Fallout archive   作:Rockjaw

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Two Adults

「う…うぅ…。」

 

ネイトがやってきてから二度目のヘルメット団によるアビドス高校の襲撃。

 

その現場指揮を任せられていたであろう幹部もネイトのスレッジハンマーを食らい絶賛気絶中だ。

 

が、

 

「うわっぷ!?」

 

突如、何かが自らの顔面に覆いかぶさり息ができず覚醒。

 

「ぺっ!ペッペッ!な、何しや…」

 

驚きと怒りに身を任せ怒鳴りながら起き上がると…

 

「よぉ、目が覚めたか?」

 

「が……る…!?」

 

目と鼻の先にX-02装着状態のネイトがいてその勢いも一気になくなった。

 

その手には砂が入ったバケツが握られている。

 

「ん…本当に目が覚めた。」

 

「水でよかったんじゃないの?」

 

「ユメにやられた手段さ。効果はばっちりだな。」

 

「た、体験済みだったんですねぇ~…。」

 

「うへ~…ユメ先輩何やってんのぉ…。」

 

その背後にはシロコやホシノたち対策委員も勢ぞろいしている。

 

しかも、

 

(こ、拘束されてる…!?)

 

今自分は手を結束バンドで縛り上げられている。

 

更に周りには自分と同じように拘束されたヘルメット団80名が同じように拘束され座らされていた。

 

正直、この程度キヴォトス人である彼女たちにとってこんな拘束ないに等しいが…

 

(か、勝てねぇ…!武器もねぇのにこいつらになんか…!)

 

戦車複数輌を意図も容易く撃破する者たちが目の前にいる。

 

さらに自分たちの後方には見たこともないほどの重武装のロボットが控えている。

 

たとえ全員で一気に反抗したとしても…。

 

先の戦闘ですでに彼女らの戦意はへし折れていた。

 

「さてと、ヘルメット団の諸君。聞きたいことがあるから答えてもらうぞ、拒否権なんかないけどな。」

 

それを見越してか、ネイトも彼女たちに尋問を始める。

 

以前のように各々のアジト、その場所の構成員の人数と情報を聞き出していくネイト。

 

さらに予想外にこの幹部は『カタカタヘルメット団本部』から派遣されていた人員と判明。

 

今まで判明してなかった彼女たちの本部の場所も分かった。

 

「ホシノ、この場所に心当たりあるか?」

 

「うへ~、ここって確かだいぶ前に廃棄された工場地帯だねぇ。電気はまだ生きてるみたいだけど。」

 

「確かにここなら大量の人員や兵器に物資の隠匿にはもってこいですね。」

 

「なるほど、コルベガのレイダーみたいなものか。…で、今まではいた情報に嘘はないんだな?」

 

「う、嘘なんかない!もうこれ以上アタシが言える情報はないんだよ!」

 

近隣に詳しいホシノたちの補足とヘルメット団の反応から判断し、

 

「…よし分かった。聞きたいことは以上だ。」

 

ネイトの尋問は終了。

 

「も、もう終わったのか…?!じ、じゃあアタシらを解放…!」

 

以前の話からネイトたちは尋問を終えたら解放されることは聞き及んでいる。

正直その時は『甘ちゃん』と嘲笑ったがいざ自分がこの状況になるとそうもいっていられない。

 

藁にも縋る思いでネイトに尋ねる。

 

他のヘルメット団も同じような眼差しをネイトたちに向けている。

 

が…

 

「は?そう簡単に帰すわけがないだろ?」

 

「…へ?」

 

その淡い希望はネイトの一言で掻き消された。

 

「お前ら…随分この校舎を痛めつけてくれたよなぁ?」

 

ネイトの言う通り、今回の襲撃は校舎そのものに結構な被害が出ている。

 

いかに強化されたとはいえやはり外壁にはひびが入り窓ガラスも大半吹っ飛んでいる。

 

「そだね~。さすがに君らの襲撃でここまで荒らされたことはないんだよねぇ。」

 

「ただでさえうちは余裕がないんですよ?いったいどうしてくれるんですか?」

 

そこへさらにホシノやアヤネが追撃と言わんばかりに被害を強調。

 

言わんとしていることはヘルメット団にも分かるが…

 

「で、でもあたし等金なんて…!?」

 

「はぁ?アンタ等あんな戦車とかオートマタ連れて来ておいてお金持ってないの?」

 

「いや、あれは本部がどっかで調達してきただけで…。」

 

彼女たち自身、無い袖は振れないのも事実だ。

 

だが…

 

「あらぁ~それは困りましたねぇ…。でもぉ、このまま解放するわけにもいかないんですよぉ。」

 

「ん…被害の賠償は絶対にしてもらう。じゃないとこっちが損したまま。それは許さない。」

 

それではいそうですかと解放するほど対策委員会とネイトは甘くはない。

 

「じ、じゃあどうしろってんだよ…!?」

 

なにかいやな予感がしてきたヘルメット団一同。

 

目の前には…大人のネイトがいる。

 

それもヘイローもないのにこちらを単騎で圧倒できるだけの戦力を持つ大人の男だ。

 

自分たちでいうのはあれだが…うら若き乙女の集団でもあるヘルメット団。

 

この二つが組み合わされば…

 

「い、嫌…!」

 

彼女たちにとって最悪の結論にたどり着いた。

 

さらに…

 

「そうだなぁ。じゃあ…『身体』で払ってもらうか。」

 

最悪な想像を加速させるようにネイトから今一番聞きたくないセリフが飛び出す。

 

「うへ~じゃあ手早く始めちゃおうかぁ。」

 

「ん…まだ朝早い。急げば夕方には終わる。」

 

「じゃあ、私も連絡を入れておきますねぇ。」

 

「さぁてビシバシ行くわよぉ!」

 

「皆さん、急がずじっくり行きましょう。」

 

何を思ったか敵とはいえ同性の対策委員会すらノリノリではないか。

 

涙目になりながら逃げようと身をよじらせるヘルメット団幹部。

 

「いっ…いやっ!」

 

「言ったろ、拒否権はない。手早く済ますぞ。」

 

だが、逃げ切れるわけもなくパワーアーマーによって巨大になった手が彼女に迫る。

 

その影が彼女を覆い…

 

「いやああああああああああ!」

 

校庭にヘルメット団幹部の悲鳴が響き渡った。

 

―――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

 

ずっちょずっちょと水けを帯びた何かをこねるような音が響くアビドス高校の廊下。

 

さらに何かを打ち付けるような音まで響き、

 

「はぁ…はぁ…!」

 

ヘルメット団の荒い息遣いも聞こえてくる。

 

そして…

 

『そこぉ!もっと気合入れて捏ねろぉ!司令官より賜った貴重な強化コンクリートだぞ!!!』

 

響き渡る宙に浮かぶ三つ目三つ足のロボット『Mr,ガッツィー』の怒号。

 

「う、うっす!!!」

 

『バカ者!口からク○を垂れる前にサーをつけろて言わなかったか、このメス○○!?』

 

「さっサーイエッサー!」

 

『本来なら腕立て伏せを命じているところだが校舎の補修は指揮官の命令だ!さっさと手を動かせ!!!』

 

まるでブートキャンプの教官風の口調でヘルメット団をしかりつけ別の場所の監視に向かうMr.ガッツィー。

 

「…姉御、どうしてこんなことに…?」

 

「アタシが知るか…!」

 

立ち去ったのを確認し小声でそう会話するヘルメット団。

 

その手はしっかりとセメントをこねていた。

 

防衛戦後から30分ほどたったころ、ヘルメット団たちは自らが破壊したアビドス高校の補修と清掃をやらされていた。

 

あの後、ネイトは彼女たちを解放。

 

「んじゃあ、作業服に着替えて校庭に集合ねぇ。」

 

ホシノ達に連れられ更衣室に通されてそこに用意されていた作業服に着替え再び集合。

 

「よし、じゃあ作業分担を伝えるぞ。」

 

パワーアーマーを脱いだネイトから80人全員それぞれの場所の作業が振り分けられ現在に至る。

 

その監視と作業指導員として付けられたのがあのMr.ガッツィーというわけである。

 

口は悪いし声もデカいが…

 

「サー!あ、あの番線ってどうやって締めればいいんでしょうか、サー!」

 

『こうやって針金を巻いてこうやって曲げろ!あとは棒を使ってさらに締め上げるんだ!』

 

「サー!なるほどです、サー!」

 

作業手順で分からないところはきちんと手本を示し指導してくれる。

 

そして…

 

「おぉい、進捗はどうだ?」

 

同じように作業服姿で資材を抱えながらネイトがMr.ガッツィーに尋ねる。

 

ネイトも戦車とオートマタの残骸をクラフト解体して以降はヘルメット団と同じように手作業で修繕を行っている。

 

ちなみにオートマタ解体の際、

 

「…Wow。」

 

その解体結果の取得資材内容に感嘆の声を上げていたという。

 

どれほどかというと、一体で連邦のハイテク関連の廃墟をひっくり返して手に入れられる希少資源(電気回路、光ファイバー、金など)の倍近くの資材が手に入った。

 

戦車も普段使うような資材(鉄、銅、オイル、ネジに歯車など)が大量に取れた。

 

『報告します、指揮官!作業進捗は40%、今のペースですと終了予定時刻ギリギリになります、サー!』

 

「分かった。手隙の要員が出たらこちらに回す。いいか、焦らせるな。確実に作業をこなさせろ。」

 

『サーイエッサー!』

 

手早く進捗内容、問題の洗い出しと解決案と今後の方針をMr.ガッツィーに指示し自分が行くべき作業へと向かう。

 

「…なぁ、姉御。あいつ…思ったより悪い奴じゃないんじゃないっすか…?」

 

「バカッ、きっと甘い顔を見せてアタシらを油断させて…!」

 

「いや、だったらアタシらにこんなしっかりした環境で作業なんて…。」

 

そんなネイトとMr.ガッツィーのやり取りを見て少しネイトへの認識が改まるヘルメット団。

 

報告や今日の戦闘で敵には容赦ない苛烈な面しか彼女たちは見てなかった。

 

だが、今はこちらがちゃんと作業していれば融通は効かせるし何より無理は絶対にさせない。

 

むしろ…いつも仕事を寄越すあそこは…

 

「ひょっとして…アイツはアタシらを食い物に見てないんじゃ…。」

 

「…んなわけねぇ、結局大人なんて…!」

 

そんな手下の言葉に幹部は眉を顰めながらそう諦めたように口にするも、

 

『そこぉ!何を勝手に口からク〇を垂らしている!ここはトイレじゃないぞ!』

 

「「サ、サーイエッサー!」」

 

『トイレに行きたきゃちゃんと申告しろ!質問以外は手を動かせ!』

 

Mr.ガッツィーに見つかり怒鳴られ話は打ち切られた。

 

その後も慣れない作業をMr.ガッツィーの指導を受けつつ行っていき…ちょうど昼時。

 

校庭から笛の音が響いてきた。

 

『よぉし、作業停止!その重いケツを上げて校庭に集合!駆け足ぃ!』

 

『サーイエッサー!』

 

Mr.ガッツィーに追い立てられるようにヘルメット団が全員校庭に集合。

 

何事かと待っていると…

 

「よぉし、昼飯を配給するぞー。」

 

「一列に並びなさい。一人一つずつよ。」

 

「お味噌汁とお茶もありますよぉ♪」

 

ネイト・セリカ・ノノミが長机を持ち出しその上に弁当と寸胴鍋を並べる。

 

弁当が包まれていた紙包装にはセイント・ネフティスの社章が印刷されている。

 

味噌汁は昼までの時間でセリカやノノミが作ってくれた。

 

まさかの食事の提供、ヘルメット団も半ば呆然とする中、

 

「…お~い、早くしろ。昼休みが終わっちまうぞ。」

 

『はっ!』

 

ネイトが声をかけると一斉に並び食事を受け取っていく。

 

そのあとはヘルメット団で数人単位で固まりながら食事をとっていく。

 

「…旨い。」

 

「味噌汁も…あったけぇっすね…。」

 

弁当は店屋物、味噌汁もごくごく普通の出来。

 

それでも…そんな『普通』を味わうことなど彼女たちにとっては久々だった。

 

「…でも、結局アイツらだけはいいもん食って…。」

 

そう言いつつ、ヘルメット団幹部がネイトたちが食事をとっているであろう所を見ると、

 

「おぉ~。値段の割に店の弁当というのも結構旨いな。」

 

「はい♪グループ内でも社食で評判なんですよ♪」

 

「突然の注文にも対応してもらえて助かりました。」

 

「ん…お味噌汁もおいしい。セリカ、お替りある?」

 

「もちろん、沢山作ったからどんどんお替りしてちょうだい。」

 

「たまには皆でこうして外で食べるのもいいもんだぁね♪」

 

ネイトたちも自分たちと同じものを食べているではないか。

 

報告では今アビドス高校は以前と比べるのもおこがましいほど経済的には余裕があるはず。

 

なのに、自分たちと同じような普通の弁当を賑やかに食べている。

 

すると、そんなネイトたちのもとに…

 

「あ、あのごちそうさまでした!」

 

「お、もう完食したのか。」

 

一人のヘルメット団が完食を報告しにやってきた。

 

「じゃあ、ごみは弁当の包装紙の中に放り込んでおいてくれ。」

 

「こ、この後は?」

 

「まだ休憩時間だから昼寝でもしててくれ。」

 

「え、ひっ昼寝?」

 

ヘルメット団としては食べ終わったらさっさと作業に戻れと言われるかと思ったがまさかの休憩時間中は昼寝もOKという。

 

まさかの反応に困惑するヘルメット団だが、

 

「休憩中は休むのが仕事だ。休憩時間が明けたらきっちり働いてもらうからな。」

 

「は、はい!」

 

そう言われ背をしゃんとして元居た場所へ戻っていくヘルメット団。

 

「…何だってんだよ、あいつらは。」

 

曲がりなりにも自分たちは敵だ。

 

なのに食事まで与えあまつさえ昼寝まで許している。

 

そんな光景が…不思議でならなかった。

 

そして、

 

「よぉし、昼休み終了。割り振られた作業に戻れー。」

 

きっちり一時間後、昼休みは終了。

 

その後もネイトも参加しつつ補修作業が進んでいく。

 

しかも、

 

「何?溶接をやってみたい?」

 

「へ、へぇ…今後何かの役に立つと思いまして…。」

 

壁の中の装甲版の補修中、ネイトにそんなことを申し出るヘルメット団団員。

 

断られるかと思い半ばあきらめて尋ねてみると、

 

「いいぞ、道具は貸すしやり方も指導するからやってみろ。」

 

「あ、あざっす!」

 

なんと快く道具も貸し出し指導してくれるという。

 

これで何人かの団員が簡単な溶接の技術を手に入れることができた。

 

こうして、Mr.ガッツィーの監視のもと補修作業は進んでいき…

 

「…よぉし、作業終了!校庭に全員集まれ!」

 

夕方の5時前にすべての補修作業が終了。

 

再びヘルメット団全員が校庭に集合。

 

「全員、御苦労!おかげでアビドス高校は修理できた!」

 

朝礼台に立ちヘルメット団に修理の礼を述べるネイト。

 

これで解散…かと思われたが、

 

「では、諸君には日当を支払う!封筒を一つずつ受け取ってから帰るように!」

 

『え?』

 

なんと働いた分の日当まで払うというではないか。

 

重ね重ねいうが、自分たちは敵だ。

 

自分たちが今日来なければこの作業もなかったはずなのにだ。

 

そんな心境など知らないと言わんばかりにネイトから手渡しで渡されていく。

 

中身を見ると…キヴォトスの平均時給に少し色を付けたくらいの金額が入っている。

 

80人もいれば…結構な金額になるだろう。

 

「んじゃ、解散。気を付けて帰れよ。」

 

配り終えると何もなくそのまま解散。

 

「すごっ…お金だ…!」

 

「これなら三日は食える…!」

 

まさかの収入に多くのヘルメット団は静かに喜ぶ。

 

「なんだよ、マジで…。訳わかんねぇよ…。」

 

そんな中でもヘルメット団幹部は未だに困惑の色が隠せない。

 

すると、

 

「おーい!」

 

校庭から出たあたりでネイトが大きな声でヘルメット団を呼び止める。

 

何事かと振り返ると、

 

「腹減ったり小遣い欲しかったら前もって連絡して来い!飯付きの日雇い位は雇ってやる!」

 

今後も自分たちをはたらかせてくれるというではないか。

 

いよいよもって…

 

「…あんた馬鹿じゃないのか!?なんでアタシらみたいな連中に情けをかける!?」

 

困惑の許容量が越えヘルメット団幹部が怒鳴りながらネイトに尋ねる。

 

だが、

 

「…別に情けなんかかけないさ。働いてもらったからそれに見合ったものを与える、当然のことだろ?」

 

当のネイトはきょとんとした表情で返した。

 

「こっちは敵なんだぞ!?」

 

「武器持ってきたらそれなりの対応をするさ。だが、丸腰相手に銃を振り回すほど俺は野蛮じゃない。」

 

「アタシら野蛮だってのか!?」

 

「いや、まじめに補修やってくれたしそんなことは思っちゃいない。」

 

「~っ!あぁーもういいっ!今度来た時はぜってぇここを攻め落としてやるよ!」

 

「いい度胸だ。その時はまたお前ら叩きのめして修理を手伝わせるさ。」

 

「だあああああ!もう訳わかんねぇ!お前ら、帰るぞ!!!」

 

のらりくらりと自分が返してほしいような返答の真逆ばかりを返すネイトにとうとう頭を掻きむしりながらヘルメット団幹部はその場を後にする。

 

他のヘルメット団たちも急いでそのあとを追っていった。

 

校庭に残されたのはいつものメンバーである。

 

「いいの、ネイトさん?あいつらまたくるわよ。」

 

「言ったろ、その時はまた戦うまでさ。」

 

「驚きましたよ。まさかヘルメット団に修理させるなんて。」

 

「お前も結構ノリノリだったじゃないか、アヤネ。」

 

「ん…でもちゃんと直ってる。そこは評価しないと。」

 

「皆さん、見張られているとはいえまじめにやってくれましたものねぇ~。」

 

「でも、なんでお給料までやっちゃったのぉ~?」

 

「俺のモットーは『実直な仕事には、ふさわしい報酬を』だ。ただ働きなんてさせないさ。それに…。」

 

「それに?」

 

「腹と懐が満たされれば人はおとなしくなるものさ。そっちの方が将来的な損害も防げるだろう。」

 

ヘルメット団や不良にスケバンといったものたちの多くは学校という組織に所属していない。

 

大半は学校を退学しているような者たちばかりだ。

 

つまりこのキヴォトスにおいてそれは『身分を証明できない』ということに他ならない。

 

こうなるとアルバイトにも付けず学校が持つ寮にも入れず食住にも事欠いてしまう。

 

なので、彼女たちのような存在は廃墟を占拠して住処を確保しカツアゲや略奪などで日々の糧食を得ている。

 

「だから、仕事をあっせんして面倒見るの?」

 

「なにも制圧するだけが治安の維持につながるわけじゃないさ。悪事に手を染めなくても稼げる手段があれば人はおのずとそっちに流れるもんだ。」

 

「だいぶ含蓄がある言葉だねぇ。」

 

「現に前世でやってきたことだからなぁ。」

 

そう、かつての連邦でも似たようなものたちはいた。

 

『レイダー』、略奪や誘拐、ドラッグ売買で生計を立てる連邦のギャングだ。

 

ネイトも幾度となく戦ってきた存在だ。

 

しかし、レイダー全員が悪事に手を染めたくて染めているわけではない。

 

生きる過程で仕方なく、といったものたちもいるにはいた。

 

そういう者たちが普通に暮らしていけるようにネイトも復興事業にそのようなレイダーを雇い入れていた。

 

無論一筋縄ではいかないことばかりだったが最終的にそんな彼らも日銭を稼ぎ飢えを忘れられればちゃんとした生活を送るようになってくれた。

 

それを今回、ヘルメット団に落とし込んで実践しただけのことである。

 

「ま、言った通り敵となるならまた相手になるさ。」

 

「そうですねぇ。その時はまたその時考えましょう!」

 

「ん…でもしばらくはあの規模では来れないかも。」

 

「またかなりの量の武器弾薬を鹵獲しましたからね。」

 

「本部の場所も分かったしな。今度こっちがちょっかいかけに行くか。」

 

「…ねぇ、襲う側襲われる側が逆転しているように思うの私だけかしら?」

 

「気のせい気のせい~。あ、そん時にはおじさんにも声かけてねぇ~。」

 

こうして、戦車やパワーアーマーが投入されたヘルメット団の襲撃の一日は幕を閉じるのであった。

 

―――――――――――――――――

 

―――――――――――

 

―――――

 

―――

 

その日の晩、ホシノたちが帰った後ネイトは校内の見回りを行っていた。

 

「フム…変な細工とかはないな。」

 

一応Mr.ガッツィーに監視を頼んではいたが自分が回り切れなかった部分の補修か所の点検も行う。

 

一応丸腰で作業させたが何があるかは分からない。

 

そんな警戒心から見回りをしていたが…どうやら杞憂のようだ。

 

特に何かされた形跡もなくヘルメット団もまじめに補修してくれたようだ。

 

「…よし、点検終了。部屋に戻るか。」

 

一通り点検も終え、作業室に戻るネイト。

 

電気もついてない部屋には月明かりが差し込み淡く室内を照らし出している。

 

「そうか、今日は満月か。」

 

そう呟き、かつては教師がついていた机に備え付けられた椅子に腰かけ空を眺めるネイト。

 

世界は変わっても…満天の星空は美しいものだ。

 

かつての連邦も人の営みが消滅したせいもあってか夜空には戦前では考えられないほどの星々が輝いて見えた。

 

ここアビドスも砂漠化の影響もあってかこのあたりも人が発する光がなく星空がよく見える。

 

ネイトもこの星空が好きでこうしてボォっと眺めて過ごすことも多い。

 

……だが、今日はそうもいかないようだ。

 

「…で?どこのどちらさんだ、アンタは?」

 

誰もいないはずの空間にそう問いかけるネイト。

 

すると…

 

「クックックッ…ばれてしまいましたか…。」

 

突如そこに何者かが現れた。

 

振り返りそちらにネイトが視線を向けると…

 

「さすが…『暁のホルス』が認め背中を預けた御仁です…。」

 

そこにいたのは闇に溶けるような黒いスーツを着た者。

 

スーツ以外も手袋に靴も同じように漆黒。

 

だが…明らかに人間ではない。

 

その証拠に…顔の右目に当たる部分が怪しく発光しそこから発生した罅が全身に回っている。

 

「夜分遅く突然の訪問、どうかご容赦を…。」

 

その者は恭しくネイトに非礼を詫びる。

 

異形の存在だが…明らかに『大人』だ。

 

ネイトと異形の『大人』…これが初の対面である。

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