Fallout archive   作:Rockjaw

187 / 209
解き放て 世界でただ一つその刃
研ぎ澄ませ 勝負は一瞬のイナビカリ
―――刃 · THE BACK HORN


I've been longing for you

―――――――――――――――――――

「………正直言って…今でも信じられないんです。だって…相手はツルギですよ?銃を持った際の戦闘能力や自己回復力だけではなくその単純な腕力でさえキヴォトス人の中であっても『規格外』以外の何物でもない子なんです。…そんな子相手にキヴォトス人ではないただの人が…それも重傷を負った人が『殴り合い』を挑むだなんて…。…ですが…そんな私の常識なんて…あの人の前では些細なことだと思い知らされました…。」

―――――――――――――――――――

互いに一切の怯えも躊躇いもなくまるで散歩でもするかのように歩みを進めていく。

 

そして…互いの間合いに入った瞬間、

 

「シィッ!!!」

 

「カァッ!!!」

 

ネイトとツルギは拳を振り上げ…

 

「「るぅあッ!!!」」

 

ゴガァンッ!!!

 

互いの顔面目掛け拳を叩きこんだ。

 

「ぶぐぅッ!!?」

 

自分の顔程の鉄拳が叩き込まれさすがのツルギは鼻血を噴出させのけ反る。

 

そして…彼女は異常を感じ取った。

 

(ど、どういう…!?)

 

ネイトとは先程も打ち合った。

 

その時の感触はしっかりと記憶している。

 

決して打ち抜けない強度ではなかったはずだ。

 

だが…今のネイトは…

 

(さっきよりも…硬い…っ?!)

 

まるでそのまま無垢の鋼鉄の塊になったかのような手ごたえだった。

 

打ち込んだはずの自分の手が痺れていることから決して誤解ではないことは知覚できる。

 

(ハハッ…そう言えばこれも発動するんだったな…!)

 

この現象にネイトは心当たりがある。

 

Perk『Protector of Acadia』、Nerd Rage同様窮地に立った際に発動するPerkで…その効果は一定時間ダメージ耐性とエネルギー耐性が+1,000と言う物。

 

ざっくりいうと…この状態時、ネイトはX-02の上にもう一着のパワーアーマーを装備しているも同然の堅牢さを得る。

 

一撃程度なら…真正面から受け止めようとビクともしない。

 

つまり…今のネイトは攻守ともに全快時とは比べ物にならないほどの強さとなっているのだ。

 

(関係ぇねぇ!!!効くまで叩き込んで…!)

 

それでもツルギは折れず体勢を立て直し二撃目を振りかぶる…

 

「しぃッ!!!」

 

ズドォッ!!!

 

「ぎぉっ!!?」

 

それよりも早く…自分の拳を頭部で受け止めたままネイトが左のリバーブローを叩きこんだ。

 

(なんで次が!?しかも出力がさっきと全く違…!)

 

さらにツルギは気付く。

 

ネイトの一撃一撃が…先ほどの比ではないほど重く深く鋭く彼女にダメージを与えていることに。

 

しかも、それが一発二発ではない。

 

チュドドドドドドドドドドォンッ!!!

 

「げガァッ!!?」

 

ツルギが二発目の拳を放つ間に…ネイトは計十二発の鉄拳をツルギに叩きこむ。

 

詠春拳が誇る連続パンチ、かつてネルを苦しめたその攻撃は…トリニティの『戦略兵器』剣先ツルギにも届いた。

 

「かぁッ!!!」

 

遥かに強力になったネイトの連撃を受けてなおツルギは拳を放つ。

 

その気になればキヴォトス人を空き缶のように叩き潰しで鉄筋コンクリート製のビルを粉砕できると言われる必殺の拳を…

 

コッ

 

シュボッ

 

「ッ!!?」

 

ネイトはそっと肘で軌道をそらし空を切らせ…

 

ドカァベキィズドォンッ!!!

 

「づぎゃぁっ!?」

 

がら空きとなったツルギに連打を叩きこむ。

 

拂手ファクサオ』、肘や前腕を用い最小限の力で相手の攻撃を受け流しカウンターを叩きこむ『攻守一体』の詠春拳を象徴する動作だ。

 

しかし、今のネイトのHPは流血の影響で10%後半を切ろうとしている。

 

次にまともにツルギの拳を貰えば…立ち上がれないだろう。

 

そんな崖っぷちの状況でなお…

 

(あぁ…体が羽根の様に軽い…。)

 

ネイトの心は平静そのものでその視界は…先ほどの様な時間が引き延ばされたようなゆっくりとした感覚を味わっている。

 

しかし、情報の濁流に吞まれながら藻掻いていた『タサイキア現象』とは違い…まるで穏やかな川の中に立ちすべてを受け入れるかのような極限の集中力が満たしていた。

 

『フロー現象』、『ゾーン』とも呼ばれるスポーツ選手なども経験することが報告されている究極の集中状態だ。

 

他のことは気にならず活動と一体化する『完全な没頭と集中』、あっという間に時間が過ぎる『時間感覚の喪失』、自分の存在を忘れてなお行動が自然に起こる『自意識の希薄化』など最高のパフォーマンスを発揮する十二分な状態に突入することが報告されている。

 

これにより『タサイキア現象』と同等の時間の流れと体の動きができてなお…ネイトは冷静さを保てていた。

 

「ギぇえっ!!!」

 

ゴォウッ!!!

 

ツルギが満身の力を込めて拳を振るう。

 

速度もパワーも申し分なく喰らえば…一撃で昏倒どころか命も危ういだろう。

 

だが…

 

(ここは…こうすれば…。)

 

トッ

 

ボワォッ

 

「ッ!!?」

 

ネイトに一切の恐怖はなく体にしみ込んだ『拂手ファクサオ』の動作で受け流し…

 

(ここ…。)

 

バギャドガドォッ!!!

 

「ぐぎぃッ!!!」

 

吸い込まれるように数発拳を打ち込む。

 

(これが…ネルの『勝利の象徴』としての力か…。)

 

神秘の『象形』によってネルの神秘を体現し…その効果はひしひしと伝わってきている。

 

筋力や瞬発力、感覚などの全ての感覚の飛躍的な向上。

 

とくに敏捷性に関しては…身体全盛の現在でも不可能なほどの連撃を可能とするまでに。

 

そして、無駄をそいでなおどこまでも動けそうなほどのAPに先ほどツルギの一撃を受け止めても一切怯まないタフネス。

 

(自分でも…よく戦えたものだな…。)

 

そんなネルに終始徒手空拳で挑んだ自分に半ば呆れながらも…

 

(だから…負けられないな…。)

 

アレを自分の『勝利』と宣言するつもりはない。

 

だが、それでもネルは『勝ちきれなかった』ことにとてもこだわっている。

 

だから…自分は今負けるわけにはいかない。

 

もし負ければ…ネルの思いも踏み躙ってしまう。

 

そして、こんな引き延ばされた感覚の中であっても…

 

《パパッ頑張ってください!!!絶対にっ絶対に勝てます!!!》

 

アリスの声援はしっかりと届いていた。

 

(あぁ、アリス…。絶対に…。)

 

彼女の声が…ネイトに『自分は一人ではない』という『多幸感』と『安心感』を与え平静を保たせている。

 

「ギィエエエエエ!!!」

 

シュボォッ!!!

 

今度はネイトの顎を打ち砕く様にアッパーを放つツルギ。

 

下から突き上げるような一撃、『拂手ファクサオ』の要領では受け流してもX-02の体格の関係で命中するだろう。

 

(悪くない…。だが…。)

 

しかし、それに対してもネイトは冷静に対処。

 

拳撃と言う物は読んで字の如く『拳』部分が最も脅威だ。

 

つまり、

 

「しぃッ!!!」

 

ゴッ!

 

「つぅッ!?」

 

ネイトは右腕をツルギの腕を押しつぶすように構える。

 

トップスピードに到達前、それも可動部の基部である腕にいきなり1tの負荷が掛かり、

 

ビタァッ

 

ネイトに届く寸前でアッパーが止められた。

 

耕手ゴンサオ』、『拂手ファクサオ』の応用技で自分より下方からの攻撃の際の用いられる防御法だ。

 

そして、詠春拳の技術はほぼすべてが『攻防一体』。

 

つまり…

 

ドゴゴゴォッ!!!

 

「ギャがぁッ!!!」

 

ネイトの拳が再びツルギに叩きこまれる。

 

キヴォトス人と人間、本来ならば比べるまでもなく隔絶とした差がある。

 

それが『剣先ツルギ』ともなれば…それは象と蟻と言っても収まりきらないさになるはずだ。

 

そんな常識を…

 

「ヒュっ!!!」

 

ミシィッ!!!

 

その足もとの大地の様に踏み砕きながら…ネイトはツルギを圧倒していた。

―――――――――――――――――――

「………フフッ、私の心配なんてまるでバカみたいな光景でしたよ。いくらパワーアーマーを纏っているとはいえただの人が…それも放っておけば大事に至るような怪我人が…ツルギを押し切ろうとしていたのですから。はい、膠着していたわけではありません。徐々に徐々に…ツルギが後退していっていたんです。あの子が放つ攻撃は受け流され出を潰され…その度に目にも止まらない拳が数発纏めて飛んでくる。…そんな不条理、私だったら数秒と耐えきれないでしょう。…ですが、あの子は…ツルギは…。」

―――――――――――――――――――

「ツルギ…!」

 

ハスミや周りにいる正義実現委員会の生徒達には『殴り合い』というのは最早建前のようにしか感じれなくなってきていた。

 

あのツルギが…なす術もなく押し切られている。

 

必殺の拳は全て往なされあちらの拳は数倍の量がクリーンヒットで叩き込まれる。

 

これを理不尽と言わずになんという。

 

無論、理由は分かっている。

 

自分達は…あまりにも『格闘』と言う物を知らなすぎるせいだ。

 

ツルギの肉弾戦も言うなれば『力任せ』でテクニックもお粗末なものだ。

 

そんな彼女の前に立つのは…格闘武器で彼女を圧倒したネイト。

 

しかも、今はツルギに匹敵する神秘を放出し瀕死の重傷を負っているとは思えないほど力強さと素早さを発揮している。

 

ずぶの素人と神秘を纏った格闘の熟練者、その差は歴然だろう。

 

だが…そんな誰もが諦めたくなるような状況に至っても…

 

「見て、ツルギ委員長が…!」

 

「なんで…あんな…!?」

 

「…あぁ、ツルギ…!そうなんですね…!」

 

その光景に正義実現委員会の隊員は驚愕しハスミは感極まる。

 

《み、見て…ツルギさんの表情…!》

 

《どうして…あんなに打たれてるのに…!》

 

《きっ効いて、ないんですか…!?》

 

《馬鹿ッ違ぇよ、おでこ。…ちぃ、もやもやするぜ…!》

 

ドローン越しで観戦していたモモイ達もその様子に驚いている。

 

(なぁ…知っているか、ツルギ…?)

 

それは極限のゾーン状態のネイトも気付いていた。

 

もう何発打ち込んだ?

 

一発一発がそれこそキヴォトス人であってもただでは済まない威力の拳だ。

 

それを…もう軽く二桁後半は打ち込んだ。

 

どれだけ痛いか、苦しいか…想像もつかない。

 

ドキャォッ!!!

 

「ぐべぇっ!!?」

 

(ほら、いいのが入った…)

 

再び、彼女にX-02の鉄拳がクリーンヒットする。

 

だが…

 

(気づいているか、ツルギ…?)

 

それでもなお…

 

(お前、今…。)

 

「はッはぁッ!!!」

 

(笑ってるぞ…?)

 

ツルギは笑顔を浮かべていた。

 

戦闘中のあの敵を威嚇するような笑顔ではない。

 

本当に…今が心の底から楽しくてたまらない、そんな満面の笑みだった。

―――――――――――――――――――

「………あの子は普段は引っ込み思案で戦闘中は精神が昂ってしまいますので…あんな表情は初めて見ました。まるで…自分に心行くまで付き合ってくれる大人と全力で遊ぶ子供のような笑顔でした。あんな戦いのさ中でも…ツルギは…心の底から嬉しかったんでしょうね…。」

―――――――――――――――――――

Side Tsurugi

 

物心ついたころから…私は強かった。

 

子供のころから誰に喧嘩を売られようと負けたことはない。

 

小学生のころには…高校生の不良も倒したことがある。

 

そして、私の強さは単に力と言うことではない。

 

身体も…擦り傷くらいならすぐに治った。

 

ここはキヴォトス、強さが何よりも大切だ。

 

そうでなければ…誰かに大切な者を奪われる。

 

そんな日々は中学生になっても続き高校生になり…トリニティに入学した。

 

派閥やいろいろと面倒なこともあったが…私は正義実現委員会に入った。

 

同期のハスミとは最初そりが合わなかったが…今では大切な腹心だ。

 

色々な任務をこなし、たくさんの不良どもを叩きのめし生徒を救ってきた。

 

………たまに要救助者にトラウマを植え付けてしまうことは許してもらいたい。

 

そして…いつの間にか私は成っていた。

 

ある人は私を『トリニティの戦略兵器』と…『トリニティ最強』と呼んだ。

 

悪い気はしない。

 

それだけ私は強くなったという証明だからだ。

 

だが…渇く

 

そう呼ばれるようになり…私は渇きを覚え始めた。

 

何が私をそうさせてるのかは分からないが…私は『ナニか』を望むようになった。

 

それは戦いの中で少しだけ収まるが…またすぐに、そしてさらに渇きが強くなってしまう。

 

身体の傷はすぐに癒えるのに…この渇きだけは全く消えてくれない。

 

それでも…私は正義実現委員会委員長、皆を率いて進むしかない。

 

マシロもイチカもハスミにも…この渇きを知られてはならない。

 

皆は自分を信じ私の後について来てくれる、それに不満はない。

 

むしろ…こんな人付き合いが苦手な私について来てくれることに感謝してもしきれない。

 

でも…時おり思う。

 

(誰か…この渇きをどうにかして…。)

 

そしてある時…予感を感じた。

 

まるで…自分の中にある本能的な部分が警鐘を鳴らすかのような…虫の知らせだった。

 

その後、こんなうわさを耳にした。

 

『ゲヘナの風紀委員長が重傷を負った。』

 

『ミレニアム最強のエージェントが圧倒された。』

 

出会ったことはないが…どちらもこのキヴォトスで『最強』という分野においては一も二もなく上げられるほどの者たちだ。

 

そんな奴らが…負けた?

 

一体、何があった?

 

一体、どんな奴が…。

 

(…羨ましい。)

 

そんな時に…彼の存在を知った。

 

アビドス高校の用務員、ネイト氏だ。

 

ティーパーティーのナギサ様が随分と警戒されていたので存在は把握していた。

 

『アビドス独立戦争』、その生配信のアーカイブは私も見ている。

 

…強い、間違いなく。

 

その予感はひしひしと感じていた。

 

そして…この日を迎えた。

 

私も組織人、ナギサ様の命には従わなくてはならない。

 

それでも…彼には同胞を救ってもらった恩義がある。

 

今日のこと事だけじゃない。

 

あの日…暴漢に捕まった新入りのコハルを救ったのもおそらく彼だ。

 

だから…決闘を挑んだ。

 

『本気』で挑み惜しくも敗れれば…ナギサ様にも言い訳が立ち彼も逃がすことが出来る…と。

 

だが…それだけではだめだった。

 

銃弾を交わし、体をぶつけ合い…そこで理解した。

 

(あぁ…!楽しい…!)

 

こんなの心躍ることなど何時ぶりだっただろう?

 

しかも、彼は銃を使わずに私を追い込んだ。

 

とても痛くて苦しい筈なのに…

 

(渇きが…癒されていく…。)

 

充足感が私を満たし始めていた。

 

…駄目なのに、ダメなはずなのに…

 

(『全力』を…この人になら『全力』を…!)

 

そう願った。

 

だが…ミカ様が彼を奪おうとした。

 

その時私を支配したのは…『怒り』だった。

 

高尚なものではない。

 

大切な宝物を他の子に奪われた、そんな単純だが強烈な怒りだった。

 

それでも…ネイトさんは立ち上がってくれた。

 

誰がどう見ても無事じゃないのに…。

 

立ち上がれなくても…彼を誰も責めないのに…。

 

それでも…ネイトさんは私に向き合ってくれた。

 

ミカ様を一瞬で排除し…私にも薬を分けてくれた。

 

そして…

 

「…殴り合おう、剣先ツルギ。」

 

あぁ…もう我慢できない…!

 

もう…我慢したくない…!

 

神秘を迸らせそう誘ってくれたネイトさんの言葉は…今まで浴びたどんな称賛よりも…嬉しかった。

 

そして…

 

「シュッ…!」

 

ドゴォッ!!!

 

「げぎゅッ!?」

 

今…私の『全力』に真っ向から答えてくれている…!!!

 

あぁ、間違いなく彼だ…!!!

 

この人が…キヴォトスの最強達と戦った人だ…!!!

 

そう実感させるほどその拳の一撃の威力はすごい…!

 

痛い、キツイ、苦しい…!

 

なのに、私の攻撃はちっとも当たってくれない…!

 

悔しい、むかつく、苛つく…!

 

でも…ッ!

 

こんなに思い通りにならないのに…!

 

こんなに私の技が全く通じないのに…!

 

こんなに手こずったことが無いのに…!

 

(楽しい…!)

 

あぁ…なんて楽しいんだ…!

 

こんなに満たされた気持ち…産まれて初めてだ…!

 

ずっと…ずっとこれを求めてたんだ…!

 

私の全力に真っ向から全力で答えてくれる…そんな人を…!

 

そして…癒えないと思っていた渇きは…もうなくなっていた。

 

Side Out

―――――――――――――――――――

「………正直、あの時はネイトさんに嫉妬しました。私はあの子の隣にずっと立っていたのに…あんな嬉しそうなツルギの顔を見たことありませんでした。それを…立ち会って僅か10分少々の彼があんなにあの子を喜ばせるなんて…。………いえ、私ができなかっただけですね。全力のツルギの…正面に立つことが…。…はい?展開が進んでない?…決着は直後でした。」

―――――――――――――――――――

ネイトとツルギの殴り合い。

 

一見してネイト優位に進んでいるようだが…

 

(余裕がある訳じゃないのは…確かだな。)

 

その実情は決して楽観視できるようなものではない。

 

ネルの神秘を象形している現在。

 

ミカの強烈な神秘を込めた一撃を喰らいほぼ満タンまで溜まったEMVは…

 

(残り…56%…!)

 

その残量をどんどん減らしている。

 

これまでの減り方から大まかに計算し残り時間は…

 

(ざっと…3分弱…!)

 

それまでにツルギを打倒さなければ神秘の消失だけではない、肩の出血から見ても自分はおそらく…。

 

超回復を持つツルギをそれまでに削り切れるか…?

 

(…あとだ。今は全力で彼女を…!)

 

そう思い、ネイトも拳を振るう。

 

そして、余裕がないのはツルギも一緒だ。

 

(楽しいのに…楽しいのに…ッ!!!)

 

彼女の身をもってしても…ネイトの一撃一撃は着実に彼女の体力をどんどん奪いつつある。

 

打たれる拳が多すぎ…もはや回復が追い付かず…

 

(膝が笑い始めた…!腹の中も…目の前もぐちゃぐちゃだ…!)

 

最早痛くない場所を探した方が早い、そんな状態だった。

 

それでも…

 

(まだ…だ…ッ!まだ…終わらせたくない…!!!)

 

この時を少しでも長く楽しみたい、その熱意だけがツルギを立たせていた。

 

両者、極限の集中状態。

 

だが…

 

ピトッ

 

「~ッ!!!」

 

ネイトの拳が…ツルギの体に接した。

 

本能でツルギは悟る。

 

『アレ』が来る、と。

 

その予感は一切外れることなく…

 

ボグワォン!!!

 

「無寸打…!」

 

「げガァッ!!?」

 

先程よりも強烈な無寸打が炸裂。

 

それによりツルギは再び吹き飛ばされ…

 

ガッシャアアン!!!

 

「グフッ!!?」

 

ネイトが乗ってきたGAZ-AAに衝突しそこで何とか止まった。

 

「ふー…ッふー…ッ!」

 

吹き飛ばされたことにより間合いが開きなんとか息をつくツルギだが…

 

(追撃が…来ない…?)

 

ネイトならこんな隙を見逃すはずがないが…まだ襲ってこない。

 

何かと思い前を見ると…

 

「………。」

 

拳を構えた状態でネイトがまるで呆然としているようではないか。

 

しかもその目線は…自分よりも後ろを見ている。

 

その視線を追って振り向くと…

 

「頑張れー、ツルギ先輩っ!!!」

 

「負けないで!!!きっと勝てます!!!」

 

「私たちがついてますっ!!!」

 

「み…皆…!?」

 

共にやって来ていた正義実現委員会の隊員たち全員が…自分を応援してくれていた。

 

自分達の任務を忘れて…自分を奮い立たせようとエールを送ってくれていた。

 

「…ハハッ剣先ツルギ。いい子達じゃないか…。」

 

「…きゃはははッ。えぇ…自慢の子達です…!」

 

共に人を率いる身、そんな彼女たちの声はとても暖かく感じるものだ。

 

だが…

 

「…そろそろ、だな。」

 

「キヒヒッ…!」

 

互いに…限界が近い。

 

おそらく…次の衝突で…

 

(立ち上がれ…っ!私にだって…死んでも譲れないものがある…っ!!!)

 

己に喝を入れツルギはしっかりと立つ。

 

目の前にはネイト。

 

恐い、怖くないわけがない。

 

(振り向くなッ!!!後ろに道は無いッ!突き進め!!!)

 

それでも…引き下がれない、引き下がるわけにはいかない。

 

ネイトに報いるため、正義実現委員会の皆に答えるため…

 

(この間合い…!ネイトさんなら確実に…!)

 

ツルギは待ち構える。

 

ネイトは決して手を抜くような性格ではない。

 

その状況で最も最善の手を打ってくるはず。

 

ならば…次のネイトの手は…

 

シュンッ!

 

「フンッ!!!」

 

(ハハッ…相変わらず反則だ…!)

 

10m近い間合いがあったのに…ネイトが既に拳を振り上げ攻撃態勢を取り一瞬で姿を現した。

 

原理は今もって分からない。

 

だが…

 

(腹をくくれ、剣先ツルギ!!!)

 

ツルギは身を持て味わったネイトの『V.A.T.S.』の発動タイミングを読み切った。

 

今のネイトにこちらから仕掛けても往なされてカウンターを貰う。

 

ならば、

 

「シィッ!」

 

(私も…カウンターを…!)

 

迫るネイトの鉄拳から目をそらすことなくツルギは構える。

 

そして…

 

ドゴォッ!!!

 

容赦なくネイト最速の拳技である『日字衝拳イェット・イー・チョン・キュン』が彼女の顔面に叩きこまれた。

 

(堪えるな…!彼のように…!)

 

普段ならば…耐えようとするだろう。

 

しかし…ネイトがそうであるようにツルギもまた…

 

(受け流せっ!!!)

 

ギュンッ!!!

 

成長していた。

 

叩きこまれた拳の勢いを殺さない様にツルギは顔を回転させることでそれを受け流しつつ…

 

パシッ!

 

伸びきった手を両手で掴み…

 

ガキィッ!!!

 

右足をネイトの首の後ろに引っ掛け…

 

「シェアッ!!!」

 

左足を勢いよくその頭部目掛け振り上げた。

 

その瞬間…

 

ゾクッ

 

「~ッ!?」

 

ネイトの血の気が引いた。

 

その時、ネイトの脳裏に浮かんだのは…巨大な虎が今まさに自分を噛み殺さんと大顎を開けている光景だった。

 

ツルギが土壇場で繰り出したこの技。

 

二人は知る由もないが…異世界ではこう呼ばれている。

 

虎が獲物の頭部をその巨大な上顎と下顎で噛み延髄に牙を突き立ててとどめを刺すことを自らの両脚で見立てた打撃技。

 

その名も…『虎王』。

―――――――――――――――――――

「………両足でこうネイトさんを挟み込むように。…見たことも聞いたこともない技術です。あの後ツルギに聞いても『勝手に体が動いていた』としか…。…えぇ、決着はこの直後です。…はい?まだあるのか…と?…それは二人への侮辱と捉えても?嘘は一切言っていません。一瞬一瞬を詳細に語っているだけです。………あ、すみません。お替りでこの『ビックバン・ショコラパフェ』をください。」

【挿絵表示】

―――――――――――――――――――

バギャオッ!!!

 

叩きこまれたツルギの起死回生の一撃、『虎王』。

 

いかに今のネイトでも…耐えきれないだろう。

 

(獲った…!)

 

手ごたえは十分、勝利を確信するツルギ。

 

だが…

 

ガシィッ!!!

 

「ッ!!?」

 

伝わってこないはずの感触が…伝わってきた。

 

それは…今しがた振り上げた左足が万力の様に掴まれている感触だ。

 

そして…

 

「…ゲホッ…惜しかったな…!」

 

「え…?」

 

若干苦しそうだが…その声が聞こえ…

 

ギュオンッ!!!

 

「~ッ!!?」

 

ツルギの体を遠心力が支配した。

 

振り回されている、そう結論を出すよりも早く…

 

ガシィッ!!!

 

「ぐギッ!?」

 

ツルギの頭部は…ネイトの左わきに挟み込まれた。

 

(今のは危なかったぞ、ツルギ…!)

 

あの時、ネイトもさすがに肝が冷えた。

 

あのままでは…きっと自分の頭は挟み潰されていただろう。

 

ならばどうやって回避したか?

 

…肉食獣の牙の構造は往々にして決まっている。

 

それは…逃げようと身を引けばさらに深く食い込み肉を引き裂くと言う物。

 

逃げようと身を引くのは本能的な行動だ。

 

だが…ネイトは違った。

 

(ビビるな、踏み込めッ!!!)

 

本能を理性で抑え込むことなど…ネイトには朝飯前だ。

 

あの瞬間、その腕を虎の顎のさらに奥に届かせるように一歩踏み込んだのだ。

 

その結果、確かにツルギの一撃を喰らいはした。

 

しかし、受け止めたのは…

 

「ゴフッ…!」

 

X-02の中でも最高の強度を誇る胴体部だ。

 

それでもダメージはくらいはしたが…

 

(残りHP…8%)

 

耐えた。

 

(流石だな、ツルギ…!)

 

今の技は…自分も未知のものだ。

 

ならば…

 

(一つ…俺も挑戦しようか。)

 

自分も…新境地に至ろう。

 

「むんッ!!!」

 

シュゴォッ!!!

 

「ギィッ!!?」

 

ネイトはそのままツルギを振り回し始める。

 

それも一振り二振りではない。

 

シュゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!!

 

目にも止まらない速度で何度も何度も振り回し続ける。

 

ネイトにはこの感覚は覚えがあった。

 

『双節棍』、中国武術の中ではもっとも有名な武器だろう。

 

葉門派詠春拳を学びハリウッドでアクション俳優として活躍したある武術家が使用したことでその知名度は高い。

 

これまた…詠春拳にはない技巧だがある程度はネイトも扱える。

 

それをツルギと言う人体で再現したのだ。

 

X-02の膂力は素の状態でもかつて店長を軽々放り投げる程。

 

ネルの神秘を象形したおかげでStrengthとPerceptionもかなり強化されている今だからこそ可能な荒業だ。

 

今まで様々な攻撃を経験してきたツルギだが…振り回されるのは初めてだ。

 

しかも、その速度は徐々に加速し…

 

(あ…赤い…!空も…地面も…!)

 

遠心力により血液が頭部に集中。

 

これにより見えるものすべてが赤くなる現象、航空業界でいうところの『レッドアウト』を発生していた。

 

さて…振り回されているのは精々数百gの双節棍ではない。

 

剣先ツルギ…女子高生にしては平均よりも少し高い162㎝、体重も身長と日々の活動のせいで平均よりも少々重い。

 

そんな物体が半透明な残像を引くほどの超高速で振り回される。

 

その危険性はさしづめ…『鉄球を吊り下げたまま暴走するクレーン車』と言ったところか。

 

『うわあああああああ!!?』

 

手に負えない、一目見て分かる運動エネルギーの暴力を前にさすがの正義実現委員会の隊員たちも逃走。

 

これにより…この場に残ったのは立会人を務めるハスミとミレニアムが制御権を奪取したドローンのみとなった。

 

ネイトの繰り出したこの技、ただ人を振り回すだけの行為に技も何もないが…

―――――――――――――――――――

「………『ドレス』、不思議とそんな単語が思い浮かびました。残像が見えるほど高速で振り回されるツルギを…ネイトさん『黒いドレス』のように纏っているかのようで。…正直、ほかの子達のように私も逃げ出したかったですが…立会人でしたので最後までしっかりと見届けました。…まさか、振り回されただけではあの子は耐えるでしょう。でも…アレはさすがにあの子でも…。」

―――――――――――――――――――

「しぃッ!!!」

 

シュゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!!

 

人間双節棍、ハスミ命名『ドレス』だが…お気づきだろう。

 

双節棍とは…武器なのだ。

 

つまり、この後は…

 

「ぜりゃあ!!!」

 

ドガッシャアアンッ!!!

 

ネイトは大きくツルギを振りかぶり…眼前のGAZ-AAに叩きつけた。

 

かなりの質量のあり人体が残像を引くほどの高速度で叩きつけられたのだ。

 

バタァンッ!!!

 

その一撃でGAZ-AAは横転。

 

さらに…

 

シュゴォッ!!!

 

バギャシャアアンッ!!!

 

シュゴォッ!!!

 

ゴシャアアンッ!!!

 

振り回しては叩きつけ叩きつけては振り回す…。

 

その度に交通事故のような大音響が鳴り響きGAZ-AAは転がり周りパーツが撒き散らされていく。

 

いつまで続くかと思われた破壊劇だが…

 

クンッ

 

ストッ

 

その幕切れはあまりにも静かだった。

 

手首の絶妙なスナップでまるで最初からそうだったようにツルギは綺麗に着地させられた。

 

「………。」

 

「………。」

 

手同志を握るその姿はさながら握手しているかのようだ。

 

そして…ハスミは気付く。

 

一つは…ネイトから発せられていた神秘が収まっていること。

 

もう一つが…ツルギの頭上に何もない事だ。

 

「………。」

 

ネイトがそっと手を放すと…

 

ドサッ

 

糸が切れた人形のように…ツルギは地面に倒れた。

 

…決着を付けなければ。

 

「One………Two………Three………。」

 

最早、神秘も精魂も使い果たしたネイトの口から唱えられるカウントは非常に間延びしたものだ。

 

「Four………Five………Six………。」

 

それでも…ネイトはしっかりと唱える。

 

「Seven………Eight………Nine………。」

 

約束を果たすため、決着をつけるため。

 

そして…その時は静かに訪れた。

 

「………Ten。」

 

後にキヴォトスの伝説となるこの決闘。

 

その決着を目の当たりにできたのはごくわずかの者たちのみ。

 

それでも…勝敗は決した。

 

「………ありがとう、ツルギ。」

 

勝者…ネイト。

 

「俺はまた…一歩進むことが出来たよ…。」

 

地に臥したツルギの意識は未だ戻らないが…その表情は微笑みをたたえていたのだった。

 

【05:15】

 

空は未だ暗かった。

―――――――――――――――――――

「………これが私が目の当たりにしたこの決闘の全てです。本当に…この先どんなことがあろうと…決して忘れられない濃厚な時間でした。そんな場に私も立ち会えて…とても光栄に思います。…悔しくはなかったのか、ですか?…いいえ。ツルギもネイトさんもあの時出せる全力を出し尽くして戦い抜きましたもの。もう…そんな感情なんと毛の先ほども沸き上がりませんでした。………御馳走様でした。…本日はありがとうございました。私もこんなにご馳走になっ…つ…ツルギ?ど、どうしてここに?え、巡回中の子達から『パフェを何杯も食べてる』って報告が入った…ですか?え、えぇっと…これは御馳走になったのでつい…。だ、ダイエット宣言ですか…!?き、今日から!また今日から始め…!ちょ、ちょっとどこへ連絡を!?ね、ネイトさんに!?アビドス砂漠でブートキャンプと解体作業をやらせるんですか!?ちょ、ちょっと待ってください!だったらせめてもう一杯パフェを…!」

―――――――――――――――――――




いざ征こう 信じたこの道を何処までも
いざ征こう この命在る限り
―――刃 · THE BACK HORN
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。