―――軍人『ドワイト・D・アイゼンハワー』
【04:53】
「きひひひひひひいっ~~!!!きゃははははは!!!」
凶悪な笑い声をあげてネイト目掛け飛び掛かるツルギ、
「きえええっ!!!」
ズドドォンッ!
両手に持った『ブラッド&ガンパウダー』を容赦なく発砲。
今まで数多の不良生徒を仕留めてきた攻撃だが…
ギギギィンッ!!!
(ちぃやはり通らないかッ!!!)
散弾ではネイトのX-02の装甲を傷付けることも出来ず火花を散らし弾かれた。
それでも、
(だったらぶっ壊れるまで叩き込んでやる!!!)
二つの銃を器用にスピンコックで排莢し再装填、
「しぃえええッ!!!」
再びネイトに向け銃を構えるが…
ジィッ
彼はV.A.T.S.を起動、ツルギの頭部に照準を定め…
バァンッ!
必中とダメージ増大の効果がある『クリティカル』を発動。
ドゴゴゴォンッ!!!
彼女の銃にも負けない大音量の銃声を轟かせShAK-12をバースト発砲。
真正面から突っ込んでくるツルギにそれを避けるすべはなく…
バギャギャギャンッ!!!
「ッ!!?」
吸い込まれるように彼女に眉間に三発叩き込まれた。
バトルライフルとしてはけた違いの12.7×55mmを用いるShAK-12、そのマンストッピングパワーは凄まじいものだ。
「かぁ…!?」
その衝撃はツルギの体をのけぞらせ…
ドサッ
背中から地面に落ちた。
(悪いな、ウェスタンスタイルでやらせてもらった。)
硝煙を上げるShAK-12を片手で構えつつ地に倒れ込んだツルギに向けネイトはそう呟く。
周りにいる正実の隊員たちも目を丸くし何が起こったか理解できていないようだった。
決闘は受け入れたが…勝負を長引かせるつもりはない。
V.A.T.S.クリティカルと12.7×55mm弾、並大抵のキヴォトス人ではまず起き上がれない威力のはず。
「One、Two…。」
静かにネイトは10カウントを数え始めた。
…次の瞬間、
シュバァッ!!!
「ぬぅははははははッ!!!」
「~ッ!?」
まるでばねでも仕込んででもいるかのような勢いでツルギが飛び起き、
「いひひひひひひひ……あぁぉ『奇奇怪怪』ィッ!!!」
ズドドォンッ!
先程とはケタ違いの銃声と共に鮮血のような赤い閃光が迸り
ゴォンッ!!!
「クゥッ!!?」
先程とは比べ物にならない衝撃がX-02越しにネイトに伝わる。
まるで…戦時中に経験した砲弾の炸裂を数十m範囲内でを受けた時の様な衝撃だ。
『奇奇怪怪』、ブラッド&ガンパウダーに膨大な神秘を込め前方の標的を粉砕するツルギの必殺技だ。
「つうッ!!!」
踏みとどまれば重傷を受けるのであえて飛びのき衝撃を逃すネイト。
(HPは…42%でEMV17%…!回復分はまだある…!)
幸いダメージはほぼない。
Lifegiverの自然回復分もまだある。
「お返しだッ!!!」
お返しと言わんばかりに宙に浮いたツルギ目掛けShak-12を乱射するネイト。
ズドドガバガァッ!!!
「ギぇッ!?」
幾らかはツルギに着弾しダメージが通った声を上げあちらも飛び退き間合いを取り直す。
素肌が見える部分の着弾後は即座に赤紫色の痣になっている。
(防御力は空崎ヒナ以下、タフネスはおそらくネルと同格…!)
ネイトはその様子を見てかつての強敵たちと彼女を比較する。
決してダメージが通らないわけではない。
ネルとの比較もあの時自分は徒手空拳で戦っており銃で戦った場合、それも50口径の大口径ライフルが相手ならばまた話は違うはずだ。
一体何が違うのだと分析していたその時…
スウー…
「ッ!?」
先程できた痛々しい痣が見る見るうちに消えていくではないか。
「まさかッ!?」
何かを察したネイトに、
「きぃやっはあああああ!!!」
ツルギは再び絶叫を上げ襲い掛かる。
一切の回避を考えていない最短距離の跳躍の様子はまさに狂戦士だ。
「だったらっ!」
ボシュッ!!!
ネイトは彼女に対しShak-12ではなく左手に持ったM32A1を発砲、放たれた40㎜グレネード弾は真っすぐに飛翔し、
ズドォンッ!
彼女の頭部に命中し炸裂。
本来なら勝負あり、ヒナであっても無事では済まないはずだ。
その証拠に、
「きぃえええええ…!」
頭部から出血し顔を血で染めるツルギ。
しかし…
シュ~…!
着弾した場所から湯気のようなものが発生し、
「かぁ!」
傷口がたちどころにふさがってしまった。
煩わしそうにセーラー服の袖で顔の血を拭うツルギを見つつネイトは確信する。
あれ程の物を見るのは初めてだが…見覚えがあった。
かつて訪れたアパラチア、そこで…あのような突然変異を遂げた者たちを見たことがある。
彼らは…その種の突然変異をこう呼んでいた。
「治癒因子…!」
今まで数多の敵と戦ってきた。
軍隊とも戦った、数を圧倒する兵器を纏い打ち勝った。
レイダーやガンナーとも戦った、培ってきた兵士としての技術で圧倒した。
フェラルグールとも戦った、リミッターの外れた敵を制する技術で撃破した。
放射能で変異した生物とも戦った、圧倒的な知能差を活かし打ち払った。
スーパーミュータントとも戦った、人外ですら消し飛ばす大火力で打倒した。
ロボットソルジャーとも戦った、旅の中で得たテクノロジーで謀殺した。
巨大なクリーチャーとも戦った、作戦を立て仲間と共に挑み討ち取った。
キヴォトスの第二の人生でも数多の敵とも戦った。
殺せない相手でも行動不能にできる手段はいくらでもあった。
鉄壁の盾の如き肉体をもつ奴とも戦った、相棒と共にその盾を粉砕して見せた。
勝利を疑わない不屈の闘志を持つ奴とも戦った、策を弄し研鑽した技で翻弄して見せた。
殺人の忌避感を拭い捨てた精鋭部隊とも戦った、自分の『殺し』の研鑽を活かし蹂躙した。
だが…奴はそのどれでもない。
これまでの敵は一度倒せば起き上がることはなかった。
しかし…
「きゃはははっいいなっいいなぁッ!!!」
奴は…剣先ツルギはその『程度』では何度でも完全回復し立ち上がって来る。
「一瞬意識が飛んだのは久々だぁ!!!」
キヴォトスに来てから存在していた一定の『活動可能なボーダーライン』。
それを超えればどのキヴォトス人でも戦闘不能に追い込む出来た。
それがあったからこそネイトもこれまで戦ってこれた。
だが…目の前のコイツは、剣先ツルギはそのボーダーラインを容易く行き来する。
一度や二度程度線の向こうに叩きこんだ程度では…まるでスーパーボールの様に跳ね返ってきてしまう。
つまり、ネイトがキヴォトスに来て以来これ以上ないほど明確な…
「『天敵』登場と言う訳か…!」
「さぁ続きをしよう!!!」
なおも嗤いながらツルギはネイトに飛び掛かる。
しかし、
「しぃッ!!!」
ドガッ!!!
一切の怯えも躊躇もなくネイトは地面に蹴り上げた。
まるでサッカーのシュートのような行為で何をしているのかとハスミたちは疑問に思ったが…
ボガァンッ!!!
『ッ!?』
大量に舞い上がった土と共に大きさ20㎝程の石が勢いよく飛び出し、
ベキョッ!
「ぐギぇッ!!?」
ツルギの胸部に命中。
銃弾とは比較にならない大型の重量物の一撃はこれまでにない衝撃を彼女に味合わせ石を抱えたまま後方に弾き飛ばされる。
さらに、
「おまけだッ!!!」
ジィッ
ボシュッ!!!
M32A1を構えV.A.T.S.を起動し照準を定め発砲。
狙うはツルギそのものではなく…
バゴォンッ!
「ぎぇえッ!!?」
ツルギの胸部にめり込んだ石だった。
40㎜グレネード弾の炸裂はその石を大小さまざまな大きさの礫に砕き、まるで『榴散弾』の様にさらにツルギの体に撃ち込まれた。
………そう、ボール大の石をサッカーボールの様な速度で蹴りそこにグレネード弾を撃ち込んだんです。想像したくもありませんが…その威力は文字通り『大砲』のそれでしょう。キヴォトス人でもあんなことが出来るのはそうはいないでしょう。パワーアーマー…まさに脅威の存在です。しかもそこに40㎜グレネード弾の追撃。彼、ネイトさんの『兵士』としての容赦のなさと戦闘センスは本物だと直で見て思い知らされました。」
並の銃弾の威力を遥かに超える連撃、
「があああッ!?」
これにはツルギもたまらず吹き飛ばされる。
(倒れさせるな!!!一気に決めろ!!!)
しかし、ネイトも攻撃の手を緩めない。
ドォッ!!!
即座にスプリントを発動し追撃。
時速130kmの砲弾となったX-02は…
ゴギィィィンッ!
「~ッ!!?」
吹き飛ぶツルギに追いつきタックルを叩きこむ。
その瞬間、Perk『Pain Train』が発動。
強烈な衝撃がツルギの体を襲う。
だが…
ズドドドドドッ!!!
ツルギを巻き込んだままネイトは疾走。
その先にあるのは…廃工場の建屋だ。
そこへ1tの鉄塊も同然のX-02が時速130㎞で突っ込み、
ドッゴォアンッ!!!!!
「げぇがあッ!!?」
分厚い鉄筋コンクリートの壁を粉砕し建物内に進入、
ガァンドガァバギァゴギィンッ!!!!!
「げあっぐあッづぎゃッ!!?」
「ウラアアアアアッ!!!」
そのまま建物内にある壁や放棄された資材に家具などを破壊しツルギをサンドイッチにしながら爆走。
そして…
(終点だ!!!)
ネイトが狙いを定めたのは…この工場の建屋を支えるとびっきり大きな鉄筋の柱だ。
そこにこのまま叩き込めれば…。
だが…
「ギィえええええええ!!!」
幾度もの衝突を味わい全身くまなく血塗れとなりながらもツルギは咆哮。
バガガガガガガッ!!!!!
体勢を立て直し地面にがっぷり四つで組みなおし地面を削りながら踏みとどまり体重差およそ20倍、『相撲』や『レスリング』などにおいては最早勝負にはならない体重差でありながら…
ピタッ
「ッ!!?」
時速130㎞の進撃がピタリと止まった。
…だけではない。
「キィエアアアアアア!!!」
ズドドドドドドッ!!!!!
「~ッ!!?」
まるで逆再生化のように今度はツルギがネイトを押し返し始めた。
吹き飛ばされもした、殴り飛ばされたりもした。
それでも…明確な力負けを経験したことはない。
だが…今の自分よりも遥かに軽く小柄な少女が今まさに自分の力を上回っているではないか。
なんとかネイトも踏みとどまろうとするが…
ギャガガガガガガッ!!!!!
(と、止まらないッ!?)
巨大なX-02の足のブレーキを刻みながらもツルギの押し込みを止められない。
まるで…目の前の少女が巨大な戦車になったかのような圧倒的なパワーだ。
さらに密着状態で『ブラッド&ガンパウダー』を押し当て…
「しぃエあああああ『奇奇怪怪』ッ!!!」
ズドドォンッ!
「がはッ!?」
必殺の『奇奇怪怪』を発射。
X-02の装甲、パワーアーマーシャーシの防御越しでもまるでヘビィボクサーのボディのような衝撃が連続して襲い掛かる。
そのままこれまでに進撃ルートにとびっ散っていた残骸諸共押し切られて行くが、
「こんのぉッ!!!」
「ぎぃぇあ!!?」
外に出たタイミングでネイトはがっぷり四つの構えを解き彼女を掬い上げるように持ち上げ、
「ヅラァッ!!!」
押されていた勢いを活かし後方に投げ飛ばした。
「かぁッ!」
しかし、さすがは正義実現委員会を率い『戦略兵器』の名を与えられた猛者。
投げられた速度も相当だったというのに素早く体勢を立て直し着地する。
「きゃはははッ痛い!!!あんなに痛い攻撃喰らったことが無いぃッ!!!」
あれだけの猛攻を喰らったというのに…
「げっげっげっげっげっげっげッ!!!まだ!まだだよう!まだ倒せないぞ!!!」
既に胸部の傷はどんどん治り始め他のケガも完治は時間の問題だろう。
「バケモノめ…!」
痛む腹部を抑え呆れと羨望がにじむ言葉を呟くネイト。
残りHP…32%。
(もうこれ以上…くらえない…!)
肩の怪我は幸いまだ悪化していない。
しかし、疑問に思われるだろう。
ネイトには万能薬ともいえる回復薬『スティムパック』がある。
それを用いれば肩の怪我程度すぐに塞げるはずだが…
(スティムは在庫切れな上にLifegiverの貯金も尽きた…!)
今、ネイトが持参していたスティムパックは底をついていたのだ。
万能薬と思われるスティムパックだが…その実あるデメリットが存在する。
治療の際、代謝を活性化させることにより実現する超回復には大量のエネルギーを消費する。
一本二本程度なら少し疲れた程度ですむ。
しかし…これがわずかな時間で何十本も時間を置かずに投与すれば何が生まれるか理解できるだろうか。
答えはそう、体内のありとあらゆるエネルギーを燃やし尽くした末に起こる無傷の『衰弱死体』だ。
事実、在役中にネイトも軍からスティムパック注射の短時間の連続使用は厳禁と口酸っぱく警告されていた。
その中で…もしネイトが戦闘に巻き込まれ傷を治しながら切り抜けられる限界の量を見極めた結果…限界所持数は30本がいい所だ。
他人に投与することも勘定に入れると40本少々が限度である。
それを…ネイトはモーテルの主人に始まりヴァルキューレ、正義実現委員会の負傷者への投与で使い果たしていたのだ。
そんな状況で…相手はパワーアーマーを押し返す怪力と超再生能力を合わせ持つ剣先ツルギとの決闘。
こちらは雀の涙ほどの自己回復力に対しあちらは常時スティムパックを静脈注射しているようなものだ。
まさに…考えうる『最悪』としか言えないシチュエーションとしかいえない。
(…ハハッ『コーサ―』でももっと優しい相手だったというのに…!)
後悔はない、反省をするつもりもない。
ただ…
「きぃえええええ…!」
(飲み込まれるな…!いかに不死身の化け物でも…限界が来るはずだ…!)
自分の限界が来る前に目の前の化け物を倒しきればいいだけだ。
既に臨戦態勢をとっているツルギに対し、
(考えろ。俺には今…なにがある…?)
警戒しつつネイトは思考を巡らす。
銃やグレネードランチャーで間合いを取って戦うか?
(いいや、50口径でも40㎜でも有効打にはなり得ない…。)
例え昏倒させても10カウントもあれば確実に彼女は起き上れる。
では、先ほどの様な投擲物を用いた戦い方は?
(あの子もキヴォトスでは歴戦の部類…。同じ手は二度は通じない…。)
タネはもう見られた。
弾丸を日々喰らうような役職、隙を付けなければ避けられる。
では、パワーアーマーでの近接戦闘?
(悪くはないが…。)
すると、
カラァン
「………ッ!」
ネイトの足元に何かが転がってきた。
それを見て…
「すぅぅぅ…。」
ネイトは息を吸い込み…
「Your daddy was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
『ッ!?』
「きぇ…?!」
「Your mama was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
朗々高らかに歌い上げるネイト。
「Your sister was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
誰に聞かせるでもない。
「Your brother was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
誰に届けるわけでもない。
「Your dog was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
いや、そもそもその前提が違う。
「Your cat was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
この歌は誰のものでもない。
「Your fish was home when you leftッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
誰かのために歌っているわけではない。
「Your mommy,Your daddy,Your brother,Your sister,The dog,The cat,The fish,Was home when you left,ッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
この歌は彼が自分のために歌っているのだ。
「And that's the reason you left!ッ!!!YOU'RE RIGHTッ!!!」
なぜか?
「I left my home, to join the armyッ!!!」
決して挫けぬように。
「I left my home, to join the armyッ!!!」
決して怯えぬように。
「The day I left, my momma criedッ!!!」
決して敗れぬように。
「She thought that I, would surely dieッ!!!」
必ず生き残る様に。
「I left my wife, crying at the doorッ!!!」
必ず立っていられるように。
「She knew that I, would die at warッ!!!」
必ず約束を果たせるように。
「I left my son, playing in the yardッ!!!」
必ず帰れるように。
「To see his daddy leave, made him cry so hardッ!!!」
必ず約束を果たせるように。
「The day I left, I shook my daddy's handッ!!!」
だから…勝とう。
「He said that I,ッ!!!」
目の前の化け物を打倒し…
「had become a manッ!!!」
この決闘を生き残れるように。
「Oo-wee,Oo-weeッ!!!」
ネイトは…銃を放り捨てた。
「Oo-wee,Oo-weeッ!!!」
目を見開くツルギやハスミたちをしり目に、
「Oo-wee,Oo-weeッ!!!」
ネイトは足元のそれを手に取った。
「To join the armyッ!!!」
ガシャン!
そして…それの形を瞬時に変えた。
「…さぁ、再開と行こうか。」
孤独な歌声が闇夜に響く時
刃に写るのは ポッカリと浮かぶ月
―――刃 · THE BACK HORN