Fallout archive   作:Rockjaw

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狩りをし、風呂に入り、ゲームをし、笑う。それが人生だ。
――― ローマ帝国遺跡の落書き


The Wanderer's Convalescence Part Final

アリスとゲーム開発部に『命の授業』を行った翌朝。

 

「それじゃ少し出てくる。昼までには戻って来るからな。」

 

「はい、パパ。行ってらっしゃい。」

 

「気を付けてね、兄さん。」

 

アリスやアル達に見送られ、ネイトは一つのガンケースを車に乗せ込み出かけていった。

 

車はそのまま別飛須高原の道を走り続け…

 

ズダァン!ドォンッ!

 

「ではIDの提示とお名前をこちらに。」

 

「…これでいいか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。良き射撃を。」

 

ネイトは町外れにあるロングレンジの射撃場を訪れていた。

 

観光のほかにも狩猟が昔から盛んなこの地では今でも現役のハンターが数多く存在している。

 

その訓練や銃の調子を確かめるための射撃場も存在しておりネイトが訪れたのもその一つで幾人かのハンターが猟銃の試射を行っていた。

 

ネイトも手続きを済ませ射場に入り一つの射撃台に着く。

 

そして、持ってきていたガンケースを置き…

 

バチッバチッ…ガポッ

 

ロックを外し蓋を開けると中にそれは納められていた。

 

「…なるほど、これだったか。」

 

ネイトはそう呟きそれを手に取った。

 

ずっしりとした重量に洗練されたフォルムにその上部には高性能な大型スコープもマウントされている一挺の狙撃銃だ。

 

「AWM…生で拝むのは俺も初めてだな。」

【挿絵表示】

 

AWM、前世の連邦世界においては国家破綻したイギリスで製造されていた『L96A1』を改修し.338ラプアマグナムなどのマグナムライフル弾を用いることを前提に設計された高精度のスナイパーライフルだ。

 

キヴォトスではトリニティの造兵廠のみが製造のノウハウを保有する高性能かつ高価なライフルとしても知られている。

 

なぜ、そんなスナイパーライフルがここにあるのか?

 

カチャカチャ…

 

(全く不思議なものだ…。自分を撃ったライフルが俺の手に収まっているんだからな…。)

 

AWMを取り出し台の上に置き微調整しながらネイトは自嘲気味にそう内心呟く。

 

そう、この銃こそ…ネイトの右肩を撃ち抜いた同型の銃なのだ。

 

元の銃はマシロの狙撃によって破壊されたが…

 

(流石エンジニア部…。おそらくほぼ完ぺきに調整が施されているな…。)

 

ネイトの依頼を受け連邦生徒会からの捜査情報の提供を受けたミレニアムセミナーがエンジニア部を動員し残骸からデータを収集しほぼ完ぺきに襲撃者が使っていたAWMを再現したのだ。

 

アリス来訪時に持たされた荷物の一つにこれがあり…

 

「…よし。」

 

カションジャッコンッ!

 

準備を終えたネイトがマガジンを挿入しボルトを前進させチャンバーに.338ラプアマグナム弾を送り込み射撃姿勢をとった。

 

療養生活の終盤を迎え…これがネイトの療養の最終段階『射撃訓練』である。

 

キヴォトスで過ごす以上、ネイトはこれから先も『戦い』は避けられない。

 

この療養生活中の今はいわば…刃を磨き上げている段階だ。

 

しかし、磨くだけでは刃の切れ味は真価を発揮しない。

 

いわばこの状態の刃は観賞用の美しさを持つ物だ。

 

真に切れる刃…『戦う刃』と言う物は細かな傷があって初めて実用たりうる『斬れ味』を得るものなのだ。

 

そして、ネイトが復帰のためにこの銃をわざわざ大金をはたいて購入しエンジニア部に調整を行ってもらったのか?

 

「スゥ~…。」

 

スコープを覗き込み狙いを定め呼吸を整え…

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

ブレが完全に消失した瞬間に引き金を落としマグナム弾特有の大音響の銃声を轟かせ.338ラプアマグナム弾が放たれた。

 

周囲にいたハンターたちも自分たちの銃とはケタ違いの銃声で一気にネイトに視線が向けられる中…

 

バスッ!

 

弾丸はほぼレティクル通りの場所に着弾、標的を貫通し背後で砂煙が上がった。

 

サラサラ…

 

「標的まで400mでこれとは…流石の精度、といったところか。」

 

カチカチッカチチッ

 

ネイトはその手ごたえに満足しつつも着弾箇所などや風向きなどをノートにメモし素早くスコープの調整ダイヤルを操作しわずかなずれを修正。

 

カチャンッジャッコンッ!

 

ボルトを操作し排莢と次弾装填を済ませ…

 

「スゥ…。」

 

再び射撃体勢をとり…

 

(3…2…1…。)

 

心の中でカウントダウンを唱え、

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

二発目を発砲。

 

バスッ!

 

「…よし。」

 

サラサラ…

 

その弾丸はよりずれが少なくレティクル通りに標的を撃ち抜いて見せた。

 

そして…ネイトは記録を取りAWMを操作しながら思い返す。

 

(あいつらはこの銃を使って…なぜ外した…?)

 

先程、この銃はネイトを撃ち抜いた実物のほぼ完ぺきなコピーと紹介したがそれだけではない。

 

先程のネイトの一連の射撃。

 

わざと間を開けたのもネイトがあの日に食らった狙撃の再現なのだ。

 

あの時、スポッターまでそろえおそらくネイトを確実に仕留めようとしていた襲撃者たち。

 

しかし…一発目はネイトの右肩。

 

二発目にいたってはネイトを大きく外しビルの壁面に着弾している。

 

元から狙撃が得意分野でも病み上がりかつスポッターもいないネイトがほぼ修正なしでここまでの狙撃ができたこの銃で…である。

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(狙撃手はモーテルで俺が左目を潰した奴らしい。そのダメージを差し引いても…狙撃にはあまり縁がない経歴だったんだろう。)

 

あの襲撃部隊の練度はそれこそ一般的なゲヘナ風紀委員会や正義実現委員会のそれを上回るものだろう。

 

しかし、それだけ高度に訓練されていると言うことは各々の役割の『専業化』が進んでいるということでもある。

 

おそらく襲撃犯が持っていたAWMも本来はあの生徒以外の誰かのための装備だったのだろうが…

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(俺がヴァルキューレで奴らの戦力の大半を削いでしまったせいで…といったところか。)

 

重傷ゆえに生き残っていたあの襲撃犯が急遽狙撃を買って出たのだろう。

 

そして、現場に残されたAWMとネイトの体から摘出された.338ラプアマグナム弾の線条痕の調査によってあることが分かった。

 

先述した通りにAWMはトリニティの造兵廠のみで製造可能な非常に高価な銃だ。

 

それこそ、お嬢様の多いトリニティ系列の学園全体で見ても所持している生徒はかなり少ない…と言えるほどの価値の代物である。

 

現場に残されていた残骸のシリアルナンバーは削り取られていた所謂『ゴーストガン』であった。

 

が…弾丸の線条痕を調べて造兵廠のデータと照らし合わせると興味深い事件にぶつかった。

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(情報では…あの銃はトリニティの小規模な派閥が発注していたものだったが…輸送途中で襲撃に合いその他の装備と一緒に奪取されたらしい…。)

 

キヴォトスでは別に珍しくもない強盗事件だ。

 

問題は…正義実現委員会の捜査をもってしても未だ犯行グループを特定できていないと言うことだ。

 

もし、その強盗犯が襲撃犯と同一グループだったとすると…辻褄が合う。

 

さらに証拠として残骸のAWMの部品の摩耗状況など調査されほぼ新品同然だったことが判明し時期的な整合性も取れた。

 

あれだけの練度ならば正義実現委員会の捜査を掻い潜ることなど造作もないだろう。

 

そして…皮肉なことにその実力はさらに裏打ちをされていた。

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(それにしても…とうとう防衛室にすら躊躇なく襲い掛かって逃げ果せるとは…な…。)

 

これこそカヨコが緊急で伝達を受けネイトが昨晩読み進めていた情報の正体だ。

 

ネイトとの戦闘を経てほぼ全員が重傷を負った襲撃部隊。

 

それでもやはりキヴォトス人、取り調べに耐えうる体力まで回復するのにそう時間はかからなかった。

 

連邦生徒会は直ちに襲撃部隊の生徒達を矯正局に送致し取り調べを行うことを決定。

 

防衛室主導でAML-90や2個小隊に監視用のヘリも用いた厳重警備の下で襲撃部隊は極秘移送を行っていた。

 

…しかし、その結末は惨憺たるものでありネイトの元に届いた事件の推移はまさに『見事』というほかない手際だった。

 

山間部に差し掛かったタイミングで故障車の修理を装った人員を配置し車列を一時足止め。

 

車列が停止したところへ…側面上方の森林から狙撃がAML-90に叩きこまれる。

 

その弾丸は20㎜、マシロが用いていた『Anzio 20mmライフル』にも用いられる『20x102mm砲弾』であった。

 

小銃弾に対してならば抜群の防御力を持つAML-90でも20㎜のという桁違いの大型弾に耐えきれるわけがない。

 

エンジンと砲塔を立て続けに撃ち抜かれ二両のAML-90は即座に無力化された。

 

直ちにその狙撃地点に向けヘリが急行したが…待ち受けていたのは携SAMによる対空攻撃だった。

 

『FIM-92 スティンガー』、同一カテゴリーの中では最高の性能を持つ携SAMである。

 

これにより警戒に当たっていたヘリは撃墜、さらにはネイトが持つ『ハイヴミサイル』のようなクラスターミサイルが降り注ぎ警備部隊の車両を破壊。

 

浮足立った防衛室の部隊だったが彼女たちの悲劇はまだ終わらない。

 

そこへ約一個分隊の部隊が急襲を仕掛けてきたのだ。

 

現場に残された薬莢や回収された弾頭の解析によりAR-15系統のライフルに30口径仕様のHK系統のライフルに9㎜口径のSMG『スコーピオンEVO3』が用いられたことが判明。

 

その一個分隊ほどの人員で数倍に上る防衛室の隊員を瞬く間に排除。

 

捕縛されていた襲撃部隊全員を救出し後詰の部隊到着前に逃げ果せたのであった。

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(あれほどの練度の部隊だ…。捕縛された人員への対処は二種類、放置か…救出かだ。)

 

これはネイトが在籍していた米軍の部隊も似たような対応をとっていたので理解できる部分も多い。

 

(余程の仲間想いか…情報の流出を恐れてのことかは分からないがな…。)

 

内実は不明だが…それでも連邦生徒会は唯一保有していた手がかりを失ってしまった。

 

今更、あの組織に期待などはしていないが…

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(おそらく…俺に差し向けられたのは一般部隊で…救出に来たのはそれこそゲリラコマンドを叩きこまれた生粋の『特殊部隊』なんだろう…。)

 

あの襲撃部隊は氷山の一角でその背後にはさらに大きな力が潜んでいることも判明した。

 

巡航ミサイルを運用可能な規模を想定すると…単純な人員の数はアビドスの総人員以上と考えていいだろう。

 

それだけの練度を誇る部隊を保有する組織はゲヘナとミレニアムの捜査網をもってしても未だ把握できていない。

 

だが、それだけの練度があると言うことは…

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(現状、どの学校も警戒態勢となったキヴォトスで『迂闊』な行動を起こすのは考えにくい。)

 

中枢の統制は行き届いているはずだ。

 

この状況で再びネイトを狙うために人員を派遣する…というのは考えにくい。

 

1人であれだけの襲撃部隊を撃退しきりこの後はアビドスに戻ることになっている。

 

D.U.以上にアウェーなアビドスに追いかけてくるにはリスクとリターンが釣り合わない。

 

しかし、

 

(最も…あんな無茶をやらかす様な『外野』がいないとは限らないのが怖い所だがな…。)

 

ネイトが最も警戒するのがここだ。

 

そんな組織の人員にあれほどの無茶をやらせる指示を出せる『外部の人員』がいるというのは明白である。

 

そう言う人物は往々にしてリスクリターンを度外視した行動に移る。

 

(こりゃアビドスに帰ってもしばらくは気が抜けないか…。)

 

幸い、マサチューセッツの防空設備はすでにアビドスに建造済みだ。

 

ステルス戦闘機すら発見できるレーダーの性能を誇る連邦世界最強の力の一端、あのステルス巡航ミサイルであっても好き勝手やらせるわけにはいかない。

 

(一先ず…中距離SAMとマサチューセッツの対空レーザー砲の配備が急務と言ったところか…。)

 

このこともホシノ達と相談しなければならない。

 

さらに…ゲヘナもミレニアムも同様の設備を求めてくるだろう。

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

(ブラックボックス化して運用マニュアルごとパッケージして販売でもするか…?)

 

銃を撃っている故か…

 

(…あぁ、何となく感覚が戻ってきたな。)

 

思考が元のアビドス復興にまい進する『将軍』としてのそれに戻りつつあることを察し、

 

(…まぁ、あんな宣言しちゃったんだ。今一度腰入れて向き合うのも…悪くないな。)

 

ズダァァァンッッッ!!!

 

さらにスコープを覗く視線を鋭くし標的を撃ち抜くのであった。

 

その後も射撃とその記録を取りながら最終調整を続け…

 

「…さて、こんなもんか。」

 

陽がてっぺんに登る少し前にあらかた調子の確認も終えネイトは帰宅の途に就くことにした。

 

右手を何度か握りしめ…

 

(…手の感覚も肩も痛みやしびれなどの異常はない。これで本調子に戻ったな。)

 

今ここに…傷が完全に癒え負傷する前の体に戻れたこと…『アビドス解放の英雄』としての自分が帰ってきたことをを実感する。

 

「早く帰って伝えるか。アリスやアル達も喜んでくれるかな…。」

 

そう呟きAWMや空薬莢を片付け始めるネイト。

 

いつの間にか射撃場には自分ひとりとなっていたが他の者も帰ったのだろう。

 

(メンテナンスは帰ってからやるとして…カヨコに俺の所見と推測もアビドスやゲヘナにミレニアムへ伝えてもらわなくちゃな。)

 

帰ってからの予定を考えつつ帰り支度を整えていると…

 

「ほぉ若いの。随分と派手なモンを使っとるのぉ。」

 

「ん?」

 

射撃場の入り口から声を投げかけられそちらに視線を向けると…

 

「じゃがハンティングに使うにゃ荷が勝ちすぎやしないか?」

 

猟銃のライフルを背負った老齢の獣人がそこにいた。

【挿絵表示】

 

 

「あぁ、別にハンティングに来たんじゃないんだ。少し調子を確かめたくてな。」

 

別に気にすることでもないので正直に答えネイトは帰り支度を進める。

 

「ほぉ調子を確かめたいとな?…その割にゃ随分と腕の立つな、若いの。」

 

ハンターはそんなことを言いつつネイトの射撃の後を見つめると…

 

「…ん?」

 

首をひねった。

 

「…お前さん、一体何発撃ったんじゃ?」

 

傍らで帰り支度を整えているネイトに真剣な眼差しで尋ねる。

 

「箱出しの銃で俺が本調子かどうかの確認と記録を取りながらの射撃だったからな。精々…30発少々か?」

 

これまた隠し立てするような事でもないのでサラッと答えるネイトだったが…

 

「なんじゃと…!?」

 

ハンターの顔は驚愕に染まる。

 

ちらりと見た弾薬箱に書かれてあったのは338ラプアマグナム弾の文字。

 

文句なしの大口径の狙撃銃だ。

 

本来、これほどまでの大口径ライフルとなると相当な数の試射を行って初めて『馴らし』が終わる物だ。

 

しかし、ネイトが今しがた行った射撃は『箱出し』…おろしたての新品の銃で行っていた。

 

30発少々で馴らしが終わるわけがない筈なのに…

 

(どういうことじゃ…!?なぜたったそれだけの馴らしであそこまで…!?)

 

その弾痕はまるで長年連れ添ってきた愛銃かの如くブレが無く針の穴を通す様な纏まり具合だった。

 

「よしっと。じゃあな、爺さん。」

 

そんなハンターの驚愕など露知らずAWMをケースにしまい終えネイトは立ち去ろうとした。

 

すると…

 

「…ちょいと待っとくれ、若いの。」

 

「ん?」

 

ハンターがネイトを呼び止めた。

――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

翌日早朝、

 

ザッザッザッ…

 

「若いの、へばっとりゃせんか?」

 

「安心しろ、爺さん。これくらい屁でもないさ。」

 

ネイトはオリーブグリーンのハンティングジャケットを纏いオレンジの帽子をかぶってハンターと共に別飛須高原のさらに奥地にある山中に入り獣道を分け入っていた。

 

ネイトの背にはソフトタイプのライフルガンケースが背負われており中にはAWMが収められている。

 

「むしろ…娘たちを説得するのが骨だったな。」

 

「ふっふっふっあれだけの銃の腕前でも娘っ子には弱いか。」

 

「そう言うな。一応病み上がりであの子たちも心配してのことだ。」

 

あの時ハンターに呼び止められたネイト。

 

何かと思ったら…ハンティングへの同行を求められたのだ。

 

話に聞くと…この別飛須高原には『森の主』と呼ばれる大鹿が生息しているらしい。

 

長年生きてきたその鹿は今まで幾人ものハンターが幾年にもわたって追い続けてきたが誰一人として仕留めることはできなかった。

 

このハンターも長年追い続けてきたが…老化の影響で今はもう追いすがることが出来なくなったらしい。

 

「でも、いいのか?ここ最近やってきたようなよそ者にそんな大物を仕留めるチャンスをやって?」

 

道すがらネイトはハンターにそう尋ねる。

 

ハンティングが盛んなこの別飛須高原のハンター達をもってして仕留めきれなかった獲物への挑戦。

 

それを自分がやっていいものか、と思うのは当然だが…

 

「心配するでない。森に入れば上も下もありゃせん。文句を言うやつがいるなら…ソイツの腕がお前さんに負けていた、ただそれだけのことじゃ。」

 

ハンターはそれほど気にしていないようだ。

 

誰であろうと狩りに赴けば獲物を仕留めるチャンスは平等だ。

 

そこに経歴などは一切関係ない。

 

そして、

 

「それに…標高2000を超えた獣道を息一つ乱さず儂に追けて来れる奴は別飛須高原でもそうはおらん。」

 

ネイトの実力はすでにハンターも認めているところだ。

 

本来、猟銃と言う物はストックには木材や軽量ポリマーを用い銃身もライトバレルと非常に軽量に作られている。

 

そうでなければアップダウンが激しい獣道を進む際に大きな足かせになるからだ。

 

対して、ネイトは背負うAWM。

 

耐久性や精度こそ上回るだろうが強化樹脂や肉厚なヘビーバレルに大型のスコープにバイポッドも装着されその重量は10kgに迫る大物だ。

 

そんなハンティングには一切向かないような得物を背負ってなおネイトの足取りは軽くハンターを追い抜かんばかりだ。

 

「お前さん…こういう場所は初めてではなかろう?」

 

目線だけネイトに向けハンターはそう問いかけ…

 

「なぜそう思う?」

 

「歩き方と立ち振る舞いじゃ。その足運びは儂等よりもはるかに重い装備を背負い山の中を駆け回らん限り身につくことはなかろう。」

 

「ほぉ?」

 

「それにその姿勢と鋭い目つき。ハンター…いや、むしろ軍人のそれに近い。どうじゃ、当たっとるじゃろう?」

 

ピタリとネイトの経歴を言い当てた。

 

「爺さん、俺のファンかなにかか?」

 

「馬鹿モン、男のケツ追っかけるくらいなら儂ゃ鹿のケツを追っかけるわい。」

 

事実、このハンターはネイトのことは万魔殿から通達があった療養客ということしか知らない生粋の猟師だ。

 

そもそもネイトのかつての来歴を知るものは数少ない。

 

「まぁ正解だ。…『第11空挺師団』、そこが俺の原点と言っていいだろう。」

 

「なんと…お前さん降下猟兵じゃったのか…!そりゃ納得じゃわい…!」

 

ハンターはネイトの経歴を聞きこの身のこなしに納得する。

 

空挺部隊とくれば敵地に身一つで降り立ち敵に果敢に挑む精鋭中の精鋭部隊だ。

 

そんな部隊に所属していたとなればこの体力も納得だ。

 

が…ネイトの所属していた部隊はそれどころの話ではない。

 

『第11空挺師団』、Arctic Angels北極の天使とも称されるアラスカ防衛のために編成された極圏や山岳地帯での戦闘に特化した即応部隊だ。

 

日々の訓練ですら命を脅かしかねない極寒の中行われ極限環境での生存だけでなく戦闘を継続できる能力が求められる。

 

部隊名にもある空挺降下だけでなくヘリによる『空中強襲』や『地上機動』までも組み合わさりアラスカのありとあらゆる場所に即時展開し敵を迎え撃つ。

 

地球最後の油田が発見されアラスカの重要性が計り知れないものとなりその戦闘能力はネイトの時代では…局地戦において『世界最強』と称されていた。

 

その中でもネイトが所属していたのは空挺降下任務も行う『第2歩兵旅団戦闘団』通称『Spartans』、その訓練は苛烈を極めたが…そのおかげでネイトは米中戦争を生き残ることが出来たと言っていいだろう。*1

 

終戦間際こそ別の師団の第108歩兵連隊第二大隊所属の中隊に移りこそしたが…ネイトにとってはこのような山こそ『ホームグラウンド』なのだ。

 

「フフッ、やはり儂の目には狂いはなかったか。」

 

「昔の話さ。もう長い事スカイダイビングはやってない。」

 

そんな会話を交わしながら道なき道を突き進んでいく二人。

 

しばしそのまま進んでいき…

 

「見えたぞ…!」

 

森が途切れ眼前に巨大な山が聳え立つ場所までやってきた。

 

「ここが…。」

 

「あぁ、主の縄張りじゃ…!奴はここの山全体の草を我が物としておる…!」

 

見ると山の至る所に鹿が好みそうな青々とした草地が点在している。

 

鹿にとっては絶好の餌場を独占しているとなると…その強大さがうかがえる。

 

「で、どうする?あの山をあっちこち回って探すのか?」

 

ネイトがそう尋ねると…

 

「…いや、その必要はないようじゃ。」

 

双眼鏡を構えたハンターはそう呟いた。

 

「見てみぃ、ここから少し見上げた稜線の中腹じゃ。」

 

双眼鏡を渡され指示された場所を見て見ると…

 

「あれが…。」

 

そこに確かに…我が物顔で緑の草を食んでいる大鹿がいた。

 

非常に離れた距離であっても一目で分かる巨体。

 

それだけでもこの森の主と一目で分かるが…

 

「なんて立派な角なんだ…。」

 

何より目立つのは巨体に比例するように聳え立った巨大な角だ。

 

鹿の角というのは加齢によって分岐し『枝角』と呼ばれるものが形成される。

 

これが多ければ多いほどその鹿は長い年月を生き抜いた証明になるが…

 

「………アイツ一体どれだけ生きてるんだ…?!」

 

「気付いたか…!8又9尖…文句なしの『インペリアル・スタッグ』狩猟対象としては最上級の称号じゃ…!」

 

その枝角が片角に9つ、一生に一度お目にかかれるか否かというほどの最上級の獲物なのだ。

 

「あの角が厄介なんじゃ…!あの角があ奴の第二の耳となり儂らが近づく音を感じ取ってしまう…!」

 

鹿の角というのはそれ自体が周囲の音を拾って増幅するアンプの役割を持っている。

 

そのせいで必殺の間合いまで近づき射撃するという狩猟のやり方ではその間合いに入る前に存在を察知され逃げられてしまうのだ。

 

しかも、枝角が片方で9つもある巨大な角ならば…その能力は計り知れないだろう。

 

「なるほど…こちらの動きは簡単に察知できるからあそこまで堂々と姿を現せるってことか…。」

 

だからコソコソとせず山を丸ごと縄張りにし稜線に出て草を食めるのだろう。

 

正にImperial…皇帝の名にふさわしい堂々とした姿だ。

 

「…ここからはお喋りはなしじゃ。足音も殺してギリギリまで…」

 

まだこの距離は遠すぎると判断しハンターは絶好のポイントを求め移動しようとした。

 

だが、

 

「いや、ここでいい。」

 

「…は?」

 

ネイトはそう答えガンケースを開け…

 

スチャ…

 

AWMを取り出しバイポッドを展開し近くにあった岩に載せ射撃準備をとる。

 

「なっ何をしとる…!?この距離から撃っても奴を驚かせるだけ…!?」

 

ハンティングの基本は先に述べた通り獲物との距離を限界まで詰めることから始めるもの。

 

長年の経験をもってしてもこの距離からの射撃など試したことが無い。

 

はっきり言って無謀もいいところだが…

 

「森では上も下もない…だったろ?」

 

そんな警告などどこ吹く風と言わんばかりにネイトはリコンセンサーを搭載した双眼鏡を取り出し標的の大鹿との距離を計測する。

 

(距離…820m、高低差は…210m…仰角はおよそ14°少々…。)

 

計測された距離と高低差を計測し、

 

(撃ち上げるとなるとゼロインはそれよりも若干短めに設定して…。)

 

カチチチッカチカチッ

 

スコープを覗きながらそれを元にダイヤルを調整、

 

「よし…。」

 

ストックを握り射撃体勢をとった。

 

だが、準備はまだ終わりではなくむしろこれからだ。

 

(風速…右に3m、途中上昇気流がおよそ…2mといったところか…。)

 

肌に感じる風とスコープので見える草の揺れ具合などから風速を予想、

 

(そして方角は…北北東、この場所の緯度は…。)

 

さらに精密さを求めるためキヴォトスのある惑星の自転により発生するコリオリ効果も考慮する。

 

(…まったく、あの子はこれを全て感覚でやってるんだから恐ろしいものだ…。)

 

狙撃一つにここまでの工程を要するのにアビドス1の狙撃手であるカレンは共感覚によって全てお見通し…才能という言葉では片付けられない能力である。

 

そして…すべての準備が整った。

 

「フゥ~…。」

 

引き金に指をかけ全神経を集中させる。

 

「…ッ!」

 

その姿にハンターは息をのんだ。

 

昨日射撃場で垣間見たそれとは違う『生命』を狙う『鋭さ』を伴うネイトの射撃姿勢。

 

しかし、そんな名刀のような鋭さを感じられるのに…

 

(なぜ…なぜここまで柔らかになれる…?!)

 

そこに『殺意』は微塵も感じない。

 

ただそこにあるのは…標的への『敬意』のみだった。

 

(若いの…お前さんは…!?)

 

そんなハンターの驚愕など意に介さず…

 

(思い出せ、あの時を…。死の淵ギリギリで掴んだ…あの感覚を…。)

 

ネイトは大鹿に狙いを定めながら…さらに精神を研ぎ澄ませていた。

 

剣先ツルギとの決闘の際、死の間際であってネイトが初めて経験した極限の集中状態である『ゾーン』。

 

『Nerd Rage!』のそれとは違う脳の負担を最小限に留めるあの領域…

 

(あの時の感覚を『いつでも』引き出せなければ…強くなったことにはならない…。)

 

それを偶発的にではなく…意図的に発現させる。

 

でなければ…自分は彼女たちに取り残される。

 

ホシノも…ヒナも…ネルも…どんどん力を付けてきている。

 

そして、ツルギにいたっては自分との戦いのさ中で急成長を遂げて見せた。

 

ならば…ネイト自身も強くならなくては。

 

あの子たちの未来を護り…彼女たちの未来を脅かす存在に打ち勝つために。

 

(来い…。)

 

その領域を…自分は体験することができた。

 

(来い…!)

 

ならばもう一度…いけない道理はない。

 

(来い…ッ!)

 

自分と標的以外を一切排するほどの集中の果て…それは訪れた。

 

(…来た。)

 

自分と大鹿以外の周囲の色が褪せただの情報としてのみ伝わってきた。

 

傍らにはハンターもいるはずなのにそれすらも忘れるほどの集中。

 

「スゥ~…フゥ~…。」

 

息を吸って吐くルーティンをおこない体の震えが0となった瞬間、

 

スンッ

 

引き金を落とした。

――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

数時間後、別飛須高原の一角にある大人専用の酒場。

 

「ホントかよ、爺さん…!?」

 

「あの皇帝が…!?」

 

「だから何度も言っておろう!儂らが束になっても仕留めきれんかったあの大鹿をあの若造は一発で仕留めたんじゃ!!!」

 

そこには別飛須高原を根城にするハンターたちが集いその中心にはネイトを案内したハンターがいた。

 

「奴は縄張りでいつものように草を食んでおった!儂がもっと近づこうとしたのにあの若造はその場で得物を構えたんじゃ!おぬしらも見たものがおるじゃろう!?あの射撃場で撃っておったライフルをじゃ!」

 

「いや…あんなの目立ちたがり屋の素人の得物だろう…!」

 

「猟銃と軍用ライフルじゃ全然違うのなんか常識…!?」

 

「じゃが奴はそれを背負って息一つ上げず儂に後れを取らなかった!それを構えたあの姿、あれほどの若造ができるような立ち振る舞いではなかったわい!」

 

驚愕する周囲のハンターたちをしり目にのどを潤すように黒ビールを飲み、

 

「あの大鹿がウサギに見えるような距離じゃった…!儂らの常識では考えられん間合い、奴はそこから皇帝の『頸椎』を一発で断ち切ったんじゃ…!頸椎をじゃぞ…!?」

 

ハンターは少し落ち着き…ネイトへの畏怖を込めて言い放った。

 

「け…頸椎を…!?」

 

草を食んでいてる鹿、立ち止まっているとはいえ静止しているわけではない。

 

そんな鹿の…殊更不規則に動く頸椎、ネイトはそこを撃ち抜いたのだ。

 

「あ奴は撃たれたことすら気付くことなく仕留められたんじゃ…!儂と若造が皇帝の元へたどり着いたころには…血抜きも終わっておったわ…!」

 

動物と言う物は恐怖を感じると急速に肉の味が落ちる傾向がある。

 

故にハンターは気配すら悟らせずに得物を一撃で仕留めることが求められるのだ。

 

あの距離、文字通りあの主はいつの間にか死んでいたという状況だろう。

 

しかも、338ラプアマグナム弾の衝撃は頸椎だけでなく周囲の頸動脈も破壊。

 

ハンティングで仕留めた獲物に対して直ちに行わなくてはならない血抜きも完了され…

 

「その場で皇帝を解体したが…あれほど見事な肉質は見たことが無い…!あの若造もまるで初めてではないかのような見事な手捌きだったわ…!」

 

ネイトと二人掛かりの作業によって最高の状態で肉の山になったのであった。

 

わざわざ話すこともないがネイトも連邦時代は数え切れない野生動物を仕留めてきている。

 

それも放射能で変異し双頭となったラッドスタッグやバラモンからデスクローを筆頭としたクリーチャーまで。

 

それに比べるとただ大きいだけの鹿はネイトにとっては容易い相手であった。

 

優に200kgはあろうかと大物、それらを二人で分け…

 

「山を下りたのは昼過ぎだったわ…。儂ゃ今でも白昼夢をみとったかと思っとる…。」

 

「おいおい、どんな強行軍だよ…!?」

 

「普通だったら一日仕事だっておかしくねぇのに…!?」

 

彼らの想像外の速さで二人は山を下りたのだった。

 

だが…ハンターの驚きはここからだった。

 

「降りて早々じゃった…あの若造がとんでもないことを抜かしての…。」

 

「とんでもないこと…?」

 

山を下りたネイトがハンターにかけた第一声が…

 

「『貴重な機会を貰えた礼として毛皮とトロフィーは譲る』…じゃと…。」

 

『………はあああああ!!?』

 

ハンターにとってトロフィーや毛皮は獲物の頭部とは狩猟の証明や自らの腕前を証明するだけでの物ではない。

 

それらはハンターの誇りや獲物への敬意と追悼を表す神聖なもの。

 

しかも、相手は皇帝と称される一生に一度出会えるかどうかの大物だ。

 

そんな代物をネイトは何の執着もなく『礼』としてハンターに譲ったのだ。

 

「…じゃあ、アイツは一体何を…!?」

 

そんなハンターの彼らからしたら狩りの象徴を手放してネイトが何を得たか疑問に思う者たちに…

 

「聞いて驚くなよ…。あの若造は…!」

 

ハンターはネイトが何を手にしたかを語り始めた。

 

ちょうどその頃…

 

「では、俺の完全復活を祝し…!」

 

「カンパアアアイ!!!」

 

山荘では狩猟の成功とネイトの完全復帰を祝うパーティが開かれていた。

 

並べられた料理もこの療養生活を締めくくる超豪華な物ばかり。

 

「うわッ…!何このお肉…!?ビナーの時のステーキと全然違う…?!」

 

「ほ、本当に私なんかがこんな超高級部位を食べてもいいんですか…!?」

 

「何言ってるの、ハルカちゃん!お祝いなんだから遠慮した方が失礼だよ~♪」

 

ジビエ界の頂点とも称される鹿のロース肉を使った厚切りのステーキ。

 

老齢な皇帝の生き様を象徴するような柔らかい中にある確かな弾力と濃厚な肉の味が感じられるそれにモモイやハルカの目が丸くなる。

 

しかし、それだけではない。

 

「鹿のお肉って…こんなに味が濃厚なんですね…!?」

 

「ちょっとこれは…普通のお店じゃ味わえないね…!」

 

あの大鹿を長年支え続けたモモと肩肉の合挽で作ったハンバーグ。

 

赤みが強かったので牛脂を混ぜたことによりあの山を駆け巡っていた鹿の生命力が伝わってくるような肉汁が溢れミドリとカヨコが目を見開き驚愕していた。

 

そしてメインは…

 

「パパ、カレーのお替りをください!」

 

「わ、私もお替り、いいですか…!」

 

「こんなに美味しいのに…ちょっとしかないのは悲しいわぁ…。」

 

ヒレカツを乗せたカレーである。

 

それもただのカツカレーではない。

 

カレーには脛肉とネックを使用。

 

脛肉は少々筋があるものの圧力鍋で煮込んだことによりとろけるような食感とコクを生み出しネックも肉そのものから味が溶けだし家畜の肉では味わえない風味を生み出していた。

 

ヒレ肉はあの森の主の巨体をもってしても僅か1~2kgほどしか取れない超希少部位なのだ。

 

その柔らかさと味はブタのそれを凌駕しており小気味の良い弾力とシルクのような滑らかさときめ細やかさを味わえる奇跡のバランスだ。

 

「あぁ、まだまだあるからじゃんじゃん食べてくれ。」

 

ネイトはアリスとユズのお替りを受けよそいに行くために席を立つと…

 

「じゃあ私ハンバーグもう一個貰っちゃお!」

 

「あ、お姉ちゃんずるい!私にはステーキください!」

 

「ネイト兄、私もステーキいい?今度はシンプルに塩コショウで。」

 

「あ、あの私はおろしポン酢のハンバーグを頂けますか、兄様…!」

 

「私はカレーちょうだ~い、目玉焼きトッピングで!」

 

モモイやカヨコ達からもどんどんオーダーが入る。

 

「分かった分かった。アル、少し手伝ってもらえるか?」

 

「了解よ、兄さん。」

 

その声にネイトも微笑みながら答えあるとともに準備に入る。

 

ネイトが求めたもの…それは山荘で帰りを待つ食べ盛りのアルやアリス達が満足するだけの美味しい肉の部位だ。

 

重さからすればほんの数%、あの皇帝を仕留めた功績からすれば本当にわずかな量だ。

 

だが…ネイトにはそれで十分だった。

 

仕留めた獲物の肉をうまい料理にしてこうして賑やかに皆で食べる。

 

これだけで…狩りに出かけた甲斐があったとネイトは思えた。

 

「はい、お待ちどう様。」

 

「パパ!今度はアリスが焼いてあげますね!」

 

「おっそれは嬉しいな。」

 

美味しい料理と笑顔があふれる中…ネイトの療養生活最後の夜が過ぎていき…

 

「…よし、忘れ物はないな?」

 

「はい!クエストに必要なアイテムは完璧です、パパ!」

 

「なんだかあっという間の二週間だったわね…。」

 

「いやぁ~本当に楽しかった~!また来たいな~!」

 

「そうだね。その時はネイト兄もお酒飲めるからもっと楽しめそう。」

 

「ゲームに使える資料もたくさん…!帰ったらさっそく構想練らなきゃ…!」

 

「次の新作は、スローライフ系のRPGとかがいいかもね、ミドリ。」

 

翌朝、山荘内の清掃と荷物やお土産を纏め終え一行は迎えのヘリが来るのを待っていた。

 

この二週間、本当に有意義に過ごすことが出来おかげで体調もここに来る前よりはるかに万全になった。

 

後は日常に戻るだけだが…

 

「…あ、そうだ。」

 

「どッどうかしましたか、兄様…!?」

 

「最後にあれをやっておかなきゃな。」

 

「あれってなぁに、お兄ちゃん?」

 

ネイトは何かを思い出したように歩み出し…少し離れたところで立ち止まって振り返った。

 

何事かと思うアル達だが…

 

バッ!

 

「さぁ、アリス!思いっきり来い!」

 

両手を広げアリスにそう呼び掛けた。

 

そう、アリスがネイトが負傷している間したくても出来なかったこと。

 

それを…

 

「これが俺の最終チェックだ!遠慮はいらないぞ!」

 

療養の最後のリハビリとして…ネイトは行おうとしていたのだ。

 

『!』

 

それを聞き…

 

「ハイッ!!!」

 

ダッ!!!

 

アリスの表情が花が咲いたような笑顔になり一気に駆けだし…

 

「パパー!!!」

 

ダキィッ!

 

ネイトの胸に飛び込んで思いきり抱き締め…

 

「パパ、お帰りなさい…!」

 

僅かに目を潤ませながら大好きな父の真の意味での帰りを出迎える。

 

ネイトもそれをしっかりと受け止め…

 

「ただいま、アリス…。」

 

ギュウ…

 

しっかりと両手で愛する娘を抱きしめるのであった。

 

そんな親子の抱擁をアルやモモイ達は微笑を立てながら見守り…そんな二人を祝福するかのように別飛須高原を一陣の風が吹き抜けるのであった。

*1
自衛隊で例えると『空挺レンジャー課程』と『冬季レンジャー過程』を同時に取得させるようなものである。




この先まだ長いけど、素晴らしい人生が待ってるわ。お互いに愛しあいハグしている限りね。
―――芸術家『オノ・ヨーコ』































































数時間後、ゲヘナのとある空港にて…

「…空気が濃いなぁ。」

「うん、なんだか呼吸がスッゴく楽…!」

「あれだけ高い山の上で過ごしていたら当然よね。」

別飛須高原から降りてきたネイト達は久々の地上の空気を堪能していた。

これから再び各々の日常に戻っていかなければならない。

すると、ネイト達の前に複数台の車両がやってきた。

その一台のドアが開き…

「キキキッどうやら完全に回復できたようだな、ネイト社長…!」

万魔殿議長、羽沼マコトがネイトの前に立つ

「マコトか。二週間、世話になったな。」

「愛しのイブキの頼みだ。気にすることではない。さぁ便利屋68にミレニアムのゲーム開発部の諸君。送りの車を用意した。それぞれ乗り込むがよい。」

どうやらそれぞれの学校へ送ってくれる手配を整えていてくれたようで…

「ホント!?ありがとう、マコト先輩!」

「あら、アウトローらしいお見送り感謝するわ。」

モモイとアル達はそれぞれ別の車に乗り込んでいく。

「アリス、どうする?」

「アリスはパパがアビドスに着くまで一緒にいます!」

「そうか。モモイ、ユウカに俺が送り届けるからって伝えておいてもらえるか?」

「りょ~かい!」

「じゃあ、ネイトお兄ちゃん!またアビドスで!」

ここでネイトとアリスは分かれ残りの面々は一足早く帰宅の途に就くことに。

「…さて、俺達は歩いていこうか?」

「はい、お散歩クエスト開始です!」

せっかくなので親子仲良く駅まで歩こうとした…その時、

ガシッ

「どこへ行こうというのだ、ネイト社長?」

「マコト?」

ネイトの肩をマコトがつかみ動きを制し、

「社長…アリス嬢と共に私と一緒に来てもらおうか?」

アリスと二人して同行を求めてきた。

「…なに?」

「どこかへ行くのですか?」

「キキキッ道すがら説明しよう。今はただ…『アビドスからの報酬』とだけ伝えておこうか?さぁ早く乗るがいい。」

意味深なことを呟き早々に車に乗り込むマコト。

「待て待て、せめて目的地を教えてくれないか?」

「それもそうだな。我々が今から向かうのは…。」

復帰早々…やはりネイトはこのような性なのだろう。

「キヴォトス1の観光学区…『百鬼夜行連合学院』だ…!」


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