―――小説家『ヴィクトル・ユーゴー』
【20:37】
ドグワァオオオオオオオオオオオオンッ!!!
「なっなんですか、今のは!?」
「爆発音です!一体どこから!?」
「伏せてください、チェリノ書記長!?」
「むぎゅう?!おっ落ち着け、トモエ!!!」
「どッどなたか!?どなたかいらっしゃいませんかッ!?」
「落ち着いて、ナギちゃん!爆発は遠い所みたいだよ!」
突如、D.U.に響き渡った爆発音。
その音は各所の宿泊先で滞在していた安全保障理事会参加者たちの耳にも届いていた。
日々銃撃戦やら爆発騒ぎが起こっているキヴォトスであってもこれほどの爆発音は確実に非常事態だ。
身の安全を確認し全員が一様に窓の外を見て音の発生源を確認する。
そこで目の当たりにしたのは…
「あ、あそこは!?」
「ネイトさんの宿泊先のホテル…!?」
まるで夜のこの町を照らす篝火の様に燃え盛るホテルニューオトワだった。
そして、
「のわぁっ!!?」
そのホテルニューオトワでネイトの警護に当たっていたカンナは直下型地震を想起されるような激しい振動に襲われていた。
周囲にいたヴァルキューレ生の中には足下が掬われ転倒している者もいる。
さらに照明も明滅しスプリンクラーが作動、周囲を水浸しにしていく。
「なっ何が起こ…ッ!?」
状況を確かめるためにカンナは窓に駆け寄る。
次の瞬間、上から夥しい量の瓦礫が降り注いできた。
「~ッ!?私は上に向かう!!!お前たちは宿泊客の避難誘導を!!!」
「カンナ局長!?」
弾かれた様にカンナは愛銃のGlock17『第17号ヴァルキューレ制式拳銃』を抜き部屋を飛び出し非常階段へ向かう。
(まさか…!?まさかそんな…!?)
スプリンクラーによって濡れた制服よりも悪い予感が重くのしかかるがそれを振り払い彼女は走る。
そして、非常階段を駆け上がり目的の最上階にたどり着くも…
ジュッ!
「ぐあッ!?」
ドアノブに手をかけた瞬間、グローブ越しでも伝わるほど非常扉は高温となっており変形しているのかビクともしない。
「このッ!!!」
ならばと、カンナは素早くドアの蝶番に発砲し破壊。
「フンっ!!!」
ガゴォン!!!
キヴォトス人の膂力に任せて思い切り蹴りを叩きこみドアをこじ開けると…
ゴォォォォォォォッ!!!
「うっ…!」
ドアの先は炎が燃え盛り行く手を遮る。
スプリンクラーも作動しているが大半が破壊され役に立っていない。
「ッネイトさん、どこですかッ!!?」
それでも意を決しカンナはフロア内に踏み込む。
凄まじい熱気だが怯むわけにはいかない。
彼女はそのまま歩を進めネイトが滞在していた部屋に近づいていく。
だが…
「そっそんな…!?」
部屋の近くまでたどり着き固まってしまった。
壁は粉々に粉砕されそこから覗く室内は床が丸ごと抜け落ちていた。
このフロアだけでなく天井にも破孔ができ夜空が見えもう一つ下のフロアもサイズが一回りが床が抜け落ちている。
これではどう考えても…
「~ッ!ネイトさん、返事をッ!!!返事をしてください!!!」
最悪の事態の想像を振り払いカンナは必至にネイトを呼ぶ。
しかし、一向にネイトからの返事はない。
そこへ、
「局長ッ!!!」
ヴァルキューレ生の一人がやってきた。
「ここはもうだめです!爆発の影響で今にも崩落する可能性が…!」
「何を言っている!?まだ彼がどこかにいるかもしれないんだぞ!?」
カンナを引き留め退避しようとする生徒に食って掛かるが…
「今ここで局長までいなくなってしまっては誰が捜査の指揮を執るんですか!?」
「…っ!」
部下の生徒の言葉に言葉が詰まる。
彼女の言葉も…分かっている。
ギギッ…ギィィィ…!
先程から自慢の耳が爆発と火災によって悲鳴を上げる鉄骨の音を察知している。
崩落は時間の問題だろう。
もし、ネイトを探すためにここにとどまり続ければ…
そして、こんな爆発では…もう…。
「…分かった…ッ!一時退避する…っ!」
これ以上ないほど苦渋に滲んだ声と表情でカンナは決断を下した。
「行くぞッ、宿泊客の避難は!?」
「ホテルスタッフと共に順調に進んでいます!消防も間もなく到着するとのこと!」
そして、カンナは部下と共に燃え盛る最上階フロアから退避する間際…
(………申し訳…ありません…!必ず、迎えに来ますから…!)
吹き飛んだスイートルームの跡を一瞬見つめそう誓うのであった。
【20:43】
サンクトゥムタワーの目と鼻の先で起こったホテルニューオトワの爆発。
しかも宿泊客はネイト、現在キヴォトスで最も注目を集めている大人と言っても過言ではないだろう。
《速報ッ、速報です!!!先ほど、『ホテルニューオトワ』最上階付近で大規模な爆発が発生!し、宿泊客である本日安全保障理事会に参加していたネッネイト氏が安否不明です!!!》
クロノスをはじめ各報道機関は直ちにこの情報をキヴォトス全土に報道。
この事件は瞬く間に広がっていった。
そして、
「アヤネの姐さんにノノミ姐さん、ハンヴィーのエンジン暖まってます!」
「すぐにでも親分の救出に向えるぜ!」
「分かりました!大至急、ホテルニューオトワへ向かいます」
「不測の事態に備え皆さんも武装の準備を!」
アヤネとノノミを筆頭としたアビドス組も行動開始、武装ハンヴィーに乗り込み直ちにネイト救出に向かおうとしていた。
他の生徒はもちろん、アヤネもP-90『インディペンデンス』を携えているという完全武装だ。
ノノミも火災現場に乗り込むことを想定して『マイクロボンバーG』に冷却グレネード弾を装填している。
あとはノノミとアヤネが乗り込むだけとなっていたが、
キキィッ!!!
『ッ!?』
突如、ハンヴィーに横付けし複数台の偵察戦闘車『AML 90』が停車した。
何事かと思い身構えると…
「アビドスの皆さん、連邦生徒会防衛室の者です!」
車両から防衛室の実働部隊の制服を着た生徒たちが下りてきた。
「…連邦生徒会の方が何の用ですか…!?」
「リン主席行政官から皆さんをサンクトゥムタワーまで護送するよう命令を受けてきました!我々に続いて…!」
確かに各学区のVIPが集結しているD.U.のど真ん中で、しかも重要参考人が宿泊していたホテルが爆発したのだ。
これ以上の被害を出さないためにここで最も厳重に防備を固められるサンクトゥムタワーにVIPを集めるのは理にかなっている。
しかし、
「お気遣い感謝します…!しかし、我々は独自で自分の身を護れますのでお構いなく…!」
「私達はこれからホテルニューオトワに向いますのでリン主席行政官にはよろしくお伝えくださぁい♠」
防衛室の生徒の言葉を無視するようにアヤネとノノミはハンヴィーに乗り込み現場に向かおうとする。
すると、
ブォオンッ!!!
「~ッ!?何しやがる、危ねぇだろ!?」
ハンヴィーの行く手をAML90が遮るように幅寄せしてきた。
「お気持ちは分かります!ですが、今は皆さんの安全の確保が最優先…!」
降りてきていた防衛室の生徒がそう説明するが、
「邪魔すんじゃねぇぞ、連邦生徒会!!!アタシらはアニキを助けに行くんだッ!!!」
「安全の確保だぁッ!?だったらあの燃えてるホテルはなんなんだよッ!?」
当然、アビドス生徒達も反抗する。
自分たちがいるというのに連邦生徒会はわざわざヴァルキューレにその役目を奪わせネイトを引き離した。
その結果が…あの燃え盛るホテルニューオトワだ。
「そこを退いてください!私たちの行く手を遮る権利はない筈です!」
アヤネも声を荒げ車両をどかすよう要求する。
「できません!今はどうか私たちの指示に…!」
それでも一向に道を譲ろうとしない防衛室の生徒に…
「しゃらくせぇ!だったらテメェらぶっ飛ばして行ってやらぁッ!!!」
とうとう痺れを切らせハンヴィーに搭載されたM2のコッキングレバーを引きその銃口を向けるアビドス生徒。
「なっ何を!?」
「こうやってる暇はねぇんだよ!!!怪我したくなかったらさっさと道を開けろ!!!」
「こっ公務執行妨害になりますよ!?」
「そんな脅しで俺ら止められると思ってんのか!?」
「うちらの邪魔しといて公務もくそもないだろうが!!!」
他の生徒もそれに呼応し車載機銃や荷物の中にあったM72などを取り出し包囲しているAML90に向け構える。
「こっこのッ!!!」
これには防衛室の生徒たちも血相を欠きそれぞれの得物とAML90の砲塔をハンヴィーに向ける。
正に一触即発の状況、闘気が満ち満ちていき臨界点を迎えようとしていた。
その時だ。
ガゴォォォォンッ!!!
『ッ!!?』
突如として辺りに響き渡る衝撃音。
その音源を辿ると…
シュウ~…!
「………。」
「の、ノノミ…先輩…!?」
愛用のスーパースレッジを地面に叩きつけているノノミがそこに居た。
余程の怪力で叩きこまれたのか地面には大きな亀裂が走り今なお砂煙が昇っている。
「…皆さん、今一度冷静になりましょう。」
普段通りの穏やかな柔らかさのある口調だ。
だが、この場の誰もが呼吸が憚られるようなプレッシャーをひしひしと感じていた。
「連邦生徒会の皆さん、ネイトさんの行方はどうなっていますか?」
「そっそれは目下捜索中です…!」
「救助計画の策定は?」
「こ、これから消防が駆けつけそれから…!」
「他の参加校の方々も集結中なのですか?」
「はい…!すっすでにトリニティの代表団はサンクトゥムタワーに…!」
ノノミは静かに防衛室の生徒と数回問答を重ね…
「…分かりました。皆さん、武装解除し指示に従いましょう。」
アヤネを含めたアビドス生徒にそう指示した。
「そんなッノノミ先輩っ!?」
「今ここで連邦生徒会と争っても一切メリットはありません。」
「でも、親分がッ!」
アヤネも他の生徒も意見するが…
「分かっています。ですが…ここはD.U.。アビドスとしても…現状のW.G.T.C. としての立場だとしても…連邦生徒会が来た時点で選択肢は一気に減ります。」
『…っ!』
冷静なノノミの言葉に俯くしかない。
自学区以外での生徒の活動にはかなりの制限が掛かる。
また、W.G.T.C.社員としての立場だとしても…その権限の根幹であるネイトの安否が不明だ。
銃撃戦程度ならまだしも…火災現場に乗り込み救助活動するには一歩遅かった。
「ですから、今は私達ができる方法で情報収集を行います。これは…この場での最高責任者である私の判断です。ご理解していただけましたか?」
「…了解…しました…!」
アヤネも彼女の言葉に苦悶の表情を浮かべ従うしかなかった。
「…では、防衛室の皆さん。先導をお願いします。」
「はっはいっ!」
そんなノノミの言葉に弾かれた様に防衛室の生徒も車両に戻っていった。
「全員乗車、サンクトゥムタワーへ向かいます。」
『了解…!』
アヤネたちもハンヴィーに乗り込み一行は発進した。
その道中、
「アヤネちゃん、チカちゃんに通信を。…『有事の際は直ちに飛び立てるように準備を』と。」
「!…分かりました…!」
ノノミがアヤネにそう指示を飛ばし…
「はい…はい…了解しました…。いつでも飛び立てるように準備しておきます…。」
飛行場で待機し蝋燭の明かりで写経をしていたチカにも即座に通信が届いた。
通信を切り…
「ネイトさん…どうかご無事で…。」
チカはネイトの無事を祈りながらその辺にあった錆びた一斗缶の中にこれまでにしたためた写経の紙を放り込み…
ボォッ
小さくなっていた蝋燭の火で焚き上げた。
大きくなった火の明かりが彼女の表情を照らし出し…
「キケケケ…ッ!『あの子』の餌食になりたい愚か者は一体誰ですかぁ…?!」
なんとも恐ろしい雰囲気を漂わせ笑い始める。
そんな彼女の視線の先にある輸送機には…昼間にはなかった装備が装着されているのであった。
【21:07】
その後、サンクトゥムタワーには安全保障理事会に来訪していた各校の代表者とその一行が続々と到着。
爆発事件があった直後に一か所に人を集めるのは危険ではないかと思われるだろう。
それでも残っていた連邦生徒会総動員で施設内を捜索し不審物がない事を調べ尽くし安全の確保に努めたのだった。
そして…
「では…報告をお願いします、カンナさん…!」
「はっ…!」
ホテルニューオトワで救助活動を行っていたカンナがリンや直属の上司でもあるカヤを筆頭に連邦生徒会のお歴々の前に通されていた。
彼女の制服や顔は煤で汚れ必死に救助活動を行っていたことがうかがえる。
「救助活動は順調に進行し宿泊客は安全圏に退避させることが出来ました…。」
「被害状況はどうなっていますか?」
「宿泊客には爆発時の転倒などにより負傷者が出ていますが全員軽傷です。瓦礫の落下などによる負傷者は現在のところ確認されていません…。」
務めて淡々と被害状況を報告していくカンナ。
だが…
「それで…最上階にいたネイト氏の安否について何かありますか…?」
「…っ!」
ネイトに関する報告に入った際は一瞬沈痛な面持ちを浮かべ…
「発生当初、私が最上階に赴きましたが…現場は火の海で彼が宿泊していた部屋は…原型をとどめないほど破壊されていました…!」
自らがその目で見た情報をありのままに報告する。
「…彼の痕跡などは…!?」
「捜索を続けていましたが…倒壊の危険性があり、あえなく断念いたしました…。」
「なんということですか…?!」
あまりの惨状に顔を覆うしかないリン。
このキヴォトスの中枢であるD.U.で、しかもその中枢といえるサンクトゥムタワーの目と鼻の先での前代未聞の爆弾テロ。
しかも、標的は今キヴォトスで最も注目を集めているであろう人物。
まんまと爆弾を仕込まれ重要人物の安否も不明とくれば…
「ヴァルキューレは一体何をやっていたのですか…?!」
目線を鋭くしカヤはカンナに尋ねる。
「このような不祥事…アビドスや各所にどうやって説明すれば…!」
「言い訳するつもりはございません…。ですが、事前の安全確認は下層フロアも含め徹底して行いました…。」
「でしたらなぜこのようなことにっ!?」
「目下調査中です…。」
「その調査はいつ完了するのですか!?」
語気を荒げるカヤだが…
「不知火室長、ここで彼女を責めても事態は変わりません…!」
険しい表情を浮かべながらリンは彼女を落ち着かせる。
「ですが、首席行政官…!」
「責任の所在は後でどうとでも決めることが出来ます…!今は…この事件の真相と犯人を捜すことが先決です…!」
「…分かりました…!」
そうだ、カンナを今責めても何も変わらない。
「消火活動の状況はどうですか…?」
「現在、総力を挙げていますが現場が高さ200m越えの高層ビルなので芳しくはないようです…!」
「必要ならば消火用のヘリの派遣も行ってください…!今はともかく火を消し彼の安否を確認することが最優先です…!」
リンの指示で各々行動に移る連邦生徒会の役員たち。
そこへ…
「リン主席行政官、アビドスの方々が到着しました!!!」
「分かりました…!こちらに通してください…!」
職員がノノミ達の到着の報告が届いた。
数分後、
「アビドスの皆さん、この度はこのような事態になってしまい…。」
『………。』
リンたち連邦生徒会幹部が集結している部屋にノノミとアヤネの姿があった。
彼女が二人に頭を下げるも…
「謝罪は結構です。ネイトさんの安否はどうなっているのですか?」
アヤネが鋭い視線を向けつつ淡々と尋ねる。
「…目下、総力を挙げて捜索中です。必ず吉報を…。」
リンは険しい表情のままそう答えるも…
「吉報を?貴方方は事件から30分以上経っているというのにまだあの人が無事かどうかも把握できていないのですか?」
アヤネはそんなことで追及の手を緩めることはない。
「…現場の火災は未だ激しく救助隊の投入も厳しく…。」
「厳しい?なにを悠長にやっているのですか…!?」
「決してそのようなことは…!」
「私達ならあの場に向かわせていただいたら素早く状況を掌握できますが…!?」
ネイトの訓練は何も軍事関連の物ばかりではない。
警護関連はもちろん、中には救出関連の訓練も行われている。
アヤネも無論、すべての訓練をこなしその練度は非常に高いもので今回の火災に関しても自信を持っていた。
可能なら今すぐにでも現場に駆け付けたい。
「手に負えないのならば私達に現場に出動する許可を…!ついでに情報収集も行ってきますので…!」
埒が明かないと判断しアヤネがリンたちにそう要求するが…
「…今はどうか時間を頂きたい…!どうか…どうかそれまで辛抱を…!」
「ぼ、防衛室も全力を尽くしています…!今は私達を信じて…!」
リン、そしてカヤも加わり彼女を説得しようとする。
「辛抱…ッ!?信じて…ッ!?」
しかし、そんな二人の言葉がとうとう…
「どうやってあなた達を信じればいいんですかッ!!?」
ガッシャアアアアアアンッ!!!
『~ッ!!?』
アヤネの堪忍袋の緒がちぎれ飛んだ。
普段の穏やかな口調が消し飛び激情を露にして自分とノノミが着席していた机を投げ飛ばした。
「今まで何度も助けを求めてきても無視してきた連邦生徒会を!?」
その感情を抑えることなくアヤネは叫ぶ。
「カイザーの口車に乗せられて私達をカルト信者だと決めつけていた連邦生徒会を!?」
「そっ…それは…!」
「そんな連邦生徒会をッそんな信用も信頼もないのにどうやって信じろと!?」
「おっ落ち着いてください、アヤネさん!」
「だから、アビドスは私たちの力で復興をしてきました!アビドスの問題もッ!カイザーもッビナーもッ私たちが動いて解決してきましたっ!!!」
アヤネは連邦安全保障理事会の開催が決まってから…いや、アビドス高校に入学して以来のたまっていた物を一気にぶちまける。
「だから私たちの力だけでどうにかしようとしてあの計画を考えたんですッ!!!貴方たちに頼ってもどうしようもないと思ってせめて自分たちの学校を護れるように考えたんですッ!!!」
『………ッ!』
「それなのに貴方たちやトリニティはそれを『軍拡』と呼んだッ脅威と呼んだッ!!!そんなことを言うんだったらどうして私達を助けてくれなかったんですかッ!!?」
その目からは涙が溢れ声も震え始めていた。
「そして何でネイトさんを私達と別れさせたんですか!?別室を用意するくらい貴方たちなら簡単でしょう!?そっちの方が警備も楽なのにどうしてっ!!?」
「そっそれは警備上の…!」
「その警備が何の役に立ちましたかッ!!?私たち以上の警備体制をとれるから私達から離したんじゃないんですかッ!!?なのにどうしてこんなことが起こったんですかッ!!?」
「…っ!」
この言葉にカンナも一層沈痛な表情を浮かべるしかない。
言い返しようのない事実だからだ。
そしてとうとう…
「ひょっとして私達が邪魔だったんですかッ!?」
「そっそんなことは…ッ!」
「貴方たちにとってもネイトさんは邪魔だったんでしょう!?あの人のことを知りもしないで疎ましく思っていたのでしょう!?」
連邦生徒会のネイトに対する後ろ暗い感情を上げて…
「この安全保障理事会もッ!!!私達からあの人を離したのもッ!!!これがもく…!」
『一線』を超えようとした…その時、
「アヤネちゃんっ!」
『ッ!!?』
今まで沈黙していたノノミが口を開き…
「…それ以上はダメですよ。」
アヤネをまっすぐに見つめ彼女を制する。
「でッでもノノミ先輩…!」
「いけません、アヤネちゃん。もしそれを口にした瞬間…取り返しがつかなくなります。」
アヤネとは対照的に冷静に…まるで子供を落ち着かせるかのように穏やかに声をかけ、
「気持ちはよく分かります。私も…連邦生徒会には思うところはあります。」
自身の想いを吐露しつつも…
「でも…それ以上はいけませんよ?ネイトさんだって…それは望んでいないはずです。」
アヤネを宥める。
そんな先輩の言葉を聞き…
「…ひぐっ…エグッ…!」
アヤネは肩を震わせ涙をぬぐい始める。
「アヤネちゃん…。」
「ノノミせんぱぁい…!」
ノノミは席を立ち彼女を抱きしめその背中を摩る。
「…連邦生徒会の皆さん、先ほどは言葉が過ぎました。彼女の代わりに謝罪いたします。」
「いえ…アヤネさんの気持ちを思えば…。」
「私達は一旦失礼します。ネイトさんの捜索、どうかよろしくお願いします…。」
「…私たちも全力を尽くします…。」
ノノミはアヤネを抱きしめたまま部屋を後にする。
【21:28】
二人はそのままアビドス生たちが待つ控室まで戻ってきた。
「すみませんでした、ノノミ先輩…。」
「いいえ、気にしないでください。」
「ノノミ姐さん、アニキに関する情報は…。」
「まだ何も…。火災が落ち着くまでは…。」
「くそっ…!俺達も向かえていたら…!」
現状、何もできない自分たちを歯がゆく思うアビドス生徒達。
すぐにでも飛び出していきたいが…話を纏めてくれたノノミの顔を潰したくはない。
重い空気が立ち込める中…
Prrr…Prrr…
ノノミのスマホに着信が入り画面を見ると…
「ホシノ先輩…!」
アビドスにいるホシノからであった。
「もしもし…?」
全員に聞こえるようにスピーカーモードにしてノノミは出る。
《もしもし、ノノミちゃん?皆は大丈夫?》
電話口のホシノの口調はとても優しかった。
「はい、皆さんに異常はありません。アヤネちゃんは少し気が昂っちゃったようですけど…。」
《うん、それはよかったよ。アヤネちゃんは今はどう?》
「今はまだ泣いていますけど落ち着いています…。」
《そう、アヤネちゃんは真面目だからねぇ。》
そんな自分達の身を案じるホシノの言葉に…
「…ごめん…なさい…。ごめんなさい。ホシノ先輩…!」
《ごめんなさいって…どうして?》
「ネイトさんを…守れなくて…本当に…ごめんなさい…!」
とうとう…ノノミの感情も決壊した。
大粒の涙を大きな瞳から溢れさせながらホシノに謝り続ける。
「私達…守られてばかりなのに…!ネイトさんを…皆で守るために来たのに…!なのに…こんな…こんなことに…!」
今まで気丈にふるまっていたのだろう。
この場で自分は最上位の権限を持つ人物、ここにいる全員を率いるために感情を押し殺していたのだ。
この場の誰よりも愛情深い彼女のことだ。
全てを放り捨ててでも…ネイトの元に駆け付けたかっただろう。
「ごめんなさい…!ごめんなさい、ホシノ先輩…!」
《…ねぇ、ノノミちゃん。よぉく…よぉく聞いててね?》
そんなノノミにホシノは穏やかな口調で話しかける。
《アビドスだけじゃない。いろんな学校の人が心配しているんだよ。》
「いろんな学校の人が…?」
《うん、ヒマリちゃんにエイミちゃんなんか真っ先に連絡をくれたんだぁ。》
まるで世間話のように、
《それにイオリちゃんが一番慌ててた~ってサツキちゃんが連絡入れてきたりなんてこともあったねぇ。》
普段のお喋りのように、
《二人も…おチビちゃんの二人のアリスちゃんとイブキちゃんもすぐに電話をくれたんだぁ。》
いつものホシノの話し方だった。
《みんなみんな、あの人のことを心配しているの。大丈夫、一人じゃないよ。私達だっているんだから。》
「ホシノ先輩…。」
《だから、泣かないで?大丈夫、何とかなるって。》
まるで根拠のない、いつもの昼行燈なホシノの言葉だったが…
「…ハイ…っ!ハイ…っ!」
それがノノミの気持ちを宥めてくれるのだった。
《じゃあ、私達も頑張るから皆もいい子に待っててね?》
「分かり…ました…!」
《うん、それじゃまた何か分かったら連絡入れるね。》
そう言い残し、ホシノは通話を切ったのだった。
「姉御…こんな状況なのに…。」
「全くあの人は…。」
普段と変わらないホシノの様子に呆れたような表情を浮かべるアビドス生徒達だが…明らかにその表情は和らいでいた。
「ぐすっ…そうですね…。私達がくじけてちゃ…ダメですね…。」
「アヤネちゃん…。」
「ネイトさんだって同じ状況でも絶対に諦めないはずなのに…。ネイトさんの教え子の私達がこんなんじゃ怒られちゃいますね…。」
アヤネも涙をぬぐい、その目に力が戻っていた。
「…はい、皆でネイトさんの無事を祈り…。」
ノノミもそんな皆の姿を見て泣き止んだ。
すると、
「…あれ?」
「どしたんすか、ノノミ姐?」
「…今のホシノ先輩の話…おかしくなかったですか…?」
先程のホシノの話…いや、話し方に違和感を覚えた。
「おかしくって…どういう…。」
「ホシノ先輩は普通…人のことを名前で呼びます。あだ名なんかは言いますが…。」
今まで二年間、ホシノと共に過ごしてきたノノミだからこそ気付いた違和感だ。
「でも…どうしてかネイトさんの名前を呼ばなかったんです…。」
ホシノにとっても今やネイトはかけがえのない人物だ。
こんな状況で…彼の名前を一度も呼ばないことはあり得ない。
「なんで…どうして…?」
考えれば考えるほど…普段のホシノらしくない。
まるで…
「まるで…目が鋭くなった時のようなホシノ先輩のような…。」
今まで蓄えたホシノに関する知識を総動員し…
「…あ。」
ノノミはとうとうそこに至った。
「ノノミ姐さん?」
「…紙とペンをください。」
「う、うっす…!」
紙とペンを受け取り…
「ノノミ先輩、一体何を…?」
「しっ…!」
全員に声を潜めるように伝え…
「先ほどの通話内容で出た人名…。」
ノノミは素早く紙にそれを書き起こしていく
ノノミ
アヤネ
ヒマリ
エイミ
イオリ
サツキ
アリス
イブキ
「呼ばれたのは私を含めた8人…。そこから…。」
ホシノの会話を思い出すと…こうも言っていた。
《よぉく…よぉく聞いててね?》
「ホシノ先輩は念を押していた…。」
彼女の言葉を思い出し…
「つまり注目すべきは…。」
ノノミ
アヤネ
ヒマリ
エイミ
イオリ
サツキ
アリス
イブキ
最初に呼ばれた自分とアヤネを除外する。
「この6人がどうしたって言うんですか…?」
残ったのは自分たちとかかわりのあるゲヘナとミレニアムの関係者だ。
規則性と言えば…それくらいだが…
「…あれ?」
「アヤネちゃん?」
「なんで…イオリさんのことをサツキさんがわざわざ連絡してくるんですか…?」
アヤネがさらなる違和感を感じ取る。
イオリとサツキは風紀委員会と万魔殿の別組織な上役職もまるで違う。
普通…それぞれの組織の関係者が伝えるはずなのにこんな並びにはならないはずだ。
まるで…
「この順番でなくてはならなかった…?」
最初から決まっていたかのような羅列だ。
「一体この6人が…。」
「何かあるだろうが…何が…。」
全員が頭を捻る中…
「…そう言えばホシノの姉御…もう一回強調してなかったすか…?」
生徒の一人が再び思い出した。
《二人も…おチビちゃんの二人のアリスちゃんとイブキちゃんもすぐに電話をくれたんだぁ。》
二人セットで名前を連ねていたのにアリスとイブキだけ二人と、それも二回続けて言っていた。
「二人…?2…?」
誰かがそう言った。
次の瞬間…
「「~っ!」」
ノノミとアヤネが…気付いた。
「アルファベット…!」
「え…?」
「全員をアルファベット表記で…!」
アヤネが紙に書き込む。
ノノミ
アヤネ
ヒマリ Himari
エイミ Eimi
イオリ Iori
サツキ Satsuki
アリス Alice
イブキ Ibuki
「『二人』…つまりアリスちゃんとイブキちゃんは…!」
「イニシャルともう一文字…!」
そして…
ノノミ
アヤネ
ヒマリ Himari
エイミ Eimi
イオリ Iori
サツキ Satsuki
アリス Alice
イブキ Ibuki
それぞれ対応する文字をマークし…
「これを繋げると…!」
H E I S Al Ib
そうすれば…一つの文章が浮かび上がる。
HE IS AlIb
『ッ!?』
これを見た全員の目が見開かれる。
文字こそ違うが…発音を正しいつづりに書き直すと…こうなる。
He is Alive
混乱から簡潔を見つける。不調和から調和を見つける。困難のさなかに好機がある。
―――科学者『アルベルト・アインシュタイン』