Fallout archive   作:Rockjaw

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楽しい顔で食べれば、皿一つでも宴会だ。
―――詩人『プルデンティウス』


Heroes, Return to Port

アビドスとゲヘナの連合軍によって行われたビナーとの一大総力戦。

 

想定外や予想外の事態も多々あったが…ビナーの討伐に成功。

 

一瞬たりとも油断できない戦いだったがそれでもネイトや生徒たちは勝利した。

 

そして、激戦の熱も冷めやらぬ中アビドス砂漠に夜が訪れた。

 

激戦が繰り広げられたアビドス大オアシス跡地…いや、蘇ったアビドス大オアシスのほとりでは…

 

「それではっ!!!作戦成功とアゲハ同盟の勝利を祝し…乾杯ッ!!!」

 

「カンパアアアアアアアアアアアアイ!!!」

 

ネイトの音頭で大勢の生徒達が飲み物が入ったグラスを掲げ…

 

ジュウ~…!

 

「さぁ遠慮せずじゃんじゃん食べてくれ!!!」

 

「セイント・ネフティス社とW.G.T.C.の奢りだ!!!」

 

その周囲ではドラム缶を竹割にしたグリルで網一杯に豪快に肉や魚介に野菜が焼かれている。

 

さらには飯場で普段使われている大型炊飯器も全力稼働中だ。

 

「かぁ~旨ぇ!!!大仕事した後のご馳走はたまんねぇな!!!」

 

「アニキもだけど十六夜社長も太っ腹だなぁ!!!」

 

「こんなにステーキが食える日が来るなんて…夢のようだぜ…!」

 

激戦を終え腹と背中がくっ付くほど腹を空かせていたアビドス生徒達は我先にと肉と白米を掻っ込んでいる。

 

やはり学生、その食欲に底はないかと思うほどの勢いだ。

 

「私達だけいいんだろうか…。」

 

一方、ゲヘナ風紀委員の中にはこの状況を楽しむのに尻込みしている者もいた。

 

今も残留組の仲間たちはゲヘナで働いているのに…と申し訳なく思っているようだ。

 

が、

 

「まぁ、今日くらいいいんじゃないかな?あれだけ危ない作戦遂行したんだし。」

 

「W.G.T.C.からも援軍が行ってるから大丈夫だよ。」

 

「それに遠慮しちゃってたら用意してくれたネイトさんやセイント・ネフティス社の社長さんにも失礼だよ。」

 

周囲の風紀委員達がその生徒を安心させるように声をかける。

 

あのネイトが製造したロボット達が自分たちの代わりにゲヘナの治安維持に向っているのだ。

 

残留組の風紀委員たちもきっと平気だ。

 

「……そう…だね。じゃあ私もしっかり楽しまないと!」

 

そんな仲間たちの言葉を受けその風紀委員も気を取り直して食事を楽しむのであった。

 

そして、

 

「ん…やっぱりお肉は最高…!」

 

「ちょっとシロコ先輩!?それ私が取ってきたお肉!!!」

 

「早い者勝ち、ぼーっとしてるセリカが悪い。」

 

「むきー!!!」

 

「コラっシロコちゃん。たくさんありますからそういうことしちゃだめですよ?」

 

「私のあげるから落ち着いて、セリカちゃん。」

 

シロコたちもまるで競い合うように料理に食らいついている。

 

先輩も後輩も垣根無しで普段通り賑やかなメンバーだ。

 

「さぁ出来たぞ、橘の嬢ちゃんたち!Mr,ガッツィー特製BBQピザだ!」

 

「わぁーありがとう!本当に作ってくれたんだぁ!」

 

「お肉たっぷりピザ~、インパクト抜群~。」

 

「ん~!お肉や野菜にBBQソースやチーズが絡んで美味し~!」

 

「今度~新製品のコンペで~出してみようよ~。」

 

ハイランダーのヒカリとノゾミもMr,ガッツィーにピザを作ってもらってご満悦のようだ。

 

一方、

 

「さぁヒナ委員長♬今日は大変お疲れでしょうからしっかり食べてくださいね~♪」

 

アコは普段通り甲斐甲斐しくヒナのお世話をしているのだが…

 

「あ、アコ…私は私のペースで食べるから…!」

 

ヒナの目の前に置かれた皿にはこれでもかと肉が山盛りに盛られている。

 

確かに今日はとても激しく戦ったため空腹ではあるが…それでも限度がある。

 

「あぁ~委員長、食べられなかったら私が…。」

 

「イオリは自分で取ってきてください。貴方は空を飛んでないでしょう?」

 

「いや、アコちゃん!?それで区別するのあんまりじゃないかな!?」

 

「アコ、やめなさい。イオリ、一人じゃ食べきれないから手伝ってちょうだい。アコもちゃんと食べてね。」

 

とこのメンバーも普段通りだがいつもより賑やかに食事を楽しんでいる。

 

そして、

 

「こ、こんなにお肉が…!夢じゃないですよね…!」

 

「夢じゃないから。しっかり食べな、ハルカ。」

 

「はいッ明日死んでもいい位しっかり食べます!!!」

 

便利屋68も普段はなかなか食べられない豪勢な食事を楽しんでいるようだが…

 

「さぁさぁっアルちゃんもじゃんじゃん食べて!」

 

「も、もちろん頂かせてもらってるけど…。」

 

アルだけはなんだか浮かない表情を浮かべている。

 

それもそのはず…

 

「これ…とっちゃダメなの、ムツキ…?」

 

「えぇ駄目だよ~♪なんたって今日のMVPなんだからさぁ♪」

 

現在、アルは『本日のMVP』とでかでかと書かれたたすきを掛けられている。

 

作戦終了後、アルのメンタルは急上昇と急降下を繰り返していた。

 

まずはマニュアル照準で砲撃をビナーに直撃させ止めを刺したことにアルはほっと息をついていた。

 

その後、ビナーへの追悼を終えた後…

 

「アアアアアアアアアッやっちゃったああああああああ!!!?」

 

白目をむいて外聞もなく叫んでしまった。

 

しかし…それも無理はない状況だった。

 

ビナーにとどめを刺すためにシステムをオーバーライドさせてガウスキャノンを放ったのだ。

 

これがマサチューセッツならそうでもなかったが…今のこの砲は列車砲だ。

 

反動がもろにガウスキャノンのみに集中。

 

搭載されている車両では耐えきれず…というより反動を受け止める前に基部が破壊されてしまった。

 

結果…ガウスキャノン本体は台車を引き裂いて数十m後方に吹っ飛び砲身もへし曲がったり機関部もぶっ飛んでいたりして最早完全なスクラップに。

 

さらには周囲の車両複数台も脱線するという大惨事だ。

 

ネイトから『壊していい』というお墨付きはもらっていたが…

 

(あんな大砲の弁償なんて幾らになるのかしら今の貯金で足りるかしらそもそも払えるのかしらひょっとしたら便利屋もたたまなきゃいけなくなるんじゃ兄さんに怒られるかしら!?ああああああああああああ!!?)

 

とおそらく生涯一パニックになっていた。

 

しかし、

 

「気にするな、アル。俺が壊していいって言ったんだからな。」

 

脱線の修理のために駆け付けたネイトはあっさりとガウスキャノン全壊の報を受け入れ許してくれたうえ、

 

「それよりも…アル、よくやった。さすがはアウトローにして俺の義妹だ。」

 

頭を撫でて称賛の言葉を贈ってくれた。

 

「兄さん…!」

 

感極まるアルだったが…

 

「んじゃ、俺はこれで!おい、ウタハにハレ!!!なにどさくさに紛れて解析しようとしてる!!?」

 

それもそこそこにネイトは工具とノートパソコンを抱えガウスキャノンの残骸に向っていくウタハとハレの捕縛に向かうのだった。

 

「…褒められるのは嬉しいけど…こんなのアウトローじゃないわぁ…!」

 

「まーまー、大活躍には変わりないんだから♪はい、あ~ん♪」

 

と、こういった理由でビナー討伐の大手柄を立てたアルはムツキに飾り立てられているのであった。

 

そして、そんなアル以上に…

 

「ほら、マコト先輩。手が止まってるからお肉焦げてますよ。」

 

「えぇい分かっている!少しは食べるペースを…!」

 

「マコトちゃ~ん!こっちにもお肉とお野菜を追加ね~!」

 

「サツキ、取るくらい自分で…!」

 

「おぉ!これは激レアな場面ですねー!マコト先輩、こっちにも目線下さーい!」

 

「やめろ、チアキ!!!絶対に紙面に載せるんじゃないぞ!!?」

 

「議長!こっちには焼きそばお願いします!」

 

「きっ貴様らぁ…!」

 

似合わないエプロンを付けてグリルのそばに立ち万魔殿のメンバーにこき使われているマコト。

 

普段なら絶対やらない役回りだが…

 

「たった1時間です。社長との約束なんですから頑張ってくださぁい。」

 

「グヌヌヌ…!!!」

 

悔しい表情を浮かべているが…受け入れるしかない。

 

これまた戦闘終了後に時間は戻る。

 

生徒達は予定されていた集合地点であるアビドス大オアシス駅に集結していた。

 

「………!」

 

そんな中、一足早く帰還していたマコトは今か今かとその時を待っていた。

 

そして…

 

キュラキュラキュラ…!

 

「ッ!来たか…!」

 

遠くの方からこちらに近づいてくる重々しい駆動音が届いてきた。

 

マコトの表情が一気に明るくなりそちらを見ると虎丸を筆頭にイロハ率いる戦車部隊『クイークェグ』が帰還してきていた。

 

そして、その虎丸に…

 

「イブキ…!」

 

装填手用ハッチから愛しのイブキが身を乗り出しているのが見えた。

 

見たところ怪我一つしておらず服が濡れているくらいしか変化がない。

 

「よかった…!無事だったようで…!」

 

その姿を見て安堵するマコト。

 

虎丸はそのままアビドス大オアシス駅の傍らに駐車。

 

「イブキー!!!」

 

マコト筆頭に多くの万魔殿所属の生徒達が駆け寄ってきた。

 

「イブキッ!!!イブッ…!?」

 

しかし。、マコトの足と声は急速に止まる。

 

他の生徒達も同様だ。

 

それもそのはず、虎丸の砲塔後方から…

 

「ネイト社長、到着しましたよ。」

 

「乗せてもらってすまなかった、イロハ。」

 

のっそりとネイトが現れたのだ。

 

固まるマコトたちをしり目にネイトは地面に降り立ち…

 

「………羽沼マコト、一緒に来い。」

 

これまで聞いたことがないほど冷たい声と無表情でマコトに同行を求めた。

 

「そ、それより先にイブ…っ!」

 

嫌な予感しか感じない要求に何とかお茶を濁そうとするマコトだが…

 

「来るんだ。三度目はないぞ。」

 

『…~!!!』

 

僅かに語気を強めて同様のことを述べた。

 

その言葉に…周囲にいた全員の喉が引き締まる感覚を覚えた。

 

ここは暑い砂漠のはずなのに…明らかに異質の冷汗が噴き出して止まらない。

 

「わッ…分かった…!」

 

「よし、ついて来い。」

 

さすがのマコトもそれ以外の言葉を発することができずネイトの後を黙ってついていくしかなかった。

 

「マコト先輩…。」

 

「大丈夫ですよ、イブキ…。」

 

心配そうなイブキを安心させようと声をかけるイロハだがそんな彼女も心配そうな表情を隠せないでいた。

 

ネイトとマコトは人目のつかない駅の一角に向い、

 

「さて…イブキに関する顛末はイロハから聞いている。」

 

彼女の前に立ち淡々と言葉を発するネイト。

 

「………。」

 

対して、マコトは顔を青くし震えるしかできなかった。

 

今まで何度もネイトの恐ろしい場面は見てきた。

 

だが…

 

「俺はな、よっぽどのことがなければ失敗は反省を促すことはすれど責めはしない。次に活かせばいいし終わったことを何時まで言っても仕方ないからな。」

 

今回はそれらとは全くの異質なプレッシャーだ。

 

「今回の作戦に関しても別に誤射があろうが気にしないし学校間のトラブルに繋がったら俺が間に立って解決に動くつもりだった。」

 

例えるなら…そう、

 

「だが…この件はそれとは全く違う。」

 

判断を間違うとそこで終わる、地雷原の上に立たされているような感覚だった。

 

「マコト、確かに昨日…書面にこそ残さなかったが俺とお前は同意の上でイブキを連れて行かないことを決めたよな?」

 

決して怒鳴る訳でも、

 

「俺もお前も…イブキの身を案じて彼女にはここに残ってもらう、そう決めたよな?」

 

睨みつけるわけでも、

 

「俺もその約束は順守していること前提で作戦を開始した。」

 

どちらかというと穏やかな口調だというのに…

 

「だが、なぜか俺のあずかり知らぬところで…お前はその取り決めを反故にした。…これはどういうことだ?」

 

その首にナイフを突きつけられているような感覚をマコトは味わっていた。

 

「そっそれは…っ。」

 

言葉を発しようとするマコトだが、

 

「さっき言ったように…俺は失敗は反省を促すが責めはしない。だがな…そんな俺でもたった一つ我慢ならないことがある。」

 

それを許さないようにネイトは言葉を被せ…

 

「それは…『裏切り』だ。どんな事情があったにしろ、俺はそれを許しはしない。」

 

「…っ!!!」

 

『裏切り』、その言葉がマコトの胸に突き刺さった。

 

「マコト、お前やイブキの気持ちはどうであれ…これは明らかな『造反行為』だ。」

 

「………!」

 

「お前の行為はイブキだけじゃない。作戦全体を危険にさらすような忌むべき行為だ。」

 

「………ッ!」

 

容赦なく投げかけられるネイトの言葉にマコトは一切反論できなかった。

 

現に…イブキが大多数の生徒が知らないうちに同行していた影響は語るまでもない。

 

さらに大規模突発湧水時にはマコトは自分に任されていた部隊である『クイークェグ』を動かし彼女の救出を行おうとしていた。

 

もし、『クイークェグ』が救出に向かっていた場合…被害は計り知れないものになっていただろう。

 

「さて、マコト。一つだけ答えてくれ。」

 

最後にネイトはマコトにこう問いかけた。

 

「マコト…お前にとって俺との約束ごとは『子供の駄々』ごときで反故にしても構わないような…その程度の『価値』しかないのか?」

 

自分はネイトよりも身長が高い。

 

ハイヒールのブーツも履いているのでネイトを見下ろしているはずだ。

 

だが、今のマコトには…ネイトが法壇から自身を見下ろす裁判長のように思えた。

 

もし…ここで間違えば二度とネイトは…。

 

一瞬が永遠とも思えるような時が過ぎ…

 

「………け…決して…ネイト社長との取り決めを軽んじていたわけでは…ない…!ただ…『イブキの望みを叶えてやりたかった』、それだけだったんだ…!」

 

「………。」

 

ネイトの質問への答えとなぜそのようなことをしたのかの釈明、

 

「ネイト社長の作戦なら…イブキも危険がない、そう判断して…イロハの戦車に乗せてしまったんだ…!偏に…わっ…私のこの作戦と危険性に対する認識が…甘かった結果だ…!」

 

「………。」

 

そのような行動に至った経緯と責任の所在を明確にし…

 

「貴方もイブキを危険な目に合わせないようにしていたのに…社長との約束を断りもなく反故にし…貴方や作戦を危険にさらしてしまい…申し訳なかった…!」

 

最後に謝罪の言葉を述べて…マコトはこれ以上ないほど頭を下げた。

 

いつもの傲慢な態度などどこにもない。

 

ただただ、ゲヘナを統べる『責任者』としての彼女の姿がそこにはあった。

 

それを見て、

 

「………マコト、俺も『アリス』という存在がいるからお前の気持ちも分からんではない。」

 

頭を下げたままのまことにネイトは声をかける。

 

「…だがな、甘やかしてばかりではそれは『愛情』とは言わない。誤解を恐れず言わせてもらえば…俺にはお前がイブキを『愛玩』しているようにしか思えない。」

 

「そっそれは…!」

 

その言葉にマコトも反論したかったが…言葉が続かなかった。

 

それは…この目でネイトとアリスの関係を見ていたからに他ならない。

 

二人は互いに互いを思いあい、大事に思っていることがひしひしと伝わってきていた。

 

だから、ネイトの想いをアリスも汲み取り当初は参戦せず行く末を見守っていた。

 

だが…自分とイブキはどうだ?

 

いつもイブキのご機嫌を損ねないように行動し、イブキに泣かれないように物を与え、イブキの願いを無条件で聞き入れ続けてきていた。

 

時には自分の万魔殿の議長という権限をも使って。

 

これではまるで…ペットに対する感情ではないか。

 

「…ッ!!!」

 

その結論に達し解き、マコトの表情がゆがんだ。

 

「…あのゲヘナで議長になれるほど賢いお前なら…どちらが正しいかは分かるはずだ。」

 

「………あぁ。…私も…イブキをあんな目には二度と合わせたくない…。」

 

だが、不思議と…ネイトの耳に痛い筈の諫言もしっかりとマコトに届いたようだ。

 

「だったら、今後はしっかりやってくれ。もう…俺もあんなことはごめんだからな。」

 

その表情を見て、ネイトも彼女が理解してくれたと判断する。

 

「無論だ…。」

 

マコトも重々しい声で答えた。

 

すると…

 

「…それじゃあとはお仲間に任せることにする。」

 

「………は?」

 

ネイトが不意にそんなことを口走ったかと思うと、

 

「総員、議長を担ぎ上げろおおおおおおおお!!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「ヌゥオアアアアアッ!!?なんだ、貴様らッ!!?」

 

近くの扉が開け放たれ万魔殿の生徒達が流れ込みマコトを担ぎ上げ外へと駆け出して行ってしまった。

 

「このバカ議長、イブキ議員を戦場に送り込むなんて!!!」

 

「バッバカだとッ!!?おいっ今誰が私のことをッ!?」

 

「ここまで間抜けとは思わなかったですよ!!!」

 

「まっ間抜ッ…!?」

 

「我らのアイドルを危険な目に合わせた罪、万死に値する!!!」

 

「普段からバカやってるからこういうとこでもポカやらかすんだ!!!」

 

「貴様ら、ここぞと言わんばかりに好き勝手…!」

 

「我々の気持ちが晴れるよう償いをしてもらいます!!!」

 

「ザッケンナコラー!スッゾコラー!」

 

「書類サボんなー!!!」

 

「予算もっと寄越せー!!!」

 

「ヒナ委員長に休日をー!!!」

 

「おいっどさくさに紛れて風紀委員がいるぞ!?!」

 

そんな風にマコトは抵抗するも多勢に無勢、全く意に介されず運ばれ…

 

「せぇのッ!!!」

 

「ノワアアアアアアアッ!!!」

 

ドッポオオオオオオンッ!!!

 

憐れ羽沼マコト、ゲヘナの生徒達に投げ飛ばされ復活したアビドス大オアシス6人目の遊泳者となったのであった。

 

「ねぇイロハ先輩…大丈夫なのかな…。」

 

「気にしないでください、イブキ。責任者というものは責任をとることが仕事なんですから。」

 

その光景をイブキとイロハは虎丸から眺めているのであった。

 

その後、マコトを抜いた万魔殿の生徒たちで話し合い…

 

「貴様ら…帰ったら覚えておけよ…!」

 

「何言ってるんですか、マコト先輩。今は無礼講ですよ、無礼講。」

 

「ネイト社長もそれでチャラにしてくれるって言ってくれてるんですから安いもんですよ!」

 

「グヌヌヌ…!!!」

 

それがこの万魔殿の生徒への給仕活動だ。

 

ネイトも自分があれこれ口を出すよりゲヘナ内で決着をつけてもらった方があとくされもないと判断しそれを了承。

 

いつも議長として傲慢なふるまいをしているマコトにとってはこれ以上ないほどいい薬になるだろう。

 

「せめて…せめてイブキさえいてくれれば…!」

 

こんな状況でも愛しのイブキがいるのであればかなり精神的に楽になるのだが…

 

「ハイッネイトさん、あ~ん♪」

 

そんなイブキはネイトの膝の上に陣取り食べさせっこをしていた。

 

今は普段被っている帽子も脱いで頭部に生えた可愛い小さな角があらわになっている。

 

「いっイブキ…一人で食べれるから…。」

 

ネイトもネイトでやんわりと断るが…

 

「じゃあネイトさんがイブキに食べさせて♬あ~…。」

 

この11歳、強い。

 

しかも、ネイトの現在進行形の問題はイブキだけではない。

 

「………なぁ、アリス。心配させてしまったのは悪かったからもう離れてくれないか?」

 

「いやです!パパはアリスを心配させすぎました!罰として満足するまでハグの刑です!!!」

 

その背中には両手足を目一杯使ってアリスがしがみついている。

 

マコトの説教終了後、宴会の準備中からずっとこの調子だ。

 

乾杯の音頭の際は何とか離れてもらったが…

 

「でも、それだとアリスも食事ができないだろ?」

 

「じゃあパパがアリスに食べさせてください!あー…!」

 

「…こりゃ梃子でも離れそうにないな…。」

 

そのせいもあってかネイトの説得もナシの礫だ。

 

「ネイトさん、イブキが先だよ~!」

 

「ダメです、イブキ!パパはアリスのパパなのですから!」

 

「分かった分かった、順番でやってあげるから喧嘩しない。じゃあ、アリスからな。あ~ん。」

 

「やりました!あ~♪」

 

ネイトをはさみ言い合いに発展しそうになる雰囲気を感じ取りネイトも折れることに。

 

「うへへへ~モテモテだねぇ、ネイトさぁん♪」

 

「フフッ両手に花ならぬ蕾ですわね。」

 

「アリス、ネイトさん成分欠乏になってるねぇ。」

 

「あれだけ心配してたから、仕方ないよ。」

 

そんな様子をホシノ達は微笑ましく眺めている。

 

「あ、あれだけ大胆にやっても断られないのなら…。」

 

唯一、ミドリだけがどこか湿った視線を向けていた。

 

なお、誰も彼女も助け船を出すつもりは一切ない。

 

それだけではない。

 

「ネイトさん、ケテルの戦力化をどうやって成功したのですか!?その巨大すぎるヘイローは一体何なのですか!?」

 

「あのロボット、一度私に預けてみない?安心して、徹底的に解析した後中身は必ず元通りにして返すから…!」

 

「さぁ、あの大砲について詳しく話してもらおうか!残骸をお預けにしたんだ、それくらいはしてもらわなくては!!!」

 

ヒマリ、ハレ、ウタハのミレニアムの最高の頭脳たちが食事の合間合間でネイトを質問攻めにしている。

 

ケテルの制御化に成功、ガウスキャノン、リバティ・プライムに規格外の神秘を宿したヘイロー…。

 

この三人にはこの作戦は刺激が強すぎたようだ。

 

だが、

 

「…エイミ。」

 

「うん、ネイトさん。さぁ先輩たち、今は宴会中なんだからそういう話は後にしようね。」

 

「あぁんエイミ!まだこの超天才病弱美少女ハッカーであり、好奇心旺盛な分析家、かつ科学少女の話の途中なんですよ!?」

 

「あの武器で技術をタダでもらえるなんてずるいぞ!!!」

 

「あとでその武器も見せて…!そんな技術一体どこで…!」

 

特異現象捜査部の実働部員であるエイミによって三人はなす術もなく引きはがされる。

 

その腰には…ネイトがビナーの体内でクラフトしたプラズマカッターが挿されてあった。

 

戦闘終了後、ホシノが扱いづらいとしてネイトに返してきたのを解体しようとしていた際、

 

「ネイトさん、その武器使わないのなら私にくれない?」

 

ということで『ブラックボックス化』の処置をしてからエイミに譲ったのだ。

 

さらに改造として刃を超高温の『プラズマビーム』から『超低温ビーム』に変換した『冷却ブレード』に改造してある。

 

「すまないな、エイミ。君も疲れているだろうに。」

 

「気にしないで、私もちゃんとご馳走になってるから。それにここ涼しいからいつもより調子がいいの。」

 

「そうか。アイスとかも用意してるから遠慮するなよ。」

 

「やった。じゃあまたあとで。」

 

「ネイトさんっ絶対に洗いざらい全部答えてもらいますからねー!!!」

 

「せめてっせめて語ろう!!!貴方なら私たちのロマンも理解してくれるはず!!!」

 

「解析を…!そうすればまた私達は次の段階に進むことが…!」

 

というわけである意味『買収』されたエイミによってエイミたちは後ろ髪が巻き付く想いで退散させられるのであった。

 

「これは次は逃がしてはもらえないようだな…。」

 

「先輩たち、くらいついたら絶対放しはしないから覚悟した方がいいよ?」

 

「そ、それにきっとセミナーにも、報告が上がると思います…。」

 

「ユウカもノア先輩もそういうのは絶対に解き明かそうとしますから…。」

 

「…はぁ~先が思いやられる…。」

 

作戦後の面倒ごとが確定しげんなりするネイト。

 

ミレニアムだけではない。

 

おそらくゲヘナも絶対あれこれ問い詰めてくるに違いない。

 

しかも、いつものようにスピーチチャレンジでは絶対に言い逃れはできないだろう。

 

「…仕方ないとはいえこの姿は初見のゲヘナやミレニアムの生徒には刺激が強すぎたか。」

 

「無理もないよぉ。見たことないほどおっきなヘイローにあんな凄い巨大ロボ作っちゃうんだもん。」

 

「姿だけでなくあのような御業まで…。一体、どのような由来のある神秘なのでしょうか…。」

 

「しかもなんか能力の効果範囲まで拡大してるし…我ながらよく分からん能力だ…。」

 

ヘイローが発現した際に変化した砂漠の色。

 

作戦後確認したら周囲数十㎞に渡り白い砂漠が広がっていた。

 

原因は分かっている。

 

リバティ・プライムをクラフトする際に膨大な量の『鉄』などの金属を使用した。

 

薬莢やらビナーを拘束していた鎖にケテルの残骸などでは足りずネイトはどうやって捻出したかというと…砂漠の砂からだ。

 

砂漠の砂の色は主に『酸化鉄』が原因である。

 

ネイトは『源流の神秘』発現後、直ぐに最大効果範囲のクラフトを行い砂中の鉄や様々な鉱物を根こそぎ収集しリバティ・プライムを創造したのだ。

 

結果、砂漠の砂には主成分である『石英』しか残らず純白の砂漠が誕生したのである。

 

が、無我夢中だったとはいえ…明らかにやり過ぎた。

 

その結果が鼠算式に積み重なる問題の数々だ。

 

「さてどうするかぁ…。これならビナー対策に頭を回した方が楽だ…。」

 

そんなこんなであれこれ考えて頭が痛くなっているネイトだが…

 

「まぁまぁ師父様、先のことを考えても仕方ないですわ。何はともあれ一献如何ですか?」

 

「あぁすまないな、ワカモ…。」

 

「ほらほらどんどん食べてぇ♪じゃないと体持たないよぉ?」

 

「…そうだな、ホシノ。まずは食って体力付けなきゃな。」

 

「パパ、元気出してください♡アリスがあ~んして抱きしめてあげますから♡」

 

「イブキも~♪元気出して~、ネイトさん♬」

 

「はははっありがとう、アリス。それにイブキも。」

 

周りにいる少女たちがそんな彼を元気づけようとしてくれ自然と頭痛と表情が和らいでいくのを感じた。

 

「アハハハッネイトさんったら沢山の女の子に囲まれてまるでギャルゲーの主人公みたい!」

 

「モモイ…こんなおじさんじゃ映えなさそうなゲームだぞ、それ。」

 

「おじさんが主人公のギャルゲー…これは結構いいアイデアかも。」

 

「ミドリ、やめてくれ。それで売れなきゃ俺が悪いみたいになるだろ。」

 

「だ、大丈夫ですよ、ネイトさん。きっと大ヒットする、でしょうから。」

 

「本気にしないでくれよ、ユズ…。頼むから…。」

 

その様子に何やら新たなインスピレーションを加速させるゲーム開発部なのであった。

―――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

そんな食べて飲んで騒いでの大宴会も…

 

『Zzz…Zzz…。』

 

「むにゃむにゅあ…もう、もう食べきれないわぁ…。」

 

「アコぉ…そ、そこは焼いても食べられないわぁ…。」

 

「せんぱぁい…また私のお肉ぅ…。」

 

「ぱひゃぁ…ピザが一枚…ぴざがにまぁい…。」

 

深夜になった頃には全員夢の中に入っていった。

 

余程疲れていたのだろう。

 

全員、寝間着にも着替えずに制服のままベッドどころか床にまで雑魚寝している。

 

本来は誰かが歩哨に立つはずだがその任はMr,ガッツィーが担ってくれている。

 

が、そんな中…

 

「ん…んン~…。」

 

また今日も、眠りが浅かったか天雨アコはのそりと起き上がった。

 

「…私としたことがパジャマにも着替えないで…。」

 

普段の自分らしからぬだらしない有様に苦笑しながら着替えようと身を起こした。

 

すると…

 

「あら…?」

 

視界の端にまるでこの砂漠を照らす月光のような青い光を背負って動く影を確認、

 

「ネイト社長…?」

 

あんな格好の人物はこの場ではネイトしかいない。

 

「………。」

 

その光に誘われるようにアコはその後を追いかける。

 

ネイトの足跡はそのまま駅の格納庫まで続いていた。

 

「今日もですか…?一体何を…?」

 

不審がりながらも自分も中に入ろうとした…その時、

 

「空崎ヒナの従順な部下かと思ったが…存外勝手に歩き回るものだな。」

 

「ッ!?」

 

突如として格納庫の影から声を掛けられそちらを見ると…

 

「闇討ちしようってつもりじゃなさそうだな。」

 

「ネ、ネイト社長…!?」

 

壁に寄りかかりこちらを見るネイトがいた。

 

あれだけ目立つヘイローを背負っているとは思えない隠密だ。

 

「で、何か用か?」

 

「そっそれは…。」

 

ネイトに尋ねられアコは困ってしまった。

 

目的などない、ただ何となくついてきただけだからだ。

 

そんなわけで答えに困っていると…

 

「………まぁいい、気になるなら付いて来るか?」

 

「え?」

 

「別に隠すような事でもないしな。」

 

彼女の心中を察したか、ネイトがそんな提案をしてくれた。

 

正直、互いにいい印象など持ち合わせていないことは理解しているが…

 

「…いいでしょう。貴方が一体何をしようとしていたか、風紀委員行政官としてしっかり見定めさせてもらいましょうか。」

 

普段の彼女の勝気な性格がその提案に乗る以外の選択肢をなくしていた。

 

「そんな大層なことじゃないが…まぁいいか。」

 

ネイトもそれを受け入れ、二人は静かにガレージ内にあったジープに乗り夜の砂漠に繰り出す。

 

「………。」

 

「………。」

 

移動中もこれと言って会話はなかったが…不思議とアコには気まずさはわかなかった。

 

月明かりに照らされまるで海原のように広がる蒼い砂漠をしばし走り続け…

 

「着いたぞ。」

 

「ここは…。」

 

目的地にすんなり到着した。

 

そこは…

 

「ビナーの…。」

 

砂漠に横たわる巨大なビナーの首があった。

 

なぜここに、とアコが疑問に思うが…

 

「さて…。」

 

ネイトはビナーの首の前にどっかりと腰を下ろし…

 

「お前の図体じゃ全く足りないと思うが…。」

 

Pip-Boyから取り出したのは…二つのグラスと見るからに酒が入っていると分かるボトルだ。

 

「ちょ、ちょっと…!」

 

「どうかしたか?」

 

「せ、生徒の前でお酒を出すのはキヴォトスでは…!」

 

アコは治安を守る風紀委員の一員としてさすがに一言申したかったが…

 

「だったら後でヴァルキューレにでも突き出せ。悪いが止まりはしないぞ。」

 

そんなことは意にも介さず、ネイトは準備を進めていく。

 

すると…

 

「………はぁ~…。」

 

「どうかしたか?」

 

アコは深くため息をついてからネイトの隣に腰を下ろし…

 

「…生憎、そういうのは現行犯が原則な上…ここはアビドスですから私も活動できません。だから、今回は大目に見てあげます。」

 

不機嫌そうな表情でネイトの行動を渋々容認するのであった。

 

「…フフフッ、天下のゲヘナ風紀委員会の行政官のお墨付きとは心強い。」

 

「勘違いしないでください。チャンスがあれば必ずあなたを取り締まります。」

 

「じゃあ、そうならないように気を付けよう。」

 

そんな言い合いをしながらネイトは自分の近くとビナーのそばにグラスを置き…

 

トクトクトクッ…

 

ネイトは二つのグラスに琥珀色の液体…バーボンを注ぐ。

 

そして、自分のグラスを手に取り…

 

「Toast…。」

 

それを掲げて静かに呟き中身を呷った。

 

「………献杯…ですか。」

 

「まぁな。」

 

アコにはこれが死者を弔う行為だとすぐに分かったが…

 

「…なぜ、ですか?」

 

「何が?」

 

「ビナーはアビドスにとって…。」

 

なぜそれをビナーに捧げるのか分からなかった。

 

アビドスがここまで衰退した原因はビナーと言ってもいい。

 

かつての最強校の凋落の首謀者ともいえる仇敵のはず。

 

どれ程の恨み辛みが向けられているか分かったものではない。

 

ネイトもそんなビナーを仕留めるため、戦いだけでなく策謀まで張り巡らせてきた。

 

アコ自身…それが身に染みて分かっている。

 

だが…

 

「ぶつかって互いに命のやり取りをしたが…こいつも決して『悪』だったわけじゃない。」

 

「え…?」

 

「コイツは…ただ『アビドスのため』に動いていた、こいつなりの『正義』をただ遂行していただけだ。それが俺達の『正義』に沿わずぶつかってしまった、ただそれだけだ。」

 

ネイトはビナーを『敵』と評していたが決して『悪者』と称したことはない。

 

どちらも…『アビドスを良くするため』、その願いのため戦った。

 

その結果、ビナーは散った。

 

最後まで一切逃げず、生き残りをかけて雄々しく戦い抜いた。

 

「それに…もう戦いは終わったんだ。いつまでも『恨み』を募らせていては疲れて仕方がない。」

 

そんなビナーを恨み続けるのは…ネイトにはできなかった。

 

「………。」

 

「だから、この戦いで散った『この地を思う同胞』を悼んで思いを受け継ぐ。それが…この戦いに勝利したアビドスの責務だと俺は思う。」

 

そんな決意を新たにするため…ネイトはここにやってきたのだ。

 

夜の砂漠、そんな無音の時間がしばし続いた。

 

すると…

 

「…ネイト社長、貴方は…危険です。」

 

不意にアコが話し始める。

 

「貴方は…どこまでも『死』に近づいていきます。まるで…死ぬことなどとうに『覚悟』出来ているかのように。」

 

「前職が前職だ。そんなものとっくに…。」

 

まるで愚問だと言わんばかりにネイトは答えるが…

 

「問題は…そのくせ、誰よりも…『生きる』ことに『決意』を固め…周囲の全員をその道に巻き込むことです…!」

 

アコは続けて言葉を繋ぐ。

 

ネイトがイブキと共に濁流にのみ込まれた後のことだ。

 

普通なら大きな支柱を失えばその部隊は瓦解するはず。

 

だが…アビドスは誰も諦めず、それどころかより一層攻撃は苛烈になった。

 

さらにはアビドスではないゲヘナの生徒も奮起した。

 

「そのヘイローのように…貴方の光は人を導きます…!それが例えどんなに危険な道のりでも…貴方が進む限り皆は付いて来るでしょう…!」

 

例えるならそれは灯台、暗闇に道を示す役目にもなるが…

 

「でも…ともすれば…破滅に向って全員で突っ込むことにもなります…!」

 

一歩間違えば総崩れともなる危険性もはらんでいる。

 

そんなアコの意見に、

 

「確かにな。だから…俺は慎重に行く末を見極めなければならない。」

 

ネイトもそれに同意し、自分の役目を語る。

 

そして…

 

「そして…天雨アコ。」

 

「なんですか…!?」

 

「それは以前の風紀委員にも言えるんじゃないか?」

 

ネイトはアコが言わんとしている真相を突き付ける。

 

「………そう…ですね…。」

 

不思議と…アコはすんなり認めた。

 

「私たちにとっても…ヒナ委員長は行き先を示す光でした。」

 

そうだ、以前の自分もそうだった。

 

ヒナの後に続けば大丈夫だ。

 

ヒナに従えば全て上手くいく。

 

ヒナを追いかければ成功する。

 

アコもイオリも…いや、風紀委員の全員がそう思っていた。

 

「でも…その光は貴方とは違う…。」

 

その末路は…語るまでもないだろう。

 

そして、そんな自分たちとネイトとの違いもアコには分かっていた。

 

ネイトは『灯台』、陸がある方向を示すだけで…道のりは自分次第だ。

 

「私達は…その光を委員長に任せすぎていました…。」

 

対する風紀委員にとってのヒナは…『松明』だ。

 

近くにある分、手元は明るいが…目的地は見えない。

 

もし道を間違えても気付くのは遅れる。

 

それを…その松明を風紀委員はヒナだけに持たせていた。

 

「そして…貴方たちアビドスは…そんなヒナ委員長と同じ光を持つ方が何人もいらっしゃいます…。」

 

アビドスは…その松明を何人も持っていた。

 

ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ…他の隊長たちもみな松明を持っていた。

 

だから…迷わず目的地へ向かえるし道を間違えたら方向転換も出来る。

 

「そして…ヒナ委員長やあのマコト議長ですらその光を受け取り…正気を取り戻せていました…。」

 

そして…その光でゲヘナの自分たちも導いた。

 

その様子は…今日まざまざと見せつけられた。

 

「全く…誰かさんに影響されたせいでしょうか…。」

 

アコはなぜヒナの変化を居心地悪く思っていたかを理解できた。

 

ヒナは今…灯台になりつつある。

 

遠くに離れても皆を導けるよう…成長している。

 

その距離の違いをアコに違和感を与えていたのだろう。

 

「…やっぱり私は貴方のことが大っ嫌いみたいです、ネイト社長。」

 

改めて、自分のネイトに対する感情を吐露するアコ。

 

「誰からでも好かれるつもりはないから別に気にしないぞ。」

 

ネイトもそれをサラッと受け止めるが…

 

「ですから…。」

 

「ん?」

 

「…ですから最後まで…私が『大っ嫌い』なままの貴方でいてください、ネイト社長…いえ、ネイトさん。」

 

ネイトの目をまっすぐ見て初めてネイトを役職付きではない呼び方をした。

 

そして…そんなきつい言葉と裏腹に…どこかその表情は晴れやかだった。

 

「…あぁ、せいぜい嫌われ続けるように精進するさ。」

 

ネイトも彼女の言葉に則って浅く笑みを浮かべて答えるのであった。

 

「さて…やりたいこともできたしお喋りも堪能できた。帰るか。ゲヘナは明日もやることがあるだろう。」

 

「そうですね、早く戻って床に就かなければいけませんね。…帰りは特別に私が運転して差し上げましょう。」

 

「おぉ、行政官殿が運転手とは痛み入るな。」

 

「…ひょっとしてこれ目的のために私を付いてこさせたんですか?」

 

「さぁ?」

 

「…やっぱりあなたは大っ嫌いです。」

 

軽口を交わし合いながら…ネイトとアコは乗ってきたジープに乗り込み駅まで戻っていくのであった。




その人が好きか嫌いか知るのに、一緒に旅をするよりも確実な方法はない。
―――作家『マーク・トウェイン』
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