『本艦、原子力にて航行中。』
―――世界初の原子力潜水艦『ノーチラス』の初航行時に発せられた信号
「必ず君を連れて帰ることを約束する。だから…俺を信じてほしい。」
「…分かった。イブキ、ネイトさんを信じる…!」
通信を切った後、ネイトはすぐに行動を起こしていた。
眼前には迫りくる濁流。
しかし、ネイトは冷静だった。
(落ち着け、こんなの何度も経験してるじゃないか…!)
そう、ネイトにとって…『大質量の物質が高速で押し寄せる自然災害』というこのシチュエーションは初めてではない。
普通に生活していればそんなことはそうそうないだろう。
だが、生憎ネイトは普通の人生を送っていない。
(フフッアラスカを思い出す…!毎シーズンに一回はこんなことがあったな…!)
数十年前、アラスカで繰り広げられた『米中戦争』。
北の大地で繰り広げられた大戦争、冬には辺りを雪が埋め尽くしどちらの陣営の兵士もある共通の災害を恐れた。
そう…『雪崩』である。
山地が多いアラスカ、そんなところでドンパチをすれば当然振り積もった雪が崩れ『雪崩』に発展する場合が多い。
ネイトも小規模なものや大規模なものを含め嫌というほど目撃し時に巻き込まれたこともあった。
そして、今現在…眼前に迫りくる濁流。
(理屈はほぼ変わらない…!むしろバカでかい氷の塊がないだけマシと考えるんだ…!)
雪も水もほとんど変わらない。
ならば、その経験が役に立つはずだ。
そして、
(連邦を立て直してアビドスを蘇らせようとしてる奴が…たかが水程度御せなくてどうする…!)
自らの経験と務めを思い出し鼓舞する。
古来の為政者たちは何をもってその地位についたか?
為政者とは…その土地を『治める』者である。
『治』という文字の由来は『水と台』、つまり水と堤防を差し転じて河川などを制御する工事を行うことである。
つまり古来では『水を治める』ことこそ『国を統治する』ことに繋がった。
そして…ネイトも連邦を立て直し『将軍』と呼ばれ組織の長を務めた人物だ。
水に関することなら…一日の長がある。
そしてキヴォトスにやってきてからもアビドス復興に役に立ちそうな技術は積極的に吸収し続けてきた。
その中には…様々な学区で行われている『河川工法』の資料もあった。
「上手くいってくれよ…!」
ガシャン!
ネイトがクラフトしたものは『コンクリートの土台』の上に横に倒した三角錐を鉄骨で数か所区切ったようなものだ。
それを…
ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャン!
クラフトの最大有効範囲一杯にその物体を正三角形の形に配置し続々とクラフトしていった。
「これなぁに…?!」
「『聖牛』と言ってな、『百鬼夜行連合学園』で使われていた川の流れを緩やかにする装置さ…!」*1
イブキも初めて見る装置に目を丸くしている中、
ガシャガシャン!
今度は自分たちの足元に『コンクリートの土台』と楔形に組んだ『コンクリートの壁』を二重に配置した。
その陰にネイトとイブキは入る。
「イブキ、今から俺のアーマーと君を結んで固定するからな。」
「ウン…ッ!」
手早くネイトはイブキを抱き着かせる形にしてロープで固定し、
「それから…これを被っているんだ。」
ガポッ
「えッ?ワッ…?!」
胸元にいる彼女にX-02のヘルメットを被せヘルメットごと彼女の頭を固定する。
「少し重いだろうが我慢してくれ。息苦しくはないか?」
「だ、大丈夫…!」
ヘルメットの後ろ側頭部には吸気用のホースが接続されているためこれによってイブキも問題なく呼吸ができているようだ。
「でもネイトさんが…!」
だがこれではネイトが窒息してしまうと心配するイブキだが、
「安心しろ。俺は大人だから君より息は続くんだ。」
そんな彼女の心配を和らげようと砂塵防止用のゴーグルを付けながらサムズアップと浅い笑顔で答えて見せるネイト。
実際は『Aquaboy』の効果のおかげで水中呼吸が可能なだけだが。
そうこうしているうちに…
ドドドドドッ!!!
壁越しでも分かるほど…あの濁流が近づいていることが振動として伝わってきた。
打てる手はすべて打った。
あとは自分の経験と学びが…この自然の猛威に耐えきれるかどうかだ。
「しっかり掴まってろよ、イブキッ!!!」
今一度イブキを、そして自分を鼓舞するように水の轟音に負けないほどの声を張り上げ、
「うんッ!!!」
イブキも声を大きくして返事をしてしっかりとネイトに抱き着く。
次の瞬間…
ズドワァオッ!!!
ネイト達を濁流が呑み込んだ。
「ぐおッ!!?」
コンクリート塀も二重に張ったというのに凄まじい衝撃が走る。
X-02を纏っていなければこれだけで落ち葉のように吹き飛ばされていただろう。
そして、
ドオッ!!!
壁を超えて砂混じりの水が降りかかった。
「ぐううう…!!!」
ネイトはそれをイブキを庇うように壁の隅に伏せて耐える。
猛烈な勢いで降りかかる水とどんどん振り積もる砂とが掛け合わされた凄まじい重量に体は悲鳴を上げた。
しかもどんどん圧し掛かる重さが増していく。
それでも…
ギュウ…ッ!
「………~!」
自分が押し潰されれば胸の中のイブキも潰される。
この子は必死に今も自分の言いつけを護り決して手を離すまいと目一杯抱き着いている。
「グギギギギ…!」
歯を食いしばり全身に力を漲らせネイトは耐える。
『イブキ、ネイトさんを信じる…!』
この子は自分を信じすべてを自分に委ねてくれた。
怖くないわけがないはずなのにそれでも自分を信じてくれた。
(耐えろ…!こんな重し…今まで背負ってきた物に比べたら屁でもないだろう…!!!)
裏切れない。
裏切ってはならない。
決して裏切るわけにはいかない。
自分は言った。
『帰還率100%』と。
自分は誓った。
『誰一人欠けることなくここに連れて帰る』と。
自分は約束した。
『自分が皆を連れて帰ってくる』と。
(殺せるものなら殺してみろ、ビナー…!!!俺を殺したければ…世界一つを火の玉にするくらいの気概を見せてみやがれ…!!!)
その一心でネイトは耐え続ける。
アビドスの陽の光が無くなるほど視界が暗くなろうと。
身体にのしかかる砂の重みがどれほど増えようと。
一秒が悠久の時に思える苦しみを感じようと。
『その時』が来るのを待ち続ける。
そして…その時は来た。
ネイトの鍛えられたPerceptionが…
ザバァン
その音を捉えた。
「~ッ!!!」
瞬間、何とか確保していた空間を活かしコンクリートの塀に足を押し当て…
ズドォッ!!!
塀を押し倒すつもりで思い切り蹴り込む。
大質量であるパワーアーマーを時速100㎞で疾走させることが可能な脚力、
ズボシャァッ!!!
その強靭なバネによって降り積もった砂を押しのけ外に飛び出せた。
そして…
(よし、水が湖底を満たした…!)
肌に当たる水の感触と砂ぼこりの流れる速度を確認し立ち上がる。
するとどうだ?
先ほどまではパワーアーマーごと攫われそうなほどの激流だったはずなのに…X-02を着ている状態ならば立っていられる程度の水流になっている。
水というものも『物質』、重力の影響下からは逃げられない。
浅い所の水は早くても深度が上がると水そのものの重量によって流れる速度は落ちていく。
海でも海面付近は大荒れでもある一定の深さまで潜ると水流が落ち着くのもこの理屈だ。
だから、あえてネイトは耐えて待ったのだ。
アビドス大オアシスにある一定の深さまで水が満ちてX-02であるなら歩けるまで水の流れが落ち着くのを。
そして、
シュー…シュー…
(よし、イブキも大丈夫だ…!)
吸気用のホースから伝わる呼吸音でイブキの無事も確認できた。
あとはここから抜け出すだけだ。
ネイトはゆっくりと立ち上がり水の流れる方向、つまり岸に向けて歩き始める。
一応、頭に『採掘用ヘッドランプ』を被り進路を照らすが…舞い上がった砂の影響で殆ど視界は0に等しい。
沈む前に括り付けていたスカラベのかんじきのおかげで足が沈むことはないが普段の健脚が生かせない。
ズガガァ…ン
(よかった…。皆は今も戦っているようだ…!)
その最中、砲弾の炸裂音なども微かに届きまだビナーとの戦闘が続いていることが伝わってくる。
(早くここから出て俺も戦線に復帰を…!)
生徒達が奮闘しているのに自分も暢気にしてはいられない。
足を速めるネイトだが…その時、
バボボボボボ…ッ!
「ッ!?」
ネイトの頭上を眩い光が通り過ぎた。
(奴の熱線砲か!?)
水面を見つめ目を見開くネイト。
さらに、
ズゥン…ッ!!!ドゴォォォン…ッ!!!
巨体を地面に打ち付けているのだろう重たい振動音も伝わってきた。
あれだけの損傷を与えたというのにビナーはまだ戦闘可能状態なようだ。
(くそ…!あとどのくらいで岸に…!)
いまだにビナーは健在、気持ちは逸るがまだ岸にはたどり着かない。
だが…
ヒュゴォウッ!!!
バゴッ!!!
「がっ…!?」
ネイトの後頭部をまるで撃ち抜かれるような衝撃が襲い思わず膝をついてしまった。
「ッ!!?」
イブキにもその音は伝わっていたようでネイトの顔を見上げる。
(な…何…が…!?)
既に戦闘によって発生した薬莢などは押し流されているはず。
砂岩であってもこの水量なら脆くなりダメージは少ない。
その正体はすぐに明らかになった。
膝をついた拍子にネイトのすぐそばに落ちたのは…
(が…ガラス…!?)
ソフトボール大はありライトに照らされると光沢を放つガラスの塊だった。
なぜこんなものが?
(あ、あの時…の…!?)
そうだ。
先の戦闘の際、ビナーは熱線砲を使い大量の砂を溶解させていた。
それが水に冷やされ結晶化し温度の急速な変化によって割れ水の流れに乗り…
(こ…こんな…ところで…!?)
いかに頑丈でも…ネイトは人間だ。
ヘルメット越しとはいえこんなものを頭に叩きつけられて無事で済むはずがない。
意識がどんどん遠のいていくのを感じる。
なんとかつなぎとめようとするも…
(だ、ダメ…だ…!はや…く…立…て………)
ネイトの意識はそれを最後に…暗闇に飲み込まれ…
ドサッ
「ネイトさんッ!!!」
あおむけに倒れたネイトの胸の中でイブキが必死に呼びかける。
「起きてっ!起きて、ネイトさん!!!こんなところで眠っちゃダメだよ!!!」
「………。」
今度は揺らしながら呼びかけるもネイトは目を閉じピクリともしない。
「あ…あぁ…!」
その光景が…イブキに絶望を味合わせる。
(また…!またイブキのせいで…!)
自分がちゃんと約束を守っていれば…。
自分がわがままを言わなければ…。
自分が虎丸から落ちなければ…。
ネイトはキヴォトス人ではない。
下手をすれば…もう二度と目を覚まさないかもしれない。
「やだ…!やだぁ…!起きて、起きてよぉ…!」
X-02のヘルメットの中でイブキの目から涙が溢れた。
「いい子になるからぁ…!もう…約束破らないからぁ…!目を開けてぇ…!」
自分のせいで…目の前で人の命の灯火が消えようとしている事実に涙が溢れて止まらなかった。
…だが、
カシャン
「え…。」
大きな手が…イブキの頭をヘルメット越しに撫でた。
今一度向き直ると…
「………。」
「ネ、ネイト…さん…?」
ゴーグル越しにネイトの目がうっすらと開いていた。
ほんの少ししか開いていないのにイブキにはすぐに分かった。
自分を怖がらせまいと…安心させようという優しいまなざしだった。
だが…
ドサッ
すぐに目は閉じては力なく地面に落ちた。
「…!」
そして…
(今度は…今度はイブキが…!)
イブキも涙が止まり目に力が宿った。
彼女の脳裏には昨日のことがよぎっていた。
「紹介しよう、イブキ。俺の娘のアリスだ。」
「初めまして、天童 アリス・マーティンです!」
「わぁー初めまして!」
それはネイトが娘のアリスを紹介した時だ。
「イブキはゲームは好きですか?」
「うん!イブキ、いろんなゲームや遊びが大好きだよ!」
「では一緒に遊びましょう!アリスのパーティーメンバーもイブキの加入を歓迎しますよ!」
「わぁー!イブキと遊んでくれるの?!」
「いいですよね、パパ?!」
「あぁ。遊んできなさい、アリス。イブキも楽しんでな。」
「「はぁーい!」」
こうしてイブキはアリスやゲーム開発部と一緒に遊んだ。
ゲヘナ以外でできた…初めての友達だった。
ゲームだけではなく、お絵かきや人形遊びもアリスたちは楽しそうにイブキと遊んでくれた。
そんな折、イブキはこんなことをアリスに尋ねた。
「ねーね、アリスちゃん。」
「なんですか、イブキ?」
「『パパ』のネイトさんってどんな人なのー?」
イブキにとってネイトという人物は初めて見た大人の男性。
自分の知らない遊びを教えてくれて美味しいケーキをくれた人だ。
そんなネイトの娘であるアリス。
このキヴォトスでここまで触れ合えている親子は中々に珍しい。
純粋な好奇心の質問だった。
そんなイブキの質問に、
「パパはですね、アリスのことを想ってくれる大事な人です。」
アリスは微笑みながら答えた。
「想ってくれる?」
「はい、パパはとっても強くて優しいです。」
首を傾げるイブキにアリスは思い出話を語る。
目覚めたときから出かけた様々な『冒険』。
ロボット兵の軍勢やゴリアテとの戦いや…
「ミレニアム最強の『チビメイド先輩』にだってパパは戦って最後までたっていたんですよ。」
「すご~い!ヒナ先輩とチビメイド先輩ってどっちが強いのかな~?!」
キヴォトスきっての強者でもあるネルとの戦いなどイブキも目を輝かせながら聞き入っていた。
そして…
「アリスは大きな失敗をしました…。その時、アリスパパにとても叱られました…。」
アリスが犯した『失敗』、光の剣をはしゃぎながら周囲への危害を考えず発射してしまったことをイブキに明かす。
「ネイトさん、怖い…!」
イブキが見てきたネイトからは考えられないほど『恐ろしく』思えた。
そういえばマコトもネイトに恐怖している節があることをイブキは知っている。
(ひょっとして…ネイトさんって怖い人…?)
そう思ったが…
「イブキ。パパはただ『怖い』だけの人じゃないですよ?」
「ッ!どうしてわかったの!?」
「ふっふっふっ精神鑑定は基礎中の基礎ですよ!」
「すご~い…!」
アリスが彼女の心境をぴたりと言い当ててイブキは驚いた。
「あの時のパパは確かに怖かったです。でも…ちゃんとアリスのためを思って叱ってくれたんです。」
「でも…怖かったんでしょう?」
「それはもう。でも…もしアリスがあのままの気持ちで光の剣を持っていたらと思うと…そっちの方が今のアリスには恐怖です…。」
「あ…。」
アリスの光の剣、イブキも一目見た時からその威力を察していた。
もし、そんな武器の扱いを誤ろうものなら…。
「アリスもそのことに気付いてパパに『ごめんなさい』しました。そしたら…パパはアリスのことを誉めてくれました。そして、次に気を付けたらいいと教えてくれました。」
「そうなんだ…。」
「だから、パパはアリスのことをとても想ってくれる人なんです。人のために頑張ったり良い事をしたら誉めてくれて間違った事をしたら叱って教えてくれる…。そんなパパのことがアリスは大好きなんです。」
ネイトはただアリスに甘いだけではない。
間違ったことをすれば叱ってくれるし反省すればちゃんと認めてくれる。
アリスにそのことがネイトはちゃんと彼女のことを大切にしてくれていると理解してくれていた。
「そして、パパはアリスのことを何時も抱きしめてくれます。パパもアリスもハグが大好きなんです。パパがアリスを、アリスがパパをどっちも愛しているというのが伝わってくるんです。」
「そっかぁ…。」
とても幸せそうな笑顔を見せるアリスを見ていると先ほどまでネイトに抱いていた恐怖はいつの間にか消えていた。
「だから、アリスはもっともっと強くなりたいんです。もしもパパがピンチの時にパパを守ってあげられるように。」
そんな切なる決意を秘めている彼女を見て…
「じゃあイブキも!イブキもネイトさんが困っているときはお助けする!」
イブキも新たな友であるアリスの力になりたいという純粋な思いでそう答えた。
「本当ですか!?」
「うん!イブキもネイトさんがピンチになったら助けてあげたい!」
「では、イブキがピンチの時にはアリスが守ってあげます!イブキも大事なパーティーメンバーですから!」
「じゃあ指切りしよ、アリスちゃん!」
「はいっ!」
こうして小さな少女たちは…
「「ゆ~びきりげんま~ん♪う~そついたらハリセンボンの~ます♬ゆ~び切った♬」」
一人の大人のためにささやかな約束を交わしたのだった。
(そうだ…!イブキ、アリスちゃんと約束したんだ…!)
そして今…その約束を果たす時だ。
ネイトが自分を助けてくれたように今度は自分がネイトを助ける番だ。
(どうすれば…!どうすれば…!)
必死に自分に今何ができるか、何をすればネイトは目を覚ますかを考えるイブキ。
(…!)
そして、あることを思い出した。
『路上でした…意識を失っている患者を見つけた際は周囲の安全を確保後呼吸を確認してください。』
以前、救急救命の講習である先輩から習ったことだ。
『もし呼吸が確認されなかった場合は…。」
(そうだ…!)
イブキはその講習を思い出し、
(まずはひもを解いて…!)
身体を固定していたロープから抜け出す。
水の流れはさらに弱まりイブキでも流されない程度にはなっていた。
そして、
「スゥ~…!」
ヘルメット内の空気を思い切り吸い込み、
ガボッ!
勢いよくヘルメットを脱ぎ…
コポコポコポ…
自分の口をネイトの口に押し当てネイトに空気を送り込んだ。
世に言う『人工呼吸』である。
「~ッ!」
だが、体のつくりがまだ未完成のイブキの息はそこまで長く続くことはない。
「プハッ!ハー…ハー…!」
ネイトから口を放しX-02のヘルメットをかぶり直し荒い息をつく。
(怖い…!怖い…!!!)
ヘルメットを外した瞬間、恐怖がイブキを襲った。
今まで感じたことがない息苦しさ。何も見えない視界、明確な『死』に近づいている恐怖。
とても怖かった。
もうヘルメットを脱ぎたくないとも思った。
それでも…
(でも、ネイトさんはずっとこんな中を…!)
ネイトは自分を抱えてこんな中を歩いていた。
そんなネイトを助けられるのは…自分だけだ。
(怖くない…!怖くない…!!!こんなの怖くなんかない…!!!)
恐怖に打ち負けないように自分に言い聞かせ、
ガボッ!
コポコポコポ…
(起きて…!起きて、ネイトさん…!)
再びヘルメットを外しネイトの人工呼吸を行う。
…その時だった。
イブキの脱いだヘルメットのHUDに…
EMV100%
こう表記されていた。
――――――――――――――――
(俺は…一体どうなった…?)
夢か現か分からない状態でネイトの意識は漂っていた。
(確か…俺はビナーと戦っていて…。)
こうなる前に自分に何が起こったかを…
(ビナーが…オアシスの水脈をぶち抜いて…。)
自分が直前まで何をしていたかを…
(イブキを担いで皆に合流しようと…。)
自分が…何をすべきかを。
(ッ!!!)
意識を失う前に行っていたことを思い出した。
(こんなとこにいる場合じゃないッ!!!)
意識が覚醒し視界がはっきりすると…
「こっこれは…!?」
そこは先ほどまでいたアビドス大オアシスの底ではなく…かつて見た連邦の『ある場所』だった。
そしてネイトの眼前に…『ソレ』が屹立していた。
「…フフッ、そうか…。」
そんな『彼』の意図を…ネイトは察した。
「『お前』も…戦いたかったのか…。」
思い返すと…そうだった。
『彼』は戦いのために蘇った。
だが、ネイトによってその役目は果たせず…最後のその時までひっそりと余生を送った。
「…いいぞ、連れて行ってやる…!アンカレッジで轡を並べて戦っていたかもしれない縁だ…!」
そう不敵な笑みを浮かべながらネイトは見上げ…
「Let's rollッ!!!」
目の前にあったボタンを叩き押した瞬間…周囲が明るくなった。
―――――――――――――――――
カッ!!!
「ッ!!?」
突如、人工呼吸中にネイトの目が見開かれイブキは驚いて身を離した。
しかし、驚くのもつかの間…
カッ!!!
(ヘイローッ!?)
イブキも見たことがないほど巨大なヘイローがネイトの背中に展開。
(そうか…。君のおかげか、イブキ…。)
目の前で呆然としている彼女の姿を見てネイトも察しがついた。
先程の状況からして…彼女は自分のために人工呼吸をしてくれていたのだろう。
(ありがとう…。イブキのおかげで…俺は…。)
まだ頭は痛むが…ネイトは体を起こしイブキの手を取って…
チュ…
「~///!?」
彼女の手の甲に口づけをする。
まさかのネイトの行動に顔を真っ赤にするイブキだが…
(あとは任せろ…!ここからは…!)
ネイトはイブキにヘルメットを被せ直し膝立ちになり、
(行くぞッ!!!)
その手を強く地面に叩きつけた。
するとどうだ?
赤みがかった黄色をした砂漠特有の砂が…瞬く間に『純白』になっていくではないか。
そして…
(世界を飛び越えて来い、世界最強のロボットよ!!!)
ネイトが心の中でそう念じた途端、
ドオオオオオオオオオオッ!!!
周囲の水を押しのける勢いで青い光の柱が撃ちあがった。
その勢いは空が見えるほどに、
「イブキ、借りるぞ…!」
「う、うん///!」
この状況なら心配はいらない。
イブキからヘルメットを返してもらい被り直し奮闘中の仲間たちに…。
否、未だに暴れるビナーに…。
否…この世界に知らしめるように叫ぶ。
「デカい奴はな…お前だけじゃないんだぞ…ッ!!!ビナアアアアアアアアッ!!!」
そして、
ドオッ!!!
「キャッ!!?」
地面から何かが突き上げてくるような衝撃が走りイブキはネイトに抱き着いた。
すぐにその衝撃は収まったがそこでイブキが見たのは…
「え…!?」
湖の上、水面が見える光景だった。
「ど、どうして…!?」
呆気にとられるが…
「フュージョン・コア、再初期化。」
朗々高らかにその声が響き渡る。
「なっ何あれ!?」
「見て、ネイトさんとイブキちゃんが!?」
「あ、あれがネイトさん…!?」
「あぁ…お目覚めになられたのですね…!」
その光景は近くにいたエイハブ部隊の面々が目の当たりにしていた。
突如現れた光の柱、それが収まったかと思うとそこにいたのは…
「きょ、巨大ロボットだあああああああ!!!」
大興奮でモモイが叫んだ。
全高 18m
全幅 5.5m
本体重量 70t
動力 3GW級常温核融合炉及び10GW充填可能の大型フュージョンコア4基
駆動方式 電磁アクチュエータ
CPU 真空管式量子AI
主武装 頭部5GW級アイ・レーザー二門
装甲 マイクロプリズム塗付複合装甲
かつて、アメリカ合衆国軍がアンカレッジに侵攻した中国軍を殲滅するために開発したある『ロボット』があった。
当時の軍事技術を総結集し、コストも度外視して生み出されたほぼ完全なワンオフ仕様のまさに決戦兵器。
開発にはアメリカきっての天才にしてロブコ社の創業者のMr.ハウスも参加。
軍民の最高の技術をもって生み出されたが…投入前に米中戦争は終結。
以後は国防総省の地下に保管されていた。
それを180年後、B.O.Sによって発見され20年の時をかけて修復されキャピタル・ウェイストランドにて『エンクレイヴ』との決戦に投入された。
その装甲は苛烈なエンクレイヴの攻撃を一切受け付けず、その攻撃は立ちはだかった物全てを灰に還した。
エンクレイヴによる『衛星軌道』からのミサイル攻撃でようやく破壊できた。
それをB.O.Sが回収し10年の時をかけて修復し…ネイトの前に姿を現した。
正に最大、正に最強、正に最硬…。
そして、60年の時をも…世界の壁をも超えて…
「さぁ、ビナーッ!!!俺の世界とキヴォトス、最強はどっちか最後の大勝負と行こうかッ!!!」
「全システム、機体値、武器、準備ヨシッ!!!任務妨害確率…0%ッ!!!」
『アンカレッジの英雄』と肩を並べ、
「リバティ・プライムッ!!!戦闘を開始するッ!!!」
『Liberty Prime』、アビドスの大地に立つ。
鯨を恐れないものは勇敢などではない。無謀で命を落とすのはただの愚か者だ。勇気ある者とは…鯨に立ち向かい、己の命を守り通すものだ!!
―――『白鯨』よりスターバック