―――思想家『ニッコロ・マキャヴェッリ』
【03:52】
「こちら、夜烏1。通報のあった廃墟ビルに到着しました。夜烏2~11も帯同。」
ネイト達がいる公園から少し離れた廃ビルの付近に展開する部隊があった。
血のような赤で縁取られた闇夜に溶け込むかのような黒いセーラー服。
そして、ネイトがいた世界では様々な思惑のせいで日の目を見ることが無かったブルパップアサルトライフル『EM-2』を全員所持している。
トリニティの治安維持組織である『正義実現委員会』の生徒達だ。
時間は少々遡り、こんな通報があった。
『ニュースで見た黒いコートを着て負傷している大人を匿っている。』
…と。
ヴァルキューレでの一件後に齎されたこの情報。
ネイトの最新の動向はまだごく限られた人物たちしか把握しておらずメディアは未だ事故現場に釘付けだ。
さらにネイトの服装も監視カメラに記録されている物と合致。
確度の高い情報だが…そんな情報があるたびにネイトは襲撃を受けている。
それもヴァルキューレにすら躊躇なく襲い掛かるような高い練度と凶暴性を兼ね備えた集団が、だ。
そこでこれまでの経緯を鑑み、警備局の生徒と共に派遣されたより戦闘能力に秀でた正義実現委員会一個分隊が確認に向かうことに。
「はぁ…はぁ…。」
そんな部隊の中で一人、緊張からか息遣いの荒い目元が隠れるほどの長い黒髪の生徒がいた。
揺れる髪の間から覗く赤い瞳も緊張と少しの恐怖が混じっていた。
「…大丈夫?」
「はっはい…!へっちゃらです…!」
その生徒に上級生で分隊長の生徒が声をかける。
何とか気丈にふるまう生徒だが…
「フフッそう言えばあなたは新人ちゃんだったわね。」
そんな強がりも分隊長の彼女にはお見通しだった。
そう、黒髪の生徒は一年生でつい最近訓練を終え現場に出たばかりの新米隊員なのだ。
「大丈夫、私達は今からネイトさんを迎えに行くだけだからね。」
「でっでも、もしヴァルキューレを襲った人たちがまた…!」
「その時は戦闘になるけど私達だって現場経験を積んできているわ。貴方もそうでしょう?」
「でも…私不器用でいつもみんなのお荷物で…。」
「自信を持って。ここにいるということはナギサ様やミカ様に認められたということなんだから。」
それに、と分隊長は言葉を繋ぎ…
「私達には頼もしいサポーターがいるわ。」
遠くのビルを見つめながらそう呟いた。
距離にして300m、ほぼ同じ高さのビルの屋上に…
「こちら『夜烏13』マシロ、支援位置に付きました。」
やけに丈の短いスカートをした正義実現委員会の制服を纏い自らの身長を優に超える巨大な銃を構えスコープを覗く生徒がいた。
彼女は『静山マシロ』、正義実現委員会所属の一年生でありながら正義実現委員会に所属し当初から頭角を現し多数の現場を経験してきた生徒だ。
そして、彼女を象徴するのがその超巨大な愛銃である。
『Anzio 20mmライフル』、航空機搭載の機関砲などに使われる『20x102mm砲弾』を放つボルトアクション対物ライフル…いや最早狙撃可能な『砲』と言っても差し支えないだろう。
銘は『正義の顕現』、4,500mという最大射程と直撃すればキヴォトス人はおろか巡航戦車を側面からならば撃破可能な正に規格外の代物だ
これを用い、マシロは多数の不良や犯罪者を撃ち砕いてきた。
「…だから安心して。訓練通りにやれば何も心配いらないわ。」
「り、了解…!」
分隊長の言葉を聞き新米隊員の緊張も少しほぐれたようだ。
「よし。それじゃ…行きましょう。夜烏1、これよりビル内に進入します。」
それを確認し、分隊長の生徒は表情を引き締め部隊を率いて廃墟ビルに足を踏み入れた。
この廃墟ビルは4階建て、1~3階にネイトも通報者の姿もなかった。
残すは最上階のみとなり正義実現委員会分隊は慎重に歩を進めてき、
ガチャ
「奥の部屋に明かりが…。」
4階のドアを開け中を窺うと奥の小部屋からわずかに光が漏れてきていた。
「夜烏13、東隅の部屋の内部は確認できる?」
《こちらの射角では死角になってるため確認できません。》
「了解。万が一に備えて戦闘隊形を組んで。突入するわよ。」
分隊長の指示で隊員たちも用意を整え…
「…Goッ!」
ザァッ!!!
まるで統率のとれた烏の群れのように室内になだれ込む。
「クリアッ!」
「こっちもクリアです!」
基本に則り突入か所の安全を確認後、
「チャージ!一気に制圧を!」
歩調をそろえ一気に明かりのついた部屋に迫り、
ドガッシャァン!
扉を蹴り破り室内に突っ込んだ。
しかし…
「え…?」
そこにネイトの姿はなく代わりにあったのは…
Pi…Pi…Pi…
電子音と赤い電灯が光る箱状の物体が置いてあった。
さらにそれに連動し、
Pi…Pi…Pi…
Pi…Pi…Pi…
この部屋の至る所でも同様の音声が鳴り響く。
見ると…同様の物体がむき出しになった天井の梁に隠れるように設置されてあるではないか。
想定外の事態に固まり一瞬動きが止まる分隊長。
だが…
「せッ先輩危ないッ!!!」
すぐ後ろにいた新米隊員が彼女を引っ張る。
流石はキヴォトス人と言ったところか、対格差はあるというのに分隊長はかなりの距離を投げ飛ばされた。
そして…
シュドォオオオオオオンッ!!!
廃墟ビルを紅蓮の炎と純白の火花が埋め尽くした。
「ッ!?分隊長ッ!?皆さん!!?何があったんですか!?」
それを遠方から見ていたマシロが必死に無線で呼びかけるも…
ザー…
返事は一切なくノイズのみが返って来るだけであった。
ドオオオ…ンッ!!!
『ッ!!?』
その光景は数㎞離れていたネイトやミネたちも目撃していた。
「ばっ爆発!?一体何が!?」
「まさかまた巡行ミサイル!?」
いかに銃撃戦、爆破が日常茶飯事のキヴォトスでもこんな真夜中に何もない場所であんな爆発が起こるとは思えない。
救護騎士団の面々が困惑する一方、
「あの爆発閃光に火花は…!?」
ネイトは遠くに見えた爆発の正体に心当たりがあった。
かつてのアラスカ戦線、それが一たび放たれれば…広大な雪原諸共多数の兵士を焼き尽くし時には空から雪のように降り注ぎ大地に死を齎した凶悪な兵器達。
(馬鹿な、あの兵器は確かキヴォトスでは…!)
なぜそれがキヴォトスで?
ネイトが疑問を抱いていると…
「私は現場に向かいます!彼を頼みますよ、皆さん!」
「だっ団長!?」
「待てッ、ミネッ!!!」
僅かな逡巡もなくミネは団員やネイトの制止も聞かずにライオットシールドを手に取り爆発現場に向け駆けだした。
やはりキヴォトス人基準でも規格外の身体能力を誇るミネだ。
ほんのわずかな間に姿が見えなくなってしまった。
【03:56】
「なんという…!」
ミネはわずか数分で数㎞の道のりを走破し爆発のあったビルに到着。
火の手は収まったが今度は白煙がもうもうと立ち上っている。
見るからに廃墟のビルだが…
「ゲホッゲホゲホッ…!」
「大丈夫…?!もう外だよ…!」
「う…うぅ…。」
ビルの入り口から互いに支え合いながら正義実現委員会の隊員が現れた。
その制服は所々焼失し不自然に破り捨てられていた。
「ッ大丈夫ですか!?」
「み、ミネ団長…?!」
突然現れたミネに驚きつつも安どした表情を浮かべる。
「なにがあったんですか?!」
「わ、私達は通報を受けてここに…!」
「捜索のために突入したら爆発が…!」
「ではまだほかに隊員の方が!?」
「はっはい…!」
何があったかと怪我人の有無、それだけ聞くや否や…
「あとは私にお任せてください!」
「まっ待って下さい、ミネ団ちょ…!」
正義実現委員会の制止を振り切り一切の躊躇なくミネは救助のためにビルに踏み込んだ。
彼女は一目散に階段を駆け上り四階に踏み込むと…
「こ、これは…?!」
その惨状に息をのんだ。
白い煙が充満した階層の全域が破壊され一部では屋根が落下しており…
「熱い熱い熱いィィィッ!!!」
「前が…前が見えない…!みんな、どこぉ…!」
「痛い、痛いよぉ…!」
まだ多くの正義実現委員会の隊員が倒れ苦痛に苛まれ中にはもがいている者もいた。
そして…
バチバチバチッ!!!
今なお至る所で白い炎が破裂音を挙げながら火花を迸らせている。
(まさか…白リン弾!?)
こんな現象を起こせる兵器は一つだけだ。
『白リン弾』、読んで字のごとく砲弾や手榴弾の内部に『白リン』を充填した発煙弾や焼夷弾などの用途で用いられる兵器の総称だ。
白リンは大気に触れただけで自然発火しそれは白リン自体が燃え尽きるまで決して消えることはない。
キヴォトスでも当然普及しているが…少しでもこの兵器の恐ろしさを知る生徒は決して人に向ってこれを使おうとすることはない。
先述したが白リンの炎は燃え尽きるまで消えることはない。
これはつまり…放置すれば皮膚はおろか骨まで到達する火傷を確実に負うことに他ならない。
しかも、白リンは一度消えても再度空気に触れると再び発火するので完全に除去しなければ火傷はどんどん深くなる。
さらに白リンは有毒、傷口から吸収されれば多臓器不全を引き起こす恐れがある。
なので…精々煙幕弾や照明弾の類でしか用いられることはない。
それが…人目掛け使用された。
「ッ大丈夫ですか!?」
ミネは表情を険しくし負傷者の救護に当たる。
「消えないッ!!!消して、誰かこれ消してよおおおッ!!!」」
「暴れてはダメです!白リンが他の場所に付着してしまいます!」
白リンに肌を焼かれる生徒に駆け寄り何とかこれ以上の負傷を防ぎ、
「今お水を掛けます!じっとしていてください!」
すぐに白リンが付着している箇所に水をかけ火を消しにかかる。
一先ずこれで火は消えたがあくまでも時間稼ぎだ。
ここから適切な処置をしなければ再発火は時間の問題だ。
「みっミネ団長、私に何かできることは!?」
「もっとお水を汲んできてください!それから負傷者の搬出を!」
戻ってきた軽傷の正義実現委員会の隊員たちにも協力を仰ぐ。
あの爆発だ、この廃墟が崩落する可能性がある。
すると…
「しっかりして!大丈夫だから!」
白リンから生じた煙が立ち込めた部屋の奥の方から必死な声が聞こえてきた。
「ッこの方を頼みます!」
「はっはい!」
ミネは抑え込んでいた生徒の搬送を任せ、
「救護騎士団です!大丈…なッ!?」
煙をかき分け声の発生源に辿り着くと言葉を失った。
なぜなら…
「う…うぅ…。」
「頑張って!一緒に帰るよ!」
制服がボロボロになった他の生徒よりも体格のいい隊員…分隊長が肌が白リンに焼かれるのにも構わず天井と共に落ちた大梁と崩れた壁の下敷きになった新米隊員を必死に救出しようとしていたのだ。
必死に力を込める分隊長だが…相手は鉄筋コンクリート製の構造物の一部だ。
いかにキヴォトス人と言えども容易く持ち上げられるものではない。
「手伝います!」
「みっミネさん…!」
ミネはすぐさま圧し掛かっている梁を分隊長と共に持ち上げようとする。
「行きますよ、せーのっ!!!」
「「ヌウウウウウウウウッ!!!」」
だが、ミネの腕力をもってしても梁はわずかに動くだけで新米隊員を引っ張り出すには至らない。
「~ッうぐぅ…!」
しかも、分隊長も深手を負い現在進行形でそれは重症化している。
力を込めるのにも限界があった。
「あ、貴方は脱出を!ここは私が!」
そんな彼女にミネは脱出を促すも、
「でッできないわ!この子は私を庇って!」
分隊長は泣きそうな表情を浮かべてそれを拒否し梁を持ち上げようと再び力を込める。
あの時、新米隊員が自分を投げ飛ばしてくれなかったらこうなっていたのは自分のはずだ。
今自分がこうして何とか動けているのも彼女のおかげだ。
見捨てることなど到底できない。
「私のせいでこうなったの!!!お願い、最後までやらせて!!!
「ではもう一度!せーのっ!」
口論している時間も惜しいのか、ミネはそれ以上言わずに再び梁を持ち上げようとした。
…その時、
ビキッビキビキッ
彼女たちの頭上の天井に徐々に亀裂が走り始める。
やはりあの爆発の影響でビルが限界を迎えたのだろう。
そして…
ガボッ!
「「ッ!!?」」
とうとう二人の頭上の天井が崩落してきた。
(たっ盾を…!)
咄嗟にミネはライオットシールドを構え防御しようとするが…
(だっ駄目…間に合わない…!)
両手を塞がれた状態ではそれも叶わない。
(せめて私の体を盾に!)
それでも受け止める覚悟を決めて全身に力を込める。
だが…
ズガァンッ!!!
「…え…?!」
大きな落下音は響いたが…衝撃が一向に来ない。
固く閉じた目を開けると…
ギギギ…ッ
自分の身長を優に超える『真紅の巨人』が崩落してきた天井の塊を受け止めていた。
いきなりの登場に目を白黒させるミネと分隊長。
すると、
「トップがいきなり一人で突っ走るんじゃない、ミネッ!!!」
「ネッネイトさん!?」
『真紅の巨人』…パワーアーマー『X-02』からネイトの声が響いてきた。
「フンっ!」
ガゴン!
ネイトは受け止めた天井の瓦礫を床に下ろし、
「下がってろ、二人とも!」
ヴァルキューレの警察署から拝借してきた消防斧を取り出して崩れた瓦礫に迫る。
が、
「なっなぜ貴方がここに!?セリナ達に脱出するようにと…!」
ミネが驚愕した表情を浮かべてネイトも救護したい一心で先ほどセリナ達に託してきたというのになぜここに来たのか、そう尋ねる。
ネイトは今全方位から狙われている身、こんな場所に来てしまっては逃げ切れるものも逃げきれなくなる。
次の瞬間、
「俺がD.U.から脱出することとこの子達を助けを求めているのは全く別の問題だ!!!」
『ッ!?』
ネイトの裂ぱくの返答が室内に響き渡り、
「ゼェラァッ!!!」
ギャキィイイイン
プルパワーで新米隊員にのしかかった梁の半ばに消防斧のピックを叩きつけた。
その一撃で…ミネたちをもってしてもわずかにしか動かなかった瓦礫が…
ボゴォッ!!!
その箇所から梁のコンクリートが砕け鉄筋があらわとなり重心の影響でぐにゃりと変形した。
「う、嘘…!?」
「フンヌゥッ!!!」
驚く分隊長をしり目にネイトはその箇所から梁をへし曲げ新米隊員の上からどかし、
「Hooahッ!!!」
バダァンッ!
圧し掛かっていた壁の瓦礫を気合の掛け声とともにひっくり返した
「ッだっ大丈夫!?ねぇ、目を開けて!」
「下手に触るなッ!!!
「ひっ!」
すぐさま分隊長は新米隊員に駆け寄ろうとするがネイトはそれを制する。
すると、
バチバチバチッ!!!
「わッ!?」
新米隊員の体の至る所から煙が吹き上がり始めた。
「やはりまともに食らっていたか…!」
それを見たネイトはPip-Boyから自分が変装用に着用していた上着を取り出し彼女に掛け、
バシャバシャバシャ…!
先程コンビニで購入していたミネラルウォーターの一本を満遍なく振りかける。
すると、燃え上がりかけた白リンの火の手は収まり炎上を防いだ。
白リンの発火を抑えるには酸素を遮断するのが最も効果的だ。
ただ水をかけるよりもこうして濡れた布をかけたほうが効果は高い。
「君もッ!!!そのままだと骨まで焼かれるぞ!」
「はっはい!」
ネイトはタオルと水のボトルを分隊長に投げ渡し同様の処置をさせ、
「よし、脱出するぞ!ミネ、抱えられるだけの負傷者を運び出すんだ!」
「わっ分かりました!」
自らはそのままかけた服で彼女を包んで抱え上げてミネたちと共に廃墟ビルを脱した。
ビルの近くの空き地には負傷した正義実現委員会の隊員が横たえられており、
「そろそろ水が無くなりそうです!」
「わっ私汲んできますねッ!」
「もう大丈夫ですよ…!すぐによくなりますからね…!」
「皆が来るまで何とかしのぐんだ!セリナ、声をかけ続けて意識を保たせろ!」
「「はいっ!」」
「セリナにハナエ…!」
セリナとハナエを筆頭とした救護騎士団団員達が負傷者たちに先ほどのネイトと同様の処置を行っていた。
さらにそこへ、
キキィィィィッ!!!
「お待たせしました、ネイトさん!!!指示のあった商品を買い占めてきましたよ!」
「それから搬送先への対応要請も出来ました!すぐに応援に駆けつけてくれるそうです!!!」
「でかしたッ!!!すぐに準備を!手すきの者は応急処置を手伝ってくれ!」
『はいッ!!!』
救護騎士団の救急車も到着しバックドアから荷物を抱えた団員たちが次々と降りてくる。
「い、一体何を…!?」
このような現場になれている救護騎士団だがその動きはいつも以上に機敏なものだ。
ミネも手を動かしつつ目を白黒させていると…
「ミネ、君もトップだったら先行するだけじゃなくて周りをうまく巻き込むんだ!」
パワーアーマーから降りたネイトが彼女にそう声をかけた。
ミネが走り去った直後のこと、
「どっどうしましょう、セリナ先輩っ!」
「ともかく団長を追いかけましょう!」
「ネッネイトさんはどうしましょうか!?」
「それは…!」
セリナやハナエをはじめとした救護騎士団は完全に浮き出し立っていた。
ミネのあのような行動はいつものことだが今回は状況が状況だ。
彼女の後を追いかけるべきだがネイトも放置するわけにもいかない。
その時だ。
「総員、気をぉ付けぇッ!!!」
『ッ!!?』
ザァォッ!!!
公園内にネイトの号令が響き渡り団員たちは思わず姿勢を正した。
「緊急事態につき俺が臨時にこの場の指揮を執る!!!」
「えッ!?ね、ネイトさんっ!?」
突然の事態に思わず姿勢を正しつつも疑問を唱えるセリナだが、
「まずはそこから3分の1は救急車に乗って近隣のドラッグストアに行って水と重曹にワセリン、塩とブドウ糖に必要な道具をありったけ入手して来い!!!金はこれを使え!!!」
それを無視しネイトはPip-Boyから札束を取り出して投げ渡しながら物資の調達、
「次の3分の1は一台の救急車に乗って救急外来のある病院に急行ッ!!!白リン弾が使用された可能性がある、『化学熱傷』の治療準備を要請するんだッ!!!」
迅速な治療を行うための段取りの構築、
「セリナにハナエと残りは俺と来い!!!現地での応急処置を行って時間を稼ぐ!!!」
現場対応の人員を素早く割り当てた。
あまりの怒涛の指示に一瞬固まる団員たちだが…
「さぁさぁ行動開始!!!時間との戦いだぞ!!!」
『ッハイッ!!!』
ネイトの声に弾かれたように行動開始、指示された行動に直ちに入った。
「俺達は走るぞ!!!」
彼もPip-BoyからX-02を取り出し素早く着用、
「行くぞ!!!」
『うわああああああああッ!!?』
バイクの残骸を利用しリヤカーをクラフトしセリナ達を乗せ時速130㎞の快速で駆けだすのであった。
「悪いが団員たちを使わせてもらった!さぁ、俺達も救護に当たるぞ!!!」
「…了解しましたっ!」
ネイトもゴム手袋を着用して正義実現委員会の隊員の応急処置に参加しミネもその後に続く。
いきなりのネイトの指揮代行だったがそのおかげもあって…
「重曹水の追加できました!」
「こちらへお願いします!それから包帯とワセリンをッ!!!」
白リンから発生する有毒な『リン酸』を中和できる『重炭酸塩溶液』、つまり重曹を溶かした水を用い付着した白リンの除去、
「出血と火傷がひどい…!輸液をお願いします!」
「すぐに調合します!」
ミネラルウォーターと塩とブドウ糖を用い即興の『輸液』を作り出し脱水症状への対処と適切な処置が行えることに。
「つぅ…!」
「痛いでしょうがじっとしてください。かなり火傷が深くまで浸透してしまってますので…。」
ミネも落ち着きを取り戻し今は分隊長の応急処置を行っている。
すると、
「ミネさん、あの子は…。」
分隊長が心配そうな表情を浮かべてミネに尋ねる。
「大丈夫です。団員と彼が診てくれてますから。」
彼女はそう答え目線だけをそちらに向けると…
「ネイトさん、前の方の処置が終わりました。」
「よし、こっちも背中の白リンの除去は終わった。」
「は、早い…!」
セリナとハナエと共に何とも手慣れた様子で新米隊員の処置を行うネイトがいた。
「瓦礫の下敷きになっていたのは幸運だ。発火しなかったから火傷も軽度、これなら跡も残らないだろう。」
「白リン弾のほぼ直撃を受けてこれは奇跡ですね…。」
「だが四肢に骨折が診られる。ハナエ、添え木と包帯を持ってきてくれ。ワセリンも頼む。」
「分かりました!」
治療が落ち着いたので骨折の処置の道具をハナエに取りに行ってもらうために離れたところ、
「…あの、ネイトさん。つかぬことをお聞きしますが…。」
「どうかしたか、セリナ?」
「なぜこんなに応急処置がお得意なんですか?」
おずおずとセリナがネイトの応急処置の技術力が高い理由について質問してきた。
彼女もネイトの噂は耳にしていたがそれはあくまで『社長』としての活動や戦闘技術に他派閥の関係などだ。
そんな彼が日々負傷者の治療に当たっている自分たちに…それも白リンという対処に速度と正確さが必須な治療にここまで造詣が深いとは思ってもなかった。
医療従事者として当然の興味から来た質問だが…
「…戦争でな。」
「え…?」
「敵が撃ってきた町一個を火の海にできる白リンの『豪雪』を何度も体験してな。仲間も何人も餌食になったんだ。」
意識だけ彼女に向けネイトは取り残しが無いかチェックしながら答える。
「その時は雪を曝露箇所に押し当てて凍らせたり布の上から泥を被せて発火を抑えたりしたもんさ。」
白リン弾はその用途の広さから米中戦争の戦場では両軍ともに盛んに使用されていた。
中でも前線の兵士が畏れていたのは…『ジンウェイの太鼓』と異名が付けられたロケット砲の一斉射だ。
一たび放たれれば広大な範囲にクラスター爆弾や白リン弾の雨が降り注ぎ辺りを破壊する。
ネイトも幾度となく体験し生き残ってきた中で自然と白リン弾への対処が身についたのだ。
「そう…だったんですか…。」
「…すまない、血生臭い話を聞かせるべきじゃなかったな。」
いかに銃撃戦が日常のキヴォトスとはいえ…彼女たちは戦争とは無縁の存在だ。
年端もいかない少女には自分の話は刺激が強すぎたとネイトは自省する。
「気にしないでください。私も興味本位で聞いてしまったのが…。」
「…そうか。まぁ後は…優秀な『ドクター』に色々手当や治療のやり方を教わったってのも大きいかな。」
お詫びと言ってはなんだが…彼女にこっそりと自分の過去を明かしてあげた。
使命を託され200年以上も研究に明け暮れた後、彼女はネイトとともに旅をした。
更なる医学の発展と…人の可能性を追い求めその鉄の体を捨てて肉体を手に入れるに至りいつもネイトを支えてくれた。
自分があの年まで生きられたのも彼女の尽力あってこそだろう。
(キュリー…君のおかげで俺は若い子を助けられてるよ。)
「ふふふ、とっても素晴らしいお医者様だったんですね。ネイトさんの顔を見れば伝わってきます。」
「あぁ、俺も何度も助けられたものさ。」
遠くなった故郷への思いを感じたのかセリナにも笑顔が戻った。
「さて、セリナ。団員たちは注射はできるか?」
「はい、皆さん普段からやってますからばっちりですよ。」
「よし。じゃあ、これを全員に一本打ってくれ。」
そう言い、ネイトは手に大量のスティムパックを取り出した。
「俺やアビドスの生徒が使ってる緊急用の治療薬だ。体がくの字に折れる重症でもあっという間に治る優れモノだぞ。」
「そ…そんなお薬が…?!」
スティムパックの効果に驚愕するセリナ。
怪我ならば無類の効能を誇るが毒物や化学物質に関しては無毒化はできないので白リンを除去してから投与しなければならなかったのだ。
「門外不出ってやつさ。効果は保証する。」
「分かりました!」
ネイトからスティムパックの注射器を受け取りセリナは喜び勇んで配りに行った。
「………。」
「…ミネさん?」
「ッ!なっ何か?」
「なんだかボォっとしてましたけど…。」
「いっいえ何も問題はありません…。」
いつの間にか手が止まってネイトを見つめていたミネはハッと我に返り、
「そう言えばなぜ正義実現委員会の方々がこちらに?」
話題を変えるために分隊長へここにいる理由を尋ねた。
「………先ほど通報があって…。」
分隊長は同学の生徒ということもあってミネに出動内容を打ち明けた。
「それで彼が匿われていると思った部屋に爆弾が…。」
「…妙ですね。」
それを聞き、ミネは不審に思った。
ネイトに関する情報提供の多さはサンクトゥムタワーで把握している。
これもそのうちの一つなのだろうが…
「これではまるで…こちらを罠に嵌めているようではないですか…。」
明らかな『悪意』をもって行われた通報だ。
現在D.U.をひっくり返すほどの大捕り物になっているネイトに関する…それも非常に詳細な情報も込で行われては連邦生徒会は人員を差し向けざるを得ない。
そこにこの白リン弾も織り交ぜた爆弾とくればミネの結論に至るのも自然だが…
「…一体何が狙いなんですか…?」
問題は犯人の目的だ。
今回は正義実現委員会だったがそんな通報をすればやって来るのは十中八九ヴァルキューレだ。
余程の恨みがあるならば理解できるが…普通はここまで手の込んだ策は巡らせない。
そもそもヴァルキューレを襲うメリットは…
「…ッ!」
いるではないか。
『目的』のためにヴァルキューレだろうが一切の躊躇なく襲い掛かった集団が。
しかも…その集団ならば…
「ネイトさん、添え木持ってきましたよ!」
「ありがとう、ハナエ。」
今のネイトの格好を把握できているはずだ。
「ミネさん?」
「そんな…!」
ミネが最悪の結論に顔を強張らせていると…
「う…うぅ…。」
「どうかしましたか?」
「お水…お水をください…。」
新米隊員が意識を取り戻し水を求めてきた。
「水だな?」
ネイトはそれを聞き…
「わぁ可愛い水筒ですね♪」
「成り行きで手に入れてな。中身を入れててよかった。」
コンビニ強盗撃退に使ったピンクの水筒を取り出しコップに水を注ぎ、
「ほら、起こすぞ。ゆっくり飲むんだ。」
「うぅ…ありがとう…ございます…。」
彼女の上半身を起こしコップを彼女の口に近づける。
…その時、
「死ね、熱砂の猛将…!」
ズダァァァンッッッ!!!
激烈な殺意が込められた凶弾が放たれ…
ドシュゥッ!!!
『ッ!!?』
鮮血が舞い散った。
戦争は、謀略を用い、敵を欺く道である。常道ではない。
―――思想家『孫武』