Fallout archive   作:Rockjaw

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世界とは一冊の本であり、旅に出ない者は同じ頁ばかり読んでいるのだ。
―――『神学者』アウレリウス・アウグスティヌス






Library Committee Dives into the Sand

「や…やっと…!やっとこの時が…!」

 

「本当に…行くことが出来るんですね…!」

 

トリニティは『中央図書館』、さらにその奥にある古書館にて図書委員会委員長のウイとシミコはある一通の通達文が届けられていた。

 

届けられた封筒に記されているのは『アビドス高等学校』。

 

そしてその内容は…

 

トリニティ総合学園 図書委員会 御中

先日の当校へのご協力、誠に感謝いたします。

お陰様で当校の発展が一層進むことになりました。

つきましてはその御礼として当校が発見に至った

『アビドス高等学校アレクサンドロス分校』の調査

への同行をアビドス高等学校生徒会長、小鳥遊ホシノ

が認可されたことをここにご報告いたします。

つきましては○月●日に当校関係者がお迎えに上がりますので

ご準備の程よろしくお願い致します。

アビドス高等学校 生徒会

 

つまりこの通達文は…

 

「おぉ…!ネイトさん、約束を守ってくれたんですね…!」

 

「こ、これで私達も、知識の宮殿へ…!」

 

ウイとシミコが何を置いてでも行ってみたいと熱望したキヴォトス史上最大の図書館を有する『アレクサンドロス分校』への招待状だ。

 

しかもこれはアビドス生徒会長の認可を得た正式なもの。

 

あの時、石板の写しの翻訳の報酬として求めたアレクサンドロス分校への訪問。

 

それが正式に認められたことに他ならない。

 

「本を愛する者の全てが願った聖地に足を踏み入れることが出来るなんて夢のようです…!」

 

「ゆ、夢じゃ、ありません…!こ、これが夢なら、私は神様を、恨みますよ…!」

 

思わず息をのむ二人だが無理もない。

 

なにせネイトが訪問時にアレクサンドロス分校から無造作に持ってきてしまっていた本。

 

そんな本ですらトリニティでは『国宝』クラスの代物であった。

 

現在はこの約束を果たすための質としてここに預けてあるが…

 

「じゃあ…あの本も返却することになりそうですね…。」

 

「う、うぅ…まだ『ローゼンタール祈祷書』の、調査が3分の1も、終わってないのに…!」

 

なにせどの本も『国宝級』。

 

本来は図書委員の自分たちと言えど読むことなどできないような代物だ。

 

そんな本を調べられるという降ってわいた幸運だがやはり物が物だ。

 

一ページめくるのにも冷汗三斗の緊張感が付きまとっていた。

 

しかも、ティーパーティーに存在を知られようものなら即没収の恐れもある為こっそりやすしかなくかなり時間がかかりまだ全て終わっていない。

 

「…そ、そのあたりは、またネイトさんや、アビドスの方と、交渉しましょう…。」

 

ウイがなんと調査が続行できるように交渉を試みようと決めていると…

 

「ですね…ってあれ?」

 

「どうかしましたか、シミコ?」

 

「この通達文…続きが書いてありますよ。」

 

シミコが通達文に続きが書かれてあることに気が付いた。

 

それは…

 

追伸

アレクサンドロス分校内は空気が

とっても薄いから長時間中にいるなら

呼吸用ボンベを沢山用意した方がいいよぉ~。

一応こっちでも用意しておくけどそっちでも

いくらか用意しててもらえると助かるなぁ~。

アビドス高等学校 生徒会長 小鳥遊ホシノより

 

文字から伝わる緩いアビドス生徒会長からの直々のメッセージだった。

 

「………え、ボンベ?」

 

あまりにも図書館には不釣り合いな道具だが…

 

「あ、確か…!」

 

ウイは思い出した。

 

ネイトとの初対面時にハナコがこう言っていた。

 

『ウイさん、酸素ボンベを沢山用意するのをお勧めするそうですよぉ?』

 

「た、確か数十年、砂の中に、埋もれていた、んでしたね…。」

 

「そんな場所なら確かに空気が薄くなっているでしょうね…。」

 

場所は数十年砂の奥深くに眠っていた学校。

 

そこに実際に向ったというアビドス生徒会長の言葉なら本当なのだろう。

 

が…

 

「ボ、ボンベって…どこで入手すれば…。」

 

「えぇっと…。」

 

問題はそこだ。

 

過酷な環境でのサバイバルが日常のアビドスとは違いここは発展したトリニティ。

 

そう簡単に酸素ボンベなど入手するルートはない。

 

「あ、そういえば海沿いにスキューバダイビングの専門店が…!」

 

シミコがそう声を上げる。

 

確かにトリニティの近傍には海もありウォーターアクティビティも盛んだ。

 

当然、スキューバダイビングの道具を専門的に扱う店もありそこでなら呼吸用のボンベなどの道具を入手できるだろう。

 

…が、

 

「い、今は海開きも、まだだから、そういうお店は、あまりやって、ないかと…。」

 

「あ…。」

 

そのような店がオープンするのは大概夏の海水浴シーズンだ。

 

今はまだそのシーズンではなく入手難易度は高いと思われる。

 

「では、ネイトさんに連絡して料金を立て替えてもらってアビドスのホームセンターで調達を…!」

 

ならばとネイトにアビドスでの調達をと考えるが…

 

「げ、現在は図書委員会もティーパーティーに睨まれていますので『電話』でのコンタクトは控えたいところですね…。」

 

「うぅ~ん…!」

 

そこでネックになるのはティーパーティーだ。

 

先日のネイト訪問の折に起こった一連の騒動。

 

なんとかあの場は沈静化できネイトの訪問理由も『個人的な調査』で自分たちはその補助として資料を探した程度の協力しかしていないと誤魔化すことが出来た。

 

が…それでもネイトとかかわりを持ったトリニティでも数少ない部活には変わりない。

 

事実、あれ以来図書館の近辺でティーパーティーの生徒がたびたび目撃されている。

 

「だから、アビドス…もといネイトさんもこのご時世に書面でのやり取りをしているのでしょう。」

 

それを察してかネイトも防諜のためこの通達書も非常に手の込んだ届け方をしている。

 

まずは、七転八倒団の方にこの通達文を持たせてトリニティ内に運び込む。

 

それを朝のミサの際に指示の言伝と共にハナコさんの聖書に紛れ込ませる。

 

受け取ったハナコが言伝通りに借りていた本の返却の際に紛れ込ませ…ウイ達の元に届いた。

 

デジタル化が進むキヴォトス内でここまで回りくどく書類を届ける者はネイトしかいないだろう。

 

しかし、そのおかげでティーパーティーの監視の目も潜り抜けこうしてウイ達の元に通達文が届けられたのも事実だ。

 

と、なると…

 

「…じゃあ、どうしますか?」

 

「そ、それは…。」

 

ウイ達は頭を捻る。

 

到底自分達にネイト程の防諜能力があるはずがない。

 

それでも最低限、自分たちがアビドスに出発するまでは隠し通さなければならない。

 

「ど、どうやって…調査を満足に、行えるだけの、ボンベを調達すれば…。」

 

「図書委員会の予算を使えば足が付いちゃいますし…。」

 

こんな状況での道具の調達は非常に困難を極める。

 

その時、

 

「………そ、そうです…!」

 

「委員長?」

 

「し、シスターフッド以外に、ティーパーティーの力が、及ばない部活が…!」

 

ウイが打開策を思いついた。

 

ティーパーティーの権力が強いトリニティにおいてもう一つ…ティーパーティーの力が及びにくい部活が存在する。

 

が、

 

「あ、あぁ…あそこに、行くだけで怖気がぁ…!」

 

元より出不精のウイがさらに向かいたがらない。

 

ウイの反応を見て…

 

「ま、まさか…あそこを頼ろうというんですか…!?」

 

シミコもウイが何をしようとしているか察しがついた。

 

そう、その部活はこのトリニティにおいて…ある意味『正義実現委員会』よりも恐れられているのだ。

 

「で、でも…!ち、知識の宮殿に、行けるのなら…!」

 

それでもウイは奮起する。

 

全てはアビドスに眠る全読書家の理想郷『アレクサンドロス分校』へ赴くため。

 

いつになくやる気のウイだが…

 

「さ、さぁ行きますよ、シミコ…!すべては、私達の夢のために…!」

 

「………委員長、しまらないですよ…。」

 

へっぴり腰で膝ががくがくと震えているのであった。

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

さて、久々の外出なのでヒーコラ言いながらウイが向かったのは…

 

「ボ、ボンベのレンタル…ですか?」

 

「は、はいぃ…。」

 

消毒薬と薬品が入り混じった独特な匂いが漂う建物。

 

「確かにありますけど…あれは『救護騎士団』の備品でして…。」

 

おどおどとお願いするウイに申し訳なさそうに説明する白衣にピンクのパトンス十字が描かれたナースキャップを被った桃色の髪の生徒が説明する。

 

『救護騎士団』、名前の通り怪我をした生徒の治療が主な活動内容とするトリニティの部活である。

 

長い歴史のあるトリニティでも最古の歴史を誇る部活で学園近隣の病院へボランティアなども行っている。

 

「そ、そこを、何とかぁ…お願いします、セリナさぁん…!」

 

「えぇっと…シミコさん…。」

 

「すみません、セリナさん…。」

 

「あ、アハハ…。」

 

なんとか食い下がるウイと申し訳なさそうな表情のシミコに困ったように笑う生徒。

 

『鷲見セリナ』、救護騎士団に所属する二年生だ。

 

「ち、ちゃんと満タンに、してお返しします…!な、何なら、空っぽのボンベを、貸していただける、だけでも…!」

 

「…せめて目的を教えてもらえますか?図書委員会のウイ先輩がなぜそんなものを必要としているのかを…。」

 

当然、簡単に貸し出すわけにはいかずウイに使用目的を尋ねるセリナ。

 

「えッ…!?…えぇっと…。」

 

「それは…。」

 

途端に言いよどむウイとシミコ。

 

「…大丈夫です。ここでのお話は外部には絶対に漏れませんから。」

 

それを見たセリナが表情を和らげてそう伝える。

 

シスターフッドほどでなくても生徒から体調などの方面で相談を受けることも多い。

 

当然、外部には漏らせないような内容もあるので口は相当堅い。

 

そんなセリナの言葉を聞き…

 

「「………。」」

 

ウイとシミコは顔を見合わせ…

 

「…じ、実は…。」

 

ウイが説明をしようとした…その時、

 

「どうかしましたか、セリナ?」

 

「ひぃえぇあッ!?」

 

凛とした声が背後から聞こえ変な声を上げ背筋がピンと伸びた。

 

まるで油を差していないネジかのようにぎこちない動きで振り向くウイとシミコ。

 

そこには…

 

「おや?貴方方はたしか…図書委員会のシミコさんに委員長のウイさんではないですか。」

 

三つ編みのおさげをした蒼いロングヘア―をしさらに背中にはフクロウを想起させる蒼い翼を持ったクラシックナース服姿の生徒がいた。

 

身長も高く見るからに堂々とした姿だが…その手に持つ物はあまりにも『物騒』だ。

 

左手にはトリニティのエンブレムが施された強化ポリカーボネート製のライオットティックシールド、腰のホルスターにはレバーアクションショットガン『ウィンチェスターM1887』が提げられ…

 

「あ、団長。お戻りになられたんですね。」

 

「えぇ、『救護』が終わりましたので。『患者』の手当てをお願いします。」

 

「「キュ~…。」」

 

右手には完全に伸びている二人のスケバンが引き摺られていた。

 

正直言って中々にインパクトのある光景だが…

 

「分かりました。ストレッチャーをとってきますね。」

 

セリナも慣れたものか、特に驚きもせずに負傷者の受け入れ態勢を整えていく。

 

そう、この生徒こそウイが『救護騎士団』訪問を恐れていた最たる理由、

 

「すみません、お二人とも。セリナに御用があったようだったというのに…。」

 

「いっいえっ、そっそんな大した、ことではないので、カッ構いませんよ、『ミネ』さん…!」

 

ウイ達に頭を下げ謝罪するこの生徒。

 

『蒼森ミネ』、歴史ある救護騎士団の現『団長』にしてトリニティの派閥である『ヨハネ分派』の首長も務める三年生だ。

 

話を聞くだけならばなんともお淑やかそうな印象を受けるが…その実態は『苛烈』そのもの。

 

『怪我の治療よりも元凶を取り除くべし』という信条は立派だが…それがどこかで昂じ捻りまくられ『怪我の原因を戦闘不能にすればいい』という脳筋も甚だしい思想に至った武闘派だ。

 

今まであのライオットシールドで何人の不良を叩きのめしてきたかは数知れず。

 

その結果、救護騎士団という組織は『ミネが壊して騎士団が治す』とトリニティでは知れ渡っており、彼女は『トリニティの戦略兵器』と称され剣先ツルギよりも恐れられている節がある。

 

古書館に引きこもっているウイの耳にもその暴威は届いており…

 

(『鋼の白衣Steel Coat』、『制圧者Subjugator』『戦乙女Valkyrie』、『壊し屋』、『鯖折師長』、『天使の鉄拳Angel Fist』、『ライオット・メディック』…!!!うぅ…まさか戻って来るとは…!)

 

おおよそ医療に携わる者には付けられないであろう物騒な異名の数々である。

 

そんな脅威その物の人物を前にし、

 

「でっでは、私達はこれで…!」

 

「ちょ、ちょっと委員長…!?」

 

ウイはガッチガチになりつつも何とか会話を切り上げシミコと共にこの場を去ろうとする。

 

が…

 

「お待ちを。」

 

「ひぃぇあッ…!?」

 

無情にもミネに呼び止められてしまった。

 

「お帰りにならずともセリナへのご用は私が引き継ぎますが?」

 

「そっそれには、およびませんン…!」

 

「遠慮なさらず、こちらへ。せっかくこうして図書委員会の方とお話しする機会は中々ありませんから。」

 

静かだが断れない圧を感じ結局ウイ達はミネに捕まってしまうのであった。

 

数分後、

 

「なるほど、そう言うわけで救護騎士団に機材のレンタルを…と。」

 

「は、はいぃ…。」

 

応接室に通されたウイとシミコはミネから紅茶を振舞われここに来た理由を洗いざらいミネに打ち明けていた。

 

「フム…。」

 

「あ、あの…やっぱり自分たちで何とか…。」

 

考えるミネにウイはこの件は断ろうとする。

 

実際のところはさっさとこの場から逃げ出したいのだが…。

 

すると…

 

「…ウイさん、最近運動はなさってますか?」

 

「ひぃあ…!う、運動ですか…!?」

 

ミネからの唐突な質問に…

 

「そ、その…この頃はこっ古書館で調査をしていたのであっあまり…!」

 

キョドりながらウイが答えると…

 

「なるほど…。」

 

ミネは少し考えこむような仕草をとり…

 

「では、簡単な診察をいたしましょう。」

 

「し、診察…ですか…?」

 

突如としてウイの診察が始まった。

 

数分後…

 

「極度の運動不足、暗所での長時間の作業による視力悪化と不良姿勢、風通しの悪く埃っぽい環境で長時間過ごすことによる肺活量の弱体化…。正直言ってすぐにでも生活態度と環境を改善したいですが…。」

 

「うぅ…。」

 

引きこもり故かとても女子高生とは思えない健康状態をミネにズバズバと指摘され縮こまるウイ。

 

「だから少しは外に出ましょうっていつも言ってるのに…。」

 

これにはシミコもやはりと言った様子で彼女を見る。

 

「この状況でアビドス砂漠のような過酷な環境に赴くのはあまり推奨できません。」

 

「ひぃえあ…。」

 

「…ですが。」

 

ミネはそう言いつつ手元のクリップファイルに何かを書き込み…

 

「…どうぞ、『備品貸し出し許可証』です。」

 

「…え?」

 

ウイにミネのサイン入りの『備品貸し出し許可証』を差し出した。

 

「ど、どうして…ですか…?」

 

「我々は『救護が必要な場に救護を』が信念の救護騎士団です。貴方方に助けが必要なのであれば手を差し伸べるのが務めなのです。」

 

ティーカップを傾けつつミネはそう答える。

 

「今回の件に関しまして使用目的も正当な物な上ウイさん達の身分もはっきりしています。横領などは…決してしないのでしょう?」

 

「そ、それはもちろん…!」

 

「でしたら短期間の貸し出しを行っても問題はないでしょう。無論、空気の充填などの費用は…。」

 

「はい、図書委員会が責任をもって元通りにしてお返しします。」

 

「ならば、問題ありません。必要な備品はセリナに伝えてください。」

 

「あ、ありがとう…ございますぅ…。」

 

ミネの心遣いにウイとシミコは頭を下げて感謝の意を示した。

 

(よ、よかったぁ…!ひょっとしたら大声上げて私達を吊し上げるのかと…!)

 

予想していたよりもすんなり事が運び胸をなでおろすウイ。

 

正直、もっと揉めたり交渉しなければならないと思っていたが…杞憂だったようだ。

 

「で、では私達はこれで…。」

 

ならばとウイはさっそく備品を借り受けるために応接室を退出しようとした。

 

…が、

 

「お待ちを。」

 

「ひぃえぇあ…ッ!?」

 

ピシャリとミネに呼び止められた。

 

「ウイさん、まさか砂漠に赴くというのに…その服装で向かわれるわけではないですよね?」

 

「そ、それは…!」

 

つま先から頭のてっぺんまで眺めてミネは尋ねる。

 

ウイの格好はトリニティの指定制服の上にカーディガンを羽織ったものだ。

 

正直、出不精のウイが外行き用の服…それも砂漠という過酷な環境に向かうための服など持ってはいない。

 

言い淀むウイを見てそのことを察したか…

 

「…分かりました。これも救護の一環…。」

 

ミネは立ち上がり、

 

「では、私の熱中症対策講義を受けてからその機材のレンタルを許可しましょう!」

 

「ひぃえぇああああああッ!?」

 

突如としてミネ主催の酷暑地帯の対策講義が始まりウイの鳴き声が響いたのであった。

―――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

「で、その恰好って訳か…。」

 

「は、はいぃ…。」

 

「本日はよろしくお願いします、ネイトさん!」

 

そんなこんなで約束の日、ネイトはウイ達を迎えにトリニティに乗り込んできていた。

 

そして、今目の前にいるウイ達の格好だが…これだ。

 

【挿絵表示】

 

「…すまないがウチの今アビドス砂漠には『狐』はいないぞ?」

 

戦史にもいくらか詳しいネイトにはその服装はかなり既視感があった。

 

「き、キツネ…ですか…?」

 

「あぁいや、こっちの話だ。」

 

「一応専門家の方にアドバイスを受けてこの格好にして見ましたが…変ですか?」

 

「いや、むしろぴったりだと俺は思う。」

 

確かにこれ以上ないほど砂漠には相応しい服装だ。

 

そして…

 

「おぉ、これは立派なの用意したな。」

 

「い、意識して、呼吸すれば、10時間は持つそうです…!」

 

ネイトが以前使ったものよりも大型で高性能な装置が取り付けられたボンベも持参していた。

 

体力のないウイのために荷車に載った曳いて運搬するタイプだ。

 

「さて、それじゃ厄介なのに目を付けられないうちに行くとしよう。」

 

お喋りもさておきネイトたちは車両に乗り込み早々にトリニティを脱出する。

 

その後、ティーパーティーの介入前に脱出しアビドスに入り…

 

「よし、ここで乗り換えだ。」

 

「こ、これに乗るんですか…!?」

 

「車で向かってたら日が暮れるからな。」

 

空き地にあらかじめ駐機していたベルチバードに乗り換えることに。

 

「あっとそれから…ちょっとしたゲストを呼んでるからフライト中は色々聞いてみるといい。」

 

「ゲストですか?」

 

「さぁ、何はともあれ乗った乗った。」

 

ネイトに促されウイとシミコがハッチを開けるとそこには…

 

「おやおや…貴方方が…。」

 

「こっこんにちは…!」

 

フェドーラ帽を被りシャツの上にレザージャケットとカーキのパンツにワークブートを履いた古めかしいオートマタが座っていた。

 

一瞬誰かと疑問に思ったが…

 

「…あ、それは…!」

 

二人はある物に気付く。

 

老人の腰に…以前ネイトが見せたハープと本の装飾が施されたSAAが挿されているではないか。

 

さらに傍らには同じ装飾が施されたウィンチェスターM1873カービンが立てかけられている。

 

「ま、まさか貴方が…!?」

 

ウイが恐縮しながら尋ねると…

 

「こんにちは、トリニティのお嬢さんたち。私は…かつてアレクサンドロス分校の警備司書隊『ミューズ』に所属していたしがないオートマタですよ。」

 

「お、お会いできて光栄です!」

 

幻のアレクサンドロス分校生徒にして自分たちの大先輩ともいえる人物の登場にウイですら背筋が伸びた。

 

「そんな大層な者ではありません。今は小さな喫茶店のマスターですから。」

 

「顔合わせはすんだな。それじゃ早速飛ぶぞ。」

 

「は、はいぃ…!」

 

まさかのゲストの登場に驚きながらもウイとシミコはベルチバードに乗り込みネイトの操縦で空に舞い上がった。

 

フライト中、

 

「つ、つまり…あの子たちは…!」

 

「懐かしいですな。聞いた話ではかつてのアビドスがある宗派の聖堂修復の際…。」

 

マスターの『ミューズ』現役時代の話や…

 

「はい!マスターさんのお好きな本のジャンルはなんですか!?」

 

「この年になると落ち着いた内容が多いですが…やはり冒険活劇、私の一押しのジャンルは昔も今も変わりませんね。」

 

彼の本の話題などウイにシミコとマスターは会話に花を咲かせている。

 

ウイ達からしても当時のアレクサンドロス分校の様子を知る貴重な人物だ。

 

その一言一言が彼女たちにとっては貴重な資料も同然で一言も聞き逃さない様に聞き入っている。

 

「いやはや、若い生徒さんでこれほどの読書家の方々と語らうのはとても楽しいものですね。」

 

マスターも普段よりどこか楽しそうだ。

 

「ネ、ネイトさんもマスターさんを連れてきていただき…ありがとうございます…。」

 

「なに、ちょっとした礼も兼ねてさ。マスターがいなかったら俺もあの学校の存在を知らなかったし彼の学校をまた見せたいと思ってな。…と、見てくれ。」

 

操縦中のネイトが外を見るように促すと…

 

「わ…わぁ…!」

 

「し、白い砂漠に大きな湖…!?」

 

「ほぉ、何と…!」

 

「ここが…蘇ったアビドス大オアシスだ。」

 

眼下に広がるのは純白の砂漠とビナーとの激戦の地、アビドス大オアシスだ。

 

あれから水位もかつての規模に落ち着きマリンブルーの美しい姿をしている。

 

シミコやマスターは元より読書にしかあまり興味のないウイですらその光景に圧倒されていた。

 

そして、アビドス大オアシスを通過したということは…

 

「全員、そろそろだから準備しててくれ。」

 

「い、いよいよなんですね…!」

 

目的地までの道のりもあとわずかということだ。

 

ベルチバードは純白の砂漠を超え…

 

「見えたぞ。あそこが…。」

 

「あ、アレクサンドロス分校が、埋まっている…!」

 

「砂の下に…知識の宮殿が…。」

 

目的地である『アレクサンドロス分校』上空に到達。

 

地上ではすでに先入りしていた調査隊の面々が見える。

 

「やはりと言いますか…昔とは全然違いますね…。」

 

マスターも郷愁にかられかつての学び舎の姿を想起しているようだ。

 

ベルチバードが着陸すると…

 

「やぁやぁ。初めましてだね、トリニティの図書委員会さん。アビドス生徒会長の小鳥遊ホシノだよぉ~。」

 

「は、初めまして…!わ、私…トリニティ図書委員会の、委員長をっ務めています…、古関ウイ…です…ッ!」

 

「ようこそ、アビドスへ♪」

 

「同じく図書委員の円堂シミコですッ!本日はこんな貴重な場所にお招きいただきありがとうございます!」

 

「当校こそその節は多大な協力をありがとうございました。」

 

先遣隊としてやって来ていたホシノ・ノノミ・アヤネがウイ達を出迎えてくれた

 

トリニティとの裏の関係はさておいて図書委員会もビナーとの戦いで大きな助けになってくれた生徒達だ。

 

あれはあれ、これはこれ…その考えはホシノ達にもちゃんと根付いていた。

 

「マスターさんもようこそぉ…っていうのはなんか変な感じだね。」

 

「フフッ、私にとっては…数十年ぶりの『登校』になりますからね。」

 

マスターも再びこの地に赴けたことをしみじみと感じているようだ。

 

「それじゃお喋りもそこそこに…サッサと潜るとしようか。ノノミ、頼む。」

 

ネイトが指示を飛ばすとノノミが砂の中から鎖を持ち上げ引っ張ると…砂の中から四角い穴がぽっかりと開いた。

 

「はい、三人には来客用のパス渡しとくねぇ。」

 

「い、いよいよ…!」

 

「まずは二人の装備を先に下ろそうか。」

 

ネイト達は大丈夫だがウイ達の装備を釣り下ろし、

 

「総員、マスクチェック。」

 

下に降り、進入前にアレクサンドロス分校には必須の酸素マスクのチェックを促すネイト。

 

「準備よし。」

 

「大丈夫ですよぉ~♪」

 

「問題なしです。」

 

日々訓練しているホシノ達は言わずもがなだが、

 

「これでいいですかな、ネイトさん?」

 

「…本当に今は一般人なんだよな、マスター?」

 

マスターも非常に手慣れた様子でボンベとマスクを装備できた。

 

「えぇっと…えぇっと…。」

 

「ほら委員長、こうするんですよ。」

 

「むぎゃッ!?」

 

「おぉ、初めてにしては上手だな。」

 

「講習で使い方をみっちり仕込まれましたから。」

 

ウイもシミコの補助でしっかりと装着できた。

 

「あ、あのホシノさん…。ね、ネイトさんはマスクは…。」

 

一方、何の準備もなしのネイトを見てウイが不思議がる。

 

キヴォトス人やオートマタですらこれほど重装備なのに人間のネイトが軽装なのは確かに不自然だ。

 

「大丈夫だよ~、ウイちゃん。あの人は私達とちょっと違うからぁ。」

 

「何かコツでもあるんですか!?」

 

う~ん…長年かけて身に着けた呼吸法…ってとこか?それはそうと…行くとしようか。」

 

Perkの説明をすると長くなりそうなので軽くごまかし…いよいよアレクサンドロス分校への扉が開かれた。

 

その後、一行は一階まで下りていき…

 

「これは…ッ本当に夢みたいな光景です…!!!」

 

「ふっふおおおおお…!!!」

 

ウイとシミコは空気を浪費しない範囲で大興奮していた。

 

なにせ、目の前には壁一面の本…いや、最早『本でできた壁』と言ってもいいほどの蔵書がそこら中を埋め尽くしている。

 

さらにどれもこれもただの本ではない。

 

「こっこれは『ラッティ・アリアーニ』の『黄泉路巡礼』…!それもその未改訂の初版本…!?」

 

「こ、こっちの子は、『ジョヴァーナ・ボッカッチーノ』の、『エプタメロン』…!?わ、わぁ…本人の署名入り…!?」

 

「委員長…こっちには『桃赤』の詩集の木簡…!西海経の伝説の詩人の物ですよ…!?」

 

「う、嘘…!?す、『スルピナ』の、エレジーの第7編、以降の詩集…!?き、記録では、第6編までしか、確認されて、いないのに…!?」

 

日々、無数の本の編纂や調査を行うウイ達をもってして度肝を抜くような代物ばかりだ。

 

傑作と呼ばれる作品の初版本や存在すら知られていない作品など少し調べただけでこれである。

 

本としての価値はもちろん考古学的価値も計り知れない

 

「そ、それがこれほどまで…!?」

 

「とても…読み終われるものじゃありませんね…。」

 

それが壁一面、校舎全体でトリニティ中央図書館を優に超える冊数がある。

 

今回の調査どころか…数年かけようと終わるわけがない。

 

それでも…

 

「と、とにかく、始めましょう…!こんな…こんな理想郷に来れたんですから…!」

 

「はいっ!どんどん調べて行きましょう、委員長!」

 

ウイとシミコは意を決し調査に取り掛かり始める。

 

「…おじさんにはあんまり分からないけどやっぱり凄い所なんだねぇ。」

 

「でも、本当に本が大好きだって言うことが伝わってきますねぇ♪」

 

付き添いのホシノとノノミはそんな二人を微笑ましく眺めていた。

 

一方、

 

「ここが…そうそう各地の伝統工芸関連の書物ですね。」

 

「工芸品…。昔の製法が遺されているならアビドスでも再現ができるかもですね…。」

 

「今だとロストテクノロジーも多いだろうからな、そう言うのだと…。」

 

ネイトとアヤネはマスターと共に図書館内をめぐりマッピング作業を行っていた。

 

何分、一億を上回る蔵書量だ。

 

当時の技術ではせいぜい本の目録がある程度でどこがどういう本を主に収めているかはかなり分かりにくい。

 

そこで…マスターの出番だ。

 

「せっかく思い出の校舎に入れたというのに…道案内させてしまい申し訳ありません。」

 

「なんのなんの、アヤネさん。これが私のかつての任務です。それにまたここに来れたというだけでも私は十分幸せですよ。」

 

そう、マスターは元警備司書隊『ミューズ』の一員。

 

業務上、このアレクサンドロス分校の構造やどこにどういった本が収められてあるかは頭に叩き込まれている。

 

そんな彼の知恵を借り、図書館内を詳細に把握するために今回の調査への同行を求めたのだ。

 

「しかし…本当にこれは一生かかっても読破は無理だろうなぁ…。」

 

「ふっふっふっ私が現役のころもそれを目指した生徒がいたらしいですが卒業後も通い詰めてなお1割ほどが限界だったそうで…。」

 

「タイトルを調べるだけでも膨大な時間がかかりそうです…。」

 

「いっそのこと一般公開して…なんていうのは無理なことなんだろう…。」

 

「懐かしいですなぁ。日々、迷子の捜索に本泥棒の制圧…慌ただしくも賑やかな青春でしたよ。」

 

ここは図書委員会が度肝を抜く稀覯本の博覧会ともいえる場所だ。

 

一般公開しようものなら今のキヴォトスでは確実に盗まれるか吹っ飛ばされるかが関の山だ。

 

「しばらくはウイ達のような信用できる本の専門家に頼ることになりそうだな。」

 

「本を愛している彼女達ならば力になってくれるでしょうな。」

 

「当分は発掘作業よりも協力を仰いでデータにまとめることに注力したほうがよさそうですね。」

 

そんなことを語らいながら三人はマッピングを進めていった。

 

今回は予備の酸素タンクも持ち込み万全な準備を行ってきたのでアレクサンドロス分校の大まかなマッピングが完了し今回の調査は終了となった。

 

…が、

 

「ね、ウイちゃん…!?そろそろ引き上げよう…!?」

 

「も、もうちょっと…!あ、あと一冊だけ…!!!」

 

ウイが撤収時間になってもかじりつきで調査し続けていた。

 

「そ、そう言ってもう一時間だよ…!酸素ももうそろそろつきそうだからぁ…!」

 

そろそろ酸素がやばいのでさすがのホシノも冷汗をかきながら中断を呼び掛けるも、

 

「も、もうここに、住みます…!こ、ここが…、私の魂の、場所です…!」

 

一切その言葉を聞き入れず机にかじりつきで本を読みふけるのであった。

 

「ここ図書館だからぁ!絶対住む場所じゃないからぁ!!!」

 

さすがにこれにはホシノも背筋が寒くなり何とかウイを引きはがしにかかるが…

 

「フ、フンヌウウウウウウ…!」

 

「ちょ、力強ッ!?どこにそんな力が!?」

 

火事場の馬鹿力というものか、ホシノをもってしても机から引き剥がせない。

 

体格差はかなりあるがそれでもこの結果にはホシノも驚くしかない。

 

「…ノノミにシミコ、頼む。」

 

「は~い♠」

 

「ウチの委員長が申し訳ありません…。」

 

しかし置いていくわけにはいかないので…

 

「さぁ委員長、帰りますよ!」

 

「は、放してください…ッ!!!」

 

「私だって我慢してるんですから駄々こねないでください!」

 

「我儘ばっかり言っちゃだめですよ~♪」

 

「あぁぁぁぁ~…ッ!!!」

 

アビドスのパワーファイターであるノノミと日々の業務で腕力に自信があるシミコによって引き剝がされウイは運び出されるのであった。

「…マスターが現役の頃にもあんな感じの生徒は居たのか?」

 

「えぇ、閉館時間になっても粘ってた生徒はいましたねぇ…。」

 

そんなウイの姿もマスターはしみじみと眺めているのであった。

 

その後、一行は外に出て…

 

「うぅ…まだ途中だったのに…!」

 

ウイは体育座りをしてぐずっている。

 

「…トリニティの生徒さんもだいぶ個性的だねぇ。」

 

「ほら委員長、まずはこんな貴重な機会をくださった皆さんにお礼を言わなくちゃ。」

 

「…ほっ本日は連れてきていただき…ありがとうございました…。」

 

それでもシミコに促され姿勢を正してネイトやホシノ達に礼を述べてくれた。

 

「うん、こっちも私達じゃ手が及ばない調査をしてくれてありがとねぇ。」

 

「ありがとうございました!本当に夢みたいな時間でした!」

 

「とても喜んでもらえて私達もお連れした甲斐がありました♬」

 

「マスターさんもご協力ありがとうございました。」

 

「いえ、私の方こそ…懐かしい青春の場所にまた赴けて幸せでしたよ。」

 

シミコもマスターも今回の調査には大満足だったようだが…

 

「ま、まだ…まだ調べたい子達がたくさん…。」

 

それでも後ろ髪を引かれまくっているウイ。

 

すると…

 

「あの…ウイちゃん?」

 

「は、ハイ…?」

 

「別にアレクサンドロス分校の調査はこれっきりじゃないよ?」

 

「………え?」

 

ホシノのその言葉に彼女は固まった。

 

「いやぁ。これだけ大きい学校だと何回も長期間に分けて調査しなくちゃいけないんだよねぇ。しかも…うちにはそう言う専門家がいないからねぇ。」

 

復興中のアビドス高校だが生憎生徒は現場担当ばかり。

 

無論経理などの裏方を行えるものもいるが…このような本の編纂を行える生徒は今のところいない。

 

つまり…

 

「アビドスとしてはね。そう言う専門家の力をぜひ借りたいんだよねぇ。」

 

「と、ということは…!」

 

「うん、時間がある時で構わないからまた調査を手伝ってはくれないかなぁって。」

 

ホシノがそう言った瞬間、

 

「ぜ、ぜぜぜぜっ、ぜひッ、よろしくお願いします!!!」

 

今日一番の大きな声と速度でウイはホシノの手をがっちり握り彼女の申し出を即承諾するのだった。

 

「おぉ、それじゃまた今度もお願いしよっかなぁ~♪」

 

「わっ私もまたここに来てもいいですか!?」

 

「うん、人手は多いに越したことはないからねぇ♪」

 

シミコもまた来れるとあってとても嬉しそうだ。

 

「マスターもまた来たいときは声かけてくれ。」

 

「その時はまたよろしくお願いしますね。」

 

「さて…そろそろ日が沈む。今日は一旦帰ろうか。」

 

こうして、ウイやシミコにマスターを伴った第一回のアレクサンドロス分校の調査は幕を閉じたのであった。

 

ちなみに後日…

 

「委員長、どうして私達に内緒でそんなところへ!?」

 

「ずるい!!!私達だって行きたかったのに!!!」

 

「次はいつ行くんですか!?私も同行しますからね!!!」

 

「拒否権はありませんよ!!!私達だって図書委員、あそこへ行く権利はありますっ!!!」

 

「ひぃえぇあああああ!?」

 

居残りだった図書委員会にアレクサンドロス分校の調査に同行したことがばれガン詰めされるウイなのであった。




本を読むということは、大抵の場合には冒険である。だからまた冒険の魅力がある。
―――民俗学者『柳田国男』
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