―――作家『ハンス・クリスチャン・アンデルセン』
【05:15】
「はぁ…はぁ…。」
ツルギとの激戦を終えたネイト。
新たな神秘の領域に踏み込み…ゾーン状態の感覚も味わうことが出来た。
しかし…
ボタボタボタ…
その右腕から滴る血は…全く止まる気配を見せない。
当然だ。
本来ならすぐに圧迫止血を行わなければならないほどの重傷だ。
だが…ネイトは動き続けた、動き続けてしまった。
その出血量は…もはや危険水域に入りかけている。
「ね…ネイト…さん…!」
決闘は終わった。
ハスミがネイトに近づこうとすると…
「………らなきゃ…。」
「え…?!」
「帰ら…なきゃ…。」
ズルッ…ズルッ…
うわ言の様に呟きながら…ネイトは幽鬼の如く歩き始めた。
「ま…待ってください!どちらへ!?」
このまま行かせてはならない。
ツルギに匹敵する神秘の放出だけでなく文字通りの『火事場の馬鹿力』まで発揮。
さらには高濃度なアドレナリンを注射して無理やり体を動かしていたのだ。
それらが無くなった今…ネイトがまともな思考ができているとは思えない。
「止まってください!今すぐにお医者様のとこへ…!」
幸い、自分たちが乗ってきたヘリはある。
すぐに大きな病院に担ぎ込めば間に合うかもしれない。
なんとかネイトを引き留めようとするハスミだが…
「帰ら…なきゃ…。アビドスと…アリ…スの…ところへ…。」
「ッ!?」
「約…そ…く…した…んだ…。必ず…復興…させる…って…。帰った…ら…一緒に…遊ぼ…うって…。」
「~ッ!」
その言葉を聞き…足が止まった。
ネイトがなぜ…ここまでしてD.U.からの脱出を行おうとしたのか。
全ては…約束を果たすため。
彼が常々言っている『アビドスの復興』だけではない。
愛する娘の元に帰るため。
その一心で…襲撃者たちと戦った。
その想いだけで…不良たちから逃れた。
その約束のために…肩を撃たれてなおツルギと決闘を繰り広げた。
だからこそ…
「もうっ…もういいんです…!」
ハスミはそっとネイトの手を取った。
あれだけツルギを圧倒した力を見せていたというのに…今はそれだけでネイトの歩みは止まってしまった。
「もう…ネイトさんは十分頑張りました…!」
「………。」
「ですから…もう休みましょう…?」
この人を無事に返さなければならない。
このまま行かせてはいけない。
そこへ…
《ネイトさん、もう休んでて!!!もう頑張らなくていいんだよ!!!》
《それ以上動いたら本当に…!そんなの私たち嫌ですよ!!!》
《もうすぐ、もうすぐなんです!だから、そこにいてください!》
《アタシとの勝負もつけずにいなくなることは許さねぇぞ!!!おい会計ッ、今すぐD.U.で一番の病院に連絡入れろ!!!怪我人がそっちに行くってな!》
ドローンもネイトの前に立ちふさがりモモイ達が言葉をかけネイトを何とかとどめようとする。
そして、
《待っててください、パパ!!!アリスがっアリスが今パパを迎えに…ッ!!!》
アリスがネイトに声を掛けようとした…その時だった。
バガガガガァンッ!!!
「え…!?」
ドローンに弾丸が撃ち込まれ破壊された。
驚くハスミをしり目に…
「あぁ…?」
ネイトはゆっくりと銃弾の飛来してきた方向を向くと…奴がいた。
「あははっどこへ行こうっていうのかなぁ?」
「み…ミカ…様…!?」
パテル分派首長にしてティーパーティーの『最終兵器』…銃口から硝煙を立ち昇らせる『Quis ut Deus』を構え聖園ミカがそこにいた。
しかもその背後には彼女が連れてきたパテル分派の構成員50名も集結している。
「凄いね、貴方!まさか私をあんな遠くまで飛ばしちゃうなんて!あんな経験初めてだよ~!」
先程のように軽い調子で話すミカだが…その姿は全く違っていた。
腹部の左側は服が消し飛び大熱傷を負い右側は内側から弾けたような血の跡が服にべっとりと付着。
全身は地面に着弾した際に負った擦過傷…いや、最早『削り取られた』としか表現できない様な怪我が至る所にあった。
「アハハッもう全身が痛いよぉ~♬外だけじゃなくてお腹の中もぐっちゃぐちゃになってる感じぃ♪」
軽く語っているが…あんな一撃を受けて立てていること、
「でもぉまさかツルギちゃんに勝っちゃうだなんてすごいねぇ。」
なおも膨大な神秘を迸らせていること、ミカがいかに規格外の存在かを物語っているだろう。
そして…
「それじゃあ…さっきの続きしよっか?」
彼女はまだ闘る気のようだ。
「おっお待ちください、ミカ様!!!」
ネイトの前に立ちふさがるハスミだが…
「…そこ退いてくれないかなぁ、ハスミちゃん?」
煩わしさを隠さない声音でミカは彼女に退くように命じる。
「退きませんっ!!!もう彼に戦う力は残っていません!!!お願いです、このままでは本当に取り返しがつかないことに…!!!」
それでも必死にネイトを病院に搬送することを求めるが…
「ふ~ん…でも、その人はそうは思ってないみたいだよ?」
「え…?」
ミカに指摘され振り返ると…
「………。」
ジャキッチャキッ
両手にM4とウェスタンリボルバーを装備したネイトが佇んでいた。
「ネッネイト…さん…!?」
ハスミはただただ信じられないものを見るような驚愕の表情を浮かべ、
「アハハッすっごぉ~い!そんな状態でも銃を握るだなんてさっすが『熱砂の猛将』って呼ばれるだけのことはあるねぇ♪」
ミカもその笑みをより一層深め…それは禍々しさを感じるほどまでになり…
「じゃあ…やろっか。」
彼女は一歩を踏み出し、
ジャキンッ!!!
背後に控えたパテル分派派閥員もM1ガーランドを構えた。
「そんな…ッ!」
こんな状況のネイト相手に…彼女たちの相手など無理だ。
それでも…
「………。」
ネイトはミカに向け一歩を踏み出した。
…だが、
ガクッ
ドシャアンッ!!!
「ネイトさんッ!!?」
もはや限界などとうに超えているネイトの体は膝から崩れ地面に倒れた。
「ネイトさんっしっかりしてくださいッ!!!」
ハスミは必死にネイトに呼び掛ける中…
「………なぁんだ。がっかりだね。」
ミカは拍子抜けと言わんばかりの呆れたような表情を浮かべ、
「じゃあ、さっさとナギちゃんとこ連れてっちゃおうか。」
ネイトを病院ではなくサンクトゥムタワーに移送しようと動き始めた。
「み…皆…。」
「も、もう喋らないでください!ミカ様、どうか…どうか彼を病院に!」
最早意識がもうろうとしていると一瞬で分かる声を発するネイトへの容赦を求めるハスミだが…
「あはは、うわ言?でも残念、夜明けはまだだから…アビドスの子達はこないよ?」
ミカはそんなネイトの言葉を嘲る様に返す。
すると…
「ハハッ…ハハハッ…。」
そんな彼女をあざ笑うかのようなか細い笑い声を上げるネイト。
「………なにがおかしいのぉ?」
若干苛立ち始めたミカだが…
「と…トリニティのトップも…存外…オツムはお粗末…なようだな…。」
「…は?」
「しょ…所詮…その程度が…お前たちの限界…。アビドスは…絶対に…お前等には…負けない…。」
この状況でなおネイトはミカを小馬鹿にしアビドスに絶対の信頼を置いていると言い放つ。
「…う~んどうやら血を流しすぎちゃってるみたいだねぇ。」
そんな彼の言葉を最後の悪あがきのようなものと捉え…
「それじゃあサッサと連れてっちゃお…。」
改めてネイト拘束に動き出そうとした…
バガァンッ!!!
「~ッ!!?」
刹那、ミカの頭部に強い衝撃が走る。
彼女自身や周りの者たちが何が起こったか…理解するよりも早く、
チュドォッ!!!
………オオオン…
「あぎゃあっ!!?」
「みっミカ様!!?」
今度はミカの右わき腹に着弾と同時に微かに銃声が聞こえてきた。
「痛いっ痛いいいいいい!!?」
いかに頑丈なミカでも…傷口への一撃は相当堪えたようでそこで蹲り痛みに悲鳴を上げる。
「みっミカ様ッ!?大丈夫ですか!?」
「そっ狙撃!?一体どこから!?」
「探してください!!!銃声と同時に着弾しましたから…!」
パテル分派の生徒は慌ててミカを保護し周囲を探る。
だが…
(ち、違う…!今のは…!)
優れた狙撃手でもあるハスミだけが先ほどの狙撃の異常性に気付いた。
ミカが苦しみ始めた一瞬前、確かにミカの頭部に銃弾が叩き込まれていた。
そして、銃声とほぼ同時に二発目がミカの負傷か所に撃ちち込まれた。
つまり…
(だ、弾着と銃声がそこまでずれる距離から一発目の銃声と同時に二発目を叩きこんだ…!?)
そんな離れ業を演じることが出来る狙撃手をハスミは知らない。
(い、一体どこから…?!)
周囲を見回しそのスナイパーを探すハスミだが…
「フフッ…フフフッ…。」
ネイトが安心したかのように笑っている。
「ね…ネイト…さん…?」
まさか…
「あぁ…風の声は今日も…君を導いて…るんだな、『カレン』…。」
ネイト達がいる場所から…1.8㎞離れたビルの上。
そこに…
「……ごめんなさい、ネイトさん。遅くなりました。でも…もう大丈夫です。……私達が来たから。」
アビドスの制服の上にデザート迷彩の外套と同じ色のブーニーハットに白い羽根を刺した生徒が硝煙を上げる銃を構えスコープでネイトの姿を見つめていた。
身体の線や長い手足はまるで柳を彷彿とさせるようにしなやかなさを醸し出し身を屈めていてもその身長の高さがうかがえる。
その手に構えているのは同じ砂漠迷彩の塗装が施されストックに白い羽根のマークが描かれた狙撃銃。
『M40A5』、設計は古いがその精度は折り紙付きの由緒正しい狙撃銃だ。
使用弾薬は超長距離狙撃を可能とする.300ウィンチェスター・マグナム弾。
彼女はこの距離から…ミカにヘッドショットと傷口への一撃を銃声の届く時間すら読み切って撃ち込んだのだ。
そんな彼女のスコープの先では…パテル分派の派閥員が自分を探し右往左往している。
すると…そのうちに一人がネイトを捉えようと気を窺っていた。
「……風が怒ってる。あいつらに…その人を触らせるなって。」
そう呟き…
ズドォンッ!!!
彼女は再び射撃。
強烈な反動を伴う.300ウィンチェスターマグナムと言うのにそのしなやかな肢体がまるで風に揺れる草花のように受け流す。
狙い澄まされた銃弾は音を置き去りにし宙を駆け抜け…
ドキャッ!
「ギャンッ!?」
その生徒の頭部に寸分の狂いなく叩きこまれた。
「……一歩でもその人にその汚い靴で近づいてみろ。……お前たちの心臓の音…今の私には……太鼓の音みたいにうるさく聞こえてるよ。……消えて。」
その目にはネイト以外が写っていないかのような静かな眼光が灯っていた。
「なんですの!?いったいどこの誰が!?」
「ティーパーティーと知っての狼藉なのですか!?」
音も姿もない狙撃手の登場にパテル分派の生徒達は完全にその場に釘付けにされてしまった。
一歩でもネイトに近づけばすぐに弾丸が飛んでくる。
たった一人に…戦場を支配されてしまったのだ。
「ネ、ネイトさん…一体…?!」
「ふ…フフッ、夜が…明けたんだ…。」
ハスミの問いかけにネイトが答えた…その時、
ドドドドドドドッ!!!
空中からエンジンの爆音が轟く。
見上げると…
「あっあれは!?」
「アビドスの双発機!!?」
そこにはアビドスが保有するティルトウィング機『ベルチバード』がそこにいた。
何やらいつも見る無塗装の銀一色ではなくかなりサイケデリックなカラーリングが施されているが…尾翼にはしっかりとアビドスのエンブレムが施されている。
「な…なんで…!?まだ夜明けは…!?」
なんとか物陰に運び込まれたミカは信じられないものを見る目でベルチバードを見つめる。
空は未だ暗く夜明けではない。
なぜ?
さらにこの異変を察知したのはミカたちだけではない。
「しっ失礼します!!!」
「何事ですか!?」
「たった今ゲヘナ方面を監視中の警戒隊よりゲヘナ空域から『超音速の飛行編隊』がD.U.空域に侵入と報告が!!!」
「超音速の飛行隊!?まさかッ!?」
映像が途絶え、情報収集に追われていたサンクトゥムタワーでもネイトがいる周辺空域で突如出現した飛行編隊についての急報が飛び込んできていた。
「近隣の航空隊にはスクランブル要請を発しています!」
こんなタイミングでの飛行編隊の登場、考えられるのは…
「まさか…!」
「そんな!?まだ夜明けまでには時間が…!?」
「ミカさんっミカさん達は無事なのですか!?」
あの学校しか考えられない。
しかし…
「すっすみません!報告するほどでもないと判断されお知らせしてませんでしたが…!」
そこへ駆けつけてきた連邦生徒会の生徒が端末を持ってやってきた。
その画面に映し出されていたのは…あるライブ配信だ。
アカウントは…『W.G.T.C.オフィシャルチャンネル』。
映し出されていたのは…何のことはない『砂漠』が映し出されているだけのライブ映像だ。
特に何も動きが無い…普通に見る分にはとても退屈な映像だろう。
しかし、リンやカヤと言った連邦生徒会の生徒達には…この上ない『劇薬』だった。
なんせ…
「よ…夜が…明けてる…!?」
その空はすでに白んでおり…夜が明けていたのだ。
【23:40】
場所はゲヘナ万魔殿の執務室。
現状、D.U.での騒動と捕縛したスパイの調査などでてんやわんやの多忙っぷりを極める中、
「…ほぅ、なるほど…な。」
万魔殿議長『羽沼マコト』はある資料に目を通し…
「いきなりの訪問は驚いたが…まぁそれはよかろう。」
目の前の人物、
「なぁ、『小鳥遊ホシノ生徒会長』?」
「………。」
アビドス生徒会長『小鳥遊ホシノ』に視線を移し鋭い表情を浮かべる。
「相変わらずアビドスの交渉はえげつないな、なぁサツキ?」
「えぇ…まさか連邦生徒会もこの絡繰りに気付かないだなんて。」
マコトの手にあるのは…先ほどアビドスと連邦生徒会との間に交わされた出動に関する約定だ。
様々なことが決められているようだが…特筆すべきは…
「『アビドスの出動は夜明けをもって行うものとする』、か。」
アビドスがネイト救出に向け行動可能となる時間に関してだ。
一見して特に何もおかしい事はないが…
「奴等…キヴォトスの『夜明け』がD.U.に来たら同じタイミングで明けるとでも思っているのか?」
「まさか…とは言いたいけど連邦生徒会のことね。『私たちの都合に合わせてくれる』とは思っているかもしれないわ。」
キヴォトスと言う場所はかなり広大な学園都市だ。
当然、時差と言う物もあり『キヴォトス標準時』という基準の時刻も存在している。
それだけ広大な領域では…当然『夜明け』の時間にもずれが生じる。
「小鳥遊ホシノ生徒会長、キヴォトス標準時で…今日のアビドスの夜明けは?」
「…午前5時3分だよ、マコト議長。アビドスにやって来ているミレニアムの『気象観測部』の計算だから間違いはないと思う。」
「フフッつまり、連邦生徒会がこれを理解していない限り『確約された奇襲』を受ける…と言うことか。」
だからあえて、ホシノは時刻ではなく『夜明け』という自然現象を基準にこの約定を交わした。
計算上、D.U.とアビドスの夜明けの時差は30分はある。
その時間が…ネイトを救出するチャンスでもある。
「なるほど…さすがはネイト社長が鍛えた者たち。ギャンブル要素はあるが…なかなかどうして面白い交渉をやるものだ。」
このホシノの交渉にマコトは愉快そうな表情を浮かべるが…
「それで?なぜそんなタイミングでお前は私を訪ねてきたのだ?」
ホシノがなぜ今ゲヘナの…それも万魔殿の自分の元を訪ねてきてるのか疑問を呈する。
本来ならその時に備えて念入りな準備を行うのがアビドスらしいというのに。
「………マコト議長、お願いがあります。」
ホシノは席を立ち、
「作戦開始時刻前に貴方の学校の空域をベルチバードが上空待機し我が校の航空隊が通過します。ですので…どうかそれを内密にしていただきたい。」
深々と頭を下げこの作戦遂行に関する情報の秘匿を求める。
何よりも連邦生徒会の虚をつくことが重要なこの作戦。
事前に作戦内容を伝達していたのはゲヘナに要らない不信感を植え付けないためだ。
ホシノ自身、ゲヘナのことはある程度は信用している。
それでも…万が一が無いとは考えられない。
なので、こうしてマコトの元を訪れ…頭を下げているのだ。
「………。」
マコトはそんなホシノのことをしばし無言で見つめ…
「…なぁサツキ。」
傍らにいるサツキに対し…
「私達は『アゲハ同盟』の解消はやっていたか?」
世間話でもするかのようにそう尋ねた。
「………え?」
「いいえ、あの時はバタバタしていたから解消の手続きはやってないわね。」
サツキも何やら芝居がかった言い方で答えると…
「なんと、これはうっかりだ。これではアビドスに我が校の基地を使われても文句は言えないではないか。」
マコトもそんな彼女に合わせた仰々しく言い放ち…
「仕方ない、小鳥遊ホシノ。D.U.直近の航空基地に連絡を入れておく。使いたいのならばその基地を使えばいい。」
簡単な覚書を認めホシノに差し出した。
「ど…どうして…?」
自分の要請以上の返答を受けフリーズするホシノだが…
「…奴が無事に帰って来なければイブキが悲しむだろうからな。」
ぶっきらぼうにマコトは返し、
「それに…社長には返せない恩があるわ。彼を助けるためと言うのならば…ゲヘナは協力しましょう。」
微笑みながらサツキも答えた。
「だが、タダというのはいささか問題だ。」
「…もちろん、いくら支払えば…。」
幸い、アビドスの懐事情もかなり潤っている。
ホシノはマコトの言い値を払う姿勢を見せるが…
「いや、金はいい。」
「…え?」
「代わりに近々我々はある学校と交流会のため外遊をする予定だ。その時に…ネイト社長を貸してもらおう。」
マコトは金でなくネイトの貸し出しを求める。
「そ…そんなことで…?」
「キキキッゲヘナとW.G.T.C.との関係をその学校に見せつければ我が校の威光もより伝わるだろうからなぁ…!」
確かにネイトの知名度を利用するのはマコトらしい方策だが…
「そちらの方が我が校の利益になると判断したまでだ。だから…別に費用の請求はせん。」
「…ありがとう、マコト議長…!」
不器用な彼女なりの思いやりとホシノにも分かった。
「代わりに…確実にネイト社長を連れて帰ってこい。トリニティの羽付きなんぞにやられるなよ?」
「もちろんっ!」
こうして…ネイト救出部隊はゲヘナからの出動と言う大きなアドバンテージを得ることに成功したのであった。
【03:40】
その後、ホシノ達はマコトが用意してくれたD.U.にもっとも近いゲヘナの航空基地にネイト救出部隊が集結。
派遣部隊名は…『セタス部隊』。
アビドス生の中でも選抜テストを勝ち抜いた精鋭中の精鋭部隊だ。
各自が高い戦闘能力を持つこともさることながら…中には一芸特化型の隊員も多い。
そんな中にあって…
「………。」
彼女は外套に羽織り白い羽根が揺れるブーニハットをかぶってD.U.の方角を見つめていた。
そこへ…
「『カレン』ちゃん。こんなところにいたんだね。」
「……あ、ホシノ先輩。ごめんなさい…。」
ホシノが彼女の元にやって来ていた。
「もう準備は万端?」
「……はい、ゼロインも弾薬の準備も終わりました。」
「そっか。」
ホシノと『カレン』と呼ばれたその少女は同じ方向を向き直る。
しかし…並んでみるとかなり違和感がある。
なんせ…頭二個分ほどの身長差があるからだ。
「ネイトさんが心配?」
「……はい。けが…してないといいです。」
「そだねぇ。」
最早慣れっこと言わんばかりに言葉を交わす二人。
彼女の名前は『蓮本カレン』、アビドス高校1年生にして…『セタス部隊』所属のスナイパーだ。
ある日ふらっとアビドスに現れネイトが拾ってきた経歴に謎の多い少女だ。
聞くところによると…どこかの学校への推薦入学が決まっていたが入学直前で取り消され根なし草になっていたとか。
そこをネイトに拾われアビドス高校に入学したというかなり異彩な経歴を持つ。
「どう?風はなにかお話ししてくれてる?」
「……いいえ、ゲヘナの風はとても賑やかですけど…D.U.の風は何も話してくれません。」
なんとも不思議な会話を交わす二人だが…これもまたカレンの特筆すべきスキル故の会話だ。
カレンが持つ特殊な能力…それは『共感覚』だ。
彼女はその場の環境と『会話』し自然に溶け込むような隠ぺいを行い最適な弾道を本能的に導き出し寸分たがわぬ狙撃を行うのだ。
その腕前は強い風だけでなく上昇気流渦巻き陽炎が立ち上るアビドス砂漠で…1マイル先のフットボールを撃ち抜けるほど。
単純な狙撃スキルなら…セリカはおろかネイトすら彼女には遠く及ばない。
「………。」
と、再び無言でD.U.の方角を見つめるカレン。
ポンッ
「大丈夫だよ、カレンちゃん。」
「……ホシノ先輩?」
「大丈夫、ネイトさんなら…きっとね。」
そんな彼女の背中を軽く摩りつつホシノは穏やかに声をかける。
「だから、カレンちゃんもちょっと休もう?なんたって…先陣を切るのはカレンちゃんなんだから。」
「……分かりました。…野草のお茶、淹れますけど…先輩もいります?」
「おぉ~カレンちゃんのお茶、おじさんも大好きだよぉ。」
そう言葉を交わし、二人は用意された待機場所の格納庫へと戻っていった。
そして、時は進み…
「総員、気を付け!」
ザッ!
いよいよ作戦開始直前の時間となった。
ホシノの号令でここに集ったセタス部隊及びアビドス航空隊の全員が姿勢を正す。
「今回の作戦は電撃的にD.U.に突入しネイトさんの身柄を保護する!その場合、抵抗するありとあらゆる勢力に対しては実力行使を許可する!」
既にここまで我慢させた見返りとして連邦生徒会からは『武器の無制限使用の許可』は取り付けてある。
ここから先は…もう誰も自分たちを邪魔することはできない。
「私たちの目的はネイトさんを救出しアビドスの未来を護ること!時間が命だよ。皆、気を引き締めて!」
『了解っ!』
「現地じゃ『特殊輸送隊』からの支援もある!今こそ、アビドス最精鋭である私たちの力を存分に発揮する時だ!迅速に大胆に、皆が与えられたクジラ座のエンブレムに恥じない働きを期待する!!!」
ホシノの熱のこもった訓示は続き…
「…よし、じゃあ行くよ…!」
彼女は一拍呼吸を整え…
『我ら、セタス部隊!!!』
『勝利への水先を直走る者なりッ!!!』
『セタス部隊』のモットーを叫び、
「…総員、搭乗!!!」
ザッ!!!
全員が一斉にそれぞれの機体に乗り込んだ。
【05:03】
いよいよその時が来た。
「委員長ッアビドスの観測カメラが『夜明け』を確認したよ!」
「了解ッ!!!各機、制限解除!!!D.U.領空に突入開始!!!」
設置しておいた配信用のカメラによりアビドスの夜明けを確認。
D.U.近隣のゲヘナ領空で待機していたベルチバードが一気にD.U.領空に向け全速力で駆けだす。
「ヒャッホオオオオ!!!ようやく私の出番が来たよぉ~!」
…が、現在ホシノ達が乗っているベルチバードは普段乗る機体と違い少々…いやかなり独特な外観をしている。
まるで前衛アートの様なサイケデリックな塗装がされているが…これはパイロットの趣味だ。
「ちょちょッと『マドカ』!!!いつもみたいなバレルロールとか宙返りとかのアクロバットはダメだからね!?」
「えぇ~駄目~?」
「ん、ダメ。今はネイトさん救出に集中して。」
「えぇ~…って言いたいとこだけど分かったよ。」
セリカやシロコから口酸っぱく注意を受けるパイロットの生徒。
納得いっていないようだが事情が事情なため渋々納得す…
「じゃあ景気づけにエンジン停止からの回避行動を…!」
「やめろ、馬鹿ッ!!!そのせいで番長の奴、ヘリ恐怖症になったんだかんな!?」
「フレアあるんだからそれ使えよッ!!?何でそうお前は危ねぇ真似すんだよ!?」
るほどこのパイロットの癖は軟ではない。
名前を『猿飛マドカ』、元トリニティの航空部隊所属だったが…この気質だ。
さんざん無茶をやらかしまくり様々な派閥からは排斥され窮屈なトリニティに嫌気がさし自主退学。
その後は…何を思ったかアビドス独立戦争時に目の当たりにしたベルチバードにホレ込みアビドス高校にやってパイロットとして売り込んできた。
腕はアヤネに並び超一流と言って差し支えないが…トリニティ生を恐怖に陥れた凶悪なアクロバット飛行は健在。
一度乗ったものは大半がグロッキーになり…番長は彼女のせいでベルチバードは元よりヘリがダメになってしまった。
今回、その腕を買われ参加したが…先行き不安だ。
「もぉ~みんな我儘…。」
と何やらやらかしそうな雰囲気を醸し出すマドカだが…
「……マドカちゃん、ゼロインずれるから…やめてね?」
静かだがしっかりとした拒否をカレンが彼女に伝えると…
「…分かったよ。トップバッターの言うことは聞いとかなきゃね。」
流石にこの作戦の先方を務める狙撃手からの要望は聞くしかなかったようだ。
「それはそうとそろそろクロノスが流してる廃工場は見えてくるよ!」
話しているうちにベルチバードはネイトとツルギが決闘を繰り広げている廃工場が視界にとらえられた。
そして…
《こちら、『特別輸送隊』のチカ…!これより離陸します…!》
ネイトが目指していた飛行場で航空機と共に待機していたチカから通信が入り…飛行場から巨大な機影が飛び立った。
「こちらホシノ!もう我慢しなくていいよ、チカちゃん!!!思いっきりブチかまして!!!」
それに返信するようにホシノがそう指示すると…
《キケケケッ!やっとッやっとですか!!!了解、邪魔する奴ら全員『墨』にしてあげますよ!!!》
先ほどまでの暗い雰囲気から一変、凶暴さが迸る声でチカが答える。
「ん…チカもやる気満々。」
「これは大変なことになりそうね…。」
「平気平気、全部連邦生徒会におっ被せるんだから。」
さらにそこへ…
《こちら『ディープブル―』01、『風間シイナ』。作戦空域に到着、特殊輸送機の護衛に着く。》
「了解!多分、防衛室の連中が出てくるから撃って来るんなら迎撃をよろしくね!」
F-20E一個小隊もD.U.空域に突入。
これで…役者は揃った。
「……マドカちゃん、そこのビルに下ろして。」
「りょーかい!」
カレンの指示でベルチバードは廃工場を見下ろせるビルに接近。
屋上数十㎝の高さでホバリングしカレンは降り立ち狙撃位置につく。
この瞬間より…アビドスが研ぎ続けてきたクジラたちの牙が…解き放たれた。
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 カレン
フルネーム 蓮本カレン
役割 STRIKER
ポジション BACK
武器種 SR:M40A5『フェザーストロークⅡ』
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 貫通
防御タイプ 特殊装甲
学園 ???→アビドス高等学校1年生
部活 斥候偵察部隊及び『セタス部隊』
【挿絵表示】
年齢 15歳
誕生日 5月20日
身長 176cm
趣味 押し花、野草茶作り
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 マドカ
フルネーム 猿飛マドカ
役割 SPECIAL
ポジション BACK
武器種 SMG:UZI『モンキーチャッター』
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 爆発
防御タイプ 軽装甲
学園 トリニティ総合学園→アビドス高等学校1年生
部活 アビドス航空機兵隊
年齢 15歳
誕生日 11月24日
身長 151cm
趣味 アクロバット飛行、どっきり