Fallout archive   作:Rockjaw

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目標を持てば、気力は自然と湧いてくるもの。
―――哲学者『孟子』



Rescue, Invasion

【03:12】

 

「負傷者の搬送を急げ!動ける奴も一緒に乗せるんだ!」

 

「こっちだ!こっちにも襲撃犯がいるぞ!」

 

「これは…もう建て直したほうが早いんじゃないか…?」

 

襲撃から少し経った警察署。

 

戦闘の影響で電気系統が破壊され暗闇が包んでいたその建物は今は無数の赤色灯が照らし出し駐車場には救急車とともに物々しい軽装甲車が停車している。

 

カヤの命で派遣されたヴァルキューレの実働部隊である『警備局』の車両である。

 

現在は救急隊員と共に負傷者の搬送と襲撃者たちの移送、被害状況の確認などに奔走している。

 

が…署内の惨状は彼女たちの想像をはるかに超えていた。

 

「うぐッ…よく生きていられるな、この襲撃犯たち…。」

 

「キヴォトス人でも…下手すればヘイローが破壊してるような怪我ばかりですよ…。」

 

「さんざん銃撃戦の後とか見てきましたけど…こんな現場初めてですね…。」

 

キヴォトスの事件と言えば『銃』や『爆発物』の使用が当たり前だ。

 

署員の怪我も大半はそれに該当する。

 

しかし、襲撃者たちの一部は銃を用いない『刃物』や『鈍器』によって重症を負わされている。

 

どれもこれも確実に『ヘイローを破壊』出来るような容赦のない傷跡ばかりだ。

 

中には顔面を『割られて』いるものまで発見されている。

 

これでは傷は治っても…後遺症は確実に残るだろう。

 

そのせいもあって襲撃者たちが発見されていた場所は例外なく血の海となっていた。

 

様々な現場を見てきた警備局の生徒達も…これには絶句するしかなく全員顔を青くしている。

 

正に修羅場と言える現場の一角で…

 

「…では、彼がネイト氏だとは気づかなかった…ということだな?」

 

「何度も言ってるでしょ~?コンビニ強盗の時に偶然協力してもらって事情聴取に同行してもらっただけなんだってばぁ。」

 

「ふ、フブキの言ってる通りで私達も聴取中はまさかネイトさんだなんて思わなかったんです、ハイ…。」

 

この騒動の中心人物であるネイトを『知らず』に事情聴取に連れてきたフブキとキリノが派遣された警備局の指揮官に聴取をとられていた。

 

「それで…なぜ彼が襲撃者と戦闘を?」

 

「奇襲だったというのもありますが…私達ではあの襲撃犯たち相手には力不足だったのは目に見えて…。」

 

「あの人が狙われているのに自衛をさせないのは見放すも同然でしょう?」

 

「むぐッ…。」

 

「だから私達は負傷者の保護とネイトさんのサポートに徹したってこと。」

 

「申し訳ありません…。私達にもっと実力があったのなら…。」

 

のらりくらりとしたフブキとこの事態に落ち込んでいる様子のキリノを見て…

 

「…いや、記録を見た限り私達でも奇襲を受けたらどうなるか分からない相手だ。生活安全局の君達には確かに荷が重いだろう。」

 

警備局の指揮官もそれ以上の追及を止めた。

 

確かに荒くれ者の不良たちを相手にすることの多いヴァルキューレだが…これはあまりにも『想定外』過ぎる事態だ。

 

記録でも巡回中のヴァルキューレ生ならまだしも署にまで問答無用で襲撃を仕掛けてきた事例などほぼない。

 

それも警備局をして『荷が重い』と言わざるを得ない相手に奇襲されたとなると彼女たちの手に余る、責めるのはあまりにも酷だ。

 

むしろ、彼女たちが人知れずネイトを連れてきてくれていたおかげでまだ被害は軽微で済んだだろう。

 

「それで…彼はここを後にしたんだな?」

 

「備え付けの救急キットで軽く手当てした後またどこかへ…。」

 

「『ここにいたらまた不測の事態が起きかねない』からって。」

 

「う~む…できれば引き留めておいてほしかったが…。」

 

ヴァルキューレにはネイト保護の発令がされている。

 

しかし…こんな状況では彼の保護どころか業務すらままならないのでキリノたちの判断を責めることもできない。

 

「彼の目的地はどこか聞いてないか?」

 

「さっぱり。ひょっとしたらどこかアテでもあるのかもねぇ。」

 

「…分かった、聞き取りは以上とする。後の事はこっちでやっておくから今日はもう上がって構わない。」

 

これ以上ネイトに関する情報は得られないと判断し指揮官は二人を解放することに。

 

「おっお先に失礼します!」

 

「お疲れさんでした~。」

 

二人もお言葉に甘えてあいさつの後、官舎に引き上げることにする。

 

現場検証の途中なので車ではなく徒歩での帰宅となった。

 

その道中、

 

「よッよかったんでしょうか、フブキ?」

 

「よかったって何がさ?」

 

「その…あんな誤魔化したような報告しちゃって…。」

 

キリノは先ほどの報告について心配そうな表情を浮かべ先ほどの聴取についてフブキに尋ねていた。

 

「も~真面目だねぇ、キリノったら。」

 

そんな相棒を見てフブキは緩い笑顔を浮かべ、

 

「ホントのこと言ってたら面倒になるからってネイトさんとも話し合ったでしょ?他の子達とも口裏合わせることに決めたじゃん。」

 

別れる前にネイトと交わした秘密の会話を思い出した。

 

「いいか、俺のことは『分からなかった』と言うんだぞ。」

 

手傷の手当てを手早く終えたネイトは二人にそう告げていた。

 

「で、ですが…。」

 

「…そんな顔をするな、キリノ。これは『俺』がいたから引き起こった出来事だ。キリノもフブキも…ましてやここにいるヴァルキューレ生は誰も悪くない。」

 

なぜネイトの所在がばれたかは先ほどタネは判明した。

 

監視室に入った際に顔認証システムが反応しているのを確認。

 

まさかと思い変装してから再度確認するとわずかに再び反応を示していた。

 

意識が戻ったヴァルキューレ生に尋ねると…

 

「ヴァ、ヴァルキューレの上層部に報告を…。」

 

と明かしてくれた。

 

報告は有線電話で行われ直接の傍受は困難だろう。

 

そこから防衛室や連邦生徒会に届く段階のどこかで漏洩を起こしたのは確実。

 

「気にするな…なんて気休めは言わない。だが、ここにいる全員が職務を忠実にこなしていたことに変わりはない。だから、この原因は俺にある。」

 

だから、ネイトに彼女たちを非難するつもりは毛頭ない。

 

非難されるべき人物がいるならば…こんな厄介ごとを引き寄せた自分だ。

 

「そう言うことだからキリノ。全部俺におっ被せればいい。」

 

「ネイトさん…。」

 

「じゃあ、俺は行く。フブキ、上手い事頼むぞ。」

 

「任せて、そう言うのは得意分野だから。」

 

そう言って立ち去るネイトをフブキはサムズアップで見送るのであった。

 

「だからあれでよかったんだよ。私達はお咎めなしだしネイトさんの追手もかなり減らせたんだからさ。」

 

時間軸は戻りフブキは相変わらず飄々とした態度で気にしない様に告げるも、

 

「で、でも…。」

 

やはり真面目なキリノはどうしてもネイトが心配で噓をついたことを悔いているようだ。

 

すると、

 

「じゃあ、こうしよう。あの人を護るために行った『緊急避難』だってね。」

 

彼女の心配を軽くするようにいつもののらりくらりとした言い訳を提示した。

 

「緊急避難…。」

 

「そうそう、『やむを得なくやっちゃった行為』ってこと。広く認められた権利なんだから使わないと損だよぉ?」

 

キリノとは真逆のなんとも不真面目な答えだったが…

 

「…ですね。緊急避難だったら仕方ないですね。」

 

そんなフブキの答えが今はとてもありがたかった。

 

『お巡りさん』としての自分にフブキは逃げ道を作ってくれたのだ。

 

「そーそー、しかたな~いしかたな~い。もしなんか処分下ったらアビドスにでも引き取ってもらお~。」

 

「フフッ今だったらネイトさんもいますからいつでも会いに行けますね。」

 

今まで肩に重くのしかかっていた物が軽くなったようにも感じた。

 

すると…

 

「私達…まだまだですね。」

 

キリノはふとそう呟いた。

 

「そうだねぇ…。ネイトさん見てたら元からなかった自信がそこ抜けてなくなっちゃったよ。」

 

フブキもこれにはすぐに肯定する。

 

二人はネイトの戦いぶりの一部始終を監視カメラ越しに目撃している。

 

「守らなきゃいけないはずの人に護られて…本当に私達は未熟です…。」

 

「いやぁ、私も驚いたよ。外の人が私達が手も足も出ない様な奴らをひとひねりしちゃうなんてね。」

 

自分たちの支援があったもののその戦いっぷりは苛烈にして圧倒的でありながら非常に洗練されたものだった。

 

しかも自分たちと違い弾丸をまともに食らうと命を落としかねないというのに恐れを感じさせない。

 

なぜ彼が『熱砂の猛将』とも称されるか…その意味をまざまざと見せつけられた。

 

あれほどの戦い方は自分たちはおろか…警備局の訓練でも見たことが無かった。

 

と、同時に…自分たちの未熟さも思い知らされネイトの背中がはるか彼方のように思えた。

 

「………決めました!私、もっと強くなってもっと中心部の署に行って必ず『公安局』に入って見せます!」

 

その背中に…少しでも追いつきたい、キリノはそう決意する。

 

「んじゃ、まずは射撃が上手にならなきゃだねぇ。」

 

「もちろんです!そして、あんな凶悪犯たちを今度は『二人の力』で逮捕できるようになります!」

 

「おぉ~ガンバ…ってへ?私も?」

 

そんなキリノの決意に知らぬ間に巻き込まれたフブキの素っ頓狂な声が草木も眠る街中に響くのであった。

 

…なお、後日キリノとフブキはこの日生き残り負傷者を救助した功績を認められD.U.中央区の署へ転属となったのであった。

 

【03:37】

 

さて、そんなネイトだが…

 

ブォオオオ…ン

 

「検問が無い…。もう警戒区域は過ぎたのか…?」

 

警察署から数㎞程離れた公道をバイクで走っていた。

 

先程、警察署から立ち去る際…

 

「これ…私のバイクのキーです…。壊しても構いません、使ってください…。」

 

と、ネイトのことを報告したヴァルキューレ生からお詫びとして貸してもらったのだ。

 

250㏄の一般的なバイクだがそれでも今のネイトにとってはどんな高級車よりも輝いて見えた。

 

「あと…少しか。」

 

ちらっとPip-Boyのナビゲーションを確認すると目的地まであと十数㎞まで来ている。

 

そこまで逃げ切れればあとはどうとでもなる。

 

その時、

 

ガタン

 

「ツゥッ…まだ痛むな。」

 

バイクが少し跳ねた際の衝撃で痛みが走り少し顔を歪ませた。

 

警察署での戦闘の際に襲撃者からの最後の一撃を受けたナイフの一撃。

 

バリスティックウィーブによる強靭な防御繊維とPerk『Rooted』との併用でダメージ自体はそれほどでもなく重要な血管も傷つけてはいない。

 

が、それでもナイフという鋭利な金属の衝撃はどうしようもなく皮膚を突き破り負傷してしまった。

 

一応、警察署にあった救急キットから包帯と消毒液、自分が持っていたハンカチを使って応急処置はでき止血も完了している。

 

それでも…痛いものは痛い。

 

これでも若干の自動治癒効果があるPerk『Lifegiver』の効果で徐々に完治しつつあるがもう少しかかりそうだ。

 

(こういうところはキヴォトス人が羨ましいものだな…。)

 

先程の戦闘、ネイトは確実に息の根を止めるつもりで攻撃を仕掛けていた。

 

だが、ディサイプルズカトラスにしても斧にしても…数え切れないほど感じてきた肉体が破壊される感触のほかに別の感触を感じていた。

 

例えるなら…強靭なパン生地に刃物を突き立てているような『受け止められる』ような感触だ。

 

それがおそらくキヴォトス人の中でもヘイローを持つ者のみが持つ『神秘』の力だろう。

 

現に斧を叩きこんでも顔こそ割れたものの『断つ』までには至らなかった。

 

さらに、傷を負った傍から自らの『Lifegiver』を優に超える速度で傷が癒え始め致死量が流れ出る前に血も止まっていた。

 

(いやはや…ストロングでもあぁはなかったぞ…。)

 

隔絶した種族差と昔馴染みの仲間のことを思い出し少し懐かしさを感じるネイト。

 

…その時だ。

 

ヴォオオオオオンッ!!!

 

「ッ!!?」

 

数十m先の交差点から猛スピードで車両が進入、

 

キキィィィィッ!!!

 

かと思ったら急ブレーキをしネイトの進行方向をブロックする。

 

その後方からももう一台同型の車両が遅れて侵入し停車。

 

(新手か!?)

 

今の速度的にスペックは完全にあちらが優勢。

 

しかも、ここで再びカーチェイスを繰り広げればまた自分の居場所が露見する。

 

(やるしかない!)

 

腹をくくりネイトもバイクを急停止させ前方の車両に対し横向きに倒し、

 

ジャキンッ!

 

そのままバイクを遮蔽物として身を屈めM32MSGLを構えた。

 

見たところ装甲も施されていない様な白と赤で塗装され赤色灯が回る『救急車』のような車だ。

 

グレネード弾を一発撃ち込めばそれで決着が…

 

「………ん?」

 

ここでネイトも動きを止める。

 

なぜ、救急車がここに?

 

それも自分の行く手を遮るように?

 

「…なんで?」

 

この日、初めてネイトが立ち塞がる者に対して闘争心よりも疑念が勝った。

 

すると、ネイトの疑問に畳みかけるように救急車の運転席のドアが開き…

 

シュバッ!!!

 

人影が宙高く飛び出し、

 

「救護ッ!!!」

 

ドッゴオオオオオンッ!!!

 

「~ッ!?」

 

ネイトと救急車の中間地点のアスファルトを爆散させながら着地した。

 

これには思わずネイトも引き金に指を掛け直す。

 

こんな芸当ができるキヴォトス人は今まで見たことが無い。

 

同じ芸当を見たことがあるとするなら、それはパワーアーマーの着地だ。

 

つまり…

 

(パワーアーマー級の戦力保持者…!特記戦力か…!)

 

ホシノ・ヒナ・ネルに列せられるほどの実力者ということに他ならない。

 

警戒心を今日一番に跳ね上げるネイト。

 

そして、土煙が晴れると…

 

「………。」

 

(あのライオットシールドのエンブレム、トリニティの生徒…!)

 

おそらく今一番会いたくない学校でもあるトリニティの生徒であると判明。

 

が、

 

(…ナースキャップ?それにあの服装…医療従事者か?)

 

これまたその服装とシチュエーションのちぐはぐさに疑問符が浮かぶ。

 

いや、乗ってきた車が救急車なので下りてくるのがその類の人物なのは至極当然。

 

問題は…なぜ医療従事者がこんな芸当を?

 

また少しネイトの動きが止まると…

 

「初めまして。私はトリニティ総合学園3年生、ヨハネ分派首長並びに『救護騎士団』団長を仰せつかっております『蒼森ミネ』と申します。」

 

目の前の生徒…救護騎士団団長『蒼森ミネ』が声をかけてきた。

 

自身の所属と役職を明かし…

 

「…W.G.T.C.代表取締役社長『ナサニエル・マーティン』…いえ、ネイトさんで相違ありませんね?」

 

路面に突き刺したライオットシールドを引き抜きそう尋ねた。

 

「違う…と言ったら?」

 

変装もなくヘイローキャップもさっき吹っ飛んだので望み薄だが一応とぼけて見るも…

 

「いいえ、そのお顔と声…間違えようがありません。」

 

あれだけメディアに取り上げられていてミネが間違えられるわけがない。

 

「…で、どうするつもりだ?」

 

そこはネイトも想定内、次の行動に備え狙いを定める。

 

が、

 

「やはり…!」

 

打って変わってミネの表情は明るくなり…

 

「さぁ、こちらへ!私達はあなたを救護するために参りました!」

 

ライオットシールド片手にズイズイとネイトとの間合いを詰め始める。

 

「え…ッ!?」

 

これにはネイトの困惑もさらに深まる。

 

自分を捕まえに来たのは間違いない。

 

だが…ミネのそれは敵意も悪意も微塵も感じない。

 

終始ぐっだぐだな対応をしている連邦生徒会やらナギサもそれは同じだが…

 

(なっなんでそんな微笑ながら…!?)

 

例えるならまるで迷い猫でも見つけたかのような『喜び』やら『愛情』が溢れる表情だ。

 

「もう安心してください!我々が…!」

 

再び凛としたミネの声が響いた。

 

「~!」

 

ネイトはそれを合図に即座に行動開始。

 

(今はまだ捕まるわけにはいかないっ!)

 

バイクのエンジンはまだ切っていない。

 

ブォンッ!!!

 

アクセルを吹かし素早く起こしサドルに跨って…

 

ブォオオオンッ!!!

 

再びアクセルを全開に走り出そうとする。

 

速度はあの救急車が上でもこちらは小回りが利く。

 

路地でも何でも使って逃げ切る覚悟だ。

 

が…ネイトの目論見は甘かった。

 

「ッどちらへ行かれるのですか!?」

 

逃亡の兆しを見せたネイトにミネは即座に飛び掛かり、

 

ガシッ!!!

 

バイクについていたリアキャリアを掴んだ。

 

それだけで…

 

キキイイイイイイイッ!!!

 

「嘘だろ!?」

 

バイクの走行を阻止、タイヤからスキール音が鳴り響き煙が立ち上る。

 

「待ってください!私は敵ではありません!」

 

それでいてミネは特に踏ん張っている様子もなく依然としてネイトを説得しようとしている。

 

膂力に秀でるキヴォトス人でも体重の問題はどうしようもない。

 

つまり…アケミほどではないにしても彼女の腕力もキヴォトス人換算でも最上級なのだろう。

 

「だっ団長!?危ないですよ!?」

 

「ネイトさんも落ち着いてください!」

 

この光景に救急車から飛び出してきたセリナとハナエを筆頭とした救護騎士団の団員が二人を落ち着かせようと駆け寄るが…

 

「冷静になってくださいッ!!!救護ッ!!!

 

それよりも早くミネがライオットシールドを振るい…

 

ドガッシャアアアアンッ!!!

 

『ええええええええッ!!?』

 

「は、はぁぁぁッ!?」

 

後部車輪諸共バイクの後ろ半分を粉砕した。

 

「さぁ、指示に従って…!」

 

愕然とするネイトを捕まえようとミネが手を伸ばし、

 

ガシッ!

 

彼の右肩を掴んだ。

 

次の瞬間、

 

ズキンッ!

 

「グアッ!!!」

 

ちょうど治療した傷口を握りしめてしまい激痛が走る。

 

バイクを掴んで止めるほどの力だ。

 

加減していたとはいえ…思わず力が入ってしまったのだろう。

 

「え…?!」

 

ネイトの短い悲鳴に似た声にミネも思わず手を放す。

 

そして、彼女の手はうっすらとではあるが血で赤くなっていた。

 

「ぐぅ…!」

 

「ッだっ大丈夫ですか!?セリナッハナエッ、救急箱を!」

 

「はっはい!」

 

「ただいまー!」

 

肩を抑えて苦悶の表情を浮かべるネイトにミネは肩を支えるように手を当て二人に指示を飛ばすのであった。

 

数分後、

 

「はい、これで大丈夫ですね。」

 

「すまない、手間を掛けさせてしまって…。」

 

「そんなこと仰らないでください。これが私たちの使命なんですから。」

 

ちょうど近くに合った公園のベンチでネイトはセリナに再び肩の傷の手当てをしてもらっていた。

 

流石は救護騎士団、開いた傷口の止血もすぐに完了しネイトが一人でやったよりも上手に包帯も巻き直してくれた。

 

「それに元々の処置も上手でしたよ。おかげですぐに出血も収まりました。」

 

「職業柄応急処置には慣れっこでね。それで…彼女は…。」

 

「あぁ~…。」

 

そう言って二人が向けた視線の先では…

 

「私は…!私はなんてことを…!」

 

「げっ元気出してください、団長!ネイトさんも大丈夫だったんですから!」

 

頭を抱えて顔を真っ青にしているミネをハナエ達が励ましていた。

 

確かにミネは怪我人を出さない様にかなり力尽くな手段をとることが多い。

 

その過程で確かに新たな負傷者を出すことは日常茶飯事だ。

 

それでも…怪我人にさらなる苦痛を与えるようなことは決してしない。

 

知らなかったとはいえネイトにそんなことをしてしまい相当ショックだったのだろう。

 

「私は…救護騎士団団長失格ですッ!!!」

 

と、そんな真面目なミネは…

 

「ハナエっ!!!介錯を!救護騎士団の未来を頼みますっ!!!」

 

思い余って愛銃ウィンチェスターM1887『救護の証明』の銃口を自分に向けた。

 

「だっ団長、御乱心!!!皆、抑えて!!!」

 

これには周りにいた救護騎士団の団員が総出でミネを抑えにかかるが…

 

「きっ気を確かに、団長!」

 

「ともかく銃をって力強いぃ!!!」

 

バイクを軽々と引き留める腕力だ。

 

そう容易く抑え込めるものではない。

 

「わーちょっと団長、落ち着いて!!!」

 

セリナもたまらず止めに入るが…

 

「かっ介錯ですか!?えぇっとっとりあえずチェーンソーしか!!!」

 

「ハナエちゃん!?」

 

これまたパニくったハナエがチェーンソーをどこからか取り出し場が混沌とし始める。

 

「………。」

 

それを見たネイトはベンチから立ち上がり、

 

ジィッ

 

ミネに照準を合わせV.A.T.S.を起動し…

 

シュンッ!

 

『わぁッ!!?』

 

彼女の目の前に瞬間移動し、

 

ピトッ

 

「ヒャッ?!」

 

「蒼森ミネ…だったな?」

 

「ヒャッひゃい!?」

 

彼女の頬を包むように手を当てて目線を自分に固定。

 

「よく聞いてくれ。あれは俺がへまをして負った怪我だ。君に責任は一切ない。」

 

「でッですが…。」

 

「責任を感じているというのであればそれはもう手当てし直してくれたことで果たされている。だから、落ち着くんだ。君の団員も困っている。…組織を率いているのならトップの混乱が何を招くか知らないわけはないだろう?」

 

「それは…。」

 

「それに俺も話を聞こうとせずに逃げ出そうとしてしまった。少し今晩のことで気が立ってしまっていてな。そのこと込で…お相子ということで手を打たないか?」

 

かなり手荒なことをされたというのにネイトは彼女を責めることをせずまっすぐ見つめて静かに声をかける。

 

「だからその銃は下ろすんだ、いいな?」

 

「…はい、取り乱してしまい申し訳ありませんでした…。」

 

すると、ミネも落ち着きを取り戻し銃を下げてくれた。

 

「あ、あの団長を言葉だけで鎮めた…!?」

 

「猛獣用の麻酔を打っても効かなかったのに…!?」

 

その光景を周りの救護騎士団の団員は信じられないものを見ているような目で見つめているのであった。

 

「よし、少し場所を変えて話をしようか。」

 

彼女の顔から手を放しネイトは公園内にある東屋に向った。

 

「………。」

 

「団長?」

 

「はっ!はっはい?!」

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いえ平気です…!私達も向かいましょう…!」

 

少し放心していたミネも気を取り直しその後に続くが

 

(なっなんでしょう…。彼とは初めて会ったはずなのに…。)

 

自分の中に生まれた不明な感情に少々ドギマギしていた。

 

そうして、ネイトとミネは互いに向かい合い…

 

「…ということでネイトさんの行く先を予測しここまで参りました。」

 

「…結構迫真にやったつもりだったんだがなぁ…。」

 

今度はミネも冷静になぜここにやってこれた理由を明かした。

 

まさかあの事故現場で感覚のみで自分の生存を察知できる生徒がいようとはネイトも予想外だ。

 

「と、言うことはやはり…。」

 

「オフレコで頼みたいが…俺としてもD.U.市街地を突破するにはあぁするしかなかった、ということは理解してもらいたい。」

 

事の真相こそは一応伏せた物の…自分の生存を見抜いた彼女のことだ。

 

自分とアケミの関係性も見抜いているだろう。

 

「はい、もちろんです。我々も他人の秘密を扱う身、この場でのお話は決して他言いたしません。」

 

ミネもそんなネイトの心情を理解してくれているようで秘密は守ってくれるようだ。

 

「ですが…一つお答えください。」

 

「なんだ?」

 

「なぜ、ホテルでの一件の後すぐに保護を求めなかったのですか?」

 

確かにネイトやアビドスの連邦生徒会やティーパーティーに対する印象は決していいものではない。

 

それは逆の立場でもそうだ。

 

だとしても…保護を求めれば応じないはずがない。

 

ミネの質問に対し、

 

「一つは…俺の襲撃で巡航ミサイルが用いられたということだ。もし、俺が特定の場所にとどまっていることが知られれば…。」

 

「…再び巡航ミサイルが撃ち込まれる可能性がある…と?」

 

「あり得ない話じゃない。俺一人に巡航ミサイルを躊躇なく撃ちこむような犯人だ。二発目が無いという楽観視はできなかった。」

 

「もしそうなれば…更なる甚大な被害が発生するでしょうね…。」

 

ネイトの第二の巡航ミサイル飛来の可能性を示唆されミネも得心する。

 

D.U.のど真ん中目掛けて飛んできても映像が無ければ存在を誰も察知できなかったような代物だ。

 

もし、ネイトが素直にサンクトゥムタワーに向っていたならおそらく…。

 

そして、ネイトが保護を求めない最大の理由が…

 

「二つ目はこれまでの間で生まれた可能性だが…今、サンクトゥムタワー内には巡航ミサイルを撃ち込んだ連中の内通者がいる。」

 

「内通者…ですか。」

 

「モーテルと言い警察署と言い…連邦生徒会がやって来るよりも早く襲撃部隊はやってきた。仮にもキヴォトスに冠たる連邦生徒会が相手で…だ。」

 

獅子身中の虫の存在だ。

 

連邦生徒会とヴァルキューレ、裏社会はともかくとしてその情報網は非常に緻密なものだ。

 

そんな組織を出し抜き先んじてネイトに襲撃を仕掛けるのは並の組織には不可能だろう。

 

だとするなら…内通者の存在を想定することは必然と言える。

 

「だとするなら…今のサンクトゥムタワーも安全とは言えない。」

 

「だから保護を求めずに転々としている…と。」

 

「巻き込んでしまったヴァルキューレ生には申し訳ないが…もうこれ以上俺が関わったことで負傷者を出したくないからな。」

 

今のネイトは端的に言えば『火のついたダイナマイト』だ。

 

ネイト本人がそれを望んでなくても…襲撃者という名の『導火線』が執拗に追いかけてくる。

 

しかも厄介なことに爆発して終わりではなく自分がいる限り何度でも爆発するような代物だ。

 

おいそれと周りに人が集まれば被害もそれに比例し拡大してしまう。

 

「…というのが俺がこうして動き回っている理由だが…納得してもらえたか、ミネ?」

 

「重々理解できました。私も同じような状況ならばそうするでしょう。」

 

ネイトの説明にミネも理解を示し…

 

「では、お乗り物を壊してしまったお詫びとして…私達が責任をもってネイトさんをD.U.から脱出させましょう。」

 

ネイトを保護するのではなく逃亡の手伝いを申し出てきた。

 

「…またいつ襲われてもおかしくないんだぞ?」

 

「ご安心を。我々は独自の判断で行動しています。動向を把握している中枢にいる人物はいません。」

 

ミネたちはここに来るまで連邦生徒会はおろかティーパーティーとの連絡も断ってやってきた。

 

追跡の形跡もなくナギサやリンが自分がどこにいるかは見当もついていないだろう。

 

そして、ネイトをこのまま一人でこの状況で戦わせることなど…

 

「ネイトさん、貴方もまた貴方の中の『救護』の信念のもと行動していると理解しました。ならば、私と貴方は同志も同然。同志を見放す考えなど…救護騎士団にはありません。」

 

『救護』を何よりも尊重する救護騎士団団長たるミネには見過ごせなかった。

 

「ですのでどうか…貴方自身を『救護』する一助として私達にも協力させてください。」

 

胸に手を当て微笑みながら優しく語り掛けるミネを見て…

 

「…君等みたいな高尚な信念なんか持ち合わせているつもりなんかないんだがなぁ…。」

 

ネイトもそんな真っすぐな彼女を見て苦笑を浮かべるも…

 

「…分かった。今は君の言葉に甘えさせてもらうことにするよ、ミネ。」

 

彼女の申し出を受け入れることにした。

 

「では、すぐに出発しましょう。ここからなら1時間と掛からずにあなたの目的地に到着できるはずです。」

 

「…道中安全運転で頼むぞ?」

 

先程の救急車の荒い運転を目の当たりにしているので冗談めかしてミネにそう言うと…

 

「むっこれでも日々トリニティで『救護』を広めている身です。事故は起こしたことはありませんよ。」

 

ミネは自信満々でそう言い…

 

「『救護』として暴れている不良の戦車に救急車を突撃させたことはありますが些細なことです。」

 

サラッととんでもないことを言ってのけた。

 

「………大変だな、君達も。」

 

なるほど、彼女の『戦乙女』然した立ち振る舞いは普段でもそうかと理解したネイトは少しばかり団員たちに同情する。

 

『あ…アハハ…。』

 

団員達も困ったように笑い、

 

「もう慣れましたが…本当に一生懸命な人なんです。」

 

「普段はとっても頼りになる私たちの団長ですよ♪」

 

セリナとハナエも精一杯のフォローをしてくれた。

 

「後日差し入れ持って礼に伺わせてもらうよ。それじゃ行くとしようか。」

 

善は急げということで席を立つネイト。

 

「分かりました。目的地は道中にでも…。」

 

ミネもそう言い立ち上がった。

 

その時だ。

 

ドオオオ…ンッ!!!

 

『ッ!!?』

 

まるで遠雷の様な爆音が響き渡った。

 

全員が音の方向を見ると…数㎞先のビルから濛々と煙が立ち上り炎で赤く染まっていた。




災難は人間の真の試金石である。
―――詩人『シャルル・ボードレール』
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