Fallout archive   作:Rockjaw

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目的には理想が伴わねばならない。その理想を実現するのが、人の務めである。
―――実業家『渋沢栄一』



The Wanderer's Long-Sought Dream

【08:25】

 

「ネッネイトさん!?どこ!?どこ行ったの!?」

 

もぬけの殻となったベッドを見て血相を欠くホシノ。

 

「めっメリィちゃんにジョーちゃん!ネイトさん、どこ行ったの!?」

 

「いっいや点滴とか替えに来てた看護師さん以外見てねぇっすよ!!?」

 

「二人一緒に離れたタイミングはねぇよ、姉御!!!」

 

今この病院はアビドス生徒達によって厳戒態勢を敷いているといっても過言ではない。

 

院内はセタス部隊の火力特化の精鋭コンビが固めている。

 

ヒナやネルほどの強さはないがそれでも侵入者に気付けないほどへぼなわけがない。

 

「屋上警戒部隊、侵入者の痕跡は!?」

 

《……こちらカレン、不審な侵入者は確認されてないよ…!》

 

《アルよ!こっちも誰も入って来てないわ!》

 

《巡回部隊、こちらも院内に不審人物なし!!!》

 

他の部隊も襲撃者の存在は確認できず。

 

つまり…

 

「まさか本当に…!」

 

先生が急いで窓に近づき地面を見て見ると…地面に足跡がくっきりと残っていた。

 

それでいて…ネイトの姿はどこにもない。

 

「皆、ネイトさんここから飛び降りたみたいだ!!!」

 

「バカな、ここ三階ですよ!!?」

 

物理的にあり得ないが…

 

「ホテルでやったことをここでもやったと言うことですか!!?」

 

「ん…ネイトさんならやってもおかしくない…!」

 

あのD.U.屈指の高層ホテルからダイブして逃げ出した経歴のあるネイトだ。

 

やってやれないことはないだろう。

 

この事態を受け即座に先生が動く。

 

「アヤネ、ドローンを展開して周辺の捜索!!!」

 

「はっはいすぐに用意します!」

 

「ヒマリは病院周辺の監視システムを調べて!!!」

 

「承知いたしました…!」

 

「アコは私と一緒に情報管制を!!!」

 

「分かりました、支援任務に就きます!」

 

「ドクター、カンファレンスルームをお借りしても!?」

 

「どうぞお使いください!うちのスタッフにも聞き込みします!」

 

「他の皆は付近に出て捜索!なんとしてもネイトさんを見つけ出すんだ!!!」

 

『了解、先生!!!』

 

各人各々の長所で情報収集を開始、ネイト捜索に入るのであった。

 

「先生、ヴァルキューレや連邦生徒会には…!?」

 

「…今は情報を伏せてください。彼が今一人だということを知られたら…!」

 

「分かりました、スタッフには情報の秘匿を厳命します…!」

 

これがもし外部に…ネイトを狙う者に知られれば取り返しがつかない事態になる。

 

少なくとも内通者の危険性が無いこの病院にいるメンバーで解決するしかない。

 

「師匠…!いったいどこへ…!?」

 

「あの人は…!どれだけ周りに心配を掛ければ…!」

 

「全知の目から逃れられると思わないでくださいね…!」

 

「ネイトさん、どこ…!!!まだ動いちゃだめだよ…!」

 

お騒がせな師匠を探すべく…弟子たちの奮闘が始まった。

 

【08:13】

 

「………んあ~…。」

 

その覚醒は非常に緩慢だった。

 

麻酔の効果が切れ重い瞼を開けてネイトが目を覚ます。

 

(………どこだ、ここ…。)

 

目を開けると全く知らない天井。

 

深酒してもこうはならないほど思考も纏まらない。

 

「………あつい…のど…かわいた…。」

 

それでも暑さを感じ身体が水を欲する。

 

しかし…

 

「………ない…。」

 

手を動かしてもそれらしきものはない。

 

しかも、体にはチューブや電極が付けられている。

 

「………あぁ~…!」

 

だんだん苛立ち始めるネイト。

 

なんとか外そうともがいていると…

 

コツン

 

「んあ~…?」

 

手に何かが当たりそちらを見ると…Pip-Boyが置いてあった。

 

本来、電子機器は持ち込めないがあまりにも技術格差があったので置いてくれたのだろう。

 

「………あぁ~。」

 

冷凍保存から目覚めて60年、もはや当たり前と言わんばかりにネイトはソレを手に取り左手首に装着。

 

馴染みある重さが戻り少し落ち着いた…

 

「………いかなきゃ…。」

 

訳がない。

 

ネイトが起き上がるために電極をもぎ取る…

 

「………。」

 

前に気付く。

 

このままいけば追いかけられると。

 

今のネイトの記憶は昨日から倒れるまでのカクテル状態だ。

 

自分の痕跡を残してはならない、誰かに追われている。

 

その漠然とした警戒心は残っていた。

 

「………えぇっと…。」

 

カチャン

 

Pip-Boyのソケットを近くにあった機器…心電図に接続。

 

少しPip-Boyを操作し…

 

ブチブチブチ!

 

電極をむしり取ると…それでもなお心電図が変わりなく動いている。

 

なんと麻酔でもうろうとしている状況であって…心電図をハッキングしてしまったのだ。

 

「ん~…!」

 

ついでに自分に刺さった点滴の管も抜き取る。

 

出血するが…Life giverによってすぐに収まった。

 

そして…

 

カシャッ!

 

足にそれを装着。

 

昨日、ホテルニューオトワから脱出する際に用いた『軽業師』のレザーアーマーだ。

 

ふらつく足で窓辺に近づき窓を開け…

 

「んしょっと…。」

 

転がり落ちるように身を投げ出した。

 

高さは優に10m、無事で済むはずがないが…

 

スタッ

 

「うぅ~…。」

 

流石は軽業師、ボロボロの状態のネイトでも無傷で地面に辿り着かせた。

 

すると、

 

ビキッ

 

「痛ッ…。」

 

右肩に鈍い痛みが走る。

 

当然だ、少し前まで弾丸がそこにあり先ほど手術を終えたばかりなのだから。

 

それでも…

 

カシャ

 

「………行かなきゃ…。」

 

少し靄が晴れてきた思考の中で昨日変装用に来ていた衣服を患者衣の上にまとい歩き出した。

 

そして…やはり人生で培われた技術と言うのは裏切らないのであろう。

 

セタス部隊一個分隊、アビドス部隊三個分隊の監視が敷かれたこの病院を…誰にも見つかることなくステルスで突破。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

 

だが、さすがのネイトでも…体中から滝のような汗を流している。。

 

なんせ術後の侵襲反応によって体温は40℃の高温になっている。

 

本来ならば…歩けるはずがないのだ。

 

しかも、

 

ビキビキキィッ

 

肩の傷口の鈍い痛みは徐々に増している。

 

あまり長く歩くことはできないが…

 

「行かなきゃ…。」

 

ただ何かにとりつかれた様に歩く彼の姿に通行人も不審な目を向け道を譲る。

 

その時、

 

「はぁ…はぁ…はぁ……あ…。」

 

ぼやける視界の中に…記憶の中にあったものを見つけた。

 

まるで誘蛾灯の様に引き寄せられて行き…

 

ゴンゴン!

 

それの屋根を叩く。

 

「なぁなんだなんだぁ!?」

 

中にいるものが驚き飛び出してきて…

 

「何やって…え!?」

 

ネイトの姿を見て固まった。

 

「だっ…ダンナ…か…!?」

 

「よぉ…。」

 

なんとそれはネイトが昨日利用していたタクシーだった。

 

偶然この辺りで客を待っていたところを…ネイトが見つけたのだ。

 

「なっ何やってんだよッ!?心配してたんですぜ?!」

 

今朝、約束していた時間に送っていったモーテルに来るとヴァルキューレに閉鎖され泊まっていたのがネイトだと知らされていたドライバー。

 

褒賞金を逃したことよりもともに語らった客の身を案じていたところ…まさかのご本人登場、驚かない方が無理だ。

 

「今日も…頼…む…。」

 

「たっ頼むって…!?アンタ大怪我ってニュースで…!」

 

「いいから…頼む…!」

 

そう言い、タクシーの後部座席のドアを開けネイトは倒れ込むように乗り込んでしまった。

 

「あぁもう、ちょっと待ってろ!」

 

こうなっては仕方がないとドライバーも後部ドアを閉め運転席に乗り込み走り出した。

 

ほんの数分後…

 

「ンクッンクッンクッ…プハッ…!」

 

「落ち着いたかい?」

 

「…あぁ、クアンタムなんか…目じゃない位の…極上の味だった…。」

 

タクシーはコンビニに到着。

 

ネイトはドライバーが買ってきてくれた『経口補水液』をボトル一本一気飲みし乾いていたのどを潤した。

 

「ほら、これ。アンタ、うちのチビ共が風邪ひいたときより熱いぜ?」

 

ドライバーがまだ中に経口補水液が数本入ったレジ袋を差し出す。

 

「で、なんであんなとこほっつき歩いてたんだ?」

 

「自分でも…なんでこうなってるか…分からん…。」

 

水分補給のおかげかさらに意識がはっきりしたが…未だに状況を飲み込めていないネイト。

 

「無茶すんなって、ダンナ。病院でいいか?」

 

こうなったのも多生の縁、ともかく彼を病院に送り届けることにしたドライバーだが…

 

「…いや、病院じゃない…。」

 

ネイトが言い出した目的地に…

 

「あ、あんた何考えて…!?」

 

流石のドライバーも絶句する。

 

あまりにも荒唐無稽な目的地だったが…

 

カシャン

 

「頼む…!釣りはいらん…!」

 

「っておいおい…!?」

 

無造作に取り出したるは一掴みの万札。

 

これだけで1日の売り上げは超えるだろう。

 

「…あぁもうっ!分かったよ!ただし、正規料金しか受け取らねぇからな!!!」

 

こうなったら自棄だ。

 

「着いたら起こすから寝てな!」

 

「すまない…。」

 

ネイトを乗せたままタクシーは動き出す。

 

相変わらず汗を滝のように流しながらネイトは後部座席に横たわる。

 

「…いいってことよ。坊主たちに奢ってくれた礼さ…!」

 

そう呟き、ドライバーはネイトの目的地まで走り出した。

 

【08:35】

「…ダンナ、付きやしたぜ。」

 

「あぁ~…ありがとう…。」

 

目的地まではそれほど時間はかからなかった。

 

なんせ…ネイトがやってきたのは…

 

「悪いが…これ以上『サンクトゥムタワー』には近付けねぇ…。」

 

D.U.…いやキヴォトスの中心である施設『サンクトゥムタワー』だった。

 

その数ブロック程手前でタクシーは停車している。

 

「ンクッンクッンクッ…プハッ…!」

 

身を起こし経口補水液を一本一気に開け、

 

「…置いてく、足りなかったら…請求書をウチに…。」

 

自分の汗で濡れた後部座席に先ほど取り出した万札たちを置いて出ようとすると…

 

「…あぁ、分かった。…帰り、いるかい?」

 

ドライバーの呆れ半分心配半分の言葉を投げかけられ、

 

「………頼む。」

 

そう言い残し、外に出た。

 

ビルの間を流れる風が燃え盛るような体を撫でる…まるで冷める様子が無い。

 

「…やり遂げ…なきゃ…。」

 

その温度すらも自らを動かす原動力にしてネイトはサンクトゥムタワーに向かって歩き始めた。

 

少しマシになったとはいえその姿は…まるで墓から這い出してきたばかりの死人のようだった。

 

ビキビキキィッ

 

「…あぁ…分かってるよ…。」

 

痛みが増す傷口に言い聞かせるように歩みを進め…

 

「…あぁ~くそ…!」

 

抗いようのない『渇き』がなおも襲い掛かり、

 

「ンクッンクッンクッ…プハッ…!」

 

経口補水液を一気に飲み干す。

 

もうかれこれ1.5Lは飲んだが…未だに味は絶品のままだ。

 

「くそ…あとちょっと…。」

 

その飲み干したペットボトルを放り捨てると…

 

「そこっ何をしている!」

 

誰か自分に声をかけてきた。

 

「ん~…。」

 

前を向くと…

 

「ポイ捨てなど我々の目の前………え?」

 

「………あぁ~…カンナ…だった…か…?」

 

信じられないものを見るような表情を浮かべるヴァルキューレの公安局長、尾刃カンナがいた。

 

周りにいたヴァルキューレ生達も目を丸くしている。

 

「ネ、ネイト…社長…。」

 

「…んじゃ…。」

 

驚く彼女の脇を通り抜けネイトはサンクトゥムタワーの敷地内に入った。

 

「まっ待ってください!?大丈夫なんですか!?それにどちらへ!!?」

 

慌ててカンナも彼の後を追いかける。

 

ネイトは重症の身、取り押さえるわけにもいかず後を付けるしかない。

 

「…少し…頭の中が…すっきりしてきてる…。」

 

「止まってください!すぐに連邦生徒会の職員に…!」

 

「要らん…。」

 

「何を言ってるんですか!?そんなボロボロで…何をしにここに!?」

 

なおも止まらないネイトにカンナが声を荒げてここに来た理由を聞くと…

 

「…仕事だ…。」

 

「え…!?」

 

「今日も…安保理が…あるんだろ…。」

 

その答えにカンナたちは固まる。

 

あれだけ連邦生徒会や自分たちの対応の不備でここまで深く傷付いた彼が…安保理にやってきた?

 

「そ、そんな…安保理はもう…!」

 

「知るか…。俺が…お前ら子供に…任されたんだ…。」

 

「え…?」

 

「大人なら…やり遂げなきゃ…いけない…!」

 

そう言い、とうとうネイトはサンクトゥムタワー内に進入。

 

周囲の連邦生徒会の生徒達は驚愕しネイトに視線が釘付けになる。

 

「………こっちか…。」

 

彼女たちを無視し、ネイトはタワー内を進んでおぼろげな記憶を頼りに議場へと向かっていった。

 

決して早いわけでもない。

 

いや、その歩みはずっと亀も同然の遅いものだ。

 

だが…誰もネイトを止められなかった。

 

『亀』のような歩みだからこそ…その一歩一歩が自分達が見てきたどんな大人よりも重く、決して止められないと確信してしまったのだ。

 

そして…

 

「…着いた。」

 

とうとうネイトは一際大きな議場の扉の前に辿り着いた。

 

ドタドタドタ…ッ!!!

 

「待ってください、ネイトさん!!!」

 

遠くの方から通報を受けたかリンたちが大勢押し寄せてきているのが見えた。

 

ガチャ

 

が、一歩早くネイトは議場内に入る。

 

ドアが閉じリンが追いかけてドアを開けるが…

 

「なっ…!?」

 

「こ、コンクリートの壁…!?」

 

目の前にはあるはずのないコンクリート塀が立ち塞がっていた。

 

入った瞬間、ネイトが邪魔者が入らない様にクラフトしたのだ。

 

「ネイトさんッ!!?開けてください!!!一体何が目的ですか!!?」

 

「リン主席行政官!」

 

「直ちに他の出入り口の確認を!!!それからジャックハンマーの用意をお願いします!!!」

 

まさかの立て籠もり事案に発展するも事態終息のためリン達は行動を起こす。

 

一方、中にいるネイトは…

 

「………全員、遅刻か…?」

 

がらんとした議場を見てそう呟く。

 

昨日はそこら中を埋めていた生徒が誰一人として見当たらない。

 

「………まぁいい…か。」

 

全員寝坊でもしているのだろう、そう結論付けたネイト。

 

だが、先ほどの喧騒を忘れているわけではなく…

 

ガシャン!ガシャン!ガシャン!

 

「………これくらいでいいか…。」

 

議場の全出入り口の前にコンクリートの基礎を設置し進入を拒む。

 

「………あぁ~…疲れた…。」

 

ドカッ

 

ネイトは昨日与えられた参考人の席に腰を下ろし…

 

「………チッ…鬱陶しい…身体だ…!」

 

ゴキュッゴキュッゴキュッ…

 

袋から再び経口補水液を取り出し再び一気に飲み干した。

 

これだけ飲んでも経口補水液の『極上の味』が一向に変わらない。

 

どれほどネイトの体からハイペースでミネラルと水分が出ていっているか考えるのも恐ろしい。

 

そして、

 

「………あぁ…?あのすまし顔も来てないのか…。」

 

自分で封鎖しといてなんだが…リンの不在をぼやく。

 

ここは全キヴォトスの学校に繋がる議場。

 

そこにただ一人…アビドスの参考人としてやってきたネイト。

 

「………だったら…好きにやらせてもらうか…。」

 

徐々にキレが戻ってきたネイトは…Pip-Boyのソケットを引き抜いた。

 

【08:45】

 

この時、全学校の連邦生徒会用に置かれたホログラムと…W.G.T.C.の公式チャンネルが起動した。

 

《………あぁ~、見えているか…?》

 

「し、主席行政官ッ!!!これを!!!」

 

「なっ…!?」

 

そこに映し出されたのは…議場内の参考人席に座っているネイトの姿だった。

 

《…すまない、麻酔が抜け切ってないから…変な言葉を言ってしまうかも…知れない…。》

 

「んなッ!?ネイト社長!?一体何を!!?」

 

「ネイトさん!!!ねぇマコト先輩、ネイトさん大丈夫なんだよね!!?へっちゃらなんだよね!!?」

 

いきなり現れたネイトのホログラムにより各校の主要機関は驚愕に包まれる。

 

《まずは…D.U.の住民へ…。ようやく昨日からの記憶が…戻ってきて…俺が何をやったかを思い出した…。》

 

「…熱砂の猛将、あんたは…一体何語るつもりなんですかぁ…?」

 

「この人…凄い。凄い…命の炎が燃え盛ってる~…。」

 

その一言一言が…全員の耳を引き付ける

 

《…すまなかった…。俺が…逃げ回ったせいで…多くの無関係な住民に…迷惑をかけて…しまった…。》

 

「んなッ!?サンクトゥムタワーからの配信だって!!?」

 

「あの人ったらいつの間にそんなところへ!!?」

 

深く頭を下げるネイトに全員の目が釘付けになる。

 

《………これで謝罪になったとは…思っていない…。だから…今日この場で…俺の本音を…告白しようと思う…。》

 

「進路変更!!!サンクトゥムタワーに向って!!!」

 

「パパ…!」

 

顔を持ち上げ力のこもったうつろな目に誰もが心を鷲摑みされる。

 

《………俺は…ただの『亡霊』も同然だった…。ただ…死にぞこない…このキヴォトスにやってきた…一人の『放浪者Wanderer》だ…。」

 

「急いでッ!!!サンクトゥムタワーへ行くよ!!!」

 

「まったくあの人は無茶ばかり!!!」

 

誰も…ネイトの一挙手一投足一言動を見逃すまいとしていた。

 

《………そんな俺にも…役目を与えてくれた…子がいた…。『私はあの子たちに何も残せなかった。私の代わりにあの子たちを…私の学校を救ってはもらえませんか?』…とな…。》

 

おそらく、キヴォトス中の銃声が少し小さくなった瞬間だろう。

 

「…だから…俺はアビドスを…復興させようと…ここまでやってきた…。」

 

やっとやっと継ぎ接ぎだらけではあるが纏まってきた思考でネイトは言葉を選び話す。

 

「カイザーとも…戦った…。あの学校を…俺みたいなやつを…受け入れてくれた…アビドスを護るため…俺は最大限の力を振るった…。」

 

思い返されるアビドスに来てからの日々、

 

「それだけで…いいと…思ってた。俺の人生…あの砂漠を蘇らせる…それだけのために…使おうと思ってた…。」

 

砂にまみれ人を率い働いた日々、

 

「そのために…アビドス砂漠にいる…怪物を…皆の手を借りて…仕留めたりもした…。それでいい・・って思ってた…。」

 

ビナーとの総力戦を繰り広げた一日、ネイトの人生はあの砂漠で埋もれるはずだった。

 

だが…

 

「でも…ハハッ不思議なものだ…。得られないと…思ってた…『家族』まで…できてしまった…。」

 

そこに一輪の花が咲いた。

 

「あの子が…俺の『娘』になってくれて…俺の人生は、捨てたもんじゃ…ないな…とやっと思えるようになった…。」

 

『アリス』の存在が…270年凍り続けていたネイトの心を溶かしてくれた。

 

「…今なら言える…。俺は…ただアビドスを…蘇らせたいだけじゃ…ないんだ…。」

 

そして、ようやく…自分の『願望』が生まれた。

 

「アビドスを…『目標に挑戦できる場所』にしたかったんだ…。」

 

自分だけではない、ホシノもシロコもノノミもセリカもアヤネも…

 

「キヴォトスの子供たちは…俺がいたところじゃ見れない位…皆輝いてる…。」

 

そんな輝きを間近で見続けてきて…ようやく理解することが出来た。

 

「そんな子たちの未来を…少しでも彩れる…そんな手伝いを…したいんだ…って…。」

 

連邦ではできなかった…今を生きられるだけではない、

 

「夢を持つ子たちの…未来へ羽ばたける…場所を作りたいんだ…と。」

 

明日を…未来を見つめることが出来る環境を作りたい…と。

 

「そして…子供たちが進む道を…少しだけ歩きやすくする…それが俺の役目だと…理解した…。」

 

そのために…ネイトは何でもやる覚悟だった。

 

「だから…俺はアビドスの子達に…力を…授けた…。少しの障害なら…自分で跳ねのけられる…強さを身に着けてほしくて…。」

 

自らの経験を伝え、生徒達を鍛え…

 

「弱ったアビドスを…そんな場所にできるように…防衛戦力も…備えた…。」

 

アビドスを護るため力を蓄え…

 

「まだ…未来が分からない…そんな子たちが…未来を見れるように…仕事も作るようになった…。」

 

生徒が未来を見れるように財を投じた。

 

「別に…俺は…キヴォトスを乗っ取ろうとか…アビドスを最強だった時代に…戻そうとは…思ってない…。」

 

多くは望んでいない。

 

「ただ…どんな生徒でも今を安心して過ごせ…未来を見れる場所に…したいんだ…。」

 

どんな生徒にもほんの少し『余裕』を与えられる場所を…

 

「失敗してもいい…。自分の望みに…挑戦してもいい…そう言える場所に…したいんだ…。」

 

『飛躍』を願える場所にしたい…そんな一人の大人の願いだった。

 

「だから…それに協力してくれるのなら…俺はなんでもしよう…。」

 

そして、そのために自分も覚悟を決めている。

 

「金でも…技術でも…人でも…なんでもいい…。アビドスを…そうあれる場所にする手を…貸してくれるなら…大人として…俺は報いる…。」

 

自分の持てるものを全て投げ打っても構わない、

 

「だが…それを…アビドスで生徒が…未来を見れるのを邪魔するのなら…。」

 

その邪魔をするのならば…

 

「俺が…子どもの未来を塞ぐ…石ころとして…踏み砕いてやる…。」

 

一切の容赦も慈悲もない。

 

「俺の…こんな亡霊の…放浪の末にできた…生きがいなんだ…。」

 

そんなやっと自分が本当の『夢』。

 

「やっとできた生きがいを…邪魔しないでくれ…。」

 

ただ…それを護りたい、一人の大人としての願いだった。

 

「…以上、これが…俺の話したいことだ…。時間をとらせて…すまなかったな…。」

 

ブツン

 

ネイトはそう言い、配信とハッキングを打ち切り映像を切った。

 

「……………ハハッ爺臭くなったな、俺も…。」

 

きっと麻酔のせいだろう。

 

自嘲的に笑い…

 

ゴキュッゴキュッゴキュッ…

 

最後の極上の味の経口補水液を飲み終え…

 

「………帰らなきゃ…な…。」

 

のっそりと席を立った。

 

ガガガガガガ…ッ!!!

 

「まだですか!?」

 

部屋の外ではジャックハンマーが駆動しネイトが設置したコンクリートの壁を砕こうとしていた。

 

だが…

 

カシャン

 

「え…!?」

 

一瞬のうちに目の前を塞いでいたコンクリートの壁が消滅し…

 

「………退いてくれ…。」

 

「ネッ…ネイト…さん…?!」

 

「…帰る。邪魔を…したな…。」

 

ネイトがゆっくりと議場から出て出口に向かい始めた。

 

捕まえるなら今がチャンスだ。

 

だが…誰も動くことが出来なかった。

 

「………うぅ…。」

 

フラッ

 

だが、ネイトにも限界が来ていた。

 

昨晩から無理し通しで目覚めてからすぐにこの暴挙だ。

 

地に足がついてるはずなのに…浮かんでいるような感覚がずっとしている。

 

「あぁ…。」

 

それでも…歩みを止めない。

 

これもまた…約束のためだ。

 

アビドスに…そして…

 

「パパっ!!!」

 

「………あぁ…。」

 

あの子の元に…帰るため。

 

「アリ…ス…。」

 

まるで糸が切れたように力が抜けたネイトの身体を…

 

ダキッ!

 

「パパっ!!?しっかりしてください、パパぁッ!!!」

 

彼の娘が抱き留めた。

 

「パパっアリスがッアリスが来ましたよ!!!目をっ目を開けてください!!!」

 

重くのしかかる父の体をアリスはしっかり抱きしめ呼びかけると…

 

「…スゥ…スゥ…。」

 

その体はしっかりとした父の温かさが感じられ…

 

「…パパぁ…?」

 

泣きそうな顔でアリスがネイトの顔を覗き込むと…

 

「スゥ~…スゥ~…。」

 

その顔は安心し穏やかな寝息が聞こえてきた。

 

「…よかったぁ…!よかったです…!パパは…ちゃんとここに…!」

 

アリスの目から涙が流れる。

 

間に合わなければどうしようかと怖かった。

 

ネイトがいなくなったらどうしようと恐ろしくてたまらなかった。

 

この暖かさが感じられなくなったらと思うと背筋が凍った。

 

でも…ネイトはここにいる。

 

ちゃんと…自分の元に帰って来てくれた。

 

「帰りましょう、パパ…!帰って…ゆっくり休みましょう…!」

 

アリスはそのままネイトを抱きとめてサンクトゥムタワーを後にしようとする。

 

その時、

 

「まっ待ちなさい!!!彼をどこへ…!」

 

リンがアリスを呼び止めた。

 

瞬間、

 

「ッ!!!」

 

アリスの体が翻る。

 

ネイトを足下に優しく横たえ…

 

「穿て、蒼穹の果てまでも!!!」

 

ズドバァオンッ!!!!

 

膝立ちのまま一瞬のうちに背負っていた『嵐の弓:ガンマレイバースト』に矢をつがえ放ち…

 

バガァンッ!!!!

 

「…え…!?」

 

リンの傍らの壁面に長大な矢が突き刺さった。

 

ギィィィ…!

 

「邪魔をしないでくださいッ!!!」

 

矢をつがえ引絞り直し怒りに満ちた眼差しをリンや連邦生徒会の生徒達に向けアリスは叫ぶ。

 

「アリスとパパは一緒に帰るんです!!!もう今日のパパの冒険は終わったんです!!!」

 

「お、落ち着いてください!」

 

リンが宥めようとするが…

 

「どうしてっどうしてですか!!?どうしてパパをいじめるんですか!!?」

 

『…~ッ!!?』

 

彼女の悲痛な叫びに言葉が詰まる。

 

「パパは何も悪いことはしていません!!!アリスにもいつも優しくしてくれてっいろんな人たちの助けになってくれるアリスの『英雄』なのですッ!!!」

 

父を護る、アリスは連邦生徒会だろうと戦う覚悟を固めていた。

 

「今度はアリスがパパを護る番なんです!!!貴方達にパパは渡しません!!!アリス達を行かせてください!!!じゃないとまた射ちます、今度は外しません!!!」

 

あの弓はただの弓ではない。

 

当たれば…キヴォトス人でも只では済まないだろう。

 

すると…

 

「どいてっ退いてください!!!」

 

背後からヴァルキューレ生が駆けつけ…

 

「その武器を下ろしなさい!さもなくば…!」

 

アリスに投降を呼びかける。

 

「まっ待て…!」

 

カンナがヴァルキューレ生達を押しとどめようとするが…

 

「ッ!!!」

 

アリスが弓先を向けた瞬間、

 

ダァッ!!!

 

連邦生徒会の職員たちもアリスの制圧に動く。

 

…その時、その声が響き渡る。

 

「救護っ!!!」

 

スガァァァァンッ!!!

 

ゴガァァァァンッ!!!

 

同時にアリスを挟み込むように二か所で衝撃が巻き起こり砕けた床から舞い上がった粉塵が周りを包み込む。

 

『~ッ!!?』

 

思わず足を止めるヴァルキューレと連邦生徒会の面々。

 

「え…?」

 

呆然としているアリス。

 

そして…煙が晴れるとそこにあったのは…

 

「お…斧…!?」

 

地面に突き立てられた消防用の斧と…

 

「………。」

 

「み…ミネ…さん…!?」

 

トリニティ救護騎士団団長、蒼森ミネが盾を床に突き立てそこにいた。

 

「………。」

 

ミネは盾から手を放し…

 

「ひ…。」

 

沈黙したまま…アリスの元に近づく。

 

アリスは恐怖した。

 

今の一撃…彼女がネルに比肩する強者だといやでも思い知らされたからだ。

 

そして、ミネがアリスの目の前に来た時…

 

「…!」

 

思わず目を閉じた。

 

が…

 

ピトッ

 

「ふぇ…。」

 

「おはようございます。」

 

ミネは膝をつきアリスの両頬を包むように目線を合わせ微笑ながら優しく声をかける。

 

「私はトリニティ3年の蒼森ミネと申します。貴方は?」

 

「あ…アリスは…ミレニアムの1年生でネイトパパの娘の…天童・アリス・マーティンです…。」

 

「アリスさんですか。良いお名前ですね。」

 

互いに自己紹介し合い、

 

「とっても勇敢な方ですね、アリスさん。」

 

ミネはアリスを称賛する。

 

「貴方はお父様のためにここまで一人でやって来て…お父様を護ろうとこんな小さな体で頑張ったんですね。」

 

「…!」

 

「貴方のお父様…ネイトさんも本当に勇敢な方で自らの身も省みず我が校の生徒を救出してくださいました。」

 

アリスを安心させるようにネイトの昨晩の勇気ある行動も彼女に伝え…

 

「それに…彼の手をご覧ください。」

 

「え…?」

 

ネイトの方を振り向かせると…

 

「あ…!」

 

「ふふッ…本当に…素晴らしいお父様をお持ちになったんですね…。」

 

眠ってなおその手にはデリバラーが握られ…ヴァルキューレ生達に向け構えられていた。

 

眠っているのに…アリスを護ろうと本能的に備えたのだろう。

 

「安心してください、アリスさん。私は貴方方を救護しに…いえ。」

 

ミネは『救護』と言う言葉を取り消し…

 

「どうか貴方のお父様を御守りするのを…お手伝いさせてはいただけませんか?」

 

アリスの父を護らんとする思いに寄り添う言葉をかけた。

 

「…~ッ!」

 

その言葉にアリスは震え弓の引絞りを解き、

 

ガラァンッ!

 

『嵐の弓』を地面に落とし…

 

ダキッ

 

「うぅ~…!」

 

ミネに抱き着き涙を流す。

 

「よく頑張りましたね…。」

 

ミネもそんなアリスを誉めながら優しく背中を撫でてあやす。

 

その時、

 

「そこ退いて!!!」

 

「アリスぅ~!!!」

 

「勝手に行くんじゃねぇ、チビ!!!」

 

サンクトゥムタワーにホシノとモモイやネル達が到着。

 

「ネイトさんッ!!!」

 

床に横たわっているネイトに血相を欠くが…

 

「ご安心してください。皆さん」

 

「あ、アンタは…!」

 

「救護騎士団団長の蒼森ミネです。彼の容態は安定してもう熱もかなり低くなってお眠りになっているだけですよ。」

 

ミネが素早くネイトの容態を確認し…

 

「よ…よかったぁ…!」

 

「もうネイトさん!!!皆に心配かけて!!!」

 

「全く人の気も知らねぇで…!」

 

ホシノ達を安心させた。

 

と、そこへ…

 

「ミネ団長!」

 

「セリナ、こっちです。」

 

担架を抱えたセリナが駆け寄ってきた。

 

「彼を運びます。アリスさん、お手伝い願えますか?」

 

「はっはい!」

 

アリスにも補助を頼み、

 

「せぇの!」

 

素早くネイトを担架に乗せミネとアリスとセリナはその場を後にしようとし…

 

「全員、一歩どころか指一本も動かさないでよ…!」

 

「もしちょっとでも動いたらテメェら叩きのめす…!」

 

ミネの盾と斧を回収し周囲の連邦生徒会やヴァルキューレ生達をホシノとネルがけん制しながらサンクトゥムタワーから出た。

 

「ネイトさんっ!」

 

「心配ありません。アリスさんに会って安心して眠っているだけです。」

 

「ん…もう二度とこんな事しないで…!」

 

「またやったらぁお仕置きですよぉ…♠」

 

「そうですよ!心配したんですからね!!!」

 

「ホントよ、心臓いくつあっても足んないわ!!!」

 

外にはアビドスの生徒と…

 

「君は…。」

 

「初めまして、先生。自己紹介は後程。」

 

「…そうだね。ありがとう、師匠を護ってくれて…。」

 

先生がネイトの姿を見て怒りはしたが一様に安心していた。

 

「こちらの車両に乗せてください!病院に直行します!」

 

そのままネイトと一緒に装甲ハンヴィーに乗り込み…

 

ブロロロ…!

 

再び、病院へと走り出すのであった。




トップになるには何が必要か。集中力、鍛錬、そしてひとつの夢。
―――看護師『フローレンス・ナイチンゲール』
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