Fallout archive   作:Rockjaw

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金鉱よりもスコップ
―――ゴールドラッシュ時の格言




手前味噌ながら本作のオリジナル人物(先生含む)のイメージ画像が出来上がりました
作者の中ではこういう感じだよ、っていうくらいに見て行ってください

ネイト
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先生
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ノノミパパ
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マスター
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Everyday Life in the Rebuilding of Abydos Part 1

ビナーの一戦を経てアビドス砂漠にも平穏が訪れたアビドス。

 

観測の結果、砂嵐の発生頻度と規模は確実に低下したことが確認された。

 

つまりそれは…

 

「オーライ!オーライ!」

 

「追加の資材が届いたぞー!」

 

「よぉし、A班は休憩に入ってくれ!」

 

アビドスの復興事業の拡大とスピードアップが可能ということだ。

 

今やポプラの防砂林はどんどん拡張され今や地平の先まで続いている。

 

さらに最近、アビドスにやってきた新設備も大活躍している。

 

「こちら地上班、退避完了!『航空隊』、やってくれ!」

 

《アイよ!》

 

ポプラの苗木を長い距離植えた地上にいる生徒が無線を飛ばすと…

 

ブオオオオオ…ン!!!

 

空からエンジン音が響き一機の飛行機が飛来。

 

小型のレシプロ機で速度もかなり遅いが安定した姿勢でポプラの苗木の上空に差し掛かり…

 

ブシュウウウ…!

 

緑のガス…『ターボファート肥料』をポプラの苗木に噴射。

 

それを浴びた苗木はメキメキと成長し立派な防砂林になった。

 

「ヒュ~、やっぱ何度見てもすげぇや。」

 

「あんな動きはベルチバードにゃ無理だな…!」

 

アビドスで普及しているベルチバードは確かに優秀だ。

 

しかし、巨大な機体のためあのような低速で飛行すれば失速してしまうだろう。

 

ある程度の濃度で『ターボファート肥料』を撒くためにはやはりあのようなレシプロ機が必須なのである。

 

《地上班!効果判定を願う!》

 

「あぁばっちりだ!また頼むぜ!」

 

《了解!んじゃ、ガスの補充に戻るぞ!》

 

仕事を終えた飛行機はそのまま翼を翻し離脱していく。

 

砂嵐の緩和、それはつまり航空機の運用を容易にすることでもある。

 

これを機にネイトは復興事業に大々的に航空機を導入し農業用飛行機によって作業がよりスピーディに進むようになった。

 

しかも、軽量なレシプロ機は運用が容易で本格的な滑走路を用意せずともある程度の距離のある真っすぐなアスファルトの舗装路さえあれば離着陸が可能だ。

 

「いやぁ、ホントにいろいろ進んだよねぇ…。」

 

「まさか飛行機がこんなに身近になるなんて思ってもなかったぜ…。」

 

飛び去って行く飛行機を見てしみじみとつぶやく生徒達。

 

だが、アビドスに配備される航空機はあの農業用の航空機だけではない。

 

「そういや…もっとすげぇのがそろそろ出来上がるんだっけ?」

 

「あぁ、他の学校の航空隊すらあっと言わせるようなすげぇ奴等がな。」

 

かねてより導入が検討されていたアビドスの新兵器が間もなく到着する。

 

それに向けた準備も着々と進んでいた。

 

何はともあれ復興が進むことは良い事だ。

 

「さて、続きと行こうか!今日は後10セットは植えるぞ!」

 

『おーッ!!!!』

 

アビドスの生徒達は汗を流しながら今日もポプラの苗木を植え続ける。

 

ちなみにだが…

 

「開拓は伝統的アメリカ人の本能に刻まれた信念である!!!」

 

「野を切り開き不毛の大地を緑に変えることこそ国土の発展につながる!!!」

 

「その一翼を担うことは我らとしても至上の喜びである!!!」

 

「さぁこの地を耕しあの輝かしい祖国を復興させよう!!!」

 

先日生み出されたリバティプライム4機も巨大なプラウを強大な馬力を活かして引っ張り砂の地面を耕しているのであった。

 

遊びゴマにさせておくより有効に使おうという考えだが…

 

((((((役に立つけど…もうちょっと静かにしてくれないかなぁ…。))))))

 

若干、生徒達には不評なようである。

 

そして、現場方面で動きがあったということは…

 

「先輩、ハイランダーからの報告書と駅施設の申請書ね。セイント・ネフティス社からも来てるわ。」

 

「それから…ゲヘナ万魔殿からの会談のアポとアビドス砂漠方面の調査許可の申請届です。」

 

「委員長、ミレニアムより『気象観測部』がアビドス大オアシス近郊の気候を調査したいと…。」

 

アビドスのまとめ役であるアビドス生徒会も連日大忙しである。

 

ビナーがいなくなったことにより『アビドス砂漠横断鉄道』の工事も再開しハイランダーも日夜線路敷設工事に励みどんどん完成に近づいている。

 

結果、ハイランダーだけでなくセイント・ネフティス社からも山のような鉄道関連の書類が届いている。

 

そして、先の一大作戦からよりオープンになったゲヘナとミレニアムの関係。

 

それによって今までよりもダイレクトにアビドスでの様々な活動や調査のための申請や会談などの手続きや精査に忙殺される日々だ。

 

さらには復興事業の高速化も報告や予算配分などの書類も以前とは比べ物にならない量が連日届く。

 

なので…

 

「う、うへぇ…。」

 

委員長であるホシノは激増した業務に燃え尽きているときが増えた。

 

ユメがいた頃から書類仕事などはこなしているのでいくらか慣れている自信はあったが…さすがにこれは大変なようだ。

 

「ん…頑張って、ホシノ先輩。私達も手伝うから。」

 

「それに私達や事務の皆さんも一緒ですから♪」

 

そんなホシノにエールを送るシロコにノノミ。

 

業務の増大によって生徒会の補助のためのMr,ハンディー型ロボットの機体数も増え忙しいながらも滞りなくしこなせている。

 

「それにしても…本当に忙しくなったわねぇ…。」

 

「住人の転入も連日届いてるし…嬉しい悲鳴だね。」

 

忙しい委員会室を眺めセリカとアヤネはしみじみと語る。

 

こんなに忙しくなるとは思いもしなかった。

 

ひょっとしたら自分たちが最後のアビドス生になるかとも思っていた。

 

借金返済の会議をしてBDで勉強して賞金稼ぎを捕まえてバイトをする。

 

そんな殺伐とした日が続くものと思っていたが…。

 

「あ、そういえばネイトさんは今日はどこ行ってるの?」

 

「えぇっと確かネイトさんは…。」

 

アヤネがこれを成し遂げた人物の居所を確かめようとしたその時、

 

《至急至急、通信隊よりアビドス本隊。》

 

スピーカーからサイレンと共に巡回部隊からの通報が入り、

 

《砂原町7丁目にて武装強盗との通報有り。付近を巡回中の部隊は直ちに急行せよ。》

 

「…こういうのも最近増えてきたわね。」

 

「住民の方々が戻ってきた弊害でしょうね…。」

 

学区内での犯罪発生の情報が鳴り響く。

 

昨今復興中のアビドス、そこを狙って一山当てようと学区外からこうして犯罪者がやってくることも増えた。

 

《こちら第12巡回部隊、急行する!》

 

それでもストライカー巡回部隊によってすぐに捕らえられるので被害は軽微なのが幸いなのだが。

 

「ん…あとは巡回部隊とヴァルキューレに任せよう。」

 

「指名手配犯なら褒賞金も出るので一石二鳥ですね、ホシノ先ぱ…。」

 

と、一同がホシノのいる席に視線を向けると…

 

「あっあれ!?先輩は!?」

 

そこにはかなり雑に作られたホシノらしき変わり身人形が置かれており…

 

「あぁー!!!先輩の装備がありません!!!」

 

愛用のショットガンなどの銃が消えていて…

 

ブロロロ…!!!

 

「あ、ホシノ先輩が!?」

 

ATVに乗って学校を飛び出していく彼女の姿が見えた。

 

「サボりも兼ねて強盗捕まえに行くつもりね!?」

 

「もぉ―まだ目を通してもらわなきゃいけない書類が沢山あるのにぃー!!!」

 

そうホシノ…業務がたまるとたまにこうして勝手に犯罪者の捕縛に出動するのだ。

 

確かにホシノが出ればことは容易く片付くのだが…。

 

「ん…仕方ない。今のうちに私達だけでできる分を終わらせよう。」

 

「すぐに帰ってきますよ♪サボっても仕事を投げ出すようなことはしませんから♪」

 

憤るセリカやアヤネとは対照的に付き合いの長いシロコとノノミは特に気にすることなく仕事を進めるのであった。

 

こうして現場も後方も大賑わいのアビドス高校。

 

だが…まだ一人の現状が明かされていない。

 

そう、ネイトだ。

 

そんな彼だが現在…

 

「よう、工事は順調か?」

 

アビドス砂漠の一角でとある作業が猛スピードで進んでいる現場にその姿があった。

 

ネイトに声を掛けられ…

 

「おぉっ『主任』!見ての通り万事順調さぁ!」

 

小柄で一対の曲角を持つ少女…鬼怒川カスミが笑顔で答えた。

 

彼女がいるということはつまり…

 

「温泉のた~めなら♪」

 

『えぇんやこ~ら♬』

 

「ビルがあろ~と♪」

 

『えぇんやこ~ら♬』

 

「もひとつオマケに♪」

 

『えぇんやこ~ら♬』

 

と、温泉開発部作業班長のメグの音頭で作業を進めていく温泉開発部のメンバーたち。

 

音頭のテンポとは裏腹にその作業速度は驚異的な物だ。

 

爆薬筒を用い道筋を吹き飛ばし重機を操り掘り進み石材をそこに敷き詰めていく。

 

「アビドスの生徒も解体業でかなりの速度でこなせるようにはなったが…これには敵わないな…。」

 

「ハーッハッハッハッ!年季というものが違うよ!」

 

ネイトからの称賛にカスミが気を良くし高笑いするが、

 

「だが、これには主任の助力によるところも大きいぞ!W.G.T.C.の重機や資材の手配があってこそのこの効率だ!」

 

「万全の仕事には万全の準備が必要だ。仕事を全うしてくれるのならそれに必要な物をそろえるのが俺の仕事だ。」

 

ネイトの協力にも感謝を伝える。

 

なぜ、テロリストとしても名高い温泉開発部がアビドス砂漠で工事を行っているのか?

 

時は1週間ほどさかのぼる。

 

「鬼怒川カスミ、下倉メグ。面会だ、出ろ。」

 

「おぉ、一体誰が来たのかな?」

 

「取り調べ以外で外に出るの久々~。」

 

先日の大騒動で風紀委員会に拘束されていたカスミとメグ。

 

取り調べも非常に苛烈でネイト達の情報を流した黒幕について何度も聞かれたが…有力な証言は得られなかった。

 

元より噂や根拠のない憶測で行動することもある温泉開発部。

 

情報の精査をしないどころか情報提供者に関して裏取りをすることもない。

 

今回に関してもいつもと同じ、自分たちに利のある情報だから行動しただけだ。

 

しかもその情報提供者の電話番号も追跡ができないよう巧妙に細工が施されており掛け直しても当然繋がらなかった。

 

だからと言ってやらかしたことがやらかしたことなのでそこそこの期間拘束されている。

 

そんなカスミ達に面会に来る人物は心当たりがないが…

 

「入れ。」

 

風紀委員に促され部屋に入り、

 

「さぁさぁ一体誰が…。」

 

面会に来た人物を見た途端…

 

「ひ、ひ、ひえええぇッ!!!」

 

カスミは泣き声を上げる。

 

その相手こそ…

 

「おいおい、随分な挨拶だな。」

 

「あ~この前の社長さんだ~!」

 

カスミにとっての新たな恐怖の対象であるネイトだった。

 

「まぁ座れ。」

 

「ひえッ!!!」

 

「…頭を割る気はない。今日は話を持ってきたんだ。」

 

「話ってな~に?」

 

一先ずカスミを落ち着かせ対面に二人を座らせ…

 

「実は万魔殿が温泉開発部に課す処罰が決まってな。」

 

「お、おぉそれは何かな…?!」

 

「これがその内容だ。確かめてみてくれ。」

 

ネイトは二人の方に一つの封筒を滑らせた。

 

受け取って内容を検めると…

 

「あ、『アビドスの灌漑事業への従事』…?!」

 

マコトの署名とともに温泉開発部への処分が端的に記されていた。

 

「灌漑ってどういうこと~?」

 

「順を追って話そうか。」

 

ビナーとの戦いで蘇ったアビドス大オアシス。

 

砂漠に突如として出現した膨大な水源地だが…温泉開発部が裸足で逃げ出す強引極まるやり方をしておいて事態がアビドス大オアシスで済むはずがなかった。

 

「そいつがあまりにも強引にやりすぎて…アビドス砂漠の各所に湧水が相次いでるんだ。」

 

地下の大水脈を刺激した影響はアビドス砂漠各地に伝播。

 

アビドスの記録やマスターが持っていた古地図を調べても存在したことがない座標に小規模*1なオアシスが確認されている。

 

「で、湧いてしまったのは仕方ない。むしろ将来的に割く予定だったリソースの節約にもなったから…。」

 

「そのオアシスを利用し…灌漑をやろうと?」

 

「そう言うことだ。で、ちょうどぴったりな人材がいるってことでマコトに紹介されたのが。」

 

「私達ってこと~?」

 

「そう言うことだ。」

 

ネイトがこうして二人と面会している理由は分かった。

 

すると…

 

「…ハーッハッハッハッ!それは少々考えが甘いのではないかい!?」

 

「何がだ?」

 

「いかに万魔殿の処分とはいえ我々が『ハイそうですか』と従うわけがないだろう!」

 

カスミが高笑いを上げこの処分に従わない意思を見せる。

 

今まで何度も捕まってきたのだ。

 

今更これくらいの処分でビビるほどカスミの肝っ玉は小さくない。

 

が、

 

「反骨精神旺盛なのは結構だが…もう契約は済んでるんだ。」

 

「…え?」

 

ネイトは一枚の書類を取り出しカスミ達に差し出す。

 

それは…事業入札書だ。

 

そこには万魔殿が提示した金額とマコトのサインと認可の決済が押されてあった。

 

「なぁッ!?」

 

「これはれっきとした『アビドスの公共事業』でそれを万魔殿が落札した。悪いがこれは断ることはできないぞ。」

 

只の依頼ならば温泉開発部は確実に拒否するはず。

 

ならば正式に『仕事』にしてしまえばいい。

 

常日頃からアビドスの復興事業に食い込む機会を狙っていたマコトにはこれは願ってもない事だった。

 

セイント・ネフティス社とW.G.T.C.やアビドス地元の土建企業と共に入札会が行われたが…万魔殿がぶっちぎりの安さで入札。

 

その安さの理由が…捕らえた温泉開発部の投入である。

 

要は囚人に刑務作業として仕事をさせるのと同じだ。

 

「あと断ったらその時は万魔殿が本気で温泉開発部を取り締まるとよ。」

 

「な、なぜ万魔殿が!?」

 

「それだけお前たちのやらかしたことが重大だってことだ。」

 

「い、一体何のこと…?!」

 

風紀委員会ならともかく万魔殿までもがここまで本腰を入れる理由が分からない。

 

だが、

 

「マコトから許された範囲で伝えるなら…『雷帝』関連に手を出したのは拙かったな。」

 

ネイトがそう口にした途端、

 

「え…?!」

 

その言葉に反応したのはカスミではなくメグの方であった。

 

「メグ?」

 

いつも天真爛漫な彼女らしからぬ反応にカスミが不審そうな表情を浮かべる。

 

「そ、それって…本当なの…!?」

 

「確か君は三年生だったな。悪いが…冗談でこの名前を出せるほど俺もマコトも奴のことを楽観視してはいない。」

 

温泉開発部は部長こそカスミだが学年でいえばメグが最上級生だ。

 

つまり…

 

「ご…ごめんなさい…!」

 

「め、メグ…?!」

 

「そ、そんな大変なことだったなんて…私たち知らなくて…!」

 

ゲヘナにおける『暗黒時代』を知っている数少ない生徒の一人ということだ。

 

自分が何をしでかそうとしていたか、瓦礫を燃やし尽くすことが趣味のメグでも理解できた。

 

「そ、それで…。」

 

「安心していい。万魔殿とアビドスがすでに対処済みだ。今後も調査は進めていくらしいがな。」

 

「よ、よかった…。」

 

ネイトからその心配はない旨を伝えられ安堵するメグ。

 

「…一体どういうことかな、熱砂の猛将殿?」

 

「世の中、知らない方が幸せなことだってあるってことだ。」

 

「…ふむ。」

 

色々と事態を引っ掻き回すカスミも今までにない相棒の姿を見て…

 

「………メグ、君はどうしたいんだい?」

 

表情を引き締めメグに尋ねると、

 

「…部長、私…この工事やってみたい…!」

 

彼女はしっかりと答えた。

 

「だって…こんな大工事を任せられるなんて…私、ちょっとワクワクしてるんだ…!」

 

あの広大なアビドス砂漠での灌漑工事。

 

日々、様々な場所でテロ紛いの工事を行う温泉開発部。

 

それ以外にもゲヘナの水道関連のインフラ工事なども請け負っている。

 

それでも…これほどの規模の工事を請け負うことは経験がない。

 

作業班長であるメグはこの大仕事に興奮を覚えていた。

 

「………分かったよ。」

 

そんなメグの想いを受け止め…

 

「いいだろう、熱砂の猛将殿。その仕事…我が温泉開発部が引き受けようではないか。」

 

不敵な笑みを浮かべアビドス砂漠の灌漑事業を引き受けることを承諾した。

 

「了解した。数日後に迎えに来る。よろしく頼むぞ、鬼怒川カスミに下倉メグ。」

 

「ハーハッハッハッ!温泉開発部が手を貸すんだ!大船に乗った気持でいてくれたまえ!」

 

「よろしくね、もーしょーさん!」

 

こうしてネイトとカスミにメグは固い握手を交わし温泉開発部のアビドス復興事業への参加が決まったのであった。

 

さて、そうはいっても相手はキヴォトス各地で指名手配されている温泉開発部だ。

 

最初こそゲヘナでの一件を聞きアビドス生徒達も警戒していたが…

 

「進行具合はどうだ ?」

 

「取水塔は完成、メインの水路は現在5%くらい進捗だな!」

 

「…かなりの総延長のメインをもう5%仕上げたのか?」

 

「言っただろう?年季が違うのだよ。」

 

前述のとおり驚異的な作業速度は元より、

 

「しかし、掘るだけでなくここまでしっかり自然な川を再現して護岸整備できるな。」

 

「ゲヘナの火山岩だけではなく工事中に出た砂岩も用いている!水を流せばより自然になるはずさ!」

 

その仕事のクオリティも舌を巻くほどだ。

 

所かまわず掘り返し吹っ飛ばすことで知られる温泉開発部だが何も温泉を掘っておしまいではない。

 

温泉を掘り当てたら景観に合った露天風呂などの入浴設備や宿泊施設まで備えた旅館なども瞬く間に建築してしまうのだ。

 

ネイトのクラフト能力という例外を抜きにすると土木建築作業の能力ではW.G.T.C.すら及ばないキヴォトスではトップクラスの技術集団だ。

 

しかし、

 

「しかし、今更ながらこれほどの大工事を万魔殿にとられてよかったのかい?」

 

カスミがニンマリしながらネイトにそう尋ねる。

 

これほどの大規模事業なら収益も相当なのだ。

 

それによってもたらされる雇用の創生も期待できるがそれをゲヘナに持っていかれてしまった。

 

工事資材に関してもゲヘナ直通のアビドス横断鉄道の路線が通っているため日夜大量に運び込まれているために手を出せない。

 

さぞネイトも悔しく思っていると予想したが…

 

「なぁに、美味しい所は確かに譲ったがこまごまとアビドスも稼がせてもらってる。」

 

彼女に返すように不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

「ほぉ?」

 

「現にここの警備はW.G.T.C.が受け持っているしな。」

 

再度いうがこれは大規模な公共事業だ。

 

ゲヘナが手の及ばない細々とした業務であっても比例してかなり大規模だ。

 

W.G.T.C.は現場の警備やゲヘナから委託されセイント・ネフティス社も現場作業員向けの日用雑貨に食事の手配などで結構な収益を上げている。

 

アビドス地元の土建業者も貨物駅から現場への資材の輸送や重機の貸し出しや整備など請け負いこれまた中々の収益を得られている。

 

「マコトがいくら食い込もうとここはアビドス、ゲヘナが手を回せない場所なんかいくらでもある。デカく面倒なとこは譲ってこまごま楽なとこを頂くのさ。」

 

かつてのアメリカの黄金狂時代『ゴールドラッシュ』でも最も儲けたのは金を掘る金鉱夫ではなく道具やジーンズを売りつけた商人だ。

 

そのやり方をこのキヴォトスの地でゲヘナという巨大な金鉱夫相手に再現しているのだ。

 

「…全く末恐ろしいね、主任。あのケチで狡賢い万魔殿を出し抜くとは。」

 

自分以上に狡猾なやり方を明かすネイトにカスミは肩をすくめる。

 

(話には聞いてはいたが…これが彼の恐ろしさか…。転んでも…いや、転ばされても必ず何かをもぎ取る。意識してはいないだろうがなんという狂気じみた執念深さ…!)

 

ネイトの奥に潜む『狂気』を感じ…

 

(良いねぇ…!これほどの『怪物』をこんなに近くに感じるのはいつぶりだい…!?)

 

自分と同種でありながら自分を凌駕する存在にその口角が自然と吊り上がった。

 

「さらにはハイランダーも資材輸送で大儲け。この事業、どこも何も損なんてしてないってことだ。」

 

「…そんなに儲けているのならこれを外してはもらえないかな?」

 

と、ネイトの声に反応し表情を戻しつつカスミは片足を上げる。

 

そこには頑丈なバンドに装着された小型の器械があった。

 

「悪いな。あくまでカスミ達はゲヘナに収監されている『規則違反者』扱いだ。脱走されたらこっちの責任になる。」

 

これはいわばカスミ達温泉開発部全員の位置を知るためのビーコンだ。

 

警備を受け持っている以上ある程度の備えは必要である。

 

「全く、こっちはアビドスのために働いてるんだぞ?」

 

これにはカスミもプンスカと怒り顔で抗議するが、

 

「…まぁ脱走しようにもここでそんなことするバカはいないだろうがな。」

 

「…確かに。」

 

ネイトのその言葉に同意するしかない。

 

ここはアビドス砂漠の奥地、ネイトはともかくとして…温泉開発部に土地勘というものは一切ない。

 

ここの座標がどこでどっちに向えばアビドスの街やゲヘナに出れるかさっぱり分からない。

 

そんな状態で脱走なんてすれば…末路は語るまでもないだろう。

 

つまり、この砂漠こそ温泉開発部にとって檻がない牢獄も同然なのだ。

 

そして、カスミ達が装着しているビーコン。

 

これはカスミ達が逃げ出さないための装置だけではなくもしもの場合の命綱でもある。

 

「まぁ、今は逃げ出すメリットもないし真面目に作業に従事するさ!」

 

再び快活な笑みを浮かべるカスミ。

 

この現場は好きなだけ掘れて好きなだけ開発出来て好きなだけ爆破できる。

 

しかも、万魔殿の奢りで、だ。

 

衣食住も保証され、さらに申請しさえすれば休日にはネイトが街に連れて行ってもくれる。

 

「これで温泉でも出てくれたら最高の現場なんだがなぁ~!」

 

「生憎アビドスに火山はない。掘っても水が湧くだけだから諦めるんだな。」

 

「ぬぅ~!掘ってみなくては分からないではないか~!」

 

やはり温泉開発部部長、温泉発掘への情熱はここにやって来ても変わらないようだが…

 

「砂漠でなら構わないが街中でやろうものなら…あの時以上に叩きのめすからな…?」

 

若干剣呑な雰囲気を纏ったネイトの鋭い視線に射抜かれ…

 

「ひ、ひ、ひえええぇッ!!!」

 

あの時のように顔をしわくちゃにして泣き声を上げた。

 

やはりあれだけの蹂躙劇と尋問をされたのだ。

 

彼女の中ではネイトはもうヒナクラスのトラウマの象徴となっている。

 

「班長~、まぁた部長が鳴いてるっすよ?」

 

「いいのいいの~!ヒナ委員長と一緒の反応だから!」

 

「レモネード!レモネードはいかがですかぁッ!?」

 

「あ、ちょうどよかった!は~い、こっちにくださ~い!」

 

最早見慣れた光景にメグを始め温泉開発部が特に止めるでもなく少々だみ声のMr,ハンディーが持ってきてくれたレモネードを求めるのであった。

*1
アビドス大オアシスと比較して




Even a fool can make a hit in their line.
―――意訳『馬鹿と鋏は使いよう』
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