Fallout archive   作:Rockjaw

194 / 209
自分の誤ちを認めることほど難しいものはない。事態を解決に導くには、素直に自分の落ち度を認めるのが何よりである。
―――政治家『ベンジャミン・ディズレーリ』



Postscript: The End of the Commotion and a Helping Hand

さて、命からがら逃げのびキヴォトス全土への『挨拶』を終え入院生活を送ることになったネイトだが…

 

「パパっ!またリンゴ剥いてください!」

 

「イブキ、ウサギさんがいい!!!」

 

「ハイハイちょっと待っててな。」

 

あの日の騒動が嘘のような和やかな入院生活を送っていた。

 

今は中庭内にある東屋でアリスとイブキに左右を挟まれ、

 

「カレン、君もどうだ?」

 

「……うん、頂戴。お返しにお茶入れてあげるね、ネイトさん。」

 

ネイトを背中越しに覆い被さるように抱き着き左肩に顎を乗せているアビドス1のスナイパーのカレンのためにお見舞いでもってきてもらったリンゴを剥いている。

 

あんな重傷を負ったのに外に出てていいのかと思われるだろうが…なにせ日光を浴びればそれだけ早く回復する特異体質のネイト。

 

病室に閉じこもっておくよりも早く傷は癒えるしストレスも軽減できるというなんとも有意義な入院生活だ。

 

…病院側がさじを投げかけ『いっそ入院期間を延ばし徹底調査すべきでは?』と思い余っていたのは内緒の話だが。

 

そんな風に娘と小さな友人に自分より大きな部下に囲まれスイッチブレード*1で器用にリンゴを剥いているネイトを見て…

 

シャリシャリ…

 

「ねぇねぇメリィ。」

 

「なんだい、モモイ。」

 

「…普通逆じゃない?」

 

「…まぁいいんじゃね、オジキだし。」

 

東屋の別のベンチからネイトが先ほど剥いたリンゴを食べながらその光景を見ていたモモイとメリィがそんなことを言っていたり、

 

「む~…。」

 

「どうした、ミドリちゃんよ?」

 

「えッ!?いっいいやその…!」

 

「…カレンならもう少ししたら休憩明けるぜ?」

 

「なっなんのことですかぁ、ジョウジさん!?///」

 

「はッはッはぁ!素直に甘えりゃいいんだよ、ちびっ子!」

 

湿った視線を向けていたミドリにジョウジが茶々入れたり

 

「っとどんなもんだい!」

 

「す、すごい…!二回目でハイスコア目前…!」

 

「普段からとんでもない飛ばし方してるからね!ゲームなんて軽い軽い!」

 

「わ、私も、負けてられない…!」

 

ユズとマドカがフライトシミュレーターで競い合ったりと東屋の中は随分にぎやかだ。

 

現在、この病院にはアビドスの生徒達が『臨時警備員』として配備されている。

 

こうして休憩時間はネイトの元を訪れ彼の娘たちや『小さな捕縛者たち』とおしゃべりに興じているのだ。

 

ズズゥ~…

 

「…おぉ~今日はまた個性的な味だな。」

 

「……うん、近くの公園にあった野草で淹れてみた。……落ち着くでしょ、ネイトさん?」

 

「うん、コーヒー派だがこういうのもたまには悪くないな。」

 

「なんだか心がポカポカする味だね、カレンちゃん!」

 

「カレンはアーチャーだけじゃなくてヒーラーでもあるのですね!」

 

「……フフッ、ありがとう。」

 

カレンが入れてくれた野草茶を啜りながら穏やかなひとときを過ごしていると…

 

「………。」

 

「パパ?どうかしましたか?」

 

「いやぁ…なんか…なぁ…。」

 

カレンの野草茶で一服着いたネイトが空を見つめそう呟いた。

 

連邦では怪我をしたらすぐにスティムパックを打ってすぐに復帰していた。

 

戦前であっても軍用のさらに強力な『スーパースティムパック』でかなり早期に前線に復帰していた。

 

現在は当然というべきか…スティムパックなど貰えるわけもなく自然治癒で今は過ごしている。

 

よくよく考えれば…まともな入院生活は初めてで…

 

「なんかこう…何もせずにじっとするっていうのに慣れなくてな。」

 

『なにもするな』という環境にぽっかりと手持無沙汰になり落ち着かないのだ。

 

すると、

 

「慣れなくてもじっとしてなきゃだめですよ、ネイトさん。」

 

「シホか…。」

 

「今のネイトさんのお仕事は『休むこと』なんですから。」

 

ヘルメットを脱ぎショートポニーテールの黒髪を揺らすシホがやってきた。

 

「今までずっと働いてきたんですもん。怪我している間くらいはのんびりしてください。」

 

「休みはちゃんととってるんだがなぁ…。」

 

「でも、です。前よりはマシになりましたがそれでも普段が働きすぎなんですよ、貴方は。」

 

そんな聞き分けの悪い子供でも諭すようにとうとうと休むように伝えるシホ。

 

「……シホの言う通りだよ、ネイトさん。こうして私に貴方の風を感じさせてくれるのが今の仕事だよ。」

 

「オジキ、心配すんなって。アンタいなくてもアビドスはやってける。そういう風にいつも仕事任せてんだろ?」

 

「ど~んとしとくもんだぜ、親分?あんだけ大立ち回りしたんだ。誰もアンタがいないことを恨んじゃいねぇよ。」

 

「あっだったらアタシの新技に付き合ってよ、ネイトさん!ベルチバードでバレー踊れる方法考えたんだ!」

 

約一名非常に物騒な提案をしてきたが他のアビドスの生徒達もネイトに仕事のことを忘れるように告げる。

 

そして、

 

「そうですよ、パパ!『大神官』シホの言うことはちゃんと聞いてください!」

 

「私が大神官…ですか?」

 

「はい!大神官は最高のヒーラーです!シホはパパを助けてくれたとっても凄い大神官なのです!」

 

「ネイトさんを助けてくれてありがとう、大神官さん!」

 

「…フフッありがとうね、二人とも。」

 

アリスらしい賞賛とイブキの感謝を浴びそれにシホは微笑んで返すのだった。

 

そして…

 

「それはそうと…ハイ、ネイトさん。.338ラプアマグナムでも貫けないよう頑丈に繕っておきましたよ。」

 

「おぉ~助かる。」

 

「パパっ着せてあげますね!」

 

「イブキも~!」

 

修繕を終えたネイトのトレードマークでもある『シルバーシュラウドの衣装』のコートを差し出してくれ…

 

バサッ!

 

「どうですか?」

 

「…うん、着心地も前のまんまだ。いつもながらいい仕事っぷりだな。」

 

「ありがとうございます♬」

 

入院着の上から羽織りいつもの見慣れたネイトの姿となった。

 

「おぉ~やっぱりその恰好がネイトさんっぽいね!」

 

「なんだか…一気に引き締まったみたいです。」

 

「まだ駄目だけど、すぐにでも戦えそう…!」

 

見慣れた黒を纏うネイトを見てゲーム開発部は沸き立つ。

 

「すごぉい、穴が開いてたところが全然分からない…!」

 

「縫合で使うちょっと特別な縫い方の応用だよ、イブキちゃん。」

 

「凄いだろ?手芸に関してはシホの腕は天下一品なんだ。」

 

「うち等の肩章もシホが作ってくれてんだぜ?」

 

「……私のポンチョもよく調整してくれてる。」

 

そう言ってメリィがゲーム開発部やイブキ達に『セタス部隊』のエンブレムが刺繍された肩章を見せる。

 

一見すれば業者が制作したといっても通用するようなクォリティだ。

 

「そんな…縫合の訓練も兼ねた手慰みですよ。」

 

そう謙遜するシホだが…

 

「へぇ~凄いね!ねぇねぇ、私のパーカーに私たちの部活のエンブレムも刺繍してくれない!?」

 

「あ、じゃあアリスも光の剣のスリングにエンブレムが欲しいです!」

 

それに喰いついたモモイとアリスが彼女におねだりをする。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃんにアリスちゃん…。そんないきなりじゃシホちゃんに迷惑…。」

 

ミドリが姉のいつもの突飛な行動を窘めるも、

 

「いいですよ、ミドリちゃん。ネイトさんのお目付け役をしてくれてますからそれくらいは。イブキちゃんは何かリクエストはありますか?」

 

「じゃあ、イブキは熊さんがいい~!」

 

「分かりました。ミドリちゃんやユズちゃんはどう?」

 

「えッえぇっと…じゃあお願いしてもいいかな?」

 

「あ、ありがとう、シホちゃん。」

 

「どういたしまして。じゃあすぐにやっちゃいましょう。」

 

シホは全く気にすることなく愛用の裁縫セットを取り出し早速作業に入るのであった。

 

「……平和だね、ネイトさん。」

 

「…そうだな、カレン。」

 

「……ムフ~。」

 

肩越しにそう声をかけるカレンの頭を撫でながらそんな少女や娘たちの交流をほ微笑ましそうに眺めるネイトなのであった。

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

さて、そんな一人の大人が休息をしている一方…

 

「これが…アビドスからそちらに対し行う賠償請求だよ。」

 

「こちらはミレニアムから両組織に対するものです。」

 

「ゲヘナからもだ。もっとも我が校は…メインはそっちだがな。」

 

三つの学校の代表たちは『ケジメ』を付けさせるためにその目に冷たく鋭い光を宿していた。

 

ホシノ・ユウカ・マコトの対面に座っているのは…

 

「…確認させていただきます…!」

 

あの大騒動の『中心人物』ともいえる連邦生徒会主席行政官の『七神リン』と、

 

「はっ拝見させていただきますわ…。」

 

同じく爆心地ともいえる人物トリニティ総合学園『ティーパーティー』ホスト『桐藤ナギサ』だ。

 

こちらを睨みつけるような視線を向ける三人から差し出された賠償請求書を検め…

 

「なっ…!?」

 

「これは…!?」

 

その内容に目を見開いた。

 

ざっくり挙げると…

 

アビドス高等学校

・連邦生徒会及びトリニティ総合学園に対しアビドスとW.G.T.C.への損害賠償金700億円

・連邦生徒会に対しネイト救出にかかった費用5億円

・トリニティ総合学園に対し現場で活動した全ての生徒に対する処分の免責と『パテル分派』に対し慰謝料20億円

・今件に関わる全ての捜査情報の無償提供

 

ミレニアムサイエンススクール

・連邦生徒会及びトリニティ総合学園に対し損害賠償金150億円

・ネイトの治療にかかった医療費(彼が退院するまで)

・今件に関わる全ての捜査情報の無償提供

 

ゲヘナ学園

・連邦生徒会及びトリニティ総合学園に対し損害賠償金100億円

・トリニティ総合学園に対しゲヘナでの諜報活動に関する情報公開

・今件に関わる全ての捜査情報の無償提供

・トリニティ総合学園に対し『エデン条約』の条文の一部変更

 

と言った感じである。

 

「こ、この賠償金の額は…!?」

 

あまりの額に目を白黒させ尋ね返すリン。

 

ナギサも顔を蒼くし受け入れられないといった様子で見つめ返すが…

 

「…ひょっとしてネイトさんをアビドスのただの一企業の代表だと思ってた?」

 

「そのあたりはあなた達が把握していると思っていたのですが?」

 

「あれだけ奴の脅威を声高に叫んでいたのだからな、当然だろう。」

 

ホシノ達は憮然とした表情のまま答える。

 

「ネイトさんはほぼ一人でカイザーと毎月100億の収益…利益で行っても90億以上のお金稼いでる。それが今月は入院と療養で全部ぱぁになっちゃったんだよね。」

 

これもまたネイトという特異点故の事態だが…ネイト一人抜けた場合の経済的損失はけた違いなのだ。

 

カイザーとの廃墟区画での取引はもちろん、

 

「アビドスの防衛も結構W.G.T.C.が関わってるからね。その指揮官の不在はアビドスとしてもとんでもない損害なの。安保理の議題だったあの計画も遅れることが決まっちゃったしね。」

 

ネイト個人、若しくはW.G.T.C.のアビドスにおける防衛の主力、

 

「他にもアビドスの復興事業にいろんな学区からくる子たちの雇用に関する社会福祉、他校との外交の折衝…あげたらきりないけどともかくあの人が抜けた穴は大きいの。」

 

他にも様々な分野で幅を利かせているためその抜けた穴の大きさは計り知れない。

 

「これでも安い位だよ?天井知らずなところに天井作ってあげてるの。」

 

そこを何とか価格に落とし込んで算出した額なのだ。

 

「ミレニアムに関してもW.G.T.C.を含むアビドスとは深く関わっています。」

 

それはミレニアムも同様だ。

 

「廃墟区画での作業での5億円の利益がなくなっただけではありません。」

 

毎月転がり込んでくる大金の消滅だけではない。

 

「アビドス砂漠での調査活動はもちろん…W.G.T.C.は我が校の部活との同盟のほかに技術交流と物品の取引。、ゲヘナ学園との交渉の折衝なども行ってくださっています。」

 

個別の取引、ネイトの人脈を生かした交渉の仲立ちなど大きな助けになっている部分も多い。

 

「そして…アビドスの要求にかかる部分もありますが…アビドス砂漠の安全の確保の計画が事実上延期になってしまい砂漠で調査中の当校の生徒の安全が脅かされる可能性もあります。」

 

そしてここでも『O,B,E,R,I,S,C,U』が関わっている。

 

そもそもこの計画はアビドスではなくアビドス以外の学校から求められて考案された防衛計画だ。

 

その延期となると…生徒達に被害が出てしまう可能性もある。

 

「ネイトさん生存には我が校の最新鋭技術が用いられました。その費用は本来発生しなかったもの。その原因となったそちらに請求するのは当然では?」

 

ネイトが命を繋ぎ留めることが出来た治療も決して安いものではない。

 

埋め合わせを連邦生徒会とトリニティに求めるのは当然と言える。

 

「ゲヘナ学園も同様だ。W.G.T.C.とゲヘナは複数の取引を抱えている。それが失われた場合の損害は…わざわざ説明するまでもあるまい?」

 

ミレニアム同様、ゲヘナもW.G.T.C.との取引はもちろんアビドスでは灌漑事業を一手に引き受けている。

 

そして…

 

「今回の発端は…トリニティに情報を流したスパイによるものも大きい。W.G.T.C.に対する信頼を大きく損ねかねない上に…我々とそちらの条約締結にも大きな瑕疵になることは間違いないだろう?」

 

「そ、それは…!」

 

今回の騒動の大きな起爆剤として…万魔殿にまで潜り込んでいたトリニティの協力者の存在がある。

 

ただでさえ関係の悪いゲヘナとトリニティが何とか和解し手を取り合おうとしているエデン条約締結目前にこれだ。

 

「…それをこの場で飲み込もうというのだ。当然、これらの要求はのんでもらおう。飲めないのならば…議長権限でエデン条約など白紙に戻らせてもらうがな。」

 

それを『スパイの情報提供』と『エデン条約の改変』と言う形で決着を付けようというのだ。

 

「そ、それは…!」

 

ナギサは何か言いたそうに呟くが…

 

「私は構わんのだぞ?エデン条約は元より乗り気ではないし…今回の件、トリニティがゲヘナに違法な諜報活動を行っていたと公に暴露しても構わんのなら…な。」

 

「ッ!!?」

 

ニヤつきながら発せられたマコトの言葉に一気に血の気が引く。

 

エデン条約にマコトが乗り気でないのは以前から把握している。

 

それでも今まで『不干渉』を貫いてきたからここまでこぎつけることが出来た。

 

しかし、もしゲヘナの主であるマコトが正式に『エデン条約』の白紙とあのスパイに関する情報を公開すればどうなるか?

 

ただでさえ…トリニティを取り囲む状況は最悪と言っていい。

 

クロノスがキヴォトス中が見守る中…ツルギと正々堂々の戦いをしているところに不意打ちを仕掛けたのだ。

 

もしここでエデン条約の締結失敗と非合法の諜報活動がキヴォトス世論に知られれば…

 

「選べ、トリニティ。偽りの楽園か…騒乱の現実か…をな。」

 

後に待っているのはキヴォトス中からの非難とトリニティの空中分解だ。

 

派閥間の暗闘が日常の自分の学校がそうなれば…

 

「…ッ!」

 

ニヤニヤとこちらを見つめるマコト。

 

その姿が一部のトリニティの過激派が『悪魔』と呼ぶ正にそのものに見えた。

 

ナギサが悔しそうに唇を噛んでいると…

 

「…よろしいですか?」

 

「なに?」

 

「…お気持ちは重々理解します。ですがさすがにこれほどの賠償は…。」

 

リンが減額交渉に移る。

 

三つの学校で合計し1,000億弱の賠償ともなれば錚々出せるわけがないが…

 

「えぇっとユウカちゃん。あの日の記録憶えてる?」

 

「はい、ホシノさん。連邦生徒会とトリニティは…『二度』大きな過失を行っています。」

 

「~ッ!?」

 

芝居がかったホシノとユウカの言葉に表情が固まった。

 

「一度目はそこのお茶会ちゃんが持ち込んだネイトさんの情報の開示をこちらの同意なく公開し襲撃者どころかそこら辺の不良にまで情報漏洩。」

 

「二度目は襲撃が発生したというのに再度ネイト社長の生存を察知しこちらへの通達を怠り内通者の存在を予測することなく情報を現場に伝達した。」

 

「ほぉ?一度ならず二度までもやっておいて…言い訳のしようがあると思うのか、連邦生徒会長代理?」

 

こまごました部分を上げ連ねればきりはないが…連邦生徒会とトリニティは引き返すチャンスはいくらでもあったのだ。

 

それこそ…先日先生がリンに無情にも告げた『何もしなければよかった』と言う文言そのままに。

 

「で…その意思決定にはどちらもトリニティも関わっている…と。」

 

「どう考えても減額交渉ができる状況ではないと思いますが?」

 

「徹底的に争おうか?沙汰にかけて判断してもらってもよいのだぞ?」

 

この三人の言葉に…連邦生徒会やティーパーティで法務を任されている生徒が首を横に振る。

 

どう考えても勝ち目のない戦いな上…内部事情が詳らかに公開され恥の上塗りに他ならない。

 

「もちろん、ちゃんとここで決着がつくなら…こっちも守秘義務は守るよ。」

 

「そこはご安心を。ミレニアムも防諜体制を堅牢にしていますので。」

 

「ゲヘナも。『悪魔』は契約を護ることをモットーとしているからな。」

 

一方、払うもん払えばあとは筋を通すことも明かすホシノたち。

 

結果…

 

「………分かり…ました…!」

 

「条件を…受け入れます…!」

 

連邦生徒会とトリニティ総合学園、このキヴォトスに名だたる二つの大きな組織は非情ともいえるこの賠償を受け入れるしかなかったのだった。

――――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

「…そうか。分かった、あとは任せる。」

 

「何のお話ですか、パパ?」

 

「ん?あぁ、ちょっとした会議の報告さ。」

 

電話で講和交渉の結末を受けネイトは神妙な表情を浮かべ、

 

「さて…これで心置きなくやれるな。シホ、あとで『探査隊』に『Goサイン』の連絡入れてもらえるか?」

 

「分かりました。」

 

シホに頼みアビドスに連絡を入れてもらうことに。

 

「探査?どこを調べるの?」

 

「なぁに、ちょっと『シャーベット』の一部を分けてもらったのさ。」

 

「お仕事はダメだよ、ネイトさん?」

 

「安心してくれ、イブキ。指示はこれっきりさ。」

 

ぼかして伝えたネイトのこの話。

 

…のちに『キヴォトスの燃料庫』『キヴォトスの宝物庫』とも称されW.G.T.C.の稼ぎ頭となるレッドウィンターの未開の地『凍辺原しべはら』地方の資源開発の始動した瞬間であった。

 

「ねーねー、ネイトさん。退院っていつ頃なの?」

 

「それ自体は明日にでもできるらしいが…。」

 

モモイの質問に尻切れトンボな返事をするネイトだが…

 

「何か問題でもあるんですか、ネイトさん?」

 

「…療養先だ。アビドスに戻ろうにも今の俺は戦うことを禁じられているからな。」

 

「あっ、そう言えば…。」

 

「傷は塞がっても、本調子じゃ、ないですもんね。」

 

その理由を聞き納得するミドリとユズ。

 

主治医が言っていたように傷こそ治ったがネイトに刻まれたダメージは深刻なものだ。

 

その回復のために2週間ほどの療養が必須であり、すでにアビドスがそれをネイトに相談なく承認してしまっている。

 

問題は…その2週間をどこで過ごせばいいか、と言うことだ。

 

アビドスに馬鹿正直に戻ろうものなら襲撃者の一派がまた来るかもしれない上余計な連中…主にパパラッチがやってくる未来しか見えない。

 

「じゃあ二週間入院しとけばいいんじゃないか、オジキ?」

 

メリィが入院の延長を提案するが…

 

「……メリィ、それは危ないよ。」

 

「どういうことだよ、カレン?」

 

「覚えてないの?相手はネイトさん一人に巡航ミサイルぶち込んでくるような奴らだよ?」

 

「………あ。」

 

「マサチューセッツの支援なしにミサイルはなぁ…。」

 

いかにセタス部隊が精強でも巡航ミサイルはどうしようもない。

 

この三日と言うのはネイトの最低限の治癒を終え相手方の準備が終えないであろうギリギリのタイミングと言ってもいいのだ。

 

「じゃあどこかに身を隠しとくの?」

 

「隠すにしたって…どこにだ?」

 

となると難しいのが場所の選定だ。

 

望む望まないは別としてネイトは今や時の人と言ってもいい。

 

そんな人物が外部に所在を漏らさず身を隠すのは…かなり厳しいだろう。

 

「あ、この前行ったゴールデンフリース号は…!」

 

「人の目がありすぎる上ミサイル撃ち込まれたらそこでジエンドだ。」

 

「ミレニアムのシェルターなら…!」

 

「知り合いはともかく覗き魔だらけのアソコにか?」

 

「あ、アビドスの砂漠の奥地…。」

 

「ユズ、アビドスの皆がそれを許すと思うか?」

 

あれこれ案が上がるが…どうも芳しくない。

 

「むむむ~…パパのステルス任務はベリーハードですね…!」

 

「だなぁ、アリス。このままシャーレにでも転がり込もうかなぁ…。」

 

膝の上で頭を捻るアリスを左腕で抱き寄せながらぼやくネイト。

 

しかし、物事と言う物は…

 

「あッ!じゃあイブキ、いい場所知ってるよ!」

 

『え?』

 

結構身近に突破口が開いているものなのだった。

*1
無論、新品




疲労と悩みを予防する第一の鉄則は――たびたび休養すること、疲れる前に休息せよ、である。
―――作家『デール・カーネギー』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。