次はなるべく間を開けずに頑張ります…
防砂林の植林にゲヘナ主導の温泉開発部が行う大規模灌漑事業と大忙しのアビドス。
資金や資材も潤沢で後はこのまま突っ走るだけ…
「う~む…。」
とならないのが世知辛い所だ。
この日、珍しく机に向かい何やら考えこんでいるネイト。
一体どうしたのかというと…
「…もう少し人手が欲しい。」
頭を捻りぽつりとつぶやく。
カイザーから分捕った莫大な資金に収入源、ミレニアムすらも追い越す技術力に様々な学校と太いパイプを持つW.G.T.C.。
そんな会社唯一の弱点というのが…人材だ。
ロボットを増産すればいいではないか…と考えられるだろうが今度はそれを整備する人材も必要となる。
W.G.T.C.は現在アビドス復興事業も行っているがそれと並行して廃墟解体も行っている。
復興事業に注力したいのもやまやまだが日雇いの生徒達の働き先や収入源確保としても廃墟解体やそれに付随する業務も止められない。
収入自体はネイトがミレニアム郊外の廃墟区画をばらせば十二分にあるが…
「金のばら撒きやってもなぁ…。」
それでは働きに来た生徒たちのためにもならない。
しかし、現状アビドスに暮らす不良生徒達のほとんどがアビドスに編入したか日雇いで参加してくれている。
となると…
「あちらの校則の変更があったらしいし…声をかけてみるか。」
そう思い立ち、ネイトはスマホを起動し…ある場所にアポイントをとるのであった。
数日後、
「いやぁたびたび訪問してすまない、サクラコ。」
「フフフッ、お気になさらずに。むしろもっと気軽にお越しになってください、ネイトさん。」
最早諜報合戦など意にも介さず正面突破でトリニティに入りサクラコと会談をするネイトの姿がそこにはあった。
サクラコも微笑みながら迎えてくれた。
「アビドスでのご活躍は七転八倒団の方々から聞き及んでおりますよ。」
「生徒たちが頑張ってくれてるだけさ。俺はただきっかけを作ったにすぎない。」
「ご謙遜を。砂漠に緑の林を生み出すなどまるで主の御業のような事を成さっているというのに…。」
アビドス砂漠の事業はあまり俗世と関わらないサクラコをして目を輝かせるような夢のような話だった。
それこそ、経典にもあるような聖人や神のような奇跡のような話だった。
だが、
「それこそアビドスの皆や七転八倒団、ゲヘナやシスターフッドが手を貸してくれたから出来たことだ。」
ネイトは『人事』を尽くす男だ。
その人事を尽くす助けとなってくれる存在がいてくれることこそ…
「あのことが主の御業というなら…俺にとってはこの繋がりが奇跡だよ。」
「人と人との縁こそが『奇跡』…ですか。」
「主に仕えるサクラコ達からすれば少々罰当たりな考えかな?」
「まさか。とても素晴らしいお考えだと思いますよ。」
と、信じるものは違えど穏やかなお喋りを楽しむネイトとサクラコ。
しばらくとりとめのない、それでいて充実したお喋りを興じ…
「それで本日はどういったご用件で?」
場が温まったところでサクラコがネイトがここにやってきた理由を尋ねる。
「あぁ、それだがな…七転八倒団から聞いたが『あの校則』が施行されたんだろう?」
ネイトも表情に真剣さを帯びそう答えた。
「…ハイ、確かに先日ティーパーティより治安向上の一環として…。」
サクラコも真剣な表情となって語り始める。
ネイトが初めてトリニティを訪問した際に正義実現委員会のイチカの『独り言』で知った新たに施行された校則。
端的に言えば不良も含めたトリニティ生徒の住居を指定するといったものだ。
聞こえはいいかもしれないが…実質的に成績が悪かったり寮費を払えない生徒は収容居住地送りになるというあまりにも強引なものだ。
本来は…アビドスに頻繁に出向いている七転八倒団を捉えアビドスとW.G.T.C.の情報を聞き出すことが狙いの校則だった。
七転八倒団がシスターフッドの所有する寄宿舎に入れたので意味はなくした…とネイトは考えていたのだが…
「エデン条約の締結も近いのでゲヘナへのアピールとして…。」
「…ティーパーティーが主導してか?」
「いえ、おそらくは主要派閥構成員の総意かと。」
見かけ上は『治安向上』という立派なお題目があるこの校則、施行自体のハードルは非常に低かった。
…もっとも派閥間の様々な闘争や格差で内情がドロドロとしたトリニティ。
さらにはエデン条約締結間近な上、締結式はトリニティで行うらしい。
『臭い物には蓋をする』という思想が働いた…という見方もある。
「…シスターフッドとしては今回の校則に関してはどういった態度を?」
「私どもはトリニティ自体の政治とは不干渉を貫いておりますので是でも非でもなく。ですが…。」
元よりティーパーティーとは独自勢力でこれまた独自の政治力を有するシスターフッド。
不干渉主義故にこの校則の施行に関しては物申すつもりはないが…
「恩寵を分け隔てなく齎すのも私どもの務めです。もし、この校則によってお困りの方がいらっしゃれば七転八倒団の方々と同じように受け入れる準備はございます。」
シスターフッドとして助けを求める生徒へ手を差し伸べることは一切のためらいはないようだ。
「…それが聞けて安心した。」
サクラコの答えを聞き表情をほころばせるネイト。
「ウフフッ、ネイトさんもお気持ちは同じようですね。」
サクラコも微笑を浮かべる。
「だったら渡りに船、ということだ。本題に入るが…これをシスターフッドに提案させてほしい。」
「拝見させていただきます。」
ネイトが差し出した封筒を受け取りサクラコが中身を検める。
そこに書かれてあったのは…
「今回の取り締まり対象に当たる生徒の方々へのお仕事のリクルート…ですか。」
トリニティの不良生徒へのW.G.T.C.の仕事の斡旋であった。
「アビドスの復興事業の人手はいくらあっても足りない。それこそ他校の働き手も欲しい位にだ。」
「そこで私共シスターフッドに取り締まり対象の生徒さん方への周知の協力を?」
「生憎、トリニティじゃ我が社は未進出だ。独自に求人を出しても土着企業に押しつぶされるのがおちだ。」
いまでこそ様々な学区で活動しているW.G.T.C.。
しかし、トリニティに関しては殆ど進出していない。
元より伝統ある学区な上そもそもの土着企業の力が他学区の比ではなく強大だ。
お嬢様学校なトリニティと何でも屋気質のW.G.T.C.とでは相性がとても悪いというのもある。
そこで…
「シスターフッドが名代となり呼びかけることによって広く生徒の方々を呼び込もう、ということですね?」
トリニティでも一大勢力のシスターフッドの名を借りて求人を出すことにより知名度を補強しようというのだ。
「方法はサクラコ達が負担にならない範囲で任せる。奉仕活動中に知らせてくれたり学校の掲示板に張ってくれるだけでもいい。」
正直な話、シスターフッドの虎の威を借るも同然の提案だ。
断られても仕方ないとネイトは考えていたが…
「フム…それならばボランティアに来てくださってる方々にも告知のお手伝いをお願いしましょう。」
「…いいのか?」
ネイトの予想に反しサクラコはこの提案を受け入れてくれた。
「方法は違えどネイトさんも私達と同じように生徒の方々を救いたいとお思いなのでしょう?」
「いや、俺は単に…。」
「貴方はアビドスや七転八倒団の方々を見れば単なる労働力として見ていないことは一目瞭然ですよ?」
「む…。」
「労働とは尊きものなのです。正当な雇用主の元で隣にいる方々と共に汗を流し正当なお給金を得る。それでこそ人々の意識は変わるのです。」
ネイトは意識していないだろうがサクラコには分かっていた。
「ネイトさんもネイトさんなりに…困っている方々を助けたいのでしょう?この提案もアビドス…いえ、このキヴォトスの多くの迷える方々の一助になれるようにと。」
「…買い被り過ぎじゃないか?」
彼女の言葉に困ったような笑みを浮かべて答えるネイトだが、
「フフッ、このような買い被りならば私共はいかほどでも買いますよ?」
サクラコもさらに慈しみを深めた微笑でそれに返す。
「貴方はこれまでも真摯に誠実にシスターフッドだけでなく七転八倒団の方々とも向き合ってきました。今回はそれを担保としてお引き受けいたしましょう。」
「…ありがとう、サクラコ。仲介料は毎月『お布施』としてシスターフッドに届けよう。」
「いえいえそんな…!私共は見返りが欲しくて協力する訳では…。」
「無欲恬淡なのはサクラコの美点だがそれではどこかで行き詰まるぞ。それに…俺はタダ働きをするのもさせるのも嫌いだ。」
『実直な仕事には、ふさわしい報酬を』、これは単に仕事に対して正当な報酬を支払うという意味だけではない。
『相応しい報酬』を与えるから『実直に仕事』をこなすように、つまり相手に対しても仕事への『責任感』を教え込む言葉でもあるのだ。
責任感の無い仕事や無報酬の仕事は必ずどこかでいい加減になる。
それを防ぐ意味で雇用主と雇用者の双方に対する警句としてネイトはモットーにしている。
だから、ネイトはシスターフッドに相応しい報酬を払うのだ。
「それに今後今以上に生徒たちがシスターフッドの助けを求めてくるんだ。彼女たちのために受け取ると思って…これは断らないでほしい。」
そう浅く笑ってサクラコに頼み込むネイト。
「…もう、ずるいお方ですね。そう申されては断れないではありませんか。」
今度はサクラコが少し困ったような表情を浮かべ、
「分かりました。迷える方々のためにしっかりと使わせていただきますね。」
仲介料の受け取りを了承するのであった。
すると…
「ではお返しとして…私どももネイトさん…いえ、W.G.T.C.にご依頼したいことが…。」
今度はサクラコからネイトに対して仕事の依頼を持ち掛けてきた。
「フム、聞かせてくれるか?」
これにはネイトも一層姿勢を正してサクラコの話に集中することにする。
「数か月後、我が校トリニティとゲヘナ学園と結ばれるエデン条約に関してですが…。」
締結を間近に控えたエデン条約。
その調印式はトリニティで行われるのだが…
「その会場というのがトリニティの歴史における重大な会議、『第一回公会議』が行われたという『通功の古聖堂 』という場所で行われるのですが…。」
「それほど歴史ある場所ならさぞ荘厳な…。」
「いえ、それが…。」
そんな歴史ある『通功の古聖堂』だが現在はその一帯を含め長年放置され廃墟街となっている。
「…廃墟で解体業やってる俺が言うのもあれだが…保全とかはあんまり考えられなかったんだな…。」
「お恥ずかしい話ですが…。」
「それで?俺に周辺の廃墟の解体を?」
ここまで話を聞くとネイトはサクラコの依頼を予想する。
W.G.T.C.は廃墟解体のプロフェッショナルだ。
通功の古聖堂周辺の整備かと思いそう答えるが…
「いえ、それも大切ですがネイトさんにお願いしたいのは…こちらになります。」
サクラコが差し出したのは…一枚のイラストだ。
そこに描かれているのを見て…
「なるほどな…。」
ネイトはなぜこれがW.G.T.C.に持ちかけられたかが察しがついた。
「如何でしょうか、ネイトさん?」
「…俺が話しを通すより直接提案してみるか?」
「え?」
数分後、シスターフッドの大聖堂付近の敷地にて簡易式のテントが設営され
…
「わぁ、切子細工のティーカップとソーサーですか…。」
「綺麗な澄んだ赤ですね…。」
「シスターさん、お目が高いねぇ。それは着色剤に金を使ってるのさ。」
「き、金ですか!?」
「そいつぁ少々値は張るが…今お買い上げならこっちに並んでいるステンドグラスコースターを1枚につき30%引きでオマケしよう!」
「で、でしたらこちらのティーセットと…!」
アビドスからやってきた生徒がシスターフッドやトリニティの生徒相手に商売をやっているではないか。
商品はガラス製の食器や、
「こちらのブローチ…とてもガラス製とは思えませんわ…!」
「ウチの商品は全部『石英ガラス』さ!そんじょそこらのガラスとは物が違うよ!」
「それに細工も丁寧…。では、こちらの羽根のブローチとテントウムシの髪飾りを頂けますか?」
「私はこのひまわりのノンホールピアスとスカラベのカフスボタンをくださいな。」
「まいど!」
色とりどりのガラスビーズで作られたアクセサリーなどが並んでいる。
トリニティの生徒達はそれらを手に取りその造りを確かめたり店員のアビドスの生徒に値下げ交渉を挑んだりと賑やかに買い物をしている。
「まぁ、とても賑やかですね♪」
「お嬢様にもウケがいいようでよかったよ。」
その盛況ぶりにサクラコも笑顔を浮かべている。
そう、これはアビドスで生徒たちが起業したアビドス砂漠の砂から産まれた『アビドシアングラス』を用いたアクセサリーショップの露店だ。
開業当初こそこじんまりとしていたが現在はアクセサリーのクォリティと手ごろな価格設定もあってアビドス以外の生徒にもそこそこ知られるようになってきている。
最近は大量の高純度石英砂が手軽に入手できるようになりアクセサリーだけでなく食器や小物などの製造も盛んにおこなわれるようになった。
今日はシスターフッドの許可を得てこうして出張出店を行っているのだ。
すると、
「あ、アニキにサクラコさん!」
店員のアビドス生の一人が二人の姿に気付き声を上げると…
「し、シスターサクラコッ!?」
「こっこれはその…!」
「き、休憩中で少し気になっていたので…!」
シスターフッドの生徒は自分たちのトップの登場に姿勢を正し改まる。
少し騒いでいたこともそうだがシスターが光り物を選んでいることを叱られると思ったのだろう。
が、
「フフッお気になさらず。お年頃の皆様が『おしゃれ』をしたいと思うのは当然のことです。『節制』を忘れずにお買い物を『楽しんで』くださいね。」
サクラコも別に目くじらを立てているわけではない。
シスターといえども学生、おしゃれをしたい気持ちもよく分かっているので気にしていない旨を伝える。
が…
(つ、つまり…シスターフッドの一員でありながらこんな煌びやかな物に現を抜かすな…と…?!)
(着飾る暇があるなら…さらに有意義なことにお小遣いを使うようにと…!?)
(き、休憩中ならば次の業務に向けて準備をしなさい…そうおっしゃりたいのですね…?!)
サクラコの言葉を540°ほど捻って勘違いしたシスターたちの表情はこわばっていく。
周囲にいたトリニティ生の顔も青くなる。
「…あ、あら?」
サクラコも何やら只ならぬ空気を感じ取り困惑する。
(あ、ヤバい。)
ネイトも即座にサクラコが勘違いされたと察知、
「どうだ、サクラコも何か買ってみないか?」
すぐさま彼女に商品の購入を勧める。
「え、よろしいのですか?でもお話が…。」
サクラコは本来の目的を果たそうと断ろうとするも…
「まーまー、話し相手は逃げないから。サクラコもおしゃれだってしたいだろう?」
「ササッどうぞ、シスターサクラコ!今日は新作も持ってきてますよ!」
「こんなのとかどうですか!?ロザリオのペンダント、サクラコさんにはぴったりだ!」
「こちら、ハトのペーパーウェイトです!書類仕事中に細やかな癒しをどうです!?」
ネイトが彼女の背を押し彼の意図を察したアビドス生たちが売り込みをかける。
なにせここで対応を誤ればせっかくのお客が逃げてしまいかねない。
売り上げを守るため、どんどんサクラコに商品を勧めビジネストークをかけていく。
「まぁ、なんて綺麗な…。拝見してもよろしいですか?」
サクラコもまんざらではないようで楽し気な笑顔を浮かべ商品を見ていく。
そんなサクラコの様子を見た生徒たちも…
(あ、あれ…?怒って…ない…?)
(サクラコ様、とっても楽しそう…。)
徐々にその表情が和らいでいき…
「さ、サクラコ様。こちらのティーセットなどはいかがでしょうか?」
「トリニティの名のある陶工の作にも引けを取らない綺麗な品ですよ。」
「わぁ…なんて華やかなカップとポットなのでしょう…。お茶会が普段と違った雰囲気で楽しくなりそうですね。」
中にはサクラコにお勧めを教えるなど輪に入っていく者たちも現れるのであった。
そんな賑やかなショッピングの時間も過ぎていき…
「さて、依頼の話に戻ろうか。」
「えぇっと…シスターサクラコ。ウチに何か…。」
客足も落ち着いたところでアクセサリーショップを仕切るアビドス生徒も交え先ほどの話に戻る。
「では…今回、私共が依頼したいのはこちらの物の復元作業にアビドスの貴方方のお力を借りたいと進言されまして…。」
そう言い、サクラコが取り出した紙に描かれていたのは…
「これは…ステンドグラスですかい?」
「はい、古い文献から書き起こされた通功の古聖堂に備え付けられていたステンドグラスになります。」
絢爛でありながら厳かさを感じられるステンドグラスのイラストだった。
「通功の古聖堂の整備はシスターフッドを中心に行われています。ですが…ステンドグラスの再現でトリニティの職人の方々が…。」
聞くところによるとステンドグラスを作る職人の高齢化が進み今のペースでは非常にギリギリなスケジュールなのらしい。
かといってすぐにそんなノウハウを持つ人材を招へいするのもかなり難しい。
そこで声がかけられたのが…
「実際に手に取って分かりましたが…本当に綺麗で丁寧なお仕事です。貴方方なら安心して依頼を任せられると思います。」
アクセサリーだけでなく日夜様々なガラス細工の製品を作り出す彼女たちのアクセサリーショップだ。
「それは光栄な話ですが…どうしてウチみたいなこじんまりした店に?」
生徒が言うように正直そこそこ知名度が出てきたとはいえ学生が経営する小規模な店だ。
こんな大仕事を任せられるには荷が重いと感じるのは無理もない。
すると…
「こちらを職人の方々にお見せしたところ是非共同作業をお願いしたいと…。」
次にサクラコが差し出したのは…
「あ、アニキの依頼で作った時のアゲハチョウのピンバッジ。」
ビナー討伐作戦『Operation: Returning Pequod』の記念品として作られたピンバッジだ。
「はい、職人の方々も材料も精度も文句なしだと褒めていらっしゃいましたよ。それに特筆すべきは…生産速度だと。」
このピンバッジは作戦終了後からそう時間がたたずに数多くの生徒に配られている。
アビドスだけでゲヘナの万魔殿や風紀委員会にハイランダーと大所帯の勢力も多数参加しその全員分を一週間少々で作り上げたのだ。
「あぁ~…うちはアニキのおかげで機材が進んでるからそれで…。」
「あとはステンドグラスは完全な作業のテンプレート化や規格化をしてるってのもあるな。」
それを可能にしたのがネイトの技術と徹底的な効率化だ。
ガラス切断にはネイトが独自に専用機材を開発し高速化、接着の過程も完全に分業化し生産速度を向上させたのだ。
しかし…
「でも、トリニティの職人さんがウチの方法を受け入れてくれるか…。」
いかに腕前が認められようと自分たちは若輩の新規勢力だ。
伝統あるトリニティの職人がどう思うかは分からない。
ひょっとしたら今までのやり方を否定されるかもしれない。
アビドス生は心配そうな表情でサクラコにそう尋ねると、
「フフッ心配ありませんよ。むしろ職人の方々は新しい技法に目がないのですから。それに…。」
「それに?」
「エデン条約こそ古き体制を打倒し未来に進むための条約です。だからこそ新しい風である貴方方に協力していただきたいのです。」
彼女は微笑みながら職人たちの考えとアビドスに依頼した理由を伝え…
「ですのでどうか…新たなトリニティの門出のために私達にどうかお力を貸してはいただけませんか?」
改めてステンドグラスの修復への協力を求めた。
「………アニキ。」
サクラコの言葉を聞き改めてネイトに尋ねる生徒。
その目はどこか楽し気な光を宿していた。
「サクラコのおかげでこっちの人手は何とかなるめどがついた。やるっていうのなら俺もサポートしてやるさ。」
そんな彼女にネイトは浅く笑いながら彼女の背を押す言葉をかける。
彼女たちのアクセサリーショップもW.G.T.C.の傘下の企業だ。
支援を惜しまないのは当然である。
そして、ネイトのエールを受け…
「…じゃあ、よろしくお願いします!」
生徒はサクラコに向け頭を下げて手を差し出すのであった。
その後、詳しい打ち合わせなどを行い…
「それじゃ、サクラコ。今後もいろいろ世話になるがよろしく頼むよ。」
「こちらこそ、W.G.T.C.のご助力を得られるのであれば百人力です。」
「シスターサクラコ、デカい仕事を任せてくれてありがとう!立派なの作ってやるからな!」
「うふふ、楽しみにしています。それから機会がありましたらまた商品を見せてくださいね。」
ネイト一行は車両に乗り込み帰り支度を終えていた。
すると…
「…ネイトさん、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ん?」
発進しようとしていたネイトを呼び止め…
「このエデン条約、三大校のうちの二校がそれぞれの思惑を持ち締結されようとしています。…ネイトさん、このエデン条約を貴方はどう思いますか?」
非常に思い切った問いかけを投げかけるサクラコ。
W.G.T.C.の力を借りることになったとはいえ…企業そのものはおろかネイトの実力は未だ底知れない。
しかも、シスターフッドという一組織的には良好な関係を築けているが生徒会単位で見るとアビドスとトリニティは非常に緊張状態である。
反対に締結相手のゲヘナとは非常に懇意な関係を構築しているという。
もしもの場合…このエデン条約が破綻する危険性も孕んでいる。
サクラコはネイトを通じ…それを見極めたかったのだ。
そして…
「…俺個人的には。」
サクラコの『覚悟』を感じ取りネイトは…
「…いがみ合っていた奴らが手を取り合う努力をする、というのは良い事なんじゃないか?」
あっけらかんとした態度で答えた。
「手を取り合う…努力、ですか…。」
「何世代にもわたって続いてきたことだ。そう簡単に仲良しこよしなんて無理な話だがそれでも努力するのとしないとでは大きな違いだ。」
「…そうですね。」
「まぁ、俺はしがない軍人上がりのエンジニアだ。政治云々は俺より上の仕事だって割り切ってるからあんまりどうこう言える義理はないが。」
ゲヘナやらセミナーとは交渉を行っているもののそれはあくまで『企業』としてだ。
アビドスとしての決定に関しては精々助言程度にとどめ殆どホシノ達に任せている。
…とは言いつつも、
「またまたご謙遜を…。」
しがないエンジニアという部分にはサクラコもツッコまざるを得なかった。
「そんな感じだ。長々話したが…俺としてはゲヘナの治安が少しでも良くなれば万々歳といったところかな。ホシノ達もそんな感じのこと言ってたし。」
「はい、それが聞けて安心しました。」
何はともあれ…ネイトとアビドスに『現状』エデン条約を脅かす意図はないらしい。
「お引止めして申し訳ありませんでした。帰り道もお気をつけて。」
「ありがとう。それじゃあな。」
事情が込み入った問答も終え、ネイト達が乗った車はエンジンを吹かしアビドスへの帰路に就きサクラコは車が見えなくなるまでそれを見送るのであった。
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―――――――――
―――
サクラコとの会談から数日後…
「うっす、アニキ!トリニティから新人たちを連れてきました!!!」
「よろしくお願いしまぁす!!!」
「よく来てくれた、トリニティの諸君。では作業の割り振りを…。」
アビドスにはトリニティから多くの生徒が作業にやって来てくれた。
ゲヘナやアビドスと違い不良の存在こそ割合は少ないがやはり母数がケタ違いなので今までと比べ物にならないほどの参加者だ。
やはりあの新校則の影響を受け収入を得る必要が急務となった生徒も多いようでシスターフッドの呼びかけに応募が殺到。
アビドスと馴染みの七転八倒団がそんな不良たちをまとめ上げてやってきたのだ。
そして…
「アビドスよりシスターフッドの依頼を受けやってきましたっ!!!ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますっ!!!」
『お世話になりますッ!!!』
「よく来てくれたな。こっちこそ頼りにしてるぜ。」
トリニティの『通功の古聖堂』再建チームにはアビドスからの出向組が機材と共に到着。
ステンドグラス再現チームの高齢な獣人が出迎えてくれた。
「早速だがお前さん方の腕前を見せてもらうぞ。」
「うっす!すぐに機材の準備に入ります!!!」
こちらも任された初めての大仕事に気合を入れテキパキと準備に入っていく。
が、
「…なんかデカくねぇかい?」
運び込まれるのは何やら大きな筐体の機械だ。
「コレウチの社長が新しく開発した大型板ガラス用のプリンターとレーザー切削機っす!あの再現図からコンピュータが形を割り出して全自動で…!」
「………いやぁ最近の若ェモンって進んでんだなぁ…。」
「おっちゃん達にゃちんぷんかんぷんだよ…。」
「あ、うちが使ってるアビドスの石英砂とかも持ってきてますが…。」
こうして老若男女入り乱れた『通功の古聖堂』ステンドグラス再建チームも始動するのであった。
が…
「だ、W.G.T.C.がシスターフッドの依頼で…!?」
「い、如何しますか、ナギサ様…!?」
「うっ…うぅ~…!」
アビドスの作業チームに手を出そうにも出せないナギサ筆頭のティーパーティーはこの事態に頭と胃を大いに痛めたという。
なにせ『通功の古聖堂』の修復事業はシスターフッド主導の事業でW.G.T.C.の来訪も正式に依頼を受けてのことだ。
ティーパーティーと言えどこの段階になってW.G.T.C.を追い返すことはできない。
しかも、W.G.T.C.からの派遣生徒はシスターフッドの庇護下にある。
もし手を出そうものならW.G.T.C.はもちろんシスターフッドの離反も考えられる。
さらには『表向き』こそ良好な関係を取り繕っているアビドスの生徒に無体を働こうものなら『裏』での関係を暴露されかねない。
そうなってしまっては…ティーパーティーの権威は失墜しエデン条約締結も不可能になる。
つまり…八方ふさがりなのだ。
「………そちらは現状は静観して構いません…!」
「し、承知しました…!」
苦しげな表情でナギサは部下の生徒を下がらせ…
「それよりも…今は『裏切者』を見つけ出すことが…!」
懐から四枚の生徒の名簿を取り出す。
そこに記されていたのは…『阿慈谷ヒフミ』、『白洲アズサ』、『浦和ハナコ』、『下江コハル』の名前であった。
ちなみに時系列的にはエデン条約編開始より少々前になっています