Fallout archive   作:Rockjaw

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敵があなたを怖がらせる方法をよく観察すれば、敵がもっとも恐れていることを見つけることができる。
―――哲学者『エリック・ホッファー』



Epilogue:Landing of Each Power

ビナーとの激闘を終えたアビドスとゲヘナ、ハイランダーのアゲハ同盟。

 

三校入り混じった祝宴も昨日のことでまたアビドスの大地に日が昇り、新たなる一日が始まった。

 

そして…

 

ゴゴゴゴゴ…ッ!

 

「ゲヘナ戦車、撃破判定。」

 

「演習終了、ゲヘナ側の全滅です。」

 

「やはり性能差はいかんともしがたいですね…。」

 

アビドス砂漠の別の一角、砂塵を巻き上げアビドスのM1A4E2 ThumperとゲヘナのティーガーⅠが演習を繰り広げていた。

 

やはり圧倒的な性能差を前にゲヘナ戦車隊は敗退を繰り返している。

 

「いや、うちも一輌持ってかれちまった。さすがはゲヘナ戦車隊の戦車長、俺らももっと精進しなきゃな…。」

 

「お褒めの言葉をどうも。」

 

それでもイロハが操る虎丸は奮戦、数世代の性能差がある中アビドスの戦車の側面に砲弾を叩きこみ撃破判定をもぎ取っている。

 

その他にも、

 

「突入!!!」

 

市街地を模して造られたエリアではイオリ率いる風紀委員の部隊が訓練の部隊である建物に突入し制圧に入るが…

 

PiPi!

 

「あ…。」

 

突入したドアから少し進んだところで足下から電子音が鳴り響き…

 

ボフンッ!!!

 

イオリと帯同していた前衛の風紀委員が真っ赤な粉末に包まれた。

 

《銀鏡イオリ以下3名、撃破判定。》

 

「…~ッ!!!」

 

悔しそうに表情をゆがめるイオリだがルールで声を出すことができずプルプルと震えることしかできない。

 

「い、イオリ先ぱ…?!」

 

「ん…後続に対し一斉射撃。」

 

「しっしま…!」

 

その後、待ち構えていたシロコたちの部隊に残存の隊員も撃退され…

 

「はい、銀鏡イオリ。なんで真正面から突っ込んだ?」

 

「に、人数差があるから突入して一気に制圧を…。」

 

真っ赤に染まったままネイトとの反省会に臨むのであった。

 

「じゃあ問題だ。人数差を埋めるのにもっとも効果的な作戦は何だ?」

 

「と、トラップ…です…。」

 

「そう。で、事前調査の時には立てこもり犯役のシロコたちは正面玄関は使ってなかったよな?それはどういうことだ?」

 

「………あぁッ!!?」

 

「ん…正面玄関を避けさせる作戦だったけど乗り込んできたから少し驚いた。」

 

ようやく、最初からヒントが示されていたことに思い至りイオリはハッとする。

 

「勇敢なのは結構だが猪突猛進は止めろ。突撃馬鹿の返上はまだ遠いな。」

 

「うぅ…ハイ…。」

 

ビナー戦からの注意を重ね重ね指摘されイオリはうなだれてしまった。

 

「さぁ、次は攻守入れ替えてやるぞ。両部隊、準備に入れ。」

 

「ん…絶対制圧する。」

 

「絶対負けない…!」

 

気合を漲らせ向かい合うシロコとイオリ。

 

両校の未来を担う二年生組はその後もしのぎを削り訓練に励むのであった。

 

と、ゲヘナとアビドスの生徒が訓練を行っているが…人数がかなり少なく両校とも3年生勢の姿が見えない。

 

そう、この訓練はいわば『囮』。

 

本来の目的は…

 

「きっ起爆します!!!」

 

ドドドドドドドドドッ!!!

 

アビドス奥地にある『生徒会の谷』、そこではハルカの号令で爆音が鳴り響いていた。

 

その影響で粉塵や煙が舞い上がり視界を塞ぐ。

 

その光景を…

 

「「………。」」

 

犬猿の仲であるはずのヒナとマコトは肩を並べて眺めていた。

 

煙が晴れるとそこには…

 

「こ、これでどうでしょうか…!?」

 

「ほぉ…これは…中々やるではないか…!」

 

「一回の発破であの怪物をここまで…!」

 

砲身が細かく切り落とされ無残な姿になった『列車砲シェマタ』の姿があった。

 

「こ、この後は機関部の発破作業に入ります!」

 

「うむ、思い切りやるがいい!爆薬は全て万魔殿持ちだ、跡形もなく吹き飛ばすつもりで頼む!」

 

「はっはい!思い切りやらせていただきます!!!」

 

「お前らも続け!!!あの怪物を鉄屑に還すのだ!!!」

 

『了解っ!!!』

 

気を良くしたマコトの指示を受けハルカと補助のために万魔殿の生徒もシェマタの残骸へとかけていく。

 

「ふふんっどう、ヒナ?兄さんに鍛えられたウチの平社員の腕前はどう?」

 

ヒナの傍らでは誇らしげに鼻を鳴らすアルもいた。

 

「…さすがね。カイザーPMCの本社を瓦礫に還したのもうなずけるわ。」

 

ヒナも素直にハルカの発破技術を認め称賛の言葉を贈る。

 

「くふふ~ネイトお兄ちゃんの仕事を請け負ってきたおかげだね♪」

 

「この分だと想定よりも早く格納庫までスクラップにできそうだよ。」

 

カヨコとムツキも作業が順調に進んでいることを楽しげに眺めている。

 

さらに…

 

「鋼材がこれくらいでその他もろもろの金属関連が…。」

 

「これでまたアビドスの復興が進みますねぇ♪」

 

「あ、ハイランダーにも少し卸してよ!線路工事には沢山必要だからさぁ♪」

 

「アビドス砂漠鉄道計画がー早く進むよー。復興もスピードアップぅー。」

 

「おぉ、じゃあ特別価格で売ってあげちゃおうかなぁ~。」

 

アビドスの生徒会や橘姉妹たちがシェマタ解体後の錢勘定を行っていた。

 

そう、ゲヘナは『ビナー討伐作戦』に参戦という約束を果たした。

 

今度はアビドスがゲヘナの『シェマタ破壊作戦』に手を貸す番だ。

 

起きて早々ゲヘナの生徒大部分と監視役のアビドス生徒と輸送役のハイランダーが生徒会の谷に向け出発。

 

解体作業はゲヘナが中心で行い、アビドス生徒によって万全の警備体制が敷かれている。

 

峡谷入り口には狙撃手や『セクレタリーズ』を配置し、峡谷の上には標的補足コンピュータ搭載の四連装ミサイルランチャーを携えた生徒たちが空からの『客』に対し睨みを利かせている。

 

ゲヘナにとって『雷帝の遺産』の存在が知れ渡ることは避けたいところ。

 

そこに高い練度を持つアビドス生徒の警備は渡りに船だったのだ。

 

さらにネイトの推薦で便利屋68も帯同し、ハルカの優れた発破技術で効率よくシェマタを解体していっている。

 

現状、不埒な覗き魔はここまで到達してはいない。

 

………ここ、生徒会の谷までは…だが。

――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

「リン主席行政官、まもなく無人偵察機『RQ-1』がアビドス学区空域に進入します。」

 

「いよいよですか…。」

 

D.U.はサンクトゥムタワーにてリンが疲れた様子で職員からの報告を受けていた。

 

一昨日から行っていたゲヘナとアビドスの演習に関する情報収集だが有益な情報が一切得られず時間だけが過ぎていくばかり。

 

ついにゲヘナが公示した演習当日となってしまった。

 

かくなる上は無人偵察機を用いて現場を抑えようと考えたのだが問題があった。

 

アビドス学区は非常に広大な上大半は何の目標物もない砂漠だ。

 

演習場所は間違いなく砂漠地帯、宛もなく探すには広すぎる。

 

アビドスとの関係性を鑑み用いれるのは旧式の無人偵察機である『RQ-1 プレデター』のためD.U.から飛ばしたのであっては航続距離に不安が残る。

 

その対策に頭を捻っていた連邦生徒会に…まさかの協力者が現れた。

 

「…今回の無人偵察機の発信場所の手配などのご協力に感謝します、ナギサさん。」

 

《いえ、お気になさらずに。我々もこの事態は憂慮していましたので、七神リン主席行政官。》

 

ホログラムでリンと会話するのはトリニティのティーパーティーホストである桐藤ナギサだ。

 

《ですが、約束はお忘れなく。》

 

「もちろんです。今回得られた情報はトリニティとすべて共有します。」

 

トリニティもこの演習に関する情報収集を行っていたが…結果は語るまでもないだろう。

 

しかも、暴発しそうなトリニティ内の派閥の制御のせいで諜報員の派遣もままならない状況。

 

そんな折に連邦生徒会から協力要請があった。

 

トリニティならばD.U.よりもアビドスに遥かに近く偵察時間を稼げる。

 

さらに学区内には大小さまざまな飛行場があり運用にも事欠かない。

 

ナギサはその要請を情報の共有を条件に承諾。

 

極秘裏に『RQ-1 プレデター』がトリニティのはずれにある小型飛行場に運び込まれ飛び立ったのだ。

 

「しかし、このようなタイミングでなぜ…。」

 

《エデン条約に関しては万魔殿は消極的と伺っています。》

 

「まさかこれを機にエデン条約の破棄を…?」

 

《いえ…ゲヘナに繋がりを持っている重要人物の話では消極的ながら破棄という話は出ていないと…。》

 

「では…アビドスがゲヘナに働きかけを…?」

 

《それは…十分に考えられます。アビドスは確かにその力を示しましたが対外的な立場は…。》

 

無人偵察機が現場に到着するまでリンとナギサは様々な推測を話し合っていた。

 

…その時、

 

「り、リン主席行政官!!!」

 

『ッ!!?』

 

無人偵察機のオペレーターが悲鳴に近い声を上げる。

 

リンとナギサは無人偵察機のカメラの映像が同期された端末に目を落とすと…

 

《なっ、これは…!?》

 

「アビドスの…!?」

 

カメラがとらえていたのは無人偵察機の前を飛ぶ双発の回転翼を持つ特徴的な航空機。

 

アビドスの主力多用途機『ベルチバード』だ。

 

スタブウィングには対空武装が満載されている。

 

《なっなぜ…!?いくら何でも…!?》

 

「ッベルチバードより発光信号!」

 

「内容は?!」

 

「『ショゾクフメイキヘ、コノサキ、アビドスサバクハ、ゲンザイ、ヒコウキンシクイキ二、シテイチュウ。シンロヲハンテンシ、トウクウイキヲ、リダツセヨ』、と…!」

 

ベルチバードからは見せつけるように発光信号が飛ばされ無人偵察機に立ち去るように通告。

 

「振り切れませんか!?」

 

「む、無理です!相手はこちらの倍以上の巡航速度を持っている機体です!」

 

「クッ…!旧式機体を用意したのがこんなところで…!」

 

最新式の『MQ-9 リーパー』や『RQ-4 グローバルホーク』などであればまだチャンスはあったが…。

 

「ふっ再び発光信号!『クリカエス、トウクウイキヨリダツセヨ。サモナクバ、ゲキツイスル。コレガサイゴノ、ケイコクダ。』と…!」

 

その発光信号を伝えた後、ベルチバードはカメラの視界から外れる。

 

おそらく…すぐに攻撃できるよう無人偵察機の背後をとりに来たのだろう。

 

《七神リン主席行政官…!アビドスは必ず実行します…!》

 

「承知しています…!まさかここまで徹底して見せたくないのですか…!」

 

アビドスの敵に対する容赦のなさは二人も知るところだ。

 

交通室に確認したところ、今日一日であるがアビドス高等学校からアビドス砂漠上空を飛行禁止区域としたことを通達されているとのこと。

 

もしこのまま進めば非はこちらになり…撃墜されても文句は言えない。

 

そして…もし撃墜され無人偵察機の所有者が判明しようものなら…

 

「引き返してください…!」

 

《七神リンさん!?》

 

「ナギサさん、堪えてください…!もし、このまま無人偵察機が撃墜されればトリニティも…!」

 

《クッ…?!》

 

しかも、飛来方向はトリニティ学区。

 

アビドスとトリニティの関係は裏では諜報戦の影響で冷え切っている。

 

そんな状況でこの件を問いただされれば…どうなるか想像もつかない。

 

ゲヘナとの関係も考えると…最悪の場合、ゲヘナと同盟を結ぶ事態にも発展しかねない。

 

《ッ!?クゥ…!》

 

「ナギサさん…?!」

 

《だっ大丈夫です…!分かりました…!偵察機の着陸場所の準備に入ります…!》

 

胃の痛みに耐えこれ以上ないほど渋い表情を浮かべつつナギサは撤退を了承する。

 

「ご理解ありがとうございます…。進路を反転、帰投してください…!」

 

「了解しました…。」

 

オペレーターはすぐに無人偵察機を操作し進路を反転させる。

 

カメラを動かすと背後にはベルチバードがぴったりとついて来ておりアビドスの空域を離脱するまで監視を行っている。

 

しかし、ベルチバードは監視するだけで一切手を出してくる様子はない。

 

無人偵察機はそのまま飛び続け…

 

「偵察機、アビドスの空域を離脱…!ベルチバード、離れていきます…!」

 

「………ふ~…。」

 

何とか安全圏であるトリニティの領空まで脱出。

 

ベルチバードも遠ざかっていく。

 

「なんとか…難を逃れられましたね…。」

 

《まさか…アビドスはこうなることを予期していたのですか…?!》

 

「まさか…偵察の可能性はあれどどこの学区から侵入されるかを予測なんて…!」

 

アビドス学区は学校その物の規模と違い非常に広大。

 

それはつまり、接している学区が多いことに他ならない。

 

そしてゲヘナは別にしても…

 

《おそらくミレニアムからも情報収集のための偵察活動が…!》

 

北にはトリニティを上回る技術力を持つ三大校の一角ミレニアムもある。

 

あの学校がこの事態を静観しているわけがない。

 

そのはずだがこの対応の早さはまるで…

 

「ナギサさん、この度は協力していただいたというのにこのような結果に…。

 

《いえ、仕方ありません…。むしろ、所属がばれていないのは不幸中のさいわ…。》

 

納得はいかないが何とか飲み込みリンとナギサが言葉を交わしていた…その時だ。

 

バツンッ!!!

 

『ッ!?』

 

突如端末から異音が鳴り響き視線を落とすとノイズが走る画面に『SIGNAL LOST』と表示されていた。

 

「なっ何が起こったのですか!?」

 

「分かりません!突如信号が途絶え…システムの不具合かと…!」

 

「すぐに調査を!」

 

リンは部下の生徒に命じ原因を追究する中、

 

《ナギサ様、失礼します!!!》

 

ホログラムの向こうのナギサの元にやってきた生徒が…

 

《先程、アビドス方面で防空任務にあたっている部隊より所属不明機を撃墜したとの報告が!!!》

 

《なっ…!?》

 

「え…。」

 

想像よりも早く、最悪な答えを持ってきた。

 

報告によると、アビドス領空で警戒中の航空機兵隊から…

 

『アビドス領空に侵入した所属不明機を追撃していたがこちらを無視しそちらの領空に突入した』

 

『呼びかけにも応答がないため、自爆テロを行う可能性あり』

 

『申し訳ないが対処をお願いしたい』

 

という緊急無線が所属不明機の現在位置の座標と共に入電。

 

すぐさま有視界による捜索が行われ所属不明機を発見し…

 

《緊急事態のため『正当防衛』として携行対空ミサイルによって撃墜したとのこと!》

 

『~ッ!!?』

 

まさかのトリニティの手によって無人偵察機は撃墜されたのだ。

 

しかも…事態は一層連邦生徒会とナギサにとって悪化する。

 

《やりましたね!まさかこんな時世に所属不明機がやって来るなんて物騒ですから!》

 

報告に来た生徒は終始笑顔だ。

 

《幸い墜落場所も山間地のため被害は一切ありません!防空部隊にはあとで賞与を与えなければなりませんね!》

 

《そっそうです…ね…!》

 

それもそのはず。

 

この連邦生徒会とトリニティの合同作戦は…『極秘』なのだ。

 

トリニティでも知っているものはナギサを除きごくわずか。

 

報告に来た生徒はおろか末端の…それも閑職とも言ってもよかったアビドス方面を担当している部隊が知る訳もない。

 

むしろ、『閑職』であるがために手柄を立てようと喜び勇んで無人偵察機を撃墜したはずだ。

 

《後ほど同地に部隊が調査に向かうとのこと!吉報をお待ちください!》

 

そう言い残し、生徒は退出していった。

 

「そっそんな…。」

 

《こんな…欺瞞工作で…!?》

 

リンとナギサは力なくつぶやく。

 

アビドス側の緊急無線は嘘八百のでたらめだ。

 

だが…それを申し出ることはできない。

 

もしそれを明かせば…アビドスは無人偵察機の詳細な航路を明らかにするだろう。

 

飛来方向はトリニティ、なぜ所属不明機の跳梁を許したか責め立てられるのがおちだ。

 

そして調査が進めば…その先にティーパーティーと連邦生徒会が出てくる。

 

さらなる事態悪化は避けられない。

 

それを回避するためには…

 

《も、申し訳ありません…!この通信や今回の作戦の痕跡の消去がありますのでこれにて…!》

 

さらに蒼い顔となったナギサはそれだけ伝えホログラムを消去した。

 

事態回避のためには連邦生徒会との密約を抹消し撃墜した部隊に賞与を与えるほかない。

 

「そんな…そんな…ッ!!!」

 

リンも呆然とするしかない。

 

ただでさえ影響力低下が著しい連邦生徒会に今回の作戦が露見した場合の対応など出来るはずもない。

 

いわば…これはアビドスからの『情け』と言ってもいいだろう。

 

だが、その情けを忘れ真相を明るみに出そうものなら…。

 

「り、リン主席行政官…!」

 

「………今は…一人にしてください…。」

 

「はっはい…!」

 

オペレーターの生徒が退出し…リンは力なくうなだれるのであった。

――――――――――――――――

「…そうか、やはり来たか。」

 

《アニキの指示通り、始末はあっちに任せましたぜ。》

 

「分かった。引き続き警戒を頼む。」

 

「ん…どこからだと思う、ネイトさん?」

 

「まぁ…順当に連邦生徒会かお茶会連中だろう。」

 

航空機兵隊からの報告を受け休憩中のネイトとシロコと…

 

「銀鏡イオリ、お前はこれどこの連中だと思う?」

 

今の私見てよく聞けるな、ネイトさん…!

 

全身を色とりどりのパウダーで染められたイオリが話し合っていた。*1

 

もう何色だか分からないが…どうやら青筋を立てているということは分かる。

 

「………。」

 

何、ネイトさん…!そのなんだか何かを思い出しているよな目は…?!

 

「いや、今のお前見てると子供のころ親に買ってもらったカラフルな『ロリポップキャンディ』を思い出してな。」

 

わっ私見てキャンディ思い出すなんてなに言ってんだッ!?こんなカラフルにしたのはそっちだろ!?

 

「ん…毎回突っ込んでくるのが悪い。」

 

うるさいッ!!!毎回毎回、トラップ仕掛けて来るなんてずるいぞ!!!

 

「そうかっかするな。戦術的優位性が認められるなら何でもありのルールなんだからな。」

 

あぁッもうッ!!!やっぱり意地悪だ、アビドスもネイトさんも!!!

 

「それはさておき…どう見る?」

 

騒ぐイオリを宥めつつ画面の無人偵察機に関する初見を尋ねるネイト。

 

…~ッ!!!…その無人機の型は旧式、そこそこの規模のある学校やヘルメット団とかなら所有しててもおかしくない!!!

 

「なるほど…所有組織をぼかすことで元がばれないようにしてきた…といったところか。」

 

キヴォトスではこの型式の無人機は財力さえあれば手に入る。

 

これならば露見してもアビドスからの追及は躱せるだろう。

 

というよりよく偵察機の侵入箇所を予測できたね。

 

「そりゃゲヘナはもとよりミレニアムに関してもわざわざ現地にいるのに無人偵察機を飛ばすメリットがないからな。」

 

「他の規模が大きい学校もここに飛ばすにはその二校を通るかしないと航続距離が足りない。」

 

…つまり、ゲヘナやミレニアムにばれないようにここに来るにはトリニティの空域を抜けてくるしかないってことか…。

 

「他の有力校の情報も総合するとそうなる。トリニティの次に進入の多い北方の有力校…レッドウィンターは最近クーデターがあったばかりでそんな余裕ないと判断した。」

 

連邦生徒会やトリニティは把握していないがミレニアムは現地に人材を送り込んでいるのでわざわざ覗き見る必要がない。

 

アビドスは三大校と非常に近い場所に位置している。

 

その二校がここに集まっているとなると…見張るべき空域はトリニティ方面に限定されるのだ。

 

あとはその場所にベルチバードの飛行隊を派遣しレーダーで見張れば事足りる。

 

だが、

 

「ん…ウチもそろそろ本格的な航空機導入する?」

 

「そうだな…。アビドス砂漠も解放したし導入するのも手だな…。」

 

確かにベルチバードは便利だがそれでも限界がある。

 

最新式の無人偵察機や単葉機相手では遅れもとるだろう。

 

邀撃や今後の復興事業のためにも航空機の導入は急務といえる。

 

カイザーの時も思ったけど…どうしてそんな簡単に装備を更新できるんだ…?

 

「………まぁ、そこはアビドスの秘密だよ。」

 

「さっそろそろ休憩も終わりにしよう。訓練を再開するぞ~。」

 

『うぃ~す。』

 

話も終え、一同は装備を持ち再び訓練場へと繰り出していく中…

 

あの…せめてこの粉落とさせて…。

 

一人、イオリがそう呟くのであった。

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

シェマタの破壊とゲヘナとの演習も終わりヒナやヒマリ達は各々の学区に戻っていった。

 

別れ際、

 

「…世話になったな、ネイト社長。」

 

「なぁに俺達も助かった。」

 

ネイトとマコトは互いに向き合い…

 

「…社長、一つ言っておこう。」

 

「なんだ?」

 

「我ら万魔殿は受けた恩を決して忘れない。力を借りたいときは…いつでも言ってくれ。」

 

「…あぁ、そうさせてもらおう。」

 

互いに言葉と硬い握手を交わしていた。

 

そして…

 

「アリスちゃん、今度はイブキがミレニアムに遊びに行くね!」

 

「はいっその時はアリスがイブキを案内してあげますね!」

 

「フフッ、新しいお友達が出来てよかったですね、イブキ。」

 

「うん!」

 

今回の出会いで友情が芽生えたアリスとイブキも再会を誓い合い、

 

「ネイトさんっ、また万魔殿に遊びに来てね!」

 

「っと。あぁ、必ずな。」

 

「えへへ~…♬」

 

ネイトとも軽いハグを交わすのであった。

 

その後、数日間は『約束』を果たしたり討伐作戦の後始末や諸々の作業で忙しい日々を送り…

 

「…とまぁ、私がゲヘナに向っていたのはそういうわけだ。」

 

「こっちも演習準備中だったから『アクシデント』にも対応できたってわけだ。」

 

ある日の夜、ネイトと店長はアビドス高校の技術室に集まり…

 

「………あぁ~先生?」

 

「…たかったぁ…!」

 

「何?もう一度言ってくれ…。」

 

「生で見たかったぁ…!!!」

 

端末の映像を目玉をひん剥きながら見つつ血反吐を吐きそうな声で後悔の言葉を放つ先生と向かい合っていた。

 

結局、連邦生徒会もトリニティもあの後は打つ手なしの状態で超法規的機関であるシャーレの先生が戻ってくるのを待つよりほかがなかった。

 

そして、百鬼夜行連合学院での用事が終わるとすぐさまゲヘナとアビドスに派遣させられ…ちょうど先程W.G.T.C.の幹部であるネイトと店長との聞き取り調査に入ったのだ。

 

…で、この慟哭である。

 

「別に先生の力を借りる予定はなかったから…。」

 

「学校の自立はシャーレも歓迎すべき事だろ?」

 

「でも…ッ一声位かけてもよかったじゃないですかぁ…!!!」

 

何を先生はこんなに悔しがっているかというと…

 

「こんな…ッこんな『巨大ロボット』の戦いなんて…男のロマンじゃないですかぁ…!」

 

「いや…リバティ・プライムのクラフトは俺も完全な想定外なんだが…。」

 

「そうだとしても…こんなの…生殺しですよぉ…!!!」

 

先生が端末で先ほどからヘビーローテーションで何度も見ているのはビナーとリバティ・プライム達との激闘だ。

 

現場にいたネイトは見物する余裕はなかったが画面の中では特撮が裸足で逃げ出す大バトルが繰り広げられていた。

 

「なんだ?そんなにその戦いが貴様の琴線に触れたのか?」

 

何の気なしに店長が尋ねると…

 

「それはもうッ!!!これでも十年来のオタクなんですからこんなの堪らないに決まってるでしょ!!?」

 

「お、おぉそうか…!」

 

グワッと顔を持ち上げ大声でそう答える先生。

 

この大人…趣味はおもちゃ収集やスマホゲーというなんとも若者らしいものだ。

 

問題は…それらに食費を切り詰めてでも欲しいグッズやキャラを手に入れるため私財を投じることを一切躊躇わないといったところだ。

 

以前、ネイトもユウカからこれらのことを愚痴混じりで聞いていたり…

 

(そういえば…ウチのロボットのフィギュア持ってるって言ったら欲しがってたっけ…。)

 

(変装してうちの店に掘り出し物を探しに来ていたこともあったな…。)

 

その片鱗をたがいに目の当たりにしているのでその熱の入れようは把握している。

 

「師匠、このリバティ・プライム達に会えますかッ!!?」

 

「ウチの新たな秘密兵器だぞ?そう簡単に見せれるわけ…。」

 

「クッ…こうなったらシャーレの権限をフルに利用して…!」

 

「おい、ここまで清々しい職権乱用はプレジデントでもなかったぞ…!?」

 

なんとしてでもリバティ・プライムを目撃しようと自らの権力をふるおうとする先生に…

 

「あぁもう、分かった分かった。一切の記録なしでなら明日見せてやるからそんな無茶するな、馬鹿弟子。」

 

ネイトもとうとう折れて先生のリバティ・プライム視察が決まった。

 

「ありがとうございますッ!!!…あ、あとこの映像もいただけると…。」

 

「それはそっちで万魔殿と交渉しろ。この映像を撮影したのは万魔殿なんだからな。」

 

「グヌぅ…!」

 

なんとも欲望に真っすぐな先生を見て…

 

「なぁ社長…マニアというものはこういう連中ばかりなのか…?!」

 

「ごくごく一部が特殊なだけだ。」

 

ネイトと店長の脳裏にはトリニティのある生徒の姿がよぎるのであった。*2

 

「…で、聞きたいことは以上か?」

 

「あっはい。内容にゲヘナやアビドスとの齟齬もないので問題はありません。」

 

「この後予定は?」

 

「ホシノが宿舎を用意してくれたのでそこに宿泊する予定です。」

 

「…そうか。」

 

面談の終わりと先生の今後の予定も確認し…

 

「じゃあ、ちょっと付き合え。」

 

そう言いながら…愛飲のバーボンのボトルを取り出した。

 

「えぇ…ちょっと師匠…。」

 

少し困惑気味な先生に…

 

「全くお前は…。」

 

呆れたような表情を浮かべる店長だが…

 

「私はワイン派だと言っているだろう。」

 

「ちょ、えぇ!?」

 

「おぉどこで手に入れたんだ?」

 

「昔の伝手というやつだ。」

 

自分も懐からワインのマグナムボトルを取り出し机に置いた。

 

「で、どうする?」

 

「………まったくもう。じゃあ、久々に付き合いますよ。」

 

これには先生も苦笑するしかないが久しぶりの大人だけの会合だ。

 

楽しまなければ損だと思い了承することに。

 

「決まりだな。社長、グラスを頼む。」

 

「わかった。」

 

ネイトは一旦奥に引っ込み、

 

「おまたせ、割材と氷とかも持ってきたぞ。」

 

「あれ?師匠、グラス一つ多いですよ?」

 

グラスやら割材を持ってきたが数が多い。

 

「いいんだよ、もう一人客が来るから。」

 

「なに、客?」

 

「店長も聞いてないんですか?」

 

どうやら一人来客が来るとのことだが先生も店長も身に覚えがない。

 

二人が首を傾げていると…

 

ガラッ

 

入り口の引き戸が開けられ…

 

「よぉ来たか、黒服。」

 

「クックックッ…本日はお招きいただき感謝いたします、ネイトさん…。」

 

『なぁッ!?』

 

ドアの外の闇夜に溶け込みそうなほど黒一色の人物、黒服がやってきた。

 

その手には何やら提げている。

 

「きっ貴様、黒服!?なぜここに?!」

 

「おやおや…貴方もいらっしゃいましたか、理事…。いえ、今は店長でしたかな…?」

 

「え?店長、知り合いなんですか?」

 

「あぁ、この二人もともとグルでアビドス高校に工作しかけてた関係だ。」

 

「ええええええええッ!!?」

 

「というか、社長!?なんでそんなにコイツと親しいんだッ!?」

 

「それは私もネイトさんの酒友ですので…。もうかれこれ…一年近い関係になりますねぇ…。」

 

「思いっきり内通してたということではないか!!?」

 

「あぁ、砂漠での戦いは黒服の情報提供があったからお前がいた基地に急襲を仕掛けたんだ。」

 

「―――――ッ!!!」

 

まさかの関係と明かされるアビドス独立戦争時の裏事情に技術室内は二人の大人の大声に包まれるのであった。

 

数分後、

 

「落ち着いたか、店長?」

 

「もう知らん…。貴様ら嫌いだ…。」

 

「いい大人なのですから…機嫌直してくださいよ…。」

 

「アハハハ…。」

 

完全にいじけはしたが店長も落ち着き黒服もいつもの定位置に就いた。

 

「お詫びと言ってはなんですが…こちらを持ってきましたので…。」

 

黒服がそう言い、持ってきていた荷物である重箱を開けると…

 

「ほぉ、これは…。」

 

「す、すごい豪華ですね…?!」

 

「私の同胞に創作全般が得意なものがおりましてね…。少々交渉をしましたが作ってもらえました…。」

 

中には様々な酒肴が入っていた。

 

「おい、変なものは入っていないだろうな…?!」

 

相手が相手なので店長も警戒するが…

 

「クックックッ…ご安心を…。彼もネイトさんの神秘には興味津々なので…。」

 

「飲み会の時は準備は交代だったが別に体調が悪くなったことはないぞ。」

 

その辺は互いに不可侵なようで一服盛るということはないようだ。

 

「さぁ、今日の夜は長いですよ…!ビナーとの戦いに関して…語り尽くしてもらいますからね…!」

 

「いいさ、これだけツマミ持ってきてくれた礼だ。」

 

「こうなれば今日は飲んだくれてやる…。」

 

「お、お三方ともお手柔らかに…。」

 

「では一先ず…乾杯。」

 

『乾杯。』

 

その後、四人の大人たちの静かな酒宴は夜遅くまで繰り広げられた。

 

こうして…過去からの因縁と向かい合ったアビドスの総力戦の日々は喧騒の中ではありながらも穏やかに幕を閉じるのであった

*1
イロミ イオリ

*2
ネイトにはもう一人思い浮かんでいた




次回、少々後日談などの短編詰め合わせを予定
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