「さぁ、茶会の始まりだ!せっかくこうして私がやってきたのだ、せいぜい楽しむがよい!」
突如としてネイトの夢の中で始まった謎の少女と曰く『狂乱のデイドラの王子』であるシェオゴラスとの茶会。
当のシェオゴラスは勝手に茶を注ぎ何やらむしゃむしゃと何かのフライを食べている。
どう見てもお茶会で出されるようなお茶請けではないが…
「…まぁ王子さまは勝手に楽しんでいるようだ。」
ネイトはそう言い、対面にいる少女を見据える。
「随分平然としていられるね、君は…?!」
最初の余裕たっぷりな態度はどこへやら、少女はぎょっとした表情のままネイトの落ち着きっぷりに目を見張っている。
「別に初めてのことでもないしな。」
事も無げに返すネイトだが…それもそうだ。
連邦ではドラッグがキまったレイダーや正気を失ったガンナーに芸術家を自称するサイコパス、果てには遺物に取りつかれ数百年生き永らえてきた狂人などさんざっぱら相手にしてきた。
そして、自分も死んでからユメの力でキヴォトスにやって来ている身だ。
今更、人の夢に勝手に入り込んでお茶を啜る老人…いや、老人の姿をした超常な存在程度で騒いだりはしない。
「それで?わざわざ他人の夢に入り込んできて何の用なんだ、君は?」
一先ずは目の前の少女に用件を尋ねることにする。
「そ、そうだね。急に招いておいて用件も言わないのはさすがに無礼だ。」
少女は気を取り直すようにティーカップに注がれた紅茶を一口飲み、
「ふぅ~…さて、勝手ながら君のことは色々と調べさせてもらったよ。」
最初のころのような落ち着き払った表情に戻しそう告げる。
「調べる…ねぇ?大方、メディアが勝手に書き殴ったゴシップがせいぜいだろう?」
「おや、随分と私の情報網を甘く見ているようだね?」
呆れたような口調のネイトにまるですべてお見通しのような態度で返す少女だが…
「そっちこそ、俺の防諜能力を嘗めているだろう?腹を割った間柄じゃなきゃ知らないことは…外部には漏れないはずだが?」
ネイトは自信の籠った言葉で切って返す。
一般に出回っている情報は別にしてネイトの根幹にかかわる情報を知るのはかなり限られている。
しかも、探ろうとする各組織の諜報員は軒並み撃退。
それでも自分に関わる根幹の情報を知っているということは…
「それとも…アビドス以外の学校に忍ばせたやつからの入れ知恵か?」
ゲヘナ・ミレニアムのどちらかに少女の諜報員が紛れ込んでいることに他ならない。
「さぁ教えてくれ。君は…俺のナニを知っているんだ…?」
ネイトは少女をまるで値踏みするかのように…己のうちに秘めた『狂気』をわずかに溢れさせた。
「ッ…!」
先ほどまで見せていた余裕はどこへやら、少女の表情はこわばった。
(………全くッ…あの二人は随分と引っ掻き回してしまったようだね…!)
本来ならここまでこじれる前に自分が介入し友誼を結ぶ筈であったのだが…。
(回復に手間取ってここまで時間を空けてしまったのがまずかったかな…。)
しかも、自分は少し前までこの力を行使するのも困難な状況だった。
その間に…事態は彼女にとってかなり悪いものになっている。
「どうした?黙りこくって?」
そんな彼女にネイトは依然として狂気を引っ込めることなく質問を繰り返す。
「そ、それは…。」
少女はネイトの気迫と狂気に充てられ言葉に詰まる。
パチンッ
「「ッ!」」
その時、フィンガースナップ音が鳴り響き…
「定命の者よ、人の代の産まれというのに中々に見所があるではないか。」
シェオゴラスが愉快そうな表情を浮かべて黄金の瞳でネイトを横目に見ながら声をかける。
そして…先ほど打ち鳴らしたであろうその指には何やら黒い火が揺らめいていた。
「…その炎はなんだい、シェオゴラスの爺さん?」
「ちょ…!?」
シェオゴラスを呼び捨てどころか爺さん呼ばわりするネイトに再度少女はぎょっとするが…
「これかぁ?これは今しがた貴様があふれ出させた貴様の『狂気』だ。」
特に気を悪くするでもなくシェオゴラスは答える。
「ッ、そういえば…!」
少女も気が付いた。
先ほどまでネイトから溢れさせていた気迫の中に含まれていた何か『どす黒い』イメージの存在が消え、そのイメージの物体がシェオゴラスの指に集まっている。
「私の領域でも『狂気』に染まろうともここまで従える者はそうはおらん。誉めてやろうぞ、定命の者よ。」
その火を吹き消しつつ穏やかな表情でネイトを称賛するシェオゴラスだが…
「だが、茶会の場にはそぐわん!」
次の瞬間にはクワッと目を見開き怒鳴り散らし始める。
「たっ助かったよ、シェオゴラ…。」
これをチャンスと思ったか、少女も話を円滑に進めるためにシェオゴラスに乗っかろうとする。
…が、
「そんな『児戯』染みたことをやるくらいならばもっとペラギウス・セプティム3世のようにど派手に狂気を振りまかんかッ、もっとこうドバァッと!」
「そっちの方でかい!?」
どうやら注意ではなく催促のようであった。
つまり…
(あ、あれでまだ手加減しているということか…!?)
先程肝を潰しかけたネイトのあの狂気はほんの『児戯』、つまり戯れ程度のものでしかないということだ。
「…分かった分かった、この場ではもうあんな真似はしない。それでいいか、シェオゴラス?」
ネイトもお手上げの仕草をしつつ彼に詫びる。
自分でも曖昧にしか把握していない『狂気』を自分から抜き取り具現化するほどの存在だ。
自分程度でどうこうできる相手ではないことは容易に察せられる。
『狂乱のデイドラの王子』、その看板に一切の虚飾はない。
「何だ、余興はもう終わりかぁ?まぁよい、せっかくの茶会なのだ!そんな仏頂面ばかりしておらず少しは楽しめ!」
少々不満のようだがシェオゴラスもそれで納得してくれたようだ。
「嬢ちゃんもすまなかったな。少し大人げなかったようだ。」
「…いや、構わないよ。私の方も少々不躾だった。」
少女もネイトを値踏みするような先ほどの態度を謝罪する。
互いに非礼を詫びた所で…
「さて…改めて、俺の夢にまでやって来て一体何の用なんだ?」
ネイトは少女の目的を尋ねる。
彼女も彼女で人の夢に干渉できるほどの神秘の持ち主だ。
腰を据えて相手をしなければならない。
「では、今度は単刀直入に言うことにしよう。」
少女も目の前にいるネイトという存在に対し回りくどい言い方は抜きにし…
「君が進めている計画…『O,B,E,R,I,S,C,U』だったかな?」
「………どこでその名前を?」
『O,B,E,R,I,S,C,U』の計画は今日ホシノ達に明かしたばかりだ。
まだ他校にも知られていないはずの計画名をなぜこの少女は知っているのか。
気迫は出さずとも目線を鋭くし尋ねると…
「一言でいうならば…私には『未来予知』という神秘の力がある。」
少女も隠すことなく自身の能力を明かす。
「未来予知…また懐かしい能力だな。」
「おや?意外な反応だね。」
予想外にすんなり自分の言葉を受け入れたネイトを興味深そうに見つめる少女。
何分自分の力はこのキヴォトスであっても特異なものだ。
同じ学校の物でも半信半疑の生徒が多い。
だというのにネイトはそれを疑うどころか『懐かしい』と口にした。
「昔…世話になった恩人が似たような力を持っていてな。」
ネイトは懐かしむようにある人物を思い出した。
彼女の名前は『ママ・マーフィー』、ネイトが出会った頃は衰弱しきり薬物依存の一人の老婆だった。
だが、彼女にはある超能力とでもいうべき不思議な力があった。
『サイト』とママ・マーフィーが呼んでいたその力は平たく言えば『未来予知』だ。
普通なら年寄りの老婆の世迷言と片付けられて終わりだろう。
しかし…ママ・マーフィーの『サイト』の的中率は…異様に高かった。
例えば、ガンナーにミニッツメンの一大拠点である『クインシー』を追放された後は彼女のサイトによって数少ない生き残りたちは『サンクチュアリ・ヒルズ』を目指した。
そこは連邦のほかの場所と大差ない戦前の住宅地の廃墟だ。
だが、その道中で一行はネイトと出会い彼を将軍としミニッツメンは復活。
クインシーを制圧していたガンナーすらも駆逐され連邦の一大勢力へと返り咲くことが出来た。
さらに彼女はネイトにショーン捜索の手がかりとして『ダイアモンドシティ』に向かうよう助言してくれた。
その結果、ショーンと仇敵の手がかりを得ることが出来た。
さらには若いころはドラッグに頼らずともサイトが使えたようで彼女に『お前は将来モンスターになる』と予言された少年は実際に連邦の中でも屈指の勢力を誇るレイダーのリーダーになっていた。
なので、ネイト自身は『未来予知』というものにそれほど違和感を感じない。
しかも、ここはキヴォトス。
長いネイトの人生の常識が通じないこともあることは承知している。
「なるほど、未来予知…なら隠しようが無いってわけだ。」
極々少人数しか知らない計画名を知っていることは彼女の能力の証左だ。
そんな未来予知持ちの彼女相手では防諜もくそもあったものではない。
「…あのおてんば娘もこれくらいすんなり受け入れてくれてたら…な。」
「で、あの計画を君が知っていることには納得がいった。それで…俺にどうしろと?」
そして、ネイトが彼女にこの場を設けた真意を訪ねると…
「『O,B,E,R,I,S,C,U』、確かに途轍もない計画だ。実現できるとするならば防衛力は元より新たな変革のまさに『ランドマーク』となるだろう。」
「………。」
少女は『O,B,E,R,I,S,C,U』の有用性と…
「だが…それは裏を返すとキヴォトスのパワーバランスを大きく狂わせる『重し』でもある。その衝撃は君のことを良く知る学校はそうは思わないだろうが…それ以外の多くの学校や連邦生徒会には途轍もない『波紋』を呼ぶだろう。」
それに伴うキヴォトスに対する脅威を論じ、
「それは今更だろ?」
「確かに…ね。アビドスも君の存在もすでにキヴォトス全土で無視できない存在だ。だがね、これはそんなレベルではないんだ。」
「というと?」
「君らが連邦生徒会や様々な学校から受けた仕打ち、同情する部分は多々ある。それでも…これはあまりにも刺激が強すぎる。」
固い決意を示すような眼差しをネイトに向け…
「悪い事は言わない。その計画をすぐに破棄するんだ。」
計画の中止を言い放った。
「ほぉ?」
なんとも歯に衣着せぬ言葉に感心したかのような声をネイトは上げ…
「じゃあもし…『O,B,E,R,I,S,C,U』を破棄しなければどうなるんだ?」
未来予知を持つ彼女に断った場合の末路を訪ねる。
「………言ってしまってもいいのかい?」
「リスクを示さずしてリターンを得られるとでも?」
「…そうかい。」
少女はネイトの覚悟を確かめ…
「では断言させてもらう。このままいけば…近日中に君は必ず『殺される』。」
彼が命を落とすことを告げた。
…が、
「ふ~んそれだけか?」
「…え?」
ネイトの反応はあまりにも薄かった。
「なぁんだ、もっと大ごとを予想していたが…正直肩透かしだな。」
「かっ肩透かしだって!?」
「そんなこと、今までの人生でもう数えるのが面倒くさくなるほど経験しているからな。」
ネイトの人生の大半は死と隣り合わせだった。
兵役時代は元より戦後連邦、さらには現在のキヴォトスの生活であってもそれに変わりはない。
「それを今更死ぬから計画を止めろと言われても迫力に欠けるぞ。」
「迫力に欠けるなどという問題ではないんだ!」
まるで真剣に取り合っていないようなネイトの態度に少女はテーブルを叩いて立ち上がり声を荒げる。
「己惚れているのかい!?これはたとえ君でも絶対にどうしようもない『結末』なんだぞ!?」
「己惚れちゃいない。ただそう言う命のやり取りに慣れているだけだ。」
「それを己惚れていると言っているんだ!!!それに君のやるべきことはまだ道半ばにすら達していないだろう!?」
「まぁな。」
「アビドスや周囲の学校の懸念も分かる!だが、君が死んでは元も子もないだろう!?」
必死の形相でネイトになんとか計画の破棄を飲ませるように警告する少女。
「今ならまだ間に合う!だからここは私の忠告を…!」
その時、
「それだ。」
「…何がだい…!?」
「まだ…なにも『始まって』すらいないんだろう?」
彼女を指さして言い放ったネイトの指摘を聞き…
「…え?」
少女は呆気にとられた表情を浮かべた。
「計画を破棄した未来も…破棄しなくて俺が命を落とす未来も…まだ先のことだ。」
「何を言って…!?」
「…未来を変える手段なんて幾らでもあるだろう?」
「―ッ!?」
真っすぐに少女を見つめネイトはそう言い切る。
「み、未来を変える…だと…?!」
「悪いが…まだ起こってすらいない『絶望』に悲観するほど俺は軟じゃない。」
「や、軟だとかそうじゃないとかいう問題じゃ…!」
少女にはネイトが理解できなかった。
自分が見る未来予知は決して外れることはない。
例えどれほど悲観的な未来であっても…あるがままを受け入れるしかなかった。
今回のこともそうだ。
それでも…このまま進ませるわけにはいかない。
もし、今彼を引き留めることが出来なければ…さらなる災いを招くことにつながるからだ。
なのに…
「結局、未来を決めるのは『選択』だ。俺にまだ選択肢があるなら…最良の未来を俺は掴みたい。」
「最良の未来…?!」
「計画を遂行でき俺も生き残る、それが現状のベストな未来だ。なら…俺はそれに挑む。」
目の前の男は死を宣告されても一切小動もしない。
それどころか…一層その未来を打ち破ることに闘志をたぎらせている。
「ど…どうして…?!」
少女にはそれが理解できなかった。
撃たれれば簡単に死んでしまう存在だというのに…
「どうして…恐れないんだい…!?」
その狂気じみた『勇気』は…今まで見てきたどんな人物よりも眩しかった。
「恐くないわけじゃない。俺だって…死ぬのはとんでもなく怖いさ。だがな…。」
信じられないようなものを見る目を向ける少女にネイトは死への恐怖と…
「もう…『絶望』することに飽きただけさ。」
「『絶望』に…飽きた…?」
絶望に対する倦厭の想いを語った。
思えば…ネイトの人生は抗えない『絶望』の連続だった。
自分が知る世界がすべて燃え尽きた『最終戦争』。
目の前にいたというのに救えなかった『妻の死』。
自分の中ではほんの数分の間に灰に染まった『連邦』。
そして…ショーンの想いを踏みつぶさねばならなかったことも。
ネイトはそれら全ての『絶望』を『狂気』で括って歩んできた。
もう沢山だ。
「俺は…俺であるために…俺を信じてくれる皆や…娘のために俺は止まるわけにはいかない。」
絶望が何だ、死の未来がなんだ。
それを踏み越えて自分は歩んできた。
そして…これからも自分はそうし続けるつもりだ。
自分や自分を信じてくれる皆のために。
「…死ぬかもしれないのにかい…?」
「だから、まだそうと決まったわけじゃないだろう?」
一切の怯えも何も感じないネイトにいよいよ少女は理解が追い付かなくなってきた。
その時、
「くぁーッはッはッはッ!!!」
「ッ!?」
シェオゴラスが突如大声をあげて…
「よいではないか、定命の者よ!全くッなんて愛しい『狂気』なんだ!!!思わず貴様の目玉を舐め回したくなったぞ!」
ネイトを指さし彼の持つ『狂気』を愛おしいと言い放った。
「お前を見ていると自分の若い頃を思い出すよ。イッカクを乗り回したりハチの巣で眠ったりソレイロリアの汁を飲んだり…。」
「よく分からんが…昔から滅茶苦茶やっているようだな、シェオゴラスの爺さんは。」
(駄目だ、彼の言っていることの半分も理解できない…!?)
相も変わらず支離滅裂なことばかりのべつ幕なしに捲し立てるシェオゴラスに少女はいよいよパンクしそうになるが…
「おい、覗き見好きな小さき者よ!よぉく見ておくのだ!」
「みっ見るって何を…!?」
「この定命の者は『選択』をしたのだ。貴様にとっては確かに賢い選択ではなかっただろう。」
今度は少女に対し今までで一番優し気な表情を向け…
「私は定命の者を弄び気まぐれに狂気を振りまいてきた。あぁ、それこそ星も降らせたし縄跳びするために腸を寄越せと言ったりそこら辺の奴にフォークを渡して魔物を退治させたりもした。」
「えぇ…!?」
気まぐれに自身が振りまいた災いを挙げ…
「だが、その度に定命の者は『選択』をした。それは『狂乱の王』たる私にもどうにもできない定命の者の特権だ。中には私の落とした星をしばらく止めた者までいたぞ!」
それに人がどう選択し絶対的にな自分にどう立ち向かって来たかを明かす。
「全く『狂気』だ!デイドラの王である私をここまで楽しませる定命の者の『選択』、それこそ私が最も愛しく思う『狂気』そのものだ!!!」
「しっしかし…『狂気』というものは決していいものでは…!」
「狂気を『呪い』だと思うな、小さき者よ!狂気が最も良き祝福となる者もいるのだ!今貴様が相対している定命の者のようにな!」
「し、祝福だって…!?」
「現に定命の者は狂気によって己を繋ぎ留め大業を成し遂げたぞ?これを祝福と言わずなんと言うか?!」
そして、シェオゴラスはネイトの方を向き…
「狂暴・狂奔・狂熱・狂酔・狂喜、そして『狂愛』…!ありとあらゆる狂気をその身に宿し、糧とし、従え、それであっても正道を歩み故郷を蘇らせた!そう、狂気を『選択』し己の答えを私に見せつけたのだ!!!」
その身に巣食うあらゆる狂気を挙げ…それらすべてがネイトを形成し支え…
「『ネレヴァリン』もそうだ!『クヴァッチの英雄』もそうだ!『ドヴァーキン』もそうだ!き奴らも狂気を従え『英雄』となった!そして、あ奴も『英雄』と呼ばれるまでに至った!」
彼が知る古の英雄と同じ生き様を辿っていると高らかに言い放った。
「そんな大層なものじゃないさ、シェオゴラスの爺さん。」
「むむッ?私が英雄と呼ぶのが気に喰わんのか!?」
「俺はただ…死にたくなかったし…約束を破りたくなかっただけだ。」
アンカレッジでもそうだった。
連邦でもそうだった。
アビドスでもそうだった。
こんな自分には『英雄』など過ぎた称号だと思っていたが…
「…まぁ。」
「ん?」
「娘やその友達に俺の仲間が…俺を『英雄』と信じてくれている内は『英雄』であろうとは決めている。」
今はその名を背負う覚悟を持っている。
「…かぁー!デイドラの王の称賛よりも我が子の称賛が誇らしいとは…!」
シェオゴラスはネイトのその答えにショックを受けたか目を覆い天を仰ぐ。
「不敬か?」
「…いいや、それもまた狂気だ!努々その覚悟を忘れるでないぞ!」
かと思ったら別に気にしてはいないようで今度は破顔一笑する。
会話のぶっ飛び具合もそうだが躁鬱の気のあるテンションの乱高下が一層彼を人ならざる存在と二人に思い知らさせる。
「いいか、定命の者よ!決まった未来などまやかしだ!そんなもの、スタンリーの小話よりもつまらんものだぞ!」
「…そうだな。」
「決まった未来など…まやかし…。」
「未来とはもっと狂気と面白み、選択肢にあふれている!!!そんなものを自ら狭めるなど愚の骨頂、お楽しみをぶち壊すこと以外の何物でもない!!!」
そして今度は少女の未来予知に真っ向から挑もうとするネイトに激励の言葉を投げかけてきた。
「…ま、せいぜい頑張るさ。狂乱の王の延々続く退屈な人生を少しは彩るくらいには…な。」
ネイトもシェオゴラスに対し少々皮肉を交えながら努力する旨を答えた。
「中々生意気な定命の者だな。まあよい。お前は実に優秀だ。心の闇やら何やらかんやらをすべて従えてはんにゃらほにゃららなんだからな。」
「それはどうも。」
言っていることの8割がたは理解できないがネイトの跳ねっ返り具合もシェオゴラスは気に入っているようだ。
「い、一応…評価されてるみたいだね…。」
少女もようやくシェオゴラスのことを爪のさきほどは理解できるようになってきたようだ。
すると…
「小さき者よ、お前も見どころがあるぞ!その体に見合わぬ無駄に長ぁい舌のせいでわざわざ自分から災いを絡めとる厄介な性格なのは見ていて愉快だぞ!」
「ッ!?」
シェオゴラスがそう言い放った途端、今までにないほど表情を強張らせた。
「ど…どうし…て…!?」
「どぉしてぇ?私は『狂乱の王子』なのだぞ?だからよく分かる…!貴様…いいや、貴様らの『領域』には濃密な『狂気』が渦巻いていることがな…!」
まるで玩具を品定めするようなニヤついた表情で少女を見つめるシェオゴラスだが、
「だぁが…全くもって退屈だぁ!」
今度は当然上を見上げて叫ぶ。
相変わらず躁鬱としか言えないテンションの乱高下が凄い。
「た、退屈…!?」
「そうだ!ペラギウス・セプティム3世とは比べ物にならぬほど質が悪すぎる!!!まるで造花だ、見た目だけは一丁前なくせに汚濁の香りを振りまく粗悪な安物だ!ただの木偶の坊な狂気など退屈の極みだ!」
そう言って手近なチーズを手に取ってかじりつき…
「そんな狂気など今の私たちの様に茶でも飲み交わしチーズでも齧りながらくっちゃべっていれば正常になる!そこから先は…。」
口からチーズの屑を撒き散らしながら少女にそう言い放った。
まるで…彼女を取り巻く苦難を打ち払えるかのような口ぶりだった。
「そこから先は…!?」
少女は彼の言葉を一言一句聞き逃すまいと意識を集中する。
が…
バシュゴオオオオオッ!
突如として空間に穴が発生し、
「あぁ~やっと見つけたー!!!」
「なぁッ!?」
「あ、ユメ。」
そこからユメが飛び出してきた。
「なんじゃ、もう見つかってしまったか!」
「もう駄目じゃない、お爺ちゃん!あっちもこっちも今大騒ぎなんだから!!!」
「えぇい、良いではないか!遠き子孫と10年20年茶会を開くくらい!」
「いや、どれだけおしゃべりしたいの!?普通の人は死んじゃうよ!?というかどうやってここに!?」
「こぉんな狂気とあれほど強大な私の象徴が掲げられれば来ずにはいられまいて!いやぁ良いものを見たわ!」
「だからっていきなり来ないでよ!勝手にこっちに来たら私が怒られるんだからね!?」
「貴様とて『ソブンガルデ』に導かれし勇者の魂を掻っ攫って異世界で仕事をさせておいてみみっちい事を抜かすな!」
「違いますぅ~!ちゃんと『アーケイ』さんの許可とってますぅ~!」
「そいつエイトラじゃしぃー?!私はデイドラの王じゃしぃー?!知った事ではないなぁー?!」
出て来るや否やユメと子供の言い合いのような口喧嘩を繰り広げるシェオゴラス。
「だっ誰だい…!?き、君もどうやってここに…!?」
いよいよ混沌極まってきたこの茶会にとうとう目が回り始めた少女。
「…はぁ~。」
ネイトは深く息をついて手近なところに置いてあったロールケーキを皿ごと持って立ち上がり…
「ユメ。」
「ムッなんですかネイもごぉッ!!?」
「いったん落ち着け。」
ユメが大きく口を開けた瞬間、一切れその口に突っ込んだ。
「モゴモゴモゴ…ッ!?」
ユメはしばし口の中のロールケーキを咀嚼し…
「プハッ!い、いきなりひどいですよぉ!…あ、でもすっごい美味しい…!」
ネイトを非難しつつもケーキの味が気に入ったかすぐにご機嫌になった。
「ほら、そこら辺の茶菓子でも食べて大人しくしてろ。」
「はぁ~い。」
そして、ユメはネイトの座っていた席に着き紅茶とお菓子を食べ始め…
「…シェオゴラスの爺さん。どうやら老人会の遠足はここまでのようだぞ。」
「…はぁーあ、そうだな。そろそろチーズに合う紅茶が恋しくなってきたわい。」
シェオゴラスもどうやら帰る決心がついたようだ。
「では、忘れ物がないか確認しよう。一張羅は?…よし!あご髭は?…よし!…荷物は?荷物はッ!?荷物はどこに置いたッ?!」
「いや、アンタ手ぶらだっただろう。」
「おぉっとそうだったぁ!ならば、懐かしの『シヴァリング・アイルズ』へ帰るとしよう!」
終始ハイテンションのままシェオゴラスは勢いよく立ち上がり、
「『アーケイ』の親戚よ!伝令に来たのだ、道案内くらいせい!」
「あぁ~もうちょっと~!こんなおいしいお菓子初めてなの~!」
「今度は貴様が居残りたがってどうするのだ!」
どういう原理か、ユメを浮遊させ彼女が出てきた穴に向かって歩み始める。
「達者でな、定命の者よ!いつかニュー・シェオスに寄る事があったら私を訪ねてくれ!」
「…ヤバい所じゃないよな?」
「私のお膝元だ!飛び切りのイチゴのトルテをごちそうするぞ!一期一会のトゥルットゥー!」
確実にヤバい所ではあるだろうが…
「…まぁ、甘いのは好きだ。機会があったら訪ねさせてもらうさ。」
これもまた一興と了承するのであった。
「是非そうしてくれ!行くぞ、ユメよ!」
「はぁ~い…。」
観念したかユメもクッキーを数枚掴んでシェオゴラスの後に続く。
「まっ待ってくれないかい…!」
そんな二人を少女は呼び止めるが…
「おぉっとそうであった。定命の者よ、私から一つ助言をしてやろう!」
それを無視するようにシェオゴラスはネイトに向き直り、
「尖塔の頂上から見下ろすのはいい気分だ!だが、居心地が悪く感じるのなら飛び降りるのも手だぞ!」
「それはどういう…。」
「それを考えるのは貴様の役目だ!さぁ、選べ!選んで私にその狂気の行く末を見せてくれ!」
何らかの忠告と思われる言葉を発し…
「では、二人とも!よい狂気と共にあらんことを!」
「またね~、ネイトさん。あ、お茶とお菓子ご馳走様~♪」
シェオゴラスとユメは穴の中へと消えていきその穴は閉じられた。
「…さて、俺も帰るか。」
ネイトも踵を返し歩み始めるが…
「まっ待ってくれ!」
「…何だ?」
少女はネイトを呼び止める。
その表情は…まるで縋りつくかのようだった。
「み、未来がまやかしだというのなら私は一体どうすれば…どうすればよかったんだ!」
その言葉は…自分を否定したくない哀願のようだった。
そんな少女に…
「…お前、そんな立派な耳がついていて聞いてなかったのか?」
「え…?」
「俺もシェオゴラスの爺さんも言っていただろう。選ぶんだ。その未来を受け入れるのか…立ち向かって変えるかだ。」
ネイトは振り向くことなくそう答えた。
「結局、どう生きるかは自分次第だ。俺はいつもそうしてきたしこれからもそうし続けるつもりだ。」
「未来を…選ぶ…。」
「俺が死ぬっていう未来なら…その未来を踏み越えるまでだ。」
そう言い終え、
「じゃあな、お嬢ちゃん。今度はこんなまどろっこしい訪ね方じゃなくて現実で会おう。」
ネイトはいつもユメとの会合から抜け出すイメージを念じ…
シュン
この茶会の場から姿を消したのだった。
「私も…選べれば…!」
一人残された少女の呟きは紅茶の香りが漂う風の中に消えていくのであった。
――――――――――――――――
――――――――――
―――
カランカラン
「やぁマスター。」
「いらっしゃいませ、ネイトさん。」
後日、ネイトは『Cafe Franklin』を訪れていた。
いつものカウンターの指定席に腰掛け、
「少々お待ちを。」
マスターはいつものようにコーヒーを準備しようとすると…
「あぁ、マスター。」
「どうかなさいましたか?」
「今日は紅茶を用意してもらえるか?」
「おや、お珍しい。」
「それから…イチゴのトルテってあるか?」
どこか懐かしさを感じたあの『狂乱の王子』がおすすめしたケーキを頼むのであった。
疲れた…
この爺さんのセリフの動画聞きすぎて声がこびりついちゃった…
今後、オリジナルネームド生徒を登場させるのは…
-
OK
-
NO