沼地からやって来る
そして悪い子をさらって行く
―――ロシアの子守歌
それは…例えるなら銃を撃つために撃鉄を起こすくらいに至極当然な出来事だった。
【21:55】
《つきましては彼の保護に全力で当たるとともに…協力してくださった方には褒賞を…。》
「まさか…?!」
ネイトが潜伏しているモーテルの事務所で女主人はテレビに映った映像を見て目を見開いていた。
(どおりでおかしいと思ってたんだよ…!)
彼女は先ほどの光景を思い返していた。
ここからでも見えたホテルニューオトワの爆発から数分後の事だ。
「あのホテルニューオトワが…。生きてるうちにあんなことになるなんて…。」
長年、このD.U.のダウンタウンでモーテルを営んできた彼女。
治安の悪さは語るまでもなく銃声は毎日のように聞き週に一回は爆発が鳴り響くような場所だ。
そんな場末の宿屋を仕切る彼女からしてみればからしてみればホテルニューオトワはまさに別世界の建物だ。
だが、ホテルニューオトワもキヴォトスに存在するすべての建物が孕んでいるリスクから逃れられなかった。
正に盛者必衰、女主人も身をつまされる思いを感じていると…
「…ん?」
視界の端で動くものを感じた。
持ち前の警戒心からかホテルニューオトワから視線を外しそちらを見ると…
「…何やってんだい?」
そこには電話ボックスに入ろうとしているこの日唯一の宿泊客の姿があった。
「今時珍しいねぇ…。」
今時は学籍のない不良ですらスマホ、最悪ガラケーを持っているのが普通だ。
なので、あの古ぼけた電話ボックスが使われているのを見るのは本当に久しぶりだった
物珍しさからかしばらく眺めていると…
「…ん?」
彼女は違和感を感じた。
(ヘイローが…動いた…?)
一瞬、帽子を持ち上げて髪をたくし上げる動作をしたときヘイローが持ち上がったように見えた。
普通ヘイローというものは帽子もすり抜け常に一定の高さで浮遊しているはず。
そして…
(こんな夜に帽子を?それも…歩いて30秒もかからない電話ボックスにまで…?)
何の変哲もないその恰好にも違和感を覚え始める。
陽の光もないこんな時間に、それもそんな短距離の外出で帽子をかぶるのはおかしい。
(いったい何者なんだい…?)
女主人はしばしの間、電話ボックス内で通話をし続けている宿泊客を観察し続けるのであった。
その際、電話中の人物に悟られない様に
そして…あのナギサの記者会見だ。
(あの男…!ひょっとして…あのトリニティの生徒会長が探している…!)
あの爆破テロが起こるまでどのチャンネルでも見てきた。
今なら、確信が持てる。
(あの部屋にいるのは…『熱砂の猛将』…!)
自分の寂れたモーテルに止まっているのはただの客ではない。
正に…金の卵を産む鶏なのだ。
「…ひっひっひっ…!長年、こんなところで宿を開いていた甲斐があったね…!」
女主人はすぐに手近にあった固定電話に手を伸ばし…
「…もしもし、連邦生徒会さんかい?…今うちの宿にさっきテレビでやってたネイトってのが泊ってるよ。」
テレビに表示されていたネイトの情報提供用の番号に通報するのであった。
【22:03】
「はいこちら連邦生徒会…!」
「では、より詳細な場所を…!」
「どのような服装だったか…?」
ナギサの記者会見後、情報提供用に設けられた何台もの電話はひっきりなしに鳴り響き続けた。
やはり、トリニティのトップであるナギサの影響力はすさまじく彼女の口から出た『褒賞金』目当てに多くの住民が我先にと電話を掛けてきている。
が、その多くは『ひょっとしたらワンチャン』…という考えの明らかに出まかせな通報ばかりだ。
なので、あらかじめ応対のテンプレートが作られそれに沿わない情報は弾くような仕組みを構築している。
そのおかげか、何とか情報収集とその精査が間に合っているようだ。
連邦生徒会やヴァルキューレの職員たちが電話対応に励む中、
「住民のやる気が普段とまるで違いますね…!」
「普段の犯罪者の情報提供もこのくらい積極的に行われるといいのですが…。」
この場を任されているカヤとカンナがトリニティの財力のすさまじさに関心するやら現金な住民たちに呆れるやら複雑な表情で眺めていた。
逃亡犯相手の賞金稼ぎどが盛んにおこなわれているキヴォトスでもこんなに盛んな情報提供はなかなか見られない。
「それでカンナさん、有力な情報は何か入ってきてますか?」
「いえ、やはりいたずらや褒賞金狙いのでたらめなものも多く現状は…。」
「仕方ありません。それを見越した褒賞金ですからね。」
「ですが、やはり我々ではここまで広く情報を求めることはできなかったでしょう。」
元よりこのような情報提供は下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるに近い所がある。
精査の手間こそあれ必ず本命の情報が来ると信じ二人が待っていると…
「カッカンナ局長!!!こちらへ来てください!」
ヴァルキューレ生徒の一人が大声でカンナを呼ぶ。
「来たかッ!?」
「まさかもうですかッ!?」
カンナとカヤはすぐにその生徒の元に駆け寄る。
「どこからの通報だ!?」
「通報者はD.U.のダウンタウンのモーテルの経営者の女性、内容は自分が経営しているモーテルに宿泊中の男性がネイト社長であるとのこと…!」
「詳細な情報はありますか!?」
「爆発の20分ほど前に男性がタクシーに乗って来店し部屋をとり宿泊、爆発発生後に敷地内の公衆電話で長時間どこかと通話していたそうです…!」
「公衆電話で…?!」
「その際も何故か帽子を被り…頭上のヘイローが帽子に合わせて上下に動いていた…と…!」
今までにない詳細な情報の数々、そして…
「あちらが不慣れなために少々時間がかかりましたが…これがその男性を撮影した写真になります…!」
女性が送ってくれた写真には…真剣な様子でどこかに電話を掛けている男性が写っていた。
確かに一見すれば見ても見付かない。
だが…
「どうですか、カンナさん…!?」
「………確実…とは言えませんが…!」
『狂犬』と恐れられるカンナの嗅覚が…
「かなりネイト社長の特徴のある顔だと思います…!」
この男性がネイトであると嗅ぎ取った。
「…では、人員を派遣する価値はあると?」
「少なくとも見過ごすわけにはいかないと思います。」
「分かりました。カンナさん、ヴァルキューレ職員を直ちに向かわせてください。」
「承知しました、防衛室長。」
カヤも彼女の直感を信じこのモーテルに人員を派遣することに決定。
「こちら公安部局長尾刃カンナ。捜索中の人物の有力な目撃情報アリ。場所は…。」
カンナは傍に合った無線を手に取ってD.U.中のヴァルキューレ生徒に向け指令を飛ばした。
《…繰り返す、場所はダウンタウンにあるモーテル。付近にいる隊員は直ちに急行せよ。》
瞬く間にカンナの無線はD.U.中に広まる。
「あんなところまで!?いつの間に…!?」
「ここからだと結構かかるぞ!?」
「さっすがカンナの姉御!頼りになるっすね!」
これを受けて各地に出動していたヴァルキューレ生徒たちは一斉にそのモーテルを目指し始める。
…しかし、
「おいっ今の聞いたか!?もう見つかったらしいぞ!!?」
「ヴァルキューレめ!報酬を横取りする気かッ!?」
「行くぞ、テメェらッ!!!マッポなんかに先越されるわけにはいかねぇぞ!!!」
本来ならばデジタルで暗号無線となっているはずのヴァルキューレの無線。
だが、ある程度の勢力を持っている不良グループや犯罪組織などはその暗号信号を突破、若しくはパトカーから強奪した無線機でこの通信をキャッチ。
そんな者たちもトリニティが出す褒賞金目当てに一斉に動き始める。
そして、
「………行くぞ。」
D.U.に潜む者たちも動き始めた。
【22:12】
「まったく…いつになったら来るのか…!」
連邦生徒会に通報した女主人は苛立ちながらそう呟いた。
あの後、ヴァルキューレからかなり興奮した様子で『すぐに人員を派遣する』旨伝えられていたがなかなか来ない。
おそらく多くの情報が届けられているであろう中であの反応…
(つまり、やっぱりあの部屋の中にいるのは…!)
ほぼ間違いなくあの宿泊客はネイトである可能性が高い。
(きっきっきっ…これで褒賞金は私の物だよ…!)
内心ほくそ笑む女主人。
相手はキヴォトスに名だたる大企業の社長で褒賞金の出所はお嬢様学校のトリニティだ。
相当…いや、とんでもない大金が転がり込むことは間違いない。
そうして、今か今かとヴァルキューレの到着を待っていると…
ブロロロロ…
「やっと来たね…!」
モーテルの駐車場に一台のバンが入ってきて事務所の前に止まり中から白いコートを纏った10人、小規模一個小隊ほどの人員が下りてきた。
その中の3人が事務所内に入り、
「通報を受けてやってきました。情報にあった人物はどの部屋に?」
おそらく代表者であろう生徒が女主人に尋ねる。
「やっと来たね。待ちくたびれたよ。」
「お待たせして申し訳ありません。それで…今はどの部屋に?」
女主人の少しの文句に謝罪しながらも同じ質問を繰り返すが、
「その前にさ…ホレ。」
女主人はその生徒に手を差し出す。
「…なにか?」
「なにか?じゃないよ。教えてもらう前に渡すもん…あるだろ?」
どうやら褒賞金の前渡しを要求しているようだ。
「…それは後程、上の方から送られてくると…。」
その生徒はそう答えるも、
「おぉっと、勿体ぶるのはなしだよ?」
「ですから、我々にはそのような物は…。」
「なにも全額渡せって言ってるんじゃないんだ。ほんの気持ちを…ね?」
一切引かずに生徒に褒賞金の前渡しを要求する女主人。
「………後ほど必ず上の者からお礼は致しますので今はご協力を…。」
だんだんと生徒も苛立ちを覚えてが同じような答えを繰り返す。
「…そうかい。だったら…。」
それを聞き、女主人は手を引っ込めて代わりに内線電話を取り出し…
「怪しい奴が来たってあのお客さんに伝えて逃がしちゃおうかねぇ?」
目的の客を逃がそうと脅しをかけてきた。
「どうするんだい?ここで逃がしたら…あのトリニティの生徒会長はなんていうのかね?」
彼女は挑発気に生徒を見ると…
「………。」
「…っ!」
目の前の…いや、外にいる生徒たちの目から感情が消えた。
そしておもむろに…全員がガスマスクを装着する。
「なっなんだい…!?」
その代わりように女主人は気圧され…
「…分かった。そこまで言うなら…。」
生徒はポケットの中に手を入れたと思うと…
ゴシャッ
………1~2分後、
『………。』
バンに乗ってきた生徒のうち6人が音もたてずにモーテルの二階の廊下を進み…角部屋の一つ手前の部屋の前で立ち止まる。
そして、ハンドサインを交わし…
コンコンッ
「ネイトさ~ん、お迎えに上がりましたよ~。」
部屋をノックし中にいるであろうネイトに呼び掛けるが…
「………。」
一切返事が返ってこない。
「安心してください。貴方を保護しに来たものです。」
「………。」
もう一度呼びかけるが相変わらず帰って来るのは沈黙のみ。
だが…確かに中からは人の気配を感じる。
「………。」
そして、生徒は目くばせし傍らの生徒はそれに頷き…
「ッ!!!」
保護には明らかに不必要な道具…ドア破壊用の道具である『バタリングラム』を振りかぶり…
ドゴォンッ!!!
ドアに叩きつけた。
次の瞬間、
ズドゴアアアンッ!!!
「「~ッ!!?」」
叩き破ったはずのドアが『内側』から爆発。
ドアを叩き破ったものとポイントマンポジションの二人がその爆発で吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「なっ何!?なんでッ!!?」
「ふっフラッシュッ!!!」
あまりに予想外の出来事に度肝を抜かれるがそれでもすぐに室内に閃光手榴弾を投げ込み残りの四人が室内に流れ込んだ。
室内は爆発の影響かベッドが乱れ床にはトランクからこぼれたのか衣服が散らばっているが…ネイトの姿は見当たらない。
すると…
「もしもし、聞こえるか…ッ!俺の部屋にヤバい奴が入ってきたんだ…!」
奥の空間、おそらくはシャワールームから慌てた様子のネイトの声が聞こえてきた。
「アイツ…!」
「落ち着いて…!確実にやるよ…!」
逸る気持ちを抑え隊列を組みなおし音を殺してシャワールームへ近付いていく生徒達。
5mもない距離はどんどん縮まっていき、半分を切り…
カチリッ
床に散らばった衣服に足を乗せた先頭の者の足元でそんな音が聞こえたかと思ったら…
バシィィィィンッ!!!
「あああああああああああああッ!!!?」
『~ッ!!!?』
衣服を突き破り鋼鉄のアギト…『ベアトラップ』がその生徒の足を噛み砕いた。
一瞬のうちに床が鮮血に染まる。
「外してぇッコレ外してよおおおおッ!!!」
今まで味わったことが無い激痛に泣き叫び仲間に助けを求める。
「おっ落ち着…!」
後続の生徒がベアトラップを解除しようとする。
が、
バスバスバスバスッ!!!
「ぐギャッ!?」
自分たちがいる反対側の壁…つまりは角部屋の方向から壁を貫き弾丸が飛来し二番手の生徒を撃ち抜いた。
「ッとなりの部屋だッ!!!」
後続が即座に弾丸が飛んできた方向に向け自らも弾丸を叩きこむも…
バスバスバスバスッ!!!
「あガァッ!?」
別角度から再度弾丸を叩きこまれ意識を刈り取られる。
(なんでッどうして!?)
互いに相手が見えないはずなのに明らかにおかしい命中精度だ。
何か種があるはずと室内を確認すると…
(ビっビデオカメラ!?」
ベッドのクッションの隙間からこちらにレンズが向けられている一台のビデオカメラがあった。
「このッ!」
そのカメラにためらいなく発砲し破壊、あちらの目を奪い…
「うおおおおおおおっ!!!」
ベッド脇の壁に向け猛ダッシュ、
ボゴォン!!!
そのまま部屋の壁を突き破りとなりの部屋に突入し、
「死ィッ…!」
立ち上がる暇を惜しみ寝転がったまま標的がいるであろう方向に銃口を向けた。
が、
「ッ!?」
そちらには誰もおらず代わりに、
「おい。」
「~!?」
頭上から声が聞こえそちらを見ると…
「ハンコはこれでいいか?」
記者会見しているナギサの姿が写った小型ブラウン管テレビが自らの頭部目掛け振り下ろされるのが彼女が見た最後の光景だった。
――――――――――――――
バチバチッ
ビクッビクビクンッ
「悪いな、受け取り拒否だ。」
痙攣している人の体が生えた煙と破裂音を上げるブラウン管テレビを見て、ネイトはM4を構え直し先ほどできた穴から隣の部屋に入る。
バスバスッバスバスッ!
意識を失っている生徒にも念を入れて頭部に二発ずつ弾丸をお見舞いし、
「お願い…!これ外し…!」
バスバスッ!
今なおベアトラップに足を挟まれ大粒の涙を流していた者にも容赦なくヘッドショットを叩きこんだ。
室内に再び静寂が戻る。
時間にして…僅か1分足らずの戦闘だった。
(やはり刺客が一足早かったか…。)
別段、この事態に動揺するでもなくネイトは足元の刺客を調べ始める。
【21:57】
あのナギサの記者会見直後、
「…よし。」
ネイトはすぐさま準備していた。
(あの女主人はまず確実に通報したと思っていいだろう。)
縁も所縁もないモーテルの主人が自分のことを匿うなどという都合のいい考えは端から期待していない。
トリニティが自分の首にいくら掛けたかは知らないが…おそらく結構な値段だろう。
そんな臨時ボーナスが自分の宿にいるのだ。
たとえ僅かな可能性だと思っても…通報入れるはず。
なので…
(今逃げるとそっちの方が面倒だ。だったら…迎え撃ってやる。)
敵を知るべく、少々仕掛けを施すことにした。
まずは自分が今いる部屋のドアに持ち込んでいた『ボトルキャップ地雷』をくっつけ本来は動体感知式だが有線形式に変更、ドアが破られるほどの圧力がかかった場合にすぐに外れるようドアの四隅にワイヤーを繋げておく。
そして、ボトルキャップ地雷を覆うようにゴミ箱に掛けられていたビニール袋を水で満たしたものを装着する。
これによって爆風を逃がすことなくドアの方向へ指向させることが出来るのだ。
敵が突入してきた場合の出鼻をくじく準備ができた。
「あとは…。」
そしてネイトはあの爆発の瞬間を捉えたビデオカメラを枕に隠れるように設置する。
さらに…
「むぅん…!」
床に直径が50㎝はあろうかという大型の『ベアトラップ』を設置。
ファーハーバーに棲まう霧に侵された集団『トラッパー』が用いていた対猛獣・対人用のトラップだ。
それも刃の部分に細工が施され大出血を引き起こす『出血ベアトラップ』と呼ばれるものがネイトが仕掛けたものである。
その上にPip-Boyの中にあった雑多な衣服を被せ一見して分からないようにしておくことも忘れない。
そして…
「…よし繋がったな。」
ホテルに設置されている内線電話をシャワー室内に引っ張り込んでおきとスピーカー設定と隣の部屋の内線を呼び出しておく。
あとは電気を消しより状況を分かりにくくし…
ガラッ
「よいしょっと…!」
シャワールーム入り口近くの窓を開け外に出て窓枠や落下防止用の柵に足と指をかけて渡っていく。
シャワールームの小窓を超えそのまま隣の部屋の窓に取りつき、
ガシャンッ
静かにその窓を割って鍵を解除し隣の角部屋に潜り込んだ。
「さて…あとはどんな奴がここに来るかだが…。」
呼び出し中の内線電話をとり…迎撃準備はできた。
来るその時に備え、ネイトは戦闘準備に入るのであった。
【21:16】
予想通りやってきた刺客の大半を排除し終えたネイトは…
(並の不良やPMCじゃない…。)
この刺客たちの所属に疑問を覚えていた。
確かに自分の実力ならば圧倒できた。
奇襲さえ受け流せばホシノやシロコクラスでも十分に対処可能だろ言う。
しかし…さきほどビデオカメラ越しに確認した動きは明らかに訓練を…それも自分が普段行っているような『本格的』な戦闘訓練を積んでいる者特有の物だった。
一見してPMCでもない生徒がなぜこのような練度を持っているのか?
(装備は使い込んであるが…M1014にライフルはAR-15系統のクローンカスタム、ハンドガンもP226に統一…カイザーPMCでもそうやすやすとは持たせないような高級品ばかりだ。)
練度もさることながら各々の得物もかなりの上質なもの。
ご丁寧にどの銃もシリアルナンバーは削り取ってあるが…闇工場で作られたものではない正規品の武器だ。
高い練度に質のいい装備…
「こいつら…一体どこの回し者だ…?」
そう呟き、身元が分かるものはないかと意識を失った者たちのボディチェックを始めるネイト。
すると…
カンカンカン…!
階段を駆け上る金属音を察知、
(下にいた連中、足音の数は3人…。後詰も用意している辺り…訓練は積んでいるようだな。)
ボディチェックを切り上げネイトは壁の穴を通って隣の部屋に移動する。
それから数秒後、
「なっなんだ、これは…!?」
部屋の惨状を目の当たりにした援軍の三人は言葉を失う。
ドアが吹っ飛んだかと思ったら今度は悲鳴や破壊音が響き渡りそれらが止んだ。
そして来てみれば…一人残らずヘッドショットを食らわせられ意識を刈り取られているではないか。
しかも、一人は足をベアトラップで完全に砕かれている。
「…!二人はそいつらの様子を見てやれ…!私は隣の部屋を見てくる…!」
後続の二人にこの部屋の捜索を任せ隣の部屋に向おうとする。
「おい、しっかりし…!」
指示を受けた二人は床に倒れた生徒を抱き上げようとその体を持ち上げた…
ピィンッ
コロコロコロ…
「え…?」
その時、体の下からなんとも聞きなれた金属をはじいたような高音と…そこから転がり出すいくつかの鉄の球体。
それが何なのかを理解する間もなく…
ズバガゴオオオオウッ!!!
全ての窓を突き破り外に噴き出すほどの室内に爆炎が迸る。
ネイトがいた部屋は全てが焼き尽くされ…
「そっそんな…!?」
間一髪、隣の部屋に移れていた生徒のみがその業火から逃れることが出来た。
「アイツ…!」
怒りに燃えるその者が見る先には…大きく割れた窓があった。
「くそっ、逃げたかッ!?」
窓に駆け寄り外を見ると…もう標的の姿はない。
「こちら突入班、November逃走!繰り返す、とうそ…!」
追撃するため無線で外にいる仲間に警戒を呼び掛け合流するために振り返った。
そして、
「ぐげっッ!?」
となりの部屋から燃え広がった炎が浮かび上がらせた影にその喉を抑え込まれ…
ドスッ
「…誰が逃げたって?」
ガスマスクのアイシールドを容易に突き破り左目にディサイプルズ・カトラスが突き立てられた。
力が抜けたその者から手を放しディサイプルズ・カトラスについた血糊を白い服で拭きとりつつ…
「…あと一人。」
ネイトは顔色一つ変えずにそう漏らす。
――――――――――――――――
「おい、誰かっ!?返事をしろっ!?」
唯一残され事務所付近で警戒に当たっていた生徒は無線が急に途切れ誰も応答しなくなったことに必死に呼びかける。
「まさか…?!」
全員やられたというのか?
今まで共に『人殺し』の訓練を重ね精神も研ぎ澄ませ続けてきた同胞が?
あの辛く苦しく痛みが伴う日々を共に過ごしてきた同胞が?
「ッ!」
その生徒は怒りを溢れさせる目で吹き飛んだ角部屋と建物の隅に狙いを定める。
得物はリボルバーグレネードランチャー『M32A1 MSGL』。
「く、来るなら来い…!吹き飛ばしてやる…!」
この距離なら一方的に圧倒できる。
チャンスを逃すまいと目を凝らす生徒。
だが、
コツッ
「え…?」
うなじに何かが当たった感触を感じ…
ズドォンッ!!!
感じたこともないような衝撃が走り意識がそこで途絶えた。
「…いい物を持ってるな。貰ってくぞ。」
音もなく彼女の背後をとりゼロ距離でウェスタンリボルバーを叩きこんだネイトはM32A1MSGLと予備のグレネード弾を鹵獲する。
「これで10人…予備はまだ近くにはいないと考えていいな…。」
一先ず、刺客は排除しきったが油断できない。
おそらく、この者たちがあの巡航ミサイルの持ち主だろう。
とすれば…まだD.U.内に潜んでいる可能性もある。
そして、
ウゥゥゥゥ…!
パァンズドォン…!
パトカーのサイレンと銃声がこちらに近づいてきていた。
さらにはなにやらメガホンで叫ぶ声も聞こえてきている。
(おそらく…。)
ネイトがこの音の正体を予想する。
実は…
《公務執行妨害っすよ、アンタら!!!》
《うるせぇ!!!賞金は俺達のもんだ!!!》
《そう言うこと言ってる場合っすか!?人命が掛かってるんすよ!?》
《どうせテメェらでネコババする気なんだろぉが!!!》
《これでも食らえッ!!!
《あぁもう面倒っす!!!アンタら全員しょっ引いてやるっすよ!!!》
ネイト保護に向かうヴァルキューレと賞金目当てで殺到した不良集団。
その二つの集団がちょうどぶつかり合って互いが互いを先に行かせまいと銃撃戦混じりのカーチェイスに発展。
互いの組織で落伍者を出しつつこちらに迫ってきていた。
「………。」
早く逃げなければさらに厄介ごとが待ち受けているのは目に見えて分かっているが…
「…はぁ。」
ネイトはため息を一度付き、モーテルの事務所に入っていった。
そこには…
「うぅ…。」
顔中があざだらけになり痛むのか唸っている女主人がいた。
傍らにはおそらく小石が詰まっているであろう血の付いた布が転がっている。
「『ブラックジャック』…ここまで徹底しているとはな…。」
そう言いつつ、ネイトはカウンターを飛び越え…
「おい、大丈夫か?」
「い…医者…医者を…。」
「分かった。」
女主人の容態を確かめつつ、
「もしもし、救急?ダウンタウンのモーテルで従業員が襲われて重傷だ。大至急、救急車を。」
救急へ通報する。
そして、
「いいか、少しチクッとするぞ。」
Pip-Boyからスティムパックを取り出し彼女に投与する。
「はぁ…はぁ…。」
そのおかげか、徐々に女主人の苦悶に歪んでいた表情が和らいていった。
「あともう少しで救急車が来る。これからは顧客情報の管理をしっかりとな。それじゃ。」
はっきり言って自業自得な部分は多々あるがネイトにこれといった彼女への恨みはない。
軽い小言を挟み事務所からそそくさと退散しようとすると…
「ま、待ちな…。」
「どうかしたか?」
彼女は身体を持ち上げて壁に背を預けて…
「その机…二番目の引き出しを…開けな…。」
自分のデスクを指さしネイトに指示する。
「ここか?」
立ち止まって言われた通りの引き出しを開けると中にあったのは…
「…車のキーか?」
「アタシの車さ…。持っておいき、ガレージは通りの向こうだよ…。」
彼女のマイカーのキーだった。
「いいのか?帰って来る保証はないぞ?」
「構わないよ…。ちょうど買い替え時だったんだ…。手当と…あのガキども叩きのめしてくれたの礼さ…。」
「…そうか、じゃあ有難く借りさせてもらう。」
ちょうど足が欲しかったところだ。
襲撃者たちが乗ってきたバンを拝借することも考えたがほぼ確実に盗難車だろう。
ならば、ここは主人の厚意に甘えることにしよう。
ネイトはそのまま事務所を出て女主人が言っていたガレージの場所まで移動。
「…いいね。」
シャッターを開けるとどこにでもありそうなセダンタイプの乗用車があった。
これならばどこへでも紛れ込めそうだ。
「トラップの設置も…なし。それじゃ…行くとしよう。」
要点を抑えた安全チェックを済ませネイトは車にエンジンをかけ夜のD.U.の街へと消えていくのであった。
戦いには戦術が要る。戦術は道徳から開放されたものであり、卑怯もなにもない。
―――軍人『秋山真之』