Fallout archive   作:Rockjaw

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神は人々に食物をつかわしたが、悪魔は料理人をつかわした。
―――小説家『レフ・トルストイ』



The Ferocious ones from the Commonwealth Part2

「…というわけで準備しててくれないか?」

 

《はい、材料と作り方は分かりました!しっかり準備しておきます!》

 

「材料費と光熱費の請求書はW.G.T.C.に回しておいてくれ。じゃあ、よろしく頼む。」

 

《ネイトさんもお気をつけて!》

 

「あぁ、しっかり仕留めてくる。」

 

デスクローが罠にかかる合間にネイトはフウカに連絡を取っていた。

 

「あら、フウカさんにお電話ですか?」

 

「料理の仕込みを頼んでたんだ。帰ったらすぐに取り掛かれるようにな。」

 

「ふふッ感心ですわ。料理は手際も命、ネイトさんなら指摘するまでもありませんでしたわね。」

 

「…正直、そんな恐ろしい怪物を食材にするっていう発想についていけないのですけど…。」

 

「アコ、ついて行こうなんて考えない方がいいわ。」

 

「さて、こっちの用事も終わったし…そろそろ始めよう。」

 

通話も終え、ネイトはテント内に置かれたホワイトボードの前に立ち、

 

「では、改めて今回の想定標的『デスクロー』駆除作戦について対策と戦術講義を行う。」

 

廃墟に潜むクリーチャー、デスクロー駆除作戦のブリーフィングが始まる。

 

「被害者からの情報が不鮮明なため俺が知る情報も込になることに留意してもらいたい。」

 

そう言い、ネイトがデスクローの詳細スペックについて記載していく。

 

「体高は約3.5m、体重およそ600~700kg。奴の最大の特徴はその腕の長さで片方の腕だけで2mはくだらない。」

 

「つまり…リーチがとても長いということね。」

 

「サイズ的にはレッドウィンター産の大型の熊よりも二回りは大きいですわね…。」

 

「ハルナの言う通りだが四足歩行時の速度と敏捷性は馬鹿にできない。知能も高くこちらの攻撃を回避するような動作もする。」

 

「そ、それって頭良すぎじゃない…?!」

 

「最大の武器はその名前にもなっている『爪』で例えるなら…斧の重さと剃刀の鋭さを兼ね備えた鋸だ。切れ味もさることながら切り口をズタズタにすることにより治療を困難にする。」

 

「改めて聞くと…明らかに動物としては過剰スペックな武器ですね…。」

 

「まるで…戦うことを定められたような生態のようにも思えます。」

 

「………奴の外皮は言うなれば生体防弾衣と言ってもいい。フルサイズの30口径ライフル以下は効果が薄く十分な効果を期待するには50口径が必須だ。」

 

「対物ライフルが必要だなんて本当にとんでもないんだね…!?」

 

「え、私の銃って7.92㎜クルツ弾なんだけど…!?」

 

聞けば聞くほど生物とは言えないスペックにキヴォトス人の彼女たちも驚きを隠せない。

 

「じゃあ、ネイトさんはどうやってデスクローと対峙し仕留めてきたの?」

 

「対処法としてはいくつかある。まずは奴の弱点である腹部に集中攻撃を行う方法だ。」

 

「腹部?頭部ではないんですか?」

 

頭部は生物共通の弱点だ。

 

キヴォトス人でもヒナ級の例外を除きヘッドショットを喰らえば一発で気絶だ。

 

アコがその点を指摘するが…

 

「甘いですわね、アコさん。」

 

「ムッそれはどういう…。」

 

「頭蓋骨は骨格の中でも最も分厚い部位ですわ。それがこの巨体の生物となりますと…もはや装甲と言ってもいい強度でしょう。」

 

「その通りだ、ハルナ。外皮と分厚い頭蓋骨、そして奴は基本前傾姿勢をとっているため角も障害になって余計にダメージが通りにくい。」

 

「ぐッ…浅慮な発言、失礼しました。」

 

ハルナの食材…延いては動物に対する知識とネイトの戦闘経験を述べられ苦い表情を浮かべ発言を撤回する。

 

「気にするな。こういうことは動物と戦っていないと分からないことだ。」

 

「話を戻しましょう。ではなぜ腹部へは攻撃が通るの?」

 

「先も話したように奴は基本前傾姿勢だ。長年の進化の過程で自然と腹部への守りがされてきたため…。」

 

「あ!わざわざそこの皮膚を強化しなくてもいいから他の所より柔らかくなったのね!」

 

「正解だ、ジュンコ。奴の外皮だが腹部のそれは他の部位より強度が低い。銃で狙うならそこだ。」

 

「私たちキヴォトス人には馴染みがないですが確かに重要臓器が密集する腹部への攻撃は頭部並みに有効ですね。」

 

弱点も分かり攻略に光が差したかに思われたが…

 

「でもっそのお腹は隠されてるんでしょ?どうやってすばしっこく動くデスクローのお腹を撃つの~?」

 

手を挙げてイズミがそうネイトに尋ねる。

 

確かに腹部というものも生物共通の弱点である。

 

そのため、野生動物は腹をさらすという行為はそうそうしない。

 

他にも蟹や亀など腹を護るため甲羅などで防御力を高めたりしている。

 

デスクローもその例にもれず頑丈な外皮と姿勢によって腹部は守られているうえ動きも速い。

 

狙うのは生半可な難易度ではないはずだ。

 

しかし、

 

「確かにイズミの言う通りだ。そこで…第二の対処法だ。」

 

そう言いながらネイトが机の上に金属製の円盤状の物体を置く。

 

「…金属製のフリスビー…ではなさそうですね。」

 

「コイツは『フラグ地雷』、動体感知式の対人地雷で結構な威力がある。」

 

「…なるほど、それでデスクローの足を潰すのね。」

 

「いかに頑丈な外皮でもさすがに爆薬には耐えきれない。コイツを用い奴の足を潰して奴の急所目掛け一気に銃撃を仕掛ける。これがデスクローのもっとも楽な仕留め方だ。」

 

考えは単純、足が速いのなら足を潰してしまえばいい。

 

事実、連邦時代にネイトはこの方法で何頭ものデスクローを討伐してきた。

 

「以上がデスクローに関する対策と戦術だ。予定通りいけば奴は罠にかかる。解放前に地雷を敷設し解放と同時に奴の脚部を破壊、そこを大火力を叩きこめば損害も少なく駆除できるだろう。」

 

「…なんだかデスクローの危険性の割に簡単な作戦ですね。」

 

「こういうのはシンプルな方が成功しやすいんだよ、天雨アコ。…だが、今回は別の懸念がある。」

 

「あら?こんな怪物以外になにが心配なんですか?」

 

正直、デスクロー以外の警戒など考えたくもないが…

 

「空崎ヒナ、被害者は全員帰ってこられてるんだよな?」

 

「重傷は負っているけどそうね。」

 

改めてヒナから被害者たちの状況を聞き、

 

「奴は肉食だ。一人二人食われていてもおかしくないはずなのに…どうして帰ってこられたと思う?」

 

デスクローの生態を加味しこの場の生徒達に問いかけた。

 

「食事を目の前にしてそれを取り逃がしたということですの…?」

 

「私たちでは絶対あり得ないことですが…。」

 

「ね~動物だったらなおのことご飯は逃がさないよね~。」

 

「あんまり想像したくないけど…弱っちくてお腹膨れるんならなおのことだわ。」

 

食事こそ全ての美食研究会は首をひねるが、

 

「…食事よりも優先すべきことがあった?」

 

アコがそう声を上げる。

 

「では、天雨アコ。野生動物が食事以上に優先すべき事項は…なんだと思う?」

 

そして、再度のネイトの問いかけに…

 

「………ッ!?まさかッ!?」

 

その結論に達し目を見開く。

 

「…アコ、説明を。」

 

それを見て、ヒナはあえてアコに説明を求める。

 

「い、委員長。不良生徒が襲われた地点は…ここと、ここです。」

 

「そうね。」

 

「デスクローは侵入してきた不良生徒たちを襲撃こそしましたが止めを刺すには至っていません。つまり…『縄張り』の外に出た、と考えていいでしょう…!」

 

「縄張りから出たら積極的には襲わない…?」

 

食事のチャンスを逃してでも縄張りに脅威を忍び込ませたくない。

 

それはつまり…

 

「ッまさか…!?」

 

「気付いたか。おそらくこの襲撃地点のこの一帯に…奴は巣を…いや既に産卵している可能性がある。」

 

『ッ!?』

 

デスクローが産卵、つまり繁殖の可能性があることを示唆され美食研究会すら目を見開く。

 

「なので、駆除作戦と並行し捜索部隊を編成する。奴が罠にかかったらこの範囲を捜索し奴の巣を見つけ出す。」

 

「あ、あの~ネイトさん?それってもう一頭いる可能性が…。」

 

ジュンコが顔を青くし最悪の可能性を上げるが…

 

「それはないと言っていいだろう。」

 

ネイトはそれを否定する。

 

「発生時期から見てデスクローはごく最近突如としてここに現れたことが分かる。こんな短期間に繁殖期を迎えるとは思えない。」

 

「それほど激しい気性の生物なら…番になる前に縄張り争いで殺し合う可能性の方が高いですわね。」

 

「その通りだ、ハルナ。現に奴らは同族同士でも殺し合いに発展する争いを行い共食いも厭わない。聞こえてる声が一つだけの点を考えて頭数は一頭であっても無精卵のはずだ。」

 

「なるほど…。」

 

「人員的には捜索部隊は銀鏡イオリ筆頭に風紀委員会とウチの生徒に任せる。他にこの中でそう言うことに自信がある者は?」

 

ここにいる実力者たちにそう尋ねると…

 

「でしたら、我が美食研究会からはジュンコさんを捜索部隊に推薦いたしますわ。」

 

ハルナが美食研究会の最年少のジュンコを挙げる。

 

「推薦理由は?」

 

「ジュンコさんは鼻が利くんですの。以前、公園に生えていたトリュフを香りで見つけ出していましたわ。」

 

「その嗅覚は飢えた雌豚さん並です。きっと巣…延いてはデスクローの卵の捜索に役立ちますよ♪」

 

「アカリ、今とんでもない単語ブッ込んだわね?アンタを今からデスクローの罠の中に放り込んでやるわよ?」

 

キレッキレのアカリの毒舌に青筋を立てて得物である二挺のStG44『ダイナーズアウトロー』を向けるジュンコだが…

 

「ドウドウ…分かった。ジュンコ、捜索部隊に入ってくれ。お前が見つけた暁には特別に卵一個丸々使ってオムレツを作ってやろう。」

 

「ホントっ!?分かったわ!絶対に見つけてくるから約束忘れないでよね、ネイトさん!」

 

ネイトからのご褒美の提案に一気にご機嫌となった。

 

美食研究会の中では高級志向なジュンコからすれば世にわずかしかない卵のオムレツなどこの上ないご馳走だろう。

 

「えぇ~!?ジュンコ、ずるい!!!私にもちょうだいよおおお!!!」

 

「そんな貴重な卵を独占だなんて…!?それも素材の味を楽しめるオムレツで…?!」

 

「…ジュンコさん、先ほどの無礼は謝罪しますから是非私もご相伴に…!」

 

これには他の美食研究会の面々の目の色が変わるも、

 

「ふふ~ん!これは当然のご褒美よ!アンタ達になんか分けてあげないわ!!!」

 

ジュンコは勝ち誇ったように胸を張り却下するのであった。

 

「話を戻すぞ。駆除部隊は俺を筆頭に空崎ヒナにジュンコ以外の美食研究会を当てる。前衛は俺、空崎ヒナにアカリ。イズミは後方支援でハルナは狙撃支援を頼む。」

 

「分かったわ。」

 

デスクローと相対するメンバーに選ばれたヒナは適度に緊張した様子で答え、

 

「…こうなっては切り替えていきますわよ、お二方。」

 

「えぇ、なんとしてもデスクローの料理をお腹いっぱいに…!」

 

「未知の生き物のお肉…!どんな味がするのかなぁ…!」

 

ハルナたちも未知の食材であるデスクローへの期待に胸を膨らませるのであった。

 

「天雨アコは後方からの指揮を頼む。普段とは勝手が違うだろうが前線指揮で俺もサポートする。」

 

「了解です。私は銃ではなく頭脳を武器として戦わせていただきます」

 

そして、アコには後方指揮を任せる。

 

ビナーとの戦いを経て彼女もより一層指揮能力に磨きをかけているようだ。

 

「さて…あとは奴が罠にかかるのを待つだけ。」

 

ブリーフィングも終えネイトも椅子に座りその時を待つのみとなった。

 

「せっかくお肉も用意したんですから早く掛かってくれるといいんですけど…。」

 

罠猟の辛い所はここだ。

 

罠を仕掛けた後は何もしなくていい分、掛かるまでこちらも何もできない。

 

どうにも待つのが苦手なアコがぼやくと…

 

「あら?獲物が掛かるのを待つのも狩りの醍醐味ですわよ、アコさん?」

 

ハルナは優雅にティーカップを傾けアコに『待つ』楽しみを伝える。

 

「お言葉ですが…デスクローが掛からなければ貴方方の食事もいつになるか…。」

 

と、これにはムッとしたかハルナに反論しようとした…その時、

 

ブーッ!ブーッ!ブーッ!

 

『ッ!?』

 

突如、罠に装着しておいたセンサーが鳴り響いた。

 

「天雨アコ、反応箇所は!?」

 

「トラップC、ここから一番遠い場所です!」

 

「了解した!ジュンコ、銀鏡イオリ達と合流して指定範囲の捜索に移れ!」

 

「分かったわ!約束忘れないでよ、ネイトさん!」

 

「俺達は捜索部隊が巣を見つけるまでトラップ周辺で待機する!全員、徹甲弾とグレネードをありったけ持て!」

 

「いよいよ出番ね…!」

 

「久しぶりに腕がなりますわぁ…!」

 

「さぁ狩りの時間と行きましょう…!」

 

「待っててね、デスクロー!美味しく食べてあげるからね!」

 

事態が一気に動き出しテントにいる全員が装備をもって各々のポジションへ飛び出していった。

 

それから30分後、

 

「あそこだな…。」

 

「確かに入り口が閉じていますわね…。」

 

ネイト達は罠が作動したトラップCの近くに到着していた。

 

双眼鏡で覗く先には小屋ほどはあろうかという金属製の物体がありその入り口が固く閉ざされており…時おり微かに揺れている。

 

「あの爪で破壊されたりしないかしら…。」

 

「安心しろ。厚さ10㎝以上ある鋼鉄製だ。ちょっとやそっとじゃ奴にも壊せない。」

 

「それに今は餌の熊肉を夢中になって食べている最中でしょうからね。」

 

あの中に怪物がいる。

 

口調は軽いがハルナたちの表情にも緊張がうかがえる。

 

「じゃあ今のうちにこっちも準備しちゃおうよ。」

 

「ハルナ、地雷の敷設を手伝ってくれ。」

 

「承知いたしましたわ。」

 

何はともあれ罠を解放するまではこちらは好きに行動ができる。

 

ネイトと今まで数々の飲食店を爆破してきたハルナはデスクローの脚部破壊用の地雷を設置するために罠へと近づいていく。

 

その時だ。

 

《至急至急、指揮所より駆除部隊!指揮所より駆除部隊!》

 

指揮所にいるアコから緊急の無線が入り…

 

《監視ドローンにより封鎖線を突破し後方からそちらへ接近中の所属不明の車両を二台確認!!!警戒してください!》

 

「何…?!」

 

こちらに向かって乱入者が接近中とのこと。

 

ここは廃墟街、住んでいるのはせいぜい寮にも入れないような不良くらいだ。

 

しかも、そんな不良たちも先の事件を恐れ別の場所に移っている。

 

そんな場所に…しかも今デスクローが捕えられている罠の場所目掛けて迫ってくるなど…

 

「散開し警戒しろ!あの不良たちの仲間なら変なことを起こす前に撃退するんだ!!!」

 

ネイトはその乱入者を先の事件の不良グループの知り合いと想定し迎撃態勢をとる。

 

そして…ネイト達にもエンジン音が聞こえ始めた。

 

「ハルナ、どこの奴か分かるか…?!」

 

「少々お待ちを…。」

 

スナイパーであるハルナが接近中の車両をのぞき込み確認すると…

 

「…あら?」

 

途端に首を傾げた。

 

「どうした…?!」

 

声を潜めてネイトが尋ねると…

 

「…あの先頭の車両、万魔殿の公用車ですわ。」

 

「…は?」

 

「運転手は…マコト議長ですわね。」

 

「「…え?」」

 

予想外の答えにネイトだけでなくヒナも呆然とした声を上げ…

 

「それに後続は…救急医学部の緊急車両で乗っているのは…セナさんに風紀委員のチナツさんですわね。」

 

「き、救急医学部…?」

 

「ま、まってちょうだい…。なんでチナツが…?」

 

その結構後に続く車両に乗っている面々に再度あんぐりする。

 

「…どうしますか?撃っちゃいますかぁ?」

 

「まっ待ってちょうだい!いくらマコトでも撃つのは拙いわ!!!」

 

いまにも発砲しそうなアカリに必死の形相でヒナは制止する。

 

相手はゲヘナのトップ、いかに予測不能な人物でも発砲したらただでは済まない。

 

「…アイツ、まさか!?全員ついて来い!!!」

 

ネイトは嫌な予感がして即座に全員に指示を飛ばし罠の方に駆け出す。

 

だが、いかにネイトやヒナでも車両より早く走ることなど不可能でマコトが操る万魔殿の車両は瞬く間に追い抜いて行った。

 

「ッ!?マコト、やめなさい!!!」

 

「それだけはダメですわー!!!」

 

「あの議長、本気ですか!?」

 

「待ってー!!!開けちゃダメー!!!」

 

ここでヒナたちも…あのバカマコトが何をしようとしているか理解しすぐに後を…いや罠へと駆け出す。

 

が…

 

「ふっふっふっ…!無線の盗聴によるとこの中に…!」

 

無情にもマコトはもう檻の前に到着。

 

「お、あれが開閉用のスイッチだな?」

 

こんな時だけ妙に回る頭で罠の横に設置されているスイッチを発見し…

 

「これを押せば…!」

 

何の躊躇もなく近づき、

 

「マコトー!!!やめろー!!!」

 

ネイトが叫んでやめさせようとするも…

 

ガチャン

 

『~ッ!!?』

 

一切の逡巡なくそのスイッチを押した。

 

それを見たネイトたちは固まり、

 

ギギギ…ッ!

 

重たい駆動音と共に罠…『デスクローの檻』の扉が持ち上がっていく。

 

「さぁ、『デスクロー』よ!!!私の前に姿を現すがいい!!!」

 

マコトがその扉の前に立ち腕を広げそう叫ぶと…

 

ズゥン…!ズゥン…!

 

奥の暗がりから響き渡る重たい足音。

 

「………全員、所定の位置につけ…!」

 

固まりながらもネイトはヒナたちに指示を飛ばしその時に備える。

 

扉が開け放たれた瞬間から放たれる威圧感にヒナもハルナたちも無言でそれに従う。

 

そして…

 

ズォ…!

 

「おぉ…これは…!」

 

とうとうソレが姿を現した。

 

マコトをして優に倍はあろうかという巨体。

 

刺々しい背びれに長い尻尾。

 

撫でるだけでアスファルトが切り裂かれる鋭い巨大な爪。

 

そして…頭部にはまさに『悪魔』としか言えない一対の巨大な曲角。

 

正にそれは怪物。

 

正にそれは『死の爪』。

 

「あれが…デスクロー…!」

 

「なんて恐ろしい姿なのですか…?!」

 

「本当にあんな生物が…!?」

 

今まで様々な修羅場をくぐってきたヒナやハルナにアカリもその姿に肌が泡立つのを感じる。

 

…が、

 

「うわぁ!爬虫類系の生物なんだぁ!じゃあお肉は鶏肉っぽいのかなぁ!?」

 

ゲテモノ大好きのイズミはその姿を見て味の予想をする。

 

と、そこへあとから追いかけてきていた救急医学部の車両が停車し、

 

「ヒナ委員長に皆さん!」

 

慌ててチナツが降車しヒナとネイトの元に駆け寄る。

 

「チナツ、一体どうなって…!?」

 

「ぐ、偶然イブキちゃんの定期検診に訪れていたマコト議長にデスクローの情報を聞かれてしまい…!」

 

「それでも連絡は…!?」

 

「申し訳ありません…!マコト議長に電話を強奪され…!」

 

「アイツ、やることがめちゃくちゃすぎるだろう…!?」

 

なんだかんだ言って…マコトもゲヘナの生徒だ。

 

まったくもって不良校の生徒らしい行動だ。

 

「お、おそらく目的は…!」

 

「それはいい…!もう全員見当がついてる…!全員、物陰に隠れてるんだ…!」

 

「ネイトさん、マコトは…!」

 

「身体がくっ付いてることを祈るしかない…!」

 

こうなってはもう出たとこ勝負をするしかない。

 

愛用のコンバットアーマーセットを装着したネイトのこの言葉を受けヒナたちも物陰に身を隠し様子を窺う。

 

一方、

 

「おぉっ!!!なんと雄々しい!!!まさに『悪魔』、まさに『死の爪』という名にふさわしい圧倒的な姿!!!」

 

マコトはデスクローの前に立ちそのボルテージは最高峰。

 

「グルルル…。」

 

対するデスクローはというと喉を鳴らしながらマコトを見下ろしている。

 

「フフッ、コイツを我が万魔殿で使役すれば風紀委員会はおろかトリニティの羽付き共もひれ伏すに違いないッ!!!」

 

そう、マコトがここに来た理由は…デスクローを飼うためだ。

 

元より派手で珍しいもの好きで圧倒的な物を好むマコト。

 

そんな彼女からしたら世界に現状たった一匹しかおらず圧倒的威容を誇るデスクローはまさに願ってもない存在だ。

 

「よし、あとはコイツを連れて行くための部隊を連れてくるだけだッ!!!」

 

終始上機嫌なマコトだが…失念している。

 

これが人相手なら利益をちらつかせればどうにかなっただろう。

 

これが調教された猛獣ならまだどうにかなっただろう。

 

だが相手は…

 

「さぁデスクローよ!!!我が万魔殿の軍門に下れ!!!さすれば死ぬまで餌には

困らな…。」

 

一瞬だった。

 

振り抜かれたデスクローの手がマコトの横っ腹を思い切りぶん殴りまるで木の葉のように彼女を吹き飛ばし…

 

ドォンッ!!!

 

はるか離れた廃ビルの壁面に叩きつけられた。

 

「…生きてる…わよね…?」

 

『………。』

 

ヒナのその言葉にネイトとアカリの間に沈黙の空気が流れる中…

 

「死体が出たんですか?」

 

「のぉっ…!?君は…!?」

 

ネイトの脇からヒョコっと顔をのぞかせるセナ。

 

「初めまして、ネイト社長。救急医学部部長の氷室セナというものです。以前は後輩のチナツがお世話になりました。」

 

「…初めまして。その節はどうも。」

 

なんとも含みを感じさせる挨拶を交わしつつ、

 

「議長は私とチナツにお任せください。お三方はあの怪物の対処をお願いします。」

 

救急医学部の部長としてマコトの救護に向かうと申し出てくれた。

 

「…分かった、あのバカは君と火宮チナツに任せる。」

 

このゲヘナの医療従事者なら腕は保証されているのでネイトはセナにマコトを任せ、

 

「それから…これを渡しておこう。」

 

「こちらは?」

 

「俺やアビドス生徒が使っている緊急用の治療薬で『スティムパック』という薬品だ。効果は俺が保証する。」

 

「了解しました。」

 

彼女に『スティムパック』を一本預けた。

 

そして、

 

「さて…それじゃ俺達も始めようか…!」

 

『了解…!』

 

ネイト達はそれぞれの得物に初弾を装填する。

 

「グルルル…。」

 

デスクローは喉を鳴らしながらたった今吹き飛ばしたマコトの元へ向かおうとしている。

 

先程、大好物の肉を食い腹は膨らんだが…まだ足りない。

 

ならば…アレも腹に収めよう、というつもりだろう。

 

その時だ。

 

「フフッお腹いっぱいで油断しましたわね…。」

 

ビルの上からはハルナの得物PSG-1『アイディール』から狙いすました弾丸が放たれ、

 

「今度は私たちのお腹を満たしてくださいね♪」

 

アカリの相棒HK416『ボトムレス』に装着されたM320からグレネード弾を発射。

 

ドシュドシュドシュッ!

 

ズドムッ!!!

 

「ガルァッ!!?」

 

デスクローの左右の膝を銃弾とグレネード弾が襲い掛かり、

 

ボギギィッ!!!

 

ズドォッ!

 

強靭な皮膚の下の骨を破壊、デスクローの巨体が地に沈んだ。

 

「空崎ヒナ、アカリッついて来い!!!」

 

「チャンスね…!」

 

「可食部は多く残さなきゃです!」

 

そこへネイトを筆頭にヒナとアカリが突撃を仕掛ける。

 

今、デスクローは両脚部を破壊されて動けない。

 

セオリー通り、仕留めるにはうってつけのタイミングだがより確実性を求めて接近する。

 

いかにデスクローでも両脚を重症化されては満足に動けず地面で藻掻くだけ…

 

ドォッ!

 

「え…ッ!?」

 

「なん…だと…!?」

 

ネイトたちは信じられないようなものを見るような表情で目の前の光景に釘付けになった。

 

確かにデスクローの足は圧し折られたはずだ。

 

銃撃とあの巨体の体重によって折れた骨が飛び出るほどの重症だったはずだ。

 

だというのに、デスクローは地面に手を付き…

 

「グルゥオオオオオオオッ!!!」

 

足で力強く地を踏みしめこちらを威嚇するように叫んだ。

 

折れたはずの足は…いつの間にか元通り、その巨体を支えられるだけの逞しい姿に戻っていた。

 

「ど、どうしてっ!?」

 

「キヴォトス人でも10日以上はかかる重症のはずですよ!?」

 

これにはキヴォトス人でも規格外のタフネスを誇るヒナや怪我に慣れているアカリですら驚愕する。

 

「まさか…ッ!?」

 

嫌な予感がしたネイトはV.A.T.S.を発動、『Awareness』によってこのデスクローの詳細が分かった。

 

アポステル・デスクロー

〔レベル81 DR300 RR300 PR300〕

 

(アポステル…?聞いたこともない種類だが…!)

 

初めて見る種類のデスクローだがネイトはそのまま脚部に狙いを定めコンバットショットガンを放った。

 

使用弾薬はOOバックショット、8発もの炸裂散弾がデスクローの脚部に食い込み炸裂。

 

ボギィッ!!!

 

再び、デスクローの脚部から鈍い生木が折れたような音が鳴り響き、

 

「グルゥオッ!!?」

 

デスクローの動きは鈍くなり片足を引き摺ってこちらに迫ろうとするが…

 

「ゴルゥアアアアアッ!!!」

 

僅かな間に再び足は元通りになりネイト達に迫る。

 

ネイトの知るデスクローではありえない治癒能力。

 

つまり、これは…

 

「注意しろ!!!こいつは『神秘』で『変異』を起こしている!!!」

 

「そ、そんなの聞いたことありませんよ!?」

 

「あり得ない話じゃない!こいつは外来種、影響を受けててもおかしくないわ!!!」

 

突拍子もない考えだがいま議論している暇はない。

 

生半可な銃撃は効かないと言っていいだろう。

 

さらに、

 

「ガルゥアッ!!!」

 

デスクローは素早く腕を振るい地面を削り飛ばす。

 

舞い上げられた土煙は視界を遮り、

 

バヂヂヂヂッ!

 

「ぐッ…!?」

 

多数の礫が高速で飛来しヒナに襲い掛かった。

 

頑丈な彼女には傷こそつかないがそれでも痛いものは痛い。

 

「この…ッ!」

 

お返しにと言わんばかりに『終幕:デストロイヤー』を発砲するがその巨体に見合わぬ敏捷さでその弾幕の大半を回避。

 

「イズミさん、ハルナ!!!支援を!!!」

 

ボトムレスを放ちつつアカリが後方のイズミとハルナに支援要請。

 

放たれる5.56㎜NATO弾はデスクローに命中するもわずかに出血するばかりで効いているようには見えない。

 

「承知しましたわ…!さぁ、準備はよろしくって…!?」

 

アカリからの要請を受けハルナが『アイディール』でデスクローの腹部をめがけ狙撃を仕掛け、

 

「活きがいいのは良い事だねぇ~!でもちょっと大人しくしてくれないかなぁ!」

 

イズミの得物であるMG3『デイリーカトラリー』が脚部目掛けて火を噴く。

 

さすがに大口径ライフル弾な上に対装甲用の徹甲弾。

 

先程よりも明確なダメージを刻めるが…

 

「ガアアアアアアアッ!!!」

 

「この…!そんなに暴れられては…!」

 

「もう、動かないでよー!」

 

やはりその敏捷性は脅威と言わざるを得ず急所をカバーし先程の様に重症を負わせるには至らない。

 

そして、デスクローが真っ先に狙ったのは…

 

「ゴォアッ!!!」

 

「ちぃ、俺かよ!!!」

 

一目散にネイトへと飛び掛かる。

 

無論、ネイトも好き勝手やられるわけでなくデスクローに散弾を浴びせるが…

 

「ガアアアアアアアッ!!!」

 

「お構いなしかよ…?!」

 

顔面や足に炸裂散弾を受けようと意に介さずデスクローの突進は止まらない。

 

(生半可な一撃は即時回復…!重症化しても俺が知るよりもはるかに高速に治癒…!)

 

自分が知るデスクローとは明らかな違いにネイトは戦術の再構築を余儀なくされる。

 

(仕留めるには…即死に至らしめるだけのダメージを…!)

 

そして、チャンバーのシェルを排莢しある弾丸を一発直接装填し…

 

「シャアッ!!!」

 

「ネイトさんっ!?」

 

なんとデスクロー目掛けダッシュしていくではないか。

 

あっという間に詰まる両者の間合い。

 

そして、

 

「ガアアアアアアアッ!!!」

 

デスクローが自らの射程内にネイトが入った瞬間に必殺の腕を横薙ぎに振るった。

 

鉄をも容易に引き裂く必殺の爪もそうだが大重量を持って振るわれる腕そのものもネイトの命を刈り取るに十二分な凶器だ。

 

だが、

 

「Hell yeah!」

 

ネイトはこの行動を読んでいた。

 

当然だ。

 

今まで何頭、デスクローを仕留めてきたか。

 

その習性やこちらの行動への本能的行動は全て頭の中にインプットしている。

 

ネイトはその腕を躱すように身をかがめスライディング、

 

「Take thisッ!!!」

 

そのままデスクローの股下を通り過ぎる間際にコンバットショットガンをデスクローの腹部に発砲。

 

装填していたのは…12ゲージスラッグ弾。

 

放たれた一粒弾は柔らかな腹部の皮膚を貫通。

 

一拍子の間、ネイトがデスクローを潜り抜け切った瞬間、

 

ズドムッ!!!

 

「~ッ!!?」

 

その巨体がわずかに浮き上がるほどの爆発がデスクローを襲った。

 

コンバットショットガンは使用した弾薬によって爆発の特性が変わる。

 

バードショットは貫通力皆無ながらも広範囲への爆発による制圧、バックショットはある程度の貫通力と単発ごとの爆発力増加などがある。

 

そしてスラッグ弾は…グレネード弾の爆発力を持つ『徹甲榴弾』ともいうべき威力になる。

 

「大丈夫、ネイトさん…ッ!?」

 

「気にするな、警戒しろ!!!」

 

駆け寄ってきたヒナに無事を伝えつつもネイトは警戒を怠らず起き上がるや否やすぐさまデスクローに向き直る。

 

「ゴアアアア…ッ!」

 

弱点の腹部への大爆発を伴った一撃にデスクローも大ダメージを負ったかすぐに立ち上がれないようだ。

 

地面には大量の血が溢れ赤く染めていく。

 

…それでも、

 

「ゴルォ…ゴォルアアアアアアアアアッ!!!」

 

『ッ!!?』

 

あれだけの重傷を負ってもなお…デスクローは立ち上がった。

 

その目に怒りを燃やし、ネイトとヒナに向き直った。

 

「なんて生命力なの…!?」

 

これにはさすがのヒナも絶句する。

 

見ると傷は徐々にふさがりつつあった。

 

「ゴアアアアッ!」

 

燃え盛る怒りそのままにデスクローは再びネイト達に襲い掛かろうとする。

 

「悪いが…『勝負』はもう終わりだ。」

 

その声は冷酷だった。

 

ネイトは腰から『パイプピストル』を引き抜き、デスクローに38口径弾の弾幕を浴びせる。

 

デスクローの皮膚相手では殆どダメージにはならないほど小さな弾頭だ。

 

現にデスクローの突進の勢いは一向に衰えない。

 

だが、

 

ボギィッ!!!

 

「え…!?」

 

「ギィアッ!?」

 

再び鳴り響くデスクローの足の骨が折れる音。

 

弾丸はろくにダメージを与えていない上そもそも足に命中すらしていない。

 

しかし、

 

ベキィッ!!!

 

間を置かずにもう片方の足も圧し折れ地面に倒れ伏した。

 

「…空崎ヒナ、止めを頼む。」

 

ネイトは発射方式を単発に切り替え38口径弾をデスクローに浴びせ続ける。

 

「ゴアアア…ッ!」

 

再び立ち上がろうとするデスクローだが…

 

ベキィッ!!!

 

「ギィヤッ?!」

 

再び骨が折れる音が鳴り響き地面に沈む。

 

「…なるほど、そう言う効果…ね。」

 

この光景を見てヒナも察する。

 

(どこに当たろうとダメージがなかろうと一定確率で足に重傷を与える…。キヴォトス人相手だとしてもなんて恐ろしい効果なのかしら…。)

 

そう、このパイプピストルに付与された効果こそヒナが予測した通りの物。

 

その名も…『膝砕き』。

 

20%の確率で標的の脚部を破壊し機動力を奪うというサポートに特化した効果だ。

 

ハンドガンのカテゴリーの中では圧倒的な装弾数を誇るパイプピストル。

 

しかも弾丸の入手性も高く反動も低い連射するにはもってこいの弾種である。

 

ヒナが思うようにキヴォトス人にこれを使おうものなら…戦場は悲惨なものになるだろう。

 

5分の1の確率で足を圧し折ってくる弾丸がばら撒かれるなどヒナであっても食らいたくはない。

 

今回は事態が事態のために持ち出してきたのだろう。

 

「…さて。」

 

そんなゾッとしない考えを振り払うようにヒナは終幕:デストロイヤーを持ちデスクローへ近づく。

 

治るたびに足を圧し折られデスクローも反撃できない中…

 

「ごめんなさいね…。」

 

ヒナは一言デスクローに詫び…

 

「アナタに恨みはないけど…ゲヘナの安全のためには仕方ないの…。」

 

愛銃に神秘を込め…

 

グボッ!

 

「ゴグァッ!?」

 

銃口をデスクローの口に押し込み、

 

「おやすみなさい…。…『イシュ・ボシェテ』…!」

 

必殺の一撃を放つのであった。

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

しばらくし、ゲヘナ学園の厨房にて…

 

ジュ~…!

 

「設備を導入しておいてよかったなぁ…。」

 

そこではコック服を着こんだネイトが鉄板一面に並べられた肉の前に立っていた。

 

並べられているのは…もちろんデスクローの肉だ。

 

それもデスクローに見合ったこれまた大きな『ヒレ肉』と呼ばれる部位だ。

 

それをある一定の厚さで切り分け塩コショウで下味をつけ焼いているところだ。

 

「さてそろそろひっくり返すか。」

 

「承知しました、マスター。」

 

「ッとその前に…。」

 

ネイトが食堂の方へ目線を向けると…

 

『………。』

 

「…なぁ、あんまり見られすぎると集中できないんだが…。」

 

アビドス生徒やフウカやジュリに美食研究会は元より今回駆除作戦に参加した風紀委員会が食い入るようにネイトの調理風景を見つめていた。

 

「いえいえ、お気になさらずに。私達は楽しんでますわ。」

 

「こうやって未知の食材を調理されてるのを観るのも飽きないものですよ♡」

 

「うんうん!どんな味なのかなぁって想像するとワクワクが止まんないよ!」

 

「それに男の人が料理するところってなかなか見れないものだもん!」

 

と一流の料理人を知る美食研究会でもその調理風景を楽し気に、

 

「あの怪物をあれほどまで見事に食材に変身させるなんて…。」

 

「くっ悔しいですが見ていると食欲をそそられますね…!」

 

「一体何作ってるんだろう…!私見たこともない料理なんだけど…!」

 

「凄く手際がいいですね…。それに解体の時もよどみない手つき…。」

 

ヒナやアコにイオリにチナツは興味深そうに、

 

「ふむふむ…あんな感じに焼くのね…!」

 

「見たことない料理は勉強になりますね…!」

 

フウカとジュリはネイトの調理過程を一挙手一投足見逃さずメモを取っている。

 

確かにこのキヴォトスでネイトのような大人自体稀でそんな大人が厨房に立ち料理を作っているとあれば興味津々なのも無理はないだろう。

 

「…まぁ楽しいならそれでいいんだが…。」

 

そんな生徒たちの言葉を聞きつつネイトはあるボトルを取り出し…

 

ブジュウウウウ…ッ!

 

その中身を鉄板に置かれた肉たちに満遍なく振りかけていき…

 

ボォウッ!!!

 

『ッ!!?』

 

立ち上る湯気に火を近づけると炎が立ち上った。

 

「そ、それって!?」

 

「ん?あぁ、フランベさ。これで肉が香り高くなる。」

 

とネイトは調理過程を語るが…

 

「そうじゃなくってさっきの液体は!?」

 

と目をひん剥いたアコが問うも…

 

「コーンの蒸留ジュースさ。…ちょっと可燃物質入っているけど。」

 

ネイトは液体の正体を誤魔化した。

 

「いや、それって明らかにおさ…。」

 

「コーンの蒸留ジュースです。」

 

「誤魔化さないでください!ジュースが燃えるわけ…!」

 

「可燃性なんだよ。」

 

「いやだからそれがおさ…!」

 

なおも食い下がるアコだが…

 

「まぁまぁアコさん!ネイトさんがそうおっしゃってるのですからいいではありませんの!」

 

「むぐッ!?」

 

ハルナがそんな彼女の口をふさいだ。

 

「さぁネイトさん!コーンジュースでもブドウジュースでもお好きに使いになった調理を進めてくださいな!」

 

「あ、可燃物質は全てとばしてくれると助かります♪」

 

「んンんんんんー!?」

 

さらにアカリも加わりアコを簀巻きにしてネイトに調理を促す。

 

「えぇっと…委員長。いいの…?」

 

「………アレを私たちが飲まなければ正体は分からないわ。だから、あれはコーンジュースってことにしておきましょう。」

 

「了解。ネイトさん、ゴー。」

 

「…分かった。」

 

ヒナからもお許しが出たことで調理を進めるネイト。

 

「まさか私たち抜きで調理しているのって…。」

 

「確かにアレを使うお料理では私達は参加できませんもんね。」

 

フウカとジュリはネイトの対応に納得しつつメモを書き続けていた。

 

「まさかこんな場所でこのような料理を頂けるとは…!」

 

「なんという僥倖…!この味を刻みつけなくては…!」

 

「どんな高級店でもほとんど私達は味わえないのに…!」

 

「ホント今日は頑張ってよかったわ…!」

 

美食研究会もネイトの料理への期待に胸を膨らませている。

 

そう、学生が多いキヴォトス。

 

『可燃物質』が含められた飲料は非常に制限されておりなかなか味わえる機会はない。

 

フウカですら料理酒の使用を制限されるほどだ。

 

そんなキヴォトスで…これほどまで大々的に『可燃物質』が含まれた飲料を用いた料理はそうそう味わえない。

 

ハルナたちが興奮するのも無理はない。

 

その後、ミディアムくらいまで焼き進めて肉を上げて休めているうちに、

 

「今度は赤ワ…ブドウジュースを使ってソースを作って…。」

 

これまた別のボトルを取り出し赤いブドウジュースやらで肉汁と共にソースや…

 

「マスター、テールの灰汁抜きと他の食材の下拵えが終わりました。」

 

「よし、圧力鍋に全部入れてくれ。」

 

これまたデスクローからとってきたテール肉やら食材や調味料を大型の圧力鍋に入れ…

 

「隠し味にブドウジュースをたっぷりと…。」

 

その量に見合っただけのブドウジュースを注ぎ味を調える。

 

肉が冷めそこにマスタードを塗り…

 

「うん、いい出来だ。フウカ、良いデュクセルだぞ。」

 

「ほぉよかったです。」

 

あらかじめフウカに作ってもらっていた『デュクセルキノコのバターソテーソース』で包み…

 

「いやぁ、ジュンコ。本当にお手柄だぞ。」

 

「ふふ~ん!どんなもんよ!」

 

「ダチョウ…いいえ、それを優に超える大きさですわね…!」

 

ネイトの予想通り、デスクローは巣を作っておりそこから回収された巨大な『デスクローの卵』…合計3個が手に入った。

 

そのうち二個を使いクレープ生地を焼き、それでデュクセルで包んだデスクローのヒレ肉を包んだものをパイ生地で飾り付け温めたオーブンに入れ焼きあがるのを待つ間に…

 

「ほらジュンコ、約束の…『デスクローオムレツ』だ。…大きいから皆で分けることをお勧めする。」

 

残りのデスクローの卵を使いジュンコに約束のオムレツを作った。

 

なにせ一抱えはあるような卵だ。

 

オムレツもそれに似合った大きさでとても小柄なジュンコが完食できるサイズではない。

 

「…ジュンコさん。お手伝いいたしましょうかぁ?」

 

「なんでしたら私一人でも…。」

 

「こんなにいっぱいあるんだから少しくらいちょうだい~!」

 

「…私も少し貰ってもいいかしら?」

 

「私達にも少しちょうだい、ジュンコ。」

 

「…分かったわよ。」

 

ということで他の美食研究会のメンバーや怖いもの見たさのヒナたちにフウカ達にもおすそ分けすることに。

 

『いただきます…!』

 

ネイトがしっかり調理しているがやはり未知の生物の卵。

 

一瞬、ためらいながらも口に含むと…

 

「~!お、美味しい…!」

 

「なんて濃厚なんでしょう…!?お出汁もないのに茶碗蒸しを彷彿とさせますわ…!」

 

「ふわふわとした触感…!シフォンケーキかと思いました…?!」

 

「こんなオムレツ初めて~…!あんな怖い生き物の卵だなんて思えないよ~…♬」

 

「全く大味じゃない…!?」

 

「こんな卵、初めて食べたわ…!」

 

「ん~…ほっぺたが落ちそうです~…♪」

 

せいぜい塩コショウくらいしか味付けの無いプレーンオムレツなのになにも掛けなくても卵の味だけで舌の肥えた美食研究会すら唸るほどの味だったようだ。

 

一口食べれば不安はどこへやら。

 

あれだけ巨大だったデスクローのオムレツはあっという間に生徒たちの胃袋に収まるのであった。

 

(まぁ、連邦でも死人が出ようと欲しがる奴がいた高級食材だからなぁ。)

 

遠い過去を思い出しネイトも懐かしい気持ちになった。

 

だが…本番はこのオムレツではない。

 

しばし後…

 

「あいよお待ち。『デスクローウェリントン』に『デスクローテールシチュー』だ。」

 

『おぉ~…!』

 

参加した生徒たちの前に完成したデスクロー料理が並べられた。

 

まるで高級レストランを彷彿とさせる豪華な料理に多くの生徒達が生唾を飲んだ。

 

「いやぁ、俺も久々に作ったから味の保証はできないが…食べてくれ。」

 

「それでは改めまして…!」

 

『いただきます!!!』

 

先程のオムレツでデスクローの食材としてのポテンシャルの高さは十分わかった。

 

一切の躊躇なく切り分けて頬張ると…

 

「………あぁ…こんなお肉があったんですの…!?」

 

「まるで高級鶏肉みたいなプリプリとした触感…!」

 

「でも味は牛肉みたいに濃厚…!」

 

「これがあのめちゃくちゃ怖い怪物のお肉なの…!?」

 

デスクローウェリントンを食べ、その美味しさに美食研究会は茫然とし…

 

「…このテールシチューも凄くおいしいわ…!」

 

「食べれば食べるほどなんというか…力が湧いて来るみたいだ…!」

 

「それになんだか疲れも和らいでくるような…!」

 

「一体どんな成分が…!?こんなに美味しさと栄養素を兼ね備えた食材が…!?」

 

テールシチューを食べたヒナたちは味もさることながらその滋養強壮効果に目を見開き、

 

「これが…大人の料理…!」

 

「いつか私もこんな料理を…!」

 

フウカとジュリは自分達では作れない料理に将来の目標を見るのであった。

 

「フム…クラフトであっさり作るのもいいが…こうやって一から作るのも悪くないな。」

 

ネイトもしみじみと自分が作ったデスクロー料理に舌鼓を打つ。

 

懐かしい連邦の味、経緯はどうであれ懐かしさをかみしめていた。

 

(それはそれとして…絶対問い詰めてやる。)

 

と決心を固めていると…

 

「あっそうだ。空崎ヒナ。」

 

「んむ?なにかしら?」

 

「これを。今日の礼だ。」

 

思い出したようにネイトはPip-Boyから取り出したそれをヒナに差し出した。

 

それは…

 

「で、デスクローの爪…!?」

 

「ちょ、そんな危なっかしいのをヒナ委員長に!?」

 

「うわ、なんていかつい武器なんだ…!?」

 

「『デスクローガントレット』、奴の爪を使った近接武器だ。爪も追加装着して武装解除性能を追加しておいたぞ。」

 

デスクローの爪を取り付けたなんともシンプルな格闘武器『デスクローガントレット』である。

 

連邦でもデスクローを討ち取った象徴として強者が身に着けていたりもしていた。

 

「アイツにとどめを刺したのは空崎ヒナだ。君ならこれも十全に使えるだろう。」

 

「………ありがとう、受け取らせてもらうわ。」

 

ヒナもネイトの信頼を聞きデスクローガントレットを受け取ってくれた。

 

「…意外とずっしりするのね。」

 

「サイズはぴったりのようだな。」

 

早速腕に付けてみるとシンプルなフォルムながらしっかりと伝わる重量感。

 

あのデスクローの名を示す正に『命を刈り取る』という意思を死してなおヒナは感じた。

 

すると…

 

「………。」

 

何を思ったか、普段『終幕:デストロイヤー』に神秘の力を込めるようにデスクローガントレットに神秘を込めるヒナ。

 

次の瞬間、

 

ヴォン

 

「ッ?!い、色が…!?」

 

「これはこれは…俺も初めて見たな…?!」

 

まるで彼女のヘイローのような黒と発光する紫色にデスクローガントレットが変化した。

 

「…どうやらあのデスクローは空崎ヒナを主と認めたようだな。」

 

「…フフッネイトさんの所の子達が近接武器を持つ気持ちが分かったわ。振るうのが楽しみね…。」

 

自分色に染まったデスクローガントレットを見てどこかうっとりした表情を浮かべるヒナなのであった。

 

一方、ちょうどその頃…

 

「これは…一体どこで手に入れられたのでしょうか…?」

 

救急医学部の一室でセナはある物をまじまじと見つめていた。

 

それは…ネイトが渡してきた『スティムパック』が入っていた注射器だ。

 

あの時、マコトは体が曲がってはいけない方向に曲がるほどの重症だった。

 

すぐに搬送しなければ非常に拙い状態だったが…

 

「投与して即座に骨格の復元と怪我の治癒…。聞いたこともない効能です…。」

 

一たびこれを注射したら瞬く間に怪我は治癒し余裕をもって搬送することが出来た。

 

薬品に精通しているセナ自身、これほどまで強力な薬品は見たことがない。

 

しかも…

 

「投与後の副作用と言えば疲労感と喉の渇き…おそらく代謝を猛烈に上げたために起こった反応のみ…。」

 

効果から考えるととんでもない副作用の無さだ。

 

「…どうにか救急医学部でも導入できないですかね。」

 

既に空になった注射器を見つめそう呟くセナであった。

 

ちなみに…

 

「………~ッ!!!」

 

「全く…ネイト社長が出張ってるんなら危険なことは分かるでしょう…。」

 

「むーっむぅむむーッ!!!」

 

「はいはい、治るまでは安静にしてましょうね。それから今回ばっかりは先輩が悪いので風紀委員会への苦情は止めてくださいね。」

 

ベッドに寝かせられ包帯でぐるぐる巻きにされたマコトが見舞いという名のサボりに来たイロハにお見舞いのリンゴを盗み食いされているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、夢の中にて

 

「ひっ久しぶりですね、ネイトさん!」

 

「………。」

 

これでもかと冷汗をかいているユメと無表情のネイトが対面していた。

 

「そ、その!故郷の懐かしい味は楽しんでくれましたよね?!」

 

と言葉を重ねていくユメだが…

 

「正座。」

 

「………え?」

 

ただ一言、ネイトはそう言い放った。

 

「あっあのネイトさん…?お、怒って…ます…?」

 

「怒ってない。一先ず…正座。」

 

「怒ってますよね、それ!?本当にごめんなさい、ホントのホントに事故だったんで…!」

 

となんとかネイトを落ち着かせようと奮闘するも

 

ガシッ!!!

 

「いいから正座。」

 

「………はい…。」

 

ネイトにアイアンクローを決められ逃げ切るのは無理だと判断しユメは大人しくその場に正座するのであった。

 

その後、説教は一晩中続いたという。




『開幕:スラッシャー』
ヒナの神秘の影響で変質したユニークデスクローガントレット
攻撃時、一定確率で敵に爆発の追加ダメージを与える

(………書いてて思ったけどヒナの髪も相まって絵面が快傑ライオン丸の『ライオン飛行斬り』だなぁ…。)
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