Fallout archive   作:Rockjaw

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虚勢を張る胸に 吹くのは旋風
命を張るならば 何かが変わるのだろう
―――刃 · THE BACK HORN


The Might of the Stars

【04:57】

 

Your daddy was home when you left家を去った時、親父は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

「な、何なのですか…?!この歌は…!?」

 

ネイトとツルギの決闘の様子は他の正義実現委員会の隊員が持つボディカメラを通じサンクトゥムタワーにいるナギサやリンたちにも共有されていた。

 

流石のナギサも…ネイトは諦めると思っていた。

 

相手はあの剣先ツルギ、ともすれば自分たちですら持て余してしまいかねない文字通りの『戦略兵器』だ。

 

彼ほどの強者ならば…その脅威は把握していて当然である、と。

 

そのうえ、彼は重傷を負っている。

 

ネイトも自分の命は惜しい筈、だから保護に応じるはず。

 

これでこの長い悪夢のような夜も終わると…半ば確信していた。

 

しかし…ネイトは屈しなかった。

 

それどころか、肩に重傷を負っているというのにあのツルギと紙一重で渡り合っている。

 

そして…

 

Your mama was home when you left家を去った時、お袋は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

画面から高らかに響く彼の歌声。

 

普段、オペラや劇場で聞くオーケストラのクラシック音楽とは似ても似つかない豪放な歌だ。

 

それでも…

 

Your sister was home when you left家を去った時、妹は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

この歌にナギサは引き込まれていた

 

いや、彼女だけではない。

 

Your brother was home when you left家を去った時、弟は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

「な、なぜこんなにも…?!」

 

「戦っている最中だというのに…?!」

 

周囲にいるリンやカヤを筆頭とした連邦生徒会の役員たちも。

 

Your dog was home when you left家を去った時、犬は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

「ネイト社長…!」

 

カンナたちヴァルキューレ生たちもその手を止めて聞き入っていた。

 

Your cat was home when you left家を去った時、猫は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

これが…今まさに死に近づいている大人が出せる声なのか?

 

Your fish was home when you left家を去った時、魚は家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

曲そのものは力強さを感じるが…

 

Your mommy,Your daddy,Your brother,Your sister,The dog,The cat,The fish,Was home when you left,お袋も親父も弟も妹も犬も猫も魚も、皆家にいたッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

その歌詞はどこまでも孤独を歌うような詞だった。

 

And that's the reason you left!だから、家を出たんだッ!!!YOU'RE RIGHTオウよッ!!!》

 

まるで…二度と家には帰れないというような悲壮を感じるものだった。

 

I left my home, to join the army軍隊に入るために家を出たんだッ!!!》

 

「どうしてですか…?」

 

「どッどうしたんだ、ミヤコ…?」

 

I left my home, to join the army陸軍に入隊するために家を去ったんだッ!!!》

 

しかし、ネイトの歌声によって紡がれるその歌は…

 

The day I left, my momma cried家を出た日、泣いていたお袋を置いてきたッ!!!》

 

「どうして…そんなに決意に満ちることが出来るんですか…!?」

 

She thought that I, would surely dieお袋は俺が確実に死んじまうと思ったッ!!!》

 

歌詞の悲壮感など関係ない。

 

I left my wife, crying at the door玄関で立ち尽くす妻をそこに置いてきたッ!!!》

 

「………ッ!」

 

She knew that I, would die at war妻は俺が戦って死ぬことを知っていた。ッ!!!》

 

「どうかしたの、ユキノちゃん?」

 

I left my son, playing in the yard庭で遊んでいる息子を置いてきたッ!!!》

 

「彼も優秀な『武器』、それに間違いはない筈…。私も…そんな『武器』になったはずだ…。」

 

To see his daddy leave, made him cry so hard俺が出ていくのを見てあの子は泣きじゃくっていたッ!!!》

 

「…なのに…!」

 

「なのに?」

 

The day I left, I shook my daddy's hand家を去った日、親父の手を握ったッ!!!》

 

「どうして…!」

 

He said that I,親父は俺に言ったんだッ!!!》

 

「どうしてこんなにも…!」

 

had become a man漢になったな、とッ!!!》

 

「胸が熱くなるんだ…?!」

 

《Oo-wee,Oo-weeッ!!!》

 

誰も彼も、学校も組織も人種も役職も関係なく…

 

《Oo-wee,Oo-weeッ!!!》

 

その歌を聞いている全ての者たちの心を揺さぶり…

 

《Oo-wee,Oo-weeッ!!!》

 

その胸に熱を与えるような…

 

To join the army入隊するためにッ!!!》

 

『勝利を目指し生還を決意する』、勇気の歌だった。

 

そして、現場にも動きが起こる。

 

《テレビの前の皆さん、お待たせしました!!!クロノス報道部のシノンです!!!現在、絶賛時間外労働でお送りしています!!!》

 

シノンが乗るクロノスのヘリがネイト達周辺上空に到着。

 

先程、遠方でトリニティのヘリが飛び去って行くのを確認し追跡してきたところ…ビンゴ。

 

《ご覧ください!あの大事故に見舞われ生存が絶望視されていたW.G.T.C.社長ネイト氏が今まさにあそこに彼の代名詞ともいえるパワーアーマーを纏い立っています!!》

 

あの事故からまさかの奇跡の生存という超特ダネが転がっていたではないか。

 

《どうやらトリニティ正義実現委員会の剣先ツルギ委員長と向かい合っているようですが一体何が…!》

 

一部始終逃すまいと二人にスポットライトを当てリポートするシノンだが…

 

《あぁっと何か足下に落ちていたものを手に…!》

 

おもむろにネイトが足元にあった『ある物』を手に取ったかと思うと…

 

《えッ!?形が…!?》

 

瞬時にそれが形状を変えた。

 

その様子はキヴォトス各地のテレビに届き…

 

「ッ!?アレは!?」

 

「あの武器にあの構えは…!?」

 

「へぇ…興味深いね…!」

 

「な…何をやったのだ…?!」

 

もっとも反応を示したのは…

 

「ほぉ…東方の強者が我等の『武』を修めておるのか…。」

 

「も、門主様…!いったい彼は…!?」

 

「ふふ…少々無理をしてでも…会うてみるべきだったかのう…。」

 

西方に在る『竜』が坐する学校だった。

―――――――――――――――――――

「………いいコクのキャラメルソースですね。…あぁ、すみません。彼の本領についてでしたね。後ほど分かったんですがあそこは元は建築鋼材…様々な規格の『鉄筋』などを製造していた工場とのことでした。数年前、どうやら材料に関する不正が明らかになりそれの捜査が入る寸前で夜逃げ同然で廃業し今に至っていると。…だから、あんなものがあそこにあったんですね。」

―――――――――――――――――――

「…さぁ、再開と行こうか。」

 

ネイトはそれを『両手』に持ち…

 

ドォッ!!!

 

ツルギとの合間にできた間合いを一気に潰すスプリントを発動。

 

再び1tの巨体が時速130㎞で躍動する

 

「きぃあああああ!!!」

 

ツルギもまるでご馳走を前にお預けを喰らっていた猛獣の様に飛び掛かる。

 

彼我の距離は約30m、ネイトとツルギの身体能力なら一秒と掛からずに殺せる間合いだ。

 

だが…

 

ジィッ

 

彼女が想定していたタイミングよりも数拍早く

 

シュンッ!

 

「きぇッ!?」

 

ネイトはツルギの前に現れ…

 

グォォォォンッ!!!

 

まるで大型バイクのエンジン音の様な重低音が響き渡ったかと思うと…

 

バゥワゴゴゴゴゴゴォンッ!!!

 

『~ッ!!?』

 

爆撃、そうとしか言えない様な轟音が周囲を飲み込み

 

「~ッ!!?!?!」 

 

ドォンッ! 

 

先程の石とグレネード弾のコンボの時よりも猛烈な速度でツルギは吹き飛ばされた。

 

何とか体勢は立て直し着地したものの…

 

「ギィ…ギィあああああああああああ!!!?」 

 

あのツルギが…悲鳴を上げた。

 

そして…

 

「ひっ…!?」

 

「な、何が…!?」

 

「ツルギ先輩っ!!?」

 

その姿を見た正義実現委員会の隊員たちからも悲鳴のような声が上がる。

 

しかし、それは無理もない光景だ。

 

ツルギの体の至る所が…削り取られていた。

 

いや、それで済まされる範疇ではない。

 

まるで…体内から何かが『爆ぜた』ような状態だ。

 

正確には『挫滅創』という組織がつぶれた際に起こる状態だ。

 

しかも…四肢も明らかに『曲がってはいけない』場所で曲がっている。

 

あのツルギが一瞬のうちにここまで痛めつけられることなど今まで考えられなかった。

 

何が起こったか、その答えは…

 

ブゥオオオ…!

 

「悪いな、これから先は…。」

 

ネイトの両手からまるでヘリのローターの様な音を鳴り響かせながら回転し…

 

「かなり痛いぞ、剣先ツルギ。」

 

ガシィンッ!

 

パワーアーマーのマニュピレーターの出力でブレーキをかけようやく姿を露にした。

 

あの時ネイトが手に取ったのはかつてこの工場で製造していた2m少々の『鉄筋』。

 

ただの鉄筋ではない。

 

その規格は『D40』…公称直径: 約39.8mm~39.9mmの最外径*1: 約45mmという極太な鉄の棒なのだ。

 

それをネイトはクラフトで形状のみを変更。

 

ただ形状を変更をしただけだが…それはいわばネイトを構成するもう一つの『星』の象徴。

 

その名も『拐』、中国武術を象徴する格闘武器だ。

【挿絵表示】

 

「俺の詠春拳せんもんの技術ではないが…堪能してくれ。」

―――――――――――――――――――

「………ふぅ、いい御味でした。…このキヴォトスで銃以外の武器を持つ生徒は稀です。私もその手の武器の知識には乏しいですが興味がわきその後図書館で調べました。『拐』、若しくは『トンファー』…西の謎多き学校『山海経高級中学校』、その学区で古から存在する武術…銃が普及する現在で修める者は稀ながら脈々と受け継がれてきた戦闘術に伝わる武器の一種…と。…なぜ彼がそんな技術を修めているかは分かりませんが…趨勢は確実に変わりました。………さて、次はどれに…おやっこれは…!」

―――――――――――――――――――

スッ

 

ネイトは両手に持った拐を静かに地面に置き、

 

ガシャン!

 

X-02の巨大なマニュピレーターの左手で右拳を包む礼、『包拳礼』をツルギに捧げ…

 

「どこからでも来い、初学者チュウシュエジャー。遠慮はいらんぞ。」

 

彼女へ…『先駆者』としての礼儀を払う。

 

「~ッ!!!」

 

その時、ツルギに言いしれない感情が沸き上がり…

 

「シィエ…!シギィエアアアッ!!!」 

 

雄たけびを上げネイトに迫る。

 

ガシッガシィッ!!!

 

足下の拐を握り直し、

 

「ふぅ~…!」

 

グォォォォンッ!!!

 

ネイトは再び回転させエンジンの如き風切り音を響かせる。

 

(力は私が上だ!!!あの『技』を使われる前に!!!)

 

銃を捨てたネイトにツルギは一切の油断なく分析する。

 

あの瞬間移動の如き技は確かに脅威だ。

 

だが、『技』と言う物には直前に『予備動作』が必ずあるはずだ。

 

(見逃さない!!!今度は必ず…!)

 

そう決意し目を凝らすも…

 

シュンッ!

 

「ッ!!?」

 

再び、ネイトはいきなりツルギの前に現れた。

 

今度は一歩も動かず、予備動作も見えなかった。

 

あり得ない、そんな疑問と驚愕が浮かぶ前に…

 

「ヒュぉうッ!!!」

 

鋭く発した息吹と共に…

 

ドゥワゴゴゴゴゴォンッ!!!

 

「ぐげぎゃぎゃげがぁッ!?」

 

再び拐の連撃が叩き込まれる。

 

打撃攻撃のはずなのにその様相はまるでその場所で手榴弾が炸裂しているかのようなものだ。

 

「きぇえあッ!!!」

 

しかし、ツルギもさすがの物。

 

今度はひるまずにネイトに向け得物を構える。

 

が、

 

グワォンッ!

 

ガァン!

 

「ッ!?」

 

想定外の方向から鉄筋拐が衝突、

 

ドォンッ!!!

 

それにより銃口が逸れあらぬ方向に発砲。

 

かと思ったら、

 

「しぃッ!!!」

 

ドシュゥッ!!!

 

「がげっ!?」

 

もう片方の拐の杭にように鋭利になった部位で彼女の腹部に刺突を放つ。

 

日字衝拳イェット・イー・チョン・キュン』、詠春拳の基礎にして最速と言われる象徴的な縦拳である。

 

しかし、1tのX-02とネイトの詠春拳の技術から放たれ『杭』と言うる極小面積に集約されたその威力はまさに『規格外』。

 

「が…がぁ…!」

 

これにはツルギも腹部を抑え後退する。

 

(ば…馬鹿げてる…!?)

 

あれはただの武器を用いた格闘で放てる威力などではない。

 

彼女の脳裏に想起されたのは…

 

(よ…40㎜ボフォース砲…!?)

 

昔、自身に直撃した対空機関砲の姿だ。

 

それを…パワーアーマーを纏っているとはいえキヴォトス人でもない人間が放っている。

 

「言ったろ。『かなり痛い』ってな。」

 

グォォォォンッ!!!

 

再び、両手から異音を響かせながらネイトは構える。

 

その姿は…まるで魔術を使う怪物に見えた。

 

だが…

 

「………けきゃきゃきゃ…!」

 

全身の傷口から治癒の際に発生する蒸気を放出しながらツルギは笑う。

 

全身が痛い、痛いなんてものじゃない。

 

少しでも気を抜けば膝をついてしまいそうだ。

 

しかし、それ以上に…

 

(あぁ…ヤバい…!少しでも気を抜けば…『忘れて』しまいそうになるほど…楽しい…!)

 

その全身は歓喜に満ち満ちていた。

 

「さて…まだガッツは折れてないよな?」

 

「あぁッまだっ!!!まだまだ元気いっぱいさぁッ!!!」

 

その闘志、未だ折れず。

―――――――――――――――――――

「…これが『デイダラボッチ・抹茶パフェ』…!………オッホン、彼は銃を捨てたのではありません。あの子を…ツルギを『近接格闘』という自分の土俵に引きずり込んだんです。…銃弾一発で簡単に命を失う、そんな環境で私たちの様に取り締まり対象と被害者が混在する環境では…迂闊に銃は使えません。だから、彼は『銃を使わない戦い方』という私達には想定すらされない技術を身に着けていたのでしょう。…だとしても、ツルギ相手にそれをするのは…途轍もない勇気と気合が必要でしょうね。………きりっとした渋さが口の中をリセットしてくれる、いいアクセントですね…。」

【挿絵表示】

 

―――――――――――――――――――

「…若いっていいもんだな。」

 

そんなツルギの向こう見ずともいえる若さが…ネイトには眩しかった。

 

(老師も…こんな気分だったのかな…?)

 

かつて、父に連れられて行った道場で自分を迎えてくれた『老師』に思いをはせていると…

 

「しぃえええええええッ!!!」

 

再びツルギがネイトに飛び掛かる。

 

「来いッ!!!」

 

ネイトも鉄筋拐を構え受けて立ち、

 

ガキキキキキィンッ!!! 

 

『ブラッド&ガンパウダー』のバッシュと鉄筋拐が火花を散らし合い打ち合いが発生。

 

(焦るな…!一撃でもまともに食らえばあとはない…!)

 

X-02以上のパワーを誇るツルギの攻撃を鉄筋拐で巧みに空かし、往なし、受け流しネイトは絶好のタイミングを計るネイトに対し、

 

(当たらない当たらない当たらないッ!!!あぁっでも、なんて楽しいんだっ!!!)

 

ツルギは攻めあぐねているこの状況であって自分から一歩も引かずにこうして打ち合えていることに楽しさにあふれていた。

 

《ナナナ、なんというラッシュ!!?あのアビドス解放の英雄とトリニティの戦略兵器が互いに一歩も引かず火花を散らし凄まじい技の応酬を繰り広げています!!!》

 

その様子を上空からシノンが興奮しレポート。

 

音に聞くしかなかったネイトの実力。

 

今まさにそれが白日の下にさらされ誇張も虚飾も一切ない事実としてキヴォトス中に発信される。

 

その時、

 

「シィッ!」

 

ネイトがツルギ目掛けジャブを放つ。

 

「かぁッ!」

 

流石の反応速度でツルギは拳の届く範囲から身を引こうとするが…

 

グォンッ!!!

 

手首のスナップで鉄筋拐が弧を描き…

 

チュドォン!!!

 

「がっ!?」

 

ツルギの肩に振り下ろされた。

 

「しぎゃあっ!!!」

 

ズドォン!

 

お返しと言わんばかりにツルギも今度はX-02の頭部目掛け発砲する。

 

ガギギィン!!!

 

通常攻撃ではX-02の装甲は傷一つつかない。

 

(そんなの分かってんだよ!!!)

 

だが、ツルギはそんなことは織り込み済みだ。

 

狙いは…

 

「ぐッ!?」

 

それにより一瞬だがネイトを怯ませることだ。

 

いかに無事だと分かっていても至近距離からのショットガンの一撃はやはり心臓に悪い。

 

「しぇあっ!!」

 

好機到来、ツルギは跳び上がり両手でブラッド&ガンパウダーを構える。

 

(脳天に奇奇怪怪を…!)

 

頭上からの強烈な一撃、衝撃の逃げ場のない頭頂部からならばいかにX-02でも…。

 

ツルギの考えは間違っていない。

 

ただ…

 

「ズアッ!!!」

 

大上段で振るうネイトのオーバーハンドブローが…

 

ズドムッ!

 

「げガァッ!?」

 

ツルギのどてっぱらに叩きこまれ殴り飛ばされる。

 

《あぁっと!ここで剣先ツルギさんに強烈な一撃!!!ネイト社長、トリニティの戦略兵器を拳撃一閃で撃ち落としたぁッ!!!》

 

そんな上空の大興奮など露知らず、

 

「跳び上がるとは嘗めた真似してくれるじゃないか!!!」

 

ツルギの想定外は…この間合いは銃撃戦ではなく格闘戦であり…

 

(ちぃそうだった!!!あんなの彼にとっては隙もいい所じゃないか!!!)

 

ネイトにとってはこれ以上ないほど『無防備』だということだ。

 

銃と近接攻撃ではモーションによる攻撃速度の差が生じるのは必然。

 

そんな状況で跳び上がるというのは自分を身動きできない状況に置くことに他ならない。

 

ネイト程の技術があるならば…撃ち落とされて当然だ。

 

「げひぃやハハハ!!!次はもっとうまくやるっさっ!!!」

 

あれほど強烈な一撃を受けてなおツルギは軽快な動きでネイトに飛び掛かる。

 

幾度もの鉄筋拐での打撃に刺突、しかも先程の全体重を込めたパンチのダメージの回復すらまだなのにその動きのキレは一向に落ちない。

 

生半可な連撃ではだめだ。

 

(少しずるをするぞ…!)

 

ネイトはそう内心呟き、

 

ジィッ

 

ツルギに対しV.A.T.S.を照準。

 

ズワォッ!

 

(チィッまた…!)

 

ツルギとの間合いを瞬時に詰め…

 

バァンッ!

 

「ズぁッ!!!」

 

バグワゴォンッ!!!

 

「げぎゃ…ッ!?」

 

クリティカルを発動、その強烈な威力もさることながら…

 

ピキィンッ

 

(なっなんだ…?!か…身体が…!?)

 

突如としてツルギの体が硬直。

 

Perk『Iron Fist』の『クリティカル命中時に相手に麻痺効果を付与する』という特殊効果…発動。

 

これより…

 

「しぃッ!!!」

 

グォォォォンッ!!!

 

両手の鉄筋拐は猛獣のような唸りを挙げ…

 

バゴゴゴゴゴォンッ!!!

 

「あギャガガガガガあああああああ!!?」

 

目の前のツルギと言う獲物を喰らうかのように彼女の全身に叩きこまれる。

 

今までとは違う、無防備な状態で叩き込まれるそれは無慈悲に炸裂しツルギの体力を奪い去っていく。

 

《ラッシュラッシュラアアアアアシュ!!!ネイト社長が攻める攻める攻めまくるううう!!!まさに鉄拳の砂嵐!!!戦場の伝説が今ここに蘇る!!!トリニティの戦略兵器、なす術なしかあああ!!?》

 

「ツルギ…!」

 

熱が入るシノンに実況に祈るように戦況を見つめるハスミ。

 

あまりにも凄惨な場面に他の正義実現委員会の隊員も目をそらすほどだ。

 

だが…誰も手を出せない。

 

これはネイトとツルギの一騎打ち、誰も邪魔することは許されない。

 

完全に勝負あり…かと思われたが、

 

(油断するな…!ネルとは違う…!)

 

打ち込みながらもネイトは警戒心を最大にする。

 

今のネイトが可能な鉄筋拐の攻撃レートは秒間3回がせいぜい。

 

麻痺のタイムリミットはおよそ10秒。

 

最高で30発打ち込める計算だが…

 

「しぃッ!!!」

 

ズドォンッ!!!

 

右拳で刺突を叩きこんだ…その時、

 

「げガァッ!!!」

 

まだ時間の余裕があったはずなのにツルギは再起動。

 

麻痺時間…約7秒。

 

彼女の回復力が…絶対であるはずのネイトのPerk効果を軽減して見せたのだ。

 

(そうだよな…!お前なら…!)

 

「足りねぇッ!!!」

 

打ち込まれていた右腕を左腕を使い完全にロック、

 

「もっとだ、もっと食わせろおおおお!!!」

 

グワォッ!!!

 

そのまま頭を振り被りネイトに頭突きを見舞おうとする。

 

(あぁそうだ、お前なら…そう来ると思ってた…!)

 

確実に決着をつける、そのつもりで仕掛けた。

 

普通の人間なら何回死んでいるだろう?

 

普通のキヴォトス人ならば耐えきれるだろうか?

 

ヒナ、ワカモ、ネル…彼女達でも何回膝をついただろう?

 

それでも…こいつは…

 

(凄いよ、剣先ツルギ…。)

 

剣先ツルギは全身を血で染めながらも…倒れない。

 

全身至る場所が爆ぜても…膝をつかない。

 

それでなお…闘志は衰えない。

 

(俺だって…これらが無かったら負けていただろう…!)

 

ネイトは時ここに至って…感謝していた。

 

自分の身を包む『X-02』、戦後アメリカが生み出した正に傑作だ。

 

自分の拳に宿る『詠春拳』、幾星霜積み重ねてきた中国が誇る名作だ。

 

思想の力で決して交わることが無かった二つの星『星条旗』と『五星紅旗』の力が…今、ネイトの体を通じ交わった。

 

(だから…負けられない…!)

 

ツルギが今何を背負っているかは分からない。

 

途轍もなく重い何かだろう。

 

それでも…彼女への最大限の敬意を込め…

 

「奥義…!」

 

ネイトは放つ。

 

ボグワォン!!!

 

「げぎゃあああああああああ!!!!?」

 

「『無寸打』…!」

 

零距離でありながら最速最強のネイトだけのオリジナル拳技『無寸打』…炸裂。

 

あと一歩のところで頭突きが間に合わずツルギが吹き飛ばされる。

 

(ありがとう、ビナー…!お前のおかげで俺は…!)

 

そして…さらにネイトは礼を述べる。

 

パワーアーマーシャーシに人工筋肉を搭載したことによりより細微な力の伝達が可能となったネイト。

 

これにより…『パワーアーマー』着用による『寸打』発動と言う今まで不可能だった技術を獲得。

 

その威力は…容易く高層ビルに用いられるH型鉄骨をへし曲げるほど。

 

あの激戦を経ていなければ…自分は絶対にここに立てていない。

 

奇しくも敵としてしか邂逅できなかったアビドスの同胞に感謝を念じ…

 

(今こそ…決着を!!!)

 

ドォッ!!!

 

ネイトは駆けだす。

 

(なんだ、なんだ今の!!?)

 

ツルギの頭の中は疑問符でいっぱいだ。

 

確かに自分は腕を拘束していた。

 

めり込む鉄筋の杭の痛みに耐え抑え込んでいたはずだ。

 

なのに…再び同じ個所に打ち込まれた。

 

さらに鉄筋は深く食い込み…

 

ブシュウッ!!!

 

とうとう自分の防御を深く抜き多量の出血を起こした。

 

(け、怪我の治りが…!?)

 

ツルギは困惑する。

 

あり得ない、自分は怪我はすぐに治るはず。

 

こんなに深手を負うことなど記憶にはない。

 

…いや、それだけではない。

 

(な、なんで…!?)

 

今もって…全身の傷が塞がり切っていないのだ。

 

この瞬間、

 

「~ッ!!?」

―――――――――――――――――――

「………いい口直しが出来ました。…やられた、と言うのがツルギと私の共通認識だともいます。あの子の自己治癒能力は確かに凄まじいです。…ですが、それは決して『無敵』という同義ではありません。あの子のそれはゲームの様なノータイムの回復ではなくあくまでも治癒。…例えるなら度合いでいうと3の怪我ならあの子はたちまち完治します。5ならば少しすれば元通り。…でももし…一気に10の怪我を負わされたら?完治には少々時間を有します。そこへ傷が治りきらないうちに10を。また10を…。…積み重なっていけば怪我の治りは遅くなりあの子の神秘と体力をどんどん奪い去ります。…だから、ネイトさんはあの策に踏み切ったのでしょう。弾丸よりも強力で…投擲やタックルよりも手数に秀でた格闘戦に。…ですが…。」

―――――――――――――――――――

とどめを刺さんと地面を爆散させ迫るネイト。

 

「あぎゃああああああああああッ!!!」

 

雄たけびを上げツルギは『ブラッド&ガンパウダー』に最大級の神秘を込める。

 

あまりの量に銃口が赤い光を放ち始める。

 

(それを…待っていた!!!)

 

だが、ネイトの足は止まらない。

 

そして…

 

「奇奇怪かッ…!!!」

 

ツルギ最大の奇奇怪怪が放たれる寸前…ネイトは彼女の予想外の行動をとった。

 

両手に持った鉄筋拐、それを…

 

スッ

 

その長い部分を銃口に沿うように押し当てた。

 

「ッ!!?」

 

ツルギにはネイトの狙いが分かったが…もう遅い。

 

ズドドォンッ!

 

放たれる最高出力の『奇奇怪怪』。

 

それは…

 

バギャガゴォンッ!!!

 

銃口を塞がれ逃げ場を失い自らのブラッド&ガンパウダーを爆散させてしまう。

 

それだけではない。

 

ギィィイイイン!!!

 

本来放たれるはずのエネルギーは拐に伝達、金属音の如き風切り音が轟く。

 

移動速度が…音速を突破した高周波の絶叫だ。

 

その勢いのまま…彼女の『神秘貫通属性』を受け取り血のような赤い軌跡を描く拐が…

 

チュドォォォン!!!

 

彼女の『神秘重装甲』に襲い掛かった。

 

衝撃波と爆音が発生し…

 

ドォッ!!!

 

三度…ツルギは吹き飛ばされた。

 

ドガァン!!!

 

そのまま、背後にあったコンクリート壁に激突。

 

勝負あった…誰もがそう思った。

 

だが…

 

「か…かぁ…。」

 

彼女はまだ立っていた。

 

全身ズタボロで額も割れて銃も失った。

 

だが…剣先ツルギは倒れなかった。

 

「…お見事。」

 

嫌味でも何でもない…賞賛の言葉がネイトの口から出た。

 

誰がどう見ても…勝負ありだろう。

 

しかし…

 

ザッ

 

ネイトは鉄筋拐を構え歩み出す。

 

「や、やめてください!!!」

 

「もうっもう勝負はついたじゃないですか!!!」

 

「ツルギ先輩はもう!!!」

 

周囲の正義実現委員会の隊員が哀願する。

 

もうこれ以上…ツルギが戦えるはずがないのに何をしようと言うのか?

 

だが、

 

「総員、静かにしなさいッ!!!」

 

「ッは、ハスミ先輩…!?」

 

ハスミがそんな彼女たちを黙らせる。

 

「これは彼とあの子の決闘!!!外野が二人が決めた決着に異を唱えることは私が許しませんっ!!!」

 

そう、これはツルギとネイトが合意の上で行われた決闘。

 

勝負を付けるには…ダウンを取り10カウントを唱えるしかない。

 

この場の誰も…あの二人以外勝負を終わらせることは許されないのだ。

 

だが、

 

「…~ッ!!!」

 

ハスミの表情も悔しさに満ちていた。

 

あのツルギが負ける…そんなことは考えたこともなかった。

 

しかし…目の前の現実を受け入れるしかない。

 

見届けよう。

 

それが立ち合いにである自分が…ツルギの友人である自分ができる唯一のことなのだから。

 

そして…

 

「………。」

 

「かヒュー…。」

 

ネイトとツルギの間合いが…重なった。

 

そして…

 

「ッ!!!」

 

グォンッ!!!

 

あの重低音が響いた。

 

そのまま鉄筋拐が振るわれツルギを捉え…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぶなぁい!」

 

ドギャオンッ!!!

 

「ゴ…!?」

 

『ッ!!!?』

 

突如として…

 

ドッゴォアンッ!

 

トリニティが誇る最強の『星』…

 

「…あははっちょっと叩いただけで飛んでっちゃったね♪」

 

聖園ミカが放つ拳の一撃がネイトを廃工場内まで殴り飛ばしたのだった。

―――――――――――――――――――

「………あの時ほど…自分の身分が邪魔になったことはないでしょうね…。もし、私がもっと自由な立場だったら…!………思い出したら苛立ってきました。すみませんっ、メガラニカ・バナナパフェをくださいッ!」

【挿絵表示】

―――――――――――――――――――

*1
鉄筋の突起部分込での太さ




Oh 悲しみに降る雨に
男はただ濡れる
―――刃 · THE BACK HORN
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