―――評論家『リデル・ハート』
【05:18】
ズドォンッ!!!
「……こちら『ボルゾイ』、周辺の敵の頭を抑えました。……現場への突入、お願い。」
カレンの寸分の狂いの無い狙撃でミカを含むパテル分派の生徒達をその場にを釘付けにした。
それに答えるように…
「こちら『モンキーサーカス』、了解!これより現場に突入するよぉ~!」
マドカが操るベルチバードが一気にネイトのいる廃工場目掛け降下。
流石に頭のネジが飛んだようなアクロバット飛行ではないが…そこらのジェットコースターが可愛く思えるくらいの急降下だ。
「うへ~ネイトさんに付き合って何度も乗っててよかったぁ…!」
「ヒィッやっぱ慣れねぇ!!!腹ん中が浮き上がってきやがるぅぅぅ!」
「我慢しろッ!親分はもうすぐそこなんだからな!!!」
「大丈夫、マドカは落ちそうになっても絶対に落ちないから!!!」
「ん…むしろ戦う前の景気づけにはちょうどいい。」
ホシノを筆頭とする搭乗員たちはこの操縦に様々な反応を示す中…
「大丈夫…ネイトさんはまだ生きてる…!私が…私がなんとしても…!」
ただ一人、どんどん迫る廃工場…いや、そこにいるネイトを思いこの状況に一切動じない生徒が一人。
背中には大型のバックパックに両脇にカバンに防弾ベストに防弾ヘルメットにチェストリグと言う重装備だが…他の生徒と決定的な違いがあった。
そんな彼女に気付いたか…
「頼んだよ、『シホ』ちゃん…!道は私たちがなんとしても護り切るからね…!」
「アンタはネイトさんだけを見てなさい!邪魔は私たちが絶対させないわ!」
「ん…でももし私達が怪我したり服が破けたら後でお願いね。」
ホシノやセリカにシロコが激励の言葉をかける。
「…はいっ、任せてくださいッ!」
そんな頼れる仲間たちの激励に『シホ』と呼ばれた少女は気合を入れてそれに返す。
そして…
ドドドドドドドッ!!!
「とうちゃーく!!!皆、ネイトさんを頼んだよ!!!」
ベルチバードはマドカの荒っぽいながらも見事な操縦で地面の寸前でホバリングする。
数十m先には…
『…っ!』
自らの血で地面を湿らせながら臥しているネイトの姿があった。
全員が息をのむ中…
「そこを開けてください! 私が先に行きます!ネイトさんの鼓動がまだ私の耳に残っているうちに…!」
その生徒が今にも飛び出しそうな勢いでホシノに進言する。
そして…
「行って、シホちゃん!!!」
ホシノがGoサインを出すや否や…
「ありがとうございます、ホシノ先輩!!!皆さんは私の背中じゃなく…ネイトさんへ続く道をどうかッどうか守ってください!」
ダッ!!!
まるで彼女は弾かれた様に一気に走り出した。
「全くッアイツがウチ等の中で一番ぶっ飛んでやがんぜ!!!」
「聞いたね!あの子の道をなにがなんでも守るよ!!」
「オウ、ホシノの姉御!!!何百人来ようがあの子の邪魔はさせねぇよ!!!」
それに続き、ホシノ達も一斉に機外に飛び出す。
「き、救援!?」
「慌てないで!!!たった一個分隊程度、私達に叶うわけが!!!」
アビドスの救出部隊到着、パテル分派の生徒達は迎撃しようと銃を構えるが…
「えッ!?なっ何あの子!?」
「一体何考えてるの!?」
一番先頭を走るあの生徒の姿を見て度肝を抜かれた。
何せ…
「どっどうして銃を持ってないのですか…!?」
その生徒は銃はおろかチェストリグにはマガジンすら装備していない。
代わりのポーチに詰められているのは…包帯や医療用のハサミや鉗子に消毒液などの『医療器具』ばかりだ。
『銃を持たない生徒より全裸で外を歩いている生徒の方が多い』と呼ばれるこのキヴォトスで…それがいかに異常なことか理解できるだろう。
そんな彼女に面食らい射撃を躊躇っていると…
「構わないから撃って!」
「みっミカ様!?」
「先に撃ってきたのは向こうだから銃を持ってなくても関係ないよ!!!」
撃たれたわき腹を抑え脂汗を掻きながらミカは射撃命令を下す。
『はっはい!!!』
パテル分派の生徒達もこれには従わざるを得ず各々がM1ガーランドを構え応戦を開始する。
だが、
「当たらない…ッ当たらない……!まだ私の足は動く、まだ私の糸は切れていない!」
「なっなんで当たらないの!?」
防弾ヘルメットを目深に被り姿勢を低く疾走する彼女に弾丸は命中しない。
いや、命中したとしてもバックパックを掠めたり防弾プレートで跳ねたりとクリーンヒットはなくキヴォトス人ゆえの耐久力でその足は一向に衰えない。
「ネイトさん、今行きます!今、貴方の『綻び』を縫い合わせに私がッ!」
なおもネイトの元にかける彼女。
名を『鋸峰シホ』、セタス部隊所属の衛生兵にしてアビドス高校で唯一の…『銃を持たない』生徒だ。
その『信念』はたとえ誰であっても変えることが出来ずそれが災いし元居た学校を除籍されても彼女は銃を持たなかった。
引き換えに…シホは『人を救う』技術を徹底的に鍛え上げた。
医療技術やそれに付随する様々な知識は当然として多数の医療道具を携帯しても全くばてない体力とシロコ並みの足の速さ、勉学などでも彼女はアビドス高校のどの生徒の追随も許さない。
そんな彼女が空腹で倒れているところをネイトが発見、経歴を聞きスカウトされたことからアビドス高校の一員として迎えられることに。
その後、厳しいネイトの訓練で負傷した生徒達を治療し自身もネイトに鍛えられ…『銃を撃たない』という重荷を撥ね退け彼女は『セタス部隊』の選抜試験を突破しその一員として認められるまでになった。
そして、
「戦闘開始、シホちゃんを何としてもネイトさんの元に送り届けるんだよ!!!」
シホを援護すべくホシノ達も射撃を開始。
「かかって来い、お嬢様共!!!アタシらが相手になってやんよ!!!」
ズドドドッ!!!
その中で青いジャージを羽織りチェストリグを付けた生徒がパテル分派派閥員に向け非常に大型のライフルを発砲する。
構えるのは『B.A.R』の近代化改修型バトルライフルで『H.C.A.R』、銘は『リベリオンフレイム』。
それをフルオート射撃が可能となるカスタムが施された代物である。
7.62×51㎜弾よりもマズルエナジーを上回る『30-06弾』をフルオートで射撃しているのに…
「キャッ!?」
「づぅッ!!?」
同じ弾薬を用いているはずのパテル分派派閥員よりも命中精度が高く次々に撃ち抜いていく。
さらに、
「『ジョウジ』ッ!!!奴らを釘付けにしてくれ!!!」
「任せろ、『メリィ』ッ!!!」
傍らにいた迷彩柄のバンダナを巻いた一際大柄なオートマタの隊員が彼女の指示を受けタイガー迷彩といくつかのペイントが施された得物を構える。
古めかしい水冷ジャケットを装着した重機関銃『M1917A1』、『ロードクローズド』と言う名前の彼の愛銃だ。
それを彼は腰だめで構え…
ズダダダダダ…ッ!!!
「なッなんですの、あのオートマタ―は!?」
「頭をお下げなさい!ひとたまりもありませんわよ!」
「重機関銃を何て軽々と!?」
H.C.A.R.よりも濃密な30-06弾の弾幕がトリニティの生徒たちに襲い掛かる。
「どしたぁッ!!?そんな度胸で親分獲ろうってか!!?一昨日来やがれ、手羽先どもがぁ!!!」
水冷ジャケットと背負ってある大容量の弾薬ボックスによる彼の絶え間ない銃撃によってトリニティ側の生徒たちの多くはその場から動けなくなる。
「頃合いだ!!!ブチかませ、メリィ!!!」
「オウよッ!!!」
そうして、H.C.A.R.を持っていた彼女が…いったん銃を下ろし背中に背負っていたソレを構える。
「~ッ!に、逃げますよ!!!」
彼女の構えた得物を見て…泡食って逃げ出そうとするトリニティ生。
「こんな状況で何を言ってるんですか!?」
「ここにいたら私たちごと…!」
一歩でも物陰から出れば弾幕に絡めとられるというのに無謀もいい所なので口論になるが…
「吹っ飛びやがれッ!!!」
バシュゴォウ!!!
彼女たちが結論を出すよりも早く…無情にもそれは放たれ、
ズドオオオオオオンッ!!!
『ワアアアアアアアっ!!?』
遮蔽物ごと一網打尽に吹き飛ばされた。
「装填っ!」
「任せろッ!!!」
肩に担いだそれを下ろし筒内に新たな砲弾を装填する。
『カールグスタフM4 84㎜無反動砲』、銘は『 ヘッドウィンドブレーカー』…頑丈な設計で砂塵吹き荒れるアビドスでも抜群の信頼性を誇る無反動砲の傑作だ。
「装填完了ッ!行くぞ、ジョウジ!!!」
H.C.A.R.とカールグスタフ、彼女も負けず劣らずの重装備だが持ち前のガッツで何の苦もなく戦闘に戻る。
ジャージを羽織っている彼女の名前は『駒留メリィ』。
彼女もアビドス転入組の一人だがその前歴が他の生徒とは一線を画している。
彼女は…アビドス高校と敵対していた武装集団『カタカタヘルメット団』の総長を務めていた人物なのだ。
アビドス独立戦争の折、ネイトに更生のチャンスを貰いアビドス高校に編入。
その後、厳しい訓練に根性で食らい付き続け…元カタカタヘルメット団で唯一セタス部隊の所属の権利を勝ち取ったのだ。
H.C.A.R.とカールグスタフを操るセタス部隊の火力担当として今作戦にもいの一番に立候補した。
「置いてかれんなよ、メリィ!!!」
そんな彼女と帯同しM1917を振り回すオートマタの隊員。
名前を『間宮ジョウジ』、元はアビドス戦車部隊の隊長でもある番長の配下にいた一チンピラだった。
生まれつき他のオートマタより一回り巨大なボディと強力なパワーを持ちアビドス高校編入後は日々砂漠の解体作業に精を出していた。
そんな彼だったが…セタス部隊設立の選抜試験に番長が他薦し参加。
番長が自分を差し置いて推薦してくれたことに奮起しこれまた根性でテストをこなし選抜の壁を突破。
二人目のマシンガンナーとして似たような経歴を持つメリィとはコンビを組み圧倒的な火力を投射し敵を圧倒するのが主な役割だ。
「相変わらずの暴れっぷりね、あのコンビ!」
「ん…私達も負けてられない。」
豪快な二人の戦いっぷりとは対照的にセリカとシロコは精密機械の様な研ぎ澄まされた動きで攻撃を仕掛ける。
「シロコ先輩、右よ!」
「ん…!」
ビシュシュシュッ!ビシュシュシュッ!
「キャッ!?」
シロコは短連射で瞬時に数人を撃ち抜き、
「セリカ、10時の方向遠方…!」
「了解、やらせないわよ!」
ダァンダァンッ!
「グハッ!?」
セリカの精密射撃がより遠方の標的を撃破する。
アビドス高校入学後、ヘルメット団との戦闘やネイトとの訓練によって鍛えられ続けてきた元対策委員会のコンビだ。
その練度はアビドス高校随一と呼ばれパテル分派派閥員を一切寄せ付けない。
その時、
「こ、この砂漠の無礼者共がッ!!!」
ズドドドドドドド…ッ!!!
一人のトリニティ生がツルギたちが乗ってきた『HC.1』に搭載されたドアガンである『.50"/62ヴィッカース Mk.V重機関銃』を発砲しシロコたちを狙う。
「ん…厄介なのが残ってた。」
ズダダダァンッ!!!
シロコが弾丸を交わしつつドアガンナー制圧のために発砲するも…
ギギギィンッ!!!
その箇所を撃ち抜けず火花が散るばかりだ。
輸送機と言えど鉄火場に踏み込むことが前提の『HC.1』には各所に装甲が施されている。
地上から狙われやすいドアガン周辺は当然ライフル弾を弾ける程度の装甲は施されている。
ならば…
「セリカ、あれ黙らせられる?」
「任せて!」
さらにデカいものを叩きこむのみだ。
セリカが背中からセカンダリーウェポンである『ゲパートM6』、『コーディナリー』と名付けられたそれに持ち替え、
バゴォンッ!!!
ヴィッカース機関銃の銃声を塗りつぶす大音響を轟かせ14.5x114mm弾が放たれ、
バギャアンッ!!!
「げぎゃぁッ!?」
装甲諸共ドアガンナーを吹き飛ばし無力化する。
「シロコ先輩っ!」
「ターゲット、設定完了。支援攻撃開始。」
さらにとどめと言わんばかりにシロコが空爆ドローンを展開、
バシュシュシュシュッ!!!
ズドォオオオオオンッ!!!
ミサイルを降り注がせ『HC.1』を破壊した。
そんなセタス部隊総出の支援を受け、
ズサァッ!!!
「あ、貴方はッ!?」
「アビドス高校セタス部隊衛生兵のシホです!」
シホはネイトの元に辿り着けた。
そして…
「はぁー…はぁー…。」
ネイトはか細い呼吸音をスピーカーから響かせていた。
「…っネイトさん!起きてください、眠っちゃだめです!私ですよ、シホですよ!」
状態は想像以上に悪い、シホが必死に呼びかけ容態を確認すると…
「あぁ…シホ…。す…まない、コート…穴が…開いてし…まった…。」
朦朧としながらもネイトは誰が来たか理解しているようだ。
「ッそんなの良いんです!帰ったらまた綺麗に繕ってあげますから!」
まだ間に合う、シホはネイトが意識を保てるように声をかけ…
「今からパワーアーマーを脱がせますね!」
ガッコン!
X-02の背面にあるクランクを捻り、
ウィーン
装甲が解放され中にいたネイトが姿を現した。
「…っ!」
それを見たハスミは言葉を失った。
ドクドク…
右肩に開いた銃創からは今なお血が溢れ右半身の黒いコートが赤みがかるほど濡れている。
荒事に慣れたハスミですら固まる中…
「出血部に気泡無し…空気塞栓はまだ起こってない…!」
シホは怪我の容態とそれに伴う様々な症状の兆候が無いかを確認。
「彼をパワーアーマーから出します!左脇を抱えてください!!!」
慎重にネイトの右わきを抱えつつハスミにも指示を飛ばす。
「はっはい!」
彼女の剣幕と状況が状況なのでハスミも言う通りネイトの左脇を抱え、
ズルッ
彼をX-02から引きずり出した。
「はぁー…はぁー…。」
露になったネイトの顔からは血の気が引き青白くなり始めてきていた。
「な、何かお手伝いは…!?」
「コートを脱がしますからそのままうつぶせで横たえてください!」
シホはハスミの助けも借り『シルバー・シュラウドの衣装』のコートを脱がせていく。
「怪我の進行の様子などは分かりますか!?」
「そっその最初のころは出血はほぼなかったのですが…!」
その際にもハスミからネイトがどのような経緯で現在に至ったかを聞くのを忘れない。
コートの下に着てあったYシャツは鋏で切り裂き傷口を露にする。
見ると…しっかりと包帯で処置してあるその場所から血が漏れ出してきていた。
「出血がひどくなったのは…ミカ様に殴り飛ばされた後からで…!」
「つまり二段階で負傷を…!それは何分前のことですか!?」
「じ、十分ほど前で…その際におそらくアドレナリンの注射を…!」
「アドレナリンをっ!?」
それを聞き、シホが愕然とする。
(あの映像の後にアドレナリンを投与し無理やり動いたとするなら…!)
とすれば…状況はさらに厳しくなる。
アドレナリンは興奮作用と強心の効果はあるが…血圧の上昇と血管の収縮を促す作用もある。
つまり…出血をさらに促してしまうということだ。
時間は10分ほどだが…すでに予断は許さないだろう。
「…ともかく止血を行います!」
状況を分析し、シホは処置方法を決定。
まずは傷口を包んでいた包帯を除去し傷口を露にする。
そして、バックパックの横から手を突っ込み包帯やガーゼとセロファンシートを取り出し、
ギュッギュッ
「うぅ…!」
「辛抱してください!必ず…必ず助けますから!!!」
血が溢れている傷口にガーゼを突っ込み…
プシュゥッ
そのガーゼに腕のホルダーから一本のインジェクター注射器を取りだしそのガーゼに薬剤をしみこませる。
(は…速い…!速いだけじゃなくなんて正確な…!)
その処置は救護騎士団のそれを見慣れているハスミの目からも適切かつ迅速なものだ。
そして…
チュィンッチュゥウンッ!!!
「…神様どうか…どうかお願いです…!あと一人だけ…!」
「シホさん…?!」
この弾丸が飛び交う状況かつ治療の最中もシホはまるで祈るような言葉を掛けながら手を動かし続ける。
まるで普段からそう祈っているような文言だが…
「いえ、この人だけは…この人だけは…連れて行かないでください…!私の命と引き換えでも構わない、この人の鼓動を…止めてしまわないで…!」
ビー…!
自らの誓約すら捨ててでも…ネイトを救うという覚悟がひしひしと伝わる言葉だ。
「………ッ!」
ハスミにも…シホにとってネイトがどんな人物か思い知らされる。
銃を持たないキヴォトス人がこの場所で生き抜くことは非常に困難だ。
「どうか…私の居場所を奪わないでください…!誰かを救うことでしか自分を許せない私に…唯一生きる意味をくれた人なんです…!」
ギュッ!ギュッ!
そんな彼女をネイトが初めて肯定し…彼女がその信念を曲げることなく活かせる場所と役目を与えてくれたのだろう。
「他の誰でもない、この人だけは…私の手で繋ぎ止めさせてください…!」
チョキン!
そう祈っているうちにセロファンによる傷口の密閉と包帯による患部の固定まで終わらせるシホ。
「よし、あとは…!」
ギュ~…!
そして、傷口を両手で押さえ体重をかける。
「頑張ってください、ネイトさん…!皆さんも頑張っていまあなたを助けようとしてくれていますからね…!」
今はなんとしても出血を抑えることが最優先だ。
こうして『圧迫止血』を行っておけばひとまずはこれ以上の出血は抑えられる。
すると…
「…代わります…!」
「え…!?」
ギュ~…!
傍らで見ていたハスミがシホの手に自分の手を重ねて体重をかける。
「シホさん、貴方は他に必要な処置があるならそれをこの人に施してください…!」
「でッでも…!」
助力は嬉しいがハスミはトリニティの…それもティーパーティー直属の正義実現委員会の人間だ。
もしこれ以上自分たちに手を貸せばこの後どういう処分を下されるか分からない。
それでも…
「いいんです…!普段は憎く思えるこの体重が役に立つのなら存分に使ってください…!」
ハスミは微笑みながらシホに返す。
「私達が決闘の場を護れなかった不甲斐なさがそもそもの原因…!その償いをさせてください…!」
「…ありがとうございます!ではそのまま体重をかけて圧迫し続けてください!」
「ハイッ!」
そんなハスミの思いを受け取りシホは手をどかし、
「ネイトさん、これから酸素を吸入させますね!」
バックパックから今度は小型ボンベと酸素マスクを取り出しネイトに装着するのであった。
「……ネイトさんをよろしくね、シホちゃんとおっきな正義実現委員会さん。」
その様子をスコープ越しに見つめるカレン。
シホがネイトの救護に向えたのなら希望が見えてきた。
「……任せて、邪魔はさせないよ。」
ジャッコン
それでも自分の役目は変わらない。
素早くボルトを操作し次弾を装填、
「……風が明るくなり始めた。うん、分かってるよ…。…その希望は絶対に切らさないから。」
ズドォンッ!!!
自身にしか分からない『風の道』に沿わせるように愛銃『フェザーストロークⅡ』を発砲。
夜明け前特有の大気の状態にビル風もあるこの状態でなお…
バガァンッ!!!
「ぐギャッ!?」
まるで吸い込まれるようにパテル分派派閥員の頭部に着弾。
「……動いても無駄だよ。風の道標からは…誰も逃れられないから。」
ズドォンッ!!!
続けて発砲するカレン。
「留まってはいけません!走っていれば狙撃は躱せ…!」
狙撃の回避として動き回っているパテル分派派閥員に…
チュドォンッ!!!
「がギャッ!?」
弾着まで3秒以上はかかるというのに動いているその生徒に命中させてしまった。
「そっそんな…!?」
「し…死神…!?」
正に『魔弾』としか言えないカレンの狙撃に恐れをなしパテル分派派閥員は物陰で身動きが取れなくなる。
「……あれ?」
と、遠方の高所から周囲を見渡せるカレンがあるものに気付いた。
ヴォオオオ…!
エンジン音を響かせ遠方から迫る無数の車両。
「……ネイトさんを追っかけまわしてた不良たち。」
その正体にカレンは覚えがあった。
昨晩、D都高でネイトを追いかけ回していた不良集団。
おそらく、その一部がクロノスの報道の情報を入手し報奨金目当てで襲いに来たのだろう。
余計な連中の乱入だが…
「……ここからじゃ届かない。」
流石にカレンの銃でも射程距離外な上数が多すぎる。
対処は困難に思われたが…
「……チカちゃん、見えてる?」
カレンが無線で呼びかけると、
《キケケッえぇもちろんばっちりと!!!》
ドォォォォォ…
無線から凶暴さを増したチカの声と上空を飛ぶ彼女が操る大型機のエンジン音が響いてきた。
「ネイトさんの救出も皆の邪魔もさせません!!!全員、燃やし尽くしてやりますとも!!!」
そのままその大型機は迫る車両集団を左側に捉えるように飛行していく。
地上では…
「急げ急げ!!!褒賞金がトリニティに持ってかれちまうぞ!!!」
「夜通し夢見れてオマケに金までもらえるなんてラッキーだぜ!!!」
「早いもん勝ちだ!正義実現委員会だろうが蹴散らしちまえ!!!」
D都高を夜通し走り続けてなお元気が有り余っている不良たちが我先にとネイトがいる廃工場目掛け疾走している。
どうやらアケミが率いていた集団とは別のグループのようだ。
そして…工場まであと数㎞まで迫ったその時、
ドォォォォォ…
「あぁん、なんだ?」
「こんなとこを飛行機が飛ぶなんて珍しいな。」
遠方の空に一機の輸送機が飛行しているのに気付いた。
場所ややけに低高度を飛行しているのはともかく飛行機自体は珍しくもなく意識をネイト確保に向ける不良たち。
しかし…
カッ
その輸送機の側面で光が瞬いたかと思った次の瞬間、
ドグォオオオオオンッ!!!
地面が大爆発を起こし不良の車列の先頭集団がすべて吹き飛ばされた。
ドンッ!!!
「なっなんっ…!?」
さらに遅れて聞こえてきた砲声に突然の事態にブレーキを踏みかけるが…
ガガガガガガ…ッ!!!
さらに続けてまるで掘削機でも突っ込んできてるかのような衝撃音と共に地面が爆ぜその度に仲間の車両が破壊されていく。
「あっあの飛行機だッ!!!あの飛行機から撃って来てやがるぞ!!?」
「ふざけんなッ!?飛行機に大砲なんか乗っけるなんて反そ…!」
『航空機からの砲撃』という未知の攻撃に度肝を抜かれる不良たちだが…
ドグォオオオオオンッ!!!
ガガガガガガ…ッ!!!
その驚愕も悲鳴も着弾音に飲み込まれ車両ごと叩き潰される。
「キケケケケケッ、さぁさっさと逃げないと貴方達の車が全ぇ部地面に写経する『墨』になっちゃうよ!!!」
そう、これこそチカが操る輸送機の真の姿だ。
「貴方達が誰に手を出そうとしたか、私と『乗霊』が貴方達の悲鳴を『経典』にして刻み込んであげるよぉ!!!」
あの暗い表情を浮かべていた人物とは到底思えない狂喜の表情を浮かべ…
「105㎜砲と30㎜砲どんどん撃ってください!!!目標は山ほどいますからぁ!!!」
「アイアイキャプテン!!!」
ハスキーな叫び声で乗員のMr,ガッツィーやプロテクトロン達に指示を飛ばす。
さらに、
「おまけだよ、真っ二つにしてあげる!!!」
ズバアアアアアアンッ!!!
機体下部に搭載されたターレットからレーザーを照射。
不良たちの車両を路面のアスファルトごと焼き切っていった。
彼女が操縦する輸送機…いや、最早これは輸送機とは言えない。
その名も『AC-130J』…『ゴーストライダー』のニックネームが付けられた輸送能力を持った『対地専用攻撃機』、いわゆる『ガンシップ』である。
爆撃機よりも精密に攻撃を加えられ長時間の作戦に耐えうるということでアビドス航空隊に配備された機体だ。
運用としては元はF-20Eでアビドスの制空権を保持したのちにアビドス領内に進攻してくる地上部隊を叩き潰すというコンセプトだ。
そんなガンシップを武装を下ろした状態でD.U.内に運び込み陸上輸送で運び込んだ『M102 105mm榴弾砲』や『Mk 44ブッシュマスターⅡ30㎜機関砲』を有事に備え搭載していたのだ。
さらには機体下部にマサチューセッツにも搭載されている『500kwL-CIWS』を搭載。
これをレーザーマスケットの発電機にプロペラを装着し改良した超高出力発電機を複数搭載し飛行時は自動で給電し照射を行えるようにしてある。
名前を『乗霊号』、チカが地上の敵を大地に描かれた『写経』へと変貌させる彼女の第二の筆である。
「さぁ進めば写経、退くのも度胸!!!好きなのを選んでね!!!」
ハスキーな声で凶暴な声を上げるチカだが…
「やばいやばいやばい!!!あんなのどうしろってんだよ!!?」
「至近弾でもってかれちまう!!!スピードを上げろ!!!」
地上でドンドン仲間を粉砕されていく不良たちはたまったものではない。
何しろ相手は航空機、手持ちの火器ではどうしようもないのだ。
ともかく逃げようと速度を上げ蛇行するが…
「アハハッチカちゃんばっかに持ってかせるわけにはいかないよぉ~!」
「んなッ!?」
そんな不良たちの目の前にマドカが操るベルチバードが現れた。
武装は当然満載、となると…
「私の航空サーカス、堪能してってねぇ!!!」
ズバババババ…ッ!!!
バシュシュシュ…ッ!!
チカによって削られた不良集団の残党に向ってレーザー砲とロケット弾を乱射する。
建物の合間だというのに全速力かつ地上すれすれで飛行する無謀としか言えない操縦技術はさすがとしか言えない。
チカによるガンシップの航空砲撃とマドカによるベルチバードの近接航空攻撃。
凶悪としか言えないコンビ攻撃によって不良集団の車両は舐めとられるかのようにどんどん磨り潰されていった。
その時、
《こちら、防衛室飛行隊です!所属不明機、応答しなさい!!!》
「あぁん!?」
「おっとお邪魔虫が来ちゃったか!」
チカとマドカの無線に高圧的な通信が入る。
「所属を明かしこちらの指示に従い着陸せよ!!!」
戦場であるD.U.郊外から数十㎞上空を飛行する二個飛行小隊があった。
機体は『ミラージュ2000C』、キヴォトスでも唯一連邦生徒会防衛室が保有するマルチロール機だ。
いきなりD.U.に現れ地上に大火力を投射し始めたとなればなんとしても制止しなければならないが…
《こちら、アビドス航空隊所属『乗霊号』ッ!当機の行動は連邦生徒会承認されたものだ!!!》
《そーそー!武器の無制限使用の許可は出てるんだからすっこんでてよ~!》
当然、チカとマドカにはこれを行う大義名分がある。
「~ッ!だが、その約定が有効になるのは夜明けのはずです!!!」
《アビドスはとっくに夜明けを迎えている!だから私達もやってきたんだよ!》
《あんた達はお呼びじゃないよ!さっさと元の基地に帰ってれば!?》
二人して防衛室航空隊にそう告げるも、
「そんな屁理屈が通用しないですよ!!!」
あちらもあちらで退くに退けないのも現実。
「ともかく、こちらの指示に従いなさい!さもなくば撃墜…!」
彼女たちも自分の任務を果たすべく再度警告を行う。
だが…
《だったらこちらも強硬策に出るぞ。》
「え…!?」
突然無線に割り込んできた正体不明の通信。
さらに、
ピー!ピー!
ミラージュ2000Cのコックピット内に鳴り響くロックオンアラート。
《ロ、ロックオンされた!?いったいどこから!?》
「れ、冷静になりなさい!まずは方位を…!」
まさかの事態に混乱する防衛室航空隊。
自分達はD.U.を護るために日々訓練を重ねキヴォトスでも最新鋭の機体を与えられた。
そんな自分たちが容易くロックオンされるなど…信じ難かったのだ。
しかし…
《妙な真似をするな、防衛室航空隊。こちらはそちらの3㎞後方を追尾している。》
「なっなんだと!?」
無線から流れる冷酷な声に振り向くと…
《きっ機影確認!!!数は一個飛行小隊です!!!》
「警戒隊が捕えた超音速の部隊か…!?」
確かに自分たちの後方に四機の機影がある。
現代航空戦において3㎞と言うのは…もはやゼロ距離と言っていい間合いだ。
こちらが妙な動きをすれば…あちらは即座に近距離空対空ミサイルを叩きこんでくるだろう。
そもそもこんな近距離まで近づかれた時点でもはや『生殺与奪の権利』はあちらが握ったも同然、始まる前から勝負にならないのだ。
《申し遅れた。こちらはアビドス航空隊『ディープブルー』、『風間シイナ』。再度通告する。こちらの行動は連邦生徒会の承認を得ての行動だ。》
ロックオンを外さないまま、後方のアビドスの編隊の隊長機がなおも呼び掛ける。
《もし、こちらの機体に手を出せば即刻そちらを撃墜する。》
「クッ…!」
動きたくても動けない、そんな状況だが…
《隊長…!》
「安心しろ、すぐに他の基地から応援が…!」
このD.U.は自分達のホーム、状況はすでに警戒隊が察知しているはずだ。
相手の機体の性能が上回っていようと数で押せば勝ち目はある。
その時、
《こっこちらっ防衛室長不知火カヤです!》
彼女たちの無線から上司であるカヤからの通信が入った。
きっと増援を送ってくれると希望を見出すパイロット達。
だが、無線機から聞こえてきたのは…
《たッ直ちに基地に帰投しなさい!!!アビドスの作戦に手を出してはいけません!!!》
「え…?!」
まさかの帰投命令だった。
数分前、
「カヤ室長、たった今防衛室航空隊がスクランブル発進し当該空域へ向かっています!」
「了解しました!直ちに呼びかけを行いアビドスの機体ならば付近の航空基地に強制着陸をさせなさい!いいですね、首席行政官!?」
想定していた時間よりも早く来襲したアビドスの部隊の対応に追われる連邦生徒会。
「はい、お願いします…!まさかこんな方法でこちらの裏をかくなんて…!」
リンもこれには今日一番の焦りを見せていた。
(抜かりました…!まさかこれを見越して具体的な時間の設定をさせなかったのですか…!?)
今まで派手な動きを見せないと思ったらここにきてかつてのアビドス独立戦争よりも激しい戦力の投入。
それを真正面からの奇襲という前代未聞で仕掛けられたことに面を喰らいこそしたものの、
(これ以上このD.U.で騒動を起こさせるわけには…!)
ここは自分達の統治するD.U.だ。
いかにアビドスと言えど少数でできることには限界があるはずだ。
こうして対アビドスの行動を起こし始めた連邦生徒会だが…彼女たちはあることを失念していた。
アビドスは…
ドガッシャアンッ!
『ッ!!?』
ここ、サンクトゥムタワーにも存在していることを。
いきなり吹き飛んだドアのあった場所には…
「お邪魔しますね、連邦生徒会の皆さん♠」
シュゴオオオ…!
スーパースレッジをまるで棒きれの様に構えているノノミと
「………。」
P-90『インディペンデンス』を脇に提げ重々しい空気を纏うアヤネがいた。
「の…ノノミさんにアヤネさん…!?」
いきなりの登場に言葉を失うリンと周囲の者たち。
そんな室内の雰囲気など意も介さずに二人は歩を進め…
「戦闘機が私たちの作戦領域に向かっているとのことですが…直ちに引き返すよう命じてもらえますかぁ?」
「え…!?」
リンやカヤにナギサたちの前に立ちノノミが防衛室航空隊の指令取り消しを求めた。
「なっ何を言って…!?」
いきなりの要求に目を白黒させるカヤだが…
「アビドスと交わした約定では…『武器の無制限使用』が認められています。それを反故にするおつもりですかぁ?」
「そっそれは…!?」
確固たる正当性を主張しノノミも一歩も引かない。
アビドスは約束通り『夜明け』を待ってから行動しその行動の制限は設けられていない。
つまり…連邦生徒会にアビドスを止める権限は一切ないのだ。
なのに、防衛室は航空隊にスクランブル発進を行っている。
「これは…立派な約定の反故ではないのですかぁ?」
微笑をたたえながらもすさまじいプレッシャーを発するノノミ。
「おっお待ちを…!まずは私の話を…!」
カヤは何とかこの場をおさめようとノノミに冷静になるように促す。
…次の瞬間、
バシュゴウッ!
ノノミはスーパースレッジのロケットを噴射、
バッガァンッ!
「ヒィッ!!?」
「貴方達のそのようなお話は聞き飽きましたぁ♠」
目にも止まらない速度でそれを振り抜きカヤの目の前のデスクを叩き割った。
「この期に及んでまだ私達に我慢を強いるんですかぁ?」
「のッノノミさん、これはあまりにも!!?」
突然の暴挙にリンもノノミを非難するが、
「あらぁ、リン主席行政官?私達も…『アビドス』ですよぉ?」
「~ッ!?」
ケロッとしたノノミの返事に絶句する。
そう、アビドスはネイトの元に駆け付けた者たちだけではない。
今目の前にいるノノミとアヤネ、彼女たちと共にやってきた三個分隊。
この者たちも…いまや首輪が解き放たれた猛獣も同然なのだ。
そして、ノノミとアヤネの肩には…
「あ、申し遅れましたぁ♠W.G.T.C.特殊作戦分遣隊『セタス部隊』所属の十六夜ノノミです、以後お見知りおきをぉ♣」
「同じくW.G.T.C.特殊作戦分遣隊『セタス部隊』所属、奥空アヤネです。」
アビドス最精鋭の称号であるセタス部隊のエンブレムの肩章が装着されていた。
「さて…カヤ防衛室長?お話を戻しましょうかぁ?」
「す、スクランブルはD.U.の安全を守る為であって…!」
なおも笑顔を絶やさないノノミに対しカヤは血の気が引き泣きそうな表情を浮かべるが…
「あらぁ?私たちの目的はネイトさんの救出のみ、それに付随しない被害は極力出さないよう努めると約束を交わしているはずですが?」
そんな逃げ道を残しておくほどホシノは甘くはない。
確かに武器の無制限使用の許可は取ってはあるが…それはあくまでネイト救出の障害を取り除くためだ。
これを期にD.U.を侵略しようなんていう『七面倒くさい』思惑などないことはホシノが口酸っぱく伝えている。
「なのに…貴方方は我々の救出を妨害、剰えその戦力を接収でもしようとお考えで?」
それを妨害されては…いい気分はしない。
「貴方方がお認めになった行動なのでスクランブル発進を取り止めの要求は何もおかしくない行動では、カヤ防衛室長?」
と、ノノミが再度スクランブルの取りやめをカヤに要求するが…
「………で、ですが…!」
「ですが?」
「ですが…!貴方方の戦力は…あまりにも強大です…!」
カヤもおいそれとは引き下がれない。
「アビドスの目的は理解しています…!ですが…万が一現場が行き過ぎた行動をした場合は…!」
現場と事務方の差を上げてなんとかノノミを押し留めようとする。
と、
「今更それを言いますか?現場はおろか事務方も情報漏洩を防げないような貴方方が?」
「~ッ!!?」
これまで沈黙を守っていたアヤネの鋭い指摘に言葉が詰まる。
「貴方達は信じて待って欲しいと言っていました。その結果は?」
「そ、それは…!」
「生存を私達に相談もなく声高に公表しモーテルは襲撃、その後は数え切れないほどの不良に追いかけ回される。さらには事情聴取を受けていたヴァルキューレの警察署まで襲撃され…彼は銃撃を受け重傷を負っています。」
淡々と昨夜から今までのことを挙げ…
「おまけにレッドウィンターとの衝突に正義実現委員会の主力まで投入し双方合意の元行われていた決闘と言う神聖な場でトリニティ…それも格式あるティーパーティーがそれを無視し不意打ちと言う卑劣な手に打って出た…これが貴方達を信じた結果ですが?」
通信が途絶する寸前の出来事まで述べ…
「そして、最後の最後まで約束を守った我々の妨害すらしようと?貴方達はこれ以上ないほどアビドスだけではなく…我が校と親しくしていただいている関係校に無礼を働いたのに…ですか?」
カヤを見下ろしそう問うた。
溢れんばかりの怒りを抑え込むその姿は…さながら噴火寸前の活火山のように思えた。
「そ…そうではなく…たっ互いにここは冷静になって平和的な解決を…!」
「アヤネさん…!どうか落ち着いてください…!私達もアビドスと心は同じ…!」
カヤとリンはそんなアヤネを何とか宥めようと説得するが…
「………分かりました。でしたらアビドスも『冷酷』に対処しましょう。」
アヤネはそれを最後通牒と受け取り懐からスマホを取り出し…
「こちら、アヤネ。プロトコル『トバルカイン』の発動準備をお願いします。」
どこかへ連絡を取り物々しい指示を出した。
「な…なにを…!?」
「えぇ、連邦生徒会が我々の邪魔をするというのならば…貴方方も我々の障害として対処させていただきます。」
そう言い、アヤネがリンたちにスマホの画面を見せると…
「もしこのままスクランブルを取り消さなければD.U.内にある防衛室所有の拠点に対し『砲撃』を行います。」
そこにはD.U.に点在する防衛室の基地に照準が定められている映像とカウントダウンが表示されていた。
『アビドス』と『砲撃』、この二つが組み合わさって意味するのは…
「ま…まさか…!?」
「アレを使おうというのですかッ!?」
今でも鮮明に思い出せる。
カイザーPMCの拠点に降り注いだあの蒼い流星。
それが今度は…自分たちに向け使われる。
リンが目を見開き声を張り上げるが、
「何を言っているのですか?我々は認められた条件下でネイトさんを救出しようとしているだけですよ?」
淡々とアヤネは連邦生徒会によって承認された権利を主張する。
「状況はリアルタイムで私達には伝わっています。現在、トリニティパテル分派及び不良生徒の車列と戦闘を繰り広げています。ようはここに…連邦生徒会が加わる、ただそれだけです。」
「ですがっ…!」
「立ちはだかる障害が現れるのならばそれを実力で排除する…むしろキヴォトス人的解決方法の代名詞では?」
鋭い眼光を自分に向けるアヤネを見てリンたちは思い出した。
そう、彼女たちも自分と同じキヴォトス人。
気に入らないことがあれば撃って解決しようとする気質は生来持っている。
それをネイトの登場以降、アビドスや彼の下で働いた生徒は言うなれば『我慢』と『対話』を覚えている傾向がある。
トリニティの七転八倒団がいい例だ。
いわば、ネイトが彼女たちの『手綱』を握れていたからこそ連邦生徒会とここまで我慢強く話し合いを続けて来れたと言っていいだろう。
だが…その手綱が引き千切られればどうなるか?
そこにいるのは…ネイトによって鍛え上げられた暴れ馬に等しいキヴォトス人達だ。
(あ…アビドスは本気です…!)
いよいよもってリンも思い知らされる。
ネイトを救うためならば…アビドスは連邦生徒会すらも叩き潰す覚悟などとうに固めていることを。
すると…
「…ですが、まだ間に合いますよ?」
一転、鋭い表情を和らげ…
「スクランブルさえ引き返させていただけるならば先ほどの攻撃は中止いたしますよ?」
攻撃を止める条件を二人に伝えた。
「す、スクランブルを…!?」
「えぇ、無線で一言『帰投』を命じていただけるのならばこの攻撃は行わないことを確約いたします。」
このアヤネの言葉にリンは揺らぐ。
アビドスは交渉の面でも容赦はないが…約束は必ず守ることは今までの経験から把握できている。
そして、リン以上にこの言葉に飛びついたのは…
「ほッ本当ですか!?」
誰であろう防衛室長のカヤだ。
「はい、カヤ防衛室長。一言無線で『帰投せよ』と命じてくださるだけで…D.U.の平和は守れますよ。」
このアヤネの言葉が止めとなった。
それを聞いた途端、
「こっこちらっ防衛室長不知火カヤです!たッ直ちに基地に帰投しなさい!!!アビドスの作戦に手を出してはいけません!!!」
大慌てで無線機を手に取り大声で帰投を指示するのであった。
《どッどういう意味ですか、カヤ室長!?》
当然この指示に現場のパイロットは理由を尋ねるも、
「これは命令です!貴方方の帰る基地が消し飛ばされたくなかったら早く基地に戻りなさい!!!返答は不要、以上!!!」
言葉を捲し立ててあちらの返事を待たずに無線を打ち切った。
あちらは混乱が生じているだろうが…
《り、了解…これより帰投します…!》
苦虫を嚙み潰したような表情がありありと伝わる声でパイロットからの返信があった。
さらに、
「姐さん!ディープブルーから防衛室の飛行隊の撤退の報告が来たぞ!」
アビドスの無線にもその報告が届き事実だと証明された。
「…こっこれでよろしいですか!?」
「はい♪確かに♬」
それを聞きアヤネは再度スマホを耳に当て、
「こちらアヤネです。プロトコル『トバルカイン』を中断。警戒態勢のまま待機をお願いします。」
約束通り防衛室の基地への攻撃を取りやめる指示を出した。
「カヤ…貴方何をしたか分かって…!?」
「分かっています…!ですが…D.U.の基地を破壊されることに比べれば…!」
いきなりの行動に驚くリンと肩で息をし想定される被害を防いだと主張するカヤ。
リンの言わんとしていることももっともだ。
これでは傍から見ても連邦生徒会がアビドスの行動にお墨付きを与えたようにしか見えない。
だが、カヤの言うことももっともだ。
防衛室の基地の喪失は連邦生徒会の戦力の消失だけではない。
自分達の権威の失墜を誰の目から見ても明らかにするも同然なのだ。
どちらをとるにしても…リスクがある。
「では、連邦生徒会へのお願いは以上になります♡」
「リン主席行政官にカヤ防衛室長、お騒がせしました。」
そんな二人のにらみ合いを無視するようにノノミとアヤネは一礼をし…
「………さて、次は…桐藤ナギサさん?」
「ひっヒィッ!」
「貴方にお願いがあります。」
再び目線を鋭くし部屋の隅で固まっていたナギサに照準を定めるのであった。
―――――――――――――――
――――――――――
―――
ズドドドッ!!!
ズダダダダダ…ッ!!!
バゴォンッドゴォンッ!!!
様々な銃声が鳴り響く廃工場跡の戦場。
戦況は…
「みっミカ様!こちらの戦力がっ!あのアビドス生、強すぎます!」
「すでに7割の派閥員が制圧されています!このままではミカ様も危険です!」
セタス部隊の圧倒的優勢だった。
パテル分派もトリニティきっての武闘派集団、その戦力は他の派閥と比べると一線を画している。
そんな自分たちが…たった一個分隊に圧倒されている。
「一時撤退いたしましょう!周囲にいる正義実現委員会を連れて再び舞い戻れば…!」
それでも諦めるわけではなく周囲にいる正義実現委員会を増援に引き込もうと提案する。
戦力としては確かに強力だ。
しかし、
「アハハ~何言ってるのかな、あなたたち?」
「え…?」
ミカは笑いながら立ち上がり…
「まだ3割に私たちが残ってるじゃん。だいじょ~ぶまだまだ逆転できるよぉ~。」
『Quis ut Deus』を手に持ち周囲にいる派閥員にそう伝えた。
「しっしかし…!」
「なに?何か問題でもあるの?」
「いっいえ何も!!!」
その迫力に派閥員たちも圧倒される。
「でも、正義実現委員会の子に声かけるのはいい作戦だね。貴方、ちょっと探してきてもらえる?」
「わっ分かりました!」
「お願いねぇ。…それじゃ残った貴方達は私と一緒に突撃…。」
ようやくダメージもある程度回復しミカも戦線復帰しようとする。
…その時、
ドゴゴゴゴォンッ!!!
「ギャッ!?」
「ゴフッ!?」
「ぐはぁ!?」
「ブハッ!?」
「ッ!?」
ミカの周りにいた派閥員が一瞬のうちに撃ち抜かれ気絶。
銃声がした方向を振り向くと…
「見つけた…!」
防弾ベストを身にまとい盾と共にもう一挺の長物を背負った臨戦状態のホシノがEye of Horusを構えていた。
「お前が…!」
鋭い闘気を隠すことなく迸らせるホシノに対し、
「…アハハハッ凄いね!まさか私以外を一瞬で倒しちゃうなんて!」
ミカは相変わらず愉快そうな表情を崩さない。
しかし、ミカも一目見て気付いた。
「貴方…とっても強そうだね。」
目の前にいるこの小さな生徒は…先ほどやってきたどの生徒達よりも強いということを。
「…手を引いて。トリニティに勝ち目はないよ。」
ホシノは闘気はそのままにミカに撤退を要求する。
確かにもうまともに戦える戦力はミカくらいだろう。
しかし…
「ウフフッおかしい子だね。私がいるのに…もう勝った気でいるの?」
ミカは一切引くつもりはない。
「言っとくけど他の子たち全員合わせたよりも…私の方が強いよ?」
なんとも尊大な物言いだが…そこに嘘は一切ない。
それが可能だと伝わるほど…ミカの存在感は強大だ。
そして…
「…そう。」
ホシノはそれに冷静に返し…
「…助かったよ。」
「え?」
「これで堂々と落とし前を付けさせることが出来る…!」
感情をむき出しにした怒りの形相を浮かべた。
「…!」
「悪いけど…私も抑えが効かないから…耐えてね…!」
次の瞬間、
ドンッ!
ホシノの足元が爆ぜた。
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 シホ
フルネーム 鋸峰シホ
役割 STRIKER
ポジション Middle
武器種 無し
クラス ヒーラー
攻撃タイプ ナシ
防御タイプ 特殊装甲
学園 ???→アビドス高等学校1年生
部活 『セタス部隊』衛生兵
年齢 15歳
誕生日 2月7日
身長 154㎝
趣味 裁縫や刺繍、編み物などの手芸全般
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 メリィ
フルネーム 駒留メリィ
役割 STRIKER
ポジション FRONT
武器種 AR:H.C.A.R.『リベリオンフレイム』
【挿絵表示】
RL:カールグスタフM4『ヘッドウィンドブレーカー』
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 爆発
防御タイプ 軽装甲
所属 カタカタヘルメット団総長→アビドス高等学校1年生
部活 『セタス部隊』火力支援担当
年齢 15歳
誕生日 1月11日
身長 157cm
趣味 車弄り
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
名前 ジョウジ
フルネーム 間宮ジョウジ
役割 STRIKER
ポジション Middle
武器種 MG:M1917A1『ロードクローズド』
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 貫通
防御タイプ 重装甲
学園 番長の不良グループ→アビドス高等学校2年生
部活 『セタス部隊』機関銃手
年齢 16歳
誕生日 11月4日
身長 180cm
趣味 筋トレ、ツーリング