―――作家『ルチアーノ・デ・クレッセンゾ』
「う~ん…どうした物かしらねぇ…。」
ある日のミレニアム、ユウカは頭を捻っていた。
先日のビナー討伐作戦『Operation: Returning Pequod』を受けさらに深まったネイトの謎。
それを解き明かす策を考えているのだが…
「あぁ~…ほんっとうに相手にしずらいわ~…。」
何分相手はネイトだ。
おそらく過去最高難度の交渉相手な上…
「なにがあの人のメリットになってこちらの要求を受け入れてもらえるか…。」
一切、彼の行動のパターン化ができていないという問題もある。
行動一つ一つは脈絡がなさそうなことばかりだ。
最近のゲヘナでの様々な取引の情報も傍から見れば『なにが目的か』が分からないが…
「エンジニア部への『大型工業用コンポスター』の設計図の発注と新素材開発部にバイオフレークの定期購入契約…。」
そこでミレニアムと最近交わした発注や取引を組み合わせれば…
「ゲヘナには現在大規模農園を余裕で賄える規模の堆肥工場が稼働中と…。」
アビドス復興事業の重要な事業と早変わりだ。
例えるならモザイク画、一つ一つの材料では何が目的か不明だが組み合わさることによりアビドスの復興につながる。
「………はぁ~…モモイ達が撮ってきた防砂林の写真も全く訳が分からないしどうなってるのよ…。」
しかも、アビドス復興事業自体はもう動き出している。
その援助を…と申し出ようとも思ったがこれまた未知の技術で砂漠にポプラ並木の防砂林をどんどん構築中。
さらにはセイント・ネフティス社ともパートナーシップ協定を結び資材に関しても十全な供給体制を整えている。
正直…ミレニアムが食い込む余地がまるで見当たらない。
せいぜい、一部の部活に対し機材の設計を依頼するくらいである。
こんな状況でどうやってネイトがこちらの要求を飲んでもらうに足りるリターンを提示すればいいか…。
「それさえ…それさえ何とか出来れば…。」
と優秀な頭脳をフル回転で考えるユウカだが…
「………ユウカちゃん、少し休憩してみてはどうですか?」
「ノア…。」
傍らにいたノアが彼女に息抜きを提案してきた。
「業務も手を抜かずにネイト社長のことを考えていてはいいアイデアは浮かびませんよ?」
「でも…。」
「何事も余裕は大切です。ネイト社長との関係は良好なんですからじっくり考えて行きましょう。」
「…そうね。ちょっと根詰めすぎちゃってたわ。」
彼女の言葉に苦笑しながらユウカも休憩することに。
「ん~…あぁ~頭が少し重いわね…。」
「フフッ、今コーヒーを淹れてきますね♪」
「ありがとう、ノア。」
コーヒーを淹れるためにノアがいったん離席する。
「少し思い詰めすぎちゃってたみたいね…。踏み込みすぎるのは私の悪い癖ってネイト社長にも言われてたっけ…。」
無意識のうちに焦りを覚えていたのだろう。
そうだ、ノアの言う通り焦ることはない。
ミレニアムとW.G.T.C.やアビドスの関係は良好だ。
なにより同様に良好な関係のゲヘナにはないアドバンテージもある。
と、その時、
コンコンコンッ
「うん?はい、どうぞ~。」
執務室の入り口からノック音が響きユウカが入室を促すと…
「アリス、失礼します!」
「あら、アリスちゃん。いらっしゃい。」
扉を開けてアリスが元気よく入室してきた。
「今日はどういったご用件かしら?」
幸い、現在は休憩中なので対応する余裕があり笑顔でアリスを迎えるユウカ。
用件を尋ねると、
「はい!アリスは現在『調査クエスト』の真っ最中なのです!」
「調査?いったい何を調べているのかしら?」
珍しくゲーム以外の話題にユウカも食いついた。
ここはミレニアム、様々な調査やデータ収集が行われるのは日常茶飯事だ。
そして、その行いはセミナーにとっても好ましいもの。
「私でよければ協力するわよ。」
ユウカも笑顔でアリスの調査に付き合うことにする。
「本当ですか!ではユウカ、少し立ってはもらえませんか?」
「これでいいかしら?」
ほんの軽い気持ちだった。
満面の笑みのアリスに促されてユウカは席から立った。
「じゃあ行きますよ~…!」
ほんの微笑ましい頼みだと思った。
満面の笑みのままアリスはトテトテと近づき…
「エイッ!」
ギュウ~…
「…ぇ?」
ユウカに抱き着いた。
ミレニアムでも優れた頭脳と分析力を持つユウカ。
そんなユウカが…
「んふ~…♬」
(え、今私アリスちゃんに抱き着かれているわよね?なんで?調査って一体何なの?これは一体何かのデータになるの?何かゲームの取材的な?でもなんで抱き着かれてるのかしら?うわぁアリスちゃんの体温かいしいい匂い。髪もサラサラでどんな整髪剤使ってるのかしら?ネイト社長はいつもこんな感触を独り占めしてるの?ずるい、ずるいわ。こんなの独占禁止法に抵触するわ。これ抱きしめ返してもいいのかしら?あとでお金とか請求されないかしら?でも良いわよね?だってこんな可愛いアリスちゃんが抱きしめてきたらもう神様だって逆らえなななななななななな。)
この状況を分析しきれずバグった。
しかし、体は欲求に素直なのか…
ギュッ
アリスを抱きしめ返すのであった。
「あ…アのあリスちゃン。こレは一体ナんの調査ナのカしラ…?」
なんとか意識をつなぎ留めアリスにこのハグの真意を尋ねると…
「はい!アリスは今『ママ』になってくれる人を探しているのです!」
元気にこのハグ…もとい調査の目的を答えた。
「マ…ま…?」
「はい!ユウカは上位ランクのスコアです!ではアリスはクエストの続きに向います!協力ありがとうございました、ユウカ!」
脳内がさらにショートしたユウカから離れアリスはセミナーの執務室から出ていった。
「マ…ま…?」
そのまま固まっていると…
「あらユウカちゃん?固まってどうしたんですか?」
コーヒーとお菓子を持ってノアが戻ってきた。
立ったまま何やら手を回してそこから何かがいなくなったかのようなポーズのユウカに声をかけると…
「………ノア。」
「はっはい?」
「…私、記憶になイけド…アりスチゃんを産んダんだわ…。」
「………え?」
あまりにもぶっ飛んだ回答にノアも固まってしまった。
さて、一撃でユウカをバグらせたアリスだが…
「さて、次はエンジニア部へ行ってみましょう!」
調査クエストはまだまだ続くようだ。
なぜこんなセミナーへのテロ染みたことをやっているかというと少し前のこと…
DRAGON TEST V
Bride in the Sky
END
THANK YOU FOR PLAYING
「やっとクリアできたね、アリス!」
「はい…最後までプレイしてみてよかったです…。」
ゲーム開発部の部室でアリスとモモイはあるゲームのエンディングを見ていた。
それは…アリスのお気に入りのRPGゲームである『ドラゴンテストⅤ 大空の新婦』である。
以前話していた展開後からなかなか進めないでいたがネイトと親子になれたことにより踏ん切りがつき最後までプレイし今日エンディングまでこぎつけることが出来た。
「どうだった?この作品ってこのシリーズでもかなり人気があるほうだけど…。」
「はい!三世代にわたって続く出会いや別れ…!そしてそれを乗り越えて冒険を続けていく主人公の姿がとってもカッコよかったです!」
やはりストーリーそのものはアリスの大好きな王道の冒険もの。
そこに親子の絆も組み合わさり一層楽しめたようだ。
が、
「でも、モモイ。アリスには少し分からないことがありました。」
アリスにはまだ『理解』出来ないことがあった。
「なになに?」
「なぜ主人公は一緒にいる人を一人しか選べないのですか?」
「………あぁ~。」
この『ドラゴンテストⅤ 大空の新婦』、このシリーズ初のある『システム』が導入されたことも人気の一つである。
その一つというのが…『結婚』である。
それもただ結婚するだけでなくちゃんと次世代へとつなぐことが出来る。
アリスにはまだふんわりとしかそのあたりが理解できていなかった。
「うぅ~んとね~…。」
さて、どう説明したらいいかと悩むモモイ。
アリスならすぐに検索して意味その物は学べるだろうがこれはそういうものではない。
しかも彼女は特殊な身の上だ。
少し頭を捻り…
「人はね、どんなことがあってもこの人と『離れたくない』っていうお互いに思える人がいるはずなんだよね。好きなことも嫌な部分も受け入れて一緒に歩いていきたいって人がね。」
「ふむふむ…。」
「それは絶対一人しか選んじゃいけないんだよ。もし、片方がもう一人とか選んじゃうとそれはその人を裏切っちゃうことになるから。」
「それは…アリスも悲しいです。」
「でしょ?だから、ゲームの中でも一人しか選べないんだよ。」
とアリスでも理解できるようにだいぶかみ砕いた説明をするモモイ。
「つまり…アリスでいうと『ママ』という存在がそれに当てはまるのですか?」
「そう!アリスのママがこのゲームでいう主人公と結婚できるキャラってことだね!」
アリスも理解してくれたようだが…
「では…アリスの『ママ』はどうやって見つけたらいいのですか?」
「うぐッ…!」
これまた難題をモモイに投げかけてきた。
アリスに血縁と呼べる存在はいない。
そこで『ママ』を探すとなると…
「そ、それは私には分からないけど…アリスはどうしてネイトさんに『パパ』になってもらいたかったの?」
正直モモイには手が余る問題だ。
話題をそらすためにアリスに質問を返すと…
「安心できるからです。パパと一緒にいるとアリスの気持ちが温かくなって抱きしめられるともっと温かくなります。」
アリスのネイトへの想いを聞き、
「っそうだよ!それだよ、アリス!」
この問題の突破口を見つけ出した。
「それとは?」
「包容力!やっぱり包容力がある人がそう言う人にふさわしいと思うよ!」
正直苦しい答えだと思った。
包容力などという曖昧な要素一つで決められることではない上アリスのままとなるということは当然…。
「ほら、アリスだってネイトさんに抱きしめられるとあったかい気持ちになるんでしょ?!やっぱりそういう相性の良さが大事なんじゃないかな、うんうん!」
が、
「包容力…!分かりました!」
我が意を得たりといった様子でアリスは元気に立ち上がり…
「アリス、調査クエストに行ってきます!」
一目散に部室の外に駆け出していく。
一人残されたモモイはというと…
「………あれ?ひょっとして私…とんでもない事やっちゃった?」
ようやく事の次第の大きさに気付き呆然とし…
「あれ、アリスちゃんお出かけ・・・ってキャッ!?なに、どうかしたの!?」
「調査クエストです♪ミドリとハグするのも気持ちいいです♪」
「そ、そう?わ、私もアリスちゃんとハグするの…。」
ちょうど外から今しがた飛び出していったアリスとミドリの声が聞こえてきたのであった。
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―――
その後もアリスは…
「ウタハ先輩!アリスとハグしてください!」
「ん?どうかしたのかい…って。フフッ急に抱きしめられると恥ずかしいじゃないか。」
「ウタハ先輩も抱きしめてください!」
「構わないが…ふむ、これはなんとも興味深い感じだ。」
「なにしてるの、部長にアリス?」
「説明しましょう!ハグには脳内で「オキシトシン」や「β-エンドルフィン」といったホルモンを分泌させる作用があり幸福感や安心感だけでなく…。」
「あ、ヒビキにコトリ!二人もアリスとハグをしましょう!」
「え、えぇっと…///。」
「め、面と向かって求められると恥ずかしいですね…///。」
「やってみるといい。いい気分転換になるよ。」
エンジニア部や、
「あぁ~…なんだか癒される~…。」
「ハレ先輩、お疲れですか?」
「うん、ちょっと徹夜でね…。でも、アリスのおかげでかなり楽になったよ…。」
「…アリスさん、次は私とハグをしてもらえませんか?」
「ダメ、コタマ先輩。もっとアリスを堪能させて…。」
「ずるいですよ、ハレさん。エナドリ上げるからそこを…。」
「アハハッモテモテだね、アリス!あとで私ともハグしよ~♬」
「………何やってんの、アリスにアンタたち?」
「あっお邪魔してます、チヒロ先輩!先輩もあとでハグをしましょう!」
ヴェリタス、
「どうですか、アリス?この『思わず抱き上げたくなるような薄幸病弱憧れの美少女』をハグした感想は?」
「…なんだか初めての感覚を感じています、ヒマリ先輩。」
「フフッ、そうでしょうそうでしょう!このような抱き心地は世界広しと言えど…。」
「たぶん、部長が細いのとお年寄り染みてるからそう感じてるだけだと思うよ?」
「黙らっしゃい、エイミ!!!」
「アリス、私のハグの心地も確かめてみない?」
「はい!…エイミはなんだかお日様を浴びたお布団のような感じです!」
特異現象捜査部、
「むふ~アスナ先輩はなんだかとっても楽しい感覚です~…。」
「えへへ~アリスちゃんも抱きしめてるとなんだかとっても癒されるなぁ~♪」
「あらあらなんだか先輩が甘えん坊の妹みたいですね。」
「というより…私にはなんだか大きな犬に見えるな…。」
「けっ何が楽しいのかさっぱり分かんねぇなぁ…ってチビ、いきなり抱き着くな!」
「おぉ!ネル先輩はとってもアリスとフィットしている気がしますよ!」
「んだとテメェッ!!?理由によっちゃこのまま圧し折っちまうぞ!?」
C&C…といった感じでミレニアムの様々な部活を渡り歩きそこの部員たちとハグを交わしていった。
アリスの天真爛漫なお願いとあって大半の生徒は快く聞き入れてくれたが…
「はい!アリスは『ママ』を探す『調査クエスト』をしています!」
このハグの理由を聞くと…
(えぇっと…アリスのママ?いま彼女はそう言ったんだよね?それはつまりアリスの母親…。アリスのママ…つまりそれは…。)
(う~ん…っと…アリスはネイトさんの娘で…そんなアリスが自分のママを探しているということは…。)
(こ、これは一体どう説明すればいいのでしょうか…!?わ、私の今の解説力では到底…!)
エンジニア部も、
(アリスはネイトさんが大好きで…それはデータとしてほぼ完ぺきに証明されてるから…。)
(こ、こんなの私の盗聴データにはありませんでした…!まさか…これはアリスさんを通じて…!?)
(そ、そんなのちっとも考えたことなかったんだけど…!わ、私にはまだ早いよー…ッ!?)
(ちょ、ちょっとそれは…まだ私直にネイトさんに会ったこともないし…!)
ヴェリタスも、
(こ、この『誰もが認めるミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカー』とあのネイトさんの娘さんの…!?これはおそらくキヴォトス史上最高の…!)
特異現象捜査部も、
(あ、アリスちゃんは自分の発言の意味を理解しているのでしょうか…?!で、でも私には先生という…!)
(そ、そう言うのはもっと段階を踏んだ方が…?!で、でもネイトさんってきっと…!)
(はぁ!?こいつ、自分が何言ってんのか分かってんのか!?あ、あたしとダンナが…ってことなんだぞ!?)
C&Cの面々も脳がフリーズした。
そんな中、
「う~ん…ちょっと私は考えさせてもらおうかなぁ?」
エイミは何やら引っかかるものを感じ、
「わぁ~!それってとっても素敵だね!いい人が見つかったらアスナにも教えてね~♪」
アスナはあまり深く考えず普段通りに返すことが出来たのだった。
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―――
そんなアリスのクエスト発生から数日後…
「いやぁ初めて来たけどやっぱ進んでるねぇ。」
「お上り感満載だぞ、ホシノ。」
この日、ネイトはホシノを連れ立ってミレニアムを訪れていた。
「ねぇ~ちょっとその辺見て回らなぁい?」
「おいおい、今日はセミナーにこの前の協力の礼を伝えに来たんだろ?」
そう、この日は珍しく生徒会長らしい目的のためホシノはここにやってきたのだ。
が、それにしてはずいぶん気が抜けている彼女にネイトも苦笑を浮かべるも、
「ま~ま~そう硬い事ばっかりはいいっこなしだよ~。」
「全く…まぁ余裕を持ってきたから時間がある。ゲーム開発部の部室でも訪ねてみるか。」
「おぉそれはいい考えだね~♪」
時間つぶしも兼ねてゲーム開発部に顔を見せに行くことにした。
と、そこへ…
「パパ~♪来てくれたんですね~♪」
アリスが満面の笑みを浮かべてネイトに抱き着いてきた。
「アリス、一昨日ぶりだな。今日も元気でよかったよ。」
「ホシノ先輩もようこそ、ミレニアムに!」
「アハハッお出迎えありがとね、アリスちゃん。」
「ちょうどよかった。少しゲーム開発部に顔を出そうと思ってたところだったんだ。」
「おっこれはちょうどいい所に案内役が来てくれたって事かなぁ~?」
「それではこのまま行きましょう!パンパカパ~ン、パパとホシノ先輩がパーティに加わりました♪」
こうして賑やかにゲーム開発部に向かうことに。
「さて、アリス。ウチの生徒会長を案内してくれるかな?」
そしていつものようにアリスを抱き上げるネイトだが…
「やっぱりパパが一番安心します…。」
「ん?」
「砂と水の匂いにちょっと混じったオイルの匂い…。パパの匂いがアリスは大好きです…。」
そのままアリスはその感触を味わうようにいつもより深くネイトに抱き着いてきた。
「おいおい、今日はなんだかいつもより甘えん坊だな?」
「やぁ眼福眼福、仲良きことは美しきかなってやつだねぇ。よし、ついでに私も乗っけてぇ~♪」
そう言うや否やホシノもネイトの背中に飛びついてきた。
「全く…甘えん坊が二人になってしまったか。」
「ムフフ~嫌なのぉ~?」
「いいさ、たまには。」
そんなこんなでネイトはそのまま二人を身体にまとわせたままゲーム開発部の部室へ向かうことに。
「スンスン…ホシノ先輩はなんだか風とお花のようなにおいがしますねぇ。」
「…うへぇ、面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいね///。」
「よかったな、おじさん。加齢臭とか言われなくて。」
「何をぉ~?!花の乙女に向かって何て言い草だぁ~!」
と三人で賑やかにミレニアム校内を進んでいると…
ヒソヒソ…
「…なぁ、ホシノ。」
「うん、なぁんか皆から見られてるねぇ。」
ミレニアムの一般生徒が自分たちを見て噂している光景を視界の端に捉えるネイトとホシノ。
「アリス、何か変わった事でもあったか?」
「変わった事ですか?」
「なんだか私達、注目の的みたいだからさぁ。」
何かされるわけではないが不審に思いアリスに理由を尋ねる二人。
その時…
「ねっネイト社長!!!」
背後から声を掛けられ振り向くと…
「おぉ…ゆッユウカに皆…?!」
「こ、こんにちは~…!」
そこにはユウカ以外にもミレニアムの有力な部活のお歴々が勢ぞろいしていた。
「えぇっと…何かあったのか?」
只ならぬ状況を感じ彼女たちに尋ねると…
「そっそのッ!」
「うん。」
「あ、あんな大事なことをアリスちゃんに任せるのはどうかと思いますよ!?そう言うのは直接面と向かって言うべきでは!?///」
「「…うん?」」
ユウカの言葉に要領を得られず首を傾げるネイトとホシノ。
「あ、貴方とは通じる部分が多いのだが…やはりそう言うことはちゃんとしないといけないと思うんだ…!///」
「そ、そうだよ…!え、エンジニア同士とはいえまだ知らないことも多いんだし…!///」
「まだこの事態を解説できる力が私にはありませんが…わ、私は嫌な気持ちじゃ…!///」
「た、確かに?私達にも未知すぎる技術と触れる機会が増えるのは魅力的だけど…!///」
「ミステリアスな方を知ることが出来るのは願ってもないのですが…も、もう少し解き明かしたいんです…!///」
「え、えぇっと…まだ私はそんなことよくわかんないんだけど…こ、今度一緒に出掛けてみる?///」
「貴方とならばこの全知たる私もさらなる高みに至れるでしょう。ですが…貴方の言葉で私を魅了していただきましょうか?///」
「正直お声をかけてもらえた時には困惑しましたが…私個人は旦那様のことを好ましく…。///」
「わ、私はその…まだ自分のスキルに自信が持てなくて…時間を貰えるのならちゃんと答えるから…!///」
「だっダンナ!自分の娘に何をやらせてんだ!!!アンタとアタシ、そんなまどろっこしい事しなきゃいけない関係じゃないだろ!?///」
と各々口々に言葉を発するが…
「「………???」」
依然として要領が得られず傾げる首の角度を深くするネイトとホシノ。
『…あれ?』
それを見て何かおかしいものを感じるミレニアムの面々。
「………あぁ~ちょっと待ってくれ。状況を整理させてくれ。」
何やらすれ違いが起きていることを感じ、
「アリス、ここ数日で何やってたか教えてくれるか?」
おそらくこの問題の中心人物であるアリスに尋ねてみた。
「ハイッ!アリスはここ数日間…!」
アリスは元気に『調査クエスト』のことをネイトとホシノに説明する。
「なっなるほど…最近の子は大胆だね。」
「………じゃあ次で最後だ。それをアリスに勧めたのは誰なんだ?」
「ハイッ!アリスに『ママ』の探し方を教えてくれたのは…!」
次の瞬間、
『………は?』
周囲の温度が下がったのを感じた。
数分後、ゲーム開発部部室にて…
「モモイの馬鹿はどこ!!?あのバカは!?」
「乙女の純情を弄んだ不届き者はどこですか!!?」
「今すぐ出てこないと大変なことになりますよ…!?」
「おい、チビ共!あんのお調子者どこ行きやがった!!?」
「ふ、古いボードゲームの調査に百鬼夜行に行ってくるって言ってましたけど…!!!」
下手人を捉えるためにそれぞれの得物を振りかざし突撃を仕掛けるユウカたちなのであった。
ミドリからモモイの行き先を聞きユウカたちは逃すまいとモモイの追跡を開始。
「いいか、アリス。そういうことはそんな簡単に決めちゃいけないことなんだぞ?特に皆は今は学生だ。やりたいことがたくさんあるし将来もあるんだから。」
「アリスちゃんのママになるってことはネイトさんの奥さんになるってことだからね?その生徒の人生を大きく左右してしまうことだから、そんな気軽に決めてはダメだよ?」
「はい…ごめんなさい…。」
「まぁまぁネイト社長もホシノ委員長も。アリスちゃんも分かってくれたみたいですから。」
「やっぱり、そんな事かなぁって思った通りだった。」
「私は結構楽しかったんだけどなぁ~♪」
「も、モモイは大丈夫、かな…?」
「心配しなくていいよ、ユズちゃん。ちょっとは痛い目見たほうがいいよ、お姉ちゃんは。」
残されたネイト・ホシノ・アリスはセミナーの会合室で今回の騒動を回避していたノアやエイミにアスナ、ミドリとユズと一堂に会していた。
アリスの『ママ調査クエスト』についてはネイトとホシノが諭しアリスもシュンとしている。
「ですが…アリスちゃんじゃないですけどそう言うことにご興味はないんですか、ネイト社長は?」
「悪いがいまのところ身を固めるつもりはない。アビドス復興事業でそんな暇ないっていうのが大きいがな。」
「えぇ~旦那様だったらすぐにいいお嫁さんが見つかりそうなんだけどなぁ~。」
「確かに…強くて優しくて社長…。これ以上ないほどの優良物件だね。」
「おいおい…。」
と、エイミやアスナに言われて少し呆れるネイトだが…
「………アリスはママがいて欲しいのか?」
アリスに向き合い改めて尋ねてみた。
「その…アリスにはまだよくわかりません…。アリスにはまだパパから感じたような気持ちを感じられる人が他には見つからなくて…。」
アリスはまるで出会った時のように感情の説明に難儀しているようだ。
「…そっか。」
そんな我が娘を見て…
「…アリス、手を出してくれ。」
「?こうですか?」
差し出してもらったアリスの手の上に…
「これを見てほしい。」
Pip-Boyから取り出してそれを置いた。
「これは…指輪ですか?」
「あぁ。これは俺の…アリスの言うところのママに俺が贈った結婚指輪だ。」
「え、結婚指輪…?!」
金色に輝く指輪にこの場の全員の視線が注がれる。
ネイトの指と比べると二回りほど細いその指輪の内側には…
「『Nora』…?」
「そう…俺が生涯で唯一愛し…結ばれた女性の名前だ。」
「ノーラさんって言うんですね、ネイトさんの奥さん…。」
「優しそうでとても素敵な名前の方ですね…。」
「とっても、大切な物を見せて、くれたんですね…。」
ネイトとその指輪の持ち主だった…ノーラとの経緯を知るホシノやミドリたちはしんみりとした様子で指輪を眺める。
ノアやエイミ、そしてアスナも自分では踏み込んではいけない領域だと察し同じように視線を向けるだけにとどめてくれている。
「…まぁ、俺も踏ん切りをつけないといけないんだが…こればかりは…な。」
ネイトもあの夢を見て以来、前向きに人生を過ごせるようにはなっている。
それでも…未だに左手の薬指をささげたノーラのことはそうやすやすと忘れることはできなかった。
すると…
「………。」
キュッ…
「ッと、アリス?」
アリスが座っているネイトを抱きしめ、
「パパ…アリスは幸せです…。」
「………。」
「でも、パパにも幸せになってもらいたいんです。」
「…うん。」
「だから、パパがもしいつか『ノーラママ』のような素敵な人を見つけた時は…アリスも祝福しますね…。」
会うことが叶わない自分の『ママ』となるはずだったノーラをそう呼びネイトが再び結ばれることを切に願った。
「…ありがとう、アリス。俺はこんな優しい娘に恵まれて幸せ者だよ…。」
キュッ…
ネイトも娘が自分に向けてくれる優しさと愛をしっかりと感じ、アリスを抱きしめ返した。
「うへぇ、全くぅ…これじゃ私たちがお邪魔みたいじゃないかぁ。」
「わ、わぁ…デッサン道具持ってくればよかったかなぁ…。」
「本当に、アリスちゃんが大好きな、あのゲームのエンディングみたい…。」
「うふふ…。でも、私の記憶力がなくても忘れることなんかできない光景ですね…。」
「旦那様もアリスちゃんもとっても幸せそ~…。良いなぁ~…。」
「確かに…こんなの見せられたら私達なんかじゃ食い込めないね…。」
そんな二人をホシノ達はしばらく微笑ましく眺めていた。
―――――――――――――――――
――――――――――
―――
アリスのママ調査が発端となったこの騒動。
発端の原因となったモモイはあの後捕縛されみっちり説教を喰らいしばらく真っ白になっていた。
ユウカたちもこの件は『無かったこと』として忘れることに合意し、一般生徒へもこの騒動の経緯が説明されネイトへの態度も元通りになっていった。
しかし…変わらなかったことが一つ。
「フンフフンフ~ン♪」
学校内を歩いているアリス。
その首には『Free Hug』と書かれたタグがかけられていた。
なんやかんや…アリスのハグはその目的はさておいて多くの生徒に好意的に受け入れられていた。
ユウカもバグから復帰した後の業務が非常にスムーズに進んだことからストレス解消にも確かな効果が認められている。
なので、アリスの気まぐれではあるが今タグを掛けているときには…
「あ、アリスちゃん。」
「あ、ユウカ!」
「その…またお願いできないかしら?」
「はい!では…ぎゅ~♪」
こうしてアリスのハグを受ける生徒は後を絶たなかったらしい。
真の愛とは、心と精神と肉体が互いに理解しあい、しっかりと抱き合うときのこと。
―――作家『ジョルジュ・サンド』