Fallout archive   作:Rockjaw

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笑え!!人は楽しいから笑うんじゃねぇ、笑うから楽しいんだ!!!
―――『白鯨』よりスタッブ


Operation: Returning Pequod:Prosperity lies Beyond The Horizon

「照準、偏差、風向き…よし。ライト兄弟の加護があらんことを!!!」

 

ブォンッ!!!

 

「さぁ…!これで決着だ…!」

 

リバティ・プライム『ジェファーソン』に投擲され宙を走るネイト。

 

狙うはアルが第一射で抉り取ったビナーの傷口だ。

 

正直言って盛んに動くビナーの胴体に飛び込むなど無謀もいいところだが…

 

「勇敢なアメリカ軍兵士の援護は義務である!!!支援開始!!!」

 

「突入を支援する!!!共産中国兵器に自由を与えてはならない!!!」

 

「弾幕による制圧はたとえレッドチャイニーズが相手であっても有効!!!」

 

「暴れ牛の制御はアメリカ人の伝統!!!カウボーイはいつの世も不変である!!!」

 

四機のリバティ・プライムがネイトを追い抜かす勢いで攻撃を開始。

 

ウリ爆弾、ショルダーキャノン、ガトリング砲、巨大チェンソーといった大火力の攻撃をビナーに叩きこむ。

 

「ガアアアアッ!!!」

 

対するビナーも負けじと熱線砲アツィルトの光をチャージする。

 

残されたそのアイセンサーには『決して外さない』という決意が迸っていた。

 

だが…これこそリバティ・プライムたちの狙いだった。

 

「全機へ、潜水サブルーチンを起動!」

 

「「ラジャー!!!」」

 

ビナーに肉薄している『ルーズベルト』以外のリバティ・プライムは素早く細部の水密装置を起動し、

 

ドボォン!!!

 

素早くオアシスの水中に飛び込んだ。

 

リバティ・プライムは様々な戦況に対し対応できる設備が搭載されている。

 

水密装備もそのうちの一つで長時間の潜水にも耐えれる性能を有している。

 

バボボボボボボボボボボッ!!!

 

標的を失った熱線砲アツィルトの光はリバティ・プライムが消えた水面に向い照射。

 

砂よりも比熱が圧倒的に高い水に阻まれリバティ・プライムまでは熱線砲アツィルトの光が届かず膨大な蒸気を生むだけである。

 

そして、ビナーはこの時だけは必ず…動きを止める。

 

ビュンッ!!!

 

「『スカラベ』、少し無茶をさせるぞ!!!」

 

飛翔中のネイトはスカラベを展開しV.A.T.S.を発動。

 

ビナーの傷口が近接攻撃の有効範囲に入った瞬間、

 

「フンヌゥ!!!」

 

ズガンッ!!!

 

スカラベをその傷口に突き立てた。

 

ズガガガガガガッ!!!

 

「グヌヌヌヌヌ…ッ!!!」

 

傷口を削り飛ばしながらネイトはブレーキを掛ける。

 

だが…中々止まらない。

 

なにせ総重量1tはあるX-02が長距離飛べるほどの高速で投げ飛ばされたのだ、無理もない。

 

ビナーの胴部は20m…その間に止まれなければ…

 

「これならどうだぁッ!!!」

 

と、叫びつつネイトは右手に持ったそれをビナーに突き立てた。

 

その名も『リッパー』、大ぶりのナイフほどの大きさの軍用多目的チェーンソーである。

 

グォンッ!!!

 

小型エンジンを唸らせソーチェーンを回転させ…

 

ギャガガガガガガッ!!!

 

火花とビナーの体のかけらを撒き散らしつつビナーの体を引き裂く。

 

X-02の蹴り込み・スカラベとリッパーによる二つのブレーキ。

 

それにより徐々に滑走速度が落ちていくが…

 

「ヤバッ…!!!」

 

あとわずか…あと僅かの所で止まり切れず落ち…

 

「てたまるかぁッ!!!」

 

ガシッ!!!

 

と、済んでのところでビナーの装甲部分を掴み取り…

 

「…はぁッ…はぁッ…!間一髪…!」

 

リッパーとその片手で何とかビナーの体に取りつき傷口に登った。

 

だが、ここにたどり着いた代償も大きく…

 

「…すまないな、スカラベ…。」

 

スカラベは大きく破損、もう使い物にならなくなっていた。

 

パワーアーマーを操作しスカラベをパージし…

 

「ここがビナーの…!」

 

周囲を見渡し息をのむ。

 

例えるならそこは…ワイヤーで構築されたような場所だ。

 

「さて、それじゃ…!」

 

あとはここで自分の役目を果たすだけが。

 

…が、何故かネイトの耳に…

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!』

 

「…は?」

 

何やら聞き覚えのある声が聞こえ始めてきた。

 

それも明らかにこちらに近づいてきている。

 

慌てて自分が飛んで来た方向を見ると…

 

『アアアアアアアア…っ!!!』

 

明らかに見覚えのある桃髪とボリュームのある白髪に揺れる黒い尻尾が猛スピードでこちらに迫ってきてるのが見えた。

 

さらによく見ると盾にしがみつき大きな翼を広げている。

 

「オイオイオイオイっマジかッ!!?」

 

これにはネイトも度肝を抜かれるが、

 

『アアアアアアアアアッ!!!』

 

その物体がビナーの傷口にランディングしたところでV.A.T.S.を起動し照準を合わせ…

 

「捕まえたっ!!!」

 

『ぎゃふんッ!!!』

 

身体を使ってそれを受け止めた。

 

その飛び込んできた物体は…

 

「ホシノにヒナにワカモ!?お前ら何やってるんだッ!?」

 

「うへへへ~…来ちゃいました…。」

 

「あぁ、とても楽しかったですわぁ!」

 

「わ、私は二度目は遠慮するわ…。」

 

ネイトに受け止められむくりと起き上がる三人。

 

「来ちゃったって…?!」

 

正直自分がやっても成功するかどうか怪しい方法だというのにそれを躊躇いなく実行し追いかけて来る者がいるなんて思いもしなかった。

 

「私が盾で衝撃対策+重量のかさましで…」

 

「私の翼が揚力確保のための主翼で…」

 

「私の尻尾が方向調整のための尾翼ですわ。」

 

「いや、人間飛行機って…!?どうしてそこまで…!?」

 

そんなギョッとしっぱなしのネイトに…

 

「まぁ…アビドス生徒会長として最終局面にいないのは格好がつかないんで。」

 

ホシノはアビドスの代表として見届ける覚悟を、

 

「万魔殿の不始末を解決してもらって何もしないのは…こっちも沽券にかかわるのよ。」

 

ヒナはゲヘナの一員として恩に報いるため、

 

「こんな大舞台の千秋楽…それも舞台に上がれる好機があるのに参加しないのは百鬼夜行の名折れですわ…♡」

 

ワカモは戦いの決着を見逃さないため。

 

三者三様の理由はあれど…全員ネイトのためにここまでやってきた…

 

「…全く。大馬鹿野郎どもだよ、お前ら。」

 

「いの一番に人間砲弾になったネイトさんには言われたくないですよ。」

 

「あんな無茶苦茶、美食研究会も温泉開発部だってやらないわ。」

 

「ウフフフ…あのような曲芸は私も初めて見ましたわ♪」

 

いや、自分含め命知らずの大馬鹿野郎ばかりだ。

 

「ここまで来たんだったら…俺が何しようとしてるか分かってるな?」

 

ネイトは手に持ったリッパーを唸らせながら問う。

 

「もちろん、思いっきりやらせてもらいますよ。アビドスの因縁を全部清算するつもりで。」

 

ホシノはハンドアックスを取り出し、

 

「むしろ後始末を考えなくていいなら…こういうことは私の専売特許よ。」

 

ヒナは終幕:デストロイヤーに初弾を装填し…

 

「あぁ…この大蛇オロチは一体どんな声で鳴いてくれるのでしょうかぁ…♡」

 

ワカモは真紅の災厄から銃剣を取り外した。

 

その全員が声だけで分かるほどの…獰猛な笑顔を浮かべていた。

―――――――――――――――

「ガァッ!」

 

水中へ逃げたリバティ・プライムには効果が薄いと判断し熱線砲アツィルトの光の照射を中断。

 

「シギィヤアアアアッ!!!」

 

さらに纏わりついて巨大チェンソーを振り下ろしていたリバティ・プライム『ルーズベルト』を振り落とそうと体を大きく揺さぶる。

 

すると、

 

「支援完了、離脱しこれより合流する!」

 

『ルーズベルト』はあっさりビナーから離れ水中に飛び込んだ。

 

「ガァァァ…ッ!!!」

 

ビナーは水中に没し姿を消したリバティ・プライム達を警戒する。

 

登場してほんのわずかな時間でこれまでの戦闘以上の損傷を与えられたのだ、無理もない。

 

だが、ビナーの残された右目のアイセンサーは…リバティ・プライム達の動きを捉えられない。

 

純白の砂混じりの水はビナーのセンサーを掻い潜るには十分な障害だった。

 

いっそのこと手あたり次第自分の体を水に叩きつけようかと判断しようとする。

 

だが…

 

「ッ!!?」

 

自身に起こった異変にその思考は搔き消された。

 

痛い…!

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!

 

幾発もの砲弾を浴びた。

 

数え切れないほどの戦車砲弾を撃ち込まれた。

 

自らの体を貫く砲撃も食らわせられた。

 

そして、自分の体の一部を切り飛ばされた。

 

だが…

 

「ギュイアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

 

それらすらも比較にならないほどの激痛がビナーを襲い今日一番の悲鳴を上げた。

 

ドボォンザバァンドゴォンッ!!!

 

「や、奴に何が起こった…!?」

 

「ビナーが…もがいている…!?」

 

「何と言うか…めちゃくちゃ痛がってるよね…!?」

 

「ん…すごく苦しそう…!?」

 

さらに今までの攻撃ではない、明らかに『もがき苦しんでいる』ように暴れまわっている。

 

その光景をマコトやイロハやシロコなどの遠くにいる者たちはそれを眺めているしかできない。

 

一方…

 

「うわぁ…めちゃくちゃやってるわよ、あの四人…。」

 

「ビ、ビナーがどれだけ苦しいか考えたくもないです…。」

 

「委員長…とんでもなく暴れてるんだろうなぁ…。」

 

残されたエイハブ部隊の面々や…

 

「乗り込み方は無茶苦茶だったけど…効果的なんだ…。」

 

「さ、さすがに私達じゃ、あれは無理だね…。」

 

「凄い、凄いです!アリスもいつかあぁやって空を飛んでみたいです!」

 

「アリスちゃん、あぁいうのは飛んでるんじゃなくて…。」

 

「落ちてるっていう方が近いよ、カッコつけてね…。」

 

援軍にやってきたゲーム開発部やエイミはあんぐりしながらその光景を眺めていた。

 

「ネイトさん、皆…!」

 

イブキも祈るようにその光景を見つめていた。

 

そして、そんなもがき苦しむビナーの悲鳴を合図にしたか、

 

ザバァン!!!

 

「作戦開始!」

 

リバティ・プライム全機が浮上し、

 

ズドドドドドッ!!!!!!

 

再びアイ・レーザーを起動、スプリッターモードで水面に乱射し始める。

 

さて…先ほど常識外れの方法でビナーに乗り込んだネイトたち。

 

話は変わるが…読者の方々は大砲が発達する以前の『海戦』がどのようなものかご存じだろうか?

 

流れは省くが主な戦闘方法は…『移乗攻撃』である。

 

要は敵の船に乗り込んで武器をぶつけ合う白兵戦だ。

 

大砲が発達してからも有効な戦術とされ『機走軍艦』が普及するまで続いていた。

 

………なお、近代でも『無かった』訳ではない。*1

 

場所は水が満ちてきたオアシス、相手は巨大なビナー、そこへ乗り込んだネイト筆頭の四人。

 

その結果は…

 

バギャギャギャギャギャッ!!!

 

「はッはぁッ!!!効果は抜群だな、ホシノッ!!!」

 

ガシャァンバギィンズシャンッ!!!

 

「あぁもう硬いッ!!!なんでネイトさんのそれそんな簡単に切れるんですか!!?」

 

バゴゴゴゴゴゴ…ッ!!!

 

「フフフッ…!!!これは…結構癖になるわね…!!!」

 

ドシュドシュザシュッ!!!

 

「アハハハハハッ!!!さぁ、もっといい声でお泣きなさい!!!」

 

リッパーやハンドアックス、終幕:デストロイヤーに銃剣を振るいビナーの体内を引き裂き叩き壊しまくっていた。

 

蛇のようなボディのビナー。

 

その内部は簡単に言えば…金属でできた筋繊維の束だ。

 

ビナーの圧倒的なパワーの源はこれであろう。

 

さらにはメンテナンス用と思しき通路も数か所あった。

 

ネイトたちはそこに入り込み…手当たり次第に周囲を壊しまくっていた。

 

引き千切り、叩き切り、撃ち砕き、切り裂いていく。

 

中でも…ネイトの得物が異様な威力を見せていた。

 

この中で最も小型のリッパー。

 

だが…今やその一撃はビナーの内部組織をまるでバターを熱したナイフで切るように抉り取っていく。

 

「それもあの銃のような変な効果がついてるんでしょう…?!」

 

手当たり次第に終幕:デストロイヤーを撃ちまくっているヒナがそう予想する。

 

「察しがいいな、空崎ヒナ!!!」

 

最早、小型チェンソーとは思えない破壊を続けるリッパーを振るいながらネイトは答えた。

 

そう、このリッパーは通常品ではない。

 

リッパーとは他の近接武器とは違い『高レート』での攻撃が可能だ。

 

そして、一撃一撃の威力は小さくとも…与え続ければ威力が上昇し続ける効果がある。

 

そう、『猛烈』だ。

 

乗り込んでから実に数分間、絶え間なくネイトはリッパーをビナーに当て続けていた。

 

その威力は最早、片手で持てるチェンソーという範疇を軽々超えている。

 

一振りで…

 

ズバガガガガガガッ!!!

 

まるで削岩機のようにビナーの体内を削り飛ばす。

 

「ずるいッ!!!ずるいですよ、こっちは普通の斧なのに!!!」

 

ホシノはその光景を恨めしそうに見ている。

 

なにせホシノが使っているのはごくごく普通のハンドアックス。

 

最初こそはキヴォトス人の膂力でホシノの方が破壊速度は上回っていたがそれも一分も立つとご覧の通り。

 

そんなホシノのボヤキを聞いてか、

 

「だったらこれ使え!!!」

 

ガシャン!

 

「うわッと!?」

 

ネイトは手近なビナーの残骸を素材に『ある武器』をクラフトしホシノに投げ渡す。

 

その武器のグリップを握ると…

 

ヴォン!

 

緑の光が刀身を形成した。

 

「…信じますよ!!!」

 

そのギミックに驚きつつもホシノがその武器を振るうと…

 

バヂィ!!!

 

独特な命中音と共に接した箇所が溶解し切り裂いた。

 

「なっなんですか、これ!?」

 

「プラズマカッターだ!!!遠征先の土産だよ!!!」

 

驚愕するホシノにネイトはあいかわらずリッパーを手当たり次第に振るいながら答えた。

 

『プラズマカッター』、読んで字のごとく摂氏数万度のプラズマを刃にしてその高温で標的を切り裂く近接武器だ。*2

 

片手で使う武器にしては重いことが難点だがキヴォトス人ならば難なく使えるようだ。

 

確かにこれならハンドアックスだけよりもビナーにダメージを与えられるが…

 

「ちょ、ちょっと怖いんで終わったら返しますね!!!」

 

なにせ普段使いの近接武器とは勝手が違いすぎるので身の危険を感じたホシノは今回だけの使用と決めるのであった。

 

「弾をありったけ持ってきておいてよかったわ…!こんな機会滅多にないもの…!」

 

そんなネイト達とはまた別の場所を壊しまくっているヒナ。

 

終幕:デストロイヤーのバレルやマズルブースターが彼女の神秘の影響を受けてか紫の光を放ちっぱなしだ。

 

7.92x57mmモーゼル弾の薬きょうがヘンゼルとグレーテルのパンくずが裸足で逃げ出すほどの量が散らばっておりそれだけで彼女の通った箇所が分かるほどだ。

 

そして…そんなヒナの顔は普段の彼女からは考えられないほど生き生きとした表情を浮かべている。

 

どれほど暴れても許される。

 

どれだけ撃っても許される。

 

どれだけ壊しても許される。

 

「あぁ…!楽しい…!こんなに楽しいの初めて…!」

 

これまでにない高揚感の中、

 

「『イシュ・ボシェテ』…!」

 

ドォッ!!!

 

ヒナは辺り一帯に破壊の嵐をバラまいた。

 

「アハハハッアレもッ!これもッ!それもッ!目につく物を片端から『壊していい』なんて夢のようですわッ!!!」

 

そんなヒナに巻き込まれないようワカモも大暴れしている。

 

銃剣を振るい真紅の災厄を撃ちまくりありとあらゆるものを破壊し続けている。

 

狐坂ワカモ、趣味『破壊・略奪』。

 

普段は先生との約束で抑え込まれている破壊衝動。

 

その衝動を…思いのままに叩きつけられる。

 

相手はアビドスを跋扈する怪物、誰が責めることがあろうか?

 

「あぁ、幼き身空で枕もとで聞かされた絵巻物をこの身で体験できようとは!!!」

 

巨大な怪物の体内に飛び込み辺りを切り刻み怪物を苦しめる。

 

正に絵巻物の主人公のような戦い、夢のような戦場だ。

 

百鬼夜行の生徒として…これ以上の喜びがあろうか?

 

これほどまで昂る戦いはあったであろうか?

 

「さぁ、もっとお泣きなさい!!!もっと苦しみなさい!!!そのすべてをワカモは今わの際まで記憶いたしますわぁ!!!」

 

露になった口角がこれ以上ないほど吊り上がり仮面から覗かせる眼を爛々と輝かせるワカモ。

 

災厄の狐、その異名を体現するかの如く目に映るものすべてを破壊しつくしていくのだった。

 

熱砂の猛将、暁のホルス、ゲヘナ最強、災厄の狐というキヴォトスの中でも確実に最高峰に列せられる特記戦力の大暴れ。

 

「ギュイアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

 

なおもビナーはこの四人を排除しようともがくが分厚い装甲内にいるネイトたちを排除するのはほぼ不可能だ。

 

人間の頭脳と悪意を持った『アニサキス』が猛烈な速さで体内を荒らしまわっていると考えるとビナーの苦痛は筆舌に尽くしがたいだろう。

 

このまま倒しきれるかと思われるが…

 

「大気状況測定、『目標最低値』を突破。」

 

「各機へ、アイ・レーザー照射を継続。」

 

リバティ・プライムたちはなおも水面に向けレーザーを照射し続けている。

 

立ち昇る湯気の濃度はさらに上昇し辺りを白く染めている。

 

およそ周囲一帯の水は沸騰していると思っていいだろう。

 

「一体あのロボットは何を…!?」

 

ゲヘナの生徒の誰かがそう呟いた。

 

確かにあの大火力を投射すれば一瞬で片がつくはず。

 

それなのに今は『湯沸し器』も同然の働きしかしていない。

 

それでも他の生徒達はネイト達に戦闘の行く末を託すしかない。

 

ネイトが乗り込んでいる状態で攻撃を仕掛けようものならフレンドリーファイアしかねないからだ。

 

ネイトが無意味なことは行わないと分かっているが何が狙いなのか予想がつかない。

 

そんな状況がしばらく続き…

 

《指揮官へ、大気状況臨界!共産中国兵器をアラスカの大地に叩き落とす、至急脱出されたし!!!》

 

「了解した、脱出する!!!」

 

リバティ・プライムからの通信が飛び、

 

「大馬鹿野郎ども、脱出するぞ!!!集合しろッ!!!」

 

乗り込んだメンバーに脱出指示を飛ばすが…

 

「了解…ってどうするんですか!?」

 

「もうかなり奥まで来てしまってるわよ…!?」

 

「あぁん…もうおしまいなのですかぁ?」

 

道すがらの全てを破壊し続けてきたので入り口は最早彼方。

 

そんな状況で脱出など簡単ではないが…

 

「任せろ、出口は俺が作る!!!」

 

バギャギャギャギャギャッ!!!

 

ネイトは目の前の壁にリッパーを縦横無尽に振るい切り開いていく。

 

あれからさらにリッパーの威力は上昇しビナーの筋繊維がザクザク切り刻まれどんどん前進していく。

 

ついには…

 

「今ならお前を輪切りにできそうだ!!!」

 

ギュイイイイイイイイイイイイインッ!!!

 

「う~わ…ビナーの装甲が発砲スチロールみたいに…。」

 

「一体どんなしくみなの…?あの銃もあのチェンソーも…。」

 

「どちらか譲ってはもらえないでしょうか…。」

 

あれだけ破壊に手間取っていたビナーの装甲にも難なく切り込みを入れ、

 

ボゴォンッ!!!

 

あっという間にネイトも脱出できるほどの大穴がくりぬかれた。

 

見ると水面まではそれほど離れていない。

 

「早く飛び込め!!!かなづちはいないよな!?」

 

「うへ~!やっぱりそうなりますよねぇ!!!」

 

ネイトの指示でホシノが一番槍として飛び出す。

 

「まだ泳ぐには二か月近く早いのに…!」

 

「水練の授業をサボらなくてよかったですわ!!!」

 

続いてヒナとワカモが武器を抱えて飛び込んだのを確認し、

 

「もう一度水中ウォーキングは勘弁したいんだがな!」

 

彼女たちが無事着水できたのを確認しネイトも飛び込んだ。

 

「プハッ!!!ってネイトさん!?」

 

「プフッ!あ、あれ着てたらまた沈むんじゃ…!」

 

「ふ~!ともかく今はこの場を離れましょう!」

 

先に浮かび上がったホシノ達は泳いで離脱しようとする。

 

ネイトに関しては『大丈夫だろう』という共通認識だが…

 

ザバァン!!!

 

「「「ッ!!?」」」

 

突如水中から何かが飛び出し…

 

「乗ってくかい、お嬢さん方!?」

 

エンジン付きのゴムボートに乗った生身のネイトが三人に声をかけた。

 

「あっアハハハ…もう何でもありですわね…!?」

 

「でも助かったわ。岸まで泳ぐのは大変だもの。」

 

「って、パワーアーマーどうしたんですか!?」

 

「Pip-Boyの中さ!さぁ、早く乗れ!」

 

これ幸いとホシノ達も素早くボートに上がりエンジンを吹かして素早く離脱する。

 

「それでネイトさん、暴れたのはいいですが一体何が目的だったんですか!?」

 

「あれだけ暴れたのに奴はまだぴんぴんしてるわよ…!?」

 

「師父様が創り出した大絡繰りも何やら水を沸かしているようですし…?」

 

去り際に三人がビナーへの移乗攻撃の真意を尋ねる。

 

確かにビナーには大ダメージを与えられただろうがいまだにビナーは健在。

 

これでは単に手負いにさせただけにも思えるが…

 

「時間稼ぎさ!俺達が体内で暴れればビナーは他に攻撃する暇はないだろうからな!」

 

あの大立ち回りの理由を尋ねられネイトがあっさり答えた

 

あれだけやって時間稼ぎ?

 

「じ、時間稼ぎって何の…!?」

 

ホシノが尋ねたその時…

 

ポタッ

 

「…え?」

 

ボードによって起こった水しぶきとは明らかに違う水滴がホシノの顔に当たった。

 

「こんな高温な気候で冷たい湿った空気と暖かい湿った空気がぶつかったら何が起こるか知ってるか!?」

 

「ま、まさか…!?」

 

今、アビドス大オアシスは冷たい地下水がとめどなく沸き上がっている場所とビナーとリバティ・プライム達によって熱せられ続けた場所がある。

 

さらに砂漠という気温の高い地帯は上昇気流が発生しやすい。

 

寒暖の差が激しい大気同士がぶつかり合うとそこには『前線』が形成される。

 

それらは上昇気流によって上空高くまで運ばれ…

 

ザアアアアアア…ッ!!!

 

ゴロゴロ…ッ!!!

 

「あ、雨だ…?!雨だあああああ!!!」

 

「嘘…!?あの砲弾は…!?」

 

猛烈な雨と雷を引き起こす『積乱雲』を形成した。

 

ネイトが使用した『天候変化弾‐雨』で誘発されたものではない。

 

正真正銘…アビドスの自然を利用した100%自然な雨だ。

 

「ガァッ!?」

 

まさかの大雨にビナーも驚愕し空を仰ぎ見る。

 

こんな短期間でこれほどの規模の雨が二度も降るのはビナーにも初めてだった。

 

だが…それがビナーにとっての命取りとなる。

 

「全機、『凍結爆弾』投擲用意!!!」

 

リバティ・プライムの号令で全機は『量子格納型核爆弾パック』から青を基調とした爆弾を取り出し、

 

「共産中国にアラスカの大地の恐ろしさを思い知らせるのだ!!!」

 

「アイサー!!!」

 

ブォンッ!!!

 

四機一斉にビナー目掛け投げつけた。

 

その爆弾は狂いなくビナーの全身に着弾…

 

バギギギギギィ…ッ!!!

 

「ガアアアアァァァァ…!!?」

 

白い靄がビナーを包み込みその箇所がどんどん凍り付いていく。

 

これだけ水の中で暴れさらに豪雨が降っているのだ。

 

ビナーの体はどこもかしこもずぶ濡れ、その結果…

 

バギィンッ!!!

 

「……………」

 

周囲の水諸共ビナーは巨大な氷像と化しその動きを完全に止めた。

 

だが、さすがはビナー。

 

バキッバキバキッ!!!

 

機能は完全に停止しておらず表面を覆っている氷が徐々にひび割れて行っている。

 

しかし、脱出が間に合うかは…まさに天次第だろう。

 

膨大な量の雨粒は湯気が立ち上るオアシスにどんどん注がれる。

 

水という物質は比熱が大きい。

 

これはつまり『熱しにくく冷めやすい』という性質なのだ。

 

結果として、熱せられていたアビドスの水は新たに湧き上がった水と雨によってどんどん冷却されていき…

 

「ん…湯気が…!」

 

「どんどん消えていく…!?」

 

あれだけ濃かった湯気はいつの間にか霧散してしまっていた。

 

「全機へ、アイ・レーザーを最大広角にし最低出力で照射!!!『銛打ち』へ白鯨を照らし出すのだ!!!」 

 

その時、リバティ・プライムたちはアイ・レーザーから赤い光を照射。

 

最早レーザーの出力ではない。

 

まるで…サーチライトのような赤い光が凍てついたビナーを照らし出す。

 

湯気が晴れ、ビナーの動きが停まり照らし出されている。

 

まさに千載一遇、最早…これを逃すとチャンスはない。

 

「アル、今だッ!!!」

 

ネイトが無線に叫び…

 

「お願いアルちゃん!!!アビドスが…私達に『勝て』と言ってくれてるんだっ!!!」

 

ホシノもエールを送る。

 

「EMLモジュール、全点接続!!!」

 

「ショックアブソーバー最大ッ!!!流入電力リミッターオーバーライド!!!」

 

「ガウスキャノン、最大出力!!!」

 

周囲のロボット達は最終チェックに入る。

 

ガウスキャノンからは明らかに規格外の電力が流入されようとしていることが分かる高音が発せられていた。

 

「ありがとう…兄さん…。」

 

そんな中…アルは冷静だった。

 

ヘッドギア越しに向ける視線の先には…積乱雲の影響で暗くなったアビドス大オアシスの中から聳える赤く照らされている凍てついたビナーがはっきりと見えている。

 

そして…

 

「フゥ~…スゥ~…。」

 

軽く息を吐いてから吸い…照準が定まった。

 

「これで…決める…!」

 

神秘を迸らせアルが引き金を落とした次の瞬間、

 

―――――――――――――――――――ッッッ!!!!!

 

これまでとは比べ物にならないほどの轟音と共に鮮烈な閃光が迸った。

 

ネイトが用意していた『とっておき』。

 

装填されていたのは…『8インチプラズマ昇華弾』。

 

マサチューセッツが誇る最強の威力を誇るプラズマ徹甲榴弾だ。

 

その砲弾をアルは一切の加減を取っ払い最大出力で発射。

 

ガウスキャノンの弾速というのは用いられる電力によって変化する。

 

8インチ砲弾の弾速である『マッハ15』。

 

これは…『運用上、艦に負担を掛けないよう』に設定された速度だ。

 

そして…今回発射に用いられた電力は通常時の優に数倍。

 

その弾速は…マッハ35。

 

地球の重力圏を脱出するのに必要な速度である『第二宇宙速度』に匹敵する。

 

秒速換算で11.9㎞のまさに規格外の速度だ。

 

その速度で…8インチプラズマ昇華弾は宙を駆ける。

 

軌道上の水面の水が割れるのを感知するよりも早く砲弾は…

 

――――――

 

ビナーの頸部に着弾、装甲を難なく貫き砲弾はビナーの体内に進入。

 

数万分の一秒後…砲弾内の信管が作動。

 

ドガァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

「のぉわッ!!?」

 

緑の閃光と共に遅れて到達した衝撃波と爆風は岸に上がったネイトたちをも軽く吹き飛ばすほどだ。

 

「ど、どうなった…!?」

 

なんとか体を起こし…着弾の結果を確かめようとするネイト。

 

ホシノ達もなんとか起き上がり肩を並べる。

 

その時、

 

ドオオオオオオオオオオンッ!!!

 

『ッ!!?』

 

ネイトたちの背後に轟音を立てて何かが落下した。

 

各々武器を構えて振り向くとそこにあったのは…

 

「ビ、ビナーの…首…!?」

 

鯨の特徴を色濃く表している独特な形状のビナーの頭部が…砂漠に突き刺さっていた。

 

その首からは…全ての光が消え一切の生気を感じない。

 

そして…

 

「み、見てください…!ビナーの体が…!」

 

ワカモの声で再びアビドス大オアシスの方へ眼を向けると…

 

ガラガラガラ…ッ!!!

 

着弾と炸裂、飛翔の衝撃に耐えきれなかったのか…凍てつき残されたビナーの体が粉々に砕け散っていっていた。

 

その光景を…地表面が冷却され勢力が弱まった影響で薄くなった積乱雲の隙間から差し込む太陽の光が照らしていた。

 

『……………。』

 

誰も…その光景を目の当たりにして言葉を発せなかった。

 

アビドスにとっての仇敵であるビナーが…討ち取られた。

 

だというのに…その光景はあまりにも神秘的だった。

 

誰もが…その光景に見入っていた。

 

すると、

 

「…総員、ビナーに…敬礼を…。」

 

ネイトはそう無線で指示、コンバットヘルメットを被り挙手で敬礼をささげる。

 

「「「…。」」」

 

ホシノ達も無言で各々が示せる最大限の敬礼をビナーにささげた。

 

誰も彼も…無言でビナーに敬礼をささげていた。

――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

「店長、規則違反者の拘束が完了しました!」

 

「了解した。あとは任せる。」

 

「はいっ!」

 

「…ふぅ~、さすがゲヘナ…。」

 

ゲヘナに派遣された店長は今日何度目かもわからない出動の合間に一息入れていた。

 

傍らには愛用のガトリング銃が置かれてある。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ネイトに任されロボットソルジャー軍団と共にやってきたが幾ら取り締まってもきりがない。

 

ロボットソルジャーの精強さと残留組の風紀委員会のメンバーのおかげで何とか取り締まれているが…普段の店長業務と比べるとやはりきつい。

 

「…よし、そろそろ次の…。」

 

それでも休んでばかりはいられないので立ち上がったその時…

 

「店長、『捕鯨船』より暗号電が…!」 

 

傍らにいたMr,ガッツィーが耳元でそう囁く。

 

「来たか…!他の者たちには…?!」 

 

「隊内無線ですでに報告が行っているとのこと…!」

 

見ると周囲の風紀委員たちも無線機を押し当て報告を聞いているようだ。

 

「それで…結果は…!?」 

 

固唾をのんで店長が報告を聞くと…

 

「『港にランタンの灯火有り』…とのこと…!」 

 

『捕鯨船』から伝えられた暗号電を伝えた。

 

「ッ…!そうか、やったのか…!」

 

その報告を聞き店長は安堵する。

 

『港にランタンの灯火有り』、『犠牲者無し、ビナー討伐成功』を意味する暗号だ。*3

 

つまり…ネイト達は勝ったのだ。

 

全盛期のアビドスも、カイザーPMCも仕留めきれなかった…あの砂漠の怪物に。

 

見ると風紀委員たちもガッツポーズをしている。

 

「全く…貴様らといると退屈しないな…。」

 

アビドスの方向の空を眺めながら店長はそう呟くのであった。

 

その空は…どこかいつもより澄み渡っているように感じた。

*1
第二次世界大戦ではドイツのUボートがアメリカの護衛駆逐艦にラムアタックし白兵戦が発生したこともある

*2
決して某エンジニアが手足を切り飛ばすのに使う工具ではない

*3
ビナーをとり逃した際は『釣果無しににて帰港』、敗退の際は『捕鯨船帰港せず』




一匹の鯨に七浦賑わう
―――日本の諺
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