―――『白鯨』よりスターバック
「こちら『ピップ』ッ!『フェダラー』、応答を願いますっ!!!」
ビナーによる『フェダラー』の奇襲。
しかも、熱線砲の直撃を受けたというではないか。
偶然、それを目撃していた砲撃部隊『ダグー』によってもたらされた報告を受けアヤネは必死に『フェダラー』へ無線で呼びかけるが…
ザーッ
無線からはノイズが流れるのみ。
「アルさん、アヤネです!!!応答をッ応答を願います!」
ザーッ
「あ、アヤネさん…!」
立て続けに起こった凶事にアコは動揺し動けなくなるが…
「『パース』へッ!至急現場に急行し部隊の安否を…!」
ならばとアヤネが機動力に秀でるシロコたちに現地への確認に向わせようとする。
その時、
ザーッ《こ………ダラ…れか…とう………アルよ、誰か聞こえる!?》
「ッ!?アルさん、無事ですか!?」
ようやくノイズが取れアルが応答してくれた。
《そちらの状況は!?》
「ビナーの奴がこちらの近辺にいきなり現れて熱線砲を撃ってきたわ…!」
《そんなッ!?ビーコンはそちらと離れた方向へ…!》
驚くアコだが無理もない。
手元の端末に届くビーコンの反応はアル達がいる地点とは全く違う場所を差しているが…
「それはビーコンの場所でしょ、アコ…!」
《でッですから…!》
「たぶんビナーはあの水を利用して…ビーコンを摘出したのよ…!」
《なッ!?》
突拍子もないアルの説だが信憑性はある。
ビナーの目はレーダー波を感知していた。
ならばホシノが潰した右目あとに放ったビーコンの放つ電波を感知できるのは当然と言えるだろう。
スケールは違うが…要はプール終わりに目を洗うようなものだ。
あの水流によってビナーの目からビーコンと言う異物を押し流したのだ。
《原因は分かりました!それでそちらの被害は…!》
「私を含めたロボットやハイランダーの生徒に被害はないわ…!」
幸い犠牲は出ていない。
熱線砲が届くまでのタイムラグで何とかアル達は脱出できた。
《そ、それは僥こ…!》
アコはそれに喜びの声を上げるが…
「でも…!」
「被害状況の報告、急いでっ!!!」
ノゾミがハイランダー生徒に被害確認を行わせているが…
「え、FCS車両溶解!!!照準不能っ!!!」
「…聞いての通りよ。」
《そっそんな…?!》
ガウスキャノンの重要設備であるFCSを搭載した車両が跡形もなく熔解してしまった。
《ほ、ほかの設備に被害は!?》
「そこは大丈夫…。」
「ヒカリだよ~…。ビナー、あの車両だけ壊して―また潜ってったー…。」
《それはよかったですが…!》
ビナーに襲われてこの程度の被害で済んだのは幸運と言っていいだろうが…
《ですがもう…!》
FCSがなければ…もうガウスキャノンは使えない。
あの射撃精度は高性能なセンサーがあって初めて実現できる。
それが無くなってしまっては…
「いいえ…ッ!!!まだ…センサーは残ってるわ…ッ!!!」
《り、陸八魔アル!貴女、?何を言って…!?》
それでもアルの目から闘志が消え失せることはない。
いや、その顔には笑みが浮かんでいる。
《FCSはなくなったんですよ!?どこにセンサーなんかが残って…!?》
とうとう狂ったかと言わんばかりにアコが食って掛かるが、
「フフッ…天雨アコ…!貴方も持ってるじゃない…!」
《はぁッ!?》
アルは自信満々にこう答える。
「世界最古のセンサー…『目ん玉』がね…!」
《こんな時に何を馬鹿げたことを言ってるんですか!?》
あまりにも荒唐無稽すぎるアイデアだ。
高度なFCSでの運用が前提のガウスキャノンを目視による直接照準で発射しようというのなど前代未聞である。
《信頼性が低すぎます!!!第一、どうやって砲を操作するんですか!?》
アコは命中率云々以前の問題として砲の操作の問題を指摘する。
「そっそれは…!」
アルはそこまで頭が回っていなかったか言葉に詰まるが…
《あーあー、こちら白石ウタハだ。聞こえるかな、陸八魔アル君?》
「えぇっと…ミレニアムの人よね?」
オブザーバーのウタハが通信に割り込んできた。
《照準の問題だが…それは問題ない。》
「どッどういうこと?」
《ガウスキャノンの基部に開閉可能なハッチがある。その中に答えがあるよ。》
「わっ分かったわ!」
ウタハの指示を受けアルはガウスキャノンの元へと駆け出す。
確かにそこにはハッチがありそこを開け中を見ると…
「こっこれって…!」
アルは言葉に詰まった。
そこにあったのは…
「わっワインレッド・アドマイアー…!」
相棒『ワインレッド・アドマイアー』と同形状のデバイスにヘッドギアが入っていた。
《正確には君の銃と全く同じ重量の同期型デバイスだ。ネイトさんが用意していたのさ。もしもの時に…『マニュアル』でも照準できるようにね。》
「兄さん…!」
《あとは…君の腕次第さ。ネイトさんがこのメンバーで『最高』と認めた君の…ね。》
ビナーが感知できたのはFCSのレーダーのみ。
ガウスキャノンは元より発電設備は無事だ。
そして…照準の問題も解決された。
《し、しかしいくらなんでも…!》
それでも心配そうなアコだが…
《うへ~悪くないねぇ。》
《えぇ、悪くないわ。》
《い、委員長にホシノさん!?》
再び通信に割って入るものが現れた。
「うん、アルちゃんの腕なら十分アリな作戦だね。」
「それにその大砲は元は『艦砲』、20㎞は十分狙える距離よ。」
水が満ちていくアビドス大オアシスを眺めつつ戦車の上で不敵な笑みを浮かべアルの作戦に賛同するホシノと浅く笑うヒナ。
そして…
「全く…とんでもない方ですわ…。20㎞先からあの化け物を目視で撃ちぬこうだなんて…。」
ワカモは呆れたような表情を浮かべたかと思うと…
「ですが…面白い…!なんて面白い作戦なのでしょう…!私もその作戦に張らせていただきますわ…!」
災厄の狐、その異名に違わぬ凶暴な笑みを浮かべた。
《ですがネイト社長は…!》
「今はネイトさんを信じるしかないわよ。何かやるつもりなのは間違いないでしょうし。」
「そっそれにビナーをどうにかしなければ兄様の救出にはいけません…!」
もうネイトがいた場所は水底だ。
助けに行くとしてもビナーが最大の障害となる。
ならば…
「つまり…私達だけであの化け物をどうにかしなくちゃいけないってことか…!」
何をするにもビナーをどうにかしなければならない。
「よぉし、そう言うことなら話が早ぇ!クイークェグはすぐにでもおっぱじめられるぞ!」
《クフフッいいじゃん、それっ!アルちゃん、便利屋68社長の腕の見せ所だよ!》
《タシュテーゴは損害も軽微、直ぐにでも行動可能ですよぉ♪》
《ん…パースは装備補給中、終わったら参加できるよ。》
《こちらダグー、そちらと合流するために移動中!アタシらもまだまだやれるぜ!!!》
ネイトが離脱しても闘志は未だ折れず、この作戦に参加していたほぼ全部隊が参加を表明。
だが…
《何を悠長なことを言っている!?早くイブキのために救出部隊を出すんだ!》
唯一マコトがこの流れに噛みつく。
彼女の心情としては何をおいてもイブキを助けたいのだろう。
それに対し、
「マコっちゃん…。貴方がイブキちゃんを大事にしてるように…私たちにとってもネイトさんは大切な人なんだよ?」
ホシノは彼女を諭すように声をかける。
マコトがイブキを思うようにホシノ…いや、アビドスの全員がネイトのことを大切に思っている。
《あの熱砂の猛将ならそう簡単にやられはせんだろう!?だがイブキは…!》
「そう、その通り。ネイトさんはしぶとい。イブキちゃんが一緒でもなんとか持ちこたえるはず。」
《小鳥遊ホシノ、それは貴様の推測だろう!?》
「でも…今はそれに賭けるしかない。正直、こうやって言い争ってる時間も惜しいんだけど?」
《ぐッ…!》
焦るマコトだが敵はビナーだけではない。
時間も今は敵と言っていいだろう。
そして…
《マコト議長、今はこの作戦とネイトさんに託すしかありませんよ…!》
《イロハ!?何を言って…!?》
《そもそも…イブキの件は私たちの責任なんですから…!》
《………ッ!》
悔しそうなイロハの声に二の句を告げれなくなった。
そう、こうなったのはマコトたちがネイトとの取り決めを反故にしイブキを連れてきたからに他ならない。
ネイトは自分の身を省みることなくイブキを救出に向かってくれた。
自分たちの失態だというのに二つ返事で…だ。
そして、残された者たちは彼を信じビナーを討伐することのみに意識を今なお向けている。
ならば…
《ここで私たちが尻込みするようでは…万魔殿永遠の汚点ですよ…!》
《……いいだろう、陸八魔アル!!!貴様の作戦、万魔殿全部隊が総力をもってサポートする!!!》
自分たちも二人を救うため力を注ぐしかない。
これで全部隊の意志が統一された。
《では…全員傾注!!!作戦を変更し、直接照準砲撃でビナーを撃ち抜きます!各隊は『フェダラー』のためにサポートを!!!》
『了解っ!!!』
アヤネの号令に全員が応答。
そして、まるでそんな一同に答えるように…
ザバァン!!!
「シギィヤアアアアアアアッ!!!」
ビナーが再び水面からその巨体を飛び出させ咆哮を上げる。
唯一残った目にあらん限りの怒りと殺意を宿して。
端から逃亡など考えていない。
確実にこちらを排除するつもりのようだ。
「うへ~あっちもやる気満々だー!」
「上等よ、叩きのめしてやるんだから!!!」
「そうでなくては壊し甲斐がありませんわ!!!」
「イオリ、今度は突撃は控えなさいよ…!」
「わっ分かってるよ、ヒナ委員長!!!」
ホシノ達は戦車から飛び降り駆けだし攻撃を浴び出かけ、
「ドッヂボールやろうぜッ!!!顔面セーフは無しのなッ!!!」
「我々のアイドルを傷付けた礼だ、受け取れッ!!!」
番長たちクイークェグもホシノ達とは逆方向に戦車を走らせ砲撃再開。
今や湖底となった先の戦場と異なり高台に登ったことでビナーの頭部への照準が可能になり次々に主砲を叩きこんでいく。
この時、ビナーは一瞬迷った。
先の戦闘でホシノ達の攻撃も相当自身にとっては脅威だと判断しているが戦車の一撃も馬鹿にはできない。
さらには自身の四つあるアイセンサーで健在なのは右の一つのみ。
ホシノ達はそれを理解しておりビナーの死角である左方向へと動いている。
どちらを優先して排除すべきか一瞬判断に迷ってしまった。
その隙に、
「我々を忘れて棒立ちとは嘗められたものだなッ!!!叩きこんでやれッ!!!」
怒りに燃えるマコトがブラックヒュドラに命じ発砲。
装填してるのは…240㎜徹甲弾。
ボロボロとなった装甲にM1A4E2 Thumperの主砲を優に超える砲弾が叩き込まれれば…
バガガガァォンッ!!!
「ガアアアアアアッ!!?」
いかにビナーの装甲でも耐えきれるものではなく装甲を食い破り内部にまで到達し炸裂した。
「高台に登ったんだ!!!面倒な調整は入らねぇ!!!ぶっ放せ!!!」
「直射で叩きこむんだ!!!イブキ議員とネイト社長の近隣には撃ち込むなよ!!!」
さらにダグーも平射弾道で発砲、運動エネルギーをフルに活かして砲弾を叩きこむ弾道によってさらにビナーの装甲の損傷は拡大。
「ガァッ!!!」
これにはビナーも迷ってる暇はなく重い一撃を叩きこむクイークェグやダグーのいる方向に顔を向ける。
だが、そんなビナーの死角から…
「ん…私達を忘れるのは失礼…!こっちの攻撃だって気にするべき…!」
「ヒャッハー!さっきまでよくも見下ろしてくれたなー!!!」
「ガンくれやがって!!!お返しにロケット弾くれてやるぜ!!!」
そこへ補給を終えたシロコたちパース部隊、
「さぁ皆撃って撃って~!今ならアイツ隙だらけだよ~!」
「お仕置きの時間ですよ~☆撃つ量なら私たちが一番ですから~♪」
ムツキとノノミ率いるタシュテーゴが合流した部隊が夥しい量の弾丸とロケット弾を浴びせかける。
完全にノーマークの方角からの一撃。
そして散々痛めつけられてきた装甲がとうとう剥がれ落ち始める。
「ガアアアアッ!!!」
様々な方角からの攻撃に再度さらされビナーは叫び声をあげVLSを解放するも…
ボシュボシュボシュッ!!!
明らかに先ほどよりもミサイルの発射数がかなり少ない。
「やっぱりあんなの自分の体で受け止めて無事なわけないわよねっ!!!」
「それに明らかに水中対応型じゃないわ…!あんなに水に身体を浸らせていては…!」
確かにビナーは大オアシスの水脈を刺激し盤面をひっくり返すことには成功した。
だが、それはビナーにとってもメリットばかりではない。
第一にこちらの手勢の戦場の高さを上げてしまったことにより攻撃を容易にしてしまったこと。
そして、自らも水中に浸かった為行動に制限がかかったことだ。
先のVLSが顕著な例でガウスキャノンによって深手を負わされたボディには水中での行動は非常に縛りが発生している。
さらに…
ギャリギャリギャリ…ッ!!!
「なっなんですか、この音ッ!?」
「うへ~!おじさんはこの音結構苦手かも!」
ビナーが動くたびに鳴り響く異音。
よく見るとどことなくビナーの動きに滑らかさが足りないようにも思える。
現在進行形で湧き出している水は砂が大量に混じり濁っている。
「あははっ!これほど潤った砂はあの怪物も初めてなのでしょう!」
「ッ!奴の関節に砂が噛んでる音かッ!?」
とにかく関節の多いビナー、その隙間にその砂が入り込み行動を阻害しているのだ。
つまり、この大湧水はビナーにとっても一か八かの賭けということである。
「カァァァァァッ!!!」
それはビナーも分かっているようだ。
VLSによる攻撃から必殺の熱線砲の発射体制に切り替える。
狙いは猛然と砲撃を続けているクイークェグ部隊だ。
すると、
「クイークェグ全車、手近な『砂丘』やくぼ地に身を隠せッ!!!」
番長が車両に乗っている部隊に対し無線で指示を飛ばす。
先ほどまで戦っていたオアシス跡地と違ってこの場所は砂漠地帯。
戦車を隠せるくらいの砂丘はいくらでもある。
クイークェグはいくらかの部隊に別れ素早く砂丘の裏に姿を隠したタイミングで、
バゴオオオオオオオオオオオッ!!!
熱線砲が放たれた。
熱線は番長たちが隠れた砂丘に照射、表面の砂をどんどん溶かしていくが…
キィィィィィン…
ビナーが限界まで照射しても砂丘の貫通には至らず表面にガラスの塊ができただけにとどまった。
「行け行け行けぇ!!!ビナーの野郎も連続じゃあれは撃てねぇ!!!」
それを確認した番長たちはすぐさまアクセルを踏み込み戦線に復帰し攻撃を再開。
《大丈夫、番長!?》
「オウよ、ホシノの姉御!!!火傷すら負ってねぇよ!」
《でも一体どうやって…!?》
「アニキほど頭良くねぇから分かんねぇけどよ!要はヤロウの熱線は砂を溶かすだけ!!!砂丘を『貫く』まではいかねぇって思ったんだ!!!」
確かにビナーの熱線砲は脅威だ。
だが、先ほどネイトが柔らかい黒鉛の防壁で防げたようにただの『温度』による攻撃だ。
つまり、砂を溶かせはするが砂自体を押しのける威力はないということに他ならない。
あとは簡単な話、ビナーの熱線を受け止められて耐えられる物陰に隠れれば何も危険はないということである。
これもまたオアシス跡地から戦場が移ったことによって得られた手札の一つである。
そして、熱線砲が不発に終わり硬直しているビナーへ…
ズガガガガガガガァンッ!!!!!!
「シギィヤアアアアアアアッ!!?」
その背中に向け多数の砲弾が叩き込まれる。
放ったのは…
「装填急いでください…ッ!!!再び一斉射撃で叩きこみます…!!!」
いまだかつてないほどその表情に怒りを宿すイロハが率いる戦車部隊だった。
先ほどまでは地面をうねるビナーの胴体があったためにできなかった裏取り。
それが戦場がより広域になったためにより包囲攻撃が可能となったのだ。
こうして多方面から攻撃を仕掛けビナーを翻弄する各隊。
そして…
「回路接続完了!」
「砲術長、動作確認を願います!!!」
ガウスキャノン部隊『フェダラー』の準備も着々と進み、
「了解よ…!」
望遠機能と弾着予想箇所が表示されるヘッドギアを装着したアルがワインレッド・アドマイアーと同じ形状のデバイスを構え射撃体勢をとる。
すると、アルが構えるデバイスの動きに同期しガウスキャノンの砲身も動く。
「同調率、規定値をクリア!」
「よし…!」
どうやら動作に問題はないようだ。
「砲弾の準備は!?」
「先の攻撃でミョルニル砲弾の誘導装備が損傷!」
「クッ…ほかに使えるのは!?」
「一発だけ『とっておき』が残っています…!」
残り一発、正真正銘のラストチャンスだ。
「上等、だったら…最強の一撃を叩きこんでやるわ…!」
それがさらにアルの闘志に火をつけた。
「ガウスキャノンのセーフティを解除!!!リアクターとキャパシタの全エネルギーをこの一発に込めるわよ!!!」
「しっしかしそれでは…!」
「兄さんに壊していいという許可はもらってるわ!!!早くして!」
『了解!』
己が役目を全うするため…アル達は備える。
その頃、ビナーもさらに選択に迫られていた。
どれほど強大でもビナーは『個』だ。
対して自身に害をなすものたちは小さいながらも『群』である。
緊密に連携しこちらの攻撃にも対応し的確にダメージを与えてくる。
これほど厄介な敵は長く存在してきて初めてだ。
この状況をどう打破すればいいか。
そして…ビナーは結論を出した。
『群』であるなら…切り崩せばいい。
なんてことはない、昔からやってきたことだ。
そうと決まれば…
「カァァァァァッ!!!」
ビナーは再びエネルギーをチャージし熱線砲を発射。
しかし狙ったのはどの部隊でもなく…オアシスの水面だ。
さらに今回の物はこれまでのような太さはなくどうやら出力を絞っているようであるが…
バボボボボボボボボボボッ!!!
元より砂漠の砂を容易に溶かす熱量、出力を絞ろうがその温度はすさまじく照射された傍から水が蒸気爆発を起こしていく。
出力を絞ったためより長時間にわたり熱線砲が照射され一帯の水面を熱し沸かしていく。
さらに水に混じった砂も熱せられ…ビナーの姿を覆い隠すほどの蒸気が立ち上った。
「アイツ、何のつもり…っ!!!」
「見えない位なんだッ!!!あれだけでかければ適当に撃っても当たる!!!」
セリカは不審がる中、イオリは蒸気の向こうのビナーに向けクラックショットを構え発砲。
だが…
ゴォウッ!!!
「なぁッ!!?」
「み、皆走ってっ!!!」
水蒸気の壁を破って現れたのはビナーの尾部だった。
それがイオリ達に向け振り下ろされ、
ズダァァァァァンッ!!!
「うわあああああああああッ!!?」
「あ、危なかったわ…!」
ホシノ達が先ほどまでいたか所に叩きつけられた。
「おっお返しです!!!」
「逃がさないよッ!!!」
そこへハルカとホシノが各々の得物で銃撃を浴びせるも尻尾はすぐに水蒸気の壁の中に引っ込んでいく、
「厄介ですわ…!こちらはビナーの姿が見えずあちらはこちらのマズルフラッシュで攻撃を…!」
「ビナーも考えたわね…!」
ここにきてビナーは攻撃方法を変化させる。
ゴォウッズダァァァァンッ!!!
「うォおッ!?危ねぇ!?」
時に尾部、
ズバァォンッ!!!
「ッ皆避けてっ!!!」
ある時は胴体でのタックルと肉弾戦に移行。
なにせ重厚長大なボディ、振り回されるだけでとんでもない凶器になる。
しかもビナーの姿が見えない状態では…
「クソッ下手に撃つことが…!」
砲兵隊の攻撃の手も止めさせる。
高炸薬の砲弾がもしネイトたちがいる付近に落下した場合、取り返しのつかない事態になるだろう。
そして…
「アイツ…!厄介な真似してくれちゃって…!!!」
その影響はアルにも及ぶ。
なにせ目視による直接照準、ビナーの姿が見えなければ始まらない。
《こちら『フェダラー』、奴をどうにかしてそこから出せない!?》
「うへ~難しい注文だね、アルちゃん!?」
確かにアルの要求も分かるがおそらくビナーはてこを使ってでも動かないだろう。
蒸気が薄くなれば再び熱線砲を照射し水を熱し肉弾戦に集中することの繰り返しだ。
熱線砲ですらも盛んに動き回るので撃ち抜けるチャンスは少ない。
「ともかく攻撃するしかないわよ、小鳥遊ホシノ…!」
「単純ですが効果的ですわね、ゲヘナの風紀委員長さん!」
それでも攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
キヴォトスきっての強者たちが姿が見えないビナーに向け得物を放つ。
だが…
ゴォウッ!!!
「キシィヤアアアアアアアアアアッ!!!」
「いぃッ!!?」
「やばいッ!!!」
それ目掛けビナーはその大顎を開けホシノ達を噛み潰さんと襲い掛かる。
蛇のように開いた顎はより広範囲をカバー、回避は困難だ。
「皆、私の盾に…!!!」
ホシノがせめてもの抵抗としてIRON HORUSを構えた…その時、
「この光に意志を込めて…!貫け!バランス崩壊!」
ビナーの熱線砲に負けないほどの太さを誇る蒼い光線がホシノたちの頭上を通り過ぎ
ズガアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
「ゴガアアアアア!?」
ビナーの口腔内に命中し大爆発を起こす。
これにはたまらずビナーも悲鳴を上げてのけ反り攻撃を中断。
「いっ今のは!?」
その攻撃が飛来した方向を見ると…
「アリス、ボスを怯ませることに成功しましたっ!」
砲煙を上げる『光の剣』を構えるアリス、
「ナイッシュ、アリス!!!」
「さすが『光の剣』だね!」
「で、でも、あれを受けても、貫けないなんて…!!!」
「ゲーム開発部の皆!?」
装備を整えたモモイ達ゲーム開発部、
「映像で見るのと生で見るのとじゃ全然違うね…!」
砂漠の暑さ故、ネイトがくれた冷却装置を付けていても上着をはだけさせているエイミがそこにいた。
「ど、どうしてお前たちがここに!?」
イオリが驚くが無理もない。
ミレニアムのメンバーは今回はオブザーバー。
戦闘への参加は認められていない。
すると…
《こちら、明星ヒマリ。エイハブ部隊、応答を願います。》
「ヒマリちゃん?!」
無線からヒマリの声が流れてきた。
「なんでこの子達がここにいるの、ヒマリ先輩!?」
《えぇ、確かに私達は今回はオブザーバー。作戦に参加する筋合いはありませんわ。…ですが。》
「どうかしたの…?」
《同盟を交わしているW.G.T.C.の代表の危機を見過ごすようでは…この『清楚系病弱天才ハッカーかつ、優しくて万能で「全知」である美少女』の名に傷がついてしまいます。》
『ッ!!!』
そう、確かにヒマリ達はオブザーバーだ。
だが、それ以前にヒマリが部長を務める『特異現象捜査部』とW.G.T.C.は共闘を前提とした同盟を結んでいる。
その同盟を活用しエイミ、そしてゲーム開発部を援軍として送り込んだのである。
《それに…父親とできたばかりのお友達の危機に涙を流す優しい子たちを無視はできません。》
見ると…アリスの目元には涙が流れた後がある。
「アリスちゃん…。」
「アリスは大丈夫です!きっと…きっとパパもイブキも無事です!!!だって、パパは絶対に約束を守ってくれる私の『英雄』なんですから!!!」
初めてできた家族のあの姿を見て動じないはずがない。
それでもアリスは前を向きビナーに立ち向かう決意を固めている。
その姿を見て
「よぉしそれじゃあさっさとアイツを倒して二人を迎えに行かなくちゃね!」
「…フフッ、そうね。アリスのパパは誰よりも強いから心配はいらないわ。」
「アハハッ師父様も困ったお人ですわね。こんな健気なお嬢さんをこんなに心配させるなんて。」
ホシノ達も気合を入れ直し前を見据える。
…が、
ズダァァァァァンッ!!!
その時、ホシノ達から少し離れた場所にかなり長めに尻尾が叩きつけられ…
ガガガガガガガッ!!!
「ちょ、そんなのアリ!?」
「走って、皆!轢かれるわよ!!!」
砂を巻き上げながらホシノ達を薙ぎ払うように振るい始める。
「やばいやばいやばい!!!これは本当にヤバァァァぁイ!!!」
「まるでダンジョンの丸石トラップみたいですね!!!」
「シャレあってないからね、アリスちゃん!!!私ペシャンコになるのは嫌だよ!!!」
「アレはちょっと私でも耐えきれないかな…!!!」
何とか逃れようと走るホシノたち。
だが…無情にもビナーの尾部はどんどん彼女たちに迫る。
このまま押しつぶされるか…と思われた次の瞬間、
フッ
『え?…うわぁッ!!!?』
突如足が宙を切り全員が数mほど『落下』した。
そのおかげかビナーの尾部を潜り抜けるような形で回避に成功。
「なっ何!?何があったの!?」
「今地面が消えなかった!?」
回避ができたことはよかったが理解不能な事態に驚愕するモモイとセリカ。
確かに今自分たちは平地を走っていたはず。
それなのに急に落下するなど考えられない。
「一体何が…?!」
ヒナですら目を丸くする中…
「あ、あれ…!?」
ホシノはあることに気付いた。
「どッどうかしましたか、ホシノさん!?」
「すっ砂が…!?」
「砂ってそんなのどこにだって…え?!」
『ッ!!?』
ホシノに言われて…全員が気付いた。
自分たちの足元…いや…
「どッどういうことですか、これ…!?」
「砂が…『白く』…!?」
「えぇ!?何が起こったの!?」
このオアシス近辺全域の砂が…いきなり純白のものになった。
その白い砂漠は地平の彼方まで続いている。
つい先ほどまで見慣れた砂の色だったというのにまさに一瞬の出来事だった。
こんなこと…ありえない、あり得るはずがない。
「…ッ!?まさかッ!?」
そう…あの『力』以外は。
そして、次の瞬間…
ドオオオオオオオオオオッ!!!
『ッ!!?』
オアシスの中から水を押しのけ青い光の柱が撃ちあがった。
そして、全員の耳に…あの声が響き渡った。
《デカい奴はな…お前だけじゃないんだぞ…ッ!!!ビナアアアアアアアアッ!!!》
人間は破壊されることはあっても、決して倒されることはない。
―――『老人と海』よりサンチャゴ