Fallout archive   作:Rockjaw

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火花が散るほどに 心をぶつけ合う
痛みを知ることを 優しさと呼ぶのだろう
―――刃 · THE BACK HORN


The core grasped

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特別アドバイザー ミレニアムサイエンススクール『ヴェリタス』所属『小鈎ハレ』

「………見て。クロノスのカメラが最後の一瞬でとらえた数フレームの解析なんだけど…ここ。ネイトさんの間合いにトリニティのお嬢さんが入ったタイミング。ネイトさんが持ってるコレの先端がぶれているでしょう?…これが行動の起こり。で次のフレームじゃ…もう画面はホワイトアウトしてその次じゃ映像が途絶えてる。つまり…1フレームでネイトさんは彼女に攻撃を叩きこんだって事。…これがどういう意味かって?この時の速度は…時速700㎞行くか行かないか。…そう、音速の半分の速度が出てたってことだね。」

―――――――――――――――――――

 

―――――――――――――――――――

特別アドバイザー ミレニアムサイエンススクール『エンジニア部』所属『白石ウタハ』

「………可能か不可能かでいえば…可能だね。物理法則的にも運動力学的にもこれらの一連の現象に一切矛盾はないよ。ネイトさんのパワーアーマーと彼考案の新装備に彼の技術があれば…ね。…意外そうな顔をしているね?…でも、これはあくまで『理論上』と言う枕詞がつくんだ。…あぁ私達は『エンジニア部』だ。不可能に挑むのが私たちのモットー、できないなんて口が裂けても言えないさ。…でもね、それを己の肉体を…それも瀕死の重傷を負った身体でもって実証する…いったいどれほどの研鑽を重ねれば…それもあんな状況で実行して見せたんだよ、ネイトさんは。いやはや…彼は私たちの常識を何度破壊すれば気が済むのかな…。」

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特別アドバイザー ミレニアムサイエンススクール『エンジニア部』所属『豊見コトリ』

「突然ですが『モンハナシャコ』という生物をご存じですか!?学名は『Odontodactylus scyllarus』節足動物門甲殻亜門軟甲綱シャコ目ハナシャコ科に属する綺麗なシャコで…!(中略)そして、この生物は海の生物きっての『ハードパンチャー』としても有名です!その独自の筋肉の構造から放たれるパンチはあまりの速度で水中で『キャビテーション』が起きなんと一瞬超高温のプラズマまで発生させてしまうんです!その威力は実に22口径弾に匹敵するとされていてダイバーが怪我を負わされたり飼育下では水槽を…!(以下略)」

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【05:08】

 

「クソヤロウがあああああああああああああ!!!」

 

あの時、ネイトがミカに対してはなった攻撃は…何ともシンプル極まりないモノだった。

 

ネイトがおぼろげな意識の中で掴み取り地面を引き摺りながらあるものを持ってきた。

 

『D51鉄筋』、存在する規格の中ではもっとも太く重い鉄筋。

 

1mあたりおよそ16kg、それがおよそ3mほどあるものがネイトが手にしたものだ。

 

そんなまさに『鉄塊』を…ネイトは横薙ぎで振るいミカに叩きつけたのだ。

 

だが、一つ疑問がわく。

 

ハレの解析ではこの際、ネイトは鉄筋を先端速度が時速700㎞近くの超高速で振り抜いたのだ。

 

通常、どれほど人間が力やパワーがあろうとスポーツの世界でおいてはヘッドスピードの最速は精々時速200㎞を超えるくらいだ。

 

実にその三倍の速度、到底普通の状態で出せるわけがない。

 

…では、こう考えよう。

 

この時のネイトは…『普通』ではなかった。

 

ミカとの接敵寸前、ネイトは鎖骨下静脈損傷によって大量出血しておりHPが徐々に減少していき…20%を切った。

 

その瞬間、あるPerkが発動した。

 

『Nerd Rage!』…INTELLIGENCE系列の最高位Perkにしてその『対極』にあると言えるPerkだ。

 

発動条件はHPが20%未満になった際に…ありとあらゆる攻撃の威力が40%上昇とダメージ耐性が40上昇という非常に強力な効果がある。

 

しかし…このPerkの真の脅威はこれらではない。

 

『タキサイキア現象』、極限の危険や緊急事態において脳が情報を高速処理しようとした結果…周囲の光景がスローモーションに見える『脳のターボモード』だ。

 

これが発動し、ネイトの体感時間は3倍に引き伸ばされその引き延ばされた時間の中を…普段と変わらない速度で行動できる。

 

つまり…普段の3倍の速度で動けるのだ。

 

これにより…ネイトは人智を超えた超高速攻撃が可能に。

 

さらにそこに『寸打』を応用した瞬間加速を応用し…瞬時にD51鉄筋をミカ目掛け振り抜いたのだ。

 

その結果…何が起こるか?

 

まず一つ『インパクトフラッシュ』…超高速で移動する物体の運動エネルギーが瞬時に熱と光に変換され着弾点を中心に青白い光が爆発的に広がる。

 

流星などが大気圏進入時に輝くのはこれが理由である。

 

次に断熱圧縮によるプラズマ化、鉄筋と標的の間の空気が逃げ場を失ったことにより超高圧で圧縮され物理的衝撃より先に標的を焼き切り蒸発させるほどの超高温のプラズマが発生。

 

続いて断裂波と剥離、面への打撃が強烈すぎるため衝撃波が標的の内部を音速で駆け抜け反対側の肉体が吹き飛ぶほどの大きなダメージを与える。

 

これだけでも脅威だが…まだ続きがある。

 

衝撃波誘導EMPの発生、プラズマ化と急激な金属変形に伴って発生する電磁パルスでその威力は周囲数百メートルの電子機器をフリーズさせ映像通信を遮断させるほどだ。

 

ソニックブームとウィルソン・クラウド、鉄筋の先端が音速の壁に干渉することで発生する衝撃音と水蒸気の凝縮現象で物理的破壊力を持つ衝撃波と気圧の急激な変化によって周囲の水分が一瞬だけ白い雲が形成される。

 

キャビテーション現象、鉄筋が標的を通過した後にあまりの速さに周囲の物質が追いつけず真空に近い巨大な空洞が形成され内部組織はこの空洞が潰れる際の「バブル崩壊衝撃」によってさらにズタズタに引き裂かれる。

 

『棒で叩く』、有史以来続くもっとも原始的な道具を使った攻撃だ。

 

それを40kg以上の鉄筋とそれをカメラの1フレーム*1で振り抜ける運動能力があればそれは…

 

カッ!!!

 

 

ドォオオオンッ!!!

 

『きゃああああああ!!!?』

 

離れている者たちすら衝撃波でダメージを負い、

 

バツンッ!!!

 

「え、映像が!?」

 

「一体何が!!?」

 

発生したEMPにより遠くに映像を届ける電子の目を焼き尽くし、

 

シューン…

 

「え、何!?何があったの!?」

 

「しっシステムとエンジンがダウン!!?制御不能っ!!!お、落ちますウウウウ!!!」

 

「そんなァァァァァァ!?」

 

さらにそれは上空を飛んでいたクロノスの報道ヘリすらもただの鉄塊となり果て墜落する事態に。

 

そんな物理法則の暴力を放たれた地上は…

 

「………。」

 

シュウ~…

 

先端から蒸気を立ち昇らせる鉄筋を振り抜いた格好となったネイトだけが残されていた。

 

「ミ…ミカ様は…?」

 

誰も目を放していないというのに…一瞬のうちにミカが姿を消していた。

 

辺りを見回してもどこにも彼女の姿が無い。

 

痛む耳を抑えつつ周囲を探っていると…

 

………ドォオオオン…

 

何処からともなく遠雷の様な地に響く音が聞こえてきた。

 

「ま…まさ…か…?!」

 

ハスミが信じられないものを見るようにでネイトを見つめる。

 

タイミング的に…間違いない。

 

ネイトがミカを…自分たちの知覚外まで叩き飛ばしたのだ。

 

後日、検証されたその飛距離は…優に500mを超え落下してなお車を破壊するほどの勢いであったという。

 

「はぁ…はぁ…うぅ…。」

 

ガララァンッ!

 

ガクッ

 

そんな物理の暴力を発揮したネイトだが…代償は決して軽くはない。

 

鉄筋は手から零れ落ち力なく片膝をつき明らかに呼吸も平常ではない。

 

ボタボタボタ…

 

さらには既に損傷していた鎖骨下静脈は一層傷付きアーマーの隙間を伝い止め処なく滴っている。

 

さらに深刻なのが…

 

ギュォオオオオオ…

 

『タキサイキア現象』による脳への過剰な負荷だ。

 

現在、ネイトの脳には単純計算で通常の3倍の情報が絶えず流れ込んできている。

 

通常ではありえない情報に処理が追い付かずにまるで脳内でスパークが起きているような感覚に襲われている。

 

本来ならこの隙にスティムパックなどを注入しHPの回復を図るのだが…

 

「あぁぁぁああぁぁ…!」

 

それが不可能な現状…いつ脳がクラッシュしてもおかしくない。

 

意識が溶け…まるで自分が自分でなくなるような感覚が…ネイトを襲っていた。

 

(だ…誰か…た…助け…!)

 

今日…初めてネイトは恐怖を感じた。

 

もしかしてずっとこのままなのか?

 

もう二度と…この時間の流れから抜け出せないのではないか?

 

それが…途轍もなく恐ろしかった。

 

ネイトは何とか意識を繋ぎとめようとするが…徐々に徐々に目の前が黒く染まっていき…

―――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

意識が途絶えたかと思ったネイトだが…

 

(………どこだ、ここは…?)

 

目の前の光景に呆然としていた。

 

ユメと会合する場所でも…以前やってきた少女の茶会の場所でもない。

 

どこかの一室のようだが…レンガ造りのその場所は相当古く荘厳に感じる。

 

窓もなく吹き通しの外からは強い日差しが差し込んできている。

 

全く身に覚えのない場所だが…

 

(なぜだ…。俺は…この場所に…。)

 

なぜか…ネイトの精神は警戒することなく落ち着き払っていた。

 

あの夢での茶会でもここまで心は休まらなかったというのに。

 

それに…

 

(声が…でない…。)

 

喋ろうとしても声が出る感覚が無い。

 

すると…

 

ファッ…

 

一陣の風が吹き抜けた。

 

(!)

 

ふと…後ろを振り向くと…

 

「       」

 

(誰だ…?)

 

いつの間にかそこには…シースドレスを着た一人の女性が椅子に座っていた。

 

首にはビーズや幾何学模様が施された派手過ぎない首飾りを下げその黒い髪は床につくほど長く艶やかだった。

 

目元はよく見えないが…笑顔をこちらに向けているということは分かる。

 

「       」

 

彼女は対面にある席に手を差し伸べる。

 

どうやらネイトに座るように促しているようだ。

 

(………。)

 

不思議と…ネイトも警戒することなく石造りの椅子に腰を下ろした。

 

(あの…ここは…)

 

言葉が発せない状況で通じるかは分からないが…ネイトはそう念じてみると…

 

フッ…

 

彼女が手をゆっくりと振ると目の前にある机にそれらが現れた。

 

それは『ハヤブサ』、『悪魔』、『狐』、『竜』を模ったガラス製の容器だった。

 

(クラフト…?)

 

いきなりのことだが大して驚かないネイト。

 

なんせ自分がいつもやっていることだ。

 

別に他人がやってもおかしくはない。

 

すると今度は…

 

「       」

 

彼女は水差しを取り出し…

 

コポコポ…

 

その容器一つ一つに水を注いでいく。

 

すると…どうだ?

 

容器に注がれた水は…それぞれ違う色に変化した。

 

『ハヤブサ』は鮮烈だが優し気なピンクに。

 

『悪魔』は重厚かつどこか柔らかさのある紫に。

 

『狐』は燃え上がる様な鋭く強烈な赤に。

 

『龍』は猛々しく煌めくような橙に。

 

一見すればグラスのうちにそのような物質が塗られていると分かるような現象だが…

 

(………あ。)

 

ネイトははたと納得した。

 

(そうか…。そう言う…ことなのか…。)

 

これはつまり…

 

ネイトがさらに理解を深めようとすると…

 

パパ…

 

(ッ!)

 

あの子の声が…聞こえた。

 

振り向くと…扉が開かれ光に埋め尽くされたような空間が広がっていた。

 

パパ…!

 

再び…そこからあの子の声が聞こえてきた。

 

(アリス…!)

 

思わず立ち上がりその扉へ向かおうとするが…

 

(………。)

 

彼女のことが気になり立ち止まって振り返ると…

 

「       」

 

彼女は笑顔で手を振って見送ってくれていた。

 

(…ありがとう。)

 

ネイトは心の中で礼を述べ…扉へと向かう。

 

その時…

 

「       」

「どうか私のことをよろしくお願いね、パパ。」

 

彼女が何かを話してくれたようだが…最後まで聞き取ることはできなかった。

―――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

《パパっ!!!》

 

「んあ…。」

 

響き渡ったその声にネイトの意識は引き戻された。

 

何とか頭を動かし声のした方を見ると…

 

《パパっ!!!起きてください、パパ!!!》

 

そこには宙に浮遊する一機のドローンがあった。

 

そこから…

 

「ア…リス…?」

 

声の主である娘、アリスの名を呟くと…

 

《やった、ネイトさん目を覚ましたよ!》

 

元気なモモイや、

 

《凄い!やっぱりアリスちゃんの声が効果あった!》

 

ネイトが目覚めたことに驚くミドリに

 

《ドローンぶつけても、ボォッとしてたのに…!》

 

心配げなユズや

 

(よぉしッでかしたぞ、チビ!やりるじゃねぇか!》

 

アリスを誉めるネルと言った声が次々に聞こえてきた。

―――――――――――――――――――

「………えぇ、片膝をつきうわ言の様に呻いていたネイトさんの周りに突然小型ドローンがやって来て元気な声が聞こえてきたんです。…おそらく、ミレニアムの方が近隣を飛行していた無事なドローンをハッキングしたのでしょう。ゲーム開発部、以前少々流行ったゲームを作った部活で…彼の娘さんが所属している部活であるとは把握しています。…しばらくの間、呼びかけたりドローンで小突いたりしてましたが反応がありませんでしたが…アリスさんが何度か声をかけると反応があったんです。…時間にして1分もかかってなかったと思います。…そこから…。」

―――――――――――――――――――

「………アリス。」

 

また気を抜けば消失しそうな意識を繋ぎ留めアリスに声をかけるネイト。

 

「俺は…ここにいるん…だよな…?」

 

我ながら…バカな質問だと思う。

 

アリスやモモイ達には理解できないだろう。

 

こんな弱気な自分なんか見たくないだろう。

 

だが…

 

《ハイッ!パパはパパです!!!強くて優しいアリスが大好きなパパです!パパは…パパはしっかりとそこにいて頑張っています!!!》

 

アリスはちゃんと答えてくれた。

 

《そうだよ!ボロボロでも必死に立ち上がろうとしているいつものネイトさんだよ!》

 

《もう休んで欲しいですけど…っそれでも前を向いて歩こうとしている私たちの友達です!!!》

 

《私たちが、保証します…!ネイトさんはちゃんとそこにいて、あの人に勝とうとしています…!》

 

それに続きモモイ達も答えてくれ…

 

《何しょぼくれてんだよ!?ダンナはダンナだ!!!当たり前なこと聞いてんじゃねぇぞ!!!》

 

ネルからも荒っぽいエールは届く。

 

そんな彼女たちの言葉が…

 

「………ははっ、そうか…!そうかぁ…!」

 

ネイトの意識を…

 

「俺は…まだ…ちゃんとここにいるんだな…!」

 

現実に繋ぎ留めた。

 

頭の中に流れ込んできていた情報の濁流はいつの間にか収まっていた。

 

そうだ。

 

「俺は…俺だ…!」

 

他の誰でもない。

 

「アビドス高等学校の用務員で…!」

 

地にちゃんと足を付き、

 

「W.G.T.C.社長で…!」

 

笑いそうになる膝に喝を入れ、

 

「ゲーム開発部の友人兼パトロンで…!」

 

背中をしゃんと伸ばし、

 

「アリスのパパの…ネイトだ…!」

 

ネイトは再び立ち上がった。

 

未だに体中が痛い。

 

すぐにでも倒れてしまいたい。

 

だが…

 

「…ミネ、また世話になる…!」

 

ネイトはソレをパワーアーマーにセットし、

 

プシュウッ!

 

自らの体に投与した。

 

瞬間、

 

ドクンッ!!!

 

心臓が力強く脈打ち始める。

 

レッドウィンターとの戦いの後の別れ際にミネが差し出してくれたのは…

 

「アドレナリン注射です…!もし…もし、限界がきて歩けなくなった時はこれを…!」

 

非常用の強心効果があるアドレナリンが充填されている注射器だった。

 

「ふぅぅぅ…!」

 

少し体に力が戻った。

 

だが…自分だけでは『不公平』だ。

 

カシャン

 

ネイトはアドレナリン注射が入っていた容器を取り出し…

 

「使え、剣崎ツルギ。」

 

それをツルギに投げ渡した。

 

それを受け取り開けてみると…あと一本アドレナリン注射が入っていた。

 

「………いいのか?」

 

「俺だけ使うのはフェアじゃないからな。」

 

「…きゃははは、感謝する…!」

 

ネイトから断りを入れ…

 

プシュウッ!

 

ツルギもアドレナリン注射を自らに打った。

 

「けっへっへ…げへへへへ…ッ!」

 

どうやらあちらも効果がすぐに表れたようだ。

 

これで…どちらも条件は同じ。

 

ならば…

 

「…すまない、アリスにネル。」

 

《なんですか、パパ!?》

 

《なんだよ、ダンナ!?》

 

ネイトはアリスとネルに…

 

「一言エールを頼む…!」

 

応援の声を求めた。

 

《…はい、分かりました!》

 

《オッしゃあ、任せろ!!!》

 

それに答え、

 

《お願いですッ!!!勝って!!!負けないで、パパっ!!!》

 

《何へばってやがる!?アタシに負けねぇでおいてそんな奴に負けんのか!?勝てや、ダンナああああああッ!!!》

 

愛する娘とかつて激戦を繰り広げた好敵手としてネイトに激励の言葉を投げてくれた。

 

「…ありがとう、二人とも。」

 

その言葉は…しっかりとネイトの心に響いた。

 

その時、

 

カシャン

 

「?」

 

突如としてネイトの手にそれが握られた。

 

Pip-Boyから物を取り出す際の音が流れたが…ネイトはそんな操作をしていない。

 

だが…

 

「…ハハッ、そうか。」

 

それは今まさにネイトが必要なものだった。

 

ネイトの手に収まっていたのは…

 

ジャラッ

 

かつてネルとの戦いで戦利品として持ち帰った彼女の愛銃『ツイン・ドラゴン』を繋いでいた鎖だ。

 

「スゥ~…。」

 

ネイトはその鎖を右手に巻き付け両手を空に掲げる。

 

周囲からしてみれば首を傾げるような行動だが…

 

(集中しろ…!自分の意識を…隅々まで張り巡らすんだ…!)

 

ネイトの集中力はピークを迎えていた。

 

その脳裏には…かつての記憶がよみがえった。

 

父に連れられチャイナタウンで老師の道場の門を叩いた頃…老師にこう教えられた。

 

『いいですか、ネイトさん。まずは…真似なさい。私たちが拳を撃ち蹴りを放つその姿を見て真似なさい。そして、分からないことを私たちが指導しましょう。いいですか?学ぶことの神髄は…『真似る』ことなのです。』

 

子供の時分に…初めて敬語で語りかけてくれた大人。

 

その言葉は…今でもネイトの胸に刻まれている。

 

だから…真似よう。

 

その心を…その魂を…。

 

そして…その『神秘』を。

 

次の瞬間、

 

「ッ!!!」

 

ネイトは掲げていた手を勢い良く降し構えた。

 

すると、

 

ドワォッ!!!

 

『ッ!!?』

 

ネイトの体から…凄まじい神秘が放たれた。

 

さらに…それを見た者たちは口々にこう語る。

―――――――――――――――――――

「………はい、『縮んだ』んです。いえ、正しくは…『凝縮された』…と言った方がいいでしょうか…?確かに目に見えるネイトさんの状態は2.5mはある非常に大柄な体系です。ですが…彼の体から神秘が放出されたかと思うと…それがまるでもっと小さく…もっと高密度に凝縮されていったんです。どんどん凝縮されて行って…最後には荒々しくも鋭い…まるでオレンジの炎の様なイメージになっていったんです。」

―――――――――――――――――――

そのまま凝縮が進んでいきその最終形態を目の当たりにして…

 

《ま…マジかよ…!?》

 

ネルは驚愕していた。

 

目の前にいるのは…確かにネイトだ。

 

だが…その構えや溢れる神秘は間違いなく…

 

《あ…あたし…!?》

 

自分のそれだった。

 

訳が分からない現象だが…

 

「クックックッ…アッハッハッハッ!アーハッハッハッハッ!!!なんですか、その技は!!?なんですか、その神秘はッ!!?」

 

ここではないまた別の領域で…黒服は歓喜に震えていた。

 

「自身の身に蓄えた神秘を放出しそれを変質させ他の生徒の姿を幻視させるまでに昇華させる!!?そんな技術、我々のデータにはない!!!」

 

どこまで楽しませてくれるのだろう。

 

「神秘の模倣…いえ、これは最早『象形』と言ってもいい!!!一体どこでそんな発想に辿り着いたのですか、貴方は!?」」

 

どこまで興奮させてくれるのだろう。

 

「貴方は一体何を見たのですか、ネイトさん!?あの自他の境界が曖昧になった刹那、貴方は何を目の当たりにしたのですか!?」

 

どこまで打ち震わせてくれるのだろう。

 

「あぁ今すぐにでも解析したい!今すぐにでも解き明かしたい!!!貴方の原初の神秘はどこまで可能性を秘めているのですか!!?」

 

これ以上ないほど体中のひび割れから光を溢れさせ…

 

「見届けましょう、ネイトさん!!!貴方の最古にして最新の神秘の検証を!!!」

 

その画面にかぶりついて戦いの趨勢を凝視するのであった。

 

そして…もう一人。

 

別の空間で動いている者もいた。

 

全く…とんでもない人です

まさか他人の神秘を模って自らのものにするなんて…

………何ですか、その表情は?

勘違いしないでください。

あなたがいきなりメガネをかけて筋肉を肥大化させる間に隙があったのでゴミ処理をしただけです。

えぇ、そうです。全く少し整理をしてほしいものです。

………だから何ですか、その生暖かい笑顔は?!

言いたいことがあるならはっきり言いなさい!

そのサムズアップはなんですか!?

私はただゴミ処理ついでにアリスの安定のために動いただけです!

あの人を助けるのはついでです!

もしものことが会った時にアリスに再起不能なダメージが与えられるのを防ぐため…!

…あ!

今のなしっなしです!

何をターミナルに記録しているのですか!?

止めなさい、叩き壊しますよ!?

閑話休題。

 

「…よし。」

 

準備は整った。

 

相変わらずHPに余裕はないが…体には力が漲っている。

 

そして…自分もツルギも無手。

 

つまり…決着をつけるには…

 

「…殴り合おう、剣先ツルギ。」

 

『ッ!!?』

 

超シンプルな勝負法が提示されハスミたちも驚愕する。

 

あのツルギと…殴り合う?

 

「いっいけません!!!」

 

これには思わずハスミも声を上げる。

 

「ほッ本当に死んでしまいます!!!貴方は分かってない!!!今の貴方がツルギと打ち合うなど自殺行為です!!!」

 

立会人と言う立場も忘れ警告する。

 

「私だってツルギの正面には立ちません!!!いえ、立てないんです!!!やめてください、ネイトさん!!!」

 

「…分かった。分かったよ、羽川ハスミ。」

 

そんな必死なハスミの警告を聞き…

 

「…やる価値十分ってわけだ…!」

 

ネイトは一歩踏み出した。

 

「で、どうだ…?やるか…?」

 

そして…

 

「ぬぅははははははッもちろん!!!もちろんだああああああ!!!」

 

ツルギもそれに答え一歩を踏み出す。

 

どちらも満身創痍。

 

だが…その闘志は過去最高にまで高まっている。

 

これにより…両者それぞれが…

 

「フシュ~…。」

 

「へェアアア…!」

 

120%の潜在能力ポテンシャルを引き出すに至った。

 

もう…誰も止められない。

 

そして…幕を開けた。

 

おそらく…このキヴォトス誕生以来…

 

「シィッ!!!」

 

「カァッ!!!」

 

最強のぶん殴り合いが。

―――――――――――――――――――

「………えぇ、そうです。決着は…間もなくでした。」

―――――――――――――――――――

*1
約0.0167秒




Oh 負けられぬ闘いに
男の血は滾る
―――刃 · THE BACK HORN


SPスキル
『Mysterious Masterpiece』
『象形』対象の生徒に縁深いアイテムを所持時、EMVを消費し発動
その生徒に対応したレジェンダリー効果(防具効果ならば効果値×5)を自動付与する
象形対象『美甘ネル』
★1不屈(残りHPが少ないほど、Enduranceを除くS.P.E.C.I.A.L.が最大3ずつ増加する)
★2敏捷性の(Agility+2)
★3アクティブ(最大AP+20)
★4Stagger-Proof(怯み回避率+15%)
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