Fallout archive   作:Rockjaw

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礼儀には魅力もあれば利益もある。
―――詩人『エウリピデス』


La réunion commence, mais la danse commence aussi.

安全保障理事会にまさかの一番乗りでやってきたネイトとアビドスの代表団にこの場を任されていた連邦生徒会の生徒は少々驚いたものの…

 

「時間になりましたらお迎えに上がりますのでこちらでお待ちください。」

 

なんとか平静を取り戻しネイトを個別の待合室に通すことが出来た。

 

やはり『重要参考人』なのでノノミ達とは同室にはさせてもらえないようである。

 

案内してくれた生徒が立ち去って行ったのを確認し…

 

「フム…。」

 

ネイトは部屋をぐるっと見まわし…そこら中を家探しし始めた。

 

ここはネイトにとっては『警戒対象』の中枢。

 

まさかここで謀殺するつもりは無かろうが…盗聴器の一つや二つ仕掛けられていてもおかしくない。

 

Pip-Boyの受信機能をフル活用し家具はもちろん調度品などをくまなく調べていくが…

 

(…ない。)

 

一向にその手の代物が出てくる気配はない。

 

が、それでもシャーレの例がある。

 

余程巧妙に仕掛けられているのかと思いさらに入念に探すネイト。

 

その時、

 

「………なにをしてるの?」

 

「ん?」

 

声を掛けられそちらを見ると…

 

「あぁ、ごめんなさい。ノックをしたのだけれど物音だけして返事がなかったから入らせてもらったわ。」

 

連邦生徒会の制服に身を包んだ耳の高い一人の生徒がいた。

 

「それで一体何を…?」

 

「あぁ、『掃除』だ。」

 

生徒の質問に漠然とした答えを返すネイト。

 

「…清掃はきちんとされてるはずだけど。」

 

「気にしないでくれ。こういう性分なんだ。」

 

「そう。」

 

その後もしばしの間念入りに掃除を行い…

 

「…よし、いいか。待たせてすまなかったな。」

 

「構わないわ。綺麗好きなことは良い事だもの。」

 

ネイトはようやく彼女と向き合い…

 

「まぁかけてくれ。それで…。」

 

「申し遅れたわ。私は連邦生徒会財務室長の『扇喜アオイ』よ。はじめまして、ネイト社長。」

 

「よろしく、扇喜財務室長。」

 

「アオイで構わないわ。」

 

腰掛け訪ねてきた生徒、アオイと対面になるようにソファに座る。

 

「それで?いったい何の用だ?連邦生徒会は俺に鼻持ちならない生徒ばかりだと思っていたが?」

 

開口一番、ネイトはアオイに訪問理由を尋ねる。

 

自分と連邦生徒会の関係性の悪さは自覚しているつもりだ。

 

そんな自分の所にわざわざ連邦生徒会の生徒、しかも財務室長が訪れてくる理由を知りたかった。

 

すると、

 

「そんなに警戒しないでちょうだい。…私も傷つくのよ?」

 

アオイは少し困った表情で答える。

 

彼女の表情を観察し…

 

「…すまないな。なんせこんな状況だ。少し意地悪な質問をしてしまった。」

 

ネイトももろ手を挙げて先ほどの質問を詫びた。

 

どうやらアオイ本人には自分をどうこうする意思はないようだ。

 

「…こちらも申し訳ないわ。まさかリン行政官がいきなりこんな強引なことをするだなんて以前までは考えられなかったの。」

 

アオイもネイトの心情を察して頭を下げた。

 

「…意外だな。」

 

「それはどういう…?」

 

「いや、連邦生徒会全員が俺に敵対心を抱いてると思っていたもので。」

 

「そ、そんなことはないわ。なぜそんなことを…。」

 

ネイトの言葉にぎょっとするアオイだが…

 

「前にそっちの主席行政官に会った時は俺を問答無用で引っ張っていこうとしたんだ。しかも、アビドスとウチに謝罪文を一方的に送り付けてその後は音沙汰なしだったし。」

 

「リン先輩…!」

 

まさかの上役であり先輩の暴挙ともいえるリンの行動に頭を抱えるしかなかった。

 

「…重ね重ね申し訳ありませんでした。先輩の代わりに謝罪させて…。」

 

たまらずまた深く頭を下げようとするアオイに、

 

「いや、組織は一緒とはいえ君は関与のしようがない事だったはずだ。頭を上げてくれ。」

 

彼女が無関与だと理解している旨を告げてそれを制するネイト。

 

いかに警戒対象の組織の者と言えど無関係な彼女に謝られるのはさすがに気まずい。

 

「本当にごめんなさい。それから…ありがとう、ネイト社長。」

 

「その気持ちは受け取っておく。…さて、そろそろ本題に入ろうか。」

 

「分かったわ。私がここに来たのは…。」

 

アオイがここを訪れたのは議会の流れについての説明のためだった。

 

この安全保障理事会は二日にわたって行われる。

 

初日は議題についての質疑応答など。

 

二日目にも質疑応答を行い多数決の結審にはいる。

 

つまり、

 

「俺達はD.U.に泊まらなければならない、ということか。」

 

「宿泊所はこちらで手配済みよ。会議が終わったら案内するわ。」

 

アビドスには戻れずD.U.で一晩を明かすということだ。

 

確かに行って帰って来るのは手間だが…。

 

「…じゃあ一つ頼みがあるんだが…。」

 

そこでネイトはアオイにあることを頼み…

 

「…本当にいいの?」

 

「遊びに来たわけじゃないから構わない。」

 

「そう、手配しておくわね。」

 

一度尋ね返し了承してくれた。

 

「…でもさっきの貴方じゃないけど…意外ね。」

 

「何がだい?」

 

「そんなに警戒しているのに私は部屋に入った事にも気付かないだなんて。」

 

アオイもネイトのことはある程度は把握している。

 

音に聞こえ連邦生徒会を震撼させた強さは自分では敵わないものだとも知っている。

 

強さだけでなくその警戒心の高さも今しがた目の当たりにしたばかりだ。

 

おそらく、この間合いで腰の銃を抜くよりも自分がネイトに制圧される方が早いだろう。

 

だが、先ほどのネイトは連邦生徒会の自分が部屋を訪れたというのに声をかけるまで気付きもしなかったが…

 

「これでも相手に『悪意』がないかどうかは分かるつもりだ。悪意が無い相手にいちいち気を張るのも疲れるからな。」

 

長年生きてきた経験をもとにネイトはアオイが自分を害しに来た存在ではないことを把握していた。

 

「…そう、信用してくれてるのね。」

 

「アオイこそ、よく俺のいる部屋に一人で来たな。」

 

自分はそうだったがアオイはまだ年若くそのようなスキルは持ち合わせていないはず。

 

だというのに連邦生徒会が異常なほど警戒する自分の部屋に単身やって来るのはかなりの度胸だと思ったが…

 

「リン行政官や他の職員は知らないけど…私は特にネイト社長を警戒はしていないわよ?」

 

「ほぉ?」

 

これまでで会ってきた連邦生徒会の生徒とは全く正反対の答えが返ってきた。

 

「私が信じるのは『数字』よ。数字は決して嘘をつかないもの。」

 

「…なんとも聞きなじみのある言葉だな。」

 

「そう?それで財務室長の私から見て…W.G.T.G.は信用に足る企業でネイト社長も信用できる人物だと判断したわ。」

 

なんとも日々キヴォトスの財布事情を任されているアオイらしい言葉だが…

 

「だがこういう言葉もあるぞ?『噓つきは数字を使う』とな。」

 

少し意地悪な表情を浮かべてネイトはそう切って返す。

 

カイザーのころからはっきりいってかなりあくどい事をやって来ている自覚がある。

 

それを『数字』一つで自分を信用する彼女に警告の意味を込めた言葉だったが…

 

「あら?貴方が人の『悪意』を察知できるように私も数字に込められた『作意』なら分かるのよ?」

 

今度はアオイが自信ありげに答える。

 

「W.G.T.G.の収支報告書や納税関連の各書類、その他決算などの『透明性』は最高水準よ。カイザーだったらこうはいかないわ。」

 

W.G.T.G.の財務状況はまさに明朗会計の言葉その通りだ。

 

賃金の支払いはもちろん、雑収入から寄付などの資金の動き全てが詳細に記録されアオイたちの元に届いている。

 

節税対策はかなりされているものの脱税の兆候などもない。

 

このキヴォトスでここまでできている企業は相当珍しい。

 

「…その様子だとカイザーはかなりあくどかったようだな。」

 

「室長になる前の私一人が声を挙げたところでどうしようもない位にね。」

 

「で、今は?」

 

「今までの分も徹底的にやらせてもらってるわ。」

 

「それは何より。」

 

さらに思わぬところでカイザーの現状を聞けてネイトの口角が上がった。

 

「リン先輩や防衛室長は…ネイト社長が一番知っているでしょうけど少なくとも先輩たちが抱くほどの不審なところは感じない、というのが財務室長としての私の意見よ。」

 

「今日の議題の軍拡云々に関してもか?」

 

「しっかりと収支に計上するのならその限りじゃないわ。」

 

財務室長として『数字』という事実のみを見て非常に中立的な意見を述べるアオイ。

 

「それに…正直この議会も相当予算を使うのよ。これに使うくらいならもっと他に回してほしいわ。どこも一円でも多く欲しがっているというのに…。」

 

「財布役も大変だな。」

 

そんな彼女から見てもこの安全保障理事会は相当痛い出費のようだ。

 

議場の整備はもちろん各校の代表団の受け入れにそれに伴う警備etc…たった二日間でとんでもない金額が飛んでいく。

 

「せめて…それに見合った結果が出ればいいのだけれど…。」

 

そう切に願うアオイだが…

 

「相手はカイザーの金庫を空にしたこの俺だが?」

 

「…リン先輩たちの健闘を祈るわ。」

 

僅かに言葉を交わして分かるとんでもない老獪さを秘めた目の前の大人を見てその望みが薄いものだと察する。

 

「そろそろ時間ね。お話しできて楽しかったわ、ネイト社長。」

 

「大したもてなしも出来ずにすまなかったな。代わりに…。」

 

そう言い、ネイトが差し出したのは…

 

「俺の名刺だ。何か知りたいことがあったら気軽に訪ねてくれ。」

 

W.G.T.G.代表取締役社長としての自身の名刺だった。

 

「あら、いいの?私はアビドスに嫌われている連邦生徒会の生徒よ?」

 

先程のお返しと言わんばかりに今度はアオイが少し意地悪な答え方をするも、

 

「好き嫌いは別にちゃんと『客』や『正当な理由』をもって来るならそれ相応の応対はする。ホシノ達もそこはきちんと弁えてるよ。」

 

余裕たっぷりにそれに返すネイトであった。

 

「…そう、それなら今度財務状況について立ち入り調査でも行いましょうか。」

 

「その時はお手柔らかに頼むよ、財務室長殿。」

 

と互いに軽口を交わし合い、

 

「それではネイト社長。幸運を祈ってるわ。」

 

アオイは名刺を受け取って退出していった。

 

そして、一人残されたネイトは…

 

「…いやホント…なんでこんな簡単なこともできないのかねぇ…。」

 

天井を見上げネイトはそう呟いていた。

 

と、初めての連邦生徒会の生徒との会話を終え準備などをしつつ数十分後、

 

「ネイト社長、そろそろお時間です。」 

 

「…分かった。」

 

いよいよその時が来た。

―――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

ネイトよりも一足先に『安保理議場』に通されていたノノミとアヤネ。

 

「凄い顔ぶれですね、ノノミ先輩…!」

 

「そうですね…!」

 

アヤネはもちろん普段からマイペースを崩すことのないノノミですら緊張の面持ちを浮かべていた。

 

急遽設置された自分たちの席と違いこの議場の象徴ともいえる円卓には…

 

「トリニティの『ティーパーティー』に百鬼夜行の『陰陽部部長』にレッドウィンターの『書記長』…!」

 

「有名どころの学校のトップは殆ど勢ぞろいしてますね…!」

 

キヴォトスに広く知れ渡る大規模学校の錚々たるメンツが着席していた。*1

 

もっとも…

 

「トリニティとレッドウィンター以外はオンラインの参加ですから少し気が楽ですねぇ…。」

 

殆どの学校はオンライン、ホログラムがその席に投影されている状態だ。

 

しかし、そんな全員のまるで品定めするような目線が二人に注がれている。

 

そんな中であって…

 

「ユウカ先輩とノア先輩もホログラムですが…やっぱり心強いですね。」

 

「それにマコト議長も…。顔見知りがいてくださると少しは気が楽になります…♣」

 

マコトとセミナー会長代理として出席しているユウカとノアの姿もあって少し緊張が和らぐ。

 

「何はともあれ…本番はこれからですね、ノノミ先輩…!」

 

「頑張りましょう、アヤネちゃん…!それに私達には…!」

 

二人が今一度気合を入れ直していると…背後のドアが開かれ…

 

「参考人、入られます!」

 

生徒の声と共に議場のドアが開かれ…

 

「………。」

 

議場内全員の視線が注がれる中、ネイトが一切の怯えも見せない足取りで議場内に入る。

 

(キキキッ少しは怯えていた方が印象が良いというものを…。)

 

(あ、相変わらず鋼のメンタルなんですね…。)

 

そんな顔見知りの彼のこの状況でも普段と変わらない様子に内心苦笑を浮かべるマコトとユウカに、

 

(へぇ…あれが熱砂の猛将…。思てたより背ぇ小さいなぁ。)

 

(ふむ、オイラに負けない位に堂々とした立ち振る舞いだな!)

 

初めて間近で見る彼の姿に参加者たちは思い思いの印象を想起し、

 

「へぇ、あれが噂の…。なんだかもっと悪魔みたいな感じの人かと思ってたけどあんまり私達と変わらない感じなんだね?」

 

トリニティの代表者の一人であるミカはネイトの姿を見て意外といったような感想を漏らす。

 

「みっミカさん、少し落ち着きましょうね…!」

 

それに戦々恐々としつつ彼女を窘めるナギサ。

 

見かけはそうでも相手はあの『熱砂の猛将』と称される人物だ。

 

(だっ大丈夫です、桐藤ナギサ…!今日というこの日のために何度もシミュレーションを…!)

 

彼女も内心で何度も自分を励ますように念じ続ける。

 

そんな代表者たちの視線など意に介さずネイトは用意されていた自分の席に着いた。

 

こうして面子が揃ったのを確認し…

 

「それでは…これより連邦安全保障理事会を開催します。」

 

会議の進行を務めつリンの号令で連邦安全保障理事会の開幕が宣言された。

 

「それでは本議会の議題について…トリニティの桐藤ナギサさん、説明をお願いします。」

 

「承知しました。トリニティ『ティーパーティー』ホスト、桐藤ナギサと申します。」

 

リンに指名されナギサが立ち上がり、

 

「私からは…昨今のアビドス高等学校における急速な軍拡についてその懸念を提唱いたします。」

 

議題であるアビドスの『軍拡』に関することを述べ始める。

 

「ご参加の皆様も承知の通り、アビドス高等学校は以前より強力な戦車を筆頭とする重装甲の兵器の配備を進めています。」

 

ナギサがそう言うと議場に設置されているモニターにアビドス独立戦争の折D.U.で撮影されたアビドス制式戦車『M1A4E2 Thumper』の写真が表示される。

 

「これらだけでなく大口径の自走砲に我がトリニティに配備されているものよりも倍以上の口径を持つ野砲なども確認されその軍備は同規模の学校が持つにはあまりにも強大と言わざるを得ません。」

 

その他の兵器などの写真などに変えながらナギサの話は続き…

 

「そして、未確認ながらもアビドス、もとい同校学区に根を下ろす企業W.G.T.G.は遠隔地より大規模な軍事拠点を一撃で消滅可能な兵器まで所有していることは皆さまも記憶に新しいと思います。」

 

クレーターが刻まれた元カイザーPMCの拠点の画像に切り替わったところで参加者や連邦生徒会の生徒が息をのむ声が聞こえた。

 

そして、いよいよ…

 

「これだけでも大きな戦力ではありますが…この度我々トリニティが入手した情報によりますとアビドスはごく最近になり近隣の空軍力のバランスを大きく崩す他に類を見ないジェット戦闘機までも配備されたとのことです。」

 

ナギサの声に力が宿り今度は写真ではなく画像が表示された。

【挿絵表示】

 

「名前を『F-20E』、詳細なスペックは不明ですが…我がトリニティの戦闘機を上回る性能を有していると解析班は分析しています。」

 

長年ゲヘナと競い合い兵器開発に余念がなかったトリニティ。

 

空軍力もまた連邦生徒会の航空隊を除くとゲヘナに匹敵しキヴォトス最高峰と言っていいだろう。

 

そんなトリニティのトップが自校の戦闘機を上回ると公言した事実に、

 

ざわっ…ざわざわっ…

 

議場にいる出席者の間にざわめきが起こる

 

「これは明らかに『過度な性能』と申しても妥当な事態だと思います。この事実に関してアビドスの代表者の方のご意見をお伺いしたいですわ。以上です。」

 

ここでナギサの質疑がいったん終わり…

 

「ありがとうございます。では、アビドス代表者の方は応答をお願いします。」

 

「はい、アビドス高等学校生徒で書記を務めています『奥空アヤネ』です。」

 

それに答えるためにアヤネが立ち上がり、

 

「それではまずトリニティからの質疑に関してですがこれは事実でアビドス高等学校は近頃、廃棄された空港を整備し戦闘機を含む複数の航空部隊を設立しました。」

 

ナギサの先ほどの言葉を事実と認め、

 

「そして、先ほどトリニティが提示した戦闘機の画像ですが確かにアビドスで制式採用された戦闘機『F-20E』であることに間違いありません。」

 

トリニティが脅威と認める戦闘機の存在をすんなり認めた。

 

「まさか本当に…!?」

 

「なぜアビドスにそんな戦闘機が…!?」

 

「一体何が狙いなの…!?」

 

俄かに騒がしくなる議場内。

 

「静粛に。…アヤネさん、続きを。」

 

「分かりました。確かにアビドスは急速に『防衛力』を獲得してきましたが当校にもやむを得ない状況であったということをご理解いただきたいです。」

 

アヤネがそう言い切ると画面があるグラフに切り替わる。

 

「こちらはここ2~3ヶ月の間に…アビドス学区領空に侵入を試みようとしてきた所属不明機の推移です。」

 

『!』

 

彼女の言葉を聞いた代表団の表情は驚愕に染まった。

 

その発生回数はおそらく現在のアビドスの規模からすると考えられないほど多い。

 

件数だけで見れば上位の規模の学校のそれと変わらないだろう。

 

「これは学区の治安を維持するには看過できず当校の保有する回転翼機を警戒のため飛行させ対空兵器の配備などでは対処が追い付かずそのため固定翼機を主力とした航空隊を編成するに至った次第です。」

 

続いて、画像はアビドスの地図に変わる。

 

その中には現在、アビドス航空隊が本拠地にしている鳴砂空港…もとい鳴砂飛行場の場所が表示されている。

 

「アビドス高等学校は生徒数こそ中小の学校とさほど変わりませんが学区面積でいえば近隣のトリニティやゲヘナにも匹敵し飛行場の数も一か所しかありません。」

 

かつてのアビドス全盛のころには確かに多数の空港がありアビドスの空路を支えていたが今は鳴砂飛行場以外は分厚い砂の底だ。

 

「この一か所で学区領空をカバーするには現在キヴォトスで普及している戦闘機では能力不足のためW.G.T.G.の協力を得て新型戦闘機を配備するに至りました。以上です。」

 

F-20Eの配備に関する領空侵犯の発生状況と現在のアビドスの地政学的理由を説明しアヤネは席に着く。

 

「いっ異議あり!」

 

「トリニティ、桐藤ナギサさん。」

 

「アビドスの事情は理解できました!しかし、その過程で近隣校がこのような性能過剰な戦闘機配備による軍備に恐怖を抱かないかとはお考えにならなかったのですか!?」

 

すぐさまナギサが異議を唱える。

 

しかし…

 

「アビドス、奥空アヤネさん。」

 

「はい。先ほど申し上げた通り従来のキヴォトスで広く普及している戦闘機…『F-86 セイバー』に『ホーカーハンター』、『Mig-15』などでは性能不足な上配備も喫緊した今のアビドスの状況では間に合いません。」

 

アヤネは理路整然とキヴォトスでポピュラーな戦闘機の性能不足と、

 

「それにいかに性能が良くても…現在は『防衛』と『要人救出』などが主任務のためのF-20Eの機体数は一個飛行中隊と規模自体は非常に小さいです。」

 

配備数の少なさを挙げ…

 

「アビドスには決してそのような意思は今後もないと前おいて申しますが…数倍以上の差がある規模の航空部隊を有する学校がなぜ最新鋭機とはいえ一個飛行中隊を恐れるのですか?」

 

あえて挑発的な言葉と目線をナギサに投げかけた。

 

「~ッ!?」

 

「わぁお…。」

 

これにはナギサの表情がひきつりミカも思わず感嘆の声を挙げる。

 

アヤネの問いかけはトリニティに慎重な判断を強いるものだ。

 

もし、数の優位性からこの質問を否定すれば…

 

(先ほどの私たちの意見を自ら取り下げるも同然ですわ…!)

 

アビドス近傍の学校、これにはトリニティも含まれている。

 

そんな学校がアビドスを脅威と思わないと発言すれば他の学校もこれに同調しかねない。

 

だが、ここで今まで通りアビドスの航空隊を脅威と謳おうものならば…

 

(トリニティの空軍力は一個飛行中隊にも劣ると自ら認めるようなもの…!)

 

キヴォトスに名だたる三大校の一角が戦わずして降伏するという屈辱を味わうことになる。

 

そうなれば今のトリニティの地位だけではない。

 

《キキキッ…!》

 

(ゲヘナに途轍もない弱みを晒してしまう…!)

 

目線の先では面白そうにニヤニヤとしながらこちらを見ているマコトがいる。

 

おそらく、この状況でもマコトはゲヘナの力を誇示するために一切の躊躇なく前者の選択肢をとれるだろう。

 

もしここで自分が後者の答えを貫けば…エデン条約にどんな影響が出るか分からない。

 

つまり…

 

「そ…そのようなことは決してあり得ません…!お…同じくそのような意思は起こらないという前置きをしてですが…有事には私共のトリニティが誇る航空部隊が総力を挙げ対処するでしょう…!」

 

内心はどうであれ、ナギサも前者の回答をするより他ないのだ。

 

彼女の返答を聞き、

 

「でしたら問題はないということで構いませんね?トリニティが『対処可能』と判断されるのであれば…現在のアビドスの航空戦力の配備状況は『適切』なものだということで。」

 

アヤネは微笑みながら言い放った。

 

問題を提起したトリニティが自校の戦力で対処できると言い放ったということは…

 

(まさか問題の提起側から『問題ない』なんて言葉を引き出すなんて…!)

 

(あのアビドスの一年生、三大校の生徒会長相手になかなかやりますねぇ~♪)

 

今の一言でこの議題の意味を根底からなくしてしまったということだ。

 

この議場でアビドスの航空戦力について述べているのはトリニティ…いや、ナギサのみだ。

 

ミレニアムとゲヘナはとうの昔に性能を把握しアビドスからも運用については懇切丁寧な説明を受けている。

 

相手は体裁を途轍もなく重要視するトリニティだ。

 

この二校が沈黙を貫いている状況でこれ以上騒ぎたてる真似はできない。

 

さらに他の主要学校である百鬼夜行とレッドウィンターは地政学的にそもそも足が短い部類のF-20Eの戦闘可能半径の遥か彼方で脅威になりようがないのだ。

 

他の学校もトリニティが有事の際は活躍するという確約するも同然の言葉を発してしまった。

 

つまり、

 

(まさか熱砂の猛将だけでなく生徒会とはいえ一年生まで…!?)

 

(奥空アヤネさん…!カイザーの講和会議の時よりもさらに鋭さが…?!)

 

たった数分の間にアヤネ一人の力で根底から破壊されてしまったということである。

 

ナギサとリンはアヤネのこの交渉力の高さに舌を巻くしかなかった。

 

すると、

 

「なぁトモエ、トリニティはなぜ言ったことを撤回したのだ?」

 

「それはですね、チェリノ会長。トリニティがプライドが高いからですよ。」

 

「どういうことだ?プライドが高いのならば発言の撤回などできないと思うが?」

 

悪気が一切なくそれほど大きくもないチェリノの声が嫌に議場に響き渡り、

 

「…っ!!!」

 

《~ッ!!!》

 

ナギサとマコトは双方別の意味で体を震わせた。

 

「…アビドスからは以上になります。」

 

ナギサからの発言が終わったようなのでアヤネも着席する。

 

「…あ、ありがとうございます。桐藤ナギサさん、議題についてまだ何かございますか?」

 

動揺を何とか抑えリンはナギサに発言を促し、

 

「はっはい…!戦闘機の配備に関しては理解しました…!ですが…アビドスは更なる脅威ともいえる『軍拡』を行おうとしています…!こちらをご覧ください…!」

 

ナギサも気を取り直して…控えていた『本命』の議題を切り出す。

 

「こちらも我々が把握しましたアビドスで近々実施される『O,B,E,R,I,S,C,U』という計画の概要になります…!」

 

モニターにはネイトが制作した『O,B,E,R,I,S,C,U』の資料が表示された。

 

先程提示されたF-20Eの画像もここから取り出したのだろう。

 

「概要としてはアビドス砂漠を囲うように未知の兵器…『80口径10インチガウスキャノン』を配備しアビドスの『軍事力』を飛躍的に高める装置郡とのことです。」

 

画面はネイトがガウスキャノンの配備予定地を記したアビドスの地図がアップされる。

 

「アビドス外縁部に配備された『80口径10インチガウスキャノン』という兵器、この兵器は資料によるとどの場所にあったとしてもアビドス砂漠を容易に横断するように砲撃を行うことが可能とのことです。」

 

ナギサの言葉に先ほどよりも大きなざわめきが会場に起こる。

 

「ご存じの通り、アビドス砂漠はキヴォトスでも最大を誇る面積を有しその砂漠を容易に横断できる射程ということは…おそらく本来の射程はその数倍に登ると推定されます。」

 

そして、このトリニティの推定で…出席者たちはあの光景が蘇った。

 

かつてのアビドス独立戦争。

 

その際に…キヴォトスの空を奔った蒼い『流星』が。

 

「お察しのいい出席者の方々ならばすでにご理解していただいていると思います。この『80口径10インチガウスキャノン』…あの日、カイザーの拠点を遠隔地で壊滅させた兵器と同一のものだということを。」

 

ただでさえいまだに殆どの学校と連邦生徒会はあの流星を放った兵器の存在を把握できていないというのに…

 

「思い出してください。あの日の惨状を。空から降り注ぐ美しくも悍ましいあの流星を。」

 

それを行える代物がアビドス学区に多数配備される。

 

「それは言うなれば…アビドスの意志ひとつでキヴォトスのどこであろうとあの惨状を再現できるということ。これを脅威と言わずになんといいましょうか?」

 

ナギサの一言一言で代表者たちの表情は青ざめていく。

 

(よし…!これでこの場は私のもの…!先ほどのようにはいきませんわ…!)

 

ナギサはその状況を待っていたかのように…

 

「よって、我がトリニティはアビドスの軍備をキヴォトスの脅威と捉え即座にこの計画を白紙にしこれに関わる全ての情報の開示を要求いたします!」

 

両手を大きく広げあえて大仰な態度で高らかに言い放った。

 

さながら、ミュージカルで会場を盛り上げる舞台役者かのように。

 

「おぉ~…ナギちゃんったら派っ手ぇ~…。」

 

これには今まで静観していたミカも感嘆し小さな拍手を送る。

 

「…以上です。」

 

言いたいことは言い終えたかナギサは静かに席に着き直す。

 

「ナギサさん、ありがとうございます。」

 

そして、リンはナギサに礼を述べ…

 

「それでは…本計画の発案者であるW.G.T.G.代表取締役社長『ナサニエル・マーティン』氏、証言台へお願いします。」

 

「………。」

 

いよいよネイトが円卓の中心に置かれた証言台に立つ。

 

「では、お名前と所在地に職業などを述べてください。」

 

「『ナサニエル・マーティン』、アビドス在中のW.G.T.G.で代表取締役社長を務めている。」

 

「それではナサニエルさん…。」

 

本人確認も終えリンはネイトの本名で進行しようとすると…

 

「ネイトで構わない。一般にもその呼び方で通っている。」

 

「…分かりました。では、ネイトさん。先ほどのアビドスの『軍拡』に関する『O,B,E,R,I,S,C,U』計画に関して何か間違いなどはありましたか?」

 

普段の呼び方をするようにという要求を受け入れ先ほどのナギサの言葉の審議を尋ねると、

 

「計画自体に間違いはない。この『防衛計画』は俺が発案し現地に構築することで進めている。」

 

一切の誤魔化しを感じさせない堂々とした口調でそれに答えるネイト。

 

「…では、この資料内にある『ガウスキャノン』という兵器に関してはどうでしょうか?」

 

「それに関しても先ほどの提言通り、かつてのカイザーコーポレーションとの戦いで使用しカイザーPMCの拠点とカイザーインダストリーの工場を壊滅させたものだ。」

 

さらにW.G.T.G.の力の象徴ともいえる『ガウスキャノン』に関することもあっさりと認めた。

 

「え…?!」

 

今までいくら探ろうとその影も掴めなかった情報がいきなり明かされナギサも唖然とした声を挙げる。

 

出席者たちも騒めきネイトに鋭い目線を向ける者もいる。

 

「…では、認められるのですね?アビドスはそのような強力な兵器で軍拡を…。」

 

リンがさらに眉間にしわを寄せネイトに詰め寄ろうとする。

 

その時、

 

「………はぁぁぁぁ…。」

 

周囲に聞こえるようにわざとらしくため息をついた。

 

「…如何しましたか?」

 

怪訝な表情でリンが尋ねると…

 

「いや、何…各校を代表してきている殆どの連中もそこで偉そうに座って仕切っている君も理解力が一切ないと嘆きたくなってな。」

 

「なっ…!?」

 

自分も含めここにいる者たちに対し心底呆れている様子でネイトが答えた。

 

「なっなんですってッ!?」

 

「ムッ馬鹿にされたか!?」

 

《えろう言うてはるやんか…。》

 

これにはナギサやチェリノも声を荒げホログラムのニヤも細い目線に鋭さを灯す。

 

他の代表者たちも似たり寄ったりの反応を示し会場も怒号に包まれる。

 

そんな中で…

 

《~~~~~ッ!!!》

 

(い、いきなりブチかましすぎでしょ…!?)

 

(相当フラストレーションがたまっていたようですね…。)

 

マコトは音声をオフにし腹を抱えて笑い転げユウカとノアは表情を引きつらせながらに、

 

(でも…今の一言でトリニティが作ったあそこが主役の舞台みたいな場の空気を切り替えたわ…!)

 

(ただの弁明ではなく…ネイト社長の主張をだれ一人聞き逃さないという集中力を持ちましたね…!)

 

一気に自分に流れを持ち込んだネイトに頼もしさすら覚えていた。

 

「静粛にッ!!!静粛にッ!!!」

 

慌ててリンが大声をあげて議場の騒ぎを何とか抑え込もうとする。

 

少しし何とか議場は落ち着きを取り戻し…

 

「…ネイトさん、先ほどの発言の意味を尋ねても?」

 

リンはネイトの言葉の真意を尋ねる。

 

「意味も何も…さっきから聞いていればやれ『軍備』だ、やれ『軍拡』だと…誰も先ほどのアビドスの説明を聞いていないと思ってな。」

 

先程の態度を一切崩さずネイトはそう答える。

 

「…それはどういう…。」

 

「…いつ、アビドスも俺も…これが『軍備』だと言った?」

 

「…はい?」

 

「議事録を確認してくれたら分かるが…アビドスは『防衛』としか言ってないはずだが?」

 

「ッ!」

 

その言葉を聞きリンが慌てて議事録を確認すると…

 

(た、確かに…アヤネさんは『防衛』としか発言していない…!)

 

ネイトの言う通りアヤネの口からは『軍備』や『軍拡』などという言葉は一切出ておらずただただ…アビドスを『防衛』するための装備であるとしか発言していない。

 

「どうだった?何分こっちは年寄りだ。物覚えには少し怪しい部分はあるが…。」

 

ネイトはわざとらしく自分の記憶力の怪しさを述べるが…

 

「…いえ、確かにアビドスの発言からはそのようなフレーズは一切ありませんでした…!」

 

「そうか。俺の記憶力もまだ捨てたものじゃないようだな。」

 

リンの言葉を聞き勝ち誇ったような表情を浮かべる。

 

「ですが…『防衛』にこのような過剰な兵器が必要になって来るのですか…!?」

 

気を取り直し、リンは『O,B,E,R,I,S,C,U』が防衛計画である理由を尋ねる。

 

あの兵器の威力は今更語るまでもないがそれを用いなければならない防衛計画というのが理解できない。

 

だが、

 

「………フッ。」

 

「え…?!」

 

ネイトの表情が勝ち誇ったものから…『勝ちを確信した』顔に変わったのを彼女はみた。

 

「それが必要な事態が起こった…ということがまだ理解できないか?」

 

「え…?!」

 

そして、

 

「では、説明しよう。今から提示する情報は…ゲヘナ学園、ミレニアムサイエンススクール、ハイランダー鉄道学園が連名で真実だと認めた証拠映像だ。」

 

ネイトのその一言で…

 

《キシィヤアアアアアアアアッ!!!》

 

『ッ!!?』

 

会場にこの世のものと思えない機械の怪物の咆哮が轟いた。

*1
なお、山海経高級中学校の『黒い君主』は一身上の都合で欠席




一つの冷静な判断は、性急な千の会議にまさる。
―――第28代アメリカ合衆国大統領『ウッドロウ・ウィルソン』
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