Fallout archive   作:Rockjaw

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外交の極意は、誠心正意にあるのだ。胡麻化しなどをやりかけると、かえって向うから、こちらの弱点を見抜かれるものだヨ。
―――政治家『勝海舟』


Everyday Life in the Rebuilding of Abydos Part 4

ゲヘナとミレニアムとの交渉を終えて数日後のこと。

 

場所は早朝のアビドスの郊外。

 

特にこれと言って何もないただ広い空き地が…

 

「まさか…貴方方もですか…。」

 

ミレニアムセミナー会計『早瀬ユウカ』、

 

「キキキッ…なんとも奇遇だな。」

 

ゲヘナ万魔殿議長『羽沼マコト』、

 

「当然と言えば…至極当然ね。」

 

万魔殿情報部長『京極サツキ』、

 

「考えることは自然と同じ、ですわね。」

 

特異現象捜査部部長『明星ヒマリ』、

 

「はぁ…まったくあの人は何を考えて…?」

 

風紀委員会行政官『天雨アコ』、

 

「それが理解できる生徒がいますかね…?」

 

セミナー書記『生塩ノア』、

 

「連邦生徒会すら手玉に取ってるんだから考えるだけ無駄かもね。」

 

ヴェリタス副部長兼部長代理『各務チヒロ』、

 

「はぁ…さっそく帰りたくなってきましたね…。」

 

万魔殿戦車長『棗イロハ』、

 

「こ、こんな光景が…!うぅ~今すぐカメラに納めたい~…!」

 

万魔殿書記『元宮チアキ』、

 

「そ、相当なお歴々の方々が…!?」

 

ヴェリタスハッカー『音瀬コタマ』

 

「え、遠慮してたほうがよかったかなぁ…?!」

 

ヴェリタス部員『小塗マキ』、

 

「まさか…どんなに怖くても逃す手はないよ…!」

 

エンジニア部メカニック『猫塚ヒビキ』、

 

「そうです…!私たちの夢の果てがもうすぐ解析できるんですから…!」

 

エンジニア部エンジニア『豊見コトリ』、

 

「へぇ…アンタがゲヘナ最強の…!」

 

C&Cナンバー00『美甘ネル』、

 

「そんなに闘争心剥きだしても何もないわよ。」

 

風紀委員長『空崎ヒナ』。

 

普段は一堂に会すことなどありえないキヴォトスに君臨する三大校のうち二校の重役たちが勢ぞろいしていた。

 

只の世間話程度の会話なのに空気がとんでもなく重く少しでも下手を打てば銃撃戦に発展しそうな剣呑なんて言葉では収まらないこの空き地。

 

傍から見ると腰を抜かしそうな光景だが…

 

「あっそっちに行ったよ、ミドリ!」

 

「ちょっとお姉ちゃん、そっちで足止めする作戦でしょ!」

 

「アリス、援護に入ります!」

 

「イブキも~!逃がさないよ~!」

 

「ふ、二人とも、無茶はしないでね…。」

 

空き地においてある土管の近くで元気一杯に一緒にゲームで遊ぶゲーム開発部と万魔殿のアイドル『丹花イブキ』の声が響き渡った。

 

「…アンタ達、少しは状況を考えなさいよ…。」

 

「イブキ…楽しいのは何よりだがこれでは我々の威厳が…。」

 

これには先ほどの重苦しい空気はどこへやら。

 

毒気を抜かれたか、ユウカは呆れマコトも困った表情を浮かべるしかない。

 

「確かにここで睨み合っても何も始まりませんしね。」

 

「そうね。ここにいるということは互いに目的は同じってことだわ。」

 

「ここはひとつ、双方穏やかに行きましょう。そう、この『可憐で弱弱しく、清楚で病弱な一輪の花』のような…!」

 

「部長、ややこしくなるから今はそう言うの無しでおねがい。」

 

「はぁ…今にもバッチバチになるかと思うと怖かったです…。」

 

「ネイトさんがモモたち連れてくるように言ったのって…。」

 

「おそらく場の弛緩剤としてという役目もあるでしょうね!」

 

「連れてきてなかったら大変なことになってただろうね…。」

 

「まぁ―まぁー皆さん!せっかくなので記念に一枚どうですか!?」

 

「チアキ、それは後でもできますから落ち着いてください。」

 

「まぁなんだ。機会があったら手合わせ願うぜ。」

 

「正直言って面倒なのだけど…。」

 

と、他の面々も表情が穏やかになり打ち解けることが出来たようだ。

 

が、

 

「全く、勿体ぶらずにさっさと来てくれればこんなことにはならないですのに…。」

 

依然としてアコだけがご機嫌斜めのご様子。

 

そう、これだけのメンツをこの場に招いた当事者がまだ姿を現さないのだ。

 

「落ち着きなさい、アコ。まだ集合時間までには余裕はあるわ。」

 

「しかしっヒナ委員長を待たせるだなんて…!」

 

と、宥めるヒナにすら彼への不満をこぼしていると…

 

バララララ…!

 

「…来たみたいよ。」

 

「あぁッもう!なんでこうもあの人はいつも人を逆撫でるような!」

 

まるで見計らったかのようにこちらに向け近づいてくるヘリの音が聞こえてきた。

 

バララララ…!

 

「…時間10分前、相変わらず待ち合わせには遅れませんね。」

 

「社長さんですもの。そこはきちんとしてるわよね。」

 

このタイミングでやってくる人物は限られているが…

 

バララララ…!

 

「………あれ?」

 

「どうかしたの、ヒビキ?」

 

エンジニア部でも機械工学に秀でたヒビキが気付く。

 

「ユウカ先輩、音が一つしかないよ?」

 

「…え?」

 

「なんだと?」

 

アビドスの航空機の代表格と言えばティルトウィングVTOL『ベルチバード』だ。

 

輸送性能も攻撃性能も高水準で纏まってはいるがさすがにここにいる全員が乗るには少々スペースが心もとない。

 

てっきり学校別に二機用意してくるものと思っていたが…

 

「一体何でやって来て…?」

 

ノアが首を傾げた…その時、

 

バララララ…!

 

「うわッぷッ!?」

 

その音の正体が空き地上空に現れ地上にダウンウォッシュが吹き荒れた。

 

舞い上げられる砂埃から目を保護しつつ見上げると…

 

「なっ…!?あんな機体まで持っていたのか…!?」

 

「なるほど…!アレなら一機で十分だわ…!」

 

そこに飛んでいたのはベルチバードではなかった。

 

形状こそ一般的なヘリコプターだが…ローターが一回り大きく機体はベルチバードよりも二回りほど長い。

 

名前を『AW101』、艦載用としては上位に入る巨大さを誇る汎用ヘリである。

 

バリエーションにもよるが機内には30人を載せて飛行することも可能だ。

 

AW101はゆっくりと降下し着陸、機体横にあるハッチが開き…

 

「待たせたな。遅刻してる奴はいないようだな。」

 

ジーンズとTシャツの上にフライトジャケットを羽織りパトロールマンのサングラスをかけたネイトと、

 

「ヤッホー、ミレニアムにゲヘナの皆~♪」

 

ネイトを真似てフライトジャケットと同じサングラスをかけたムツキに、

 

「わ、わぁ…!またとんでもないメンバーね…!?」

 

「ぶ、無事に到着できますかね…?!」

 

「縁起でもないこと言わないの。」

 

こちらは普段通りの格好であるアル達が下りてきた。

 

「おや、便利屋68が勢ぞろいとは。」

 

「アビドスとは別件だからな。護衛として雇ったんだ。」

 

「これはまた乗り心地がよさそうなのを持ってきてくれましたね、ネイト社長。」

 

「さすがW.G.T.C.、運用機材も凄いね。」

 

「私だってこんなおっきなヘリ操縦するのは初めてだよ~。」

 

「流石にベルチバードじゃこの人数だと狭いからな。車椅子のヒマリでも乗れるようカイザーからの鹵獲品だがデカいの持ってきた。」

 

「お気遣いいただきありがとうございます。」

 

「ふぉぉぉ…!ミレニアムでもなかなかお目にかかれない機体…!」

 

「ベルチバードでなくて残念ですがこれもまたいいですねぇ…!」

 

と、AW101に興味津々な生徒たちと言葉を交わしていると…

 

「相変わらず派手な登場がお好みのよう…。」

 

いつもの調子でアコが若干の毒を吐きながら声をかけ…

 

「ネイトさ~ん!」

 

「キャンっ!?」

 

「とっとと!?」

 

ようとしたところをネイトに飛びついたイブキに弾き飛ばされた。

 

「えへへっまた会えたね、ネイトさん!」

 

そのままネイトに抱き着き満面の笑顔を浮かべる。

 

ビナーとの一戦以来の再会にご満悦なようだ。

 

「しばらくだな、イブキ。変わりないか?」

 

「うん!イブキッネイトさんにずぅっと会いたかったのー!見て見て~、ネイトさんがくれたアゲハチョウのピンバッジ付けてきたんだよ~!」

 

見るとリボンなどで飾り立てられた万魔殿の制帽にネイトが送った記念品のアゲハチョウのピンバッジが輝いている。

 

「気に入ってくれたようでよかったよ。」

 

「うん、イブキの宝物だよ!ネイトさんに会えるから今日付けてきたの~!」

 

「…すまないな、アビドスの仕事が忙しくて万魔殿にも顔を出せなくて。」

 

彼女の頭を撫でながらしばらく会えなかったことを詫びると、

 

「うぅん、だいじょーぶ!アビドスでネイトさんが頑張ってるってお話聞いてイブキもお勉強頑張ってるよ~!」

 

マコトから自慢げに度々聞かされていたがあの一件以来イブキも変わったようだ。

 

以前からマコトたちの役に立とうと勉強に励んでいたが最近は我慢を覚えプリンくらいでは泣かなくなったらしい。*1

 

「…そうか。偉いぞ、イブキ。今度顔を見せに万魔殿に行くからな。」

 

ネイトは彼女の頭を撫でながら着実に成長している彼女を誉める。

 

「ホントっ!?イブキッ嬉しー!」

 

万魔殿への訪問を約束を聞きさらに深くネイトに抱き着くイブキ。

 

すると、

 

クイクイッ

 

「ん?」

 

イブキが抱き着いている逆サイドの袖がひかれそちらを見ると…

 

「むぅぅぅぅ~…!」

 

ふくれっ面でネイトを見上げるアリスがいた。

 

「…どうした、アリス?」

 

「イブキばかりずるいです…!」

 

「え?」

 

「パパはアリスのパパなのに…!」

 

どうやらイブキに構うネイトに焼きもちを焼いているようだ。

 

「あぁ~…ごめんな、アリス。」

 

普段はとても素直なアリスの初めてのやきもちにどうしていいか分からずネイトも謝罪すると…

 

「抱っこ…!」

 

「え?」

 

「抱っこしてくれなきゃ許しません…!」

 

ふくれっ面のまま上目遣いで見つめそう要求するアリス。

 

「…分かった分かった。ほら。」

 

さすがの『アビドス解放の英雄』と謳われるネイトも娘にはめっぽう弱いようだ。

 

手慣れた様子で片手でアリスを抱き上げると…

 

「…ふふふ~特別に許してあげましょう♪」

 

あっという間に表情が和らぎご機嫌となった。

 

「わーいいな~、アリスちゃん!イブキもイブキも~!」

 

それを見たイブキもピョコピョコと跳ねながらネイトにおねだりする。

 

「…アリス?」

 

一応、腕の中の我が娘に尋ねると、

 

「はい、イブキも抱っこしてあげてください♪」

 

ご機嫌になったアリスも友達の願いを快諾。

 

「分かったよ。それじゃ…よいしょっと。」

 

「わぁー高ーい!それにネイトさんの肩大っき~い!」

 

「ハハッ、イブキは羽のように軽いな。」

 

ネイトの肩に乗せられ大喜びだ。

 

「あらっいつの間にゲヘナのこんな小さな子にも懐かれているだなんて♪」

 

「兄さんったらホント罪な男ね。それでこそアウトローの私の兄さんだわ!」

 

「ヒュ~ヒュ~♪お熱いねぇ、二人ともぉ♬」

 

「ふふっネイト兄がモテモテだ。」

 

「に、兄様って本当にお父さんになられたんですね…。」

 

ノアと便利屋の面々がちびっ子を両手に抱えるネイトを微笑ましく眺めている。

 

ミレニアムとゲヘナ、それぞれマンモス校でも大人気のアイドル級の生徒二人にここまで懐かれている人物はそうはいないだろう。

 

「…ねぇヒマリ、あれが本当にあの熱砂の猛将なの…?」

 

一方、チヒロは何やら信じられないような目をしてヒマリに問いかける。

 

それもそのはず。

 

まだ顔を合わせて間もないチヒロにとって『データ』でしか知らないネイトとはまさに『怪物』と同義語だった。

 

カイザーの大軍勢を殲滅し、ビナーという人智を超えた怪物を圧倒し、ミレニアム最強のあのネルを銃を使わずにほぼ互角に渡り合った。

 

そんなネイトが見たこともないほど優しい表情を浮かべ娘であるアリスとゲヘナの万魔殿の少女と戯れている。

 

「フフフッ、彼もまた人の親。決して血も涙もない『怪物』などではないのですよ?」

 

普段は企業の重役相手にも物おじせず交渉しているチヒロがおっかなびっくりしているのをヒマリは面白そうに見つめていた。

 

そんな中、

 

「いっイブキいいいッ!!?私にはそう言うことをお願いしないのにいいいいいい!!!」

 

マコトはネイトへの嫉妬に狂い号泣しながら暴れ始める。

 

「ハイハイマコトちゃん、落ち着きましょうねぇ~。」

 

「イブキだって女の子なんですからそんな過敏な反応止めましょうよ。」

 

サツキとイロハは今にも飛び掛かりそうなマコトを抑え込み、

 

「おぉ、これは次回の表紙が決まりましたね!ズバリ『議長が狂う、我らがアイドルの大人への第一歩』!」

 

チアキはその様子を逃すまいとシャッターを切っていた。

 

そして、

 

「おぉ~アリスがあんなにやきもちは初めて見たよ。」

 

「いつも、とても素直だけど、なんだか新鮮…。」

 

「なんだかどんどん感情豊かになってるね。」

 

普段のアリスを知るモモイ達は彼女の新たな一面を垣間見、アリスの成長を微笑ましく見つめている。

 

「イツツツ…!イブキちゃん、いつになく元気ですね…。」

 

弾き飛ばされたアコも相手が相手なのでしょうがないというような表情を浮かべ、

 

「フフッ、あの子ったら本当にネイトさんにお熱ね。」

 

「やっぱダンナってチビどもに好かれる質だなぁ。」

 

ヒナとネル、それぞれの学校の最強も頬を緩ませていた。

 

「………いいなぁ、ネイト社長…。」

 

「ん?どったの、ユウカ?」

 

「へぇッ!?なっなんでもないわよ!?」

 

そんなこんなで…

 

「さて、少々時間をとったが乗ってくれ。さっそく向かうぞ。」

 

「「「「わーい!」」」

 

ネイトの声でタラップを駆け上がり中に入っていくアリス・イブキ・モモイ・マキの四人。

 

「ちょ、ちょっとアンタたち!あんまりはしゃぐのは…!」

 

「まぁまぁいいじゃないか、ユウカ。さ、皆も乗ってくれ。」

 

「私たちの夢の地までの操縦、よろしくお願いします!」

 

「いよいよまだ見ぬ砂塵のベールの裏側に行けるんですね…!」

 

「ほらマコト先輩、自分で歩いてください。」

 

「イブキがぁぁぁ…!イブキがァァァァァァ…!!!」

 

それに続く様にネイトやユウカたちも続々と乗り込んでいく。

 

そんな中、

 

「ヒマリ、車いすだが…。」

 

ネイトは車椅子のヒマリにそう尋ねる。

 

無論補助はするが狭い機内では彼女の車椅子はいささかスペースをとる。

 

なのでネイトのクラフトの収納機能で格納しようかと提案しようとしたがそんな心配を察したか、

 

「ご心配なく。この全知たる私の設計により折りたためば半分以下の大きさになりますよ。」

 

ヒマリは自信満々にヘリにも問題なく乗せられると宣言する。

 

「それはよかった。じゃあ俺が背負うから…。」

 

ならばと彼女を背負おうと屈むネイトだが…

 

「あら、この『澄み渡った空のような心を持つこの私』をおんぶですか?せっかくですのでその逞しい腕でお姫様抱っこを…。」

 

と、ヒマリは調子を良くしたか彼に運び方の注文を付けるが…

 

「ハッチに頭ぶつけても構わないんならやるが?」

 

一切の動揺なくそう返され…

 

「…おんぶでお願いします。」

 

さすがの全知もネイトの舌鋒の前には敵わない様で折れるしかなかった。

 

中に入ると、

 

「わぁッフカフカッ!部室のソファよりもフカフカです!」

 

「アリスちゃん、私と一緒に座ろ~!」

 

「じゃあ私は窓のそばも~らい!」

 

「あっずるい、モモ!」

 

はしゃいでいるモモイ達だが…それも無理はなかった。

 

「す、すごい…!ウチの応接室よりも豪華なんじゃない…?」

 

「調度品の質は最高ランクではないか…?」

 

ユウカとマコトもそこにある家具の質に目を見張っていた。

 

機体の内壁に沿って設置された本革使用のソファにラウンドテーブルも上質なものだと一目でわかる。

 

「まぁまるで高級リムジンのような内装ですね。」

 

「言ったろ、元はカイザーからの鹵獲品だってな。」

 

一口にAW101と言っても様々なバリエーションがありこの機体はその中でも…

 

「元の機体名は『ルルイエ・ワン』。おそらくは幹部クラスのVIP輸送用だったんだろう。鹵獲したてのころはもっと内装がけばけばしかった。」

 

権威を見せつけたいプレジデントが好きそうなヘリとは思えない豪華な内装だった。*2

 

「アルにハルカにカヨコ、客人の相手を任せる。」

 

「了解よ、兄さん。安全な空の旅は任せて!」

 

「まぁケーキでも楽しんで。私たちがお世話になっている喫茶店のケータリングだよ。」

 

「こ、コーヒーも紅茶もあります!」

 

「あら、それは旅の楽しみができたわね。」

 

「へぇダンナ行きつけっていう噂の。こりゃメイド部として腕前拝見だな。」

 

「さぁ、好きなところに座ってくれ。ムツキ、副操縦を任せるぞ。」

 

「ラジャー!」

 

全員乗り込んだのを確認しヘリのエンジンを始動し…

 

「御乗客の皆様。これより当機はミレニアム郊外の廃墟区画水没地帯に向け飛行します。」

 

「飛行中はくれぐれも発砲、砲撃、爆破などはご遠慮くださ~い♬」

 

ネイトとムツキの挨拶でヘリは水没地帯に向け飛び立つ。

 

フライト中、

 

「それにしても…まさかミレニアムも同じ要求をしていたとはな。」

 

「それはこちらのセリフですよ、マコト議長。」

 

誰に言われるでもなく向かい合って座ったユウカとマコトを筆頭に両校の生徒会役員たちは互いに見据えつつ先ほどの続きを始める。

 

なにせ、両校ともネイトの情報を独占できると思っていたのに…

 

「キキキッまさか特に手札を切らずに奴に取り入るとは…ミレニアムも中々やるではないか。」

 

「そちらこそ、どうやらかなり大胆な手札を切って交渉を進めたようですね。」

 

まさかのダブルブッキングだったうえ、一緒に向かうことになるとは思いもしなかった。

 

今回のネイトとの情報開示、日時などの通達文が来た時は心が躍ったが同時に驚愕もした。

 

まさかこんな短期間に再びゲヘナとミレニアムという二大校、それもその首脳部が顔を合わせることなど前代未聞だろう。

 

それでもこの通達にマコトもユウカも合意するしかない。

 

もしこれを断ればどちらかの学校が先んじて情報を手に入れ優位に立ってしまう。

 

つまりゲヘナもミレニアムも拒否するという選択肢は無く了承するしかなかったが…

 

「だが、我々が先に目を付けていたことに変わりはない。今回の視察は我々が優先されるべきでは?」

 

「お言葉ですが…ネイト社長との交流はミレニアムのが期間は長いですよ?」

 

「ゲヘナとて今はアビドス内で様々な関りを持っている。時間だけがすべてではないぞ?」

 

やはりまだ心の底からは納得していないようでマコトとユウカがバチバチと火花を散らし始める。

 

「聞くところによるとミレニアムはあまりアビドス領内での復興事業に関われていないようだなぁ?」

 

「お気遣いなく。私達はその復興事業を支える大型契約をW.G.T.C.と結んでいますので。」

 

「資金だけでは復興は進まんぞ?ゲヘナは地理的特色を生かした資源でアビドスを大いに援助している。」

 

「では、私達は技術ですね。ご存じです?ゲヘナの堆肥プラントの機材は我が校の発明ですよ?」

 

決して語気は荒くはないが互いに一歩も譲らない舌戦を繰り広げる。

 

「ちょ、ちょっとユウカちゃん…。」

 

「マコトちゃんも旅は長いんだから…。」

 

場の空気を心配し傍らに座るノアとサツキが声をかける。

 

が、

 

「ほぉ…ミレニアムは研究ばかりでこちらの方面には弱いと思っていたが…早瀬ユウカ、なかなかやるではないか。」

 

「…私も貴方があの万魔殿の議長だと改めて思い知らされました。少しでも引いたら…押し負けていたでしょう。」

 

「キヒヒッミレニアムの生徒会長が現れず退屈しそうだったが楽しいフライトになりそうだ。」

 

「お褒めの言葉をありがとうございます。まだまだ及びませんがある方にここ数か月とことん鍛えられた成果です。」

 

突如、マコトとユウカは表情を崩し互いに賞賛の言葉をかけあう。

 

「あ、あのユウカちゃん…?」

 

あまりにも急な変化にノアが戸惑いながら声をかけると…

 

「あぁノア、ごめんなさい。ちょっとしたジャブよ。」

 

「じゃ、ジャブ?」

 

「そう、あのネイト社長相手に真っ向から交渉を挑んだマコト議長に興味がわいてね。」

 

ユウカの単なるマコトへの興味だと種明かしされ、

 

「…はぁ、ユウカちゃん。そういうことは私にも説明してくださいよ…。」

 

思わず力が抜けソファに深く沈み込んだ。

 

「ま、まさかマコトちゃんも…?」

 

「キキキッ案ずるな。サツキ。私も奴が鍛えたというミレニアムの会計の力を見てみたかったほんの戯れだ。」

 

「もう…こんなところで戦争勃発だなんてシャレにならないわよ…」

 

サツキもこのマコトの気まぐれには額を抑える。

 

そう、ユウカとマコトは単に興味がわいただけだ。

 

ユウカは幾度となく単身ネイトと交渉を行い成果を上げてきたマコトの手腕に。

 

マコトはネイトが鍛えたと聞く未来のミレニアムを率いるユウカの成長性に。

 

僅かな言葉の応酬だったが…二人は互いの実力を認め合い…

 

「ですが、ゲヘナの資源はミレニアムとしても魅力的ですね。」

 

「ゲヘナとしてもミレニアムのテクノロジーは注目している。」

 

「では、ここからは今後の相互利益のためにここで互いに何を求めるか話し合いはいかがですか、マコト議長?」

 

「よかろう。W.G.T.C.がキヴォトスに広く名が知られる以前から取引している学校であるなら信頼できる。」

 

ここからは互いの学校のために本腰を入れた交渉が始まるのであった。

 

「ま、マコト先輩がネイトさん以外で真面目に公務してるところ初めて見たかもです…。」

 

至極真面目にユウカと交渉を行うマコトを見て普段からテンション高めのチアキすらギョッとしている。

 

「…なんだかお互いにとても影響を受けてるみたいですね。」

 

「そうね。あんなにムキになって言い合うマコトちゃんは久々に見たわ。」

 

ノアとサツキは相棒の血の気の多さに苦笑を浮かべ合う。

 

しかし、これによって機内の空気の重さは軽くなり…

 

「ゲヘナにはネイト社長のロボットが導入されてるらしいけど…どんな感じなの?」

 

「そうね、書類仕事に規則違反者の制圧に巡回…生徒にも劣らない位十分働いてくれてるわよ。給食部でも活躍してるわ。」

 

「そんなにですか…!?あの、疑問なんですがオートマタとはどういった相違点があるんですか…!?」

 

「一番違うのは…学習能力の速度でしょうね。基礎的な能力の高さは元より所属組織に合った学習を重ねていき特化していきます。」

 

「わぁ…そんなのほとんど人と変わらないじゃん…?!」

 

ヴェリタスの面々はヒナとアコにネイトのロボットに関する意見を交わし、

 

「ウタハ先輩に聞いたんですけどアビドスの戦車を一輌撃破したっていうのは本当ですか?!」

 

「事実は事実ですが…実際のところ大いに語弊がありますね。」

 

「事実だけど語弊…?」

 

「ゲヘナの戦車二個中隊とアビドス戦車一個小隊の模擬戦を4回行って最後の試合で私の戦車以外を囮にしてようやく一両を行動不能にできた…というのが真実です。」

 

コトリとヒビキはアビドスの戦車と渡り合ったイロハにその性能について談義を行い、

 

「まぁ、こちらのコーヒー…とても味わい深いですね。」

 

「おぉ、紅茶だってウチの連中が淹れるよりも数段旨いじゃねぇか…!?」

 

「でしょう?なんたってアビドス1の喫茶店のマスターが淹れたコーヒーに紅茶なんだから!」

 

「ケーキも食べてみて、賢者さんにメイドさん!とぉっても美味しいよ!」

 

「あら、そうなのですか?ではおすすめを教えていただきますか、ゲヘナのお姫様?」

 

「こりゃ今度個人的に行ってみる楽しみができたな。」

 

ヒマリとネル、イブキにアルはケータリングのケーキとコーヒーに舌鼓を打ち、

 

「ハルカさん!アビドスのパパは普段どうしていますか?」

 

「はっはい!兄様はいつもアビドスの復興に頑張ってますよ!わ、私も時々発破作業をお手伝いしてます!」

 

「はっぱ?植林作業のことなの?」

 

「そうじゃなくてビルとかの高層建築を爆薬で解体することだよ、モモイ。」

 

「へぇ~爆発で解体…なんだか奥が深そうですね…。」

 

「つ、次のゲームで、解体シミュレーション、とかやるのも、面白そうだね。」

 

ハルカとカヨコとゲーム開発部の面々はアリスの知らないアビドスでのネイトのことを聞いたりしている。

 

とても三大校のうちの二校が集まっているとは思えないほど穏やかな交流が繰り広げられていた。

 

他所の学校が見ればどんな権謀術数が繰り広げられているかと確実に誤解しそうな光景だ。

 

その実情は互いの興味を伝え教え合うとても学生らしい会話である。

 

「なんだか後ろは盛り上がってるねぇ、お兄ちゃん♪」

 

「険悪にずっと過ごされるよりもよっぽどいいだろう。」

 

そんな会話をBGMにネイトとムツキはヘリを操縦し目的地を目指す。

 

正直ネイトもこの二校の面々を一緒に連れて行くことに少々警戒はしていたが杞憂に終わったようだ。

 

「ねーねー、私も初めていくんだけどそこにいったい何があるの?」

 

「それはついてからのお楽しみってやつだ。」

 

「え~勿体ぶらずに教えてよぉ~。ネイトお兄ちゃんのけち~。」

 

ネイトとムツキもそんな風におしゃべりしつつ操縦を行っていると…

 

「あれ?お兄ちゃん、レーダーに反応が出たよ。」

 

「なに?」

 

ムツキがレーダーに映る影を見つめる。

 

後方から数にして一個小隊の機影が迫りつつある。

 

「今の学区は…ミレニアム上空だね。」

 

「…ユウカ、機種は分からないが後方から一個飛行小隊が接近中だ。心当たりはあるか?」

 

機内アナウンスで何か知るであろうユウカに尋ねると…

 

《あ、お伝えするのが遅れて申し訳ありません。廃墟区画までの道中の護衛としてミレニアム航空隊に一個小隊の派遣を要請していたんです。》

 

どうやらこの機体の護衛機を用意してくれていたようだ。

 

《そろそろ速度的に並行する頃合いですよ。》

 

《ほぉミレニアムの航空隊…これは興味深いな。》

 

まだ見ぬミレニアムの航空戦力、ネイトも興味を覚え横目で外を見つめていると…

 

キィオオオオ…!

 

こちらの操縦に支障をきたさぬよう大きく間隔をとってその機体たちは現れた。

 

一機は先日見たゲヘナのドラケンやビゲンと比較するとかなりずんぐりむっくりとした重厚なボディだがそれに見合った重武装を吊り下げたジェット戦闘機…

 

(F-4ファントムⅡ…いや、バルカン砲に吊り下げているのはスパロー空対空ミサイル…。E型の改良型か…。)

 

半世紀にわたって西側陣営の空を守り続けてきた『亡霊F-4EJ改』。

 

そして、遠方を飛んでいるというのに一目でファントムよりも大柄なボディを持ち特徴的な『可変翼』を全開にして飛行する戦闘機…

 

(F-14トムキャット…!?ドラケンよりも二世代以上進化した戦闘機をミレニアムは実用化しているのか…!?)

 

核戦争抑止の砦として生み出された『不死鳥』を抱え空を翔ける『雄猫F-14A』だった。

 

(なるほど、さすがはミレニアム…。技術的優位は相当なものだな…。)

 

おそらくミレニアムでは旧式であろうF-4EJ改ですらゲヘナのビゲンと同世代か上の性能を持つ機体。

 

F-14Aに至ってはさらに性能の差が隔絶とし始める一つ上の第四世代の戦闘機である。

 

配備数こそ不明だが単機の性能では現在知る中でも最高の機体だろう。

 

《こちら、ミレニアム航空隊『チェシャー01』。これよりセミナー職員を輸送中の貴機の護衛に就く。》

 

「こちら『カノープス・ワン』、機長のネイトだ。護衛に感謝する。」

 

隊長機からの無線にネイトが感謝を伝える中、

 

「なんと…!あれがミレニアム最新鋭と噂の…!」

 

さすがのマコトも目を見開きミレニアム航空隊の機体を見つめている。

 

軍事に力を入れているゲヘナから見てもあれらの機体の脅威がひしひしと伝わってきた。

 

「フフッ、どうですか?ミレニアムも中々やるでしょう?」

 

マコトの鼻を明かせユウカもご機嫌となった。

 

が、

 

「…ネイト社長は一体どんな機体を配備する予定なのだ…!?」

 

「…え?」

 

マコトの一言に固まった。

 

陸上戦力では配備数を圧倒的性能差で補う戦車を配備しているアビドス。

 

そんなアビドスが機体、つまり航空隊を組織しようとしていると…

 

「グヌヌヌヌゥ~…!また悩みの種がぁぁぁぁ~…!」

 

先程の余裕はどこへやら、マコトと一緒に頭を抱えるユウカなのであった。

 

そんなこんなでゲヘナに対するミレニアムの示威行為という意味も込めた護衛隊と共にヘリは飛行していき…

 

《こちら『チェシャ―01』、当編隊はこれより離脱する。貴機の安全な旅を祈る。》

 

AW101はミレニアム郊外の廃墟区画近辺にまで到着。

 

さすがにミレニアム航空隊も連邦生徒会に断りなく『閉鎖区域』への侵入はできない。

 

「こちらカノープス・ワン、ここまでの護衛に感謝する。」

 

そして例外であるネイトが操るAW101は単身、危険地帯でもある廃墟区画に突入。

 

「ムツキ、高度を限界まで上げるぞ。」

 

「ラジャー…!」

 

地上からの攻撃を避けるために機体を上昇させていく。

 

「ここがミレニアムの禁足地である廃墟区画ですか…!」

 

「本当に都市が廃墟になっているのね…!」

 

「アビドスの廃墟街も見ていたが…それの比ではないな…!」

 

「これは何とも圧巻な光景ですねぇ…!」

 

「パッと見ただけで人の気配がまるでないですね、委員長…!」

 

「ゲヘナのスラムとは全く異質の不気味さだわ…。」

 

「わぁ~すごぉ~い…!」

 

眼下に広がる延々と続く廃墟の海にマコトたちも圧倒されていた。

 

一方、

 

「いよいよね…!」

 

「この先に…!」

 

「W.G.T.C.最高の戦力が…!」

 

「連邦生徒会すら度肝を抜いた化け物が…!」

 

ユウカ・ノア・ヒマリ・ネルは緊張の面持ちを浮かべ、

 

「ドキドキが止まりませんね、ヒビキ!」

 

「そうだね…!私達の夢の形がもうすぐ…!」

 

コトリとヒビキは期待に胸を膨らませ、

 

「W.G.T.C.が隠し続けてきた機密の正体…。」

 

「砂塵のベールの向こう側が見れるんですね…!」

 

「なにがあるのかなぁ…?!」

 

チヒロ・コタマ・マキはW.G.T.C.の秘密を目の当たりに出来ることに震え、

 

「久しぶりだなぁ。みんな元気にしてるかなぁ?」

 

「本当に昨日のように思い出せるね、お姉ちゃん。」

 

「わ、私たちがある意味、生まれ変わった場所、だもんね。」

 

モモイ・ミドリ・ユズは懐かしさを感じる表情を浮かべ、

 

「この先にパパの伝説の場所があるんですね…!」

 

アリスは自分が知らないネイトの逸話の舞台に赴けることに胸を躍らせていた。

 

そして…その時は突然訪れた。

 

「見えてきたな。」

 

ネイトがそう口にすると…

 

「あ、あれが…!」

 

お調子者のムツキが言葉を失うほどの衝撃を受けた。

 

「なっ何!?どうかしたの、ムツキ!?」

 

ムツキの普段では絶対に見せない変化にアルがコックピットに飛び込んでくると…

 

「なっ…何よ、あれは…!?」

 

彼女も同様に言葉を失った。

 

ただならぬ様子に機内が騒然とし始める中、

 

「乗客の皆様、そろそろ目的地だが周囲を何度か旋回する。重心が崩れるから片方に殺到することは止めるように。」

 

安全のためネイトが警告を飛ばし、ヘリは…その周囲を旋回し始めた。

 

そして…

 

「あっあれが…W.G.T.C.の…!」

 

ユウカも、

 

「キ…キキキ…なんという威容だ…!」

 

マコトも、

 

「これは…想像以上ですね…!?」

 

「あんなものがこの場所に…!?」

 

「わぁ、すっごくおっきい…!」

 

「あれがパパの…『黒鋼の要塞』…!」

 

それを見た誰もが言葉を失った。

 

そう、とうとう

 

「ようこそ、ゲヘナにミレニアムの諸君。あれこそが我がW.G.T.C.が保有する唯一にして最強の艦艇…戦艦『マサチューセッツ』だ。」

 

連邦世界最強の戦艦が白日の下にさらされたのだった。

【挿絵表示】

 

*1
なお、その都度きっちりマコトは賠償している

*2
なお、最低限の内装を残し、装飾などは引っぺがされ売り飛ばされた。




Ense petit placidam sub libertate quietem
『剣を以て平穏を求め、自由の下に平和を』
―――マサチューセッツ州のモットー
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