今後はちょくちょくオリジナルネームドを出していこうと思います
キヴォトス全土に発せられた『連邦安全保障理事会』開催の通告とほぼ同時刻…
「…廃墟遊園地の調査依頼?」
「はい、少々前よりこの場所…『スランピア』で奇妙な現象が観測され…。」
先生の元に連邦生徒会主席行政官のリンが訪れ調査依頼を行っていた。
場所はD.U.郊外にある閉鎖された遊園地の廃墟。
そこはかつてモモグループが『ユートピア』という名前で建設したテーマパークだが経営不振のために廃業し現在は廃墟となった。
誰が呼んだか『ユートピアのスラム』、合わせて『スランピア』とあだ名が付けられ現在は公式の呼び方として定着している。
そう、ここは廃墟の遊園地で電力などとうの昔に供給されていない。
だというのに…
「目撃情報では夜に突然遊具が動き出し周辺では生徒の行方不明情報が他の場所と比べて高い発生傾向にあります。」
「ただの廃墟では確かに考えられない事態だね…。」
常識では考えられないような目撃情報や事件が多発している。
「本来は私共の管轄ですが…生徒会長不在のこの多忙な時期に連邦生徒会が直接動くのは少々非効率と言いますか…。」
現在、連邦生徒会のリソースの多くは失踪した生徒会長の捜索に充てられている。
今でさえ通常業務も一部先生に委託しなんとか業務を回せているというのにこのような捜査にまでは手が回らない。
「先生は生徒会長から直々にご指名された方ですから…このくらいの業務は難なくこなせますよね?」
「あははは…期待され過ぎちゃうのもプレッシャーだなぁ。」
そこで連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』の先生の出番だ。
元よりキヴォトス全土で超法規的活動が認められた部署の顧問、このような捜査にはうってつけの人材だ。
何より…
「まぁ普段は当番の子やロボット達のおかげで定時に上がれているから何とかね。」
先生の業務は非常に健全な状態を保っている。
グッ
その立役者ともいえる三機のMr.ハンディとMs.ナニーが器用にマニュピレーターでサムズアップをとって見せる。
風紀委員会での活躍通り、彼ら彼女らの活躍により先生の負担は非常に軽減されているのだ。
「………羨ましい…!」
「ん?どうかしたかい?」
「…いえ、お気になさらずに。」
連邦生徒会の気も知らず暢気な先生に若干苛立ったか、
「部隊の編成はお任せします。では、シャーレのご活躍を期待しております、先生。任務は三日後にお願いします。」
いつになく綺麗な笑顔を浮かべリンは捜査を丸投げしシャーレを後にしていった。
「…手厳しいなぁ、リンちゃんは。」
彼女が去った後、先生は困ったような表情を浮かべて苦笑する。
「さて、任されたからには私も頑張らなきゃね。ピペット、今から言う生徒にメッセージを送ってくれるかい?」
「畏まりました、先生。」
ともあれ、これも自分が任された仕事だ。
先生は調査のための部隊編成に勤しむのであった。
一方…
(これで懸念事項を一つ減らすことが出来ましたね…。)
公用車の中でリンは胸をなでおろしていた。
「主席行政官、先ほどキヴォトス全土の学校首脳部に『安全保障理事会』開催の通達が送信されたと報告がありました。」
「分かりました。では、調停室には通信環境と受け入れ、防衛室には警備の態勢構築の指示をお願いします。」
前述のとおり、連邦生徒会は安全保障理事会の開催をキヴォトス中に通達している。
その渦中に人物、W.G.T.G.の社長であるネイトだが…
(彼と先生は近すぎます…。調査の結果、後ろ暗い関係では一切ありませんが…それが非常に厄介です…!)
いつの間にか自分たちの切り札ともいえる先生と裏表ない対等な関係…いや、師弟関係を築いていた。
もし、先生が安全保障理事会の場に居ようものなら真相の追及は困難になるだろう。
だから、先生に捜査任務を依頼し当日にD.U.から去るように仕向けたのだ。
任務自体は正規の物で情報にも嘘偽りは一切ない。
正に渡りに船の状況だったのである。
(あとは三日後…そこで彼の真の狙いを…!)
出来る準備は全て行う。
ネイト相手に準備し過ぎてし過ぎるということはない。
来るその日に向け…リンも決意の籠った表情を浮かべるのであった。
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――――――――――
―――
そして、運命の三日後未明…
「申し訳ありません、セイア様…。」
トリニティ某所、救護騎士団の団長のミネは静かにそう言葉をかけていた。
「救護を行うものとして非常に不本意ですが…ティーパーティーからの動員令のため二日ほど暇を頂かせていただきます。」
その言葉には強い無念の思いがこもっていた。
可能ならば動員令など無視しトリニティに残りたいが…そうはできない。
もし、自分が動員令を断れば確実に疑惑の目を向けられる。
そうなれば…
「もし、万が一の場合はすぐに駆け付けます。ですので…どうかご安心を。」
そう言い残し、ミネは愛用のバリスティックシールドとウィンチェスターM1887を携え…
「では、行ってまいります。」
その場所を後にしていった。
時間は進み、数時間後…
「キヴォトスの皆さん、おはようございます!クロノス報道部のアイドルキャスター、川流シノンです!」
ある場所に押し寄せている報道陣の中にクロノスのシノンの姿があった。
さらに、周囲には普段以上にヴァルキューレの生徒も配備され厳重な警戒態勢が敷かれている。
「本日、実に数十年ぶりに開催される『連邦安全保障理事会』!その議会に参加するためキヴォトスの有力校の代表団が続々と降り立ってきています!」
その場所はD.U.セントラル空港、キヴォトス随一の広大さを誇る一大空港だ。
「あッご覧ください!たった今、トリニティより首脳部である『ティーパーティー』の桐藤ナギサさんと聖園ミカさんが到着ゲートから姿を現しました!」
ちょうどその時、大勢のお供を連れナギサとミカを筆頭とするトリニティの代表団が姿を現した。
ミカに至っては報道陣を見つけ笑顔を浮かべてこちらに手まで振ってくれた。
それだけではない。
「おぉっと!なんと正義実現委員会と救護騎士団の主力部隊まで!これはなんて豪華な代表団なんでしょうか!?」
周囲をツルギとハスミが指揮する正義実現委員会が厳重な警護体制を敷き後方からは様々な機材を運搬しているミネ率いる救護騎士団の部隊まで同行している。
何とも豪華な一行だが…明らかに過剰な警護体制である。
まるで…今から戦争でも始まるかのような戦力ではないか。
そんな疑念をシノンも抱きつつも…
ゴォオオオオオオオッ!!!
空港中に響き渡った轟音がその思考を切り取った。
「みっ見てください!あれはレッドウィンターが保有する巨人機『An-124』です!」
新たな報道ネタを逃すまいとシノンはその後もリポートに勤しむ。
そして、
「この錚々たる代表団の中、今回議題の中心でもあるアビドスとネイト社長はいつこちらに到着するのでしょうか!?」
この安全保障理事会の主役ともいえるメンツの到着を報道陣は今か今かと待ち続けるのであった。
だが、それからしばらく経ち…
「…おかしいな。」
D.U.セントラル空港で不審そうにそう呟いたヴァルキューレの制服に身を包んだピンと立ったよく音を拾いそうな犬の耳を持ったブロンドヘアの1人の生徒。
その目線は全ての悪事を見逃さない決意を秘めたかのような鋭さを持ち、唇から覗く歯は食らい付いたものを放さないかのように尖っていた。
「すまないが空港職員に発着情報を確認してきてもらえるか?」
「分かりました、『カンナ』局長!」
手近な後輩に確認に向かわせる生徒。
『尾刃カンナ』、ヴァルキューレ警察学校の花形ともいえる対テロ対策特化の部署『公安局』の局長を務めている3年生だ。
本人もその長であるため荒事慣れし相当な胆力を持っている。
一たび犯罪者を見つければどこまでも追いかけ捕縛し飴と鞭を使い分けた取り調べを行う。
そこで付けられた彼女の通称は『狂犬』だ。
そんな彼女がなぜD.U.セントラル空港にいるかというと…。
「遅い…。アビドスの出席者の予想された到着時刻はもう30分も過ぎているというのに…。」
彼女は今日、安全保障理事会に参加するアビドスの関係者の警護を仰せつかっているのだ。
事前情報であらかじめ到着予定時刻は把握していたが…一向に彼らの姿はみえない。
そこへ、
「どうも、カンナ局長!」
「あぁ、クロノスの…。」
取材の合間を縫って来たかシノンが近寄ってきた。
仕事柄、顔を合わせる機会は多いがカンナとしては正直苦手な人種である。
「本日はアビドスの出席者の警護を務めるそうですが意気込みを伺っても?!」
「悪いが私は答えられる立場にはない。取材ならば上層部の許可をとってくれ。」
やはりというしかないシノンに言葉に鬱陶しそうにそう返すカンナだが…
「まあまぁ、そんな硬い事は言わずに!それに今はスタジオに返してますからここでの話は報道されませんよ!」
確かに彼女はマイクを持ってはいるもののカメラマンを伴っておらずただ話を聞きに来ただけのようだ。
そのせいか…
「………意気込みも何もない。我々はただ職務を遂行するだけだ。」
素っ気ない態度はそのままだがちゃんと受け答えるカンナ。
「おぉ、さすがは公安局の狂犬!職務遂行第一と…!では、かの『熱砂の猛将』であるネイト氏にはどういった印象を…?!」
「ネイト氏の印象だと?」
「はい!彼がアビドスにやって来てからはアビドスの治安も相当改善され今ではキヴォトス屈指の犯罪率の低さを…!」
続くシノンのインタビューだが…
「………。」
「あ…あの…カンナ局長?」
カンナの目線は一層鋭く剣呑なオーラを漂わせ始めた。
確かにアビドスの治安の良さはキヴォトスでは考えられないものだ。
一般生徒ですら潤沢な装備と高い練度を誇り…今では現地のヴァルキューレより早くアビドスに通報がいくほどである。
学区の治安維持はその学区の仕事だが…この傾向は単純に喜んでいいものではないだろう。
そして…ネイト本人も未確認情報ながら自分たちが手も足も出なかった『災厄の狐』と戦い撃退するほどの強さを持っている。
「…ネイト氏は…。」
カンナはそんな複雑な心境を吐露しそうになった…その時だ。
「カッカンナ局ちょおおおおおお!!!」
話を聞きに向かわせたヴァルキューレ生が大慌てで戻ってきた。
「落ち着け。一体どうしたんだ?」
「ほッ報告します!!!」
カンナはそんな彼女を落ち着かせて話を聞くも…
「あ、アビドス代表団の輸送機は急遽飛行プランを変更しD.U.郊外にある飛行場に着陸したとのこと!!!」
「…は?」
「え?」
まさかの報告に言葉を失った。
「なっなんだと!?アビドスの代表団の現在位置は!?」
「そっそれがフライトプランの変更は二時間ほど前で…!」
「じゃあ、もうすでにD.U.に入っててもおかしくないじゃないですか!?」
「おい、急いで車両を手配しろ!!!我々もすぐに市街地に戻るぞ!!!」
「す、スタジオ!すでにアビドスの代表団とネイト氏はD.U.入りしているとの情報が!」
カンナとシノンもこれには慌ててここに配備されていたヴァルキューレ生を引き連れ会場であるサンクトゥムタワーに向おうとするのであった。
報道陣やヴァルキューレがD.U.セントラル空港で待ち構えていたことは決して間違いではない。
確かにこれほどの大規模な議会に普段通りのベルチバードでやってくるのは外聞上よろしくない。
やって来るなら何らかの大型機体かこの空港を利用するはず、報道陣もヴァルキューレもそう睨んでいた。
…その予想は間違いではない。
いかに外からの評判を気にしないアビドスやネイトであっても外交における『ドレスコード』は重々理解している。
だが…わざわざ実力をひけらかしマスコミの飯のタネになる様な真似をしないのもアビドスやネイトの共通認識である。
これより二時間ほど前、彼女らが待ち構えるD.U.セントラル空港から…実に100㎞近く離れたD.U.の郊外に…
ブゥオオオオオオオ…ッ!!!
アビドスのエンブレムが描かれた一機の迷彩が施された4発のレシプロ輸送機が着陸態勢をとっていた。
眼下には簡易的な管制塔と格納庫以外の設備が見当たらない簡素な飛行場がある。
その輸送機は徐々に高度を落とし滑走路に着陸。
しばし滑走し…停止した。
本来ならば後続の航空機のために素早く退避路に向かわなければならないが…生憎この飛行場は『貸し切り』だ。
そのまま後部ハッチが開き…
ブロロロ…!
青地に白ナンバーの二台の武装満載の装甲ハンヴィーが地面に降り立つ。
銃架にはM2が搭載され後部座席も増加し一度に10人を運べる特別仕様だ。
その二台のハンヴィーが下りた後に…
「じゃあチカちゃん!行ってくるね!」
「お留守番お願いしますねぇ♪」
制服をしっかりと着込んだアヤネとノノミがハッチから歩み出る。
その後ろでは…
「行ってらっしゃい、アヤネちゃんにノノミ先輩…。私は『写経』でもしながら皆さんの帰りを待っていますので…。」
まるで花火のようなヘイローを持つモスグリーンのアフロから先端の曲がった犬耳が飛び出ているアビドスの制服の上からフライトジャケットを羽織った暗い雰囲気を漂わせる生徒が見送っている。
彼女は『幽谷チカ』、元はとある不良グループ所属のアビドスの一年生だ。
アビドス転入組の中でも古参の部類で現在はアビドス航空隊『特殊輸送隊』のパイロットを任せられている。
その冷静…というには若干暗い性格に裏打ちされた腕前は確かなものですぐに頭角を現しこの機体を任された。
そんなチカに見送られアヤネとノノミ、アビドスの生徒計三個分隊が飛行場から走り去っていく。
「さて…『写経』する前に準備を済ませておきますか…。」
そんなチカの言葉をどこかで聞いていたかのように複数台の輸送トラックが入れ替わりで飛行場へと進入してきたのであった。
さて、ノノミとアヤネを載せた二台のハンヴィーはD.U.の中心街に向けてハイウェイを走っている。
「いよいよですね、ノノミ先輩…!」
「そうですねぇ…。」
車内で二人も緊張の面持ちを浮かべている。
なにせアビドスにも重大な防衛網が構築されようとした矢先に連邦生徒会がこれまでにないアクションを起こしてきたのだ。
「情報を整理しておきましょうかぁ、アヤネちゃん?」
「はい、この三日間調べられる限り調べてきました。」
その間、アビドスもただ過ごしていたわけではない。
情報の漏洩元の調査や繰り広げられるであろう質問への対策など多忙を極めていた。
「現状、情報の漏洩元は不明…。ゲヘナ・ミレニアム・ハイランダーの三校も調査を行っているそうですが結果は芳しくないようです。」
「質問に関しては…おおよそ行われる内容は想定しそれに対する返答も練り上げられてますねぇ…。」
生憎、水漏れ箇所の特定には時間が足りなかった。
なので、同時進行で安全保障理事会で行われるであろう質疑応答への対策にシフトしネイトの指導の下で万全の態勢を整えている。
「でも、ネイトさんが言うには…安全保障理事会で漏洩元が分かると言ってましたが一体どんな方法で…。」
「ネイトさんが言っているのですから想像もつかない方法を講じているんでしょうけど…。」
と、ここで…
「…そう言えばネイトさんからの連絡は?」
アヤネがそんなことを尋ねた。
そう、この安全保障理事会のもう一人の主役ともいえるネイトの姿がここにはない。
無論、ドタキャンしたらお縄に着くと警告を受けているので欠席しているわけではない。
「先ほどモモトークで通知が来ました。既にD.U.に入って準備しているらしいですよぉ♪」
「なんというか…本当に厳しい世界だったんですね、連邦って…。」
ノノミの返答を聞いてアヤネも遠い眼をしながらそんなことを言葉にする。
この安全保障理事会において最悪の事態とは何か?
答えは『アビドスもネイトも襲撃を受け参加できない』ことだ。
確かに一塊で向かえば対応もしやすいだろう。
しかし、もし飛行中に撃墜されたら?
移動中に大部隊の襲撃を受けたら?
アヤネたちは何とか大丈夫かもしれないがネイトはそうもいかない。
なので…
「お待たせいたしました、『ジョン』様。こちらが昨日ご注文いただいていた品でございます。」
「急かしてしまってすまなかったな。」
「お支払い方法は如何しますか?」
「現金で。」
D.U.市内、とある場所で変装したネイトが何やら買い物を行っていた。
普段はかけないメガネに付け髭、デザインを変えたホログラムキャップを被り声質も変えている。
そのせいか、今のところ誰一人として彼の存在に気付いていない。
「やれやれ…アビドスにないからここで買う羽目になるとは…。」
あらかた必要な物を買い終え近くの公園で一休みしているネイト。
なぜ渦中のネイトが陰謀渦巻くこのD.U.に単独で乗り込んでいるかだ。
(全く…コミーの書記長みたいな真似を俺がすることになろうとはな…。)
そう自嘲気味に内心語るが…事実ネイトがとった作戦はまんまそれだ。
戦前、自由主義陣営とは違い共産主義国の首相は常に暗殺の危機にさらされていた。
なので、長距離の移動であっても飛行機に乗ることを極端に嫌う。
ネイトの世界でもそれは同じでこんなジョークがあった。
『米国大統領と中国書記長が会談するのに必要なことは二つ。一つは平和を願う心、二つ目は8500㎞の鉄橋だ。』
要は飛行機ごと撃墜されることを極端に恐れ空を飛びたがらないことを皮肉るジョークである。
そんなジョークをかつて笑い飛ばしていたネイトだが…
(ま、ホシノの懸念も間違いじゃない。こっそり電車で現地入りしていて正解だった…。)
この日、自分がそのジョークの通り鉄道でD.U.入りすることになるとは思いもしなかった。
キヴォトス人なら生半可なこと…それこそ飛行機を撃墜されようとせいぜい大怪我で済むがネイトはそうはいかない。
しかも、この連邦安全保障理事会は何ともきな臭い雰囲気を感じる。
そこでホシノが一計を案じ、アビドスの代表団はD.U.郊外のセイント・ネフティス社が所有する簡易飛行場に降り立ちネイトは陸路で潜入するという方法をとった。
それは結果として…
《ご覧ください、現材のレッドウィンター書記長のチェリノ氏を筆頭に大勢のレッドウィンター生の方々が一糸乱れぬ行進を…!》
(あんなマスコミの中に降り立つのはごめんだなぁ…。)
近くにある街頭モニターから流れるクロノスのニュース番組を見てホシノの警戒は間違ってなかったと理解した。
どこのテレビ局もこの話題で持ちきりだ。
おそらく、あの中に飛び込んでいたら以前の不祥事など忘れて取材攻めにあっていただろう。
(…そう言えば…彼は元気にしてるかなぁ…。)
と、物思いにふけっているとスマホに着信が入る。
「もしもし?あぁ、アヤネ。…分かった、俺もそろそろ向かうよ。」
相手は移動中のアヤネで彼女たちもD.U.都心部に入ったというものだった。
ネイトはベンチから立ち、近くを走っていたタクシーを捕まえ…
「お客さん、どちらまで?」
「サックトゥムタワーまで。行けるところまで頼む。」
議会が行われるサンクトゥムタワーまで向かい始める。
その道中、
「すまないが…ここの都市高の出口辺りで待っててもらえるか?」
「え?随分遠回りになりますぜ?しかも待ってる間もメーターが…。」
「構わないよ。その辺で待ち合わせしてるんだ。」
「分かりやした。」
ドライバーに頼んでとある都市高の出口でしばらく停車することに。
「お客さん、サンクトゥムタワーまで何しに?観光地巡りにしちゃあまり面白くないとこですぜ?」
「そのあたりでちょっと用事がな。そう言えば最近のこの辺の治安はどうだい?」
「なんていうかねぇ…。ちょっと前、連邦生徒会長がいた頃と比べると客の質は悪くなったなぁ…。」
「へぇ、ヴァルキューレのお膝元なのにか?」
「あんなの役に立たないよ。ドンパチ起った時は動きは遅いしヤバい時には拳銃に装填されてる分しか弾が支給されないなんてもっぱらの噂だ。」
「それは…かなり貧乏なようだな…。」
「それでも前は酷い時にはもっとすごい学校が助けに来てくれてたがよ、それも最近姿を見せねぇなぁ…。」
しばしの間、タクシーのドライバーとおしゃべりに興じることに。
やはり長くD.U.を走っているだけあって様々な情報を知っているようだ。
そんな生の情報を仕入れていると…目の前の都市高の出口から二台のハンヴィーが下りてきた。
待ち合わせていたノノミやアヤネたちが乗る車両である。
「おっと、すまないがあの装甲車の後を追ってもらえるか?」
「かしこまり!」
すぐにドライバーに頼みネイトもその後についていく。
こうして完全武装の装甲ハンヴィーとタクシーという奇妙な車列がD.U.の市内を進んでいった。
だが、しばらく進んだところで…
「お客さん、こりゃ進むのはしばらくかかりますねぇ。」
ネイトが乗ったタクシーと眼前のハンヴィーの車列は渋滞にはまっていた。
みると少し先で防衛室が敷いた検問が行われている。
今日は様々な学校の首脳部が訪れているので当然の警備体制だ。
そろそろ潮時だろう。
「じゃあこの辺りで構わないよ。料金は?」
「これくらいですね。」
「じゃあこれで。釣りは取っといてくれ。」
料金を支払いネイトはここでタクシーを降りることに。
降車する間際、
「あ、お客さん。良かったらこれを。用があるときはいつでも呼んで下せぇ。」
「その時はお願いさせてもらおうか。」
運転手から名刺をもらいタクシーは脇道に入り去っていった。
「…さて。」
タクシーを見送り…
「お邪魔するぞ。」
「いらっしゃい、ネイトさん♪」
ネイトはアヤネたちが待つハンヴィーに乗り込んだ。
「…意識して声を聞かなきゃ本当に分かりませんね。」
相変わらずの変わりようにぎょっとするアヤネ。
事前に変装した姿を知らなければ一発撃ちこんでいたかもしれない。
だが、
「フフッ、これでも俺の変装は知り合いには負けるさ。」
付け髭やサングラス程度の変装はネイトの中ではかなりお手軽な部類。
ネイトの知り合いの中には…定期的に整形外科センターを用いて骨格から変える本格派もいたくらいだ。
「…だが、鬱陶しく思うな。こういうことは。女性は本当に凄いな。」
ようやく変装を解いても問題ないメンツと出会えたので早々と付け髭やらの変装道具をとっていくネイトだが…
「フフッ、じゃあ今度一緒にメイクのお勉強でもしましょうかぁ♪」
「あ、いいですね!大人の方もお肌のお手入れは欠かせませんもんね!」
「………アヤネにノノミ。二人は俺をどこへ向かわせようとしてるんだ?」
何やら得体の知れない道に引きずり込みそうな二人を見て少々距離をとるのであった。
ハンヴィーはそのまま検問に差し掛かり…
「オーライッオーライッ!」
「バカっ!外交ナンバーだろ!」
「ってあぁッ!すみません!」
そのまま検査をスルーして進むことが出来た。
「いやはや、外交特権様様だな。」
「外交公用車の登録枠が空いててよかったですね。」
学校=国家のキヴォトスにも手続きを踏めば限定的な『外交特権』を得られることが出来る。
このハンヴィーもその手続きを経てアビドスの外交公用車となっている。
登録枠は限りはあるが…何分アビドスは連邦生徒会出の発言力を失って久しい。
そのため、いつの間にか外交公用車の登録枠がガラガラだったので今回それを利用したのだ。
一行はそのままD.U.市街地を走り抜けていき…
「お嬢たちにアニキ、そろそろ見えてきましたよ。」
いよいよその場所が見えてきた。
「あそこがサンクトゥムタワーですか…!」
「遠くから見えてはいましたが…近づくととんでもなく大きいですね…!」
D.U.の遠方であってもその姿を拝むことが出来るまさに文字通りキヴォトスの『中枢』、サンクトゥムタワーだ。
「前に来た時も見たが…マスフュージョンビルなんか目じゃない高さだな…。」
高さは優に1000mを超えどういった仕組みか不明だが途中から構造物が『浮遊』しているという摩訶不思議な施設だ。
そこを中心として空には超大型のヘイローがキヴォトスの空に広がっている。
なんとも神秘歴な建物だが…
「まぁ…今の俺達にとっては『伏魔殿』も同然の場所なんだがな…。」
今日、自分たちはあの場所でキヴォトス最大の組織と舌戦を繰り広げる。
ネイトの言葉にアヤネとノノミの表情も引き締まる。
そして…
「どうやら…俺達が一番乗りらしい。」
「その方が色々都合がいいですね。」
「さぁ、頑張っていきましょう!」
「三人ともお気を付けて!」
報道陣もまだまばらな中、スーツに着替えたネイトとノノミとアヤネがサンクトゥムタワーのエントランスに降り立ちサンクトゥムタワー内に入っていくのであった。
こうして様々な思惑が交差する連邦安全保障理事会の開幕が着々と近づく。
そして…ネイトは未だに知る由もなかった。
この日、第二の人生史上最も過酷な一日になるということを。