長くなりそうだったので二部構成になります
The Ferocious ones from the Commonwealth Part1
ここはキヴォトスとはまた違う場所…言わばこの世とあの世の境目ともいうべき場所。
「フンフフ~ン♪お宝に~ちょうどいい場所はっどこかな~♬」
そこでネイトをキヴォトスに招いた張本人、梔子ユメが何やら荷造りのようなことをしている。
以前、ネイトの世界にあるjunk『軍の弾薬袋』をトランク一杯送ってくれたことがあったが…
「アビドス大オアシスが復活したお祝いは必要だよね~♪今回は何送っちゃおうかなぁ~♪」
今回もそれに似たようなものでネイトに『仕送り』として連邦世界産の物資をまた送ろうとしているところだ。
「資材は十分だろうからぁ…最初に一緒に送れなかったアレとかもいいかなぁ。」
と、あれやこれや悩んでいると…
「あ、これって…。」
ユメがある物を手に取った。
ここにある物はネイトが生前に縁がある物だが…それはその中でもかなり『異質』なものだった。
「う~ん…あっちの世界の『味』を思い出してもらうのもいいけど…これ送るのは危ないよね。」
少し悩み、これを送る案は無しと決断し…
「これは無しっと。えぇっと他にはぁ…。」
『ソレ』を脇に置いて送る品物の選別に戻った。
さて…今でこそ自身の神秘を存分に使いこの世界からキヴォトスに干渉するまでの御業が可能なユメ。
だが…人の本質というものは早々変わらないものである。
ホシノはかつて『無鉄砲で校内随一のバカ』と評していたが…
コロッ
ネイトも『無鉄砲で底抜けのお人よしでどこかバカっぽい』と評していたが…
ヴォンッ
今回もその評に違わぬやらかしをしてくれたのだった。
適当に荷物の上に置かれた『ソレ』は転がり何かの拍子で転がり落ちまた何かの拍子でキヴォトスのある学区に落ち…
ボチャン
奇しくもベストな水温の水が湧き出る小さな泉に落ちた。
そして何の因果が働いたか…
ビキッ
僅か半日足らずで罅が入ったのだった。
―――――――――――――――
――――――――
―――
しばらくたち、
「どっすか、アニキ?」
「…腕を上げたな。ちゃんと点検できてる。」
「あざっす!」
この日、ネイトは作業服姿でゲヘナ給食部の元を訪れリースしたロボット達のメンテナンスを行っていた。
結構な機体数があるのでスキルアップのためにW.G.T.C.の整備担当の生徒達を引き連れている。
「よし、定期メンテナンス終了っと。」
そのおかげもあって予定よりも早く定期メンテナンスを終えることができた。
「ありがとうございます、ネイトさんにアビドスのみなさん。」
「あぁ、フウカ。なに、大切に使ってくれてるお陰で故障個所もなかったから楽なものさ。」
「簡単ですけど軽食を用意してますので是非召し上がっていってください。」
「おぉそれは楽しみだ。よし、皆いただいて行こう。」
『ご馳走になります!』
メンテナンスも終わり…
「お、こっちはシャケ入ってる!」
「味噌汁もうめぇ!」
「さすがゲヘナの給食!ウチの味にも全然負けてないな!」
フウカが作ってくれたおにぎりやみそ汁などを我先にと食べ進めていくアビドス生徒達。
「フフッ一杯あるからたっぷり食べてね。」
なんとも賑やかな食事風景にフウカも嬉しそうだ。
「最近、給食部はどうだい?」
「お陰様で以前と比べたらものすごく楽になりました。設備なども融通してもらえて本当に助かってます。」
「いやいや、俺も給食部に助けられてるからお相子さ。アムッ…うん、いい塩加減のおにぎりだ。」
「お口にあったようでよかったです♪」
ネイトもフウカが用意してくれたおにぎりを食べながらおしゃべりに興じる二人。
「でも、自分でいうのもあれなんですけど…ウチから出る『生ごみ』と『残飯』の譲渡であんなに値引きして大丈夫だったんですか?」
「ウチはギブ&テイクが基本だ。ウチに必要なものを給食部が提供してくれるのならそれに全力で報いるまでさ。」
ゲヘナ給食部がどうしてここまでの設備をそろえられたかの要因がこれである。
ざっと4000人以上の給食を作るゲヘナ給食部。
調理の際に出る『生ごみ』と『残飯』も膨大な量になる。
ネイトはそれらの譲渡と引き換えにロボットと設備の大幅割引で提供したのだ。
「生ごみは『堆肥』にできるし残飯も加工すれば『飼料』にできる。どっちもアビドス復興に役に立ってくれるからな。」
「あ、そういえばゲヘナの養豚場と独占契約したんですっけ。」
「小規模なところに資金援助とうちで作った飼料を卸すことでな。これで肉が安く仕入れられる。しかも、豚の糞もまた肥料にできるんで一石二鳥だ。」
「…あのぉその豚肉をこっちに卸してもらったりとかは…。」
「ちゃっかりしてるよ、君も。」
「えへへへ…。」
そんな交渉混じりのお喋りを楽しんでいた、その時だ。
厨房の奥から…
「フウカせんぱ―い!!!」
という悲鳴が聞こえ…
ガシャンッ!
ビチャビチャビチャッ!
食器が割れる音と共に何かが這いずってくるような音が聞こえてきた。
「ちょ、ジュリ!?またなの!?」
どうやらフウカには心当たりがあるようだが、
「なんだ?」
ネイトやアビドス生徒が気になり厨房の方を見ると…
ビチャ!
『…え?』
何やら奇怪な生物…生物かどうかも怪しい物体が現れた。
形状を例えると…数枚重ねた紫色のパンケーキに紫の蛸の足が生え緑色の粘液を滴らせている、そんな物体だ。
そしてその生物は…
『キィエアアアアアアッ!!!』
と、どこから発しているか分からない鳴き声を上げて…
シュバッ!
ネイト目掛け襲い掛かった。
「ん?」
「ネイトさんっ!危ない!!!」
ネイトを庇おうと立ち上がってMP7『給食部の護身用銃typeA』を構えようとするフウカにすでに武器を構えて仕留めようとするアビドス生徒達。
だが、
ジャキンッ!
『ギェッ!!!』
空いている左手で素早く懐のデリバラーを引き抜きその謎の生物に向け…
「ドウドウ。落ち着け、パンケーキモンスター。」
まるでその生物を宥めるように声をかける。
するとどうだ?
『………。』
「え…?!」
その生物はピタッと動きを止め…
コロンッ
『へっへっへっ…!』
仰向けにひっくり返り腹部(?)をネイトに晒す。
いわゆる、ヘソ天である。
「うっ嘘…!?」
そんな光景が信じられない様に目を見開くフウカ。
ちょうどそこへ、
「『パンちゃん』ッ!暴れちゃダメ…ってえぇ!?」
立派な一対の曲角を持ちエプロンをかけた生徒がゲヘナのエンブレムが刻まれたフライパン片手に飛び出してきた。
「『ジュリ』、怪我は?」
「はっはいっ!私は大丈夫ですが皆さんは!?」
『牛牧ジュリ』、ゲヘナ給食部最後の一年生の部員である。
「俺もフウカも皆も無事だが…。」
『へっへっへっ…!』
「………これはなんなんだ?」
ジュリに無事を伝えるが…それよりなによりこの謎の生物だ。
今はまるで小型犬の様にこちらを見上げて触手をブンブン振っている。
「えぇっとその子は…。」
「…私からも説明します、ネイトさん。」
この状況に目を丸くしているがフウカとジュリがこの生物について説明してくれた。
さて、この給食部の部員は二人だがなぜフウカがほぼ一人で調理をしていたか?
答えは簡単、ジュリの料理の腕前が『災害的』に悪いのだ。
ある時は時短のために食材に向け銃をぶっ放したりするのは『可愛い』ほうだ。
問題なのはレシピ通りに作っても彼女が少しでも手を加えると即座に料理が今目の前にいる…
「料理の練習をしてたら…また『パンちゃん』が生まれちゃいまして…。」
「パ、パンちゃん…。」
『ギャウッ!』
ジュリ命名の奇怪な生物『パンちゃん』が爆誕するのだ。
「…なぁ料理下手ってあんなこと言うのか…?!」
「いや、天地ひっくり返ったとしてもぜってぇ違ぇ…!」
「俺だって上手な自信はないけどよ…?!」
アビドス生徒が言うように、それはもう上手い下手の領域ではない。
こんなことできるのは錬金術師かそこらのファンタジーな話だ。
「そっ…そうか…。」
今まで人には言えないようなものも含め色々見てきたネイトでも理解しがたいが…事実目の前にパンちゃんがいるので信じるしかなかった。
しかし、フウカとジュリも信じられないことがある。
「でも…パンちゃんがそんな風にしてるの初めて見ました…!」
「ジュリ以外何があっても絶対に懐かないはずなのに…!?」
このパンちゃん、見かけ通り誰かれ構わず襲い掛かるほど本来は凶暴な生物だ。
言うことを聞かせられるのは創造主たるジュリだけのはずなのだが…ネイトは銃を向けただけでパンちゃんを服従させて見せた。
「一体どうやったんですか、ネイトさん?」
希望を見出したかフウカがネイトに理由を尋ねるも、
「いやぁ…俺もよくは…。」
ネイトも首を傾げながら自分にも分からないと答える。
「そうですか…。」
残念がるフウカだが、
「まぁきっとアニキの気迫にビビったんだろうぜ、フウカ部長。」
「アニキ、睨むと怖ぇからなぁ!」
「違いねぇ、はっはっはっ!」
「…そうですね。パンちゃんもきっと『勝てない』って思っちゃったんでしょう。」
アビドス生徒達の冗談交じりの考えに納得するのだった。
「う~ん…イオリ先輩やヒナ委員長にも襲い掛かるのにそんなことあるのかなぁ…。」
唯一ジュリだけが不思議そうにしている中、
(フウカやジュリにPerkの話しても混乱するだけだろうからなぁ…。)
ネイトはこの事態に心当たりがあった。
Charisma Perk『Wasteland Whisperer』、『クリーチャー』をある一定確率で『説得』し指揮下に加えることができるようになるPerkだ。
同様の効果のPerkに『動物』用の『Animal Friend』と『人間』用の『Intimidation』というのもある。
先程の一瞬でパンちゃん相手にこのPerkが発動、『説得』に成功したということだ。
誰にでもできるわけではないし成功するかは正直運によるところが大きい。
「…で、このパンちゃんはどうしたら…?」
「あ、それはこちらで対処しますのでご心配なく。」
「流石にネイトさんに引き取ってもらうわけにはいきませんもんね。」
『ヘッヘッヘッ…。』
そう言い、ジュリはパンちゃんを抱えて厨房の奥へと戻っていった。
「…ジュリも頑張っている…よな?」
「まぁ、Ms,ナニーさん達に指導を受けて少しは…。」
「早く下拵えより先の調理にも参加できるようになればいいな。アムッ。」
と、右手に持ったままのおにぎりにかぶりついていると…
「失礼します!風紀委員会の者ですがネイト氏はいらっしゃいますか!」
「ん?」
見てみると食堂の入り口で風紀委員の生徒がやって来ていた。
「いるぞ~。」
ネイトは軽い調子で答えるも、
「お食事中申し訳ありません!ヒナ委員長より風紀委員庁舎への同行要請を承ってまいりました!」
敬礼しつつなんとも格式ばった言葉だがどうやらヒナがネイトを呼んでいるようだ。
「そこまで硬くならなくていい。分かった。すまないが行ってくる。食べ終わったら車両に待機を。」
『了解!』
手に持っていたおにぎりを腹に収めネイトは作業服から『シルバー・シュラウドの衣装』に変更し迎えの風紀委員と共にヒナの元へと向かうのであった。
しばらくし、風紀委員庁舎応接室にて…
「急に招いて申し訳なかったわね、ネイトさん。」
「いや、こっちの仕事も終わっていたところだから気にしないでくれ。」
そこでヒナを筆頭にアコやチナツと言った幹部たちと対面していた。
「それで今日は一体どんな用件で?」
「…アコ、『あの資料』と説明を。」
「承知いたしました、ヒナ委員長。こちらをご覧ください、ネイトさん。」
アコがネイトに差し出したのは…ある事件の捜査資料だ。
「『廃墟区画における襲撃事案』?」
「はい、事の発端は10日ほど前のことです。」
アコの説明ではこうだ。
2週間前、ゲヘナのヒノム火山近郊にある廃墟街で奇妙な噂が流れた。
「元より火山活動が活発で噴出音や地鳴りが多い地帯ですがそれでもある異質な通報がありました。」
「異質?」
「廃墟内から例えるなら…猛獣のような叫びが聞こえたと。」
「猛獣?」
「無論、風紀委員が調査に向いましたがその際は発見に至らず。いたずらの類かと判断されましたが…。」
「不良たちがその噂を聞いて度胸試しがてら乗り込んだそうよ。」
やんちゃな生徒が多いゲヘナの校風のためやはりそういうことが大好きな者たちも多い。
せいぜい肝試し程度と思って向かったのだが…
「結果は踏み込んだ不良の大半が全治二か月の重傷。なんとか無傷だった生徒もPTSDを発症し錯乱状態でした。」
「全治二か月…。」
身体の頑丈さが人間とはケタ違いのキヴォトス人が全治二か月とはどれほどの負傷を負ったか想像もしたくない。
「二日後、同不良グループの残存メンバーが『敵討ち』として同廃墟街に進入しましたが…。」
「結果は変わらず…か。」
「はい、被害が人数分比例して増大しただけでした。」
確かに痛ましい事件ではあるが…
「だが、そういう事件はゲヘナでは珍しくないんじゃないか?」
むしろこういう事件が起こる治安の悪さがキヴォトスというものではないか。
アビドスにいるネイトからすれば物騒な話だがキヴォトス内でも治安の悪いゲヘナならなおのことだ。
「七囚人という凶悪犯もいるんだ。その手の犯罪者でも潜り込んでいるんじゃ…。」
風紀委員の領分を出る事案でもない上、外部の人間である自分が関わるべき事でもない。
が…
「相手が『キヴォトス人』なら…そうでしょうね。」
「…どういうことだ?」
「こちらをご覧ください。」
続けてアコが見せたのは…ある写真だ。
「第二陣の不良集団はテクニカルを所有しそれを動員しましたがその車両も破壊され我々が回収しましたが…。」
その写真の破壊された車両というが…それはキヴォトスでは『異質』だ。
キヴォトスならば普通は弾痕や爆発の痕跡が刻まれるはずだが…
「………重火器によるものではないな。」
そこにあったのは…切り裂かれたテクニカルのボディだった。
しかも、その破壊痕は刃物によるものではない。
『爪痕』としか言えない形状をしていた。
「チナツ、負傷した不良たちのけがの状態を。」
「はッはい…!負傷者のケガは全て切創に裂創…『噛み傷』と思われる傷ばかりです…!」
緊張の面持ちを浮かべるチナツの口から語られる不良たちのケガもとてもキヴォトスで見られるものではない。
「どう考えても…キヴォトス人ができるような所業ではないわ。それでいてキヴォトスに生息するどの生物によるものでもない…。」
「『外の世界』からの密輸された外来種という可能性もあります。そこで『外』の方であるネイトさんに情報提供をと…。」
キヴォトスのある世界も『キヴォトス』という領域だけではない。
当然、キヴォトス以外の国家などもありそこからの密輸なども取り締まられておりその中には『動物』も含まれている。
『外来種』、それもキヴォトス人を容易に重症たらしめるほどの凶暴な動物となれば対処も慎重にならざるを得ない。
ならば、キヴォトス人ではないネイトに情報提供を求めるのは当然ともいえる。
と、
「………。」
「…ネイトさん?」
写真を真剣な面持ちで見つめるネイト。
アコが不審そうに声をかけると…
「…こいつはただの動物じゃない。」
「どういうことなの?」
断言的に答えるネイトにヒナは真意を掴めず首を傾げ、
「ただの動物ではない?貴方らしくもないですね、ネイトさん。では、相手はモンスターかなにかとでも?」
リアリストのネイトらしくない発言にアコは少し小馬鹿にしたような態度をするが…
バサッ
「…え?」
「ねッネイトさん…?」
「わわわ…ッ!?///」
ネイトはおもむろにシルバー・シュラウドの衣装のコートを脱ぎ始める。
まさかの行動に唖然とするヒナやアコにチナツをしり目に、
シュルッ
パチパチパチッ
「まっ待って…!アコが挑発したことは謝罪するわ…!///」
「ちょ、ちょっと!?アナタッ何を考えて!?///」
「あわわッあわわわわわッ!!?///」
首元のスカーフをとりシャツのボタンを外し、
グイッ!
シャツをインナーごとめくりあげると…
「…え…!?」
「そ、それは…ッ?!」
「嘘…ッ?!」
先ほどまで顔を赤くして騒いでいたヒナたちが目を見開いてその場所に見入る。
あらわにしたのは左の脇腹、女子生徒ばかりのキヴォトスではなかなか見られない男性特有の鍛え抜かれた肉体があらわになっている。
しかし、三人が見入っているのはそれではない。
そこにあったのは…
「つ、爪痕…?!」
「しかも…写真と同じ…!?」
「負傷者の怪我とも一致します…!」
今しがたネイトに見せた写真にもあったものと同じ爪痕の傷跡だった。
「…その『怪物』との初遭遇の時にな。旧式も旧式、それも長年整備されてなかったとはいえパワーアーマーの装甲を奴は自分の爪で引き裂きやがった。」
「パ、パワーアーマーを…!?」
パワーアーマーの脅威を身をもって知るヒナは言葉を失い、
「あわや内臓が零れ落ちそうだったが幸い深く肉を引き裂かれる程度で済んだがな。」
「それでも装甲を貫いてなおそんな大けがを負わせるなんて…?!」
医療の心得のあるチナツはその爪の鋭さに慄き、
「対処法を間違えなければ仕留めるのも難しくはないが…気を抜くとバラバラにされかねない凶悪なクリーチャーさ。」
「そんな生物…いいえ、そんなモンスターが…今、このゲヘナに…!?」
ネイトをしてそこまで警戒させるほどの怪物が存在することにアコは顔を青くした。
「…ネイトさん、そのクリーチャーの名前は…?!」
「俺達はこう呼んでいた。…『デスクロー』…と。」
「で、デス…クロー…!」
安直なネーミングだと笑ってもおかしくないところだろうが…
「なるほど…『死の爪』、その名前に一切の誇張はありませんね…!」
これほどの惨状を見せつけられてはアコですらその名前に納得するしかない。
「絶対にそうだとは言えないが…俺が知る限りそんな芸当ができる生物は奴しかいない。」
服装を直しつつ…
「…空崎ヒナ。この一件…個人的ではあるが俺も協力しよう。」
「ほ、本当に…?」
「奴とは何度も戦ってきた。いきなり風紀委員の部隊を送り込むより勝率は上がるはずだ。」
ネイトもこの事件の解決に協力することを申し出た。
「それはとてもありがたいのですが…。」
正直、ネイトの助力は願ってもない事だが…
「どうしてそんな怪物がキヴォトスに…?」
また別の問題が浮上する。
明らかにこの生物はそんじょそこらの野生動物とはわけが違う。
鉄すら切り裂く爪をもつ生物など密猟者でも相手にはしたくないはずだ。
そんなデスクローがなぜゲヘナの廃墟に?
ヒナたちが首を傾げる中…
「………アイツ…!」
消え入りそうな声でネイトはこの騒ぎを引き起こしたであろう人物のあたりを付けていた。
いるではないか。
こんな芸当ができる『バカ』が。
「ネイトさん?どうかしましたか?」
「…いや、大丈夫だ。ともかくまずは情報収集だ。」
「そうね。チナツ、改めて被害者からその生物の情報を聞き出してちょうだい。」
「分かりました、ヒナ委員長。」
「アコ、動かせる実働部隊…二個小隊分召集を掛けて。」
「承知いたしました。」
事態が動き始めヒナはチナツとアコに指示を飛ばす。
「ネイトさん、何かデスクローに対する有効策はある?」
「奴は凶暴かつ知能が高く狡猾、力もそうだが敏捷性もヤバい。外皮は小口径のライフル弾を受け止めるほど強靭だ。廃墟なんていう市街地戦を挑むにはリスクが大きい。」
「生物として破格のスペックですね…。」
「…参ったわね。廃墟街とは言え瓦礫の山にすると万魔殿がうるさいでしょうし…。」
今回の場合は場所が悪い。
隠れる場所が多いうえこちらの行動に対する制約がかなりある。
そんな場所で猛獣が裸足で逃げ出すような怪物をハンティングするのは及び腰になるのは無理もない。
しかし…
「なに、怪物とはいえ奴も生き物だ。やりようはある。」
「と、言うと?」
「すまないが空崎ヒナ…奴らの力を借りさせてもらう。」
ネイトに策有り、スマホを取り出しある部活にコンタクトをとるのだった。
――――――――――――――――――
数時間後、ゲヘナはヒノム火山近辺の件の廃墟街にて、
《こちらチームA、『罠』の設置を完了。撤収します。》
《こちらチームB。こっちも準備完了したぜ、風紀委員長さんよ。》
《チームC、イオリ。こっちも指定の場所に置けたよ、委員長。》
「了解したわ。各員、速やかに集結地点へ向かいなさい。」
無線から飛ぶ廃墟街内で作業を終えた風紀委員長とアビドスからの有志の生徒へ指示を飛ばすヒナ。
「ネイトさん、これでいいかしら?」
「ありがとう。輸送用のトレーラーの手配も助かった。」
「これくらい軽いものよ。」
指揮所であるテントで言葉を交わすネイトとヒナ。
そして…
「ハルナに美食研究会も協力に感謝する。」
「ウフフッまさかネイトさんから我々に協力をお求めになられる日が来るとは…。」
「いきなり連絡来たからびっくりしちゃったよ!こういうこと初めてだもんね!」
「それに風紀委員会との共同作戦…!今から何が始まるのかワクワクしちゃいますねぇ…!」
「そ、それはここに来る前に説明してほしかったんだけど…!」
傍らにはテーブルに腰掛け茶を楽しむゲヘナきってのテロリストグループである『美食研究会』が勢ぞろいしていた。
「全く…!どうしてこんな方々に協力要請なんか…!」
「むくれないの、アコ。適材適所、利用できるのならその手間は惜しまないのは当然よ。」
「それに風紀委員会に『アレ』をこれほどまで短時間にご用意できるとは思えませんわ。」
「グヌヌ…!」
アコが悔しそうな表情を浮かべるが…事実そうだ。
ネイトが美食研究会にコンタクトをとったのはある『代物』の調達を依頼するため。
それは…
「しかし、いきなり頼んどいてあれだがよく『熊肉』がこんな短時間で大量に手に入ったな。」
「餅は餅屋、というやつですわ。伊達に様々なお店をめぐってはいませんのよ?」
「ジビエも美食には欠かせない食材ですよ♡専門の業者は私たちの情報網にばっちりデータがあります。」
「偶然レッドウィンターで獲れたおっきな熊のお肉が入荷しててよかったねぇ~♪」
「値段はかなりしたけど…本当に大丈夫?」
「金は心配するな。むしろ動物園の熊を仕留めてこなかっただけこっちも一安心している。」
今作戦に必須な物資、『熊肉』である。
キヴォトスにも当然生息しており、キヴォトス人でも油断ならない存在だがジビエとしてもよく振舞われている。
美食研究会も当然、そのような珍しい食材の流通経路なども把握しており今回熊肉の調達を依頼したのだ。
そして、その熊肉を…
「しかし、剛毅なことですわね。熊の肉を使った罠でそのような怪物を誘い出すなど…。」
「俺が知る奴なら…むしろこれ以外の肉には見向きもしないだろうからな。」
豪快にもトラップのエサに使用しこの廃墟街に潜む怪物を捉えようというのだ。
すると、
《ヒナ委員長、チナツです。被害者からの聞き取りが終了しました。》
「お疲れ様、チナツ。」
被害者の聞き込みに言っていたチナツから通信が入り、
「それで、どうだったかしら?」
《やはり錯乱状態なので詳細には聞き出せませんでしたが…大まかな容姿は恐竜のようで二足歩行可能、頭部には巨大な角があり尻尾も持っていた…と。》
「分かったわ。…ネイトさん?」
「間違いない。俺が知るデスクローの特徴に合致する。」
被害者からの証言によって…予想は的中した。
「…罠が無駄にならなかったのを喜ぶべきか、そんな怪物の相手をしなければならないことに怖がるべきか…。」
「どっちもだ、天雨アコ。俺もそっちの方がやりやすい。」
相手が分かれば…と、ネイトは装備の準備に移る。
メインウェポンは『コンバットショットガン』に…
「…以前も持っていたけどかなり簡素な銃ね…。」
「実際簡素な銃だぞ。『パイプピストル』、材料と知識さえあれば子供でも作れる。」
鉄パイプと角材とネジで組まれたなんともハンドメイド感溢れる武器、『パイプピストル』。
連邦ではそれこそ入植者からレイダーに子供級の知能のスーパーミュータントすら持っていたある意味『ベストセラー』だった銃だ。*1
『パワフルオートレシーバー』、『ショートポーテッド・シールドバレル』、『シャープシューターグリップ』、『クイックイジェクトドラムマガジン』、『リフレックスサイト』というマシンピストル化の改造が施されてある。
「小型ライフル弾が通用しない相手に9㎜ショートなんか通用するのですか?」
「コイツの売りは威力じゃない。」
「…また変な効果があるのね?」
「それは本番でのお楽しみだ。そっちも準備しておけよ、空崎ヒナ。」
「もちろん。」
来るべき時に備え、ヒナも愛銃の整備を行っていると…
「オッホン、それでネイトさん?」
「ん?あぁ、そうか。ハルナたちには報酬を…。」
熊肉調達分の費用と報酬を支払うため小切手を取り出すネイトだが…
「いえいえ、今回の件ですが…お代は結構ですわ。」
「…何?」
ハルナは報酬を辞退し、
「その代わりに…一つお願いが。」
ネイトにズイッと瞳に自分の顔が映っているのが見えるほど顔を近づけ…
「…何だ?」
「ここには…『熊』をも常食する怪物、ネイトさんの言うところの『デスクロー』という私共には未知の生物が潜んでいるのですのよね?」
「そうだが…。」
改めてデスクローがキヴォトスでも未知の生物であると再確認し、
「でしたら…その『味』…是非とも確かめてみたいものですわぁ…。」
彼女の気質を知らなければ間違いなく一目惚れしそうな可憐な笑顔を浮かべ…
「………おい、まさか。」
「はい、デスクローを仕留めた暁に…その素材を使った料理を振舞ってほしいのですわ、ネイトさんに。」
報酬としてデスクローの料理を要求した。
「ほッ本気で言ってるんですか…?!」
あまりにも荒唐無稽な要求にアコも表情を引きつらせるが…
「まぁっそれは名案です、ハルナ!キヴォトスでも未確認の食材を楽しめるなんて美食研究会冥利に尽きます!」
「うんうん!聞いた感じだとすっごいインパクトがありそうな生き物だね~!想像しただけでよだれが出ちゃうよ~!」
「そんなに大きいのならみんな満足するまで食べられるわね!それにキヴォトス唯一のお肉なんて値段が付けられないわ!」
他の美食研究会の面々はその案に満場一致で賛成。
「…で、なんで俺に調理を?」
そこへネイトが質問する。
料理ならネイト以上に腕の立つ料理人を知っているはずなのにネイトのご指名は疑問が残るが…
「貴方はあの生物を何度も仕留めているのでしょう?あらゆるものを有効活用するネイトさんが…仕留めて放置するなど考えられませんわ。」
「………なんともごもっともな理由をどうも。」
ゲヘナ内では便利屋メンバーの次に関りを持っている美食研究会だからこその視点に感服するしかない。
「え、本当に…!?」
ぎょっとするヒナをしり目に、
「いいだろう。仕留めたら俺が腕によりをかけて『デスクロー料理』を振舞うさ。」
「うふふ…契約成立ですわね♪ハンティングの際は我々も助力いたしましょう♪」
ネイトとハルナは固く握手を交わし、美食研究会の参戦も決定した。
「ちょ、ちょっと部外者を勝手に…!」
「諦めなさい、アコ。戦力は少しでもほしいし今お帰り願ったら面倒が増えるだけよ。」
美食研究会の戦闘力はゲヘナ内でも折り紙付きだ。
限られた人員の中でテロリストとはいえそんな実力者たちを引き入れられるのは僥倖だ。
こうしてネイトを介してではあるが普段ならあり得ない風紀委員会に美食研究会の協力体制が結ばれるのであった。
―――――――――――――――――
―――――――――
―――
「セナ部長、お忙しい所ありがとうございました。」
「可愛い後輩の頼みです。それに死体…いえ負傷者が増えなくなるのは私達としても喜ばしい事です。」
「あ、アハハ…。」
情報収集にやって来ていたチナツは『救急医学部』の制服を纏い白髪から短く飛び出した角を持つ生徒に礼を述べていた。
『氷室セナ』、『救護医学部』部長でかつてこの部活に所属していたチナツの先輩でもある。
「それにしてもそんな恐ろしい生物があの場所に…。」
「キヴォトスはいまだ謎多い場所ですね…。」
「『デスクロー』…でしたか。私としては死体が増えることは喜ばしい事ですが…。」
「ぶ、部長…。」
先程から『死体』と呼んでいるがこれはセナの癖のようなものだ。
しかも、本人としては様々な症例を治療できるためむしろ負傷者が増えることはバッチコイなのが物騒さに拍車をかけている。
セナ自身に悪意無いのがまた…。
「それでチナツはこの後現場へ?」
「はい、おそらく負傷者も出るかもしれませんから。」
「では、医学部の車両で送っていきましょう。負傷者の搬送にも活用できますから。」
「ありがとうございます。」
チナツも合流するためセナと共に向かおうとする。
………が、
「キキキッ…。」
「ッ!?」
「どこかへお出かけか、風紀委員の火宮チナツよ?」
もう一人の『バカ』が波乱を巻き起こすことになるとは…ネイトやヒナは知る由もなかった。
腕のいい料理人を用意してくれ。そうすれば、会談で最高の合意を取り付けてみせよう。
―――政治家『タレーラン・ペリゴール』