―――作家『ナポレオン・ヒル』
【05:20】
「これで堂々と落とし前を付けさせることが出来る…!」
この戦闘も…いよいよ佳境を迎えようとしていた
「悪いけど…私も抑えが効かないから…耐えてね…!」
ドンッ!
地面を爆ぜさせホシノがミカに襲い掛かる。
その姿は…まさに『ハヤブサ』だ。
(はッ速…っ!?)
あまりの速さにミカも反応しきれず…
「鈍い…!」
ズドドドォンッ!!!
「キャッ!?」
次の瞬間にはEye of Horusの速射が叩き込まれる。
体中をOOバックショットの弾丸が襲うが…
「痛ったいなぁッ!!!」
パラララ…ッ!
ミカの頑丈さも相当なもの、痛がりはしたもののすぐにQuis ut Deusをホシノ目掛け乱射する。
「そんなもの…!」
ガッコォン!
対するホシノも素早くIron Horusを展開、
カカカカカァンッ!!!
放たれた9×19㎜弾が当たり火花が散るがビクともしない。
「アハハッ頑丈な盾だね!」
銃撃では効果は薄いと判断し、
「あの大人みたいに叩いてあげる!!!」
ミカは銃撃を加えつつ肉薄し肉弾戦を仕掛ける。
だが、ミカのその一言が…
「…ッ!」
ホシノの神経をさらに逆撫でる。
ピィンッ
ポイッ
盾の影でホシノはある物のピンを抜きミカ目掛け放り投げた。
次の瞬間。
シュバァンッ!!!
「キャッ!?」
ミカの視界が白一色に塗りつぶされた。
Mk13フラッシュバン、ホシノ愛用の閃光手榴弾だ。
流石のミカもまともに食らっては身を丸めて怯んでしまいその足が止まる。
その隙を見逃すホシノではない。
素早くIron Horusから飛び出し、
ズパパパパパンッ!!!
「うぐぅッ!?」
右手でM92Fを抜き放ち弾丸をミカに叩きこみながら…
シャコッシャコンッシャココンッ!シャココンッシャココンッ!
左手で弾切れしていたEye of Horusにクアッドリロードを行い即座にショットシェルを満タンになるまで装填、
ズドドドドォンッ!!!
「いっヅゥッ!?」
そのまま左手でグリップを掴みEye of Horusを再び速射。
今回装填されているのは徹甲スラッグ弾、先ほどよりも強烈な衝撃がミカを襲う。
しかし、
「あぁッもうッ!!!」
パラララ…ッ!
視力が回復しないうちにミカは銃声が飛来する方向に向けQuis ut Deusを撃ちまくる。
(無駄に頑丈な…!)
一般の生徒ならば初手の速射で決着がついているはず。
その上にスラッグ弾の固め撃ちを受けてなおここまで動けるのは…ヒナ以来か。
しかも…
「ちょこまかと鬱陶しいなぁ!!!」
ダッ!
射撃音目掛け飛び掛かり、
「っと!」
「エイッ!!!」
無造作に拳を振りかぶり殴りかかる。
ネイトと日々鍛錬しているホシノにとっては素人丸出しのテレフォンパンチは避けるのは容易く僅かに身を引き軌道上から回避したが…
バゴオンッ!!!
その拳は地面のアスファルトを軽々と砕きクレーターを生み出した。
(なんて馬鹿力…!)
ノノミですらこうはいかない。
非常に高いタフネスと怪力、
(なるほど…トリニティのトップに君臨してるだけはある…。)
ホシノはミカを分析するが…
(でも…それだけだね。)
その中身は非常に薄かった。
「…あっやっと見えるようになったよぉ。」
フラッシュバンで塗りつぶされた視界が回復しホシノを見据えるミカ。
「すばしっこいね、アビドスの生徒会長さん?」
確かにダメージこそ刻めている。
戦況こそ今のところホシノが優勢だが…
「でも…私が倒れるまであなたの弾が持つかな?」
ミカは効いてないと言わんばかりに彼女を挑発する。
(それはないけど…確かに…!)
あからさまなやせ我慢とホシノも判断するが…問題はミカを倒しきるまでの時間だ。
ネイトを安全に救出するためには彼女の制圧は絶対条件だ。
(ネイトさんのタフさとシホちゃんの応急処置があればまだ余裕はあるだろうけど…!)
時間は未だに自分たちにとっては敵だ。
ならば…
「そう言うんだったら…問題ないよね…!」
Eye of Horusをスリングで脇に提げ…ホシノはそれを構える。
「なぁんだ、またショットガンじゃん。」
見かけは普通のポンプアクションショットガンだ。
「そんなのじゃ…私は倒しきれないって言ってるでしょ?」
ドッ!
さしたる脅威とは思わず…ミカは再び突っ込む。
「貴方…よく『軽率』って言われない?」
ホシノは冷静に手に持ったショットガンを構え…
ドゴォォンッ!!!
先程とはケタ違いの銃声を鳴り響かせる。
そして、
バギィッ!!!
「ブッ…!?」
ミカの体にこれまた桁違いの衝撃が駆け抜けた。
「が…ぐほっ…!」
一発、たった一発で並大抵の銃撃を物ともしないミカにたたらを踏ませる。
それがこの銃の異常性を如実に物語っているだろう。
「効いたみたいだね…!」
ジャッコン
ホシノはハンドグリップを操作し排莢と給弾を済ませ、
ドゴォドゴォドゴォォンッ!!!
「イギィヤああああ!!?」
容赦なくミカ目掛け立て続けに銃撃を叩きこむ。
そのどれもミカに明確なダメージを刻みネイトの刻んだ負傷部位にもまともに食らいその箇所を抑えて蹲り悲鳴を上げた。
(どッどうしてっ!?同じショットガンなのに!?)
訳が分からなかった。
今の一撃…先ほどのホシノの銃撃はおろか傷口に叩きこまれた狙撃とは比べ物にならないほどの衝撃と痛さを味わうミカ。
その悲鳴に紛れ、
カラァン
地面に軽い音を立てて排莢されたショットシェルが落ちる。
それを見て…
「な…何あれ…ッ!?」
痛みに苦しみながらミカは驚愕する。
そこには先ほどEye of Horusから排出された12gaショットシェルの空薬莢も転がっていたが…一見して違いが分かる。
今しがたホシノが排莢したそれは…12gaよりも二回りほど巨大だった。
「どう、私の鉤爪の威力は…!?」
新たな大型ショットシェルを装填しつつホシノは猛る。
これこそホシノの新装備、銃の名称は『KS-23』。
その名前の通り23㎜、4ゲージ*1という規格外の口径を誇るショットガンだ。
それもそのはず、本来の銃の銃身は…航空機関砲である『GSh-23』の銃身の不適格品をそのまま流用した特異なショットガンなのだ。*2
スラッグ弾に関していえば単純計算でEye of Horusで発射されるそれの3倍以上の重量級の弾丸を発射でき、装填数はチャンバー込みで4発と非常に少ないがそれをもってしてもあまりある破壊力を誇る。
その名も『Claw of Horus』、ショットガンの扱いに長けたホシノが更なる火力を求めてネイトから授かった新たな得物だ。
装填されていたのはネイト考案のオリジナルの『JHPスラッグ弾』、精度とストッピングパワーを両立した強烈な弾丸である。
ミカからしてみれば…まるでハンマーにでも殴られたかのような衝撃を味あわされたような物だろう。
「こ…こぉのぉ…!」
痛みに藻掻くミカだが…
「まだ立つ?もう寝ててよ。」
ジャッコン
そんな彼女に装填を終えたClaw of Horusを構えて降伏を促すホシノ。
「はっきり言ってまだ腸が煮えくり返ってるけど…もうアンタに構ってること自体が『無駄』なんだよね。」
現状の最優先事項はネイトの救出。
ミカを叩きのめすことは二の次…いや三の次以下のことだ。
このケジメは後でいかようにでも取らせる、必ず取らせてみせる。
「だからそこで這い蹲っているんなら今は『見逃してあげる』。」
そう冷徹な目でミカを見下ろすホシノだが…
「…っ!」
そんな彼女の目を見て…ミカは思い出した。
「ミカさん、貴方は本当に…。」
自分なりに平和を願って考えた『提案』に…
「それにミカ、君はもしそれが達成できたとして…どうするつもりだい?」
心底呆れたような眼差しを向けてきたあの二人のことを。
「…るな…!」
「なに?」
次の瞬間、
「そんな目でッ私を見るなアアアアアアア!!!」
ゴォウッ!!!
「…ッ!?」
絶叫と共にミカの体から膨大な神秘が溢れ出した。
出力は…ホシノが見てきた中ではネイトに次ぐものだ。
そして…
「フっ飛んじゃえええええええ!!!」
ミカの声に呼応するようにその神秘は変質し…
シュドォッ!!!
『流れ星』が出現し宙を引き裂きホシノ目掛け降り掛かる。
「嘘ッあんなことできるの!?」
「まっマジかよ、アイツ!?」
「ホシノの姉御、避けろッ!!!」
「ホシノ先輩…!」
キヴォトスでも常識の範疇を軽々と超えた戦いにメリィやジョウジは度肝を抜かれる中…
「全く…とんでもないねぇ…!」
対峙しているホシノは苦笑を浮かべ、
ズドオオオオオオンッ!!!
流星が彼女に降り注いだ。
周囲に落下の衝撃波と爆風が吹き抜ける中…
「そ…そんな…!?」
シホはその着弾箇所を見て言葉を失う。
あんな攻撃を受けて無事で済むわけが…
その時、
「あ…安心…しろ、シホ…。」
「ネイトさん…!?」
「俺たちの…委員長は…あんなの…へでもない…さ…。」
絶え絶えながらも彼女を安心させるようにネイトが声をかけた。
流れ星の着弾によって発生した土煙が立ち込める中、
「…ふぅ~やりすぎちゃったかなぁ?」
軽い調子を取り戻したミカが勝負ありと言わんばかりに立ち込める土煙の中に声を投げかける。
例え、ツルギであってもまともに食らえばただでは済まないという自慢の一撃だ。
「でも…ちょっと焦っちゃったよ。なかなか馬鹿にできないね、アビドスも。」
ここまでの戦いを見てホシノを称賛するような言葉を発しているうちに土煙は晴れていき…
「…え?」
呆然とした声を上げた。
そこにあったのは…傷付きながらも地面に立っているIron Horusだった。
そして…
ガラァン!
Iron Horusが倒れると…そこには誰もいなかった。
「ど、どこに…!?」
辺りを見回すミカだが…
「そこまでやる気なら…。」
「え…?」
背後から声が聞こえ視線を向けると…
「もう遠慮しなくていいよね?」
ホシノがClaw of Horusの銃口をまっすぐに向けていた。
先程のミカの流星に対してホシノはIron Horusに神秘を込めバリアを展開し防御態勢をとった。
相性の問題でバリアは砕けこそしたものの…ホシノは流星の一撃を無傷で受け切ることに成功。
さらにIron Horusを手放し身軽になり機敏さを活かして土煙に紛れミカの背後をとったのだ。
「そのまま返せさせてもらう…!吹っ飛べ…!」
ズドォンッ!!!
背後を取り隙だらけのミカにホシノは容赦なく発砲。
放たれた弾丸は真っすぐに飛翔しミカに着弾した瞬間、
チュドォンッ!!!
「あが…!?」
彼女の肌で巨大な爆炎が生まれた。
「まだだ…ッ!」
ズドォンドォンドォンッ!!!
チュドォンバゴォンドゴォンッ!!!
「あぎゃあああッ!!?」
ホシノが続けて銃撃を加えるとその度に爆炎の太華が咲き誇った。
KS-23用グレネード弾『FLAG-4』、対装甲・対軟標的用に開発された『FLAG-12』のスケールアップ版弾丸だ。
内蔵されたPBX爆薬の量は12g*3、TNT換算で18gと言う最早銃弾とは思えないほどの威力を誇る。
「痛いッ痛いよおおおおお!」
今まで味わったことのない苦痛に泣き叫ぶミカ。
「…そのままそこでもがいててよ。」
シャッコンッシャッコン…
そんな彼女を見てホシノは弾を込めながらその場を後にしようとする。
「…こちら『アルファホエール』、ランディングゾーンの制圧完了。移送準備をお願い。」
《了解!こっちも不良たちの殲滅を完了!すぐに駆け付けるよ!》
「シホちゃん、ストレッチャーの準備を。ネイトさんを連れて行くよ。」
「分かりました!ネイトさん、もう少し頑張ってください!」
「正義実現委員会の貴方も手伝ってもらえる?」
「もちろんです!」
航空隊のマドカに無線を入れシホとハスミに声をかけネイトの搬送準備にかかる。
「まだっまだだよ!まだ私は!」
ミカはホシノに食らい付くかのように藻掻くが四肢に力が入らない。
ネイトの鉄筋フルスイングに傷口へのダイレクト攻撃、そこへ重量級のClaw of HorusのJHPスラッグ弾とFLAG-4の連撃。
いかに規格外のミカでも…限界が来たのだ。
「ん…いいの、ホシノ先輩?」
「まだアイツやる気満々よ?」
「いいのいいの、もうあの子はしばらく立てないよ。」
シロコやセリカの疑問に軽く返すホシノだが一切警戒態勢を解いていない。
他の隊員たちも各々の得物を向け万が一に備える中、
「みっミカ様ッ!アァそんな…!」
ミカの指示で正義実現委員会の召集に向っていたパテル分派派閥員が戻り地面に臥した彼女の元に駆け寄る。
「皆はッ正義実現委員会の皆はどこッ!?」
声を荒げるミカだがそれもそのはず。
彼女の周りには正義実現委員会の隊員が誰一人としていないからだ。
「そっそれが…!」
派閥員が顔を青くしながらその理由を答える。
「なっナギサ様が正義実現委員会の隊員に対し戦闘中止を厳命され戦闘に参加できないと…!」
「なっナギちゃんが…!?」
数分前の事、サンクトゥムタワーにて…
「………さて、次は…桐藤ナギサさん?」
「ひっヒィッ!」
「貴方にお願いがあります。」
連邦生徒会との『交渉』を終えたノノミとアヤネがナギサに突きつけたのが…
「ネイトさんの周囲にいる正義実現委員会の方々に対し…現刻をもってこの件に関わる一切の戦闘への不干渉を命じてください♠」
「ふ、不干渉…!?」
「彼女たちは決闘の場を最後まで守ってくださいました。そして…今行われている戦闘は聖園ミカさん筆頭のパテル分派が引き起こしたもの。無関係な正義実現委員会の方々を傷付けるのは私達も本意ではありません。」
正義実現委員会を戦闘に参加させないと言うこと。
これはつまり…
「み…ミカさん達を見捨てろと仰るのですか…!?」
ミカを護るための盾と矛を捨てろと言っていることに他ならない。
パテル分派の戦力はナギサも知るところだが…今あの地に向ったアビドスの戦力が只者なわけがない。
パテル分派であっても決して油断できるものではなく正義実現委員会の戦力は手放したくはない。
だが…
「もし聞いて下さらないのなら構いませんよ?その場合は…。」
「そ…その場合は…?!」
「トリニティは完全にアビドスと事を構える方針だと判断しこちらも臨戦態勢を取らせていただきます。」
「~ッ!?」
今はまだ生徒会クラスの人員が関わっているとはいえアビドスとトリニティの『部隊間』の抗争でおさまっている。
ここにトリニティの正規部隊である正義実現委員会が加わるとなると…それはかつてのゲヘナ風紀委員会の騒動よりも深刻な事態になる。
ミカと言う『生徒会』と正義実現委員会という『正規部隊』、これは完全にトリニティとの『紛争』と言ってもいい状況になる。
「こちらはあらゆるケースを考え既に準備万端ですよぉ♣」
「正義実現委員会を救出作戦に参戦させるのならば…覚悟を。」
その場合、アビドスに『容赦』の二文字は消える。
しかも、トリニティは現状首脳部はおろか主力の大半をD.U.に呼び寄せてしまっている状態。
対するアビドスも精鋭こそ同じ状況だが…アビドスの強みは総合力だ。
主力以外でも…独自にビナーと言う怪物相手に奮戦でき実戦も経験済みの精強なアビドスは油断できる相手ではない。
しかも、アビドスと事を構えると言うことは…
(ト、トリニティにあれが…!?)
彼女が最も恐怖するあの蒼い流星…『80口径10インチガウスキャノン』による砲撃が自分たちの学校に叩きこまれると言うことに他ならない。
「わ、分かりましたっ!!!たッ直ちに正義実現委員会の子達に退避を命じますっ!!!ですのでどうかッどうかお慈悲を!!!」
地にへたり込んだままノノミ達に頭を下げて了承の返事をするナギサ。
平たく言えば…土下座の姿勢である。
今まで何度も考え背筋が凍ってきた想定が現実のものになろうとしている。
今のナギサには十分すぎるほどの恐怖だ。
「…ッ。分かりました。実行していただけるのであれば私達もこれ以上の戦力を投入はしないと確約いたします。」
「ありがとうございますッ!!!誰かっ誰か現地にいる子達に通達を!!!」
そんなナギサに面を喰らいながらもアヤネは了承。
ナギサもすぐさま正義実現委員会とコンタクトをとるために動き始める。
場面は戻り廃工場にて、
「さ…先ほど近辺にあった公衆電話からナギサ様からの直接の命で戦闘に参加することを禁止すると…!」
なにぶん報道ヘリすら墜落するほどのEMPが発生したのだ。
ヘリより近くにいた正義実現委員会の面々の通信機器は軒並み破壊されてしまっている。
何とかナギサたちフィリウス派の人員が公衆電話の番号に片っ端からかけまくり命令を伝達することが出来たのだ。
「…アハハッそっかぁ、ナギちゃん…!」
この事実に表情を歪めるミカ。
ナギサは現在のティーパーティーのホスト。
彼女の権力は自分を上回りこの命令を取り消すすべはない。
つまり…もう自分とこの生徒しかこの場で戦える戦力はいないのだ。
ならば…
「分かったよ…!こうなったら…!」
「みっミカ様、いけません!」
震える足に力を込め立ち上がろうとするミカ。
限界まで戦うつもりなのだろう。
「……凄い風…!あんなに荒れ狂う風は初めて見た…!」
「ん…あれだけボロボロなのにすごい根性。」
「いえ、あれはもう自棄になってるわね…!」
「まだ足んねぇんなら…相手になってやる…!」
「来やがれ、マシンガンが待ってるぜ…!」
「そんなに戦いたいのなら…完全にヘイローの無事は保証できないよ?」
ホシノ達セタス部隊も臨戦態勢をとる。
最早どちらかが完全に折れるまで止まらないかに思えたこの戦い。
だが、そんな張り詰めた空気は…
バラララララッ!!!
『ッ!?』
突如響き渡ったエンジン音に霧散させられた。
見上げるとそこにあったのは…純白のヘリ。
『HH-60 ペイブホーク』、UH-60をベースに戦闘捜索救難任務向けに改装されたヘリコプターだ。
その側面に描かれたエンブレムは…
「『S.C.H.A.L.E』のヘリ!?」
そして…
《こちら連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生だ!地上にいる皆、直ちに戦闘を止めて欲しい!》
「せ、先生…!」
「ん…やっと来てくれた…!」
このキヴォトスで二人目の外から来た『大人』、先生がスピーカー越しに呼び掛けるのであった。
【02:40】
場所はD.U.郊外の廃墟遊園地『スランピア』。
ここで…
「アハハハーッ転がれ転がれー!!!」
「アパシー・シンドロームだぁ!!!」
「来るよ、気を付けて!!!」
先生率いる捜索隊は鼠と鴉がモチーフになっているであろう異形の存在を追い続けていた。
奴らが…このスランピアでの怪奇現象の黒幕である。
ここに来て早々に先生の前に現れたタキシードを着た奇怪な動くマネキン曰く…名前を『シロ』と『クロ』と言うらしい。
この二体の怪異を夜間からずっと追いかけ回しようやく追い詰めることが出来たのだ。
「お掃除もいよいよ大詰めですね、ご主人様…!」
「ここまで追いつめてやられてたまるもんですか!」
「主殿、命令をお願いします!」
「無理はダメですよ、イズナちゃん!」
前線に立つのはアカネやアル、そして和風の制服を着た『百鬼夜行連合学園』の生徒達だ。
先日の出張で繋がりができアルとアカネと共に今回の調査に同行を依頼していたのである。
「アカネは爆撃でシロの突進ルートを固定して!イズナ、煙幕でシロとクロの視界を奪ってかく乱、ミモリは最適な位置の設定!そして…アル行けるね!?」
先生はよどみなく四人に指示を飛ばし、
「ご覧になって。障害は、消えますよ…。」
チュドドドォン!!!
「行きます!煙玉っえいっ!」
ボシュシュシュッ!!!
「さあアルさん、こっちですよ!」
「分かったわ、ミモリ!」
4人それぞれがその指示を的確にこなしていく。
「ヒマリ!シロのボールに対し最適な入射角の算出!アコ、クロの行動パターンの分析は!?」
「ミレニアムのメンターであり、天才清楚系病弱美少女に不可能はありませんよ。これをこうして…えいっ。」
「言われなくても…分析完了、弱点は把握済みです。」
後方で彼のサポートをするヒマリとアコも解析を終え…
「アルさん、シロが乗ったボール中心から5時の位置を正面から撃ち抜いてください!」
「タイミングは回転を始めてきっかり3秒後です!」
「5時の位置を3秒後ね…!」
アルに射撃位置を伝達する。
次の瞬間、
「いっくよー!!!」
ゴォウッ!!!
シロがボールに飛び乗り猛烈な速度で走り出す。
ガガガガガッ!!!
そのボールはアカネが刻みつけた地面の溝に沿って進み…
「みえないぃ―!」
「シローどこーッ!?」
展開した煙幕が視界を覆い隠す。
そして…
「3…2…」
アルは指定した位置でどっしりと構えカウントする。
その手に構えるのは愛用のPSG-1『ワインレッド・アドマイア―』ではない。
それよりもさらに重厚長大な対物ライフル『ヘカートⅡ』、
(大丈夫、先生の指示と…兄さんの『ボトルマグナム・プレイズ』があれば…!)
ネイトがアビドス独立戦争の折に彼女に託した巨大な相棒だ。
装填されている50口径榴弾が放たれるその時を今か今かと待ちわび…
「…一撃で十分よ。」
指示された3秒が経過した瞬間、
ドゴォンッ!!!
大音響と周囲の煙幕を吹き飛ばす硝煙と共に発砲。
放たれた50口径榴弾は…
シュバァンッ!!!
指示されたシロのボールの位置に寸分狂うことなく着弾、彼女の神秘も組み合わさり大爆発を起こす。
その衝撃は…
「うわあああああ!?」
ゴロゴロゴロッ!!!
まるでビリヤードの要領でシロをボールごと弾き返す程だ。
そして、ミレニアムの全知と風紀委員会の頭脳が導き出したボールの行き先は…
ズオッ!
「「え?」」
その先にクロがいる位置ドンピシャだった。
元からのシロの勢い+アルの榴弾狙撃のパワーは…
ズドォッ!!!
「「へギュッ!!?」」
ボールはそのままクロも巻き込み転がっていき…
バガアアアアンッ!!!
そのままステージに突っ込み崩れてきた残骸の下敷きになった。
「総員、警戒して!もし動きがあったら総攻撃を!」
それでも油断せずにアル達はそれぞれの得物と爆弾を用意し有事に備える。
そして…
「「負けたー…。」」
どこからともなくシロとクロの声が聞こえ…
フワァ…
瓦礫の隙間から光の粒が沸き上がり天へと昇って行った。
それからしばらく様子をうかがうも何の変化も起こらず…
「…どうやら終わったようだね…。」
『…フゥ~。』
ようやく先生たちは警戒を解くことが出来た。
「皆、お疲れさま。よく頑張ったね。」
「でも…すごい…!本当に先生の予想通りに…!」
「アルさんのあの一撃…カリンにも引けを取りませんね…!」
「おぉ~!アル殿の忍術はすさまじいですね!」
「フフン、これも私の分析あってこその戦果ですね!」
「天地万物に求められし超天才美少女にとっては朝飯前ですよ。」
先生が参加してくれた彼女たちを労う中、
「アルもよくやってくれたね。本当に指示通りの場所を撃ち抜けるなんて凄いよ。」
「どんなものよ、先生!これが兄さんに鍛えられたアウトローの実力よ!」
先生からの今回のMVPともいえるアルへの称賛を彼女も胸を張って受け止める。
が…
(よ、よかったあああああああーーー!!!ちょっとでもずれてたら私どうなってたのーーーーー!!!???ぺちゃんこっ!!?ぺちゃんこになっちゃってたかもしれないのーーーー!!!???)
内心バックバクだった。
その後、しばらく周辺の捜索を終え先生に任せられたスランピアの調査任務を終了。
「…よし、これくらいでいいかな。」
「ふぁ~…結局夜通しになっちゃったわね…。」
「全く…徹夜は美少女のお肌の大敵ですのに…。」
「あら、ヒマリさん。私は徹夜は慣れっこですよ?」
「風紀委員会は大変なお仕事のようですね、アコさん…。」
「主殿、報告はしなくていいのですか?」
「そうだね、イズナ。長距離無線や電話も通じるようになったかも…。」
日付を跨いだ辺りから先生たちの通信手段はほぼ使い物にならなくなっていた。
使えるのは精々近距離のインカムくらいで外部に連絡が取れない状態だったのである。
おそらくシロとクロの影響と思われるがそれも解決した今なら…
Prrr…Prrr…
「やった、通じるようになってるよ!」
うんともすんとも言わなかった電話が通話できるようになっているようだが…
「…誰も出ないね。」
一向に誰も出ようとしない。
「連邦生徒会はこの時間でもお忙しいようですね。」
「いや…普段なら必ず誰かが電話に出るし自動転送もされるはずなんだけど…。」
この状況に首を傾げる先生。
「D.U.で何かあったのかしら?」
「かもね。ちょっとニュースを見てみよう…。」
と、数時間ぶりにD.U.の状況を確かめようとしたその時…
~♪
「あれ…ホシノ…?」
ホシノから連絡が入ってきた。
度々連絡が来ていたので珍しい事でもないが…この時間はぐっすりのはずだ。
「…もしもし、ホシノ?」
何か嫌な予感がし電話に出てみると…
《もしもし先生?いきなりごめんね。》
当然というかホシノが応答するが…
「………それは大丈夫だけど…どうしたの?」
彼女の声の様子から並々ならぬ事態を察し声をかける先生。
《…いくつか質問があるんだけど正直に答えてもらえる?》
「分かったよ。」
《D.U.で何があったか把握してる?》
「ううん、今はD.U.郊外にいて街の方の状況はあまり分からないね。」
《それは何で?》
「ついさっきまで連邦生徒会と連絡が取れる状況じゃなかったからね。ホシノが初めての通話だよ。」
淡々と尋ねるホシノに先生は一切誤魔化すことなく答えていく先生。
何かあったということが伝わり先生だけでなくアル達も表情が硬くなっていく。
そして…
《………ねぇ先生。先生は…助けてくれる?》
今まで淡々としていたホシノの声が…潤んだものになった。
「…D.U.でなにがあったんだい、ホシノ?教えてもらえるかな?」
いよいよただ事ではないと理解し、真剣な表情を浮かべホシノに事情を尋ねる先生。
その後、ホシノから聞かされた話は驚愕の連続だった。
「兄さんの宿舎が巡航ミサイルで爆撃…!?」
「旦那様が逃げ延びた先でも襲撃者が…!?」
「七囚人を筆頭とした不良集団とカーチェイス…!?」
「ヴァルキューレの警察署にも襲い掛かったんですか…!?」
治安の悪いゲヘナであってもそうそう起こらないテロの数々にネイトが巻き込まれたという話。
「…それでネイトさんは…!?」
《今は事前に決めていた脱出箇所に向かって移動中だと思う…!傍受の危険性があるから連絡できないんだ…!》
「…分かった、私達もこれから向かう。その場所は?」
《…助けてくれるの?》
ホシノのその声に…
「もちろん、私は君たちの先生で…ネイトさんの弟子なんだからね。」
先生は胸を張ってしっかりと答えて見せた。
彼の言葉を聞き…
《…ありがとう…!ネイトさんの脱出地点は…。》
ホシノはようやくアビドスの生徒以外に初めて手の内を明かした。
「…分かったよ。」
《私達もあと少しでD.U.に向かうから…!》
「うん、無茶はしないでね。」
互いにそう言葉を交わし通話を切った。
「…ごめん、皆。私はこれからD.U.に急行する。だからみんなはここで…。」
そう言い、先生はここまで乗ってきたヘリに向おうとする。
が、
「何言ってるの、先生?」
「アル?」
「兄さんがピンチなのよ?義妹の私が…あの人をほっとけるわけないじゃない。」
アルは二挺のライフルを抱え隣に並び、
「ふん、全くあの人は行く先々で騒動を巻き起こしますね。…恩を売るにはもってこいの機会ではありますが。」
「アコ…。」
口では面倒そうに語りながらも浅く笑みを浮かべるアコも傍らに並び立ち、
「旦那様に何かあればリーダーが寂しがりますしアリスちゃんも悲しみます。メイドとして…邪魔する方々はお掃除しなければ。」
「アカネ…。」
メガネに怪しい光を灯しながらアカネも先生の後ろに控え、
「超越にして卓越の天才美少女ハッカーの同胞をどこの馬の骨とも知れぬ襲撃者に奪われるわけにはいきません。その正体、看破して差し上げましょう。」
「ヒマリ…。」
いつものように自信満々の表情を浮かべたヒマリが後ろに並び、
「困っている方がいらっしゃるのを見過ごしては大和撫子は名乗れません。先生、私にできることがあれば何なりと。」
「ミモリ…!」
「主殿の行くところならばたとえ火の中弾幕の中!!!どこまでもお供しますよ、にんにん!」
「イズナ…!」
ネイトと面識のないミモリとイズナも並び立ってくれた。
ここまで覚悟を決めた彼女たちの思いを断るのは野暮と言う物だ。
「…よし、皆で行こう…!ネイトさんを助けに…!」
『了解っ!!!』
先生の声にアル達はしっかりと返事をする。
【05:23】
《戦いは終わりだ!今は彼を助けることが最優先だよ!》
ようやく現場に到着し戦闘中止を呼びかける先生。
「…と言うことだよ、トリニティのお嬢様。」
ホシノはヘリからミカに視線を移し、
「私達はこのまま行かせてもらう。これ以上戦う意味はないからね。」
一方的な戦闘停止の意思を伝え背を向けた。
ちょうどその時、
ドドドドドドドッ!!!
「お待たせ、皆!早く乗って!」
マドカが操るベルチバードも到着、
「シホ、手伝うぞ!」
「私も担架を持つわ!」
「ん…皆で運ぼう…!」
「お願いします!ネイトさん、これから病院に運びますからね!」
シロコたちの手を借りネイトもようやく担架に乗せられ…
「行きますよ、1ッ2の3ッ!」
「…帰らなきゃ…。」
「そうですね、帰りましょう!」
「ん…でもその前にネイトさんは病院…!」
「しっかり治してから帰って来てね!」
「大丈夫、オジキならきっと帰って来れるさ!」
治療のために病院に向かうことが出来る。
「あのっすみません!ウチのツルギも運んではもらえませんか!?」
「…分かったよ。ジョーちゃん、あそこの正義実現委員会の委員長も運んできて。」
「了解だ!」
ついでにと言わんばかりにネイトと激戦を繰り広げたツルギも搬送することに。
《ホシノさん、ヒマリです。このままD.U.中心街にある病院へ向かってください。ミレニアムと提携している最新設備が整った病院に受け入れ態勢をとるようにユウカから話が言っていますので。》
「ありがとう、ヒマリちゃん。」
搬送先も確保してくれているのでようやく光が見えてきた。
ネイト救出のために各々動いている中…
「まだっまだだよ…!まだ、終わって…!」
ミカはネイト達を逃すまいと少し先に落ちていたQuis ut Deusに手を伸ばす。
その時、
シュバァンッ!!!
「~ッ!?」
あと少しの所でQuis ut Deusが砕け散った。
なんとか動く首と頭で見上げると…
「させないわよ…!」
ハッチを開けて硝煙を立ち昇らせる『ボトルマグナム・プレイズ』を構えたアルがミカの一挙手一投足を見逃すまいとスコープを覗いていた。
「ナイスショット、アルちゃん…!」
ホシノは相も変わらず冴え渡ったアルの狙撃を称賛し、
「角付き…ゲヘナ…!!!」
ミカは仇敵からの一撃を受けたことに表情を歪めた。
武器も壊され…もはやミカになす術はない。
「姉御、もう全員乗ったぞ!」
「…うん。行くよ、皆。」
もはやミカに構うのは時間の無駄だ。
ホシノは警戒しながらベルチバードに乗り込み、
「マドカちゃん、出して!卵も倒さない位の安全飛行でね!」
「了解、安全で最速で行くよ!」
「先生、ごめんだけどカレンちゃんの回収頼めるかな!」
《分かった、ホシノ!彼女は私達が回収して連れて行くから!》
2機のヘリは分かれて飛行、各々の目的地へと向かって飛び去って行った。
あとに残されたのは…ホシノ達に倒された無数のパテル分派派閥員と
「待って…!まだ…まだ私は…!」
「ミカ様…!」
唯一戦闘を免れた一人の派閥員と空を睨みつけ恨み言の様に呟くミカだけであった。
D.U.の空は…ようやく白み始めていた。
【05:25】
名将と凡将との差は、作戦能力の優劣よりも、責任観念の強弱によることが多い。
―――思想家『ニッコロ・マキャヴェッリ』