Fallout archive   作:Rockjaw

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Everyday Life in the Rebuilding of Abydos Part 3

キヴォトス三大校の一角『ゲヘナ学園』。

 

治安の悪いキヴォトスにおいて随一の犯罪発生率を誇る不良の巣窟だ。

 

そんな中、キヴォトスにおいてゲヘナ特有の場所がある。

 

その場所に…

 

「…少し見ない間にここも随分様変わりしたな。」

 

部下を率い顔に『M38ガスマスク』を装着したマコトと、

 

「図面引ける準備期間と資材さえあればこれくらいは一瞬さ。」

 

『アサルト・ガスマスク』を被ったネイトが眼下の様子を眺めていた。

 

そして、二人が見下ろす峡谷では…

 

「いいぞ!持ってってくれ!」

 

「了解しました。今回の重量は370kgです。」

 

同じくガスマスクを装着しつるはしやスコップを持ったゲヘナ生徒たちのグループや履帯とリアカーを装備したプロテクトロンが黄色い塊を運んでいる。

 

見るとその黄色い物体は峡谷の広範囲を覆い数か所からはガスが噴き上がっている。

 

さらに周囲には駆動音を上げてその塊を運ぶベルトコンベアが峡谷に張り巡らされていた。

 

「よぉし、今のでうちの班が一位だ!」

 

「これでボーナスはうちらのもんだぜ!」

 

「おい、負けてらんねぇぞ!」

 

「どんどん掘れ!掘れば掘るだけ稼げるんだからな!」

 

そこで作業中の生徒は我先にと黄色い塊を掘り起こし運んでいく。

 

「なかなかの働きぶりだ。本当にアイツらは我が校の不良どもか?」

 

ガスマスク越しに見えるマコトの表情はまるで信じられないようなものを見るようだった。

 

そう、あそこで作業している生徒はゲヘナの代名詞と言ってもいい不良やチンピラと言った者たちだ。

 

普段から好き勝手暴れ規則違反ばかりやっているのにここでは競い合ってはいるもののまじめに仕事に励んでいるではないか。

 

「聞こえただろ?掘れば掘るだけ稼ぎになるんだ。体力が有り余ってるんなら喧嘩するより掘ったほうが得だと理解してるんだ。」

 

「キキキッ掘っているのは『硫黄』だというのに金払いがいい事で。」

 

「結構危険な作業なんだ。気前良くもなるさ。」

 

そう、ここはかねてよりネイトがゲヘナと交渉し『硫黄』の採掘権を取得した場所…

 

「『ソドミア峡谷』、閉山して久しいと聞くが現役のころもこれほどの盛況ぶりだったのだろう。」

 

ゲヘナはヒノム火山にある峡谷地帯『ソドミア峡谷』。

 

かつてはゲヘナ1の硫黄産出量を誇る鉱山地帯としてゲヘナの工業化と『黒色火薬』の材料の供給源として富国強兵を支えていた。

 

現在は科学技術の発展で自然硫黄の需要が低下し閉山、せいぜい近くから湧き出す温泉目当ての者しか訪れることのない閑散とした場所となっていた。

 

「お陰様でそこらへんは硫黄だらけ。このペースで掘り続けていたら掘り尽くすまで何年かかるか分からない量らしい。」

 

そんな場所に目を付けたのがネイトだ。

 

閉山しても硫黄の湧出は止まることなくソドミア峡谷全体を黄色く染めるほどの量が地上に露出していた。

 

「ベルトコンベア増設はともかく…まさかかつての精製工場を復活させるとは思わなかったぞ。」

 

「廃墟の有効活用において俺の右に出る奴らはいないさ。」

 

しかも、ボロボロになっていた硫黄の精製工場をお得意のクラフトで修理し再稼働させ日夜大量の高純度硫黄を製造している。

 

「それもこれもマコトが許可を出してくれたからここまで順調なのさ、感謝している。」

 

本来、ネイトがこの地で硫黄を採掘できるのはもう少し先の話だった。

 

現在はエデン条約に向けてゲヘナも多忙の時。

 

そんな中、

 

「借りを作りっぱなしは性に合わん。このくらいの手続き、特に面倒でもないから早めただけだ。」

 

わざわざマコト直々にすぐに許可を出してくれたのだ。

 

これには…

 

「それよりたまには万魔殿にも顔を出せ。イブキが貴様が来るのを何時も首を長くしてるんだぞ。」

 

どうやら万魔殿のアイドルも力を貸してくれたらしい。

 

「それは苦労掛けるな。今度伺わせてもらうとしよう。」

 

「全く…その苦労が分かるのなら少しは万魔殿に噛ませてもいいものを。」

 

ガスマスクの下で苦い表情を浮かべるマコト。

 

アビドスの灌漑事業では利益を独占していたと思ったら知らず知らずのうちにアビドス勢力にそこそこの割合で掻っ攫われている。

 

なのに…

 

「産出量に応じて納める物を収めてるんだから文句はなしだぞ。」

 

「ちぃ、額が額なだけに反論しにくい事を…!」

 

ソドミア峡谷の硫黄採掘においては万魔殿が手を回す前に施設復旧やら運搬手段を用意してしまいほぼ利益は約束分の納金分*1だけだ。

 

正直言ってかなり順調な事業のように思えるが…

 

「ま、掲示板に募集の広告出させてくれたおかげで生徒の労働力には事欠かないが…。」

 

ガスマスク越しにネイトは作業中の生徒を心配そうに眺める。

 

本来は精製工場の作業を任せようと思っていたが高給につられて多くの生徒が採掘作業を志願。

 

万全の準備の元行わせているとはいえ硫黄採掘は様々な危険が隣り合わせだ。

 

中でも健康問題に関しては現実でもかなりの被害が出ている。

 

ネイトも連邦製ガスマスクの着用を義務付け万全を期しているが…。

 

そんな彼の心配を察したか、

 

「ふん、生徒の健康を気にしているようだが生憎キヴォトス人は頑丈だ。あれだけの装備なら健康被害はほぼないだろう。」

 

マコトが自信満々に返す。

 

「現に過去のデータを調べたが崩落などの事故以外の作業員の被害は確認されていない。貴様が気をもむべきは我々への支払いだけにしておくことだな。」

 

何ともマコトらしい金に欲深な言葉だが…

 

「…フフッ、議長殿がそう言うのなら俺は銭勘定に集中するとしよう。」

 

それも彼女なりの気遣いだとネイトにも分かり表情を少し和らげた。

 

「ま、あのガスマスクは軍用の強力な奴だ。これくらいの濃度の亜硫酸ガスなら問題ないだろう。」

 

「そんな代物をポンポン支給して利益は出るのか?」

 

「別口で問題ないくらい稼いでるからいいんだよ。」

 

すっかり普段の調子に戻って話す二人。

 

すると、

 

「で?今日は一体何の用だ?」

 

肩越しに彼女を見つつネイトは尋ねる。

 

「む?どういうことだ?」

 

キョトンとした様子で答えるマコトだが、

 

「面倒なことは風紀委員会に丸投げするお前が何の用もなしに『視察』だなんて殊勝なことをするようには思えないからな。」

 

「…キキキッ貴様も分かってきたではないか、ネイト社長。」

 

その指摘を聞き不敵な笑みを浮かべ、

 

「少し付き合え。話がある。」

 

「…いいだろう。」

 

非公式ながらもネイトとの会談を求め彼もそれに応じる。

 

このような話し合いは度々あったが今回は少々様相が違った。

 

万魔殿が用意したバスに乗り込むと…

 

「申し訳ありません、ネイト社長。何分ゲヘナの機密に関わりますので道中は貴方とアビドスの生徒の方々には目隠しをさせてもらいます。」

 

ネイトと同行していたアビドス生徒全員にアイマスクが手渡される。

 

「次に見えた時はあの世…とかないよな?」

 

いつになく物々しい様子にネイトも警戒するが…

 

「その程度で貴様達を仕留めきれるのなら世話はない。安心しろ、身の安全は保障する。」

 

憮然とした表情でそれに返すマコト。

 

相手はゲヘナ最強を圧倒し単身で大軍勢を殲滅する男だ。

 

目隠し程度で止まるとは思えない。

 

「ま、見えない状態で戦うのは慣れてるからどうとでもなるか。」

 

ネイトも見えない敵との戦いには心得があるのでマコトの言葉を信じアイマスクを掛ける。

 

「それは、ついたら起こしてくれ。」

 

視界を塞がれては景色も楽しめないので…

 

「Zzz…Zzz…。」

 

すぐに姿勢を崩し寝息を立てる。

 

「だな、んじゃアタシらも…。」

 

それを見たアビドス生たちも…

 

『Zzz…Zzz…。』

 

揃って昼寝の時間に入る。

 

「…こいつ等の肝っ玉は重金属製か?」

 

マコトはそんな彼らを感心するやら呆れるやら複雑な表情で見つめるが、

 

(…全員、手は拳銃に添えている。こちらが銃を構えようものなら…。)

 

夢の中であっても警戒を怠っていないことに気付く。

 

「あ、あの議長…。」

 

「構わん。むしろ寝てもらってたほうが都合がいい。」

 

こうして、ネイト達を載せた車両は出発。

 

しばらくし…

 

「ネイト社長、到着しました。」

 

「んむ?…あぁそうか。」

 

一行は目的地に到着。

 

「よぉし、降りるぞ。」

 

『うぃ~っす。』

 

目隠しをとると…

 

「ん?」

 

まず気付いたのは周囲の景色の変化だ。

 

そこは…トンネルの中のような場所だった。

 

「さぁ、アビドスのご一行。降りるがいい。」

 

マコトに促され降車し…少し進んだ所でこの場所が何なのか理解できた。

 

「お、おいアレって…!?」

 

「せ、戦闘機…?!」

 

そこに鎮座していたのは山岳用の迷彩が施され雄々しい雰囲気を漂わせるかなり特徴的な二種類のジェット戦闘機たち。

 

「ドラケンとビゲン…合計一個中隊とは…。」

 

どちらもネイトが生まれる前に現役を退いていたが北欧の古豪とも言えるその戦闘機の名前を口にする。

 

「ほぉ、詳しいな。『超疾風竜丸』と『凄怒雷光丸』、我がゲヘナが誇る空の精鋭部隊だ。」

 

ネーミングセンスは相変わらずだが間違いなく…

 

「つまりここは…。」

 

「キキキッアビドス解放の英雄とその同胞たちよ。ようこそ、我がゲヘナLuftwaffe空軍の秘密空軍基地『Drache Schanze竜の砦』へ。」

 

ゲヘナの航空戦力の重要拠点であり…

 

「この肌寒さと壁面の地質…山岳地帯を掘り抜いた地下空軍基地か。」

 

「察しがいいな。」

 

ネイトですらお目にかかったことがない地下の航空基地だ。

 

基本的に地続きのキヴォトス。

 

しかも、ゲヘナは地政学的に長年敵対関係のトリニティと連邦生徒会が統べるD.U.が隣接している立地だ。

 

つまり…万が一の事態があった場合は即本土決戦待ったなしだ。

 

空の戦いも必然的に急を要するものとなる。

 

制空戦に負ければ地上の基地はすぐに役に立たなくなる。

 

そこで広大な山岳地帯を有するゲヘナの歴代のトップは有事の際に破壊されない空軍基地を欲し長い年月を掛けてこの地下基地を建造したのだ。

 

当初はレシプロ機での運用だったが改修を重ね今ではジェット戦闘機を運用・整備できる設備を備えている。

 

「ここは数か所あるうちの一つだ。おそらくトリニティの羽根付き共も詳細な場所は把握できていないだろう。」

 

「なるほど、これは軍事機密待ったなしだな。」

 

「理解してくれたようで助かる。」

 

「俺もこれほどの基地を見たのは初めてだ…。」

 

中々見れないものを見て興奮を覚えるネイトだが…

 

「で?わざわざ自慢するために招いたわけではあるまい?」

 

何の狙いもなしに自分にゲヘナの機密を明かすなど到底思えない。

 

「無論だ。ついて来い。おい、アビドス生徒達を案内してやれ。」

 

マコトもそのつもりのようでネイトを基地の一室に通す。

 

「飲み物はこれでいいか?」

 

「お構いなく。」

 

「まぁ飲め。ゲヘナ産のブドウで作った果汁100%ジュースだ。」

 

自分の分はわざわざワイングラスに注ぎネイトにも飲み物を差し出し…

 

「それで?そろそろ用件を教えてもらえるか?」

 

ネイトはマコトにいよいよこの場を設けた真意を訪ねる。

 

「では単刀直入に言おう。…アビドスは近々本格的な戦闘飛行隊を創設すると聞いている。」

 

「…あぁ~あの時の話を聞いたのか。」

 

マコトの言う内容には心当たりがある。

 

ビナー討伐後の訓練の折、確かにシロコとそのような意図の会話はしていた。

 

「休憩中の世間話程度で随分気前のいい対応だな?」

 

あの場での雰囲気ではほんの提案程度の話でそれはまだまだ先のことだ…と思われるとネイトは予想していた。

 

「キキキッ世間話か…。確かに航空部隊の創設など一朝一夕では不可能だ。」

 

マコトも様々な戦力を保有するゲヘナのトップ、普通はそう考える。

 

が、

 

「…相手がイロハ率いる二個戦車中隊を一個小隊でほぼ一方的に殲滅する能力の戦車を人知れず短期間で配備したアビドスでなければな。」

 

「………。」

 

問題はその話がアビドスの幹部たちの口から出たことだ。

 

『アビドス独立戦争』の際、孤立無援のアビドスがゲヘナ情報部すらその影もつかめぬままにあれほどの強力な戦車を手に入れている。

 

風紀委員長との戦闘後は目を光らせていたのに…だ。

 

そんな学校が世間話の範疇とは言え『航空機の導入』を一考していた。

 

マコトにとっては十二分に注目に値することだ。

 

「それで?」

 

「…俺の口からは詳しくは言えないが耳の速いマコトなら知っているだろう?」

 

「キキキッ…『鳴砂空港』、アビドスで最後に稼働していた空港が整備中だという情報は掴んでいるぞ。」

 

それを証明する動きも掴んでいる。

 

『鳴砂空港』、アビドスの一角にあり砂に飲まれかけた廃棄された空港だ。

 

かつてはアビドスの空の玄関口でもあったが砂漠化と住民減少によって閉鎖されて久しい。

 

その場所が…現在滑走路の降り積もった砂の除去や滑走路の再舗装などの準備が進んでいるが…

 

「が、あまりうまくいっていないらしいな?」

 

「………幾ら俺でも大規模空港の再整備は経験がなくてな。」

 

普段ネイトが行っている整備作業とは一味も二味も違う事業。

 

かつての連邦でもB.O.S.クラスの大所帯が行っても完全復旧には至らなかった、と言えばどれほど大規模工事か理解できるだろう。

 

復旧にはまだしばらくかかるだろう。

 

だが…

 

「そこで…ゲヘナが一肌脱ごうではないかと思ってな。」

 

「というと?」

 

「これほどの基地を建造できる技術力が我々にはある。砂に埋もれた空港の再建など容易い。」

 

その空港の復旧作業にゲヘナが協力しようというではないか。

 

この基地を見てもその技術はかなりのものだとすぐに理解でき、とても頼もしい申し出だが…

 

「…対価は?」

 

問題はゲヘナへの支払いだ。

 

資金にはだいぶ余裕があるが…

 

「なぁに費用は今回は気にするな。その代わり…。」

 

マコトが求めるのは金ではない。

 

「…ネイト社長、貴様の『秘密』を見せてもらおうか?」

 

「秘密…か。」

 

「そろそろゲヘナとしてもはっきりさせておきたいのだ。…『ガウスキャノン』、その本来の姿を…な。」

 

アビドス…いやW.G.T.C.がこのキヴォトスにおいて恐れられている『力の象徴』の情報だ。

 

カイザーとの戦争に端を発し三大校はおろか連邦生徒会ですら恐れをなす正に『怪物』。

 

一たびその猛威が向けられようものなら…たとえゲヘナでも瞬く間に壊滅するだろう。

 

その一端をビナーとの一戦で垣間見ることが出来た。

 

あのビナーに容易く深手を与える『ガウスキャノン』。

 

しかもあれは保守パーツを組み上げた物だと説明されていた。

 

つまり…本来の姿はさらなる脅威を意味するということに他ならない。

 

しかも…

 

(ネイト社長は『雷帝』の存在を知らないと言っていた…。だが、もし奴が正体を隠し接触していたら…?)

 

マコトの最大の懸念としてはネイトと雷帝の関係だ。

 

もし、それに雷帝が関わっていたとなると…ゲヘナとしても対応を考えなければならない。

 

無論、そうでなかったとしてもまた別の対応が取れる。

 

さらに、

 

(あの規格外な神秘の力…。ともすれば、あの『超人』と謳われた連邦生徒会長すら凌駕する…。)

 

あの作戦時にネイトに顕現した巨大なヘイローとリバティ・プライム達を生み出した破格の神秘の力。

 

おそらく…いや、確実にその力は雷帝のそれを超えるだろう。

 

その情報も探る必要がある。

 

「これはいわば情報料…とでも思えばいい。それほどの価値があるということを理解してもらいたい。」

 

情報は最強の武器だ。

 

大空港の再建、確かにゲヘナにとってもかなり高額な出費となるが…W.G.T.C.の武力の象徴とネイトの力の根幹を知るためならば高くはない。

 

「フム…。」

 

出されたブドウジュースで喉を潤わせネイトは考え…

 

「…いいだろう。」

 

「…え?」

 

「少々条件は付けさせてもらいたいが…それが飲めるのなら構わない。」

 

マコトが拍子抜けするほどあっさり了承した。

 

「なに呆けてる、マコト?」

 

「い、いや…一度持ち帰られると思っていてな…。」

 

誤解されがちだが…ネイトはアビドスのトップでは決してない。

 

あくまでアビドスの企業のトップでその上にはアビドス生徒会がいる。

 

これほどの重要案件ならホシノ達の承認がいるとマコトは予想していたが…

 

「空港の再建はともかく…『アレ』はW.G.T.C.独自の戦力だ。どうこうするのは俺の裁量に任せられてある。」

 

『アレ』に関してはホシノ達の権力は及ばない。

 

運用に関しての最高権力者はネイトなのだ。

 

「で?少し条件を付けさせてもらうがそれでいいか?」

 

「…あぁ、構わない。感謝する、ネイト社長。」

 

「詳しい日時は後日伝えさせてもらおう。」

 

こうしてネイトとの会談はマコトとしては若干肩透かし気味であるが上手く纏まり二人は握手を交わすのであった。

―――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

そんなマコトとの会談も数日前のこと。

 

この日はW.G.T.C.の定休日だ。

 

アビドス復興事業は重要だが…根詰めすぎると体を壊してしまう。

 

週休二日制は現在も続けておりこの日…

 

「ほら、アリス。できたぞ。」

 

「わぁありがとうございます、パパ!」

 

ネイトはアリスとの親子の交流を楽しんでいる。

 

現在はエンジニア部の部室の一角を借りて何やら作業中だ

 

見かけだけは親子でDIYを楽しむ穏やかな休日の風景だが…

 

「引いてみてくれ。」

 

「分かりました!」

 

アリスが手に取ったのは自分の身長よりも巨大な弓だった。

 

超銃社会のキヴォトスにおいても異質な武器…

 

「使い心地はどうだ?」

 

「…パンパカパ~ン!アリスの『嵐の弓:ガンマレイバースト』の熟練度が上昇しました!」

 

アリスが持つ二つ目の武器、対装甲兵器用超長距離射的コンパウンドボウ『嵐の弓:ガンマレイバースト』だ。

 

【挿絵表示】

 

 

アリスにプレゼントしてから彼女の使い心地などを聞きながら改修が続けられていたのだ。

 

「そっか。使いやすくなったようでよかったよ。」

 

「パパはすごいです!使いやすくなっただけではなくて本当にゲームみたいなデザインにできるだなんて!」

 

ネイトは武器にあまり装飾はしないがここはキヴォトス、銃もアイデンティティを表す重要なアイテムである。

 

なので、シンプルな見かけだった『嵐の弓:ガンマレイバースト』も運用に支障をきたさない範囲でアリスが好きなRPGの武器のような装飾が施された。

 

「フフッ愛着がわいてくれて俺も作った甲斐があったよ。」

 

「えへへ…♬」

 

ネイトも嬉しそうなアリスを笑顔で撫でると彼女も気持ちよさそうに目を細める。

 

そして出来上がったのなら性能チェックをしたいというのも人情。

 

「それじゃ試射してみてくれ。」

 

「ハイッ準備してきますね!」

 

「ウタハ、射撃場を借りるぞ。」

 

「あぁ、私も拝見させてもらうよ。」

 

ウタハの許可を受け部室内にある射撃場を借り性能チェックをすることに。

 

用意されたのは10㎜厚の圧延鋼板が20枚ほど一列に並んでいる。

 

「あれだけ大きな弓…一体どんな威力なんだろう…!」

 

「アリスの新装備…使われるのは初めて見ます…!」

 

ウタハだけでなくヒビキとコトリも興味深そうに見学する中…

 

「パパ、準備できました!」

 

手早くアーチェリー用の装備を身に着けたアリスが射撃位置に立ち…

 

「よし、じゃあ通常型の矢を射って見てくれ。」

 

「では…すぅぅぅ…!」

 

ギィィィ…!

 

その細腕からは考えられないキヴォトス人離れした怪力によって引絞られる『嵐の弓:ガンマレイバースト』。

 

複合鋼材によって形成された重厚なリムからはまるで獣の唸り声のような金属音が鳴り響く。

 

「三人とも、耳を塞いでいた方がいいぞ。」

 

「え?」

 

「アレをただの前時代の武器だとは思わないことだ。」

 

それを見てエンジニア部に警告しつつネイトは耳をふさぐ。

 

「まさかぁ弓の発射音は精々100dBも行きません!拳銃の発砲音以下の音なんかキヴォトス人には…!」

 

これには様々な知識に精通するコトリが胸を張って反論する。

 

そう、キヴォトス人にとって銃声は最早日常の雑音も同然。

 

今更耳元で聞こうが難聴になることの方が稀なので正直ネイトの行動は滑稽に思えた。

 

ヒビキとウタハもどうやらそのような感じで耳を塞ぐつもりはないらしい。

 

が、三人は甘く見ていた。

 

目の前にいるのは枯れた技術で自分たちを追い抜く技術力を誇るエンジニアのネイト。

 

そして、そんなエンジニアが娘を思う一心で生み出した怪物を引き絞るのも…

 

(ロックオン…完了…)

 

キヴォトス人を凌駕しネイトの養女であるアリス。

 

そんな二人が組み合わされれば…

 

「穿て、蒼穹の果てまでも!!!」

 

ズドバァオンッ!!!!

 

「「「―――ッ!!?」」」

 

部室内に鳴り響く銃声などかわいく思える発射音が三人の聴覚にジェットエンジン音を間近で聞いたかのような衝撃がダイレクトに襲い掛かる。

 

放たれた特製の矢も超高速で飛翔し…

 

バギャガギャガギャガギャガァッ!!!!

 

標的の圧延鋼板を次々に貫通。

 

タングステン製の鏃は7枚ほど貫通したところで停止。

 

「…よし、クルセイダーの正面装甲なら難なく貫けるくらいには改良できたな。」

 

「それにとっても引絞りやすくなっていました!」

 

コユキの偽装ドローン撃墜の時よりも改良が進み扱いやすさと威力共に向上した『嵐の弓:ガンマレイバースト』にアリスも満足げだ。

 

そして…

 

「「「………。」」」

 

「だから耳塞げって言ったのに…。」

 

先程の爆音をまともに聞いてしまったウタハ達は糸が切れた人形のように立ち尽くしている。

 

なにせいきなりジェットエンジン級の爆音が発生したのだ。

 

そんな爆音を何の防護策もなしに聞いてしまってはこうもなる。

 

「アリスも平気か?」

 

「パパがくれた耳栓のおかげでへっちゃらです!」

 

当のアリスもある一定以上の音を遮断する特殊な耳栓を装着しているので問題ないようだ。

 

すると、

 

「なっなんですか!?今の音は一体!?」

 

エンジニア部の入り口からユウカが駆け込んできた。

 

「すまない、ユウカ。アリスの弓の試射をやってたところなんだ。」

 

「ゆ、弓を射ってなんて音出してるんですか…!?」

 

「ごっごめんなさい、ユウカ…。」

 

「あッその…爆発とかじゃなければ大丈夫よ、アリスちゃん。」

 

申し訳なさそうにするアリスだが気にしないように言うユウカ。

 

毎日どこかの部室が吹っ飛んでいるミレニアムではこれくらいは些末な問題で彼女も驚いただけで特段叱るつもりはないようだ。

 

「それで…ウタハ先輩たちはどうしたんですか、ネイト社長?」

 

「耳塞げって言ったのに無防備にアレを聞いた。」

 

「………うわぁ…。」

 

「それでユウカ。俺に何か用だったんじゃないのか?」

 

ネイトはウタハ達の惨状に絶句しているユウカにそう尋ねた。

 

「えッ!?ど、どうして…?!

 

「俺やアリスじゃなく音にだけ反応していた。つまり、俺がここにいるということを把握しやってきたんだろ?」

 

「え…えぇ、その通りですが…!?」

 

まさかピタリと言いてられ再び言葉を失うも…

 

「スゥ…アリスちゃんと時間をお邪魔して申し訳ありません。ですが少々お時間よろしいでしょうか、ネイト社長?」

 

気を取り直しネイトに同行を願うユウカ。

 

「時間かかるか?」

 

「いえ、ほんの1時間もあれば…。」

 

「…分かった。すまない、アリス。ちょっと行ってくる。」

 

「はい!行ってらっしゃい、パパ!」

 

「それからウタハ達が正気に戻ったらこれでジュースでもご馳走してやってくれ。」

 

「分かりました!」

 

短時間で済むとのことなのでネイトはウタハ達をアリスに任せ彼女に同行することに。

 

「どうぞ、お入りください。」

 

少し歩き、ネイトはセミナーの会議室に通され…

 

「失礼す…ってノアにヒマリ?」

 

「急にお呼び立てして申し訳ありません、ネイト社長。」

 

「ご無沙汰してますわ、ネイトさん。」

 

中にはノアとヒマリ、

 

「それに見ない生徒がいるが…。」

 

「初めまして、ネイト社長。私は各務チヒロ、ヴェリタスの副部長を務めているよ。」

 

「あぁ、ヒマリの代わりにヴェリタスを纏めてるっていう…。」

 

「いつもうちの子たちがお世話になってるね。」

 

ネイトとは初めて顔を合わせるヴェリタスの副部長兼部長代理のチヒロが席についていた。

 

さらにそこにユウカが座りネイトは対面の椅子に腰を掛ける。

 

「まずは先日よりアビドス砂漠で調査を行っている『気象観測部』の受け入れなどの準備、ありがとうございます。」

 

「なに、アビドスとしてもあの場所は未知の場所となってしまったから調査してくれるのであれば協力は惜しまないさ。」

 

いまやアビドス砂漠もミレニアムにとっても見所がある場所になっている。

 

アビドス大オアシスの復活と周囲一帯の砂の白化による気候変動の調査に訪れている『気象観測部』の生徒たちも大勢いる。

 

アビドスとしてもこのデータは得難いもので積極的に受け入れ周辺の砂漠との違いが日々明らかになりつつある。

 

そして、この調査を行うためにミレニアムから支払われる委託費や謝礼もアビドス高校にとっては重要な収入源になりつつある。

 

さらに、

 

「それからこれはまた近々アビドス生徒会にも要請を出すのですが…ノア。」

 

「はい、アビドスとトリニティ図書委員会が行っているという『アレクサンドロス分校』の内部調査にミレニアムの『古代史研究会』が同行したいという意見が出ているんです。」

 

どこからうわさを聞き付けたか、『古代史研究会』もアビドスに熱視線を向けているようだ。

 

ネイト達がアレクサンドロス分校で見つけた古代の石板や古の文献など。

 

旧きを知ろうとするこの部活からしてみれば垂涎の代物だろう。

 

「さすがミレニアム、耳が早い。生憎そっちの決定権は俺にはない。用件はあらかじめ伝えておくからホシノ達に交渉してもらえるか?」

 

「ありがとうございます。そうしていただけでも円滑に交渉ができますので助かります。」

 

何分、アレクサンドロス分校の蔵書量は膨大だ。

 

専門知識のないアビドスと一度に送れる人員に限りのあるトリニティ図書委員会ではいつまでかかるか考えたくもない。

 

そこに別視点とはいえ知恵が増えることは歓迎すべき事なのでネイトも個人的には前向きに受け止めたようだ。

 

と、なかなか和気あいあいとした雰囲気で話が進んでいく中…

 

「…さて、そろそろ本題に入ってもいいだろう。」

 

ある程度場が温まったところでネイトが斬り込む。

 

「………やはり気付きますか。」

 

「セミナーとヴェリタスのトップ層がそれぞれ二人も揃えば、な。」

 

困ったように笑うユウカに浅く笑いながら指摘するネイト。

 

万魔殿と風紀委員会程ではないとはいえセミナーとヴェリタスは本来相容れない組織同士だ。

 

そんな二組織が席を並べているとなれば…それ自体が何かがあるという証左になる。

 

「…まずはこちらをお確かめください。」

 

これ以上引き延ばすのは無意味と判断しユウカは小さなアタッシュケースを取り出した。

 

蓋を開けて中をネイトに見せるとそこにあるのは…

 

「ボビン…ということは…。」

 

「はい、耐衝撃ファイバー。その量産第一ロットです。」

 

ミレニアムが心血を注ぎ再現したネイトが持つ特殊防弾繊維『耐衝撃ファイバー』だ。

 

「コユキの騒動からよくもまぁここまで短期間で…。」

 

不本意ながらもあの騒動に関わったネイトからすれば十分すぎるくらい早い立て直しだが…

 

「えぇ…セキュリティの見直しや信頼できる製造ラインの確保…大変でしたよ…。」

 

「アハハ…今度はコユキちゃんでも絶対に盗み出せないような態勢ですのでご安心を…。」

 

まるでくたびれたOLのような暗い表情を浮かべるユウカとノア。

 

それだけであれからどれほど苦労したかがしのばれる。

 

既に製造法は確立していたがミレニアムきっての問題児のコユキの事件によって関係機関の総力を挙げてさらに厳重な態勢でようやく量産にこぎつけることが出来たのだ。

 

「セキュリティシステムの構築には私たちも関わっていますのでご安心を。」

 

「電子的にはもちろん物理的にも万全な機密態勢だよ。」

 

「…まぁ、餅は餅屋ってやつか。」

 

しかも、今回はヴェリタスにも協力を仰ぐほどの本気っぷり。

 

「完全な製法を知るのは?」

 

「私とノアと新素材開発部の選抜部員のみです。」

 

「ヴェリタスもあくまでセキュリティ構築のみ。その繊維がどういった組成で製造されたかまでは存じておりません。」

 

「なるほど…。」

 

約束はほぼ問題なく果たされている。

 

あとは…

 

「…手にとっても?」

 

「どうぞ。」

 

この『耐衝撃ファイバー』がネイトが求める性能かどうかだ。

 

見かけはネイトが提供したサンプルとうり二つだ。

 

「すまないが、部屋の隅を借りるぞ。」

 

「え、えぇ構いませんが…。」

 

ユウカから許可を得て…

 

「よいしょっと。」

 

ガシャン!

 

「こ、これがクラフト…!?」

 

「これで驚いていたら持ちませんよ、ちーちゃん。」

 

「相変わらず理解が追い付かない能力ですね…。」

 

「ダメなんだろうけど…もう見慣れちゃったわ…。」

 

アーマー作業台をクラフトし、

 

「…これでいいか。」

 

ガシャン!

 

ポケットからハンカチを取り出し耐衝撃ファイバーと共にクラフト。

 

一瞬のうちに耐衝撃ファイバーが消えたが…

 

「「「「?」」」」

 

その真意がつかめず疑問符が浮かぶ四人。

 

「あの、それは…?」

 

「ん?これが一番手っ取り早いテストなんだ。」

 

そして、ネイトは折りたたんだ古新聞紙を何部かか重ねて机に置きそのハンカチを被せ…

 

「それじゃ…!」

 

「ちょちょちょ!!?」

 

「なっ何を!?」

 

懐からデリバラーを取り出したかと思うと…

 

ビシュビシュビシュ…ッ!

 

くぐもった銃声を響かせハンカチに向け10㎜弾を発砲。

 

いきなりの行動にユウカとヒマリは驚愕しノアとチヒロも目を開き言葉を失っている。

 

これでは無残に机も壊れるか…とユウカも心配したが…

 

「種も仕掛けもございます、ってな。」

 

「え…!?」

 

「嘘…!?」

 

「信じられません…!?」

 

「どッどうなって…!?」

 

ネイトが手に持ったのは精々表面がへこんだ程度の新聞と…

 

「だ、弾丸が…止まって…!?」

 

発砲された回数と全く同じ個数の弾頭を受け止めたハンカチだった。

 

「驚かせてすまない。しかし流石はミレニアム、完璧なクォリティで仕上げてきたな。」

 

突然の発砲を詫びつつ耐衝撃ファイバーの完全再現を称賛するネイトだが…

 

「は、ハンカチが…防弾性能を…!?」

 

「いくらあの繊維でもそんなことは…!?」

 

ユウカとノアはその事実を受け止め切れずにいる。

 

確かに耐衝撃ファイバーの性能は群を抜いている。

 

だが、それはあくまで『防弾ベスト』として用いるならだ。

 

幾ら強靭な繊維でもハンカチほど薄ければ容易く弾丸は貫いてしまう。

 

だが、ネイトが手を加えたハンカチは拳銃弾では大口径の部類である10㎜弾を完全に受け止めている。

 

常識的には…考えきれない耐久力だ。

 

そんな中…

 

「…なるほど、それがノノミさんや便利屋のお嬢さんが来ていた衣服の秘密ですね…。」

 

ヒマリは気付く。

 

自分たちも目の当たりにしていたではないか。

 

カイザーコーポレーション本社に殴り込んだノノミとムツキがキヴォトス人でも確実にノックアウトされるはずの弾丸を浴びて無傷だった光景を。

 

その時…彼女たちは制服の上からそれぞれ別の衣服を着ていた。

 

「仕組みは分かりませんが…その耐衝撃ファイバーで加工された衣服は元の生地の薄さのままとてつもない強度を付与できるんですね。」

 

「さぁ、そこは企業秘密ってやつさ。」

 

ハンカチに食い込んだ弾頭を除去し再びポケットにしまい、

 

「合格だ、ユウカにノア。よくこの繊維を再現できたものだ。」

 

席に着き、ユウカとノアに耐衝撃ファイバーの再現の完遂に賞賛と感謝の言葉をかける。

 

が、

 

「えッ?あっありがとうございます…!」

 

「ご、ご満足いただけたようで…。」

 

先程の衝撃が抜けきっていないのか心ここにあらずと言った様子の二人。

 

「さて、ミレニアムは約束を果たしてくれた。今度は俺の番だ。」

 

そう、ネイトとミレニアムの契約。

 

耐衝撃ファイバーを完全に機密にして量産できた暁には…

 

「遠慮なく言ってくれ。俺の持つ技術…どんなものでも提供しよう。」

 

ネイトの持つあらゆる『連邦技術』をどれか一つ提供するというものだ。

 

技術において他学の追随を許さないミレニアムをもってしても…ネイトの技術はなんとしても欲しいものばかり。

 

ロボットに始まりレーザーにプラズマ、ガウスライフルなどの武器はもちろんそれらに付随する基礎科学に薬品etc…。

 

それらをどれか一つ、好きに選ぶことが出来る。

 

「さぁ、キヴォトスの科学の最高峰…君たちは一体何が望みなんだ…?」

 

さながら魔法のランプの魔人かのような大仰な仕草でユウカたちに問うネイト。

 

すると…

 

「…まずはこちらをご覧ください。」

 

ユウカはネイトに向けある書類を差し出した。

 

「…耐衝撃ファイバーの価格、か。」

 

そこに書かれてあるのは耐衝撃ファイバーの値段だ。

 

確かにネイトは作られた繊維は全て買い上げると言っていたが…

 

「結構いい値段なことで…。」

 

「何分、キヴォトスでは新種の繊維かつここまで厳重な生産体制なもので。」

 

化学繊維というカテゴリーでいうと非常に高価だった。

 

「…いいだろう。ここまでしてくれたんだ。約束通り全て買い上げ…。」

 

それでもネイトにとってこれくらい支払えば耐衝撃ファイバーを供給してもらえるなら妥当な価格だ。

 

すぐさま支払いのために小切手を取り出し金額を書き込もうとするも…

 

「ミレニアムにはその価格を大きく割引く準備があります。」

 

「…何?」

 

なんとユウカたちの方から値下げの提案が出された。

 

三大校の中では最も『商売人気質』な気質を持つミレニアム。

 

そんな学校からこのような提案がされるということは…

 

「…見返りは?」

 

代金では得られない対価を求めているということに他ならない。

 

「単刀直入に言いますが…ネイト社長、貴方に関する情報の開示。それがこの減額の条件になります。」

 

「…なるほど、そう来たか。」

 

ユウカは説明を始める。

 

「先日のビナー討伐作戦『Operation: Returning Pequod』の映像や現地に赴いたヒマリ先輩たちの証言などを検証し…。」

 

「我々ミレニアムも早急に解明しなければならない事態になりました。」

 

あの激戦の衝撃は彼女たちの脳裏にもいまだにこびりついている。

 

電磁投射式の巨砲、そんなものエンジニア部ですらいまだ構想段階だ。

 

対神秘の電磁障害兵器、そんなもの過去をさかのぼっても構想すらない。

 

リバティ・プライム、最早存在自体が理外の存在だ。

 

「私たちの技術ですら貴方の影すら掴むことが出来なかった。だから…こうして見返りを提示して話してもらおうってわけ。」

 

疲れた表情を浮かべチヒロは降伏宣言を告げる。

 

W.G.T.C.のセキュリティはハッカー集団ヴェリタスをもってしてもその牙城を崩せなかった。

 

アビドスの防諜能力を現した『砂塵のベール』。

 

それは…科学技術の頂点が誇る電子の目すら欺く不可視の物になっていたのだ。

 

そして、

 

「『森羅万象に愛されし才能の持ち主』である私から何時までも言いくるめられるとは思わないことですよ、ネイトさん?」

 

ヒマリの淡い紫色の瞳がネイトを射抜くように見つめる。

 

あの日、ネイトの背に輝き自分達にもしっかりと形状が認識できた巨大なヘイロー。

 

結局あの時はネイトにのらりくらりと躱されてしまったが今回ばかりは絶対に逃さない。

 

「誤解を恐れず申し上げます。『特異現象捜査部』を任されている身から申しますと…貴方のことを無知のまま放置するのは危険と判断しました。」

 

「さしあたって…ミレニアム郊外の廃墟区画の水没地帯、そこで何が起こっているかを教えていただくことが最低条件となります。」

 

『警戒』と『見返り』、彼女たちが今出せる手札を全て切った。

 

(どう…?!)

 

それでも…ユウカは一切気を抜けない。

 

何せ…

 

「………。」

 

眼前のネイトは完全なポーカーフェイスで反応を示さない。

 

その表情からは全く感情が読み取れない。

 

重い沈黙が室内に立ち込める。

 

(だ、ダメだった…かしら…?!)

 

ユウカは焦り始める。

 

ネイト相手に普段のアプローチでは確実に躱される。

 

なにせ入念に外部に漏れるであろう情報源はあのゲーム開発部ですら塞がれているのだ。

 

デジタルが主流な現在においてなんともアナログながら『人』とのつながりだけでここまでミレニアムに尻尾を掴ませさせなかった。

 

ならば、ネイトのその気質を逆手にとろうとユウカは考えた。

 

以前、アビドスを訪れた折にこう聞かされた。

 

ネイトが信じるのは…『信用』と『契約』と。

 

『信用』は何とか築けてきた自負がある。

 

そして、契約。

 

ネイトが欲する『耐衝撃ファイバーの値引き』というギブを提示し『情報』というテイクを得る。

 

以前、ネイトの交渉に同行した際に教えられたことだ。

 

それらを用いたうえでユウカもあれから交渉技術の腕は上げた自負があったが…

 

「………で、ですので…どうか…!」

 

この空気に耐えきれずそう漏らしてしまう。

 

すると、

 

「…フフッ。ユウカ、腕を上げたな。」

 

「え…?」

 

ネイトが表情を和らげユウカを誉め、

 

「だが、踏み込みすぎないことを意識し過ぎて今度はへっぴり腰になったな。」

 

先程の交渉に対する評価を述べた。

 

「へッへっぴり腰…?」

 

「そうだ。…わざわざ値引きの提案なんかしなくてもあるじゃないか。ミレニアムが俺に物申せる手段が。」

 

「えぇッ!?」

 

「そ、そんなのどこに…。」

 

ネイトがそんな弱みを残すとは思えず思わず声を上げるユウカと信じられないものを見るような目を向けるヒマリだが…

 

「ユウカ、君も言ってただろう。…廃墟区画の契約だ。」

 

「………あぁッ!!?」

 

そう、あるではないか。

 

カイザーから委託される形で請け負っている『廃墟区画の解体事業』。

 

これに関しては明確にW.G.T.C.の上にミレニアムが存在している。

 

無論、余りにも理不尽な要求は突っぱねるが…

 

「『作業状況の現地視察がしたい』とか『ゲーム開発部と行った現地の様子を見たい』とかなら特に問題もなく俺は従うのに…。」

 

「あぁ~…!見過ごしてたぁ~…!」

 

そう、ネイトは契約を重く見ている。

 

ならば逆にその契約に則った事ならば必ず尊重してくれるということでもある。

 

「あれこれ考えすぎて…手札を切りすぎたな。」

 

「うぅ…反省します…。」

 

視野狭窄に陥っていたことに自己嫌悪しうなだれているユウカ。

 

「というかユウカ以外の三人も俺にビビりすぎだ。」

 

「そ、それは…。」

 

確かに少々態度に問題があったことに自覚があり申し訳なさそうにするノアに対し

 

「あれだけのもの見せつけられたら仕方ありません…。」

 

ふくれっ面を浮かべ異を唱えるヒマリだが…

 

「じゃあ、俺が今まで一般キヴォトス人みたいにむやみやたらに暴れることはあったか?」

 

「………失礼しました。」

 

彼にこう言われては返す言葉もない。

 

ネイトの武力はいわば『成形炸薬弾』だ。

 

向けられるのは明確な敵のみ、決してむやみやたらに力を振るわないのはヒマリにも分かっていた。

 

「それからチヒロ、自分の会社のセキュリティを厳重にするのは当然だと思うが?」

 

「ごめんなさい。あんまりにも付け入る隙がなくて少し悔しかったってのもあるかも…。」

 

「まぁ何はともあれ…ユウカ、このメンバーで交渉に臨んだのは成長した証だな。」

 

先程のユウカの交渉の総評を述べつつネイトは小切手に金額を書き込み…

 

「値引きの件は無かったことで。ミレニアムの努力の対価としてこの価格で今後も取引していこう。」

 

「ありがとうございます…。」

 

その小切手を渡しアタッシュケースをPip-Boyに収納した。

 

そして…

 

「…で、さっきの話だが…別に構わないぞ。」

 

『………はい?』

 

まさかの返答に呆けたような声を上げてしまうユウカたち。

 

「いつまでも隠し通せるとは思っていない。いくらか条件を付けたうえで…話をしよう。ユウカからの要望があった…水没地帯でな。」

 

ネイトとしてもここまでミレニアムが自分を警戒していては今後の活動に支障が出る。

 

なにせ95億の収入が確約されている契約を結んでいるのだ。

 

それなら明かせる範囲の情報を明かして警戒を解いておいた方が互いのためになる。

 

「ほッ本当…ですか…!?」

 

「言ったろ、そう言う要望自体は契約上なにの問題もないとな。ただ防諜的観点からそこが望ましいって言うだけだ。」

 

そう伝えてネイトは席を立ち、

 

「向かう日時や条件なんかはまた後日伝える。では、俺はこれで失礼させてもらうぞ。」

 

あんぐりしている四人に見送られ部屋を後にするのであった。

 

「やった(やりました)ー!!!」

 

背後から聞こえる少女たちの喜びの叫びを聞きながら…

 

「…あぁ、アヤネ。今度使いたい機体があるんだが…。」

 

来るその日に向け早速準備に入るネイトなのであった。

*1
それでもかなりの額




戦闘機に関してはキヴォトスの戦車などの装備年代の考察と自分の趣味です(笑)
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