Fallout archive   作:Rockjaw

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会議は大きな罠だ。あなたは合意を得ようとし、賛同しない人たちは説得を受ける権利があると考え始めるのだ。
―――経済学者『ジョン・ケネス・ガルブレイス』


Reversal of the Metropolis

《キシィヤアアアアアアアアッ!!!》

 

『ッ!!?』

 

モニターに映し出されたのは端々をオレンジ色に発光させている白い巨体の怪物だ。

 

「なっなんなのですか、あれは…!?」

 

「あ、アハハ…これは予想外~…!」

 

「怪獣…!?お、おいらはテレビでも見ているのか…!?」

 

《お、大きすぎませんか…!?》

 

代表者たちはその威容に言葉をなくし、

 

「まっまさかあれは…!?」

 

リンは記憶の中にあったある情報に行き当たり絶句する。

 

失踪する以前、連邦生徒会長はキヴォトス各地に存在する『オーパーツ』の調査などを積極的に行っていた。

 

『アンティキティラ装置』、『ヴォイニッチ手稿』、『ヴォルフスエック鋼鉄』etc…キヴォトスには他にも未知の技術で製造された物品が多数存在している。

 

その調査の一環で…キヴォトス各地で発生している『特別な事件』の存在も確認されていた。

 

実は先生に要請して調査に向かった『スランピア』もこの際に知ったのだ。

 

そして…画面に映し出された超巨大な機械の怪物。

 

(生徒会長の資料にあった…アビドス砂漠地下に眠っている巨大な機械怪獣…実在していたのですか…!?)

 

その情報も彼女の調査資料にあったことをリンは覚えていた。

 

参加者たちが絶句している中、

 

「この機械の怪物は『ビナー』、古い文献からアビドスで存在が確認されていた全長1㎞以上全幅20m越えのまさに怪物だ。」

 

淡々とネイトはビナーについて説明を始める。

 

画面はビナー目掛けて砲撃を浴びせる戦車部隊や自走砲部隊の映像に切り替わる。

 

画面には先ほどナギサが挙げたアビドスの機甲戦力だけでなくゲヘナのティーガーⅠやフンメル自走砲もうつり込み果敢にビナーに攻撃を仕掛けている。

 

「この映像は先日、アビドスとゲヘナの交流と練度向上を目的とした実弾演習の準備日に突如出現し現地にいたアビドスの全戦力とゲヘナ派遣部隊との間で繰り広げられた記録だ。」

 

カイザーを一蹴したアビドスの全戦力の強さはさることながらゲヘナの万魔殿と風紀委員の精強さはキヴォトスでも広く知られているところだ。

 

そんな強豪と新鋭の二つの学校の大火力を浴び深手を負ってもなお…

 

「シギィアアアアアアアッ!!!」

 

バゴオオオオオオオオオオオッ!!!

 

ビナーはその大口から熱線砲を照射し周囲に破壊の嵐を撒き散らす。

 

「こっこんな怪物がアビドス砂漠に…!?」

 

《あれほどの戦車の砲弾を浴びてなお動けるんですか…?!》

 

「おぉ…!トモエ、あれに保安委員会を突撃させたらどうなる…!?」

 

「おそらく…数を揃えてどうにかなる相手ではないかと…!」

 

大暴れするビナーに絶句する代表者たち。

 

「奴の戦力はこの通り、実弾演習に備え砲弾などを積載していたことが奏しアビドスとゲヘナ、そして観戦武官として来訪していたミレニアムとハイランダーの協力もあり…。」

 

そんな彼女たちが次に目の当たりにしたのは…

 

「砲弾も弾丸もほとんど使い果たし苦闘の末になんとかビナーは討伐、幸い参加していた四校の生徒に犠牲はなく終えることが出来た。」

 

砂漠に横たわるビナーの頭部だ。

 

中々ショッキングな場面だが大きな脅威はすでに排除されていることに多くの参加者達が胸をなでおろした。

 

そんな代表者たちへ…

 

「さて、ここでアビドスも含め参加したすべての学校にある懸念が沸き起こった。…ビナーはこの一体だけなのか?…と。」

 

『ッ!?』

 

ネイトは畳みかけるようにそう言い放ち再びその表情を強張らせる。

 

「無論、W.G.T.C.もアビドスも入念な調査を行っているが…何分アビドス砂漠は広大かつビナー自体が途轍もない静粛性を持っている。そのため…確実にビナーを『根絶』出来たという根拠を得ることが出来なかった。」

 

画面が再び切り替わりアビドスの地図の至る所に赤い回転が浮かび上がる。

 

「これはアビドス高等学校に残されていた記録を基にマッピングしたビナーの出現箇所だ。現在は砂嵐の影響で砂漠になっているが当時は人が普通に暮らす街中にもビナーは突如として出現していたらしい。」

 

その出現箇所に規則性もなく…

 

「あの巨体で現在との技術差は仕方ないとはいえ当時も出現直前まで感知できなかったらしい。つまり…ビナーがあの一体だけと結論付けるのは性急な結論だとアビドスとW.G.T.C.は判断した。」

 

それゆえにビナーがもういないと判断できないとう結論に達したのだ。

 

「あれほどの戦力を出現するたびに召集し迎撃に向かわせるのはとても現実的ではない。そこで考案されたのがこの長距離砲撃システム『O,B,E,R,I,S,C,U』ということだ。」

 

そのような怪物に対抗するための方法こそ今取り上げられている『O,B,E,R,I,S,C,U』だ。

 

「全てはアビドスとそこに暮らす人々を護るため、他校を害そうという思惑は毛の先ほどもない。…俺からは以上だ。」

 

そう言い、ネイトは席に着いた。

 

と、そこへ…

 

《連邦生徒会長代行、発言いいかな?》

 

「では…ゲヘナ学園羽沼マコトさん。」

 

マコトが挙手しリンからの許しを得て、

 

《映像にもあった通り、あの怪物『ビナー』は恐ろしい存在だった。現在、アビドス砂漠では我がゲヘナの生徒も事業に携わっている。その安全確保のためアビドスに防衛策を打診し我々も『O,B,E,R,I,S,C,U』の配備を承認している。以上だ。》

 

ネイトの意見を補足するように『O,B,E,R,I,S,C,U』の発案に関わっていたことを明かす。

 

そして、

 

《リン主席行政官、私も発言をよろしいですか?》

 

「では、ミレニアムサイエンススクール早瀬ユウカさん。」

 

《私達もゲヘナ学園同様、アビドス砂漠で調査などで活動中の同校生徒の安全確保のために防衛策を打診、『O,B,E,R,I,S,C,U』を承認しています。我が校の分析でもこれ以上の防衛策は現状構築できないと結論付けられました。以上です。》

 

ユウカもそれに続き『O,B,E,R,I,S,C,U』の有用性を保証する。

 

すると、

 

「いっ異議あり!!!」

 

ナギサが勢いよく立ち上がりながら挙手する。

 

「桐藤ナギサさん、どうぞ。」

 

「この計画の正当性は理解できました!ですがもし、砲口がアビドス砂漠ではなく他の学区に向けられようものならそれは計り知れない脅威に早変わりします!」

 

ナギサの言うようにガウスキャノンの射程はキヴォトス全土を容易にその内側に収めるほどだ。

 

その長射程と大威力を振りかざしアビドスが理不尽な要求を射てこないとも限らない。

 

が、

 

「発言よろしいですかぁ?」

 

「はっはい、アビドス生徒会副会長十六夜ノノミさん。」

 

「ありがとうございます♠先ほどトリニティの方が申しあげていた事態ですが当然アビドスでも『非常時』にそのような緊急事態が発生する懸念がありまして複数の『安全策』を講じています♣」

 

その機先を制すようにノノミが発言する。

 

「まずは『複数の起動コード』、毎日ランダムなパスワードを生徒会長と副会長が所有し両者の入力をもって起動可能とし独断での起動を不可能にすること。」

 

これはネイトが核発射手順を基に考え出された安全策だ。

 

もし、どちらかが強襲されパスワードを奪われてももう片方がパスワードを破棄すれば実質的にガウスキャノンは使用不能になる。

 

そして、万が一起動されてしまった場合に備えて『想定されていない使用法』が行われそうになった場合には…

 

「そしてもう一つ、ガウスキャノンが許容された方角以外に方針を向けると電源が強制的に落とされる『キルスイッチ』を全ての砲台に導入する予定ですよぉ♪」

 

そもそもガウスキャノンを使用不能にするという物理的安全管理措置まで構築済みだ。

 

「でッですがそれならば電源車などで電力を別回路で供給してしまえば…!」

 

ならばとナギサが反論をぶつけるが…

 

「300MW以上の電力の供給ですか?それは少し現実的ではないんじゃないですかぁ?」

 

「さ、300MW!?」*1

 

元々ガウスキャノンの運用には底なしの電力が必須だ。

 

ここまでアビドスが容易くこの兵器を運用できるのは偏にネイトの『核融合技術』ありきだ。

 

その技術無しでガウスキャノンを運用するのはあまりにも現実的ではない。*2

 

「つまり、最初からこの『O,B,E,R,I,S,C,U』は『対ビナー運用』以外の使用方法は考えられていないんですよぉ♪」

 

「そ、そんな…!」

 

「アビドス高校もこの兵器の威力は承知しています。当然、安全対策には余念がありませんのでご安心を♠」

 

隙の無いアビドスの対応にナギサも発言の勢いが急激に衰えていく。

 

すると…

 

「…ですが、確かにトリニティの方の懸念も重々承知しています。」

 

ノノミは少し考え込むような仕草をとり…

 

「実はアビドスも『ある条件』を受け入れていただけるのであれば計画の見直しを考える用意はあるんですよぉ♪」

 

表情を朗らかな笑顔に変えそう発言した。

 

「~ッ!?…オッホン、それは本当でしょうか?」

 

「はい、アビドス生徒会長の小鳥遊ホシノ先輩が承認した提案ですよ、ナギサさん。」

 

この議会が始まって初めてのアビドスからいい反応を得られナギサの表情も和らぎ、

 

「…では、アビドス生徒会長からのご提案をお聞かせ願えますでしょうか?」

 

息を整えてノノミの言葉を聞き逃すまいと集中する。

 

そして…

 

「ホシノ生徒会長の提案は…『この実弾演習で参加した同等の戦力をアビドス砂漠に駐留させ指揮権を我が校に移譲する』というものになります♠」

 

「…え?」

 

その表情はノノミの言葉を聞いた瞬間硬直した。

 

「我が校の防衛策を撤回させるということはぁ…代替の防衛力をアビドスに派遣してもらえるということですよねぇ?」

 

「なっ何を…!?」

 

「アビドス高校はあのような非常事態を学校間の連携で乗り越えることが出来ました。それを単独で対処しようとこの計画が考案されました。それを撤回させるということは…そう言うことなんですよねぇ♪」

 

にこやかだが決して中途半端な返答は許さないという迫力が込められた表情でナギサを見つめるノノミ。

 

「ただ意見を反対することは初等部の生徒でもできます。トリニティの生徒会長ともあろう方なら代替案もご用意されているんですよね?」

 

「そっそれは…!」

 

ノノミの意見は当然だ。

 

ただ『O,B,E,R,I,S,C,U』の計画を取り下げさせるのは簡単なことだ。

 

しかし、すでにアビドスの『軍拡』というトリニティの前提が崩れ去り取り下げた場合の『補填』を行わなければならない。

 

だが、

 

(そんなことをできるはずが…!)

 

ナギサは簡単には首を縦に振ることはできない。

 

先程の映像で見たビナーとの戦闘に参加していたアビドスとゲヘナの戦力。

 

おそらくだが…アレに匹敵する戦力となるとトリニティに配備されている陸上戦力の大半を派遣しなければならなくなる。

 

そんなことできるわけがないうえ、仮にできたとしても…

 

(確実に派閥間の軋轢が生まれティーパーティーの支持基盤まで揺らいでしまいます…!)

 

万魔殿一党で運営が行われているゲヘナと違い多くの派閥によって成り立っているトリニティの政治運営。

 

そんな学校が他校の要請で、しかも指揮権まで委譲した派遣部隊の創設などできようはずがない。

 

言葉を失うナギサだが…

 

「あ、別にトリニティ限定でなく他校や…連邦生徒会の連合部隊でも構いませんよぉ?」

 

ノノミは追撃の手を緩めない。

 

「―ッ!」

 

ナギサに続きリンまでも表情を強張らせる。

 

連邦生徒会の戦力は確かにキヴォトスの中でも最高峰だがそれを指揮権を委譲し一つの学区に派遣することなどできるわけがない。

 

というより、そんな余裕があるわけがない。

 

他校も同様、三大校ほどの戦力が無いうえそれを派遣すれば自校の治安維持にすら事欠くようになるだろう。

 

これにより…どの学校も安易な意見を出せなくなってしまう。

 

(キキキッ奥空アヤネもさることながら『副会長』十六夜ノノミ…。以前の会談の際にも見せたまるで竹のような強靭なネゴシエーション…侮れんな…!)

 

(アヤネちゃんが会場全体を揺さぶりネイト社長がそれを釘を打ち付けるように拘束してノノミさんが連邦生徒会にまで止めを刺した…!)

 

(これが…カイザーすら退けて一年近くアビドスのために戦い続けてきたアビドス生徒会とネイト社長の交渉術…!)

 

そんな中であって、ほぼギャラリーのような立場になっているマコトとユウカにノアは三人の連携に舌を巻くしかない。

 

相手は連邦生徒会やトリニティを含むキヴォトス全土と言っても構わない。

 

だが、三人は一切の恐れも怯えもなく真っ向からそれに受けて立った。

 

それどころか…その大勢力の舌の根を切り飛ばして見せた。

 

「私の意見は今のところ以上です♪」

 

意見を述べ終え、再び花が咲くような笑顔を浮かべてノノミは席に着いた。

 

「…き、桐藤ナギサさん。何か意見は…?」

 

「い…いえ…簡単に結論を出せる問題ではないので…以上です…。」

 

表情から血色が抜け落ちたかのようなナギサは力なく席に着くしかなかった。

 

彼女だけでなくリンも焦燥感がにじみ出している。

 

すると…

 

「主席行政官、意見良いかな?」

 

「で、ではネイトさん…!」

 

今度はネイトがおもむろに手を挙げ…

 

「トリニティに尋ねたい。先ほど提示した『O,B,E,R,I,S,C,U』の計画資料…あれはどこから手に入れたのか…差し支えなければ教えてもらいたい。」

 

ナギサを射抜く様に見据えそう質問した。

 

「ネイト参考人、本議題とあまりにかけ離れた質問は…!」

 

リンはそう言い、質問を取り下げさせようとするが…

 

「いいや、無関係なんかじゃない。あの資料は先ほど述べた三つの学校の首脳部とそれに属する部活の者のみが閲覧できるように制限をかけていた。」

 

この資料に関してはネイトも最大限気を付けてそれぞれの学校に届けていた。

 

可能ならば自らの手で、それが不可能なら信頼できるルートを使ってだ。

 

「これがどういうわけかトリニティの手に渡っていた。これはどう考えても安全保障上問題がある事態だと思うが?」

 

そんな資料が部外者のトリニティが所有しているのは異常事態、各校の安全保障が揺らぐほどのことなのだ。

 

「アビドス並びにW.G.T.C.としても今回の案件は今後の活動に大きな影響を齎す。それを明らかにするのは…安全保障上当然のことでは?」

 

この議会は主題こそアビドスのことだが…それ以外の安全保障上の問題について追及してはいけないという規定はない。

 

「………桐藤ナギサさん、答弁をお願いします。」

 

リンもこう言われては却下することが出来ずナギサに答えさせるしかなかった。

 

「はっはい…!その質問に関しては我が校の機密にも関わりますのでこの場での回答は控えさせていただきます…!」

 

当然というべきか、ナギサもすんなり答えるわけがない。

 

諜報関連の情報はそれこそ安全保障の代名詞だ。

 

トリニティともなればその力は相当広範囲に及んでいる。

 

「ふむ、そうか。それなら…もう『聞かない』。」

 

意外にもネイトはそれ以上は追及しない。

 

(ホッ…。)

 

そっと胸をなでおろすナギサだが…

 

「ところで…。」

 

彼がその程度で逃がすわけがなかった。

 

「実はあの資料…ちょっとばかり俺の『遊び心』を織り交ぜてたんだ。」

 

そう言いながら、ネイトはモニターにある資料を表示する。

 

「これは先ほどトリニティが提示した『F-20E』の三面図だ。」

【挿絵表示】

 

「それが…?」

 

無論、資料の原本はネイトが持っているので同じ画像を持っていたとしてもおかしくはない。

 

意味が分からず首を傾げるナギサだが…

 

「そして…これらが今回各校向けに掲載していたF-20Eの画像だ。」

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

「え…?!」

 

続けて迷彩パターンが違う二枚の、計三枚のF-20Eの画像も表示される。

 

「全部同じ画像だと味気ないと思ってな。わざわざ三機のF-20Eの写真を撮ってそれぞれ学校別に掲載してたんだ。」

 

何の気なしに語っているネイトだがこれこそ…

 

「さて…改めて聞こう。なぜトリニティは…『ハイランダー鉄道学園』に配布した資料に載っていたF-20Eの画像を持っているんだ?」

 

彼が講じていたシンプルかつ決定的な情報漏洩元を洗い出す策だった。

 

今回、トリニティが入手した『O,B,E,R,I,S,C,U』の資料内容に比べればF-20Eの画像などその価値は確実に低い。

 

わざわざ…ほかに配布された画像の…それも迷彩パターンが変わっている程度の差など裏付けするはずもない。

 

その心理的隙を…ネイトは見越していたのだ。

 

漏洩などないことに越したことはない。

 

だが、最悪の場合には最低でも『水漏れ箇所』を確定できるだけの対策を講じる。

 

超冷戦を生き抜いてきたネイトならではの作戦だった。

 

さて、突如として明るみに出たトリニティの諜報体制の一角。

 

動かぬ証拠が突き付けられ…

 

《これはどういうことか!?トリニティはキヴォトスの陸運を支える学園にまで諜報員を潜り込ませているのか!?はっきりと答えてもらおうか!?》

 

《ミレニアムも説明を求めます。ハイランダーはキヴォトス各所で活動する学校。そんな学校に諜報員を潜り込ませているとは…。》

 

ゲヘナとミレニアム、トリニティに比肩するマンモス校が声を大にしてナギサを問い詰める。

 

「まっ待ってください!そ、そんな画像一枚で…!」

 

《だが事実、我が校にはその画像の迷彩パターンの内の一つが載っている資料がある!!!言い逃れはできんぞ!!!》

 

《ミレニアムも同様に先ほどトリニティ側が提示した物とは別の迷彩パターンの画像の資料を所有しています。事実の証左としては十分なものと言えます。》

 

「静粛にッ!!!静粛にしてくださいッ!!!」

 

《これは極めて安全保障上の重大な事態だと思います。トリニティは速やかにこの件に関する説明をする義務があります。》

 

《そうだッ!!!いつものように建前などいらん!!!即刻、そちらの説明を求める!!!》

 

「あ…あぁ…!」

 

一気にボルテージが上がった議場。

 

リンも場を収めようとするが一向に止まずナギサも言葉を発せられずに口をパクパク動かすしかできなかった。

 

一方、ハイランダーはと言えば一気に顔から血の気を引かせ何やらバタバタと動き始めた。

 

おそらくトリニティに情報を漏洩したであろう人物を洗い出そうとしているのだろう。

 

「…自分からは以上だ。」

 

そんな騒ぎをしり目にネイトは悠然と席に着き直す。

 

まるで…自分の仕事は終わったと言わんばかりだ。

 

「あ、あんな方法でトリニティの諜報機関を暴き出したんですか…!?」

 

「なるほど…確かにあの方法ではこの場でないと漏洩元は判別できませんね…!」

 

アヤネとノノミはネイトが言っていた『安全保障理事会で漏洩元が分かる』という意味を理解した。

 

トリニティならばその証拠をそれがネイトが仕掛けた罠とも知らずに高らかに掲げて見せつけるはず。

 

三大校の一角、自らが正義と思い込んでいる立場を利用したのだ。

 

「…トモエ、奴の…ラフィアンの思考を分析できるか…!?」

 

「恐れながら…ホワイトアウトした森を進むような感覚を覚えています…!」

 

(ほんま恐ろしい人やわぁ…!完全アウェーのこの盤面をたった画像一枚でひっくり返してしもうたわ…!)

 

他の有数の学校の参加者も底知れないネイトの術策に肝が冷える感覚を覚えつつ彼に視線を向けるのであった。

 

「ふ~ん…そんな事しちゃうんだぁ…。」

―――――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

その後、議会は追及相手がトリニティとハイランダーに切り替わり混迷を極めた。

 

正に議論紛糾、カオス極まる安全保障理事会をネイトとアヤネとノノミは水を飲みながら観戦。

 

結局、進行役であるリンの権限を持って議会は中断。

 

明日、改めて質疑応答と多数決の結審を行う運びになった。

 

「ンッん~…座っているだけでもやっぱり会議は疲れるな。」

 

「私達、後半あまりやることありませんでしたね。」

 

「このままいけば十分乗り切れるでしょうねぇ♪」

 

身支度を整え直し、ネイト達はハンヴィーが停車している地下駐車場に向かっていた。

 

初日の結果は上々、トリニティと連邦生徒会の思惑はほぼ叩き潰せたと言っていいだろう。

 

「さぁて…この後はホテルで休んで明日に備えて英気を養うとしようか。」

 

「ホシノ先輩にも報告しなきゃですし早く宿舎に行きましょう。」

 

「お腹もペコペコですし美味しいの食べちゃいましょ~♡」

 

ともあれ、議会は明日もある。

 

最後まで油断せずに余裕をもって望むべくそそくさと連邦生徒会が用意してくれた宿舎に向かうことにする。

 

が、地下駐車場に降りた途端…

 

「お待ちしておりました、ネイト社長。」

 

「…誰だ?」

 

「ヴァルキューレ警察学校公安局局長『尾刃カンナ』と申します。」

 

ヴァルキューレ生徒を引き連れカンナが敬礼の姿勢をとっていた。

 

「あっそう、ご苦労様。」

 

「警備お疲れ様です。」

 

「お仕事頑張ってくださいねぇ♪」

 

が、特にこちらにはようはないので軽くあいさつしその場を後にしようとするネイト達。

 

「ちょッ!?ちょっと待ってください!」

 

「…何だ?」

 

慌ててカンナはネイト達を呼び止め…

 

「我々はネイト社長を宿舎に護送する役目を仰せつかっています!」

 

自分たちにまかせられた任務を明かす。

 

「いや、護衛なら既に自前で…。」

 

武装満載の装甲ハンヴィーに三個分隊のアビドス生徒もいる。

 

護衛としては文句ないだが…

 

「ネイト社長は皆さんとは別のホテルを用意されているんです!そちらには我々が同行を…!」

 

ネイトは別の宿舎行きというではないか。

 

「…どういうことですか?」

 

「部屋が当たり前ですが…なぜ宿舎まで私達と別なのですかぁ?」

 

明らかに不審な言葉にアヤネとノノミが剣呑な雰囲気を纏う。

 

「…っ!」

 

公安局の狂犬と謳われるカンナも百戦錬磨の闘気を纏う二人に気圧されそうになる。

 

が、

 

「…分かった、ではお願いするとしよう。」

 

ネイトは特に抵抗することなくカンナに同行することに決めたようだ。

 

「よろしいんですか、ネイトさん?」

 

「ここでヴァルキューレと揉めても得はない。第一…彼女たちも上の指令を受けてのことだろう。」

 

カンナも『警察』という縦割り組織の人物で連邦生徒会の下部学校であるヴァルキューレの生徒だ。

 

ここで彼女を責め立てても何も変わらない。

 

「ご理解いただきありがとうございます。」

 

「気にするな。俺も元軍人、縦社会の仕組みは理解しているつもりだ。」

 

「…では、カンナさん。ネイトさんをお願いしますね。」

 

「ネイトさんも何かありましたらすぐに駆け付けますのでご安心をぉ♪」

 

ネイトが構わないというのであればアヤネとノノミも意見はないようで自分たちを待っているハンヴィーの元へ向かっていった。

 

「それじゃ案内をお願いしようか。」

 

「こちらへ。」

 

ネイトもカンナの先導で彼女たちが用意した車両に向かっていく。

 

その後、ネイトとカンナは厳重な警備体制の元サンクトゥムタワーを出発。

 

空は夕焼けに染まっていた。

 

「俺一人にこんな厳重な警備しなくてもいいのに…。」

 

「ネイト社長を安全にお送りする為です。窮屈でしょうが仕方のない事です。」

 

「そんな大層な人間じゃないんだがなぁ、俺って…。」

 

移動中の車内でそんな会話を交わすネイトとカンナ。

 

どれだけ苛烈な経歴を重ねようと将軍やら社長という立場に就こうとネイト自身は小市民気質だ。

 

ここまで仰々しい扱いをされるのはいつまでたっても慣れない。

 

「しかし…今朝は焦りました。」

 

「なぜ?」

 

「いきなりフライトプランが変更されてたら混乱もしますよ…。」

 

「あぁ、なるほど。…というか、俺も飛行機ではこっちに来てなかったんだがな。」

 

「…え?」

 

そんな会話を繰り広げること10分少々、これといったトラブルもなく…

 

「到着しました。」

 

車列はネイトの宿泊先のホテルに到着した。

 

「…随分立派なところだな。」

 

「『ホテルニューオトワ』、キヴォトスのホテル三大グループの一角です。」

 

そこはサンクトゥムタワーにはさすがに劣るがそれでも『摩天楼』と称するに値する高層ホテルが聳え立っていた。

 

「ここの最上階の部屋がご用意されています。向いましょう。」

 

カンナはそそくさとホテルに入っていった。

「尖塔の頂上…。」

ネイトもその後に続き、エレベーターで昇り一気に最上階へ。

 

「どうぞ、こちらです。」

 

高級ホテルの最上階…つまるところスイートルームに通されたのだが…

 

「…本当によろしかったんですか?」

 

「アオイから聞いてなかったのか?遊びに来たわけじゃないから構わない。」

 

そこには家電や調度品はおろか…ベッドを始めとした家具すらないただだだっ広いだけの空間が広がっていた。

 

残っていると言えばフロントなどと繋がる内線電話くらいだ。

 

「いちいち『徹底消毒』するのは面倒だからな。だったら最初から見る場所を限りなく減らせばいいってわけだ。」

 

ホテルと言えど安心はできない。

 

いや、高級ホテルと言えどむしろサンクトゥムタワーよりも…覗き屋は数多く入れるはずだ。

 

何で、ネイトはアオイに要請して部屋の中を空っぽにしてもらっていた。

 

こうすれば盗聴器や隠しカメラを仕込める場所を極限まで減らせ気を張る必要も少なくすることが出来る。

 

「まぁ貴方が構わないのであれば我々も問題はありませんが…。」

 

「あぁ、問題ない。ここまで送ってくれてありがとう。」

 

「では、我々もこの辺りで。ホテル内には待機していますので有事の際は直通電話ですぐに報告を。」

 

見送りも終えカンナたちも退出していった。

 

騒がしい連邦安全保障理事会の初日はこうして幕を閉じていった。

 

《それでどうだったぁ?》

 

「なんとかトリニティの思惑は崩せそうですね、ホシノ先輩。」

 

「明日の議会もこのままの勢いで頑張っていきますよぉ♪」

 

《おぉ、それは何よりだねぇ~♪》

 

学校で待つ者とおしゃべりに興じる者、

 

「お疲れさまでした、チェリノちゃん。」

 

「うむ、D.U.のホテルというのは良いものだな!プリンが食べ放題など夢のようだ!」

 

「私達も楽しませていただきました。」

 

「そう言えば『マリナ』達から何か報告はあったのか?!」

 

「はい、現在は平穏なようです。あの『姉妹』も現在は大人しくしているようで…。」

 

D.U.の進んだ設備を楽しむ者、

 

「どうすれば…どうすればこの状況を…?!」

 

「ちょっと落ち着いたら、ナギちゃん?今もそんなに思い詰めてたら明日もたないよ?」

 

「いいえ、ミカさん…!なんとしても…この状況を打破しなければならないんです…!」

 

「でも、少し休んだ方が頭もすっきりするよ?ひょっとしたらラッキーなこともあるかもだし。」

 

今日の議会に頭を抱えどう切り抜けるかを悩む者。

 

議会に参加した生徒たちは思い思いの夜を過ごしていた。

 

そして、

 

「どうだ、ネイト社長の様子は?」

 

「ルームサービス頼んだっきり動きはないですね。」

 

「平穏なのは良い事だ。このまま何事もなければいいがな…。」

 

カンナたちも『ホテルニューオトワ』の一室でネイトの監視を行っていた。

 

室内にはさすがに仕掛けることは憚られたが廊下に不審者監視のために監視カメラが仕掛けられてある。

 

幸い、ホテルマン以外の出入りはなく平和そのものだ。

 

そして…

 

《パパッ!会議お疲れさまでした!》

 

「やぁアリス。なに、あれくらい軽いものさ。」

 

ネイトも愛娘のアリスと電話で語らっている。

 

《テレビも見ましたけどどこもパパが写ってますよ!》

 

「俺も今見てるが…正直こんなもてはやされるのは性に合わないんだよなぁ…。」

 

《でも、本当に凄いです!魔王の城に乗り込んで見事野望を打ち砕くなんて!》

 

「コラ、まだ安心するにはまだ早いぞ?議会は一日あるんだからな?」

 

《今度会えたらまた詳しく教えてくださいね!》

 

「議会が終わったら俺も休むつもりさ。その時は思いっきりアリスに付き合うよ。」

 

《本当ですか!?わ~い!》

 

遠く離れた我が子とその役目を一時だけ忘れて愛情深く語らうネイト。

 

《あ、そう言えばパパは今どんなところにいるんですか?》

 

「どんなところか?…ちょっと待っててくれ。今動画を…。」

 

そんな思い思いの時を過ごすD.U.の夜。

 

だが…そんなキヴォトスきってのメトロポリスの夜空に…

 

ドグワァオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

全てを混乱の坩堝に突き落とす爆炎の大花が咲き誇った。

*1
中小都市の全電力を余裕で賄える発電量

*2
ガスタービン機関搭載の『移動式発電プラント』を最低でも10機以上用意できれば一応可能




確実に消せるのは7階までだ。なのに建築家は高さを競い合う
―――映画『タワーリングインフェルノ』より
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