Fallout archive   作:Rockjaw

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人生は勇気次第で、縮みも、広がりもする。
―――作家『アナイス・ニン』



The Night City Where Conspiracies Dance

ノノミとアヤネたちがホシノからひそかに届けられたメッセージに驚愕していた。

 

さて…ここで場面は一時間ほど遡ろう。

 

ネイトはアリスとの会話で確かにこう言っていた。

 

《テレビも見ましたけどどこもパパが映ってますよ!》

 

「俺も今見てるが…正直こんなもてはやされるのは性に合わないんだよなぁ…。」

 

他愛のない親子の会話だ。

 

…ところで、この会話に不審な点はないだろうか?

 

ネイトがいるホテルニューオトワのスイートルームは家電どころか家具も調度品もないがらんどうの部屋のはずだ。

 

さて…どうやって現在進行形でネイトはテレビを見れるのか?

 

スマホで?

 

いいや、アリスと通話しているのにそれは不可能だ。

 

ではどうやって?

 

…答えは爆発から90分ほど遡る。

 

【19:13】

 

「ごちそうさまでした。」

 

ルームサービスで頼んだ軽食で腹ごしらえを終えたネイト。

 

このホテルには相応のレストランもあるがわざわざ食べに行くのも面倒だった。

 

腹ごしらえも終え何もないスイートルームではあとは寝るか電話でおしゃべりをするくらいしかやることはないが…

 

「さて…逃げるか。」

 

ネイトは脱走を選択。

 

電話でおしゃべりしようにも…こんな監視体制ではどこで内容が漏れるか分かったものではない。

 

一応、徹底的に室内を再検索したが油断はできない。

 

そして…

 

(全くおかしな話だ。神なんか信じてない俺が…夢で会っただけの『狂乱の王』なんかの助言を真に受けるなんてな。)

 

あの晩の夢、見知らぬ少女と『狂乱の王』を名乗るシェオゴラスとの茶会。

 

シェオゴラスは確かにこう言っていた。

 

「尖塔の頂上から見下ろすのはいい気分だ!だが、居心地が悪く感じるのなら飛び降りるのも手だぞ!」

 

文面から考えるなら…いざとなったら立場など捨ててしまえということなのだろう。

 

が、今のこの状況…

 

(確かにこのホテルの頂上は三角屋根の構造…。まさに『尖塔』と言ってもいいだろう…。)

 

シェオゴラスの話に合ったような構造の建物、しかもその最上階の居心地の悪い部屋に自分がいる。

 

あまりにも条件が揃いすぎている。

 

つまり…

 

(何か起こるかもしれない…。)

 

あの見知らぬ少女の忠告も込で考えればそう言う結論に達する。

 

なので…

 

(…飛び降りるか。)

 

ネイトはこういう結論に至った。

 

ならば即行動とまずは部屋の電気を消し静かにバルコニーに出て上を見上げる。

 

(目測…15mと言ったところか。)

 

ここから三角屋根の根元にある広い空間までの距離をざっと計算し、

 

(足りるな。)

 

Pip-Boyから鉤爪が結わいつけられ一定間隔で結び目が作られているロープを取り出した。

 

そして、鉤爪から1mほどの所を掴み振り回して勢いをつけ…

 

ビュンッ!

 

そこ目掛け投げつけた。

 

ガシィンッ!

 

鉤爪は狙い通りの場所に引っかかり力いっぱい引っ張っても外れる様子を見せない。

 

「よっと。」

 

ネイトはロープの結び目に手と足をかけてスルスルと登り始める。

 

こんな事はアラスカ時代から何度もやって来て慣れっこなのだ。

 

あっという間に登り終え…

 

「おぉ~…これは中々…。」

 

眼下に広がるD.U.の街を一望するネイト。

 

マサチューセッツの防空指揮所とはケタ違いの高さかな眺める光景は圧巻そのものだった。

 

ビル風に吹かれながらしばしその光景を楽しむも…

 

「さて…行くか。」

 

振り向いてテラスが会った方とは逆の縁まで行くと…

 

「…よし、あそこなら。」

 

そこにあったのは木々が生い茂る庭園だ。

 

地面の様子を確認し…ネイトは助走距離をとり、

 

カシャッ!

 

両足にある物を装備した。

 

一見するとそれは革製の膝当てと脛当てのようなものだ。

 

「…大丈夫…大丈夫…!もっと高い所からでもへっちゃらだったじゃないか、ネイト…!」

 

珍しく自分を奮い立たせるようにつぶやき…

 

「…ッ!!!」

 

ネイトはまるで走り幅跳びでもするかのようなフォームで一気に縁目掛け駆けだす。

 

踏みとどまることなど一切考えていない全力疾走だ。

 

距離にしておよそ30m少々。

 

そして、勢いそのままに…

 

ダンッ!!!

 

ちょうど縁に足が掛かったタイミングで思い切り踏み切った。

 

ネイトの体は宙に飛び出す。

 

当然、そのまま地面に向って落下。

 

猛烈な勢いで過ぎ去っていくホテルの窓にぐんぐんと近づく地面。

 

高さは優に200mを優に超えるホテルニューオトワ。

 

その頂上付近から飛び降りて…普通キヴォトス人であろうと無事では済まないだろう。

 

しかし、自由落下に逆らう方法など生身のネイトにはない。

 

そのまま地面に叩きつけられ赤い染みになってしまう…かと思われたが不思議なことが起こった。

 

例えるならバンジージャンプの様に地面へ近付いていくほど速度が徐々に落ちていき…

 

スタッ

 

地面につく頃には膝を曲げれば問題なく着地できるほどの勢いに衰えていた。

 

「…ふぅぅぅ、分かっててもこの感覚は慣れないな…。」

 

立ち上がって素早く身を隠しつつネイトは先ほど装着した足の装備を撫でた。

 

そう、このイカれているとしか言えない常識外れの所業を可能としたのがこの足の装備だ。

 

連邦に数あるアーマー専用のレジェンダリー効果の中で最も規格外と言っても差し支えない効果がある。

 

その名も…『軽業師』、アーマーの中でも脚部用のアーマーにのみに付与される効果だ。

 

その実態は実に単純、落下した際のダメージを50%軽減するというものだ。

 

ざっくりいうと2階建てのビルから落ちた場合、一階から飛び降りた程度のダメージに抑えるといった効果だ。

 

が、これでも落ちる高さが増せば増すほど結局は命を落とすほどの衝撃を着用者は受けてしまう。

 

そこで肝になるのが…この効果は『加算』されるということである。

 

つまり、『軽業師』の効果が付与された脚部アーマーを『両脚』に装着すれば…50%+50%で100%軽減。

 

要はどんな高さから落ちてもノーダメージにすることが出来るのだ。

 

この効果は高所での建築作業でも安全確保や高所からの非常時の脱出など様々な場面で連邦でも活躍していた。

 

時には酔った弾みでアパラチアレイダーの持つ様々な設計図が賭けられて行われた度胸試しで崖からダイブした際の命綱にもなった。*1

 

ネイトが持つ物は軽業師のアーマーはライトレザーアーマー、連邦で広く普及していたエナジーウェポンに高い耐性を持つ革製の軽量アーマーだ。

 

それを『超軽量化』で重量を両脚合わせて0.4ポンドまで落としてもしもの時の『お守り』としていつもPip-Boyに忍ばせている。

 

これさえあればネイトは意識さえ保っていれば『落下死』は確実に回避できるのである。

 

「さて…あとは…。」

 

その後、ネイトは変装を手早く施し巡回中のヴァルキューレ生の監視を掻い潜りホテルニューオトワの敷地外に脱出するのであった。

 

【19:31】

 

「…というわけで抜け出してきた。」

 

《あの…ネイトさん?なにサラッとエライこと言ってるんですか?》

 

少し離れた場所にあった公衆電話でアビドスのホシノに連絡を入れていた。

 

荒唐無稽もいい所の報告に電話の向こうのホシノも呆れている様子が手に取るようにわかる。

 

「安心しろ。明日の朝にはちゃんと帰るさ。」

 

《はぁ~…ノノミちゃん達にはどうします?》

 

「内緒にしておいてくれ。傍受の危険性もあるからな。」

 

ネイトがあえて公衆電話で連絡を取っているのも傍受対策だ。

 

公衆電話は有線ゆえそもそも傍受されにくいうえ傍受するにしても傍受したい相手が使う機体にピンポイントで盗聴器などを仕掛けねばならず難易度も高い。

 

こういった秘密の電話をするにはもってこいである。

 

《了解、そうしておきますよ。まぁこんなタイミングでネイトさんに手を出そうとするのは相当な『バカ』位と思いますしね。》

 

「だな。じゃあ、俺は適当な宿をとって休むとするよ。連絡するときはさっき送った番号で頼む。」

 

《分かりました。大都会に来たからってあんまりはしゃがないでくださいね?》

 

「子供じゃないんだ。大人しくしておくさ。」

 

こうしてホシノとの簡単な報告を終える。

 

すると…

 

プップー!

 

背後からクラクションが鳴らされた。

 

ネイトがそちらを振り向くと…

 

「やぁお客さん!また会ったな!」

 

昼間に世話になったタクシードライバーがタクシーから身を乗り出してネイトに手を振っていた。

【挿絵表示】

 

 

「やぁ、昼間ぶりだな。」

 

「ささっ乗って下せぇ!」

 

ドライバーに促されネイトもそそくさと乗り込みタクシーは動き始めた。

 

「早速ご指名してくれてあんがとよ!」

 

「これも何かの縁だからな。」

 

「でも今日のうちにまた乗ってくれるなんて思わなかったぜ!」

 

そう、先ほどホシノに報告する前に昼間に貰った名刺に書かれた番号に連絡し彼を呼んでいたのだ。

 

「俺の方も日が暮れてるのに呼び立ててすまなかったな。」

 

「なぁにウチにゃ子供が5人もいるから稼がなきゃな!ほんで、今回はどこまで?」

 

「それじゃあ…。」

 

こうして、ホテルを脱走しネイトはドライバーに目的地を伝えタクシーは動き始めた。

 

「そう言や、お客さん。サンクトゥムタワー近くのお仕事はもういいんで?」

 

「今日はな。また明日もあるがね。早く決着を付けたいところだがなぁ。」

 

「はっはっはっそう思うときに限って面倒ごとぁ起きるもんだ。」

 

「それは勘弁願いたい。仕事終わったら久々に子供と思いっきり遊ぶ予定にしてるからなぁ。」

 

「おっお客さんも子供がいるんで?」

 

「娘が一人、いつも元気いっぱいで学校の皆に愛されてるよ。」

 

「羨ましいねぇ。ウチは5人とも息子だからいつもヘロヘロだぁ。」

 

奇しくも互いに子を持つ者同士で互いに子供の話で盛り上がりタクシーは賑やかにD.U.の街並みを走っていった。

 

【20:14】

 

タクシーはしばし走り続け、D.U.の中でもダウンタウンの外れにまで到着。

 

「こんなとこでどうだい、お客さん?」

 

「…あぁ、ばっちりだ。」

 

そこにあったのは…寂れた二階建てのモーテルだった。

 

みたところ部屋の明かりはついておらず殆ど空室のようだが…それがネイトには都合がいい。

 

「ありがとう、料金は?」

 

「はいよ、これくらいですね。」

 

「それじゃあ…これで。釣りは取っててくれ。」

 

「へへっ、またすいませんね。」

 

「それから…これ取っといてくれ。」

 

ドライバーにネイトはタクシー料金とは別に紙幣を何枚か差し出した。

 

「おっと、釣りまでもらってんのにこれ以上は…。」

 

ドライバーもさすがにこれは固辞するも、

 

「これで子供たちにハンバーガーセットでも買ってあげてくれ。久々に子持ち同士で話せて楽しかった礼だ。」

 

「…すみませんねぇ。ウチの坊主たちも喜んでくれるよ。」

 

ネイトにそう言われ、困った表情を浮かべながら受け取るのであった。

 

「それじゃまた何かあったら頼むよ。」

 

「連絡くれたらいつでも駆け付けますよ。」

 

こうして縁ができたタクシードライバーとも別れ…

 

「部屋は二階の角の一個前、変なことするんじゃないよ。」

 

「どうも。」

 

かなり不愛想なモーテルの女主人に部屋を用意してもらい、

 

「…ふぅ~やっと気が抜けるな…。」

 

宛がわれた部屋の中に入ってようやく肩の力が抜けた。

 

ベッドとクローゼット、小さなテレビと冷蔵庫と奥にシャワールームがあるだけのこじんまりした物だったがネイトには落ち着ける部屋だった。

 

早速、変装道具を取り去りベッドの上に身を投げ出した。

 

外を見ると…

 

「おぉ…さすがは高級ホテル。結構離れたと思ったがしっかり見えるもんなんだな。」

 

遠くには多数の高層ビルが聳えるD.U.であって存在感を示すホテルニューオトワが見えた。

 

「さて…メディアは何か言ってるかな?」

 

しばし夜景を楽しんだ後、情報収集のためにテレビを付けると…

 

《…というわけで安全保障理事会の初日が終わったわけですが…。》

 

ちょうど夜のワイドショーで昼間行われていた安全保障理事会に関するニュースが放送されていた。

 

《内容としてはアビドスの新たな防衛計画に関することでしたが…。》

 

最初こそアビドスが主役のニュースが流れていたが…

 

《会議はトリニティの他学区への諜報活動に移りハイランダーとの暗い関係に焦点が当てられ…》

 

ニュース映像の主役はナギサに移り紛糾する議場の映像に移り変わった。

 

「あぁ~…バラしといてなんだがハイランダーの件もはっきりさせとかなくちゃなぁ…。」

 

帰った後もやる事が山積みなことを理解し頭を掻き少し憂鬱な気分になるネイト。

 

そんな気分を変えるためザッピングしていると…

 

Prrr…Prrr…

 

「ん?」

 

スマホに着信が入った。

 

取り出されたのは…ネイトが普段使いしている機種ではない。

 

これもネイトが防諜対策で入手した物のひとつ…プリペイド携帯だ。

 

これを入手するためにD.U.に先入りしていたという面もある。

 

普段使いの携帯はPip-Boyに入手しているので傍受の心配はない。

 

着信画面を見ると…

 

「おぉ…。」

 

表示されていたのはこの携帯番号を知る数少ない人物、

 

《パパッ!会議お疲れさまでした!》

 

通話に出ると愛娘のアリスの元気な声が聞こえてきた。

 

「やぁアリス。なに、あれくらい軽いものさ。」

 

《テレビも見ましたけどどこもパパが映ってますよ!》

 

どうやらアリスもこの議会の様子が気になって仕方なかったようである。

 

「俺も今見てるが…正直こんなもてはやされるのは性に合わないんだよなぁ…。」

 

正直、かなり後ろ暗い部分があるこのニュースを愛娘に見られるのは気が引けるが…

 

《でも、本当に凄いです!魔王の城に乗り込んで見事野望を打ち砕くなんて!》

 

「…フフッ。」

 

それでもアリスが自分を誉めてくれたことは嬉しくネイトの頬も思わず緩む。

 

「コラ、まだ安心するにはまだ早いぞ?議会は一日あるんだからな?」

 

が、それも少し引き締めアリスを少し落ち着かせる。

 

《今度会えたらまた詳しく教えてくださいね!》

 

「議会が終わったら俺も休むつもりさ。その時は思いっきりアリスに付き合うよ。」

 

なにしろこの会議はネイトも神経を使うものだ。

 

ホシノもそれを理解していて生徒会長権限で今D.U.にいる面々全員に2日の公休がもらえる手配をしてくれている。

 

《本当ですか!?わ~い!》

 

ネイトと一日中遊べると分かりアリスも無邪気に喜んでくれた。

 

すると、

 

《あ、そう言えばパパは今どんなところにいるんですか?》

 

「どんなところか?…ちょっと待っててくれ。今動画を…。」

 

アリスのそんな疑問にネイトは立ち上がって窓に近づきPip-Boyからビデオカメラを取り出した。

 

最近購入したスマホ連動も可能な代物だ。

 

「夜景とって送るから少し待っててくれるか?」

 

《はぁい。》

 

ネイトは頬でスマホを抑えながらカメラを構えて夜景を撮影し始める。

 

「まぁ、アリスが思っているような風景じゃないかもしれないが…。」

 

《ワクワク…!》

 

と、とりあえず視線の先で一番目立つ建物であるホテルニューオトワにレンズを向けることにした。

 

…その時だった。

 

「…ん?」

 

ネイトの視界に不可解なものが入った。

【挿絵表示】

 

それは一見すると流れ星かのようだったが…様子がおかしい。

 

「なんだ、あれは…?」

 

《…パパ?》

 

不審に思い撮影し始めると…その流れ星は徐々にホテルニューオトワに接近していき…

 

ドグワァオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

次の瞬間、ホテルニューオトワの頂上付近…正確にはネイトがさっきまでいた部屋の階層を爆心地に大爆発が起こりその爆音がここまで届いた。

 

「…は?」

 

思わず呆気にとられるネイトに、

 

《どっどうしたんですか、パパっ!?凄い音が聞こえましたよ!?》

 

電話口にも届いた爆音にアリスも彼の身を案じる。

 

これは…とんでもない事態が起こった。

 

「…俺は大丈夫だ。」

 

ネイトは静かに無事なことをアリスに伝え…

 

「…アリス、よく聞いてくれ。」

 

纏う空気を変え彼女にそう伝える。

 

《…はいッ!》

 

只ならぬ事態を感じ取ったアリスも声に気合をにじませた。

 

「これは極秘クエストだ。俺の言う通りに動いてほしい。」

 

《極秘クエスト…!》

 

「大丈夫、アリスならちゃんとできる…!」

 

《ハイッ!アリス、パパのために頑張りますっ!》

 

【20:40】

 

アリスがネイトから託された『極秘クエスト』。

 

アリスは十二分にその役目を果たし…

 

《…ということはネイト社長は無事なんですね?》

 

「虫の知らせか『神』の気まぐれかなんなのか、幸運なことにな。」

 

《相変わらず悪運は強いようだな。》

 

《でも、まさかそんなことになるなんて…。》

 

ネイトは現在、変装道具をつけ直しモーテルの駐車場の片隅にある電話ボックスでユウカ・マコト・ホシノの各校の代表者とコンタクトをとれていた。

 

「傍受の心配は?」

 

《問題ありません。ヴェリタスに電話回線ごと電話会社から奪取してもらって構築しているホットラインですので。》

 

《相変わらず…ミレニアムの技術には舌を巻く…。》

 

《ホント…仲良くなっていてよかったよ…。》

 

《それにしても驚きましたよ。アリスちゃんがいきなり駆け込んできてネイトさんの写真を見せてきたと思ったら滞在していたホテルが爆発した情報が入ってきたんですから。》

 

《こちらもアリス嬢を通じてイブキに同じようなことをさせるとはな。だが、おかげで爆発の情報が入ってきてもイブキがパニックにならずに済んだ。そこは感謝する。》

 

そう、ネイトがアリスに頼んだのは彼女を通じゲヘナとミレニアムの中枢人物に『のみ』自身の無事を伝えることだ。

 

証明のために送ったのは爆発後の時刻を表示している時計と一緒に自撮りした自分の写真であった。

 

そのおかげでミレニアムの技術を用い傍受されない回線を構築しこのような話し合いも可能となっている。

 

「ユウカ、アリスは今はどうしている?」

 

《モモイ達と一緒にゲーム開発部の部室に待機してもらってます。…あの子達にはなんと?》

 

「アリスに伝えて構わないと伝えてある。伝えた後は絶対に一緒に居ろともな。」

 

《分かりました。護衛としてネル先輩を派遣しておきます。》

 

「頼んだ。」

 

大仕事を成し遂げたアリスの安全が確保されてネイトも安堵していると…

 

《しかし…トリニティめ、戦争も辞さないというわけか?》

 

マコトはこの一件の犯人に目星をつけてそう漏らした。

 

確かに、トリニティにとってネイトの存在は非常に都合が悪いはず。

 

そんなネイトがのこのことアビドスの外に遠出し一人で過ごしていたのだ。

 

仕留めるには…絶好の機会だろう。

 

だが、

 

「それは早計が過ぎるぞ、マコト。」

 

《何?》

 

ネイトはそんな彼女の考えを否定する。

 

「確かにトリニティにとっては俺はいない方が都合がいい。しかしだ、これはあまりにもあちらにとって『都合が良すぎる』。」

 

《都合がいいと何か問題でも?》

 

「バレバレだってことだ。こんなんは『私たちがやりました』と宣言しているも同然だろう?」

 

トリニティ、もとい『ティーパーティー』の感情は先の通りだろう。

 

だが、同時に彼女たちは政治家でもある。

 

議会での彼女たちの立場は相当悪くなっている。

 

そんな状況でこんな大ごとをやらかそうものなら…。

 

そして、もう一つ…ネイトには確信があった。

 

「それにだ…状況はそっちが思っているほど単純じゃない。」

 

《単純ではないだと…?》

 

「…これは爆破テロなんかじゃない…!…俺を狙った暗殺だ…!」

 

先程の光景を思い出し、さすがのネイトも背筋に冷たいものを感じる。

 

そして、先ほど自らが見た光景を説明すると…

 

《そ、その飛翔体ってまさか…!》

 

《巡航ミサイルだというのか…!?》

 

《ま、まさかネイトさん一人のためにそこまで…!?》

 

「今まで師団やら機甲大隊を相手にしたことはあるが…巡航ミサイルを叩きこまれようとしたのは初めてだ…。」

 

三人ともネイトが抱いていたものと同じ結論に達した。

 

『巡航ミサイル』、マサチューセッツにも搭載されている長距離を自律的に飛行し目標を攻撃する翼と推進力を有するミサイルである。

 

当然、トリニティも有している兵器ではあるが…

 

「マコト、お前のことだ。トリニティのミサイルの運用に関しては目を光らせているはずだろう?」

 

《…詳しくは言えんがな。確かにその類の兵器の移動はこちらは確認していない。》

 

当然、ゲヘナもそれを警戒しており独自の監視網を敷いている。

 

あのゲヘナの情報部が容易く見逃すとは思えない上…

 

《しかも、そこはD.U.…!レーダー網も対空防御システムもキヴォトストップクラスに厳重なはずです…!》

 

《そんなところの…しかもサンクトゥムタワーと目と鼻の先のビルに叩き込める巡航ミサイル…!》

 

《状況から見て…ステルス能力を有している可能性も十分にあるな…!》

 

「目測だが…おそらく速度も超音速だ…!そんなものを配備している学校も組織も把握していない…!」

 

明らかに今回用いられたミサイルは既存のキヴォトスの技術を凌駕する代物。

 

マサチューセッツが用いる巡航ミサイル『RGM-109Iタクティカル・トマホークブロックⅦ』ですらそこまでの性能は有していない。

 

つまり…

 

「それほどの兵器をどの学校にも属さずに運用できる組織がいるってことだ…!今ここでトリニティを糾弾すれば…!」

 

《その組織は悠々と逃げ果せてしまう…ということか…!》

 

《おそらく…それもその組織の狙いでしょう…!》

 

《ネイトさんの抹殺とあわよくばトリニティの凋落…!とんでもない連中に狙われたものだねぇ…!》

 

トリニティを責め立てるのは簡単だが動機はどうであれ証拠がない。

 

その状況でトリニティを責め立てれば捜査に時間がかかり実行犯の影すら踏めなくなる。

 

「今重要なのはトリニティよりもそちらだ…!今はあのお茶会連中は放置しておいて問題はない…!」

 

《じゃあ…トリニティへの追及は一時見合わせってことだね?》

 

《…ミレニアムはネイト社長の案に合意します。それほどの技術を持つ組織を見過ごすことはできません。》

 

《ちぃ、ゲヘナも同意しよう…!トリニティではなくそこらの組織がそんな兵器を持っていては枕を高くして眠る事も出来ん…!》

 

《…アビドスも右に同じで。今のところネイトさんも無事なので犯人を見つけ出すことが先決だね…!》

 

これほどのことを実行できた組織を放置することはアビドスにも三大校に列せられるゲヘナとミレニアムにとっても看過できることではない。

 

それでも現状、トリニティを追求するより犯人そのものを辿ったほうが各校の将来的な脅威を軽減することが出来る。

 

この一連の事態の犯人を辿ってトリニティが黒幕ならそれでよし。

 

その時はこの借りを熨斗つけて返すまでだ。

 

「よし、全員それでいいな。じゃあ、当面の間の俺の安否は公開しないように頼む。」

 

《こんなことをやってきた連中だ。ネイト社長が死んだことにしておいた方が都合がよかろう。》

 

《分かりました。こちらも部外者には口外無用に命じておきます。》

 

《アビドスはどうするの?》

 

「あの写真を見せててくれ。だが、待機態勢はきちんと俺が安否不明時の訓練通りにな。」

 

《了解~。…それでノノミちゃん達にはどうするの?》

 

アビドス待機組と違いノノミ達はD.U.にいる。

 

そのまままともに伝えようものならすぐに傍受されてしまうだろう。

 

「そうだな…。あと30分くらい経ったらノノミ達には伝わるよう遠回しで教えてやってくれ。」

 

《うへ~面倒だねぇ…。でも分かったよ。おじさんに任せといて。》

 

なので暗号を用いて伝えることに。

 

そしてあらかたの対応がまとまったところで…

 

「話は変わるが…俺が撮影した映像をどこかで解析してもらいたいんだが…。」

 

新たな話題へと議題は移る。

 

ネイトが撮影したあの映像。

 

おそらくこのD.U.の中で唯一真相を克明に記録した代物だ。

 

これを解析できれば…よりこの事件の真犯人に近づけるだろう。

 

だが…

 

《…ゲヘナは生憎そのような技術を持つ部活は存在していない。チアキも画像専門だ。畑違いの映像では時間もかかるだろう。》

 

《一応『映像技術研究部』という部活はありますが…規模はゲーム開発部よりも小規模なのでこちらも時間が…。》

 

「ヴェリタスはどうなんだ?」

 

《………確認しましたが電子データが専門なので難しいそうです。ヒマリ先輩なら可能かもしれませんが今は先生の要請でミレニアムにはいません。》

 

生憎、その手の技術はミレニアムもゲヘナも持ち合わせていないようだ。

 

アビドスは…言わずもがなだ。

 

《情報流出の危険性もある。情報の管理に精通し高い映像解析技術を持つ組織となると…かなり限られてくるぞ。》

 

《こんな状況ではどこから漏れるか分かったものではありませんからね…。》

 

《うへ~…そんなとこと関わり持ってるのってなかなかいないんじゃないかなぁ…。》

 

現状、かなり難しい注文だということが分かり…

 

「この映像をちゃんと解析してせめてミサイルの形状だけでも分かればいろいろ進むんだが…。」

 

ネイトも唸り帽子を持ち上げて髪をたくし上げる。

 

《理想的なのは情報管理が徹底していて映像解析技術がありなおかつすぐにコンタクトが取れるであろう組織…。》

 

「そんな都合のいいところ、俺だってお近づきに…。」

 

その時…

 

「…あ。」

 

【21:07】

 

「周辺への聞き込み取材、行ってきます!」

 

「おい、誰か新しい情報ないか!?」

 

「夜のニュース番組まで時間が無いぞ!!!」

 

爆破テロ…いや、ホテル爆撃より30分が経過。

 

このころには一般市民はもちろんのこと各報道機関も血相変えてこの事件の真相を探ろうと躍起になっていた。

 

このテレビ局と言えども例外ではない。

 

現在、報道局に属する局員は大慌てで情報収集に勤しんでいた。

 

「皆、目が血走ってますね…。」

 

「このD.U.であんな大事件が起これば無理もないだろう。」

 

「うちの部署は応援に行かなくていいんですか?」

 

「手柄を独り占めにしたいのさ。ま、声がかかるまでウチはうちの仕事をやってればいい。」

 

そんな様子を遠くから眺める幾人かの局員。

 

彼らは『制作局』、主にバラエティー番組などを制作する部署だ。

 

同じテレビ局員ではあるものの畑違いすぎるため手の出しようがないのも事実。

 

「でも…本当に無事だといいですね…。」

 

「そう言えばお前…あの人の取材に成功してたんだっけか?」

 

「えぇ、おかげでウチは局長賞も取れましたし…本当に恩人ですよ…。」

 

「誰もこの局にあの人の死を喜ぶ奴はいないさ…。」

 

そう話し合いながら部署は違うものの彼の身を案じているようだ。

 

すると…

 

Prrr…Prrr…

 

「ん?」

 

彼の持つ職場用のスマホが震える。

 

「ちょっと失礼します。」

 

彼は電話に出るため退席する。

 

「はい、もしもし?」

 

電話に出ると…

 

「………~ッ!?」

 

彼の目が大きく見開かれた。

 

数分後、

 

「まさか無事だったんですね、ネイトさん…!」

 

《心配してくれてて感謝するよ、ディレクター君。》

 

彼は電話の相手…ネイトとある一室で通話していた。

 

そう、ここはかつてネイトの取材に成功した唯一のテレビ局『テレビD.U.』。

 

そして、彼こそあの日ネイト達をを取材していた『お宅、連れてってもらえませんか?』のディレクターである。

 

そして現在、

 

「それで…あの爆発に関する新情報をお持ちということですが…。」

 

《あぁ、偶然爆発する前のホテルの様子を撮影していた時に偶然写ったんだ。》

 

彼は報道局長のいるオフィスにいた。

 

ネイトからの連絡を貰ったのち、ディレクターはすぐさま制作局長のオフィスにこの件を報告。

 

内容が内容のため内密に局長を経由して報道局長にも話がすぐにわたりこのような状況になったのだ。

 

「なるほど…。」

 

ネイトからの話を聞き報道局長は深刻な表情を浮かべる。

 

事件に巻き込まれたかと思った重要人物の生存を知ったと思ったらまさかのこの事件の真相を捉えた映像まで持っているというではないか。

 

「それで…我々にどうしてほしいと?」

 

そして、そんな渦中の人物がこの局にコンタクトをとってきた目的を尋ねると…

 

《映像はそちらに引き渡す。その代わり…この映像を解析しミサイルの形状を明らかにしてほしい。》

 

端的にネイトは映像の譲渡とその解析を求める。

 

確かにそれほどの映像を入手できるのは僥倖だ。

 

おそらく、関りを持っていたこの局にしかこの情報は入手できていないはず。

 

つまり特ダネを独占できるというテレビ局冥利に尽きることなのである。

 

問題は…

 

「事情は分かりました。では…我々は何をあなたに差し出せば?」

 

その見返りに自分たちは何を差し出さなければならないかということだ。

 

相手はあのネイト、タダでこんな取引を持ち掛けてくるわけがない。

 

《話が早くて助かる。》

 

ネイトもそのようで早速要求を語り始める。

 

《俺が求めるのは一つ…情報の出所と俺の生存を一切明かさないということだ。》

 

「…え?」

 

満を持して語られたネイトの要求に思わずそう声を漏らす報道局長。

 

「そ、それだけですか…?」

 

《それ以外はどうでもいい。むしろそれ以外なら大々的にニュースに取り上げて欲しい位だ。》

 

そう、ネイトが優先すべきはこの映像のより詳細な情報の入手だ。

 

これを利用し堂々とテレビD.U.が視聴率稼ぎしようが問題ないどころかむしろそちらの方が…

 

《あんな映像の詳細を衆目に曝せば犯人の連中も身を隠しにくくなるだろうしな。》

 

キヴォトス中に『D.U.のど真ん中にミサイルを撃ち込める連中がいる』という警鐘を鳴らすことが出来る。

 

それを知った犯罪組織などが手を組もうとするだろうが…

 

《そんなことをする連中が『素人』と組むとは思えない。もしそうなっても…ぼろが出やすくなる。》

 

正体露見する可能性も上がるだろう。

 

「…なるほど、事情は把握しました。」

 

《それからもう一つ…俺がコンタクトをとったのはディレクターとの縁というのもあるがそちらの誠実な報道姿勢による部分が大きい、ということを分かってもらえると助かる。》

 

「フフッ、ありがとうございます。」

 

報道局長はそう僅かに言葉を交わし…

 

「…映像を送ってください。夜のニュースにまだ間に合うかもしれません。」

 

「報道局長…!」

 

《協力に感謝する。》

 

報道局長は協力することを決定するのだった。

 

《データはどこに送れば?》

 

「私のPCアドレスを伝えます。そちらの方に…。」

 

すぐさま情報の提供方法を確立し、

 

《…今送った。では、よろしく頼む。》

 

「お任せを。」

 

ネイトは映像データをすぐに送り付けて通話を切るのであった。

 

「…なるほど、これは…!」

 

「とんでもないことになりそうですね…!」

 

映像を見るや否や、その価値に即座に気付く報道局長。

 

「誰か、誰かいないか!?直ぐにこの映像を解析しろ!!!ニュース番組までに仕上げるんだ!!!」

 

すぐにネイトに託された仕事に取り掛かるのであった。

 

「よくやってくれた…また局長賞だ!」

 

「はっはいッありがとうございます!」

 

途轍もない特ダネを独占できテレビD.U.内は一気に沸き立つのであった。

 

【21:48】

 

「いよいよか…。」

 

そろそろテレビD.U.の夜のニュース番組の放送時刻だ。

 

ネイトは固唾を飲んでテレビの前にスタンバイしている。

 

いわば、ネイトのあの動画は爆薬も同然の威力を誇る代物。

 

通常なら扱いに細心の注意を必要とするが…

 

(今、いろんな意味で『燃え盛っている』D.U.をこれで一気に沈静化できれば…!)

 

『爆風消火』という消火方法がある。

 

主に油田火災などに用いられる手法で火元に爆薬を投入しその炸裂を用いて火そのものを消すという方法だ。

 

危険極まりないが非常時には有効な方法として知られてる。

 

あの爆撃事件以降、メディアだけでなくSNS上でも様々な議論が繰り広げられている。

 

これでは真相追及の妨げにしかならない。

 

それらを一発で集結させる、正にダイナマイト級の存在があの動画なのだ。

 

「さて…頼んだぞ…!」

 

そしていよいよ…

 

《こんばんは、ニュースの時間です。》

 

ニュース番組の時間が始まった。

 

《まずは先ほど発生した爆発事件の最新情報です。》

 

トップニュースはもちろんホテルニューオトワの事件に関することだ。

 

最初の方はこれまで入手した情報などが報じられ…

 

《さて、ここで視聴者から寄せられた事件に関する映像を見ていきたいと思います。》

 

いよいよネイトが提供した映像のニュースが報じられようとした。

 

「来た…!」

 

ネイトも食い入るように見つめる中、

 

《なお、当局の映像解析技術を用いより鮮明になった映像もございます。ショッキングな場面が流れますので視聴には十分注意してください。》

 

キャスターがそう注意喚起し画面があの動画に切り替わる…

 

《番組の途中ですがここで連邦生徒会より緊急の会見があります。》

 

「…は?」

 

瞬間、画面が切り替わりサンクトゥムタワー内にあるプレスルームが写る。

 

「ちょ、ちょっと待て!?このタイミングでか!?」

 

慌てて他局にチャンネルを回すもどこも同じ画面しか流れていない。

 

そして…

 

《お集まりいただきありがとうございます。私はトリニティ『ティーパーティー』ホスト、桐藤ナギサと申します。》

 

壇上に現れたのは連邦生徒会の役員ではなくナギサだった。

 

「一体何を…!?」

 

ネイトは彼女の真意を理解できなかった。

 

今、この状況でトリニティが何をできるというのか?

 

それもこんな大々的な会見まで開いて…。

 

頭の中が疑問符で埋め尽くされるが…

 

《ホテルニューオトワ爆破テロという痛ましい事件が起こりましたが…私どもはその中で小さな希望を見つけることが出来ました。》

 

その疑問符はナギサによって解消された。

 

それも…

 

《先程、我がトリニティの情報部が…ネイト社長の生存を確認しました。》

 

「~ッ!!?」

 

考えうる限り最悪なタイミングで最悪な形となって。

*1
なお、酔いがさめた後で同行していたキュリーにブチギレられた模様




不運というものが何かは、誰でも知っています。それは防ぎようのないものだ。
―――小説家『アルベール・カミュ』
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