負けねぇぞ!!!》
《うちの議長が世話になった!任せろ!!!》
伸びていたマコトに水をぶっかけて叩き起こし一応の指示を取り付け『ダグー』と、
「うちらもやるぞ!!!あの蛇もどきにヒュドラの牙を突き立ててやれッ!!!」
ブラックヒュドラ部隊が一斉に発砲。
狙いは…力を籠めるために静止している頭部だ。
先ほどまでは鎖の口篭を破壊しないために避けていたが…それが破壊された今となっては関係ない。
150㎜と155mm、そして240㎜のいくつもの砲弾が…
ズガガガガァァァンッ!!!
「~ッ!!?」
まるで巨大な拳骨が振り下ろされた様にビナーは閉口させられた。
「空崎ヒナっ奴に口を開けさせるなっ!!!」
「分かったわ…ッ!」
熱線砲を放つには口を開くことは必須だ。
ならば…口を開けさせなければいい。
「『イシュ・ボシェテ』…ッ!」
終幕:デストロイヤーから紫の閃光を纏った弾幕が、
「そう何度も撃たせるかっ!!!」
The Problem Solverからはとうとう累計1000発を超え鍛えに鍛えられた弾丸がビナーの下顎部分に着弾する。
ゲヘナ最強の攻撃と連邦でも実現できなかった超強力な弾丸、さらに…
《スフィンクス、機関砲を二人と同弾着地点へ発射!!!》
アヤネの指令を受けスフィンクスも二門の30㎜チェーンガンを発射。
そんな3種類の大火力の攻撃、そして頭上から降り注ぐ砲弾によってビナーは口を開けることがかなわず…
シュバァォンッ!!!
熱線砲が許容量を超え口の横部分のパーツを吹き飛ばし熱線が迸った。
余程の衝撃だったのだろう。
ビナーの頭部が跳ね上がり再び地面に倒れ伏した。
「どうだ、自分の熱線の味はッ!?」
「美食研もあれは遠慮願いたいでしょうね…!」
砂を容易に溶解させる熱線の暴発など考えたくはないが…再び好機到来だ。
「銀鏡イオリ、風紀員会のスナイパーの実力を見せてみろッ!!!」
「もちろん、この距離ならっ!!!」
《セリカさん、その距離なら貴女の武器でも十分な効果が見込めます!!!》
「任せて、アコさん!ぶち抜いてやるわッ!!!」
イオリとセリカ、エイハブ部隊の狙撃手二人が各々得物を構え狙いを定め発砲。
狙いは…ビナーの目だ。
放たれる7.92x57mmモーゼル弾と5.56x45mm NATO弾は真っすぐに飛翔し…
ズババァンッ!!!
「シギャアアアアアアッ!!?」
ビナーの四眼のうち左右の目を一つずつ破壊した。
さらに追い打ちと言わんばかりに、
「ベストショット撮ってやろうか!」
ネイトもThe Problem Solverを構えV.A.T.S.を起動。
狙うはこちら側にある残ったもう一つのビナーの左目。
貯めに貯めたクリティカルも消費しさらに威力が高まった弾丸が…
ズガシャァンッ!!!
「―――ーッ!!?」
目を破壊するだけでなくその奥の回路諸共撃ち砕きビナーは声にならない悲鳴を上げた。
これによってビナーの半分の視界は奪えたはず。
かなりネイトたちに優位となったのだが…
「カァァァァ…ッ!!!」
目を三つ潰され今なお砲弾の雨が降り注ぐ中ビナーは体を捩り全身に力を込め始める。
「なっ何をする気…!?」
「撃ちまくれッ!!!奴にアクションをおこさせるなっ!!!」
熱線砲の使用前の状態からすると何かの大技を放つ前触れであることは確実だ。
他の部隊も一斉に銃撃・砲撃を仕掛け、
《スフィンクス、ロケット弾を投射!》
スフィンクスも切り札の『9M218 122㎜ロケット弾』をビナーに浴びせかける。
シロコたちのロケット弾と比べ物にならない威力だがそれでもビナーは力を込めるのを止めない。
ビナーの攻撃で情報があるうちでまだ見ぬものは…
「ネイトさん、これって!!?」
「エイハブ各員、奴から距離をとれ!!!」
ホシノからの警告を受けネイトは間合いを取るように指示。
「なっなんですか!?何が来るんですかッ!?」
「砂の津波だッ!!!のみ込まれたくなきゃ走れッ!!!」
「津波ッ!?」
ネイトの言葉にぎょっとするイオリだが…
「あらぁ波乗りなら私の十八…!」
バッチコイなテンションで返すワカモ。
真紅の災厄を構え受けて立つ姿勢をとるも、
「馬鹿言ってないで離れるぞ!!!」
「あらぁッ!?」
片手でThe Problem Solverを乱射しつつ彼女を俵担ぎで走るネイト。
「ホシノ、ビーコンをっ!!!」
走り去る中、ネイトは指示を飛ばし、
「了解しましたっ!」
ホシノはチャンバーに直接『ある弾薬』を装填、
「目薬だよ、受け取って!!!」
破壊された右目に向け発砲。
弾丸はそのまま目の中に飛び込んだ。
次の瞬間、
「ガアアアアアアアアッ!!!」
ビナーは満身の力を込めて砂漠の大地を打つと砂がまるで濁流のように押し寄せてきた。
(俺の足なら逃げ切れるが…!)
その速度はかなりの物で徐々にこちらに迫ってきている。
ならば、
「エイハブ部隊、集合!!!」
後退中のエイハブ全員に集合を掛ける。
「分かりましたっ!!!」
「なんとかできるんでしょうねッ!!?」
「ここは彼を信じましょう…!」
すぐにホシノとセリカにヒナは集合。
そして、
ガシャガシャン!
楔形に鉄製の壁をクラフト。
「小柄な奴から奥に入れッ!!!ワカモ、俺達で押し留めるぞッ!!!」
素早く全員その陰に入った次の瞬間、
ズシャアアアアアアアアァァァァンッ!!!
水の数倍の質量を持った砂の濁流が襲い掛かった。
鉄製の壁だというのに凄まじい衝撃が伝わるが…何とか耐える。
背後ではさらに奥まで砂の濁流が流れていく。
「ひっひえええええええ!!!こんなの初めてですよぉぉぉぉッ!!!」
「オールラウンダーに便利な能力ね、クラフトというものは…!」
「逆にネイトさんがいなかったらヤバかったわね…!」
「他の皆は大丈夫!?」
《こちらクイークェグ、こちらまでは砂は届いていません。》
幸い、ビナーのこの攻撃の射程はそれほどではないようだが、
《ッ!?エイハブへ、ビナーが潜航を開始しました…!》
「なんだとッ!?」
イロハからの続報を受け急いで遮蔽から飛び出すエイハブ部隊。
その先には…ビナーが全身を埋め砂煙を巻き上げ泳ぎ回っていた。
「まさか逃げるきじゃ!?」
「いえ、奴はこちらを完全に『敵』と見定めていますわ…!後顧の憂いを断つため、こちらを排除したいはず…!」
《スピーカーも健在です!まだ倒すチャンスはあります!》
幸い、ビナーはその場にとどまり動き回っているだけだ。
「ダグー、遅延信管で砲撃しろ!!!」
《了解だ、砂漠ごと耕してやるッ!!!ブラックヒュドラは徹甲弾を装填しろッ!!!》
「スフィンクス、チェーンガンをぶっ放せ!!!」
即座にビナーが潜航している一帯に多数の砲弾が降り注がせるが…あまり効力が認められない。
相手は地中を高速で動き回れるビナー、直撃弾を出すことも困難な上地上で直撃させるよりも威力が落ちるため仕留めるに至らない。
ならば…
「フェダラー、砲撃準備は!?」
《砲身冷却は完了!!!それに誘導ビーコンの反応も捕捉、次は直撃させるわ!》
「よし、次に奴が現れたら叩きこむんだッ!!!」
『80口径10インチガウスキャノン』の発射準備が完了。
先程ホシノが撃ち込んだビーコンによってさらに高精度での射撃が可能となった。
(あれだけ撃ちこまれれば奴もきつい筈…!必ず、必ずまた頭を出す…!)
ようは潜水艦に向け爆雷を手当たり次第に投射しているようなもの。
ダメージは少なくても必ず息切れを起こす。
その時が決着だ。
そして…
「天羽アコ、奴の行き先を予測しろッ!!!」
《了解しました、マコト議長!判明しているビナーの行動データを送ります!》
マコトがアコにドローンによる誘導を受け…
「キキキッ、そこだっ!奴を俎上の鯨にしてやれっ!!!」
より精密になったブラックヒュドラが発砲、3発の240㎜徹甲弾が…
ズドドドバァオッ!!!
ビナーの鼻先に着弾し大爆発を起こし…
ズバアアアアアアアアッ!!!
「シギィヤアアアアアアアッ!!!」
これはたまらなかったのだろう、とうとうビナーが砂煙を巻き上げ悲鳴を上げて飛び出した。
「キャパシタ、規定充電量準備完了!」
「いつでも行けます、砲術長ッ!!!」
とうとう来た二度目のチャンス。
既にビーコンにより測的は終えている。
あとは…
「今度こそ…仕留める…!」
アルが必中の覚悟をもってトリガーを引く。
―――――――――――――ッッッ!!!!!
再び放たれるミョルニル砲弾が蒼く宙を引き裂きながら飛翔。
狙いはビナーの頭部、命中すればいかにビナーでもひとたまりもない。
…はずだった。
三度言おう。
相手は…『最強校』であった全盛期のアビドスで仕留められなかった怪物だ。
弾着まで3秒ほどという短い合間に、
「カアアアアアアアアッ!!!」
ズババババババババッ!!!
『なッ!!?』
ビナーはその長い胴体を何重にも折り曲げ地上へと露出。
その方角は…ガウスキャノンが展開している方向と合致していた。
(まさかFCSのレーダーを!?)
ネイトのそんな仮説を嘲笑いながら立証するように…
ズバガガガガガガガガァッッッ!!!!!
ミョルニル砲弾はビナーの体に着弾。
一重二重は難なく穿つ。
三重四重と貫いていくが…相手は体長1㎞にもなるビナーだ。
ミョルニル砲弾はビナーの体を貫くたびにその勢いがなくなっていき…
ズバガァッ!!!
あと一歩…あと一歩のところ…
「受け止め…やがった…?!」
「そんなッ…!?」
「ガアアアアアアアアアッ!!!!!」
ミョルニル砲弾は勢いを殺され装甲に突き刺さったところで停止した。
そして、咆哮を上げるビナーが次に狙いを定めたのは…
「ガアアアアアッ!!!」
大口を開け襲い掛かるのは…今なお砲撃を続けるスフィンクスだった。
チェーンガンもロケット砲も釣瓶打ちでスフィンクスも撃つが…
ズバギィンッ!!!
ビナーの大口はスフィンクスに噛みつき…
バギャァンッ!!!
「スフィンクスがっ!!?」
まるで焼き菓子かと言わんばかりに重装甲のスフィンクスのボディーを…噛み千切った。
真っ二つにされたスフィンクスは地面に落とされ…
「ガァッ!!!」
ビナーは再び砂中へ頭から飛び込み再び潜航を開始。
「バッ化け物…!」
「あの砲弾を受け止めるなんて…!?」
「でもあんな馬鹿げたことをして無事で済むわけがないわ…!」
確かに仕留めきれなかったが…代償としてビナーの体を串刺しにするように風穴が刻まれた。
おそらく瀕死もいい所だろう。
「アル、直ぐに次弾を装填!!!」
《でッでも砲身が…!》
「この際ぶっ壊れて構わない!次に地上に奴が出てきたときに仕留めるんだ!!!」
あと一押しだ。
《…分かったわ!再発射準備を急いでっ!!!》
ネイトの意気をアルも汲み最後の砲撃準備に入る。
「『ピップ』、奴の座標は!?」
《現在は速度を落として潜航中!地中のため深度は不明ですがいまだ攻撃可能範囲にいます!!!》
幸い、ビナーもまだ逃走するつもりはないようだ。
だが…
「…師父さま、何か変ですわ…!」
ワカモが警告する。
「変ってどういうことだ、ワカモ…?!」
「ビナーは潜航すれば砂を巻き上げていたはず…!なのに…!」
彼女からの警告を受け改めて周囲を見回してみる。
確かに足下から伝わる揺れに変わりはないが…舞い上がる砂煙の量が明らかに減っている。
「どういうこと…!?」
「あの砲撃を受けてもっと深く潜った…!?」
「だっだとしてもこんなに砂煙が舞い上がらないのは…!?」
逃走の気配はない、だが明らかにビナーは深く砂の中を掘り進んでいる。
揺れに変わりはない、つまり速度もそれほど変わっていないがビーコンの動きは鈍くなった。
「いったい…何のつもり…!?」
その時だった。
ズゥン…
「なっ何…!?何なの今の…!?」
ビナーの起こすそれとはまた違うタイプの…突き上げるような揺れが伝わってきた。
その揺れはネイト達だけではなく、
《こちらアヤネです!なんですか、今の振動は!?》
《こっちでも感じたわ、兄さん!!!》
この一帯全員に等しく伝わったようだ。
ビナーが起こしたものではない。
「………まさか…!?」
ネイトはその結論にたどり着いた。
ここはどこだ?
かつて何だった?
かつて…何があった?
そして…
ゴゴゴゴゴ…
「今度は何なの…!?」
持続的な『縦揺れ』が伝わり始めたその時…ネイトは自分の結論が正しかったことを悟る。
「総員ッ直ちにこの場から退避っ!!!」
「ネイトさんッ!!?」
「急げッ早くここから上に登るんだッ!!!」
驚くホシノを無視するようにネイトは撤退指令を発令。
だが、突然の指令に一同は反応するのに一拍空いてしまった。
その間にも…
ゴゴゴゴゴ…ッ!
縦揺れは徐々にその強さを増している。
「な、なんだかヤバそうな雰囲気!!!」
「皆さんッとにかく近くの土手から登ってください!!!」
「急げッ!!!砲弾を捨てて構わないから早くここから出るんだ!!!」
ようやく全部隊が事態の深刻さを飲み込め急いで退避を開始する。
ゴゴゴゴゴッ
「走れッ!!!近くに来た戦車に飛び乗ってでも逃げるんだ!!!」
「一体何だって言うの!?」
エイハブ部隊も走る中、とうとうビナーの振動にも負けないほど縦揺れが強まってきた。
「皆、早く乗れッ!!!」
「来てくれたんだ、番長!!!」
ネイト以外の面々が駆けつけてくれた番長の戦車に飛び乗る。
「ネイトさんは!?」
「この中で俺が一番足が早いッ!!!早くいけっ!!!」
居残りがいないかの確認のためネイトが走っての退避を伝えたその時、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
とうとう足下が掬われるほど縦揺れが強まった次の瞬間…
ドッバアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
この戦場、『アビドス大オアシス跡地』の中心の地中から…とんでもない大きさの水柱が吹き上がった。
エイハブは白鯨と出会う。しかしその時、この船に乗る者は…ひとり残らず海の藻屑となるだろう…
―――『白鯨』よりイライジャ