―――教育家『ヘレン・ケラー』
【00:25】
「オーライッ!オーライッ!」
「そっちはどうだ!?」
「水中の障害物に注意!安全第一にな!」
第一大橋の近辺、ネイトが乗った車が川に落下した付近では警備艇に台船と言った多数の舟艇が出動し多くのダイバーが水中に飛び込んでいる。
しかし、夜間な上に幅も相当ある大河なため捜索は難航していた。
一見すればネイトの生存は絶望的だろう。
しかし…
《現在も懸命な捜索が続けられていますが依然として…》
「………おかしいですね。」
「ミネ団長?」
サンクトゥムタワーの一室でニュース映像を見ていたミネは違和感を感じていた。
「なにがおかしいんですか?」
「…『救護』の気配がまるで感じられないのです、セリナ。」
「気配…ですか?」
「えぇ。まるで…形だけ装って中身が空洞になっている、そんな気がしてならないのです。」
傍から聞けばミネが何を言っているか理解できないだろう。
しかし、救護騎士団の面々は違った。
対処の方法は別にしてミネに備わる『救護』に関する感覚は最早『第六感』と言ってもいい精度を誇る。
言われてみれば…
「そう言えば普段の団長だったら…。」
「うん、一も二もなく現場に行って川に飛び込んでもおかしくないはずなのに…。」
あれだけの大惨事を目の当たりにしているというのに彼女は非常に冷静そのものだ。
「…『ハナエ』、地図を持ってきてもらえますか?」
「ハイッただいま!」
彼女は傍らにいたナース帽を被り紫のツインテールをした後輩の生徒にそう頼み…
彼女は『朝顔ハナエ』、救護騎士団所属の1年生で少し抜けている部分はあるが非常にポジティブで明るく救護騎士団に世話になる患者たちからも人気のある生徒である。
「どうぞ、ミネ団長!」
「ありがとうございます。」
ハナエから地図を受け取り…
「…この暴走の始点はここで…事件現場は…ここ。」
その地図に印をつけていく。
「…やっぱりおかしいですね。」
「というと?」
「彼…ネイトさんは確かに多数の不良に追いかけられていました。襲い掛かられていたことからもそれは間違いないでしょう。ですが…。」
「何か気になるところがあるんですか、団長?」
「…なぜ彼女は…栗浜アケミは第一大橋で直接攻撃を?」
それを見てミネはさらに疑念を深める。
事の発端である低棟木ICから第一大橋まではざっと100㎞以上は離れている。
スケバン達は幾度となくネイトに襲い掛かり何度かアケミの車も発砲をしていた。
しかし…彼女はあのタイミングまで自身で攻撃することはなかった。
確かに車自体にも強力な武装が搭載されていたが早々に同乗者も確保していたのになぜ?
あの様子を見るとそちらの方が精度は格段にいい筈なのに。
そして、自分が感じた違和感の正体。
それらを考えると…
「………行きましょう、皆さん。」
ミネはそう言い、愛用の銃とライオットシールドを抱え出口へと向かう。
「い、行きましょうってどこへ…?」
「おそらく…彼は生きています。」
「えぇッ!?私達だって無事じゃすまないような事故なんですよ、団長!?」
ハナエの意見ももっともだ。
あれほどの大事故は日々戦闘の現場に出ている自分達でも見たことが無い。
キヴォトス人ではないネイトの生存は絶望的と言っていいだろう。
だが…
「考えてみてください、ハナエ。…彼は一体どうやってあのホテルニューオトワから脱出したのかを。」
「え?それは…。」
「彼は私たちの常識を超えた技術を持っています。もしかしたら…。」
ネイトがあの爆撃から逃げ延びた事実を挙げ…
「…っま、まさか団長はネイトさんはあのホテルの最上階から…!?」
「飛び降りて逃げちゃったって言いたいんですか!?」
「はい、セリナにハナエ。ヴァルキューレが厳重に警備していたあのホテルから人知れず抜け出すにはそれ以外にないかと。」
僅かなネイトの情報からホテルニューオトワからの脱出手段を予測し、
「それを用いれば…あれだけの事故でも生存するのは不可能ではないと思います。もっとも、完全に姿を透明にできる手段でもあれば話は別ですが。」*1
この事故でもその方法を用いた可能性を示唆した。
「で、でもどうしてあんな危ない方法をとったんですか…?」
「これも推測ですが…彼は襲撃を受けていました。その追手や我々の目を欺くために…。」
「わざとあんな派手な事故を装って死んでしまった様に…!」
「そのこととあの暴走も移動手段だと考えると…。」
そう言い、ミネは地図のあるエリアを○で囲い…
「彼はこの辺りのエリア…ゲヘナ境界付近を目指していると予想されますね。」
かなりの確信を得た結論に達した。
「な…なるほど…。」
「じゃあ、私が皆さんにお知らせしに…!」
それを聞き、ハナエがネイトの居所を伝えに向おうとすると…
「待ちなさい、ハナエ。このことは他言無用です。」
「え…?」
ミネにそれを制止させられた。
「忘れましたか?彼は生存を知られて襲撃を受けています。今ここで広くこのことを知られてしまえば…。」
「またあの人は襲撃される可能性が…。」
おそらくネイトがここまでど派手な行動に出たのはそれを避ける意味合いもある。
ミネは何とか自身の経験則を基にたどり着けたが他の者たちはそうではない。
ここで広く知られればまた最初に振り出しだ。
「そう言うことです、セリナ。それにこれはあくまでも私の予想にすぎません。ですので…私達は独自で動きましょう。」
いかにネイトが精強でも…ミネにとっては『救護』すべき人の一人だ。
彼を危険にさらす真似だけは決してしたくはないと強く思ている。
「…分かりました、団長!」
「では、連絡要員として数名をこの場に残し残りの団員は私と共に彼の救護へ向かいます。」
『分かりました、団長!』
こうして、ミネを筆頭とした救護騎士団は独自の判断と人員を用い行動を開始したのであった。
そして、もう一組織にも動きがあった。
《では、我々はD.U.東部に向け進軍すればよいのですね?》
「うむっ!おいらの勘がビシビシ伝えている!おそらくラフィアンはまだ生きている!そして、それならば奴はゲヘナ方面に向かっているはずだ!」
別室で待機中のチェリノはスマホではなく手回し式の移動電話を用い別動隊のマリナの部隊に指示を出していた。
「これは大胆な陽動作戦だ!奴はこのまま連邦生徒会共の目を釘付けにしD.U.を脱出する可能性がある!いいか、必ずD.U.内にいるタイミングで補足するのだ!」
《お任せを!我が保安委員会の前でそのような欺瞞など通用しないことを奴に思い知らせて見せます!》
「手柄を挙げた暁にはおいら直々に勲章の授与と一か月のプリン優先配給券を送ろう!」
《はっ必ずやご期待に応えて見せます!》
「では、マリナ委員長!万事順調に頼むぞ!」
《了解であります、チェリノ会長!》
マリナは元気に返事をして通信用に持たされていた移動用電話を切るのであった。
「トモエ、連邦生徒会とトリニティへの偽装工作はどうだ!?」
「はい、チェリノ会長。現在は事故現場の捜索に総力を注いでいるようでこちらの動きを察知している様子はありません。」
「それは結構だ!」
そして、ネイト捜索の協力者の動向も潜り込ませたレッドウィンター生徒によってくまなく把握しているようだ。
なぜ、チェリノがネイトの生存を確信しているかというと…
「ふふふふっ甘いぞ、ラフィアン!このような欺瞞工作、クーデターからの脱出手段で見慣れている!!!」
これまた彼女の経験則によるものだ。
クーデターが日常茶飯事のレッドウィンター、当然チェリノも幾度となくクーデターを受けたり仕掛けたりしてきた。
その中であえて派手な動きを見せて相手の目を引き付ける欺瞞工作もやったりやられたりしてきた。
そんな他校では絶対に経験できない様な経験をチェリノは積んでいる。
だから、この大暴走からもその欺瞞の匂いを感じ取ることが出来たのだ。
「あとはマリナがラフィアンをここまで連れてくるのを待つだけ!そうすれば我がレッドウィンターがパワーアーマーを手に入れられること間違いなしだ!」
チェリノは自信満々に宣言するが…すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
その捕縛作戦を任せている自分の腹心の一人であるマリナが…どれほどバカなのかを。
【01:47】
「ったく、どこ行っても検問検問…やんなっちゃうよなぁ…。」
D.U.の郊外を走る一台の貨物トラックがあった。
早く荷物を届けなければならないのだが何分あの大騒動だ。
都市高速は封鎖され下道を使わざるを得ないというのに何か所も検問があり遅々として進まない。
そんなはやる気持ちとは裏腹に…
「…チィッまたかよ…!」
目の前には再びヴァルキューレの検問が立ちふさがった。
鬱陶しいが強引に突破する訳にもいかず速度を落とす。
「申し訳ありません、ヴァルキューレです。検問にご協力ください。」
「いい加減にしてくれ…。少し前にも受けたばかりなんだぞ…。」
「なにぶん今日は物騒な夜ですので…ご迷惑をおかけしますがどうか…。」
「ほら、荷物の目録と運輸許可証。さっさと済ませてくれ。」
何度も通ったのでさすがに慣れてしまったか必要な物をヴァルキューレ生にそそくさと差し出す運転手。
「ご協力感謝します。それでは少し検めさせてもらいますね。」
「早く済ませてくれよ。」
それを受け取ったヴァルキューレ生が検査を始めると…
グラッ
「ん?」
微かに車体が揺れたのを感じた。
不審に思いミラーで確認するがヴァルキューレ生以外の姿は確認できない。
「…気のせいか。」
運転手はそう結論付けて前に向き直るのであった。
「はい、問題はありません。ご協力ありがとうございました。」
ヴァルキューレ生はすぐに捜査を終え受け取った書類を運転手に返しつつ、
「それから…これが荷台に落ちていましたよ。」
「え?」
一緒に『賞与』と書かれた封筒が差し出された。
「あ、あぁどうも…。」
「では、このあとの運転もお気をつけて。」
心当たりはないが一応その封筒も受け取りトラックは検問を通過。
「なんだ、こりゃ?」
少し後、封筒の中身が気になって確かめると…
「~ッ!!?」
彼は息をのんだ。
中には…最高額の紙幣が数枚入っていた。
自分が荷物を積み込んだ時にはこんなものはなかった。
が…それはつまりこれの存在を知らないということでもある。
ということは…
「へっへっへっ…儲け儲け…!」
彼はその紙幣を懐にしまい封筒はどこかへ投げ捨てるのであった。
さて、場面は戻り…その近くの路地では、
「運賃払ったから勘弁な、ドライバー。」
影で外の様子をうかがうネイトがいた。
「…距離にして10㎞少々くらいは進めたか。」
先程の大芝居で移動手段を失ったネイト。
そんな彼がとった手段が…トラックの荷台に潜り込むことであった。
キヴォトスでも見つかれば取り締まりの対象になる違法行為だがネイトの隠密スキルで何とか発見は回避。
降りた隙に礼と運賃としてあの封筒を荷台に忍ばせていたのである。
ここで降りた理由は検問の際に聞き耳を立てて把握したトラックの経路がここから自分の目的地と大きくずれるからである
「さて…ここからは…。」
そこから少し離れスマホで地図を確認すると…
「…どこかでまた足が欲しいがしばらくは歩きだな。」
目的地まではまだ結構あるのでともかく見つからないように動くことに。
キヴォトスの中枢であるD.U.でも流石に中心部からかなり離れた場所だとこの時間は出歩いている人間も少ない。
そのまましばしの間、ヴァルキューレの巡回などを躱しつつしばし徒歩で移動し…
「ふぅ…さすがに遠いな…。」
道路わきにあったベンチに腰掛け一休みしている。
ネイトにして珍しく少し疲労がにじんでいる表情を浮かべているが無理もない。
自分が宿泊していたホテルへの爆撃にトリニティによる手配、所属不明の部隊の襲撃に自分が仕込んだとはいえ無数の不良とのカーチェイス。
そして、数㎞の無浮上水泳…精神的にも体力的にもかなりの消耗を強いるような内容だ。
なにより…
グゥ…
「ルームサービス、もっとちゃんと食べてればよかったなぁ…。」
静かにネイトの腹の虫がなる。
本当ならばモーテルについてからしっかり食べようと考えていたが…この騒動でそれも叶わず。
(体力…落ちたかなぁ…。)
が、これらは別に米中戦争時代ではよくあったことだ。
これくらいでへこたれるはずがないと思っていたが…やはり衰えが来てるのだろうか。
「…足はともかくどこかで食料と下着の着替えを調達しなくちゃな。」
服は一度Pip-Boyに収納すれば乾くが何故か下着だけは直接着替えなくてはならない。
生憎…着替えはベアトラップの隠蔽用に使ってしまい今も下着は濡れっぱなしなのだ。
10分ほど休憩をとりネイトは再び移動を再開し…
「お…あそこなら…。」
ようやくそれを見つけた。
日も跨いだこの時間、しかも郊外では営業している店も少ない中で煌々と輝く電灯の明かり。
王冠を被ったタコのキャラクターに26と掲げられた看板のある店。
『カイザーコンビニエンス』、名前の通りカイザーコーポレーションが運営しているコンビニ事業のチェーン店だ。
アビドスでは全く見なくなったがいまでもキヴォトス各地で出店している。
この際だ、アビドス独立戦争の遺恨やらは抜きにして利用しない手はない。
ネイトは今一度変装の具合をしっかり確かめ…
~♪
「らっしゃっせ~…。」
入店音楽と見るからにやる気のない店員の挨拶を聞きつつ入店。
(水に食料…エナジーバーがいいか。それから替えの下着に…。)
ネイトは全く意に介すことなく買い物かごに必要な物を放り込んでいく。
一見すれば商品のラインナップはごくごく普通のコンビニだが…ここはキヴォトスだ。
(…おっ5.56㎜と40㎜が売られてる。さっき結構使ったから買い足しておくか。)
まるで駄菓子のような感覚で多種多様な実包やら手榴弾も売られている辺りいかに銃社会かがよく分かる。
ネイトの故郷で同じく銃社会だったアメリカでもこうはいかない。
「会計を頼む。」
「う~っす。」
それでも貴重な物資が補給できる場所、細かい事は言いっこなしでカゴ一杯の商品を購入することに。
「お会計ぇ――――円っす。」
「現金で。釣りは取っててくれ。」
「あざーっす。」
「それから…ちょっとお手洗い借りてもいいか?」
「いいっすよー。このまま真っすぐ奥にあるっす。その間に商品袋に詰めとくっすねぇ。」
「頼んだ。」
会計済みの商品の中からパンツを抜き取りネイトはお手洗いで着替えることに。
一人になった店員がのんびりと彼が購入した商品を袋に詰めはじめていると、
~♪
再び入店音が鳴り…
「らっしゃっせ~…。」
またしてもやる気のない返事をする店員だがやってきた客は真っすぐにやって来て…
「騒ぐな、レジを開けやがれ!」
「ちょおッ!?」
いきなり店員に向け見るからに安物の銃を突き付けた。
これまたキヴォトスでは珍しくもない…コンビニ強盗犯である。
「グズグズすんな、痛い目に合いてぇのか!?」
「待って待って!俺、アルバイトっす!勝手にレジ開けらんないんすよぉ!」
店員はなるべく刺激しない様に強盗にそう答えるが…
「んなわけあるかぁ!じゃあその袋はなんなんだよぉ!」
速攻で見破られてしまう。
「こ、これは…そう夜食に持って帰ろうかと…!」
「そっちの方が問題だろうが!?いいから速くしやがれ!」
下手な言い訳で何とか乗り切ろうとする店員だが…無理もない。
ここはカイザーコンビニエンス、利益最重視のカイザーのグループ企業だ。
もし強盗にあって金を差し出そうものなら…その金銭は従業員の給料から天引きされる。
そうなればタダ働き確定だ。
一応、防犯用のショットガンは常備してあるが…確実に構えるより先に撃たれる。
「まままっ、落ち着いて!そうだ、これあげるんで帰ってくれないっすか!?」
「いるか、ンなモン!早く金を…!」
そんなやり取りを重ねていると…
~♪
再び入店音が鳴り響き…
「こんばんは~、巡回に来ました!」
「それからドーナッツちょうだ~い。」
元気のいい声と気だるそうな声の生徒二人が入店。
強盗と店員が二人してそちらを向くと…
「「「「あ。」」」」
殆ど同じタイミングでそう声を挙げた。
今は言ってきた二人の制服は…ヴァルキューレ警察学校の物だ。
つまり…
「…ヴァ、ヴァルキューレ生活安全局です!銃を下ろしなさい!」
「えぇー…私達が帰った後か来る前に終わらせててくんないかなぁ?」
「そっちが銃を下ろせ、コイツがどうなってもいいのか!?」
「ヒィッ!?」
ヴァルキューレ生の二人は当然強盗に向け銃を構え変則的なメキシカン・スタンドオフの完成である。
「抵抗は無駄です!逃げられませんよ!」
「うるせぇ!てめえらが引っ込めば誰もケガしねぇんだよ!?」
「あぁーそれ一理あるかも。『キリノ』、いったん私ら出直さなぁい?」
「何を言ってるんですか、『フブキ』!犯罪者を目の前にして逃げるわけにはいきません!」
傍から見ればコントかと言いたくなる様相だ。
「いいか、俺は本気なんだぞ!?」
「まっ待ってください!貴方はなぜこんなことをやってるんですか?!」
ヒートアップする強盗にキリノと呼ばれた生徒は宥めるように動機を訪ねる。
「見りゃ分かんだろ!金だよ、金!」
当然と言わんばかりに強盗はそう答え…
「絶対に勝てるって言われてたのに賭けてたのに負けやがって!こちとら家賃までつぎ込んだってのにっ畜生ッ!!!」
事ここに至った理由を明かすと…
「え?えぇっと…でもそれはあなたのせいでは…?」
キリノはきょとんとした表情でそう言葉を発した。
「ちょ、キリノ…!?」
『フブキ』と呼ばれた生徒がギョッとした表情でキリノを見る。
「はぁッ!!?」
これには強盗犯も思わずギョッとした。
「ですが、絶対に勝てるんだったらギャンブルなんか成立しないじゃないですか。それに手を付けちゃいけないお金まで手を付けるなんて貴方の自制心の問題でしょ?」
キリノは相変わらず強盗犯の見込みの甘さと金遣いの荒さを挙げ、
「節度をもって楽しみ、使いすぎても出費を抑えたりすればこんな事しなくてもよかったのではないでしょうか?」
「お前はバカか!?説得してんのかおちょくってんのかどっちなんだよ!?いいか、正論だけじゃ世の中渡ってけねぇんだよ!」
「あ、なるほど…勉強になりました!ありがとうございます!」
「ちょいとキリノ…なに強盗犯から教えてもらってんのさ…?」
いよいよ現場が混沌極まってきたその時、
「あぁもう訳分かんねぇ!本当にぶっ放すぞ!!!」
「ひぃぃぃっ!?」
強盗犯が店員に向けた銃の引き金に力を込めた。
「さっさせません!」
それを見たキリノは…
(犯人を無力化するには…拳銃を撃つしか!)
パァン!
拳銃を撃ち落とすために強盗犯の手に狙いを定めS&W M360『第3号ヴァルキューレ制式拳銃』を発砲。
狙いすまされた.38スペシャル弾はそのまま飛翔し…
「ふぎゃあっ!?」
「あ…。」
「あっちゃー…。」
コンビニ店員の頭部に着弾、ヘッドショットを喰らった店員はダウンしてしまった。
「………よ、よくもぉっ!」
気を取り直してキリノは強盗犯に銃を構え直すも、
「いや、今のお前がやったんだろ!?」
強盗犯はキリノ達に銃を構え直し再びツッコんだ。
「キリノ…もうちょっと静かにしてて…。」
これ以上場が混乱するのを避けるためにフブキがキリノを静かにさせようとした…その時、
ガッコォンッ!!!
「ギャンッ!?」
「「え…!?」」
強盗犯の側頭部に何かが高速で衝突し金属音が鳴り響いた。
意識外からの一撃な上にぶつかったのは…
「す、水筒…!?」
結構なサイズの水筒、しかも側面がへこむ程の勢いだったせいか…
バタッ!
強盗犯も気絶しダウンした。
キリノとフブキは事態を飲み込めずに固まっていると…
「ったく、なんで俺の行くとこ行くとこでこんなことに…!」
ウェスタンリボルバーを構えながら変装したネイトがぼやきながら近づき強盗犯の手からこぼれた拳銃を蹴り飛ばした。
「あっあの!」
「あぁ、ヴァルキューレ…。怪我はないか?」
「はい、本官たちは大丈夫です!」
「ご協力感謝するよ~。いやぁ凄いコントロールだね。」
キリノとフブキは感謝の言葉を述べながら強盗犯に手錠をかける。
それを見てネイトはウェスタンリボルバーをホルスターに収めホールドアップの状態で後ろに下がる。
「それであなたは…。」
「偶然来てた客だ。ちょっと着替えのためにお手洗いに入ってて出てきてみたらこの状況だったって訳さ。」
「巻き込まれちゃったんだね。ごめんねぇ、犯人刺激しちゃって。」
「気にするな。キヴォトスに住んでるんならこういうリスクはつきものだ。」
「ですが凄い判断能力ですね!犯人に察知されない様に投擲物で制圧してしまうなん…。」
と、キリノが感心しながら目線を向けると…
「…あれ?」
「どったの、キリノ?」
何かを察知し…
「な、何かな…?」
「あの…失礼ですがお顔を…。」
立ち上がってネイトの顔をまじまじと覗き込むと…
「………あぁ~?!」
「ッ!」
「貴方ひょっとして『ネイト』さんですね!?」
何とネイトの変装を見破り正体を言い当てたのだ。
「なっ…何のことかな…!?」
何とか誤魔化そうとするも…
「間違いありません!すぐには分かりませんでしたけどテレビで見た顔の骨格と声の感じが一緒です!」
彼女の警察官としての感覚がさらに確信を深めた。
「さぁ行きましょう!D.U.中の皆さんが貴方のことを…!」
喜び勇んでネイトを連れて行こうとするキリノだが…
「………はぁ。」
ネイトは一つため息をつき…
ピンッ
ポケットに忍ばせていたから薬莢を出口まで弾き飛ばし、
ジィッ
「えッ!?」
「ど、どうやって…!?」
V.A.T.S.を起動し瞬間移動。
「…じゃあな。」
そのままコンビニを後にしようとした。
「どッ何処に行くんですか!?」
「………。」
キリノが呼びかけるも答えようとしないネイトを見て…
「ちょ、ちょっと待ってください!と、逃亡するなら拘束しますよ!?」
その背中に第3号ヴァルキューレ制式拳銃を向け制止させた。
「拘束だと?」
「あ、貴方は現在保護措置が適用されています!これは私達に強制力を付与するもので一時的な拘束も認められています!」
「…連邦生徒会め、そこまでして体裁を保ちたいのか…。」
キリノからこの行動の根拠を聞かされ頭が痛くなるネイトだが…
「…どうしても俺を止めたいのなら撃て。」
「え…?!」
「ただし…その瞬間、俺は二人の…敵になる。その覚悟があるなら…撃ってみろ。」
右腰に差したウェスタンリボルバーに手を添えながらそう言い放つ。
瞬間、コンビニ内の温度が下がったようにも感じた。
(な、なんですか…!?この感覚…!?)
今まで何人もの犯罪者と相対して来たキリノだが…こんな感覚は初めてだった。
そして…意識していないのに手が震え始める。
(ま…まさか…怖がってるんですか、私…!?)
その答えに行き着いた瞬間、
「ひっ…!」
キリノは短い悲鳴を漏らした。
すると…
「はいはぁ~い、どっちもストップねぇ~。」
「ふ、フブキ…?」
「キリノ~、あの人は外の人だから京が一弾が当たっちゃったらヤバいよ?」
「あ…!」
「だからそれは一旦しまっときな、ね?」
フブキがキリノの銃を提げさせ、
「ごめんねぇ、この子ったらクソ真面目だからさぁ。」
自身はホールドアップしながらネイトに近づき、
「だからちょ~っとだけ私のお話聞いてくんない、ネイトさん?」
ネイトとの対話を求めた。
「…いいだろう。」
それを受けて、ネイトも闘気を引っ込めてフブキに向き直る。
「ありがとね。…まぁ、キリノが言った通り私達には貴方を何が何でも保護しろって通達が来てるわけよ。」
「あぁ、あれだけ盛大にやってたらそんな命令も出てるだろう。」
「でも、貴方はそれが嫌なんでしょ?まぁ分かるよ。いろいろあって襲われたってことも知ってるしね。」
フブキは気負う様子を一切見せることなく自然体の状態でネイトと言葉を交わす。
「無線で聞いた感じ、かなりのやり手だったんでしょ?それも私らじゃ手も足も出ない位の。」
「まぁな。あれはかなり訓練されていなければできない動きだった。」
「貴方としてはまた襲われたらかなわないし…無関係なヴァルキューレも巻き込みたくはない…ってとこかな?」
「………。」
「そんな面倒な連中の相手は確かにごめんだね。…私としては貴方をこのまま見逃してもいいと思ってるわけよ、ネイトさん。」
「えぇ、フブキ!?」
なんとも怠惰な考えをぶっちゃけられキリノも愕然とするが…
「でもねぇ…これ見てよ。」
フブキは後ろを指さす。
そこには頭にたんこぶを作り伸びている強盗犯とヘッドショットを喰らい気絶している店員がいた。
「…片方は俺関係ないんじゃないか?」
「うぐッ…!」
「まぁ…うん、それはこっちで何とかするよ。」
そこは譲れないネイトの一言にキリノはギクッとしフブキも慣れているのか対応を引き受けてくれるとのこと。
「それは置いといて…貴方はこの強盗事件に関わっちゃったわけ。となると…面倒だけど私達もヴァルキューレとしてのお仕事しなくちゃいけないのよ。」
「…フム。」
「ってことで…一つ私らと取引しない?」
気を取り直しフブキはニヤッとした表情を浮かべ、
「ほぉ?」
「この場でドンパチはなしで事情聴取に付き合ってくれるのなら…その後に責任をもって私達で好きな場所に貴方を連れてってあげるよ、ネイトさん。」
事情聴取と引き換えにネイトの逃亡の手助けを提示してきた。
「そっそんなことしちゃっていいんですか、ヒビキ?!」
「だぁって…私とキリノじゃ逆立ちしたって確実に勝てないよ?だったら、ここは『司法取引』ってことで協力してもらった方が面倒少なくて済むじゃん。どうせ報告書出すのも夜勤明けだしさぁ。」
「そ、それは…そうかも…。」
驚くキリノにフブキはネイトとの戦力差と戦った場合の後処理の面倒さを挙げてなんとか飲み込ませ…
「で、どう?ここはひとつお巡りさんに協力してちゃくれないかな?」
ニヤッとした表情を浮かべてネイトに手を差し出した。
「フム…。」
ネイトは顎を一撫でしつつ頭の中でそろばんを弾き…
「………乗った。」
パァン!
自分の手を振り下ろしタッチを交わした。
「契約成立、だね。」
「改めて、W.G.T.C.代表取締役社長兼逃亡者の『ナサニエル・マーティン』。ネイトで構わない。」
「合歓垣フブキ、ドーナッツが好きなヴァルキューレ警察学校1年生だよ。」
「ほッ本官はヴァルキューレ警察学校1年生『中務キリノ』です!先ほどは申し訳ありませんでした!」
「構わない。撃ち合いには発展してなかったし…俺も君を脅してすまなかった。」
と、互いに自己紹介と謝罪も終え…
「んじゃ、キリノ。一応、その容疑者に救急車手配してあげて。私は先に署に戻ってテキトーに事情聴取やってるから。」
「分かりました!…でも、店員さんどうしましょ?」
フブキとキリノは互いに役割分担を行い、
「ちょっと待ってろ。」
「ネイトさん?」
ネイトはカウンター内に入り…
「よっと。」
「はぅあ!?」
「「おぉ~…。」」
店員を僅かな動きで目を覚まさせ、
「大丈夫か?」
「あ、あれ俺…。」
「強盗は制圧した。後日事情聴取があるらしいぞ。」
「う、うっす…。」
気絶する前に起こったことを誤魔化し事情聴取のことを伝えた。
「あぁっとそれから…。」
数分後、
「…ねぇ、それ買ってくの?」
「傷物にしたんだ。そこは責任をとらなくちゃな。」
強盗目掛け投げつけて少しへこんだピンクの水筒と共にフブキが運転するパトカーに乗り込むネイトであった。
「…長い事生きてるがパトカーに乗るのは初めてだな。」
「ホントぉ~?意外とちょい悪な事やってたりしたんじゃないの~?」
「馬鹿言え、現役時代からMPにお世話になったことはない優良兵士だぞ。代わりに上層部の頭痛の種だったらしいがな。」
「あははは、それは随分やんちゃだったんだねぇ。」
そんな会話をしつつ二人は少しの間街中を走り…
「ただいま~。」
「あ、フブキおかえりー。」
「無線で知らせてたけど事情聴取で取調室つかうね~。」
「世話になるぞ~。」
フブキが配属されている警察署に帰署しそそくさと取調室に引っ込んだ。
「………。」
それから少しし…
「中務キリノ、ただいま戻りました!」
「お帰り、キリノちゃん。フブキなら取調室だよ。」
犯人の搬送を終えたキリノも帰署しフブキの元へ向かうのであった。
「戻りましたよ、フブキ!」
「お帰り~。」
「ご苦労さん。」
「って、またサボってるんですか?」
「いやね、ちょっと休憩をね。」
「ドーナッツご馳走になってるぞ。」
二人がいる取調室に入るとフブキとネイトがドーナッツをつまみながら出迎えてくれた。
「早く仕上げますよ。その方が安全ですから。」
「はいは~い、んじゃ再開するよぉ。」
こうしてコンビが揃い事情聴取は順調に進んでいく。
…はずだった。
「…すみません。」
「はい、何でしょう?」
「さっき事情聴取に同行した人の友人で迎えを頼まれたんですが…。」
深夜の警察署に来客があった。
「あぁ~まだ事情聴取中なんですよね。お待ちになるならそこのベンチで…。」
受付を担当していた職員のヴァルキューレ生がそう答えると…
「………。」
その来客はまるで周囲を確認するように眺め…
「じゃあ、また来ます。」
そう言い残して警察署を後にしていった。
「大変申し訳ございません。」
職員の生徒はそう言って彼女を見送り自分の仕事に戻る。
その時、
カッ!
「え?」
突如として強い光が差し込んだかと思った…次の瞬間、
ヴォオオオオオンッ!!!
ガッシャアアアアアアアンッ!!!
「うわあああああ!?」
エントランスのガラス戸をぶち破り大型バンがその職員を巻き込む勢いで突っ込んできた。
そして、そのバンから…
「GoGoGo!!!」
20人近い白尽くめでガスマスクを装着した武装した者たちが署内に展開し始めるのであった。
I'll be back
―――映画『ターミネーター』より『T-800』