Fallout archive   作:Rockjaw

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真の戦士は常に役目を優先する。
―――武将『関羽』



Each role for him

【05:50】

 

長い夜が明け夜明けを迎えたD.U.。

 

その空を…

 

ドドドドドドドッ!!!

 

「まだなの、マドカ!?」

 

「もうちょっと!焦らせないでよ、セリカちゃん!」

 

ネイトを収容したベルチバードは搬送先の病院に向け全力で飛行していた。

 

「ん…シホ、ネイトさんの容体はどう…?!」

 

「止血と酸素吸入に輸液のおかげで脈拍は安定しています!ですが極度の貧血状態です!早く病院に運び込まないと…!」

 

シホとハスミの処置のおかげでギリギリではあったがネイトの容態は安定しているようだ。

 

「ともかく話しかけ続けてください!眠らせてしまったら取り返しのつかないことになります!」

 

しかし、今は綱渡りもいいところだ。

 

この場合、重要なのは何が何でも意識を保たせることだ。

 

意識を失う、つまり脳が機能低下を起こすと血流の減少による脳障害や再出血に体温の低下などネイトの容態は一気に悪化へ傾く。

 

「ネイトさん、大丈夫?!ここがどこかわかる!?」

 

傍らにいるホシノが大きな声で呼びかけると…

 

「どこ…?ホ…ホテル…だろ…?」

 

明らかに思考が鈍り自分のいる場所が分かっていないようだ。

 

「なっ何言って…!?」

 

「それでいいんです、ホシノ先輩!とにかく話をしてください!」

 

驚くホシノにシホは会話を進めるように指示する。

 

「…分かったよ!そう、ホテルだよ!」

 

「…あれ、なんで俺…ホテルに…。」

 

「お仕事よ!ちょっと遠出しててそこに泊まってたの!」

 

「…仕事…?…あぁ、そうか…。アビドス砂漠に…。」

 

「大丈夫だよ!皆しっかり働いてるからネイトさんは休んでて!」

 

はっきり言って会話は支離滅裂だがホシノ、そしてセリカの声に反応するネイト。

 

「その調子です!ジョウジさん、そちらの正義実現委員会さんはどうですか!?」

 

「大したもんだぜ…!こんだけボロボロなのに脈はしっかりしてらぁ…!」

 

「その子の頑丈さは規格外ですからね…!少し寝れば意識は戻るはずです…!」

 

一方、ネイト以上に血塗れのボロボロなはずのツルギは放置していても問題ないほど健康的だ。

 

ヒトとキヴォトス人、種族としての差異がこれでもかと現れている。

 

そうこうしているうちに、

 

「皆見えてきたよ!」

 

D.U.中枢にベルチバードは到着し目的地の病院も眼下に捉えた。

 

見ると屋上のヘリポートに白衣のオートマタや看護師にストレッチャーが到着を待っている。

 

「着陸するよ!ネイトさん、抑えててね!」

 

「ネイトさん、もう病院ですからね!助かりますよ!」

 

「びょう…いん…?俺は…元気だ…ぞ…?」

 

「もっと元気になるために行くんだよ、安心して!」

 

ネイトを励ましながらマドカの操縦するベルチバードはいつものイカレ具合は鳴りを潜め速く慎重に高度を落としていき、

 

「よいしょっと…!」

 

「ん…ナイスホバリング…!」

 

揺れを最小限とするために数十㎝のホバリングでヘリポートに降下した。

 

「お待ちしていました!患者さんは!?」

 

「この人です!シロコ先輩、ネイトさんを下ろします!」

 

「ん…分かった…!」

 

待機していたスタッフがストレッチャーと共にベルチバードに近づきシホとシロコが慎重にネイトをストレッチャーに乗せる。

 

「止血代わります!」

 

「はい…!」

 

そして、今まで彼の止血を続けてくれていたハスミが看護師と交代しようやく手を放した。

 

「ありがとうございました、ハスミさん!」

 

「ここまでの情報をお願いします!」

 

「第一受傷の時間は未確認ながらも二段階目の受傷は05:05分頃!その際に盲管銃創内に残っていた弾頭が鎖骨下静脈を傷付け3分後ほどに覚醒した彼自身がアドレナリンを投与し7分間猛烈な運動を行い出血の影響で昏倒!私が到着したのが05:18、止血と密閉処置を行い保温と酸素吸入、輸液の投与を開始し700ml投与しました!再出血は確認されず空気塞栓の兆候も確認されていません!」

 

「意識レベルは!?」

 

「GCS*1は10~11!朦朧としながらも意識はあり支離滅裂ながらも会話は行えています!」

 

「分かりました!生体3Dと医療用ナノマシンの準備!オペ室急げ!」

 

シホと医師の間で情報共有が行われつつストレッチャーは素早く院内に運び込まれていった。

 

それを見届け、ベルチバードはようやく着陸。

 

「すんません、この人も治療を頼むっす!」

 

「分かりました、こちらへ!」

 

ジョウジがツルギを担ぎ上げ院内に案内されていき、

 

「よし。シロコちゃん。メリィちゃんとネイトさん近辺の警護を。ジョーちゃんとは後で合流して。」

 

「ん…任されたよ、ホシノ先輩。」

 

「オジキのことはぜってぇ護るぜ!」

 

「セリカちゃんはカレンちゃんと一緒に屋上で病院周辺の警戒を。」

 

「了解よ!怪しい奴は見逃さないわ!」

 

「マドカちゃんはチカちゃんと一緒に上空からより遠方の監視を。」

 

「分かったよ、ホシノ先輩!」

 

ホシノが残されたメンバーにそれぞれの役割を分担。

 

セタス部隊の面々が各々の配置に向かっていき、

 

「ハスミちゃん…だっけ。ここまでわざわざありがとうね。」

 

「いえ、ホシノさん…。私は…。」

 

残されたホシノに感謝の言葉を掛けられ俯くハスミ。

 

その時視界に自分の手が入り…その手はネイトの血で袖まで赤く染まっていた。

 

(あぁ…!)

 

それを見て…今になって恐怖が沸き上がってきた。

 

血なんて見慣れているはずなのに…

 

(私達は…なんてことを…!)

 

この血がネイトの物だと再認識し…これまでのことが想起され背筋が凍っていく感覚に襲われる。

 

血を撒き散らしながらツルギと激闘を繰り広げる姿を

 

そして、決闘を制し朦朧となりながらもアビドスや娘の元へ帰ろうとする彼の姿を。

 

溢れるネイトの血潮とどんどん温かさを失っていった彼の体を。

 

そして、仲間たちを救ってくれた彼を…自分たちトリニティはこんなに傷つけてしまったことを。

 

(守らなければならなかったのに…!)

 

無視すればいいのに、逃げてもそのまま戦ってもよかったのに自分たちの矜持を尊重しネイトは決闘を受け入れてくれた。

 

そんなネイトとツルギの決闘を護り抜くのが立会人の自分の務めだったというのに…。

 

今までが無我夢中で考えないようにしていた。

 

だが、状況が落ち着いたことにより…その考えが脳裏によぎる。

 

もしこのまま彼が…。

 

「…ごめんなさい…ッ!ごめんなさい…ッ!!!」

 

ハスミは膝から崩れ落ち、涙を流しながらホシノに謝り続ける。

 

「彼は私達の仲間も救ってくれたのに…!ツルギの孤独も救ってくれたのに…!傷つけることしかできなくて…ごめんなさい…!」

 

顔を伏せ、何度もホシノに謝罪の言葉をこぼすハスミ。

 

すると…

 

ギュッ

 

「え…?」

 

「大丈夫…大丈夫だよ、ハスミちゃん。」

 

そんなハスミを…ホシノは優しい笑顔を浮かべ抱きしめ背中を摩って落ち着かせようとする。

 

「大丈夫、ハスミちゃんはよくやってくれたよ。ちゃんと…ネイトさんと委員長ちゃんの約束を守ってくれたじゃないか。」

 

「でッでも…私たちが現れなければ…!逃げようとしている彼を…引き留めなければ…!」

 

「言いたいことは分かるよ。だからはっきり言うね。あの戦いの中であの奇襲を避けるのはおじさんにだってとても難しい。」

 

映像で見ていたミカの奇襲。

 

もし、自分がネイトの立場だったとして…あの状況で避け切れるか分からない。

 

しかも、伝統の決闘の最中に奇襲を仕掛ける輩を…それもティーパーティーが堂々と破るなど想定しろと言うのが無理な話だ。

 

「だから…私達はあなた達を責めるつもりはないよ。きっとネイトさんだって同じことを言うはずだからさ。」

 

ネイトのことだ。

 

決闘と奇襲を仕掛けてきたミカに関して別問題だと分かってくれている。

 

でなければ…一言の文句もなく自分を追い込んでまでツルギとの決闘を続けるわけがない。

 

「それにハスミちゃん…貴方のおかげでネイトさんはここまで命を繋ぐことが出来たの。」

 

そして、ツルギはもうその償いをしてくれた。

 

本来ならばティーパーティーの戦力の彼女がその務めを放棄してでもネイトの血を止めてくれた。

 

だからシホも更なる処置を行うことが出来、ネイトを医師に引き渡すまでつなぎとめることも出来た。

 

「ありがとう、ハスミちゃん。貴方の正義のおかげでネイトさんを救うことが出来たよ。」

 

「ホシノさん…!」

 

「だから泣かないで?大丈夫、なんたってネイトさんはとっても頑丈だからさ。」

 

同い年とは思えない対格差のホシノとハスミ。

 

「よしよ~し、頑張ったねぇ。」

 

だが、先ほど見せていた苛烈さを潜め『おじさん』を自称する柔和な雰囲気を纏わせた小さなホシノに抱きしめられ…

 

「すみません…!そして…ありがとうございます…!」

 

涙を流しながらもハスミは自分の心が軽くなったのをしっかりと感じるのであった。

 

数分後、

 

「…もう大丈夫です、ホシノさん…。」

 

「もう平気?」

 

「はい。」

 

ハスミも落ち着き立ち上がっていた。

 

「…申し訳ありません。お手伝いしたいのですがあの場所に後輩たちを残してしまっているので…。」

 

「うん、大丈夫だよ。ハスミちゃんはハスミちゃんの役目をちゃんと果たして。」

 

ハスミも役職がある身の上、あの廃工場に引き連れてきていた隊員たちをそのままにしておくわけにはいかず戻ることに。

 

「それに…もうそろそろ増援も到着するはずだからさ。」

 

ホシノがそう言葉を発すると…

 

キキイイイッ!!!

 

二台の装甲ハンヴィーが病院の駐車場に荒っぽく停車し中から完全武装のアビドス生徒にノノミやアヤネが続々と現れる。

 

《ホシノ先輩、ただいま現着しました!》

 

「よく来てくれたね、アヤネちゃん達。」

 

無線でアヤネから到着の報告が入る。

 

すると、

 

「ごめんだけどハンヴィーの一台をハスミちゃんに貸してあげて。正義実現委員会のとこに行かなきゃなんだって。」

 

ホシノがアヤネにハンヴィーの貸し出しを要請、

 

《分かりました!機関銃を下ろすので少々お待ちを!》

 

放送を見ていたアヤネも快諾しその準備に入り、

 

「あいよぉ。…ここに持って来ればいいからさ遠慮なく使って。」

 

「…ありがとうございます…!」

 

ハスミも今一度頭を下げて駐車場へ向かうのであった。

 

《ホシノ先輩、ネイトさんは…!》

 

「大丈夫だよ、ノノミちゃん。今はミレニアムの優秀なお医者さんが診てくれてるから。」

 

あとは医師たちがネイトを救ってくれるはず。

 

ならば、自分たちがすることは祈ることではない。

 

「…直ちに防衛体制を構築。機関銃陣地の構築とライフル隊を警戒に回して。」

 

《了解しました!》

 

最後の最後まで…ネイトを護ることだ。

 

臨戦の雰囲気を纏い直したホシノが冷静に指示を飛ばしこの病院を強固な防衛施設にすべく動き始める。

 

それぞれ割り振られた役割のポジションへと移動しベルチバードが離陸し数分後、

 

バラララララッ!!!

 

シャーレのHH-60がヘリポートに着陸。

 

「ホシノ、兄さんは!?」

 

「手術室に運ばれたよ、アルちゃん。カレンちゃん、セリカちゃんと一緒に屋上から警戒をお願い。」

 

「……分かりました、ホシノ先輩。」

 

「わ、私も何かできることはないかしら!?」

 

「うん、じゃあアルちゃんも周辺の警戒をお願い。」

 

「了解したわ!」

 

先生に拾ってきてもらったカレンとアルも警護に参加。

 

そして…

 

「…先生、この後はどこに行くの?」

 

「私は…。」

 

ホシノは先生と短く言葉を交わし…

 

「…じゃあ、私も乗っけてって。」

 

「分かった、一緒に行こう。」

 

「アヤネちゃん、留守の間をお願い。」

 

《お任せください、ホシノ先輩!》

 

アヤネにこの場の指揮を任せ彼女はヘリに乗り込むのであった。

 

【06:15】

その後、シャーレのヘリはサンクトゥムタワーのヘリポートに着陸。

 

そして、先生は任務の報告を後回しにし…

 

「…リン、何があったか…一切隠しごとをせずに報告してほしい。」

 

一室を生徒に用意させ主席行政官のリンと面談を行っていた。

 

ただし…普段の生徒を助ける朗らかな雰囲気と違いそこにいたのは『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』の顧問として真実を解き明かそうとする捜査官としての姿だった。

 

さらに、

 

「私どもにも…昨日の議会から今朝までの出来事を余すことなく御説明願いましょうか?」

 

ミレニアムの『全知』であるヒマリ、

 

「紛いなりにも…風紀委員会と協力体制を築いている方が巻き込まれていますので。」

 

ゲヘナ風紀委員会『行政官』のアコも同席し。

 

「………。」

 

未だに戦闘の雰囲気を纏っているホシノも無言で彼女を見据えている。

 

「で、では…。」

 

今まで見たこともない先生の雰囲気と今にも飛び掛かりそうなホシノの気迫に慄きながらもリンは言われたとおりに説明を始めた。

 

時間にしてまだ1日も立ってない出来事だ。

 

だが…その中身はあまりにも濃密で過酷だった。

 

「こ、これが我々が把握している情報…です…。」

 

時間はかかったがリンの説明を聞き終え…

 

「…清楚系病弱天才ハッカーかつ、優しくて万能で「全知」である美少女のこの私にはあまり似つかわしくない言葉だと重々承知していますが…。」

 

ヒマリは頭痛を紛らわすように眉間を抑え…

 

「…最初から今まで貴方方は一体何がしたかったのですか?私の全知の頭脳をもってしても皆目見当がつかないのですが?」

 

呆れたような眼差しでリンに問いかけた。

 

さらに、

 

「アビドスの防衛機構の資料をトリニティが何らかの手段で入手しそれでこの安保理を開催した…と。」

 

アコも眉間にしわを寄せ…

 

「なぜわざわざここまで大事に?貴方方の権限でも何でも使ってアビドスに立ち入り捜査をすれば済む話ではないですか。」

 

この安保理の意味すら分からないといった様子で言葉を投げかける。

 

「そ、それはアビドスの新たな設備がキヴォトスのパワーバランスをさらに崩す懸念があり…!」

 

リンもそんな二人の問いかけに答えようとすると…

 

「いや。だからさ…。」

 

ホシノがここで口を開き…

 

「その懸念ってのを調べるのが連邦生徒会あなたたちの仕事でその権限を持ってるんじゃないの?」

 

苛立ちを隠さない口調で指摘する。

 

「なに?ひょっとしてアビドスウチの捜査で使う経費惜しくて私たちの口から情報を話させる為にこの議会開いたの?」

 

「そ、そう言うわけではありません…!」

 

ホシノが予想する安保理開催の理由をリンは否定するが…

 

「あら?でしたらなぜ対話を行わないのですか?ミレニアムはアビドスを融通の利く学校であると判断してますが?」

 

「ゲヘナも万魔殿がアビドスやW.G.T.C.と様々な契約や取引を交わしています。話を聞くくらいは容易と思いますが?」

 

ヒマリとアコが追撃を仕掛ける。

 

アビドスが謎の多い学校であることは理解できる。

 

だが、それでも話し合いなどはいつも応じ内容も最低でも検討してくれることはミレニアムもゲヘナも知っている。

 

それをせずにいきなり呼びつけてキヴォトス中の学校の前で晒し者にするような今回の連邦生徒会の扱い。

 

「ねぇ…連邦生徒会はアビドスをどう思ってるの?」

 

ホシノはとうとうネイトがくる以前からの自分の考えを…

 

「それはキヴォトスの中の学校で…!」

 

「違うでしょ?その『学校』である最低限の扱いもアビドスには必要ないとでも思ってるんでしょ?」

 

「~ッ!」

 

鋭い眼差しのままリンに突きつけた。

 

「いいよ、そんなの二年前から気付いてるし。だから。アビドスは連邦生徒会にはもう…。」

 

追撃と言わんばかりに言葉を繋ぐホシノだが…

 

「ホシノ。」

 

先生は一言彼女を呼ぶ。

 

「………分かったよ。」

 

その一言でホシノは一旦追及を止めることに。

 

そうだ。

 

この場は自分の恨み辛みを発散させる場ではなく…

 

「…リン、大まかな道筋は分かったよ。」

 

「先生…。」

 

先生の言葉にリンの表情がわずかに明るくなるが…

 

「でも…なぜだい?」

 

「な…なぜ…とは?」

 

「なぜ…そんな重大だと思った議題に連邦捜査部顧問の私を関わらせなかったのかな?」

 

三人と比べて非常に穏やかな、だがその背後に…

 

「ヒ…ッ!」

 

リンは確かに見た。

 

強さこそまるで違うが…ネイトと同じ類のオーラを。

 

「情報の入手方法に関する可否は置いておくとして…これはトリニティが連邦生徒会に解決を依頼した問題だね?」

 

「ハ…ハイ…。」

 

リンにもホシノにも与する訳でもなく、

 

「うん、リンたちが私の力を借りずに解決しようとしたことは評価するよ。…でもね。」

 

ただただ中立を保ち、

 

「どうして私の耳には『安全保障理事会』に関する情報が一切入って来ていないのかな?」

 

解き明かすべき問題を追及する『先生』として…

 

「私も知ったのが昨日の任務出発の直前のニュースを見てからだったんだ。」

 

「そ、それは保安上の問題で…。」

 

「それこそ…私は知っておかなければならないんじゃないかな?」

 

「え…ッ!」

 

「問題が起こった際に素早く捜査と解決に動ける権限がシャーレにはあるのになぜ…私を当日D.U.から遠ざけるような任務を任せたのかな?」

 

相手が例えリンでも容赦はしない。

 

既にホシノからの証言で事前に生徒会クラスの面々は安全保障理事会の開催が自分が任務を言い渡された同日に通達があった事は把握している。

 

先生の言うことはもっともだ。

 

このような大きな議会に先生がいれば会議の進行はもちろん問題発生時の対処もスムーズにいくはず。

 

彼を遠ざけるメリットははっきり言って皆無と言っていいだろう。

 

だが、今回の場合…

 

「憶測でいうべきじゃないんだろうけど…ひょっとして私とネイトさんの関係がリン達には不都合だった?」

 

連邦生徒会にはそれがメリットだと思えるほどの変数が存在する。

 

そんな先生の鋭い問いに…

 

「………ッ!」

 

リンは沈黙するが…それがどんな言葉以上に雄弁な答えだった。

 

「…呆れてものが言えませんわ。」

 

「えぇ全く、その程度で…。」

 

ヒマリとアコの言葉が室内に響く。

 

そう、アコの言うように…その程度なのだ。

 

「…リン、改めて説明するよ。私とネイトさんは確かに親しい。私もネイトさんを師匠って呼んだりするしね。」

 

先生は終始穏やかに声をかけるが…

 

「でも…私達は『大人』なんだ。」

 

その中には強靭な意思がはっきりと存在していることが分かる。

 

「大人だから仕事は仕事、プライベートはプライベートでちゃんとその付き合いには分別があるし礼節もある。」

 

ネイトと先生の関係は師弟関係を別にして非常にクリーンなものだ。

 

仕事上で関わる際はそれぞれの役職で接しそこになれ合いはないしプライベートで関わるときはお互いに財布を出し合い貸し借りはない対等な関係を続けている。

 

「だから、もしネイトさんが自分の権力を悪用して生徒を理不尽に傷付けているというのなら私は彼を徹底的に捜査する。」

 

だから…たとえネイトが参考人であの場に連れ出されたとしても先生は先生だ。

 

ネイトに与することなどありえない。

 

と言っても完全にリンたちの味方になる訳でもない。

 

「もし、安保理に参加してほしいと言えば喜んで参加するしリンたちのサポートだってやってあげるしね。」

 

中立に立ち互いの証言を聞き整合性を確かめ結論を出す、彼がいつもやっていることだ。

 

「ねぇ…リン。」

 

そんな盾でもあり剣でもある先生を遠ざけたばかりに…

 

「私はそんなに君達に信頼されてないのかな?」

 

「………ッ!!!」

 

どこか寂し気な先生の声にリンの胸は締め付けられる。

 

ホシノが怒りの、ヒマリやアコが軽蔑の視線を向けてくることよりも…そんな彼の声が一番堪えた。

 

「会議の映像を確認したけど…あの場に私がいれば最低でも会議の中断は避けれたはずだよ?」

 

先生はその愁いを帯びた声のままリンに語り掛ける。

 

確かにネイトと言う特大の変数を相手に会議は踊り狂った。

 

結果…何も残らず時間だけが浪費され…

 

「ホテルの爆撃の件もシャーレの権限を使えばもっとスピーディに動けたはずさ。」

 

あの騒動に自分達だけで臨まなくてはならなくなった。

 

「各校との調整や捜査の方針の決定…要請を受ければどんなことだって引き受けるよ。」

 

「それに先生からの直接の連絡だったらネイトさんもある程度安心できるだろうしね。」

 

ここでもネイトと先生の関係も役に立っていたはずだ。

 

ホシノの言うように関係が悪い連邦生徒会よりもあのアビドス独立戦争で共に戦った先生の言葉ならネイトも受け入れていたかもしれない。

 

「そして…どうしてネイトさんの身柄確保を最優先し続けたの、リン?」

 

先生の最たる疑問はこれだ。

 

「それはこの事件の被害者である彼を保護できれば混乱も収まると…!」

 

リンはこの時までずっとそう信じ続けてきたことを言い放つ。

 

だが…

 

「…そう。でも…それは本当にそうかな?」

 

「え…?」

 

先生はそれに疑問を呈し、

 

「…ヒマリ、アレを。」

 

「はい。」

 

ヒマリにあるデータを提出させた。

 

「こちらはネイトさんへの襲撃前後に行われた通信関連の情報を統合したものです。」

 

「それがどういう…。」

 

出されたデータの羅列にリンは首をかしげるが…

 

「ではこちらを。襲撃者がネイトさんの元に到達した時間を逆算し情報を入手したであろう時間を重ねあわせると…。」

 

さらにその上にヒマリが分析した情報を掛け合わせると…

 

「どうです?全知の頭脳を持って何度もシミュレートいたしましたが…ネイトさんの居場所を貴方方が発信する寸前、ヴァルキューレへの襲撃に関してみれば現場に情報発信するよりも早く行動を起こさなければ不可能なんです。」

 

「…え?」

 

通常ではありえない伝達速度でなければネイトへの襲撃は不可能であるという事実が浮かび上がる。

 

だが…

 

「どうやら…貴方方は獅子身中の虫を知らず知らずのうちに飼っていたようですね、リンさん。」

 

「そ、そんな…!」

 

通常ではない、リアルタイムで情報を外部に伝える者がいたら?

 

「内通者…!?」

 

「そう、つまり今までネイトさんを保護しようとしていた人員の中に…彼を害そうとしている者がいる、と言うことだよ。」

 

「それはおそらく…爆撃の実行犯にも通じていると想定されます。」

 

その事実にリンは言葉を失う。

 

自分たちの行動の全てが…ネイトを傷付けていたも同然なのだから。

 

結果論でそうなったのと動機論でこの事実にいたるのとでは…全く違う。

 

「だから…おぼろげながらにそれを察したネイトさんは自らの『死』を演じたんだよ、リン。そうすればもう誰もネイトさんを狙わない、つまり…。」

 

「昨晩から今朝までの騒動も…ネイトさんが死に瀕する事態も起き得なかったのです。」

 

何もかも裏目も裏目、自分たちの行動は全て無価値…いや、負債も同然であると先生とアコはリンに告げる。

 

「で、では、私達はどうしていたら…!?」

 

強張った表情で問いかけるリンだが…

 

「簡単だよ、リン。はっきり言うと…君達は『なにもしなければ』よかったんだ。」

 

「な…なに…も…?!」

 

その答えは至極単純だ。

 

「えぇ、情報公開をしなければネイトさんはモーテルで身をひそめることが出来ました。公衆電話で関係のある主要校幹部にコンタクトをとっていたので救出部隊の到着を待てばよかったんです。」

 

「たった5%の適合程度で部隊を向かわせなければよかったんです。そうすればヴァルキューレの職員も傷つくことなく彼もD.U.から脱出で来ていたでしょうし…撃たれることもなかった。」

 

にべもなくヒマリとアコも容易に想像できる結果を告げる。

 

そして…

 

「ねぇ、主席行政官。貴方たちが安保理から今までやってきたことを表すぴったりな言葉があるよ。」

 

目を見開き驚愕しているリンに…

 

「そう言うの…『墓荒らし』って言うんだよ。」

 

「は、墓荒らし…!?」

 

「静かに眠ってる人の所にズカズカ入り込んでって好き勝手そこを暴いて何もかも持っていこうとする。どう、正にあなた達のことでしょう?」

 

ホシノは彼女たちを死者すらも冒涜する無法者と言い放ち…

 

「…ようやく直接会えたからこれだけは言っておくよ、連邦生徒会。もし…これ以上アビドスにコソコソちょっかいかけるんなら…アビドスの『巨鯨』が『箱舟』を転覆させるから。」

 

アビドス生徒会長、そして『アビドス最強』の双璧としてのオーラを迸らせリンに警告を発するのだった。

 

「~ッ!!!」

 

そのプレッシャーを叩きこまれたリンは首を絞められるような錯覚に陥り、

 

(こ、これがヒナ委員長が『エリート』と称した彼女の真の意味ですか…!)

 

(まるで抜身のナイフ…いえ、今にも襲い掛かりそうな猛禽のようですね…!)

 

傍らにいたヒマリとアコですらその圧に当てられ気圧される。

 

「ホシノ、そういうときは私に一声かけてくれたら問題解消に動くからね。」

 

「…分かってるよ、先生。」

 

そんなホシノに先生は優しく諭し彼女もそれを受け入れた。

 

あの戦争を潜り抜けた間柄だ。

 

連邦生徒会系列のどの組織の人よりも信用はできる。

 

「…私はそろそろ戻るよ。この人に今色々聞いても事態は進展しないだろうしね。」

 

「うん、分かったよ。私も落ち着いたら向かうね。」

 

この状況だ、有益な情報は入手できないだろう。

 

ホシノは席を立ち出口に向かうが、

 

「…あ、そうだ。」

 

ドアノブに手を掛けながら…

 

「…アンタ達とあの鳥頭たちのケジメはしっかり付けてもらうから覚悟しといてね。」

 

これでまだ終わりでないと宣言し部屋を後にした。

 

「け…ケジメ…!?」

 

「当然でしょう?貴方方の落ち度でネイトさんはあそこまで大けがを負ったのですから。」

 

「アビドスの復興事業、W.G.T.C.の対外業務に各校との各種事業提携…いったいどれほどの損害があるか…。」

 

「………!」

 

「そう言えば、ミレニアムもW.G.T.C.と売り上げ5億の取引を交わしてますのであしからず。私もお暇させていただきます。」

 

「後日、万魔殿からもお話が行くと思いますのでお待ちください。これで失礼いたします。」

 

ヒマリとアコもそう言い残し、部屋を退出していった。

 

ここの事情聴取で話が終わるわけがない。

 

明らかに連邦生徒会の対応の瑕疵によってネイトは手術室に担ぎ込まれている。

 

どれほどの損害が各校にあるか分かったものではない。

 

当然、その賠償も発生するだろう。

 

それほどまでに今やW.G.T.C.は勢力を伸ばしてきているのだ。

 

「…さて、リン。せめて賠償の試算は出しておこうか。」

 

「…ハイ、財務室のスタッフを呼んできます…。」

 

流石の先生も当然の権利故手助けは期待できないのでリンは力なく賠償の試算を行うのであった。

 

【07:25】

ホシノ達はその後ネイトが搬送された病院にとんぼ返り。

 

「…私たちがここにいてよいのでしょうか。」

 

「任されたのですから仕方ありませんよ。」

 

『手術中』の電灯が点灯している手術室の前にいるのはヒマリとアコに…

 

「…貴方もお座りになられたらいかがですか?」

 

「いえ、落ち着かないので…。」

 

リュックを背負いっぱなしで立ったままでいるシホだけだ。

 

他のアビドスの面々は周辺警備に駆り出されている。

 

「…大丈夫なのでしょうか、ネイトさんは…。」

 

「なんとか搬送中は意識は保てていましたが…。」

 

「あとは本人の体力次第…ですか。」

 

この場の三人は改めて実感する。

 

ネイトは…自分達とは違うのだ。

 

それは強いという意味ではない。

 

むしろ、自分達よりも脆く…弾丸一発で命を落としかねない脆い存在なのだ。

 

「そんな状態でトリニティの戦略兵器と決闘だなんて…。」

 

「全く…無茶苦茶もいいとこですね…。」

 

早く逃げればよかったのにそんな強敵に挑まれ受け入れ…勝利した。

 

「でも…それがネイトさん…なんでしょうね…。」

 

シホのその言葉に、

 

「本当に…しようの無い方ですね。」

 

「少しは気楽にいけばいいのに…。」

 

ヒマリとアコも困ったような表情を浮かべる。

 

ネイトは…妙な男だ。

 

頼られれば力になる。

 

話し合えば答えてくれる。

 

ちゃんと向かい合えば向き合ってくれる。

 

そして…先生と決定的に違うのは『挑まれれば必ず答える』と言ったところだろう。

 

だから、ヒナもワカモもネルにも挑まれ…全力でそれに答え勝利を収めてきた。

 

今回も…なのだろう。

 

相手は剣先ツルギ、生半可な…いや半端ではない相手だ。

 

そんな相手に殴り合いを?

 

自分達ではヘイローがいくつあっても足りない。

 

それを肩に銃弾を受け奇襲を受け重傷を負い神秘の新たな象形を発揮したネイト。

 

「ヒマリさん。ネイトさんが見せたという神秘の技術に心当たりは?」

 

「いえ、聞いたこともありませんね。そもそもネイトさんに神秘は…。」

 

互いに知恵者同士なので記録で観測されたネイトから迸ったネルの神秘について意見を交わしていると…

 

パッ

 

『ッ!』

 

手術室の電灯が消え、

 

ウィーン

 

カラカラ…!

 

看護師たちが押すストレッチャーに乗せら、酸素マスクを付けたネイトが現れた。

 

「ッ!ネイトさん!」

 

「大丈夫です。麻酔で眠っているだけですから。」

 

思わず駆け寄るシホを看護師が優しくとどめ…

 

「あっあの手術は!?」

 

「えぇ、貴方のおかげで彼の命は繋ぎ留められましたよ。もう大丈夫です。」

 

彼女の手によってネイトが助かったと聞かされ…

 

「ッ!よ…よかったぁ…!よかった、本当に…ほんとぉに…よかったぁ…!」

 

これまで堪えていた感情が溢れ膝をつき顔を覆い涙を流す。

 

戦えない自分ができる唯一コレしかできない。

 

もしネイトを救えなかったらと思うと…。

 

そんなシホの技術が報われた瞬間だった。

 

「…シホさん、よく頑張りましたね。」

 

「貴方は全知にも負けない素晴らしい技術をお持ちなんですね。」

 

そんな彼女の肩に手を置きアコとヒマリは賞賛する。

 

「今からICUに移送します。アビドス高校の代表者数名の方をカンファレンスルームにお呼びしていただけますか?」

 

「ぐすっ…ハイッ分かりました!」

 

看護師に促されシホはホシノ達を呼びに行くのであった。

 

10分ほど後、

 

「お待たせしました。」

 

「先生、ネイトさんを…ありがとうございました…!」

 

アビドス生徒会のメンバーとシホ、の面々とアコとヒマリが今回ネイトの手術を担当した医師とカンファレンスルームで対面していた。

 

「ん…もう大丈夫なの、先生?」

 

「はい、鎖骨下静脈こそかなり損傷していましたが動脈や神経叢、肺へのダメージもされていません。」

 

「それって…。」

 

「はっきり言って奇跡のようなものです。このままうまくいけば目立った後遺症も残らないでしょう。」

 

「ほぉ…よかったわ…。」

 

主治医からの説明を受けようやくホシノ達も胸をなでおろすことが出来た。

 

「先生、それで摘出された弾丸は…。」

 

「えぇ、こちらに。」

 

主治医が取り出したのは少し血がにじんでいる液体に沈んだ一発の弾頭。

 

「.338ラプアマグナムの徹甲弾、これを受けてあれだけで済んだのはまさに奇跡です。」

 

「こんなのをアイツらはネイトさんに…!」

 

「先生、後程私に預けてはもらえませんか?学校の方で線条痕の調査などを行いたいので。」

 

「分かりました、ヒマリ女史。後ほどお渡しします。よろしいですか、ホシノさん?」

 

「うん、こういうことはミレニアムの得意分野だからお任せするね。」

 

ネイトが文字通り身体を張って手に入れた手がかりだ。

 

得られる証拠はなんとしてでも根こそぎ手に入れなくてはならない。

 

すると…

 

「…ところでいくつかお尋ねしたいことが。」

 

主治医が神妙な面持ちを浮かべる。

 

「何か気になる事でも?」

 

「…彼の体組織について何か心当たりは?」

 

『体組織?』

 

「はい、それが…。」

 

と資料を取り出そうとした時…

 

「せッ先生!ネイトさんが!!!」

 

『ッ!!?』

 

獣人の看護師がカンファレンスルームに飛び込んできた。

 

主治医とホシノ達は飛び出しネイトがいるICUに向い、

 

ガラッ!!!

 

「ネイトさッ…え…!?」

 

「…ッ!?」

 

そこで見た光景にホシノ達は言葉を失った。

 

そこにいたのは…

 

モワアアア…

 

「ど、どういうこと…ですか…!?」

 

まるで加湿器の様に身体から湯気を立ち昇らせるネイトが横たわっていた。

 

「ネ、ネイトさ…!」

 

思わずホシノが近づき手を触れると…

 

「熱…ッ!?」

 

平熱ではない異様な体温にまるで水をこぼしたような汗に驚きに手を放してしまった。

 

しかも病室内に入ってみて分かったが…まるで温室の様に蒸し暑い。

 

「彼の今の体温は…!?」

 

「た、体温は40℃をキープしています…!」

 

「40℃…!?」

 

明らかに異常な体温だ。

 

「感染症の兆候は…!?」

 

「先ほど抗原検査を行いましたが全て正常値…!感染症の心配は今はありません…!」

 

「つまり…侵襲反応だというのか…!?」

 

「ん…!先生、ネイトさんは…!」

 

「落ち着いてください、シロコさん…。侵襲反応は身体が治ろうとしているサインです…。」

 

顔を青くし先生に迫ろうとするシロコをヒマリが優しく諭し落ち着かせる。

 

『侵襲反応』、体が回復しようとする反応を差し現実でもこの作用により高熱になる場合はあるが…

 

「だからと言ってこんなに激しいものなのですか…!?」

 

だが…ネイトのこれははっきり言って異常だ。

 

「キヴォトス人でもこれほど激しい反応は…!

 

「私の記憶する論文でも見たことありません…!」

 

猛烈な運動後のような汗をかいてなお…そのような高温でいるのは主治医もヒマリも観たことが無い。

 

「…先生、こういうことなの…?!」

 

「…えぇ、彼の体内はキヴォトス人から見ても…異様でした…!」

 

主治医が語るのはネイトの連邦で得てきたS.P.E.C.I.A.L.なPerk特異体質の数々だった。

 

「骨格は未知の金属の微細なハニカム構造で強化されおそらく骨折すら起こらないほどの強度です…!」

 

『Adamantium Skeleton』、

 

「レントゲン検査を行った瞬間に細胞が活性化し傷が少し癒え…!」

 

『Ghoulish』、

 

「レントゲン写真では消化管の形がくっきりと映っていました…!」

 

『Lead Belly』

 

「術中も切開部を強く維持していなければ徐々に傷が塞がり始めていました…!」

 

『Life Giver』、軽く調べただけでこれだけ主治医の度肝を抜くことばかりあったのだ。

 

「な、なんですか…!?全知の私でも聞いたことありませんよ…!?」

 

「あ、あの人は本当に人間なのですか…!?いえ、最早生物とも…!?」

 

聞いたこともない体質と体内構造に言葉を失うヒマリとアコだが…

 

『あぁ~…。』

 

その正体を知るホシノ達は納得するしかない。

 

むしろ…それらはまだ大人しい部類と言うことも察する。

 

「…とりあえず私達が説明できる範囲で説明するので戻りませんかぁ?」

 

「ネイトさん、まだ休ませてあげましょ。」

 

「…分かりました。君、大至急リネン類の取り換えと点滴による水分補給の手配を。」

 

「分かりました。」

 

まだネイトは休息が必要だ。

 

一旦またカンファレンスルームに戻ることに。

 

【08:20】

 

「とまぁこういうことらしいです。」

 

「俄かには信じられませんが…目に見たものが事実ですし…。」

 

「…肉体の脆さ以外はキヴォトス人を超えてますね…。」

 

「あの腕の機械、そんな効果まで…。」

 

ホシノ達からネイトの持つPerkのあらましの説明を受け半信半疑ながらも受け入れるしかなかった。

 

キヴォトス人も大概だが…ネイトのそれは最早『サイボーグ』一歩手前と言っていいだろう。

 

どこのコミックの話かと言いたくなるが…残念ながら現実だ。

 

「…あの、ミレニアムで一度精密検査と言うのは…。」

 

「ネイトさんが起きてから直接言った方がいいと思うよ、ヒマリちゃん。」

 

「まぁ…『俺はモルモットじゃないぞ』、とか言いそうだけどね…。」

 

と。そんな話をしていると…

 

コンコンコンッ

 

「失礼します。」

 

「あ、先生。」

 

「やぁ皆、一段落したからやってきたよ。」

 

シャーレの先生も合流。

 

「ネイトさん、一命を取り留めたようでよかったね。」

 

「ん…間に合って本当によかった。」

 

「シホ、やったね。君が頑張ったおかげだよ。」

 

「どうだい?私が推薦状を出して医学部へ行ってみるというのは…。」

 

医師の目から見てもシホの応急処置は見事なものだった。

 

燃え尽きそうだったネイトの命の火を護り、ここまで繋げるのは生半可な技術…ましてや高校1年生にできる芸当ではない。

 

「そっそんな勿体ないですよ…。私は銃を持てない変わり者のキヴォトス人なだけですし…。」

 

「ダメですよぉ、お二人ともぉ。シホちゃんはアビドスのメディックなんですからぁ♠」

 

「おっと、これは失敬しちゃったね。」

 

「ドクター、ネイトさんは今?」

 

「そろそろ麻酔も解けているでしょうしもう一度行ってみましょうか。」

 

全身麻酔は1時間ほどで覚醒する。

 

あのネイトの代謝ならもっと早く解けていてもおかしくない。

 

「あぁ…ネイトさんの特異体質かぁ…。」

 

「先生もご存じたったので?」

 

「アビドスにいた時にね。他にもすごいのがあったよ。」

 

「あの…ネイトさんは本当に先生と同じ人間なんですよね…?」

 

『………。』

 

「なぜ沈黙するんですか、皆さん!?」

 

こんな会話を交わしつつ再びネイトの元に。

 

コンコンコンッ

 

「ネイトさん、失礼しますね。」

 

先生がノックし、

 

ガラッ

 

ドアを開けると…

 

「…え?」

 

「どッどういう…!?」

 

「そんな!?」

 

全員の顔が驚愕で染まった。

 

そこにあったのは…

 

ヒュオオオ…

 

窓が開けられ空となったベッドだけだった。

*1
『グラスゴー・コーマ・スケール』、国際的な意識レベルの採点方法




使命感に徹せよ。自分の役目についていては、あきるなどということがあってはならない。
―――哲学者『孔子』


追記
デカグラマトン最終編の最終決戦のプロット…というか…デカグラマトン全篇の大まかな流れが出来てしまいました…
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