Fallout archive   作:Rockjaw

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党幹部が党員に尋ねた。
「同志、資本主義の現状はどうなっているかね?」
「はい同志、資本主義は崖っぷちに立っています!」
「では、共産主義の現状はどうかね?」
「はい、共産主義は常に資本主義の先を行っています!」
―――アネクドートの一種


The Final Showdown:Scarlet vs Blood red

【04:21】

 

「う…うぅ…。」

 

衝撃波で砲塔諸共吹き飛ばされたマリナ。

 

流石はキヴォトス人と言うべきか、気絶こそしているがあれだけの一撃を受けて軽傷で済んでいるようだ。

 

すると、

 

ドゴォンッ!!!

 

「うわぁッ!!?」

 

耳を劈く爆音が響き渡り意識が急速に引き戻され飛び起きた。

 

が、飛び起きて目の当たりにしたのは…

 

「起きろ、共産主義者コミー。書記長から『休め』の号令は出てないぞ。」

 

こちらに向け片手でShAK-12を構えるネイトだ。

 

本来は片手では制御できないような反動だがX-02を纏っている状態ならばそれこそエアソフトガン程の反動で操れる。

 

「わッうわあああああ!!?」

 

バララララララ…ッ!!!

 

これに肝をつぶしたマリナは脇に提げていた愛銃PPSh-41『バラライカ』を乱射。

 

…が、貫通力に秀でてはいても所詮は『7.62x25mm弾』と言う拳銃弾の中でも小口径な弾丸では…

 

バチチチチチチ…ッ!

 

「そっそんな!?」

 

火花こそ散らすが傷一つつけることすら叶わない。

 

「…まだやる気があったか。」

 

「うわッ!?」

 

弾切れになったタイミングでネイトはマリナの胸ぐらを掴み…

 

「俺を『始末』するつもりだったんだ。それくらいの度胸見せてもらわなきゃなぁ?」

 

そのまま自分の目線と合わせるように左手で持ち上げた。

 

2.5mにもなるパワーアーマーだ。

 

女子高生にしては高身長な部類のマリナでも宙ぶらりんになる。

 

「はっ放せッ!!!放せぇ!!!」

 

何とか逃れようと抵抗するマリナだが相手は新型シャーシに換装されたX-02、ビクともしない。

 

「さて…キヴォトスでも『正当防衛』は存在するんだったな。」

 

彼女の抵抗を意にも介さずネイトはわざとらしく考えるそぶりをし…

 

「確か…『加害が完遂された場合の被害と同等の反撃までは許容される』…だったか。」

 

「なにを言っている!!?私はレッドウィンター事務局保安委員長の…!」

 

以前見たキヴォトスの法律を唱え…

 

「お前…俺を『殺そう』としてたよな?」

 

「…え?」

 

「だったら…そこまではOKってことだ。」

 

マリナの目的を確認し自己完結で納得した。

 

と同時に…極寒の地に住まうマリナの血すら凍りそうな殺気がネイトからにじみ出る。

 

ここまでの流れを聞き…

 

「~ッ!!?」

 

ようやくマリナも自分が置かれている状況が呑み込めた。

 

つまり、ネイトはこのまま自分を…

 

「いっいや…!」

 

「それじゃ別に苦しめるのは趣味じゃないからサッサと…。」

 

恐怖に顔が歪むマリナを無視するように事を済ませようとShAK-12を彼女の眉間に突きつけるネイト。

 

しかし、

 

「ネイトさん。」

 

そっとネイトの腕にミネが手を添え…

 

「お気持ちは痛いほど分かります。命を狙われれば当然の反応です。キヴォトスの法律も…先ほどの権利は保証しています。」

 

「………。」

 

「ですが…どうかそれ以上は…。」

 

毅然としつつも懇願するような眼差しで彼を説得した。

 

しばしの沈黙ののち…

 

「………分かったよ、ミネ。」

 

手こそ放しはしないがミネの言葉をネイトは受け入れ殺気とShAK-12を引っ込めた。

 

と、ちょうどそんなタイミングを見計らった様に…

 

~♪*1

 

マリナのどこかのポケットから着信のメロディが鳴り響く。

 

「…ミネ、出てもらえるか?」

 

「分かりました。」

 

胸ぐら掴んでおいてなんだがさすがに女子高生の体を弄るのは憚られミネにマリナのスマホを探してもらい…

 

「はい、もしもし?」

 

持ち主のマリナに許可もとらずに出ると、

 

「…はい?あの、少し冷静になってもらえますでしょうか?」

 

どうやら通話相手は相当混乱しているようでミネも落ち着く様に促す。

 

「…カメラで?今も?…分かりました、スピーカーに切り替えます。」

 

それで相手も少しは落ち着いたかミネにスピーカーに切り替えるように頼むと…

 

《やめろぉ!!!それ以上マリナに手を出すなぁッ!!!》

 

相当慌てた様子の幼げな声がスマホから響いた。

 

マリナの関係者かつ現状このタイミングで連絡できるこんな声の持ち主は…

 

「…その声は…レッドウィンターのチビの書記長か。」

 

「チェ、チェリノ書記長!?」

 

現在のレッドウィンターの生徒会長であるチェリノしかいない。

 

《チビとは何だぁッ!?おいらはレッドウィンター事務局書記長兼環境美化部部長・運動部代表・清掃部部長・風紀委員長・給食部部長…!》

 

と、チビと呼ばれたことが気に障ったのかいつもの調子で役職を列挙するチェリノだが…

 

「役職自慢なら電話を切るぞ。さっさと用件を言え。」

 

正直興味はないため早く本題を催促する。

 

《グヌヌヌ…!》

 

《チェリノちゃん、ここは彼の言うことを聞いた方が…!》

 

《トモエまで…!?えぇいッ!!!》

 

どうやら電話を切られるのは拙いのか、側近のトモエの忠告を受け…

 

《話を聞いてくれ、ラフィアン!おいらはお前の『確保』は命じたが『始末』は一言も命じていない!!!》

 

今度は前置きもなしにこの騒動は自分の意志ではないと明かすチェリノ。

 

「それを信じろと?こいつはレッドウィンターの幹部、その幹部が…トップからの命令をはき違えるとでも?」

 

当然、ネイトもすんなりとチェリノの言葉を信じるわけがない。

 

現にマリナは堂々と『チェリノの命令』で『ネイトを始末する』と宣言しているのだ。

 

それをチェリノ本人の言葉だけで誤解だと判断できるほど『始末』と言う事実は軽くはない。

 

すると、

 

《待て、証拠ならある!マリナ、おいらが届けた発令書は今どこにある!?》

 

声だけで分かる必死のチェリノの様子に、

 

「そ、それは私のズボンのポケットに…!」

 

苦しそうにしながらもマリナも答える。

 

「…ミネ、重ね重ねすまないが…。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

再びミネに彼女のポケットを確かめてもらい…

 

「…ありました。検めさせてもらいますね。」

 

「頼む。」

 

レッドウィンターの交渉の封蝋がされていた封筒を見つけた。

 

中身を確かめると…

 

「…レッドウィンター事務局書記長からの発令書ですね。内容は…貴方の身柄をいち早く確保することです、ネイトさん。」

 

確かにチェリノの言葉通り、指令はネイトの確保であって『始末』と言う文言はどこにもなかった。

 

《言っただろう!?いくらおいらでもそんな無理やりすぎる指令は出さないぞ、ラフィアン!!!》

 

「………レッドウィンター事務局からの俺の殺害指令はなかったことは分かった。」

 

物証が出たのでネイトもチェリノが自分を害そうという意図はないことは理解した。

 

《ならば早くマリナを解放…!》

 

チェリノもその言葉を聞き胸ぐらを掴まれているマリナの開放を求めるが…

 

「じゃあなんでこいつは俺を『始末』するなんて言い出したんだ?」

 

ならば問題はマリナのあの言葉だ。

 

何処をどう捻って捩じれば自分を『始末』するという指令に変わるのか理解できない。

 

「それは私も説明を願います。」

 

《そうだ、マリナ!!!なぜそんな結論になったのだ!!?》

 

ミネも視線を鋭くしチェリノも語気をさらに荒げマリナを問い詰める。

 

「そ、それは…!」

 

自分たちを圧倒したネイトとミネ、さらにはチェリノからの詰問を受け…マリナもとぎれとぎれで説明を始めた。

 

マリナは以前から時たまチェリノから…

 

『ネイトのパワーアーマーを手に入れたい』

 

『ネイトがいない隙に何とか奪取できないか。』

 

そんなことを呟いていることを知っていた。

 

一応、マリナもチェリノのことは敬愛している。

 

自分たちの書記長の望みはなんとしても叶えたいと思うのは自然なことだ。

 

しかし、諜報員はほぼ成果を上げられずネイトが纏っていないときのパワーアーマーの所在は把握できない。

 

それでも有事の際は即座に着用することは把握している。

 

ならば…

 

「そっそれで戦闘を仕掛けてラフィアンにパワーアーマーを装着させた後…。」

 

「ネイトさんを排除しこの装備を奪取しようと考えていた…と?」

 

「そ…そうなる…!」

 

あまりにも飛躍したアイデアに…

 

《あぁ…なんてバカなことを…!》

 

痛い頭を抱えていることが声だけで伝わってくる反応を見せるチェリノに、

 

「俺は『ヤドカリハーミットクラブ』か何かかよ…!?」

 

ヘルメットの中のネイトの顔も困惑に歪んでいた。

 

が、

 

「…あぁ~もうなんか戦う気が失せた…。」

 

「あいたッ!?」

 

こんな『バカ』相手にムキになるのが馬鹿らしくなりマリナを掴んでいた左手を放し彼女を地面に落とす。

 

アラスカで実に10年も共産国の軍隊をいやというほど見てきた彼でもこれほどの『バカ』を目の当たりにするのは初めてだった。

 

《わっ分かってくれたか、ラフィアン!》

 

許してもらえたと胸をなでおろすチェリノ。

 

だが、

 

「勘違いするな、チビ。コイツが『殺人』を犯そうとしていたことに変わりはない。」

 

《ンぐ…!?》

 

そんなチェリノに冷や水をぶっかけるように事実を告げるネイト。

 

その証拠に声の鋭さは変わりなく銃口は1㎜たりともマリナからずれてはいない。

 

「見てるってことはこのバカの言葉も記録されているということだ。証人も大勢いる。」

 

《そっそれは…!》

 

いかに勘違いとはいえマリナがネイトを手に掛けようとしていた事は覆しようのない事実だ。

 

「殺人未遂も確かキヴォトスだと重罪だ。…さて、このままこいつをヴァルキューレに突き出せばどうなるかな?」

 

『殺人』には強い忌避感を示すキヴォトス人。

 

その忌避っぷりは『外患誘致』などの国家転覆級の重犯罪と同列かそれ以上に扱われていると言えば伝わるだろう。

 

それは未遂であっても変わることはない。

 

そんな大罪をレッドウィンターの、それも中枢組織である事務局の保安委員長が犯したともなれば…

 

《そ…そんなことをされては我が校の存続が…!》

 

その責任は当然チェリノにも及ぶだろう。

 

すると、

 

「…一つ聞く。このことを把握しているのは俺とお前等、そして救護騎士団だけだな?」

 

ネイトが突如チェリノに質問を投げかけた。

 

《え?そ、それは…!》

 

言い淀むチェリノだが

 

「さっさと答えろ。共産主義者コミーに時間をかけるのは無駄の極みだからな。」

 

事情が事情な上ネイトに待ったなしで急かされ…

 

《…あぁ、ここにはおいらと秘書官だけだぁ!!!》

 

半ばやけくそで答えてしまった。

 

《なっ何を言ってるんで…!?》

 

「何か聞き覚えのある礼儀知らずの堅物メガネの声が聞こえたが?」

 

《気のせいだっ!!!これは現場とここだけでおさまることだぁ!!!》

 

さらにネイトのツッコミを勢いで誤魔化してしまう始末。

 

それを聞き…

 

「いいだろう。だったら、いくつか条件を飲めば…この場はなかったことにしてやる。」

 

ネイトは彼女に『和解案』を提示した。

 

《許してくれるのか、ラフィアン!?》

 

初めてこちらにメリットがある提案がされて声に張りが戻るチェリノだが、

 

「勘違いするな。『和解』だ、もし俺の条件を反故にすれば…末路は変わらない。」

 

《グッ…条件を聞かせてもらおう…!》

 

ネイトに釘を刺され真面目に話を続けることに。

 

「一つ、俺の追跡から手を引け。お前等じゃ俺を確保できないことは…いやというほど理解できただろう?」

 

《…分かった、手を引こう…!どうせおいらが連邦生徒会に差し出した部隊も壊滅しているしな…!》

 

チェリノの言うように彼女が連邦生徒会に支援要員として差し出した保安委員会部隊と戦車は今しがた壊滅した。

 

図らずもすでに条件は満たされているということになる。

 

「二つ、この場での救護騎士団の戦闘も不問にしろ。」

 

《それは貴様とは関係が…!》

 

二つ目の条件にチェリノは意見しようとする。

 

あわよくばこの後、トリニティにこのことを訴え損害の補填を考えていたのだろう。

 

が、

 

「拒否権があるとでも?もしこの後、彼女たちを非難するなら…分かるな?」

 

《グヌヌヌ…!えぇい分かった!トリニティにも手出しはしない!》

 

既に交渉の決定権はネイトにあるのでその思惑は叶わないようだ。

 

共産主義者コミーにしては話が通じるじゃないか。誉めてやろう。」

 

《さっきからコミーコミーとそれは一体何なんだ!?》

 

「お前が知る必要はない。それじゃ最後の条件だ。」

 

《まだあるのか!?》

 

「むしろこれが本命だ。レッドウィンターは…。」

 

そして、最後にネイトが出した和解の条件に…

 

《…そんなのを求めてどうするんだ?》

 

チェリノは首を傾げるが…

 

「そんなものお前が気にする必要はない。ただこれを受け入れればいいだけだ。」

 

《わ、分かった…!承諾しよう…!》

 

にべもないネイトの言葉に半信半疑のまま承諾するのであった。

 

「いいか、必ず履行しろよ。そっちは映像、こっちにはミネと言う証人もいるんだからな。」

 

《分かっている…!レッドウィンターが存続するなら安いものだ…!》

 

「そう言うことだ。じゃあ、切るぞ。」

 

《まっ待て、ラフィ…!》

 

まだ何か言いたそうなチェリノを無視し、

 

ツーツー…

 

一方的に通話を終了するネイトなのであった。

 

「はぁ…全くなんて夜だ…。」

 

宿舎は巡航ミサイルで吹き飛ばされ逃げた先では襲撃され都市高でカーチェイスを繰り広げ強盗に出くわし警察署に行けばそこも襲撃され自分をおびき出す爆発が起き肩を撃たれバカの独断でこんな大立ち回りを繰り広げる…。

 

ネイトであってもぼやきたくなるのは無理もないだろう。

 

と、その時…

 

ズキンッ!

 

「つぅ…!」

 

戦闘中の高揚感が解けたかネイトの右肩に強く鋭い痛みが襲った。

 

「ッ!ネイトさん!」

 

その声を聞きミネはネイトに駆け寄り、

 

「すぐに処置をします!これを脱いでください!」

 

「分かった…!」

 

自身の医療道具を取り出し彼の手当てを始めるのであった。

 

【04:08】

 

「どういうつもりですか、ツルギさん!?」

 

場面は変わりサンクトゥムタワー内にあるトリニティの指揮所。

 

そこでナギサが怒りの形相で問いかけているのは…

 

「先ほど申した通りです、ナギサ様。」

 

正義実現委員会委員長にして名実ともに『トリニティ最強』の一角、剣先ツルギだ。

 

本来、正義実現委員会はティーパーティー直属の治安維持部隊。

 

ティーパーティーの命令は絶対のはずなのに現地にいるマシロは独断でネイトを支援しツルギもそれを容認してしまった。

 

「もう夜明けまで時間がないこの状況でもしここで彼の確保に失敗すればッ!!!」

 

明らかな越権行為として彼女を見咎めるナギサだが…

 

「お言葉を返すようですがあの場面で…マシロに潜伏を続けさせ彼を見捨てた場合と彼を援護した場合…どちらが事態を悪化させずに済むかと私なりに考えた結果です。」

 

「グッ…!」

 

さらにその先を見据えているツルギの意見で言葉を詰まらせる。

 

ツルギの言うように現在最も避けなければならないのはネイトに逃亡されることではない。

 

あのまま襲撃者がネイトに二発目を命中させていたら…

 

「………分かりました…!」

 

その場合の結末を想像しナギサも冷静さを取り戻すも…

 

「では、この後はどうするのですか…!?」

 

以前として鋭い視線をツルギに向けつつ問いかける。

 

「事実、もう時間はありません…!このまま彼を確保できなければ…あとに待つのは…!」

 

これは最早ネイトの身の安全だけの問題ではない。

 

連邦生徒会もトリニティもこれだけの力を注いで、なおキヴォトス人でもない一人の大人を確保できない。

 

この事実は『三大校』に列せられている学校でありながらその無力さをキヴォトス中に知らしめることに他ならず『トリニティ』としての権威失墜…『程度』では済まない。

 

「っ!ウゥ…!」

 

「ナっナギサ様!?」

 

「どこかお加減でも悪いのですか!?」

 

最近一番の胃痛が走り蹲るナギサ。

 

すると…

 

「ナギサ様、私に出動許可をください。」

 

「ハイ…?!」

 

「私が…彼を確保してみせます。」

 

ネイト確保に名乗りを上げるツルギ。

 

「…遂行できるのですか、ツルギさん…!?」

 

胃が痛むのをこらえつつ蒼い顔で尋ね返すナギサに、

 

「はい、必ずや…彼をサンクトゥムタワーまでお連れします。」

 

ツルギも真剣な表情で返す。

 

それを聞き…

 

「…いいでしょう…!ツルギさん、貴方と残存の正義実現委員会に出動命令を発令します…!」

 

ナギサも表情に力を込め、

 

「『フィリウス』所有の輸送ヘリが来ています…!それに乗って現地へ向かってください…!」

 

自派閥のヘリも与えネイト確保へ出動させるのだった。

 

「お心遣いありがとうございます。では…。ハスミ、行くぞ。」

 

「はい。」

 

そう言い残し、控えていたハスミと共にその部屋を後にしようとするツルギ。

 

だが、

 

「じゃあ、私もお手伝いに行っちゃおうかなぁ~?」

 

その前にミカがドアを開けて入室してきた。

 

「ッ!」

 

「みっミカさん、いつの間に…!?」

 

「お散歩してたらナギちゃんの叫ぶ声が聞こえてね~。」

 

「…それでミカ様。お手伝い…と言うのは?」

 

聞き間違いであってほしいと願いつつハスミが尋ねるが…

 

「ん~?言葉通りだよ、ハスミちゃん?」

 

無情にもミカの言葉はそのままの意味だったようだ。

 

「しかし…今D.U.は混乱状態です。もし、ティーパーティーの貴方の身に何かあったら…。」

 

ハスミの心配ももっともだが…

 

「も~心配性だなぁ~。これでも私、結構強いんだよ?」

 

「それは…。」

 

「それに派閥の子たちもいるから平気だよ~。」

 

聖園ミカ、『力』を信奉するパテル分派のトップ。

 

それはつまり…トリニティにおける『力』の象徴に他ならない。

 

実際に見たものは少ないがその実力は…

 

「ねぇいいでしょ、ツルギちゃん?貴方がもう一人増えるみたいなものなんだから~。」

 

「………。」

 

『トリニティの戦略兵器』と称される剣先ツルギに比類するとも言われている。

 

「ねぇ、ナギちゃんだっていいでしょ?ナギちゃんに任せっぱなしだから私だって何かやりたいの。」

 

と、そんな幼馴染の『おねだり』を受け…

 

「…分かりました。ですがくれぐれも無理をせず気を付けていってくださいね。」

 

ナギサも彼女の出動を許可する。

 

「やった~!じゃあ、うちのヘリも飛行準備をお願いするね!」

 

それを聞き、ミカはヘリポートへ向かっていった。

 

「…お二方もよろしいですね。」

 

「…承知しました。」

 

こうなってしまってはツルギたちも拒否することはできない。

 

短くナギサの言葉に答え二人もヘリポートへと向かう。

 

「…ツルギ、貴方まさか…。」

 

「………。」

 

【04:45】

 

その後、現状の最高戦力ともいえるツルギとミカがそれぞれ乗った二機の輸送ヘリ『HC.1』が離陸。

 

ネイトがいるD.U.東部へと飛行していた。

 

どちらのヘリにも二人の部下や派閥員が満載されている。

 

《そろそろ彼が最後に捕捉された周辺です!これより捜索を開始します!》

 

やはり空路、ほんの数十分ほどで目的地周辺に到着した。

 

操縦者や乗員も目を皿にして地上を捜索する。

 

すると…

 

「ッ。ツルギ、あそこを…!」

 

ハスミが何かを見つけた。

 

彼女が指さした先では多数の救急車と救急隊員が駆けつけ救護騎士団と共に傷付いたレッドウィンターの生徒が搬送されていた。

 

しかも、無残にも破壊された同校所有の戦車まである。

 

「…戦場の痕跡がまだ新しい。付近にいるはずだ。」

 

淡々と語るツルギだが…

 

「ミネ団長も一緒に戦っていましたが…恐ろしい戦闘能力ですね…。」

 

あれほどの部隊をほぼ二人で制圧した、その事実にハスミの表情は引き締まる。

 

その時、

 

《あー!見つけたよ!》

 

前方を飛ぶミカが何かを見つけたようだ。

 

「パイロット、何か見えますか!?」

 

《はい、前方2㎞にゲヘナ方面へ走っている二台のトラックを確認!》

 

見ると確かに夜の街中を疾走する二台のトラック、しかも…

 

《車種判明、レッドウィンター製『GAZ-AA』です!》

 

先程撃退されていたレッドウィンター製のもの。

 

あの学校の生徒が単独行動しているとは思えない。

 

つまり…

 

「あのどちらかにネイト社長が…!」

 

本命の確率は50%、ここにきてようやく現実的な確率になった。

 

すると、

 

《あ、二手に分かれたよ!》

 

二台のトラックは別々の道に進み始める。

 

「この道の先は!?」

 

《右の道はゲヘナに続いていますが左の道はこのまま郊外の道を進むルートです!》

 

それぞれの行き先を確認し、

 

《じゃあ、私達はゲヘナ方面に行った方追っかけるからツルギちゃん達はもう片っぽをお願いね!》

 

いうが早いかミカが乗るヘリはゲヘナ方面へ走っていったヘリに向け進路を変更し飛び去って行った。

 

「み、ミカ様!勝手にそんな…!」

 

それを引き留めようとするハスミだが…

 

「いや、いい。」

 

「ツルギ…?」

 

「このまま私達はもう片方を追うぞ。」

 

ツルギはそれを制し、指示通りもう一台のトラックを追いかけるのであった。

 

「…なぜですか、ツルギ?彼とゲヘナの関係性を考えればミカ様のルートが…。」

 

ハスミの意見ももっともだ。

 

アビドスとネイトはあのゲヘナと非常に友好的な関係を構築している。

 

彼の危機的状況、そしてこれまでの移動経路。

 

それらを考えればゲヘナに脱出することは理にかなっている。

 

今の正義実現委員会の状況を鑑みると…彼を確保しなければ危うい。

 

このままではミカに先を越されてしまうが…

 

「私はずっと考えていた。…私達は彼について何か見落としたことはないか、とな。」

 

「見落とし?」

 

「彼が何を最も信じ、何に頼るか…それを考えれば…。」

 

そうツルギは呟き、輸送ヘリはトラックの後を追う。

 

ヘリとトラックでは速度に歴然の差がある。

 

《ミカ様、トラックに追いつきました!》

 

「じゃあトラックの進行方向を塞ぐように降下して~。」

 

そう時間もかからずにミカのヘリはすぐにトラックに追い抜き…

 

《降下しました!》

 

ゲヘナとの境まで残り数㎞の所でトラックを塞ぐようにヘリを着陸させ…

 

「さぁ、皆降りて~。お騒がせな大人を迎えに行こ~♪」

 

ミカを筆頭にパテル分派の派閥員が整列しトラックを待ち受ける。

 

そして…

 

キキイイイッ!!!

 

『GAZ-AA』がヘリから数十mの距離で急ブレーキをかけ停止した。

 

《あーあー、聞こえてる~?追いかけっこはもうおしまいだよ~。もう降参してサンクトゥムタワーに帰ろうよ~。》

 

ミカは拡声器を使いトラックに乗っている者に投降を呼びかけた。

 

しかし、運転していた者は降りてこない。

 

《早く降りてきてよ~。夜更かしはお肌の大敵なんだからあまり我儘しないで~。》

 

なおもマイペースに呼び掛けるミカだが…

 

ジャキン

 

その手に握られたランチェスター短機関銃『Quis ut Deus』はしっかりとトラックの運転席を捉えていた。

 

後に控えたパテル分派の同胞も『M1ガーランド』を構えている。

 

どうやら投降を無視し続けた場合は…。

 

その時、

 

バガッバギャァン!!!

 

『ッ!?』

 

トラックの左右のドアが内側から叩き壊され…

 

「お~?お嬢様が勢ぞろいしてるぞ、姉ちゃん。」

 

「へへっこんな夜遅くにご苦労なこった。」

 

「………貴方達誰かなあ~?」

 

ボロボロになった防弾ヘルメットと装甲溶接マスクをそれぞれ身に着けたカイアとサイナ…レッドウィンターの最強姉妹が現れた。

 

「まぁ誰でもいいじゃないか、お茶会ちゃん。」

 

「…お茶会ちゃん?」

 

サイナの無遠慮な、しかも一切呼ばれたことのない呼ばれ方にミカは片眉を上げる。

 

「すまないな、コイツ頭の出来はあんま良くないんだ。」

 

「ひでぇな、姉ちゃん!あいつ、トリニティのヒゲみてぇなポジションなんだろ?!」

 

「おぉ~それが理解できてるんなら上出来だ、妹よ。」

 

と、姉妹でなんとも砕けた会話を繰り広げていると…

 

「…ねぇあの大人はどこなの?」

 

明らかに不機嫌になったミカがネイトの所在を尋ねると…

 

「見たら分かるだろ。このトラックには私らしか乗ってないってのがよ。」

 

なにを今更と言わんばかりにカイアが呆れながら答えた。

 

「…あっそ。じゃあもうどっか行っちゃっていいよ。」

 

それだけ聞くと用はないと言わんばかりにミカは振り返りヘリに乗り込もうとする。

 

だが…

 

ズダダダンッズダダダンッ!!!

 

『ッ!!?』

 

突如として背後から銃声が鳴り響き…

 

バギィンバガァン!!!

 

『HC.1』の前後のプロペラの駆動部に着弾しそこからオイルや内部部品が零れ落ちる。

 

「え、エンジンがッ!?」

 

ヘリの命ともいえる部位を撃ち抜かれ『HC.1』はただの鉄の塊になり下がった。

 

「………どういうつもりなの?」

 

ミカが真剣な表情で振り向くと…

 

「ヒュ~姉ちゃんやっぱ射撃上手ぇなぁ~。」

 

「お前が下手すぎるんだ。もっと練習しろ。」

 

カイアが銃口から硝煙を上げる『ムシチェーニイェ』を構えていた。

 

「…悪いがアンタたちの追いかけっこはここまでだ。」

 

「なに?意味が分かんないんだけど?」

 

「分かる必要はない。ただ…。」

 

ますます不機嫌になるミカに対しカイアはそこで言葉を区切り…

 

「私らはアンタ等の邪魔をしに来た。それだけ知ってればいい。」

 

ガコンッ

 

僅かに残ったフェイスガードを下ろし

 

「少し付き合ってもらうぞ、トリニティのお茶会ちゃん。」

 

ガシャンッ

 

サイナも歪んだ装甲溶接マスクを下ろし『グルービー』とスレッジハンマーを構える。

 

「…ふ~んそう言うことかぁ。」

 

ミカはようやく二人をまっすぐ見据え…

 

「いいよ。『雪合戦』しよっか、レッドウィンターの礼儀知らずな田舎者さん?」

 

不機嫌さを隠す様な笑みを浮かべ『Quis ut Deus』の銃口を二人に向けた。

 

それを合図に…

 

「ハハッ行くぞ、サイナ!!!今日は贅沢にデザートまで来てくれたぞ!!!」

 

「オウ、姉ちゃん!!!アイツの伸びた鼻っ柱を叩き潰してやろうぜ!!!」

 

レッドウィンター最強の姉妹が彼女たちの持つ耳や尻尾の持ち主である『クズリ』の如く彼女に襲い掛かった。

 

そしてもう一台の郊外へ向かっていたGAZ-AAでは…

 

バララララ…ッ!

 

「なんとか一機を囮に食らいつけさせられたが…!」

 

運転席からこのトラックを執拗に追いかけ続けている『HC.1』を恨めしそうに見つめるネイトがいた。

 

数分前の事…

 

「…これで何とか止血はできました…!」

 

「手間を掛けさせるな、ミネ。」

 

パワーアーマーから降りたネイトはミネに銃創周辺の処置を行ってもらっていた。

 

やはり、動いたせいか出血が少々ひどくなっていたが…

 

「『セイント・アンド・メディカル社』の包帯です。止血と消毒の効果があって圧迫止血にも有用です…!」

 

ミネの持つ特殊な包帯のおかげで止血は完了。

 

それでも…

 

「弾頭は少し露出していたので包帯とガーゼで固定しています…!周囲には細胞の再生を促す軟膏を塗付しましたが…!」

 

ミネの表情は険しい。

 

「…教えてくれ。この状態だと俺はどのくらい『動ける』?」

 

それを見たネイトは単刀直入にそう尋ねた。

 

彼女は沈痛な面持ちを浮かべ…

 

「…歩くだけならば…最大2時間です…!」

 

正直に、ネイトに残されたタイムリミットを明かす。

 

もしそれを過ぎれば…

 

「二時間…か。」

 

「それを超えれば…低体温症を発症し止血の効果もなくなりもう血液の流出は止まりません…!」

 

待つのは死への直滑降だ。

 

「…分かった。」

 

それを聞き、ネイトは上着を着直す。

 

「………。」

 

「…そんな顔をするな、ミネ。俺は気にしちゃいない。」

 

悔しそうに俯くミネにネイトは励ますように声をかける。

 

本来ならば即座にネイトも病院に搬送し処置を受けなければならない。

 

しかし…

 

「もうこの近辺の病院は一杯だろう。今からこの重傷を処置できる病院に向かうにしても…リスクがデカい。」

 

皮肉にもネイトとミネたちによってその手段は閉ざされていた。

 

正義実現委員会の搬送と今しがた自分たちが叩きのめしたレッドウィンター保安委員会の部隊。

 

これだけの負傷者が発生したのだ。

 

付近の病院と言う病院は一杯だろう。

 

戻るにしても…ネイト単身では襲撃の危険性がある。

 

「だから…俺は先に進ませてもらうぞ。」

 

そう、ミネの肩をポンと叩き…

 

「ネイトさん…!」

 

「行っちゃうん…ですか…?!」

 

「世話になったな、セリナにハナエ。こいつらの手当て、頼んだぞ。」

 

泣きそうな表情で自分を見るセリナやハナエたちに別れを告げ…

 

「おい、バカコミー。お前らのトラック借りるぞ。」

 

「好きにしたらいい…。どうせ私は帰ったら粛清されるんだ…。」

 

一応マリナに断りを入れレッドウィンター部隊が乗ってきたGAZ-AAを拝借することに。

 

適当な一台に乗り込もうとすると…

 

「…待ちな、дядя。」

 

「ん?」

 

「なにも言わずに行っちまうのかよ。」

 

顔が傷だらけになったカイアと、

 

「姉ちゃんに勝ったんだろ?すげぇな、дядя!」

 

これまた派手に鼻血を出した跡のあるサイナが立っていた。

 

あれだけの攻撃を受けて意識を回復させるだけでなく元気に立ち上がれるとは…

 

「…最強を名乗るだけはあるな。」

 

そのタフネスっぷりにはネイトも賞賛するしかない。

 

「なっ、貴方達…!」

 

これを見たミネがライオットシールドと消防斧を携え二人とネイトの間に立とうとすると…

 

「待ちな、団長さん。」

 

「アタシら今はもうあんた達とやり合う気はねぇよ。」

 

「え…?」

 

ホールドアップし敵意が無い事を現す柊姉妹。

 

そして…

 

「なぁдядя…手を貸そうか?」

 

「なに?」

 

「アタシらがもう一台のトラックに乗って追手を混乱させようってハラさ。」

 

近くにあったトラックのドアを叩きネイトに協力を申し出た。

 

これほどの大騒動だ。

 

またすぐにネイトに連邦生徒会やトリニティの追手が掛かるだろう。

 

「どぉせこのままレッドウィンターにとんぼ返りするくらいならもう少し遊んでも罰は当たらないだろ?」

 

そこで柊姉妹がもう一台のトラックで囮を買って出ようということだ。

 

「それにдядяが逃げ切ったほうがまた闘り合えるしな!あ、今度はアタシの番だかんな、姉ちゃん!」

 

「私がこんなになってんだからお前が敵う訳ないだろ、サイナ。」

 

と、姉妹でじゃれ合っていると…

 

「…で、見返りはなんだ?」

 

ネイトは二人に協力の対価を尋ねた。

 

「あ、見返り?」

 

「…それじゃあ。」

 

サイナはピンとこないが学級委員長のカイアはネイトの心情を察し…

 

「…チョコレート。」

 

「…は?」

 

「旨いお高いチョコレートを腹一杯食いたい。あ、うちのクラスのもん全員の分もついでにな。」

 

漠然と彼女の好物でありレッドウィンターではまず手に入らない高級チョコを求めた。

 

「あッそれいいな!チェリョンカもいいけどもっとうまいのあるならアタシも食いてぇ!」

 

サイナもその報酬に納得したようだ。

 

そんななんとも無邪気な答えを聞き…

 

「…プっあははははははっってイツツツ…!」

 

ネイトは思わず肩を怪我していることを忘れ噴き出した。

 

痛みが走り笑いこそ収まったものの、

 

「全く変な連中だ。良いだろう、生きて帰れたらいやというほどチョコレートを送ってやるよ。」

 

今晩初めて不敵な笑みを浮かべ柊姉妹の要求を受け入れた。

 

「んじゃ、そろそろ行くぞ。」

 

「おう。んじゃ、マリナ。チビへの言い訳よろしく。」

 

こうして互いにそれぞれトラックに乗り込み出発しようとする。

 

その時…

 

「…ネイトさん、これを。」

 

ミネが何かをネイトに差し出した。

――――――――――――

 

――――――

 

――

ネイトと柊姉妹の予測は正しかった。

 

想定外だったのは…

 

(まだヘリ二機を派遣する余力があったとは…!)

 

追手にやってきたのはトリニティのエンブレムが描かれた二機の輸送ヘリ。

 

「柊姉妹、次の分岐で別れるぞ!!!」

 

《分かった!じゃあな、約束忘れんなよ!》

 

《こっちに来たやつは任せな!》

 

そして、あるタイミングでトラックは分かれ…

 

バララララ…ッ!

 

一機のヘリは柊姉妹のトラックに喰いついたが…

 

バララララ…ッ!

 

残りの一機がいまだに自分のトラックに食らい付いてくる。

 

「…あと5㎞…!何とか…!」

 

目的地まであとわずか、このままいけば…。

 

そう願った、その時だ。

 

バガァンガゴァン!

 

「ッ!!?」

 

フロント部分に二か所の風穴が穿たれオイルと蒸気が噴き出した。

 

もしやと思いヘリを見上げると…

 

「ツルギ、エンジンを破壊しました。」

 

ヘリのハッチから身を乗り出したハスミが硝煙が靡く自身の愛銃であるP14エンフィールド『インペイルメント』を構えていた。

 

(アイツ…先生が赴任した時にチームを組んだっていう正義実現委員会の…!)

 

以前先生からちらっと聞いた話を思い出すネイト。

 

彼女の一撃はクルセイダー1型の装甲すら撃ち抜くという。

 

そんな彼女の名前は…

 

(副委員長の『羽川ハスミ』…!!|)

 

正義実現委員会のNo2の登場。

 

つまり、あのヘリに乗っているのは…。

 

そうこうしているうちにトラックのエンジンは息絶え速度は徐々に落ちる。

 

「…ここまでか…。」

 

ネイトは覚悟を決め近くにあった廃工場の一角にトラックを停車。

 

それを見たヘリも少し離れた場所に着陸。

 

中から続々と正義実現委員会の制服を着た生徒たちが降り立ち…

 

「………。」

 

彼女たちの後に続きハスミと…

 

「………。」

 

明らかに別格で異質なオーラを放つ猫背の生徒…ツルギが最後に降り立った。

 

彼女たちは即座にネイトを包囲し、

 

「…初めまして、ネイト社長。私は…。」

 

ハスミとツルギが前に出て自己紹介しようとすると…

 

「知っている。正義実現委員会副委員長の『羽川ハスミ』、先生…弟子が以前世話になったらしいな。」

 

先生経由で既知であることを告げるネイト。

 

「っいえ、私こそとても助けていただきました。」

 

彼と先生が師弟関係だとは聞いていたが改めて事実とわかり思わず頭を下げるハスミ。

 

だが、ネイトの視線は…

 

「…そして、その隣が…トリニティの『戦略兵器』、正義実現委員会委員長の剣先ツルギだな。」

 

そんなハスミよりもはるかに小柄に想える生徒、ツルギを射抜く様に向けられていた。

 

「………。」

 

「…どうやら素直に俺を逃がしてはもらえないらしい。」

 

無言でこちらを射殺すような目を向けるツルギを見てネイトも逃走を断念。

 

すでに包囲されている。

 

この場で脱出するには…

 

(残り時間は…。)

 

考えを巡らし策を練っていると…

 

「…ネイト社長、まずはあなたにお礼を。」

 

ツルギはそう言葉を発し、

 

「正義実現委員会委員長として…同胞を救助し手当てしてくださり…深く感謝します。」

 

背筋を伸ばしネイトに深々と頭を下げた。

 

ハスミも彼女に倣い最敬礼の姿勢をとり。周囲にいる隊員も挙手の敬礼をささげる。

 

「…恩を感じているのならこのまま行かせて欲しいんだが?」

 

無駄だろうがそう交渉してみるネイトだが…

 

「それはできない。」

 

姿勢を正しピシャリとツルギは拒否する。

 

「貴方を確保しなければトリニティに大きな影響が出る。貴方の事情も我々の学校に思うところがあるのも理解するが…御同行願おう。」

 

そして、ツルギはネイトに対し逃走劇の終焉を求める。

 

彼女たちはトリニティの守護者でもある。

 

その役目を考えれば当然のことだ。

 

だが…

 

「…一つ聞かせてくれ。なぜ…俺のトラックをあそこまで躊躇なく追いかけられた?」

 

ネイトは話題を変え自分を追い詰めた理由を問う。

 

答えこそ明かさないが…あちらはすでに見抜いているだろう。

 

「…確かにゲヘナに逃亡する線は考えた。だが…貴方はゲヘナでも襲撃はあると考えるはず。」

 

ツルギも淡々と答え始める。

 

確かにネイトとゲヘナはトリニティよりもはるかに友好的だ。

 

身を寄せるにはもってこいの場所だ。

 

しかし…

 

「ゲヘナの中心街までは学境を超えてもまだ距離がある。その道中は完全に無防備になるはずだ。」

 

D.U.を脱してなお距離という問題が立ち塞がる。

 

境界には万魔殿の機械化部隊が集結してるらしいがそれでも無防備な時間がある。

 

ネイトが…そのことを理解していないはずがない、ツルギはそう予測した。

 

「だから考えた。貴方が最後に頼る依り代を。」

 

「………。」

 

「そして気付いた。…このD.U.にある『飛び地』の存在に。」

 

ツルギは遠くを指さし…

 

「この先にあるのは…セイント・ネフティス社所有の飛行場。そこに…アビドスの輸送機があるんだろ?」

 

誰も予想しなかったネイトの脱出手段を言い当てた。

 

そんな彼女の答えに…

 

「………お見事、まさかそこまで見抜く奴がいたとはな。」

 

これにはネイトも感服したように打ち明ける。

 

この先にあるのは…ノノミ達を運んできたアビドスの『特殊輸送隊』の機体だ。

 

しかも、その飛行機には少々特殊な装備が積まれているうえアビドス所有の機体だ。

 

今晩のD.U.において…これ以上信頼できる脱出手段はないだろう。

 

ツルギは地図を穴が開くほど読みネイトの動向を分析し…答えを導き出したのだ。

 

「重ね重ね言うが…貴方は私の仲間を救ってくれた。だから…」

 

ツルギはそう…まるで最後通牒のように…

 

「ただ一言…降伏してください。」

 

願うようにネイトにそう要求する。

 

ネイトがもし受け入れれば自分たちが必ず守る覚悟を固めている。

 

すぐにD.U.一の病院に搬送し最高の治療を提供する。

 

それがこれまでトリニティが働いてきた数々の無礼と恩に報いる方法だ。

 

ネイトの答えは…

 

「断る…!」

 

ズゥン

 

その短い答えと共にX-02を出現させ明確な拒否を示した。

 

「俺にだってな…譲れないものがあるんだよ…!」

 

例え情けからだろうが恩義からだろうが…

 

「ただの娘っ子相手に『諦めろ』と言われて…はいそうですかって受け入れられるわけないだろうが…!」

 

ただ膝を折ることなど…ネイトの生き方には1㎜も入り込む余地もない。

 

『…っ!』

 

正義実現委員会の隊員に緊張が走る。

 

交渉は完全に決裂した。

 

自分たちの仲間を救ってくれた『盾』が…今度は自分たちに襲い掛かる『矛』として現れた。

 

相手は肩に大けがを負った外から来た大人だ。

 

一発で決着が付けられるはずなのに…誰も動けない。

 

だが…

 

「…そうか。」

 

ツルギは冷静に受け止め…

 

シュルッ

 

自分の首に下がっていた赤いリボンを取り…

 

ファサッ

 

それを地面に投げた。

 

一見すれば理解できない所作だが…

 

「…決闘、と言うことか?」

 

「理解が早くて助かる。」

 

ネイトにはすぐにその意図を察せることが出来た。

 

『決闘』、古式ゆかしい双方の問題を戦いによって解決する方法だ。

 

方法は多岐にわたるがネイトが知る中では挑戦状として手袋を投げるというものがある。

 

事実、長い伝統を誇るトリニティには伝統的に認められた問題の解決方法でその手順などもしっかり校則の中に明記されている。

 

現在ではほぼ忘れ去られたことだが…ツルギはそれを利用したのだ。

 

無論、断ることもできる。

 

正直言って…ネイトには受け入れるメリットはない。

 

だが…

 

「…いいだろう。」

 

ネイトは受けて立つことに。

 

周りの正義実現委員会は騒めき立つ。

 

この重傷を負ったただの人間が…

 

「きひっ…!」

 

トリニティ最強と戦おうというではないか。

 

「ハスミ、立会人を務めろ…!」

 

一歩歩み出てハスミに命令するツルギ、

 

「…分かりました。ルールは…。」

 

「貴方が決めろ、ネイト社長…!」

 

そしてネイトにルールをゆだねるが…

 

「シンプルだ。何でもあり、相手が10カウント数えるまでに立ち上がらなければ…ソイツの負けだ。」

 

「きゃはっいいなぁ、それ…!」

 

彼女好みの素敵なルールを提示してくれた。

 

ネイトもそう告げ…

 

「悪いが…手加減する余裕はない…!」

 

X-02に乗り込み臨戦態勢をとる。

 

手に持つのはM32A1とShAK-12、今持てる最大火力の武器だ。

 

「きゃはっそんなの端っから期待していない…!」

 

ツルギも凶暴な表情を浮かべ…両手にそれを構える。

 

ウィンチェスターM1887『ブラッド&ガンパウダー』。

 

彼女の血塗られた経歴に硝煙の香りを添え続けてきた彼女の愛銃だ。

 

二人の闘気が場を飲み込んでいく。

 

そのプレッシャーは…場数を踏んできた正義実現委員会隊員たちすら思わず後退するほどだ。

 

そして…

 

「では…見届けさせてもらいます。」

 

ハスミが『インペイルメント』を掲げ…

 

「…はじめっ!!!」

 

バァンッ!!!

 

開始の号砲として銃声を響き渡らせた瞬間、

 

「きひひひひひひいっ~~!!!きゃははははは!!!」

 

狂相を浮かべたツルギがネイトに襲い掛かる。

 

今ここに…今晩最大にして後のキヴォトスで伝説となる一戦が幕を開けた。

*1
曲:PRST Marching




立ち上がれ 死んでも譲れないものがある
振り向くな 後ろに道は無い 突き進め
―――刃 · THE BACK HORN
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