Fallout archive   作:Rockjaw

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よう オレだぜ
―――『忍者と極道』講男會傘下長澤組若頭『殺島 飛露鬼』


D.U. Urban Highway Rampage

【23:14】

 

「防衛室長、彼の行方は…?!」

 

「あれ以降、有力な目撃情報は…。」

 

ゲヘナ・ミレニアム・アビドスの会談を終えたリンは必死の形相でネイトの行方を探っていた。

 

交渉の結果、なんとかアビドスの部隊派遣の時間は稼げた。

 

あとはそれまでにネイトを保護できればその部隊派遣は回避できるが…

 

「私達に残された時間は決して多くありません…!」

 

猶予はおよそ6時間、悠長に構えていたらあっという間になくなってしまうほどの猶予しかない。

 

だというのに…ネイトの行方は一向につかめない。

 

彼自身が隠密にも長じている人物であるのもそうだが…

 

「届く情報はどれも確度が低くヴァルキューレや協力部隊を派遣するには根拠に乏しいものばかりで…。」

 

ここにきてナギサの会見が足を引っ張り始めた。

 

褒賞金は確かに情報提供の『量』その物の増加には大いに寄与している。

 

が、ネイトが逃走し姿をくらました今ではその『量』が連邦生徒会にとって重しに成り変わっていた。

 

ヴァルキューレからの情報によればネイトが潜伏していたモーテルの主人が彼に車両を提供したらしい。

 

詳細な情報を得ようにもその主人は負傷し、現在は病院で治療中のため聞き取り調査も出来ない。

 

結果、ネイトの確実な行方を探ることがさらに困難になってしまったのだ。

 

「なんとしても彼をアビドスの部隊が到着するよりも早く見つけ出さなければならないというのに…!」

 

このままでは時間をいたずらに浪費し…アビドスの『救出部隊』がD.U.にやって来てしまう。

 

連邦生徒会としてはなんとしても避けたい事態だがこれ以上捜索の手を広げることもまた困難なことである。

 

リンが頭を抱えていると彼女たちがいる部屋のドアが開かれ…

 

「失礼します。」

 

凛とした声と共に四人の生徒が入室してきた。

 

「あ、貴方たちは…!?」

 

「なぜここに…!?」

 

彼女たちの姿を見て固まるリンとカヤ。

 

その四人は彼女たちの前に整列し、

 

「SRT特殊学園所属1年生『RABBIT小隊』を率います小隊長『RABBIT1』の『月雪ミヤコ』と申します。」

 

「同じくSRT特殊学園所属1年生『RABBIT2』の『空井サキ』!」

 

「『RABBIT3』の『風倉モエ』で~す。」

 

「ら…『RABBIT4』の…か『霞沢ミユ』…です…。」

 

自己紹介と共に挙手の敬礼の姿勢をとった。

 

「…何をしにここまで来たのですか、皆さん?」

 

『面倒な生徒たちが来た』と内心毒づきながらもリンは冷静に応対する。

 

『SRT特殊学園』、連邦生徒会長直属の学園組織でありあらゆる各園自治区への介入を許されたキヴォトスにおける法執行機関の最高学府だ。

 

所属する生徒たちは全員『選りすぐり』の戦闘能力を有したエリートばかりでその練度と士気、装備の質はキヴォトスではトップクラスと言っていいだろう。

 

一年生の彼女たちもそれこそ並大抵の生徒では太刀打ちできないほどの強さを秘めている。

 

そんな彼女たちがなぜリンたちの前に現れたかというと…

 

「ハイッリン主席行政官。私達『RABBIT小隊』は現在逃亡中の『ナサニエル・マーティン』氏の捜索参加を志願しにまいりました。」

 

隊長であるミヤコが端的にここにやってきた理由を述べる。

 

「私達はわずかな痕跡から対象を探す『追跡訓練』も行っています。現状、ナサニエル氏を追跡できるのは私達だけかと思います。」

 

静かながらも自分たちの能力に絶対の自信をにじませる彼女の言葉。

 

「リン主席行政官、一たびご命令いただければ私達が必ず…。」

 

だが…

 

「却下です。」

 

リンは彼女が言い終える前にその志願を却下した。

 

「ッなっなぜッ!?私達だったら絶対にあの男を見つけて!」

 

「RABBIT2、落ち着いてください。」

 

「でッでもミヤコッ!」

 

「今はRABBIT1です。いいですから。…なぜ、認めてくださらないのですか?」

 

リンに食って掛かろうとするサキを諫めつつミヤコは彼女に理由を尋ねる。

 

「一つに貴方たちはそのような任務に就かせることを想定された部隊ではありません。相手が重犯罪者ならともかく…あくまでも『一般人』である彼に特殊部隊を差し向けては連邦生徒会の沽券に関わります。」

 

「こ、沽券…?!今はそんなことを気にしている場合じゃ…!」

 

「二つ目にそもそもの管轄の問題です。現在爆撃事件の捜査は防衛室、ネイト氏の捜索はヴァルキューレを筆頭とした各校の支援要員が主に行っています。そこに貴方方を組み込めば指揮系統に混乱が生じるでしょう。」

 

「みてる感じもう指揮系統どうこう言ってられる状況じゃないんじゃないですかぁ~?」

 

「…三つ目、これが一番の要因ですが…貴方方の指揮権は『連邦生徒会長』が保有しています。彼女がいない今、代理であっても私の独断で貴方達を現場に出すことは越権行為に当たります。」

 

「え、越権行為は…ダメですもんね…。」

 

あくまで『出来ない理由』を冷静に説明するリン。

 

SRT特殊学園は確かに精鋭無比、一たび動けば大きな力になるだろう。

 

しかし、問題はその力があまりにも大きすぎるということだ。

 

彼女たちにしか配備されていない装備もありその威力は計り知れない。

 

もしそれが狙いを外れれば…その被害は甚大なものになるだろう。

 

その責任を負うべき連邦生徒会長も今はいない。

 

だから、連邦生徒会はSRT特殊学園の運用に非常に後ろ向きなのだ。

 

だが、

 

「ですが、情報では非常に訓練された所属不明部隊の存在も示唆されています。ヴァルキューレがもしその部隊に襲撃されるような事態になったら…。」

 

ミヤコはネイトが襲撃されたことを持ち出し食い下がる。

 

正確な強さは不明ながらヴァルキューレの一般生徒では太刀打ちは難しいだろう。

 

戦力増強という面でも自分たちの優位性を挙げるが…

 

「今は戦力ではなく『情報』が必要なのです。」

 

「…っ!」

 

「それに…貴方達は上級生の許可を受けてこのような行動をとっているのですか?」

 

「それは…。」

 

再びリンに痛い所を突かれ沈黙するしかなかった。

 

そう、ミヤコたちの行動は自分たちの意志だけでやってきた独断だ。

 

SRTの一員としては…あまり褒められたものではない。

 

「…皆さんのお気持ちは重々分かりました。ですが、今は我々に任せて…。」

 

ここでカヤがリンとミヤコたちの間に入り場を収めようとする。

 

その時だった。

 

「先輩、リン先ぱぁぁぁぁい!!!」

 

連邦生徒会『交通室』所属のモモカが部屋に飛び込んできた

 

「今度はなんですか、モモカ!?」

 

「てっテレビを!テレビをつけて!」

 

あまりにも泡食っているモモカの剣幕に押されリンがテレビの電源を付けると…

 

《報道ヘリからこんばんは、クロノス報道部川流シノンです!!!ご覧ください、現在、封鎖中であるはずD.U.都市高速を無数の改造車が猛スピードで駆け抜けていっています!!!》

 

ヘリに乗ったシノンが眼下を駆け抜ける無数の車両の群れをリポートしていた。

 

《全ての車両やバイクが違法改造されている『不良スケバン車』のようでここからでもエンジンの爆音が届いています!どうやらこの暴走行為はD.U.にいる不良たちが巻き起こしているようです!》

 

シノンの合図でカメラが動きその車列の先頭付近とそこから少し前方を走る一台のセダンにピントが合わせられると…

 

《そして、この車列の先頭をご覧ください!!!なんと、サンクトゥムタワーの機能停止の際に脱獄した『七囚人』の一人である『栗浜アケミ』が先頭を走り行方不明となっていた『ネイト氏』を追撃しているようですッ!!!》

 

『なぁッ!!?』

 

自分たちが血眼になって探していたネイトとそれを追いかける七囚人であるアケミが映し出されたではないか。

 

【23:18】

 

事の発端は…一台の古いセダン車から始まった。

 

場所はD都高デトコーの中でもはずれの場所にある乗り口である『低棟木IC』。

 

「D.U.の街中は大変なことになってるようっすねぇ…。」

 

「シフトでここに来ていたことを幸運に思うべきか否か…。」

 

そこでは数人のヴァルキューレ交通機動隊の生徒がバリケードを設置していた。

 

数時間前に発令されたD.U.における厳戒態勢。

 

この影響によってD都高デトコーは防衛室やヴァルキューレの移動のスムーズ化のために全面封鎖された。

 

今やD.U.の大動脈を走る一般車の姿はなく寂しい姿をさらしていた。

 

そして、ここ低棟木ICがそんなD都高デトコーの中でもはずれにある為か一層閑散としている。

 

一般道もこの時間は交通量が少なく検問による渋滞もない。

 

それでも警備のために居なければならないのだが…

 

「…ん?」

 

ヴォオオオ…!

 

「なんだ?」

 

何やらこちらに近づいてくるエンジン音が聞こえてきた。

 

何事かと注視していると…こちらにかなりの速度で迫ってくる一台のセダン車が現れた。

 

「ちょちょちょ!?一体なんだ!?」

 

「止まってー!止まってくださーい!!!」

 

慌てて誘導棒を振るいその車両に制止を呼び掛けるヴァルキューレ生たち。

 

その制止が通じたのか、

 

キキィーッ!!!

 

セダンは急ブレーキをかけてバリケードの間近で停止。

 

「だっ駄目ですよ!今この先は全面通行止め…!」

 

その車両に駆け寄りこの先には進めないことを告げるが…

 

「え…!?」

 

運転手の姿を見て驚愕した。

 

なぜなら、

 

「頼む、行かせてくれ!!!」

 

そこに居たのはD.U.全域で顔写真が手配されている最重要保護対象のネイトその人だったのだ。

 

「ネッネイトさん!?どうして…!?」

 

「いいから先に行かせてくれ!!!奴らに追われてるんだ!!!」

 

「追われてるって一体何が!?」

 

事情を尋ねようにも相当焦っているようで要領を得られない。

 

その時だ。

 

ヴォオオオオオンッ!!!

 

先程よりも大きく、明らかに数も桁違いのエンジン音が聞こえてきた。

 

再び何事かとそちらを見ると…

 

「あっあれは!!?」

 

「な…なんて数の不良スケバン車!?」

 

複数の車線を埋め尽くすように不良スケバン車の車列がこちらに迫ってきているではないか。

 

目的は…もう語るまでもないだろう。

 

「行ってください!!!ここは我々が!!!」

 

「バリケードと料金所を開けろ!!!彼を通せ!!!」

 

「すまん!!!」

 

ヴァルキューレ生は即座にネイトを逃がすために彼が乗るセダンを通し、

 

「バリケードッいや、人員輸送車で封鎖するんだ!!!」

 

不良スケバン車の侵入を防ぐためにとれる手段は全てとる。

 

「だっ誰も通すな!彼を護るんだ!」

 

警察ヴァルキューレ魂を見せてやる!!!」

 

自分たちはヴァルキューレ、不良相手に退くことは許されない。

 

だが、

 

「全てブッ破壊こわしなさい、我が"愛車アイボウッ…!」

 

先陣を切って巨大な不良スケバン車が一切減速せず特攻ブッコみ…

 

ガッシャアアアアアアアンッ!!!

 

『うわあああああああ!!?』

 

人員輸送車を吹き飛ばし進路を確保、その後を他の不良スケバン車が次々とD都高デトコーになだれ込んでいった。

 

「い、今の先頭の不良スケバン車に乗っていたのって!?」

 

「間違いない、七囚人の『栗浜アケミ』だ!!!きっ緊急ッ緊急!!!」

 

すぐさま、ヴァルキューレ生達は緊急配備をかける。

 

そして、ものの数分で…

 

ヴォオオオオオンッ!!!

 

ギャギャッ!!!

 

パラリラパラリラッ!!!

 

D都高デトコーはまさに狂乱の濁流と言ってもいい様相を呈していた。

 

エンジンの爆音に耳を劈くスキール音、果てにはクラクションやラッパの音まで木霊する中、

 

「ひゃっほおおおおおおお!!!疾走トバせ、疾走トバせええええええ!!!」

 

D都高デトコーをこんな風に爆走できる日が来るなんてよォォォォ!!!」

 

「"暴走ユメ"だ、あたし等間違いなく"暴走ユメ"の中にいるんだ!!!」

 

それらを生み出す運転手であるスケバンたちは笑いながら喜びの涙を流していた。

 

無論、どの車も『制限速度?なにそれ美味しいの?』と言わんばかりの猛スピードで車線など関係なしに飛ばしまくっている。

 

D都高デトコーで集団暴走、それはキヴォトス中の不良たちには永久不滅のズット憧れだった。

 

今日日、こんな大都会の都市高速道路が車で埋まらない日はない。

 

だからこそ…憧れる。

 

一台二台で暴走しようものならすぐに捕まってしまう。

 

だからこそ…羨望する。

 

元より不良集団は寄り合い所帯、一枚岩ではないので統制のとりようがない。

 

だからこそ…夢見る。

 

そんな彼女たちが今宵…その"暴走ユメ"の只中に居られる。

 

今の彼女たちには普段は煩わしい筈のオービスの点滅もまるで自分たちを彩る舞台演出の様に思えた。

 

さらに…

 

「あぁッ"幻想ユメ"なら醒めないでくれ!!!アタシらの"願いユメ"が二ついっぺんに叶うなんて!!!」

 

「バカヤロウッ"幻想ユメ"なんかじゃねぇ!!!あのお人は…確かにあそこにいるんだッ!!!」

 

「"絶頂タマンネ"えええええぜっ!!!こんな夜、もう二度と味わえるわけがねぇええええ!!!」

 

彼女たちの"希望ユメ"はもう一つ叶っていた。

 

自分たちがいる場所よりもはるか先、一際大きな改造車がアスファルトを粉砕せん勢いで爆走していた。

 

様々な重火器がマウントされ見るからに分厚い装甲が施されたとびっきりの超強化改造フルカスタムがされた最上級ハイエンド不良スケバン車だ。

【挿絵表示】

 

「おぉッ…!あそこに見えるは伝説の不良スケバン車『禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャ』ッ!!!」

 

心底不可信マジアリエネえッ!!!その姿はおろかこうして爆走トバしてるところが見れるなんて!!!」

 

車両そのものですら彼女たちにとっては憧れの的だった。

 

そして…その車を操るに値する人物はキヴォトス広しと言えどたった一人…

 

「"贈呈ささげ"よう、アタシ等にできる最大限の心底マジ"感謝サンキュ"を!!!」

 

「アタシらの"頂点サイキョウ"は今ここに!!!」

 

「"伝説アネサマ"あああああッ!!!どこまでもお供しますぜええええ!!!」

 

所属も何もかも違う不良たちが悉く崇める不良界スケバンかいの"神性Charisma"…

 

「うふふ…なんてすばらしい夜なのでしょうか…!」

 

七囚人が一角、『伝説のスケバン』栗浜アケミその人である。

 

口調こそいつものお嬢様然したものだがその表情はやはり歓喜に満ち満ちた凶暴な笑顔を浮かべていた。

 

数十分前のこと、

 

ズチャッ

 

「ごきげんよう、ネイト様。ご無沙汰しておりますわ。」

 

「…やぁアケミ、こんばんは。」

 

D.U.の様子を眺めるネイトの背後に現れたアケミ。

 

「まさかこんなに早く来てくれるとは思わなかったぞ。」

 

「偶然、D.U.に潜伏していましたので。それに貴方様の連絡ならば喜んではせ参じますわ。」

 

ホシノとコンタクトをとる前、ネイトは以前彼女から貰った直通の連絡先を使いアケミと待ち合わせをしていたのだ。

 

「それにしても随分と災難な目に遭われているようで…。」

 

「勘弁してほしいものだよ。これでも社長業やってる一介の退役兵士なのにな。」

 

「…それで私めに一体どういったお願いがありまして?」

 

『お前のような社長がいてたまるか』というツッコミは野暮だと思いアケミはネイトが自分を呼び出した理由を尋ねる。

 

電話口では傍受の心配があり詳細は聞けなかった。

 

そんな彼女にネイトは向き直り…

 

「実は二つ頼みがある。アケミ…今晩だけ『伝説のスケバン』として現役復帰してくれないか?」

 

単刀直入にアケミへ七囚人としてではなく『伝説のスケバン』としての復活を求める。

 

「!…理由をお尋ねしても?」

 

「今俺は大きく三つの派閥から狙われている。一つは連邦生徒会率いる有志連合。二つ目は褒賞金に釣られてやって来る不良集団。そして三つ目が…それらのどちらにも属していないであろう所属不明の精鋭集団だ。」

 

ネイトの生存の絶対条件はこの三派閥の人員から逃げのびることだ。

 

だが、いかにネイトでもキヴォトスのそこら中に存在する不良集団の目を掻い潜るのは不可能だ。

 

ならば…

 

「…なるほど、私の影響力を用いその三派閥を切り崩そう…ということですわね。」

 

「そういうことだ。」

 

アケミの『伝説のスケバン』という看板を利用し不良集団の注目をそらせば派閥は事実上二つにすることが出来る。

 

用件は分かった。

 

しかし…

 

「ですが…いかに私とて何の手立てもなしに大勢のスケバンたちを集めることなど不可能ですわよ?」

 

確かにアケミの知名度はすさまじいがそれを十全に発揮するにはそれ相応の『受け皿』が必要だ。

 

ネイトの頼みなら一肌脱ぐ覚悟はあるが準備もなしにそれはできないことは彼女自身がよく分かっていた。

 

すると…

 

「…舞台ステージならとっくに出来上がっているぞ?」

 

「え…?」

 

「あるじゃないか…!アケミ、君に相応しいキヴォトス最長の舞台ステージが…!」

 

彼女に向き直り大仰に両手を広げてそう言い放つネイト。

 

「あるじゃないか…!どれだけ人を詰め込んでも迫ることのないとびっきりの舞踏会場ディスコが…!」

 

「…っまさか…!?」

 

目の前にいる自分よりも二回り小さい筈の大人。

 

だが、そんな彼がアケミにはまるで自分よりはるかに巨軀デカブツですべてを支配せんばかりの影の支配者キングメーカーのように見えた。

 

その言葉はあまりにも甘く…

 

「アケミ、協力してくれるのなら…俺が連れて行こう…!その舞台ステージへ…!」

 

あまりに香しく…

 

「俺が先頭に立ち…俺がエスコートしよう…!誰にも邪魔をさせない…夢の舞台ステージへ…!」

 

あまりに刺激的で…

 

「俺がアケミに…いやキヴォトス中のスケバンたちに"暴走ユメ"を魅せてやる…!」

 

あまりにも狂気じみていて…

 

「アケミ…今宵、この瞬間より…D都高デトコーは君達スケバンの"貸し切りlock-in"にしてやろう!!!」

 

耳を塞ぐことなどできなかった。

 

同じような人物をアケミは知っている。

 

ニヤニヤ教授、裏社会のコンサルタントである彼女もこのような口上を使う場合がある。

 

しかし、ニヤニヤ教授とネイトとでは決定的に違った。

 

ネイトの言葉は…あまりにも熱く、まるで黄金でできた山のように眩しかった。

 

そんなネイトのスピーチを聞き終え…

 

「…フフフッ…!」

 

アケミは湧き上がる興奮に身を震わせた。

 

かつての時代でもできなかったD都高デトコー貸し切り。

 

それを…彼は実現して見せようというではないか。

 

出来るはずがない…と言えるわけがない。

 

事実…D都高デトコーは空っぽ、一般車に気を使う必要もない。

 

そんな夢舞台を…自分達スケバンが独り占め…?

 

「あぁ…!本当に脱獄し…貴方様に逢えて私は幸せ者ですわ…!」

 

天使の歌声か悪魔の囁きかも分からない。

 

だが…こんな狂乱の夜だ。

 

踊り狂うのも…悪くない。

 

「いいでしょう…!不肖、栗浜アケミ…貴方様の"お誘いキョウソウキョクにお付き合いいたしましょう…!」

 

アケミは満面の笑みで答え自身のスマホを取り出し…

 

「ごきげんよう、伝説わたくしですわ。」

 

僅かに一言、そう発した。

 

たった一言、その"生けるリアル伝説レジェンドの一声"は瞬く間に全キヴォトスの不良スケバン共の"エンジン"に火をつけた。

 

その結果…

 

「あぁ…本当に"幻想ユメ"を叶えてくださるなんて…!」

 

僅か30分にも満たない間にこれほどの同胞がキヴォトス中から集まり夢のD都高デトコーを我が物顔で爆走トバしている。

 

まさに夢見心地グッドトリップだ。

 

そんな上機嫌に愛車『禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャ』を操縦していると…

 

「姐様ー!!!アケミの姐様ー!!!」

 

禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャに並走するように一台の不良スケバン車が並走し運転手のスケバンがアケミに声をかけてきた。

 

「あら?」

 

アケミとしては声を掛けられたので何の気なしにそちらに視線を向けただけだったが…

 

「~ッ!!!あたしを視線頂いた!!!視線頂戴みてくれたぞ!!!」

 

それだけでそのスケバンは感極まって大興奮。

 

「んな訳ねぇ、うち等の車を見たんだ!!!」

 

同乗している他のスケバンがそれを否定するも、

 

「いや、ホントにアタシと視線激突めがあったんだ!!!」

 

歓喜するスケバンは止まらない。

 

「対向車線を見たんだよ!!!」

 

「違うッ!!!よっしゃ、姐様が期待してくれてるんだ!!!」

 

同乗者の言葉など聞こえなくなるほどボルテージが上がり…

 

「あの車に相応しい『馬』はうちらが捕まえるぜええええ!!!」

 

アクセルを踏みしめアケミの車を追い抜き先頭に躍り出る。

 

「あら、随分と早漏せっかちな子ですわね。」

 

その車を微笑ましそうな表情で見送るアケミだが…

 

「ですが…その『鼠』さんは…。」

 

「ヒャッハー!!!手綱をかけてやるぜぇぇぇ!!!」

 

アケミの車の前を走るセダンに迫る不良スケバン車。

 

スペックも何もかも根本から違い相手にすらならないはずだが次の瞬間…

 

キィィィィッ!!!

 

「んなッ!?」

 

突如としてセダンはスピンを始める。

 

一瞬の出来事だった。

 

ズドォンズドォンッ!!!

 

セダンのフロントが向き直る寸前でネイトが右手に握ったウェスタンリボルバーを発砲。

 

ボォンドォンッ!!!

 

「のおおおおおお!!?」

 

「た、タイヤを撃ち抜きやがった!?」

 

左側の前後のタイヤにそれぞれ2発ずつ.44Magを叩きこみバーストさせた。

 

キィィィィッ!!!

 

ネイトのセダンはそのまま一回転し、

 

キキィッ!!!

 

元通りの方向を向き直って再び走行を再開した。

 

虚実ウッソだろ!?あれが型落ちオンボロ一般バンピー車の動きかよ!?」

 

「あッあの野郎なんて運転技術ドラテク照準エイムしてやがる!?」

 

「クソッこの車はもうだめだ!他のに移るぞ!!!」

 

片側のタイヤを潰されたため車の速度はどんどん低下しハンドルも切りにくくなる。

 

「おい、大丈夫か!?早く飛び移れ!」

 

「まだまだこれからなんだからなッ!!!」

 

それを察知した周囲の車両が次々と乗員を回収し自分の車に押し込んでいく。

 

「お、お前も早くッ!!!」

 

「くそ、ハンドルが…!」

 

残るは運転手だけだが下手にそのままにすれば後続が危険にさらされるためギリギリまで粘っていると…

 

「ごきげんよう。」

 

「え…?」

 

突如、自分より高い位置から声を掛けられたかと思うと窓枠を掴まれ…

 

「私の車にお乗りになりますか?」

 

「ちょぉっ!?」

 

車ごと自分が浮かび上がった。

 

仰天しながら声の主を確かめると…

 

「うふふ…残念でしたわね。」

 

「あッアケミ姐さまっ!!?」

 

禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャ』を操るアケミが『左手』一本で車を持ち上げていたのだ。

 

そして…

 

「ちょうど御者サブドライバーが欲しい所でしたの?貴方の車がもう駄目なのなら…お願いできないかしら?」

 

彼女に自分の車に乗らないかと持ち掛けてきた。

 

「い、イインすか!?」

 

「えぇ、貴方がよろしければですが…。」

 

「ま、心底有難マジアザっス!!!ゆっ夢みたいっす!!!お邪魔いたします!!!」

 

まさかの憧れのアケミの、しかも伝説の不良スケバン車に一緒に乗れるとあってさらに号泣しながら乗り込んでいく運転手。

 

「ずりーぞ、テメェ!!!」

 

「代われっイヤ代わってください、お願いします!!!」

 

「くっそー免停じゃなけりゃあああああ!!!」

 

周りからの怨嗟の籠った羨望の声が響き渡った。

 

「いらっしゃいませ。」

 

アケミは微笑みながら彼女を歓迎、

 

ポイッ

 

ガッシャアアアアアンッ!!!

 

まるでボールでも投げるように無人の車をこれまた誰もいない対向車線に放り投げた。

 

「さぁ夜はまだ長いですわ。この暴走ユメの時を存分に愉快たのしみましょう?」

 

「うっす、姐様!!!」

 

アケミはハンドルを握り直し同乗者となった一人のスケバンと共にネイトを追いかけるのであった。

 

《ご、ご覧になりましたか!?不良スケバン車が放り投げられました!それも片手一本で!!!》

 

その様子は克明にカメラに収められシノンによって全キヴォトスに発信されていた。

 

アケミからしたら児戯程度の行いだがキヴォトス人基準でも常識外れの荒業。

 

《正に剛腕、正に怪力!!!かつてヴァルキューレを恐怖のどん底にまで追い込んだ『伝説のスケバン』栗浜アケミがあそこにいるということは最早疑いようがないでしょう!!!》

 

それこそがこの暴走行為の首謀者が『伝説のスケバン』であることを如実に物語っていた。

 

「なっなぜ七囚人がネイト社長を…!?」

 

まさかの予想外の大犯罪者の登場に言葉を失うリンたち。

 

当然だ。

 

七囚人の中でもとびっきりの被害を出した栗浜アケミがこのタイミングで姿を現しネイトを追いかけている。

 

何の冗談かと言いたくなるような事態だが…

 

《あぁっとようやくヴァルキューレのパトカーが…えッ!?すっスケバンです!!!スケバンがパトカーに箱乗りしていますっ!!!》

 

そこへ更なる不良スケバン車やヴァルキューレから強奪したパトカーに乗ったスケバンも合流。

 

さらにどんどんD.U.中の不良が集結し車列は加速度的にその規模を成長させていっている。

 

「見てっ!さっきモモッターにこんな投稿が!!!」

 

モモカがそう言い見せたスマホの画面にはこう表示されていた。

 

立ち上がりなさい、抑圧された不良たちよ。

今宵、私『栗浜アケミ』はキヴォトス全不良の夢を叶えましょう。

ここに今晩限りの一大不良集団、"暴走禍撃団"『侘骸塚タカラヅカ』の結成を宣言いたします

志を共にする方々はとびっきりのドレスアップをしてD都高デトコーに集結してください。

そして、キヴォトス随一の『猛将』をリードしキヴォトスに最高のショーを見せつけましょう。

 

そこにはアケミの写真と共にスケバンたちに向けた檄文が表示されていた。

 

そして、それは猛烈な勢いで拡散され続けている。

 

「リン先輩、D.U.のあちこちの料金所が突破されてる!!!もうオービスが処理しきれなくて爆発しそうだよ!!!」

 

この騒動は何もテレビに映っている場所だけではない。

 

アケミの檄文に触発された各地のスケバンたちがD都高デトコーに集結しつつある。

 

「なっなぜこの暴走行為を察知できなかったのですか!?」

 

「リン先輩が厳戒態勢出して市内にヴァルキューレを総動員してたからでしょ!?連中、郊外から進出してきたから見逃してたんだよ!」

 

「たッ直ちにヴァルキューレ機動隊を都市高速に向かわせて制圧と栗浜アケミの捕縛を…!」

 

これに対しリンはこの騒動の終息を命じるが…

 

「しっしかし、ネイト社長がいるんですよ!?この状態でヴァルキューレが制圧に乗り出せば彼も巻き添えになってしまいます!」

 

カヤはソレに異を唱える。

 

この暴走の先頭を走っているのはあのアケミ率いる不良集団から逃れているネイトだ。

 

今迂闊にアケミ制圧に動こうものなら確実に彼を巻き込んでしまう上にバリケードの設置もおぼつかない。

 

「で、ではどうすれば…!?」

 

「彼をもっと引き離させることが出来れば…!」

 

せっかくネイトを見つけ出せたのにこれではまるでライオンに追われる鼠も同然だ。

 

すると、

 

「リン主席行政官、今一度申し上げます。私達に出動の許可を。」

 

その様子を見ていたミヤコが再度出動許可を要請する。

 

「クッ…!」

 

リンもこれには迂闊に却下を出せない。

 

なにしろ事態は切迫しており七囚人の一角まで姿を現した。

 

相手は『栗浜アケミ』、ヴァルキューレでは被害が大きくなるだけだろう。

 

しかし、SRTならば?

 

事実、SRTはかつて同じ七囚人の一人である『災厄の狐』狐坂ワカモを逮捕している。

 

決断に迫られるリンだが…

 

「失礼します。」

 

再び、この部屋に来訪者が現れた。

 

視線を向けると…

 

「申し訳ありません、七神行政官。後輩たちを迎えに参りました。」

 

セーラー服を着て赤いヘッドセットを装着した狐の耳を持った生徒が敬礼の姿勢をとっていた。

 

そこに居たのはミヤコたちにとっての『憧れ』の存在。

 

かつて『災厄の狐』を4人小隊で『逮捕』した部隊があった。

 

その名も『FOX小隊』、SRT最高の称号を得ている精鋭中の精鋭。

 

彼女はその精鋭部隊を率いる『隊長』、

 

「ユ、ユキノ先輩…?!」

 

「月雪小隊長、勝手な行動は厳に慎むように指導しているはずだが?」

 

『七度ユキノ』、『完璧』と評されるSRTを代表する生徒である。

 

「しっしかし、たった今『七囚人』が現れたのですよ…!?今こそ私達…いえSRTの総力を挙げて…!」

 

ミヤコは表情を固めながらもユキノに事態の緊急性を伝えるが…

 

「…誰かにそう『命令』されたのか、月雪小隊長?」

 

「そっそれは…!」

 

まるで一切感情の籠らない言葉で尋ね返され言葉に詰まる。

 

「…わたしたちは任務を遂行する武器だ。勝手に動いてはそれはもう『武器』じゃない。」

 

「ぶ…武器…。」

 

「そう、それこそが私達SRTの存在意義だ。それをはき違えるんじゃない。」

 

続く冷徹な言葉にミヤコはおろか他のRABBIT小隊の面々も口をつぐむ。

 

「…今回のことは追って処分が下るだろう。今は待機場所に戻るんだ。」

 

「…了解、RABBIT小隊は待機任務に戻ります…!」

 

悔しそうに表情を歪めミヤコは部屋を後にしていった。

 

「お、おいミヤコ!いいのか、これでッ!?」

 

「くひひ…待機場所でこの『壊滅的』な騒動を楽しむとしますかぁ。」

 

「し、失礼します…。と、突然やって来て…すみませんでした…。」

 

他のRABBIT小隊の面々も彼女に続いて去っていった。

 

「…七神行政官、不知火室長。後輩が出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした。」

 

残されたユキノはリンたちに深々と頭を下げる。

 

「…いえ、彼女なりにキヴォトスのことを思っての行動です。」

 

「処分は考えていません。頭を挙げてください、ユキノ小隊長。」

 

リンとカヤも気にしていないと彼女に伝えた。

 

「寛大なお心、ありがとうございます。では、わたしもこれで失礼いたします。」

 

そう答え、ユキノも去っていった。

 

「………。」

 

「どうかしましたか、防衛室長…?! 」

 

「いえ、何も…。ともかく今はこれ以上の都市高速への不良生徒の侵入を防ぐのが最優先かと。防衛室の機械化部隊を主要なICに派遣します。」

 

「必要ならば支援要員にも協力を求めてください…!」

 

カヤとリンたちは自分たちにできる方法でこの大暴走に対処するのであった。

 

【23:55】

 

連邦生徒会をも畏れぬスケバンたちの大暴走は未だ衰えるどころかその勢いは増加する一方だ。

 

「流石『伝説のスケバン』…!嘗めちゃいなかったが…想像以上だ…!」

 

空薬莢が散乱した車内でネイトはそう独り言ちていた。

 

あれから40分近く時速100㎞オーバーで走り続け襲い掛かって来る何台もの不良スケバン車を排除したが数は減るどころかどんどん増えていっている。

 

車体にも何発の弾丸を浴びたか分からない。

 

しかし、ネイトが乗っているのはモーテルの女主人が買い替えを考えていた型落ちの普通のセダン。

 

映画などとは違い車体に貼ってある程度の鉄板ではたとえ22LR弾であっても容易く貫通するはずだが…

 

「くそっ!なんだ、あの一般バンピー車はよぉ!?」

 

「ライフル弾を弾きやがってるぜ!?」

 

不良たちが持ち込んだハンドガンやショットガンはおろかライフルの銃撃をも弾き返しネイトを守り続けている。

 

「姐様、あの車は一体!?」

 

「うふふ…わずかな時間であれほどのドレスアップを…!流石はネイト様ですわ…!」

 

その理由を知るのは此度の発起人の一人であるアケミだ。

 

「ははははッ!!!そうさ、スケバンども!!!車改造いじくれるのはお前達だけじゃないのさ!!!」

 

ネイトは『エンジニア』にして『クラフター』。

 

「『なんでも"開発つくれる"!!!なんでも"創造できる"』!!!オッサンを舐めんなよ、スケバンども!!!」

 

僅かな時間で一般バンピー車を軍用アーミー車級に改造するなど訳はない。

 

車体全面を2インチのケテル装甲材で強化し窓も3インチはある強化アクリルに張り替え防弾化。

 

元は直列6気筒エンジンもそれに見合ったV型8気筒エンジンブイエイトに改造。

 

そんじょそこらの装甲車にも引けを取らないモンスターマシーンに生まれ変わっているのだ。

【挿絵表示】

 

「さぁまだまだ踊ろう、栗浜アケミ!!!」

 

ネイトはアクセルを蹴り込みそこでロックを掛け、

 

「よっと!」

 

足でハンドルを操作しつつこれまた急遽作った頭上のサンルーフを開け…

 

八百長うちあわせしてるとはいえ本気でやらなきゃな!!!」

 

バスバスバスバスッ!!!

 

愛用のM4カスタムを構え迫りくる不良スケバン車に発砲。

 

「だぁくそ!!!パンクさせられた!」

 

ある車はタイヤを、

 

「お、おい、止まんな!!!」

 

ある車はラジエーターを、

 

「がっ…!?」

 

「はッハンドル握れ!!!」

 

ある車は運転手と、車における急所を次々と撃ち抜いていく。

 

「あっあれが熱砂の猛将…!」

 

「さながら魔法を掛けなくても暴れ馬になること確実の『火鼠』ですわね…!」

 

並のスケバンなど物の数ではないネイトの暴れっぷりにアケミと同乗しているスケバンは息をのむ。

 

すると…

 

「俺を馬にしたければもっと気合見せろ、栗浜アケミ!!!」

 

バスバスバスバスッ!!!

 

禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャにも銃撃を食らわせるが…

 

ギギギギィンッ!!!

 

「のぉわ!?」

 

「ご安心を、50口径までなら難なく防げますわ。」

 

流石は伝説の不良スケバン車、小口径のライフル弾など一切通じない。

 

「だったら!」

 

ならばと今度は鹵獲品のM32A1MSGLを取り出そうとするネイトだが…

 

「では、こちらもお返しを。」

 

アケミは禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャの火器システムに火を入れ…

 

ジャキィンッ!!!

 

マウントされた無数の大口径火器がネイトのセダンを捉える。

 

「…一時退散!」

 

素早くネイトは車内に引っ込みハンドルを大きく切る。

 

次の瞬間、ネイトのセダンがあった場所の路面に無数の弾丸が叩き込まれた。

 

幾らかは耐えきれるだろうがまともに受け続けていたらケテル装甲材と言えど耐えきれる保証はない。

 

「化け物だな、アケミの車は…!まるでアイアン・グリズリーに追いかけられているような気分だ…!」

 

伝説の称号に偽りなし、その火力はアビドスの戦闘車両ですら引けを取らないだろう。

 

「…だが、それが肝なんだよな…!」

 

左腕のPip-Boyのマップ表示を確認すると…

 

「…そろそろだな。」

 

自分の目的地が近いと表示されている。

 

そのことを知らせるためネイトは数回ハザードランプを点灯。

 

「!…申し訳ありませんがハンドルを少し頼みますわ。」

 

アケミにもそれが伝わり傍らのスケバンにそう頼み後部座席へと移動する。

 

「えぇッちょ!?は、はいぃ!」

 

まさか操縦まで任されるとは思っていなかったが…

 

「はッハンドル重ッも!?」

 

普段の車とは段違いの重いハンドルの動きに四苦八苦してしまう。

 

こんなものをまるで軽自動車の様に動かすアケミの腕力を感じ取りスケバンはさらに彼女への尊敬の念を深めた。

 

「なんとっまるで戦車のような破壊力、あれが『伝説のスケバン』が駆る車の真の力なのでしょうか!?」

 

そんなD都高デトコーの様子を逃すことなくクロノスを筆頭とした報道機関が何機ものヘリで上空から伝えている。

 

「ご覧くださいッ、また一台の車がネイト氏の車両に接近…って爆発!爆発しました!もう何台もの不良が操る車にバイク、果てにはパトカーが破壊されてなおこのカーチェイスが終わる気配はありません!」

 

無数の不良スケバン相手に大立ち回りを魅せ続けるネイトは彼女たちにとって絶好の特ダネだった。

 

なにしろ殆どメディアの露出の無い謎の多い人物。

 

そんな彼があの戦争で見せたような獅子奮迅の戦いっぷりを、しかも七囚人が率いる不良の大軍団相手に繰り広げているのだ。

 

これを逃す手はないと様々なメディアが押し寄せていた。

 

「ここ以外にも多数のか所で多くの不良生徒の車両が列をなしD.U.都市高速を駆け抜けておりなおもその数を増やしていっています!いったい、この大混乱はいつ終息するのでしょうか!?」

 

眼下のネイトを追いかけるアケミの車列以外にもD都高デトコーの様々なか所でまるでイルミネーションの様に不良たちの大暴走が見て取れる。

 

これだけの不良たちが街中で暴れていたら…と思うとシノンですら背筋が寒くなるものを感じた。

 

すると…

 

「あッ!ネイト氏の車両が『第1大橋』に差し掛かりました!」

 

眼下のネイト達が長大な吊り橋に差し掛かった。

 

D.U.は海に面しているだけではなく大河を多く有し水運業も盛んな場所だ。

 

ネイト達が差し掛かったのはサンクトゥムタワーなどがある中央区画を東に向け突っ切っていくと最後にある大きな川にかかった『第1大橋』と呼ばれる鉄橋である。

 

その時、

 

「!ご、ご覧ください!!!追跡している車列先頭の車両から栗浜アケミが姿を現しました!!!」

 

先頭を走る禍暴血夜乃爆車カボチャノバシャのルーフにアケミが姿を現した。

 

その肩には…

 

「ろ、ロケットランチャー!?ロケットランチャーを構えています!!!」

 

自身の剛力を示すかのような得物の一つ『M202』を担いでいる。

 

そして…

 

バシュウバシュウバシュウバシュウ!!!

 

躊躇なく装填されていた全ての66㎜ロケット弾を発射。

 

キキィッ!!!

 

それをネイトはハンドリングとブレーキを駆使し急速にコースを変え回避、

 

ドドドドォオオオオオオンッ!!!

 

ロケット弾は数百m先の橋の欄干に着弾し破壊した。

 

「回避っ回避しました!!!なんというドライビングテクニック!!!彼に不可能は…!」

 

シノンは大興奮でその様子を実況していたが…

 

「お、おやどうしたのでしょうか?」

 

ある異変に気付く。

 

あれだけ激しく動き回っていたネイトの車が…突如としてその動きに精細さが無くなり動きがぎこちなくなった。

 

しかも、真っすぐ走っているつもりだろうが…徐々に車体は左に進路がずれていっている。

 

このままでは…

 

「あ…!」

 

時速100㎞を優に超えている速度で走っているのだ、まさに一瞬の出来事だった。

 

ヴォンッ!!!

 

まるで吸い込まれるようにネイトのセダンは破壊された欄干の隙間から飛び出してしまった。

 

『~ッ!?』

 

その光景をテレビを通じて目の当たりにした全ての視聴者が言葉を失った。

 

ネイトのセダンはそのまましばし宙を走り…

 

ドッポオオオオオオンッ!!!

 

大きな水柱を噴き上げ水面に突っ込んでいったのであった。

 

《ね…ネイト社長の車が…!?》

 

あまりの事態に言葉を失うシノンだが…

 

《ラ、ライトを!落下地点にライトとカメラを向けて!!!》

 

すぐに再起動し川の水面を照らし出した。

 

「~た、直ちに沿岸部隊と潜水部隊に連絡を!!!」

 

「現場を封鎖しろッ!!!警備艇にも出動を要請!!!」

 

「カヤ、この際七囚人の暴走は放置して構いません!人命が最優先です!この隙に第一大橋を封鎖し現場を確保してください!」

 

「了解!機甲部隊を派遣し封鎖線を構築します!」

 

これにはリンやカンナたちもすぐさまネイトの救出部隊の派遣を急がせる。

 

連邦生徒会もヴァルキューレも今日一番の素早さで動く中…

 

「…さぁ、引き続き楽しみましょうか。」

 

アケミは充実感に満ちた表情で車内に戻ってきていたが…

 

「あ、姐様…!?よ、よかったんですか…!?」

 

「あら?なにがでしょうか?」

 

「そ、その…あの人絶対に…!」

 

同乗しているスケバンは顔を青くしていた。

 

いかに荒くれ物の彼女でも…『殺人』に関する忌避感は強い。

 

確かにアケミの攻撃が直接的な原因ではないだろう。

 

それでも、彼女にはアケミの反応が信じられなかった。

 

すると…

 

「…フフッあなたには少々ショッキングな場面を見せてしまいましたわね。」

 

「え…?」

 

「運転を変わりましょう。」

 

優し気にアケミはそう告げてハンドルを返してもらい、

 

「これは一つの歌劇ショーですわ。演技の上では悲しい結末でも…役者さんは無事でしょう?」

 

彼女に向けウィンクしながらそう答えた。

 

そして…

 

「…あぁ~これは…。」

 

「派手にやるではないか…。」

 

「目立つなって言ったのに…。」

 

「あんなんじゃねぇ…」

 

「うん、お姉ちゃん…。」

 

「はい、パパはきっと…」

 

ネイトを良く知る者たちは…

 

「「「生きてる(な)(ね)(ますね)。」」」

 

まるで『当然』と言わんばかりに口をそろえてこう漏らしていたのであった。

 

【00:35】

 

「…釣れませんね、デカルトさん。」

 

「待つのです。こうして待つことも『確かな幸せを探す』ことなのです。」

 

「いやでも…。」

 

「魚が食べたいって言ってたの貴方じゃ…。」

 

「え、えぇい静かに!魚が逃げてしまうではありませんか!」

 

第一大橋より数㎞下流の河川敷にて数人のオートマタが夜釣りに興じていた。

 

何やらヒッピーのような独特な格好をしている彼らは『所確幸』と呼ばれる『所有せずとも確かな幸せを探す集い』サークル…もといホームレス集団だ。

 

…まぁサークルと言っても統率はまるでない寄り合い所帯なのだが。

 

一応、丁寧な口調をしている旧式オートマタがリーダーの『デカルト』である。

 

そんな彼らが釣りをしているのは…まぁ単純に腹ペコだからだ。

 

すると…

 

ググッ…

 

「お、おぉッ!きましたよ!」

 

デカルトの竿が大きくしなった。

 

「こっこれはなんという大物…!」

 

しかもちょっとやそっとじゃリールを巻けないほどに重い手ごたえ。

 

「て、手伝いなさい!これを吊り上げれば三日はお腹いっぱいですよ!」

 

「はッはいぃ!」

 

傍らにいる同胞もデカルトに加勢し釣竿を引っ張り上げようと力を込めた。

 

すると、徐々にリールが巻かれ徐々に獲物はこちらに近づいてきた。

 

そして…

 

ザバァン!

 

「「「…え?」」」

 

それは姿を現した。

 

全身に水草やゴミが纏わりつき全容は伺えないが…明らかに魚ではない。

 

いや、どちらかというと…。

 

その時…

 

「ヴォオオオオオオオオオッ!!!」

 

それが化け物染みた雄叫びを上げた。

 

『ぎゃああああああああお化けえええええええええええ!!?』

 

デカルトたちは恐れをなしとるものもとらず、竿すら放り投げてその場から走り去っていった。

 

『所確幸』の面々がいなくなるとそれは水草などを取り去り…

 

「…人に釣り針ひっかけておいて随分だな、おい。」

 

全身ずぶ濡れのネイトがそうぼやいた。

 

「…ざっと5㎞以上は移動できたか。」

 

上流を見るとヘリがサーチライトで水面を照らしているのが見える。

 

「…アケミにも随分と無茶な頼みを叶えてくれたもんだな。」

 

数時間前、アケミとネイトが合流したころに遡る。

 

「そしてもう一つ…俺を『死なせて』くれないか?」

 

「…はい?」

 

ネイトのもう一つの頼みにアケミは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべていた。

 

「…あぁ、語弊があった。本当に殺してほしいわけじゃなくて…俺が死んだように見せかけてほしいんだ。」

 

それを見たネイトがさらに詳しく説明する。

 

この大混乱はネイトの生存が知られたから起こったことだ。

 

ならば、どうすればいいか?

 

簡単だ、もう一回死んだことにしてしまえばいい。

 

「タイミングはここ、第一大橋。ここで俺が事故で転落するように一芝居打ってほしい。」

 

「そ、それは構いませんが…大丈夫なのですか…?」

 

あまりにも無茶苦茶な作戦にさすがのアケミも表情がひきつるが…

 

「安心しろ。200m飛び降りておいて50mもない高さで俺が死ぬとでも?」

 

浅く笑いながらネイトは答えて見せた。

 

「…分かりました。やってみましょう。」

 

アケミもそんな彼を見て腹を決めてくれたようだ。

 

そして…第一大橋でのあの転落事故だ。

 

アケミは十二分な働きをしてくれた。

 

では、なぜこうも無傷で生き残れここまで誰にも見つからずたどり着いたか?

 

何のことはない。

 

「いや本当に便利だな、『軽業師』と『Aquaboy』。」

 

高所からのダメージを完全無効化する『軽業師』、水中呼吸と水中における完璧なステルス能力を付与する『Aquaboy』の合わせ技だ。

 

端から飛び出し水面に叩きつけられる寸前でサンルーフからネイトは脱出。

 

水面に時速100㎞を超える速度で水面に叩きつけられたが『軽業師』の効果でそれを無効化。*1

 

そして、そのまま水中深く潜り『Aquaboy』の水中呼吸効果を使ってここまで息継ぎなしで泳いできたのだ。

 

その結果は…あの光景が証明してくれている。

 

「あれだけ盛大にやったんだ。…2~3時間は時を稼げるだろう。」

 

一先ずはこれで自分の生死は不明になった。

 

さらに、メディアと連邦生徒会の注目はあの事故現場に釘付けのはずだ。

 

「場所は…あと数十㎞と言ったところか…。」

 

目的地までの距離を計算し直し…

 

「…ヘックシ、一先ず着替えを手に入れなくちゃな。」

 

変装用の衣服と恰好に着替えネイトは再びD.U.の闇の中に消えていくのであった。

*1
この速度になると水面はコンクリート級の硬さになる。




ルビ…疲れた…
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