―――思想家『内村鑑三』
ゲヘナと百鬼夜行の交流会のメインイベント『和楽姫』開始直前に『魑魅一座・気まぐれ流』の襲撃を受けたネイトと先生に忍術研究部の一行。
ネイトやミチルたちの活躍で襲撃部隊を排除し安堵するも束の間、別動隊がイブキとアリスを攫ってしまった。
「はぁッ…はぁッ…はぁッ…!ほ、本当にやっちまった…!」
「ゆ、誘拐しちゃったっすね!陰陽部のアイドルを!!!」
ネイトから50口径の銃口を向けられていたことなど露知らず逃げ果せた魑魅一座の別動隊の三人は困惑と歓喜にその身を震わせていたが、
「浮足立つんじゃない…!まだ目的が達成できたわけじゃないだろう…!」
この部隊のリーダーが気を引き締めさせる。
「ち…ちゃんと覚えてるよ、リーダー!『和楽姫』の主役を誘拐して今回の交流会を滅茶苦茶にする!」
「そして、その失敗で陰陽部の地位を失墜させる…すよね!ちょっとオマケも子まで連れてきちゃったっすけど!」
「そうだ。予定外の奴にまさか襲撃部隊が全滅したのは想定外だが…なんとかまだ計画の範疇だ。」
予定では襲撃部隊も合流するはずだったが誰一人として戻ってはこない。
「一体何があったんすかね…?」
「百花繚乱が来たんならこうまで簡単に逃げられないはずなのに…。」
予想外の事態と戻らぬ仲間たちを心配する二人の手下に、
「心配するな、うちにはまだ予備部隊がいる。それに…この作戦はキヴォトスの犯罪界のマスターとも呼ばれている『ニヤニヤ教授』の協力を受けたもの…これ以上の軌道修正は必要ないだろう。」
リーダーはニヤニヤ教授の名を出し安心させる。
キヴォトスの後ろ暗い事をやっている者たちにとってこの名は絶大な威力を持つ。
「うぅ~…あのクロノスですら正体を把握できてない有名人が協力してくれただなんて…!」
「そんな大物が私達なんかに力を貸してくださったんですね…!」
その名を聞いただけで手下二人は感激し気も落ち着いたようだ。
「そうだ、その助力もあって計画は依然続行可能。後は淡々と実行し我々『魑魅一座・気まぐれ流』の力を百鬼夜行とゲヘナに見せつけるだけだ…!」
自分達の学校どころか三大校の一角であるゲヘナにまで名を轟かせるようなことを成し遂げようと檄を飛ばすリーダーに対し、
「う~…緊張してきたぁ~…!」
まさかそんな日が来るとは思っておらず緊張に身震いしていると…
「有名度でいえば本当にあの『チセ様』を誘拐しちゃうなんて…!」
「お付きの人までいたから本当にアイドルなんだなぁ…!」
今自分たちが背負っている麻袋に収まっている今回の標的について始める手下たち。
なんせ、今背中にいるのは自分達にとっても憧れの存在なのだ。
騒ぎを起こさせないために付き人の生徒も攫ってきたがそれでも中々ここまでお近づきになれることはない。
「成功したのにまだ胸がバクバクしてるっす…!」
「せっかくだしチセ様のお顔を一目見て落ち着くとするか…。」
「おい…私にも見させてくれ…。」
と、リーダーも期待に胸を膨らませ麻袋の口を開けると…
「「「え?」」」
そろいもそろって素っ頓狂な声を挙げた。
なぜなら…
「あれ、そろそろ出番?」
「こんな本格的な劇だったんですね!」
そこにいたのは…自分たちが知る『チセ』でも、ましてや百鬼夜行の生徒でもない。
互いの制服や制帽に記されたエンブレムは…三大校のうちの二校である『ゲヘナ』と『ミレニアム』である。
「わぁ!ひょっとしてアリスちゃんもお姫様役やっていいのぉ!?」
「本当なのですか!?アリス、イブキと一緒に『囚われの姫君』にジョブチェンジなのですか!?」
と、状況が呑み込めていない『イブキ』と『アリス』は二人して喜んでいるが…
「「「誰だッ!!?」」」
魑魅一座も状況が整理できずにそう声を荒げるのであった。
場面が切り替わり少し前、魑魅一座からの襲撃を受けイブキとアリスが攫われて騒然とする『和楽姫』の会場。
ネイトの鬼気迫る尋問でキヴォトスの裏社会のフィクサーである『ニヤニヤ教授』が関与していることも発覚。
すぐにヴァルキューレや百鬼夜行の統治組織である『陰陽部』や治安部隊である『百花繚乱紛争調停委員会』に通報しなければならないが…
「つッ通報できないってどういうことだい、ミチル…!?」
「そうですよ、部長!!!こうしている間にもイブキ殿やアリス殿が!」
「魑魅一座の思い通りに、させちゃうんですか、部長…!?」
それに待ったをかけたのが忍術研究部部長のミチルだった。
先生や後輩たちにぎょっとしながらその真意を問われるも…
「あ…その…通報したら公演が…!」
言葉に詰まり自信なさげに答えている。
すると…
「…俺も通報は止めておいた方がいいと思う。」
「ネッネイト殿!?」
制圧した魑魅一座の拘束を終えたネイトがミチルの意見に同意する。
彼自身、愛する娘を攫われて心中穏やかでいるわけがなく今すぐにでも飛び出したいはずなのに…だ。
それは格好にも表れコンバットライフルだけでなく装束の上にマガジンポーチを装備し腰には『ツーショットのウェスタンリボルバー』、脇には『デリバラー』が収められたホルスターを装備している。
「もうこの状況は百鬼夜行だけで収まる段階をとうに超えているからな…。」
「どッどういうことなのですか、ネイト殿…!?」
ネイトが深刻な表情で意味深な言葉を呟いていると…、
「万魔殿の議員とミレニアムの生徒の誘拐です。外部に知られたら外交問題どころか…キヴォトス全土を巻き込んだ抗争に発展しても不思議ではありませんよ。」
「イロハ…!?」
「戻ってきてみればイブキとアリスちゃんが誘拐…ですか。万魔殿として見過ごせない一大事ですね。」
イロハも戻ってきて通報した場合のリスクを挙げる。
「い、イロハ…その…落ち着いて状況を整理しよっか…!」
状況が状況なので彼女を宥めようとする先生。
「何を仰るんですか、先生?」
イロハは少しとぼけたような態度をとるが…
「私は今も…すごく冷静ですが?」
「ち、ちょっとそうは見えないかなー…?」
いつも気だるげな彼女の目が鋭くなり袖を力いっぱい握り締めているいることから事態の深刻さを嫌でも実感させられる。
そんなイロハに…
「…すまない、イロハ。俺がいながら…二人を護れなかった…。」
沈痛な面持ちで彼女に謝罪するネイト。
こんな連中に足元を掬われアリス、そして今日は娘同然に接していたイブキを攫われるという情けないにもほどがある事態を引き起こしてしまったのだ。
謝って済む問題ではないが…それでも謝らずにはいられなかった。
そんなネイトを見て…
「…貴方が謝る事はありません、ネイト社長。貴方がいなければもっと多くの被害が出ていたでしょう。」
表情を少し和らげ彼の肩に手を置き思いつめない様に励ますイロハ。
ネイトは自分ができることを精いっぱいやっていたことはこの現場を見ただけで理解でき、
「それに…ネイト社長がもし狙撃して巻き添えが出ていたらその方がイブキもアリスちゃんも悲しみます。よく…踏み留まってくれました。」
自分の感情を押し殺して一般人の被害を考えて行動したことに感謝もしてくれた。
「貴方だって…愛しているアリスちゃんを攫われてるんです。今は…この事態を解決することに集中しましょう。」
「…分かった。ありがとう、イロハ。」
イロハの言葉にネイトの表情も引き締まり意識を集中させる。
「ついでに慰めになるかは分かりませんが…私は元々この交流会には反対だったんです。」
「えぇーッ!!?そうだったのですか、イロハ殿!?」
「イブキにとって思い出になることはいい事ですが…こちらが準備できる警備に制限がある中でこれはやはり危険すぎました。」
と、この交流会についての意外な事実を吐露し…
「全く…マコト先輩が強行するから…!どう責任を押し付けましょうか…!」
毎度毎度考えなしに行動する上司に苛立つイロハ。
「そ、それについては一旦マコトに言ってもらって…。」
「…ともかく、結論としては公に知らせるわけにはいきません。百鬼夜行とゲヘナの間どころかミレニアム、最悪の場合ではアビドスも参戦した政治的軋轢やら紛争やら起こすわけにはいきませんから。」
それでも万魔殿議員として最悪の事態を避けるため一旦諸々の感情を飲み込むのであった。
「え…なにその大戦争は…!?」
ゲヘナとアリスの母校であるミレニアムと問題になることは分かる。
しかし、なぜそこにアビドスまで加わるのかミチルには理解できなかったが…
「………ここだけの話ですが…ゲヘナとアビドスとミレニアムは非公式ながら対等な同盟関係にあります。」
「ちょ…!?それは本当なの、イロハにネイトさん…!?」
「…あぁ、『アゲハ同盟』。ゲヘナにアビドス、ハイランダー間で締結されミレニアムも大きく関わっている学園間の連合同盟だ。まだ正式なものではないがな。」
「ひ、ひえええ…!三大校の二つに、カイザーを叩きのめしたアビドスが、同盟を結んでるんですか…!?」
「ちなみにそんなメンバーを呼び集めた発起人はネイトさんで命名はイブキです。」
「そんな凄い同盟を人知れず結んでいただなんてさすがは棟梁殿…!」
連邦生徒会ですら把握できていない重大事案にミチルたちはおろか先生ですら驚愕するしかない。
戦力は元よりキヴォトス各地に迅速に兵力を展開することを可能にするハイランダーまでその中に加わっているのだ。
そんな一大同盟が百鬼夜行に政争どころか武力紛争を起こす恐れがある。
キヴォトス内ではそこそこの規模があるとはいえ…百鬼夜行が対抗できるわけがない。
「…というわけで、そっちの方が面倒になりそうなので。私は楽な方が好きですから公に知らせるというのはなしですね。」
「では、私達は、どうすれば…。」
下手をすれば百鬼夜行壊滅の危機に顔を蒼くするツクヨだが…
「…やるしかない。」
「部長?」
「こうなったら方法は一つ!」
ミチルが何やら決心したように声を大きくする。
「方法ってつまり…?!」
その先の言葉が想像で自身も真剣な眼差しとなり彼女に問う先生。
最悪の事態を回避する唯一の手段、それは…
「外部に知られる前にこの事件を片付ける!つまりこの場にいる私達でイブキちゃんとアリスちゃんを救い出すってこと!」
独力でイブキとアリスを魑魅一座の魔の手から救出することだ。
「なるほど…!」
「確かにその手がありましたね、部長!」
部長の言葉に忍術研究部のイズナとツクヨも表情が明るくなり…
「それにここにはシャーレの先生に万魔殿のイロハ殿、それに『アビドス解放の英雄』のネイト殿もいる!だから…うん、きっと大丈夫なはず!」
「確かに…それがベストかもしれないね、ミチル…。上手く行けば事態をもみ消して紛争も回避できるはず…。」
「事態を隠し通すにしても二人を救い出さなくてはいけません。誤魔化しながら動くには制約が強いですが…。」
「なに、敵陣に潜り込んで救出作戦なんか今まで何度もやって来ている。要はバレなきゃいいんだ、バレなきゃ。」
先生にイロハ、そしてネイトもその表情に気合が漲った。
その時、
《あ~あ~テステス。本日、百鬼夜行渦巻映画村にお越しの皆様、聞こえてます~?》
『ッ!?』
「飛行船からの放送です!」
周囲に聞こえた独特なイントネーションのアナウンスに一同は外へ出る。
見上げるとキヴォトスではポピュラーなモニター付きの飛行船が映画村上空に飛来し…
《にゃははは~♬皆様、公演は楽しんでくれてますか~?》
「おっと…あのにやけ面は安保理の議場で見た覚えがあるぞ…!」
「に、ニヤ!?」
そこにはこの百鬼夜行連合学院を纏める『陰陽部』の部長、『天地ニヤ』が映し出されていた。
《万魔殿の皆さんのご協力もありスペシャルバージョンでお送りする今回の公演!少々予定外のことがありましたがご覧の通り『体験型イベント:和楽姫』がスタートしました!》
「えぇっ、陰陽部直々に公演の続行を…!?」
そのニヤが大々的に『和楽姫』の開催を宣言し、
《さぁこちらをご覧ください!》
「…アイツらだ…!」
画面が切り替わると大きな麻袋を背負い逃走中の魑魅一座の一団が映し出された。
《現在、お姫様を誘拐した悪党が逃走中!さぁ、誘拐されたお姫様を最初に救出するのは一体誰なのか!?》
「なるほど…そう言うことだね、ニヤ…!」
《無事救出できた方には私たち陰陽部から特別な賞品を贈呈予定ですよ~♪なので百鬼夜行にお越しのゲヘナ生の皆さん、そしていつも映画村を楽しんでくださる百鬼夜行生の皆さん!どうぞふるってご参加ください♬私共はそれとなく応援してますので~、にゃははッ!》
と、なんとも適当なエールと共に放送は終了。
「ここの事態はすでにあちらにある程度は伝わっているようだな。」
「まだ事情を知らない人たちには『和楽姫』が続いているとアピールする。」
「それで周囲の目を煙に巻くってことだね。現状は…悪くない選択だ。」
「あんの陰険部部長…じゃなくて、さすがは陰陽部の部長!これならある程度の時間は稼げるかも!」
彼女の意図は十分理解できた。
「いや、ミチル。状況はよりシンプルになった。これ以上大ごとになる前に…俺達で二人を救い出すんだ。」
「ッとそうだね、ネイト殿!これなら多少派手に動いても誤魔化しが効きやすい!」
「はい!姫の危機とあらばそこからお救いするのが忍びの役目です、棟梁殿!」
「お二人とも、今頃心細くて、泣いてるかもしれません…!行きましょう、皆さん!」
「イブキにアリスさん、すぐに迎えに行きます…!」
「よし、じゃあ行こう!」
こうして、五人は講演会場を飛び出し誘拐犯たちの後を追撃する。
(待ってろ、アリスにイブキ…!)
(まだ、まだ大丈夫…!公演を成功させて忍術研究部の正式許可を貰う…!大口叩いちゃったしイズナやツクヨ…ネイト殿よりも頑張らないと…!)
そんな各人の思いが交錯する中…『和楽姫』が開演するのであった。
――――――――――――――
――――――――
―――
「「「誰だッ!!?」」」
場面は冒頭に戻る。
(チセ様ではない…!?この服装…まさかゲヘナの万魔殿とミレニアム…!?)
「ちっチセ様のサイン貰いたかったのに!?」
「残念っす!」
「んなこと言ってる場合か!!?」
まさかの想定外のイブキとアリスの登場に困惑するしかない魑魅一座。
誘拐すべき標的の取り違え、それも他校の生徒を等どう考えても異常事態だ。
どうすべきか慌てて考えていると…
「そこのアンタたち!そんなところで何してるの?!」
『ッ!!?』
「なっ、もう尻尾を掴まれたのか!?」
突如声を掛けられ驚いてそちらを向くと…
「アンタ達誘拐役でしょ?イベント始まったのに何ボーっとしてるのよ?」
「お、お祭り運営委員会の委員長…?!」
「あ、百夜堂のお姉さん!」
「またお会いしましたね!」
「あら~さっきの♬そう、貴方達がお姫様役なのね?」
百夜堂のオーナーにして『お祭り運営委員会』でもある『河和シズコ』がいて…
「ほら、逃走ルートはこっちよ!」
「え、私達を逃がしてくれるんすか…!?」
「何言ってんのよ?誘拐役が逃げなきゃ話にならないでしょ?」
魑魅一座達に逃走経路を指し示してきたではないか。
普通ならあり得ないようなこの状況に…
「そう言えば…お祭り運営委員会の委員長は金のためならどんなこともする非情な奴だと聞いたことが…!」
「リーダー、これもニヤニヤ教授の計画っすか…!?」
「そっそう言うことだったのか…!」
魑魅一座は彼女の性格を考慮し勝手に納得。
「何か変な言葉が聞こえたけど…まぁいいわ!ほら、急ぎなさい!」
「わっ分かった!ほっほら二人とも!ついて来い!」
「「はぁ~い!」」
何はともあれ逃げることはできそうなので魑魅一座はイブキとアリスの手を引き逃走を再開するのであった。
「なんか魑魅一座っぽい恰好の誘拐役だったけど…あの二人も喜んでたみたいだったし問題ないわよね、うん。」
少々疑問に思うがそう言うものだとシズコも納得し、
「委員長!フィーナ、準備できマシタ!」
「あっフィーナ!お疲れさま!じゃあ私達も準備するわよ!」
同じくこのイベントの『障害役』でもあるフィーナと合流し参加者たちを待つのであった。
それから数分後、
「魑魅一座は確かこっちの方に…!」
「イズナ達からは逃げ切れませんよー!」
「はぁ…はぁ…!」
「ぜぇ…ぜぇ…ま、待って、三人とも…!もう少し…ゆっくり…!」
「ばてるな、先生!おいていくぞ!」
「むしろ…ッなんでネイト社長は…ッケロッとしてるんですか…ッ!?」
ネイト達も情報を頼りに到着。
ここまでほとんど走りっぱなしでミチルやイズナにネイト以外はかなりばててしまっている。
すると…
「あッちょっと待ったぁ!」
「ん?」
「ここは通しマセン!」
「なっ…!?」
「ぜぇ…しっシズコに…フィーナ…!?」
一行の前に二人が立ち塞がった。
「色んな挑戦者が来るとは聞いてましたが…まさか先生もいるとは…。」
まさかの先生の登場にシズコは驚きつつも…
「シズコ、びっくりです☆」
営業スマイルを浮かべ歓迎の意思を見せ、
「そして、貴方も参加されてたんですね♪」
ネイトにも笑顔を振りまいた。
「どうも、さっきは御馳走様。…ちなみに娘たちはここを通ったか?」
彼女も仕掛け人とするならもしかしたらアリスやイブキのことを目撃してるかもしれないと思い尋ねてみると…
「はい、さっきここを通りましたよ♬とっても楽しそうで可愛らしいお姫様でした☆」
「…そうか、それはよかった。」
シズコの答えからどうやら手荒い扱いは受けていないようで胸をなでおろした。
「フィーナも心が痛いでーす!かつては一緒に『大魔王ニャン天丸』を倒した仲ですが…。」
「…大魔王?ニャン天丸?」
何やら悲しげに語るフィーナの言葉の意味が理解できず首を傾げるネイト。
「先生、一体以前ここで何やったんですか?」
「ま、まぁ話すと長くなるから終わった後でね…。」
イロハも気になったのか尋ねるも今は後回しにし、
「今は一時的にでも袂を分かった状態!任侠の道は非常なデスから!」
どうやらこの二人を超えなければ先に進めないようなので話を進めることに。
「あぁ~…ごめん、フィーナ。どういうこと…!?」
「っていうか、百夜堂のオーナーじゃん!どうしてここに…!?」
「えっと…確か事象忍者を率いる謎の変人集団って噂の…。」
「だっ誰が変人だって!?」
なんとも歯に衣着せぬシズコの物言いにミチルが噛みつくが…
「百鬼夜行って…変な集団が多いのは確かかもね…。」
「先生殿ぉ~!?」
どうやらおおむね事実のようだ。
さらに、
「百夜堂…聞いたことが…!確かマニアックなサービスを、提供して、その対価を請求される、と噂の…!」
「業界の闇…というやつですか?!イズナは騙されませんよ!」
「ちょっとぉ!?誤解されるようなこと言わないでちょうだい!ウチはちゃんとまっとうなお店よ!」
今度はあらぬことを口走るツクヨとイズナにシズコがツッコむも、
「まぁ…一部『マニアック』なのはそうかもね。」
「先生まで!?」
これもまた先生は否定しないのでそこそこ的を得た意見のようだ。
「あぁ~…先に進めてもらってもいいか?」
「私達はここを通って行ってもよろしいので?」
「あっすみません…!オッホン、とにかく今日の私達はこの公演のアトラクション担当なんです!」
話が脱線しているのでネイトとイロハが軌道修正しシズコが咳払いし自身の役割を明かす。
「あぁ公演の試練の…?」
「そうです!このアトラクションの『最初の関門』、それこそがこの私!百夜堂のアイドルでありオーナー!そして看板娘の『河和シズコ』!」
「そしてフィーナもデス、お頭ぁ!」
どうやら先に進むためには彼女たちの関門をクリアしなければならないようだが…
「フフフッ何を隠そう私がここにいるのは…これが最初の関門…つまり看板みたいなものだからです、看板娘だけに!」
ヒュ~…
『………。』
彼女の言葉に場が沈黙しこの時期には珍しい空っ風が吹き抜けた。
「…あぁ~笑った方がいい、シズコ…?」
「要りませんっ!!!上手い洒落じゃないことは私が分かってるので!!!」
「今のは……ひょっとして百夜堂の新しい冷たいメニューの宣伝か?」
「そんなわけないでしょう!!?なんで少し上手く返してるんですか!?」
大人二人からの気を遣われた返しに羞恥で赤くなりながら声を張り上げるシズコであった。
「とにかく仕切り直しです!誘拐されたお姫様を助けに来た皆さん、この私シズコと…!」
「フィーナがお相手いたしマ~~ッス!」
そう言い、シズコはポンプアクションショットガンの傑作イサカM37『桜ボンボン』、フィーナは軽機関銃である九二式七粍七機銃『仁義なき撃ち合い』を構える。
「…そう言うことなら。」
ネイトはそう言い、背負っているコンバットライフルではなくデリバラーとディサイプルズカトラスのホルスターに手を添えると…
「待って、ネイトさん…!一応彼女たちは『催し物』ってことで話が言ってるみたいです…!」
「今ここで本気で戦ったら彼女たちに不要な怪我を負わせてしまうかもしれません…。」
「む…。」
耳打ちで先生とイロハが待ったをかける。
確かにネイトを投入すればことは容易く片が付くやもしれない。
しかし…二人は今のネイトの状況を知らないのだ。
キヴォトス人のそれとは違いネイトの戦い方は完全に『戦場特化型』、加減が難しく下手をすると二人を離脱させ公演そのものが破綻しかねない。
緊急事態とはいえ流石のネイトも先ほど世話になった二人を傷付けるのは避けたい。
となると…
「主殿に棟梁殿!ここはイズナ達にお任せください!」
「がんばり、ます。立派な忍者に、なりたいので…!」
「ふふ…さあ、私の出番だねー!え、違う?合ってる?」
「…合ってるぞ、ミチル。それに…しばらくぶりに弟子の成長を見るのも悪くない。」
「任せてください、師匠。私だって色々現場を経験してますから。」
ここは『キヴォトス流』に挑んだ方がよさそうである。
先生が率いる忍術研究部の面々が一歩前に出て挑戦の意思を見せる。
「おっけぇ~!先生と忍術研究部が相手ね!」
「これは手強そうデスね!一昨日来やがれデース!」
「ちょっとそれは使い方が違うけど…行くよ、三人とも!」
「ハイッ!!!イズナ流忍法!」
「忍者は、素早いんです!」
「か、火遁の術…見せてあげる!」
こうして、『和楽姫』最初の関門の戦いが幕を開けるのであった。
「…そう言えばネイト社長、先ほどの話…本当ですか?」
「あぁ…奴だったら…。」
その裏でネイトとイロハはこの事件の裏に潜む真実について話し合うのであった。
一方、
「キキキッさすがは映画村随一の人気イベント、中々に盛大ではないか。」
百鬼夜行を取りまとめる陰陽部の応接室でマコトと…
「お褒めにあずかり恐縮です~、マコト議長~♪」
陰陽部の部長『天地ニヤ』は種類は違うが双方笑顔で映画村の様子を見つめていた。
「それにしてもニヤ部長、貴様が提案した『スパイス』とやら…確かに効果てきめんのようだな!」
「にゃは~、そうでしょう?これで万魔殿の方々も思い出に残り議長の大事なイブキちゃんも忘れられない体験ができるというものですよ~♬」
と、完全に思い付きのように始まったこの公演について互いに感想を述べている中…
「おっと…そろそろお姫様たちと誘拐犯役の次の居場所が映し出されるみたいですね~。」
途中経過として映画村の上空に待機しているドローンからの中継映像が送られてくる時間になったようだ。
「どれ、イブキは楽しんでいるんだろうな?」
「それはもう!お姫様になって喜ばない女の子はいませんよぉ~!」
そう言い互いにモニターを覗いてみると…
「…あら?あらあら?」
困惑の声を上げるニヤに対し、
「ほぉ、これはなかなか面白い趣向ではないか!」
マコトはさらに満足気な声を上げる。
そこに映し出されていたのは…
「イブキだけではなくまさかアリス嬢にまで姫役を任せるとは!ここまで楽しませてくれるとは予想外だ!」
魑魅一座の面々に手を引かれ笑顔で逃げているイブキとアリスの姿だった。
「え…えぇっと…マコト議長?アリス嬢…とは…?」
「む?そう言えば伝えてなかったな!」
笑顔がひきつったニヤがマコトにこの事態について尋ねると…
「キキキッ聞いて驚け…!今日は我々もひとつサプライズを用意していたのだ…!」
「さ、サプライズ…?!」
「そう…!今日、我が万魔殿の交流会のメンバーにあの『ネイト社長』とその娘のアリス嬢を召喚していたのだ!!!」
「…ひぇ?」
彼女の言葉が受け止め切れずにフリーズしてしまった。
「…む?どうしたのだ?このマコト様の威光を示す飛び切りのことだというのに?」
「…その…もう一度よろしいでしょうかぁ?」
聞き間違いだ、そうに決まっている…そうであってくれ。
そんな気持ちがひきつった笑顔のニヤからひしひしと伝わって来るが…
「いいぞ、何度でも言ってやろう!我々ゲヘナ万魔殿はあのネイト社長を召喚できるほど懇意な関係を構築しているのだ!」
哀しいかな…現実は非常だ。
「え…えぇっとつまり…今映画村に…。」
「社長もいるだろう!アリス嬢が姫役ならば演目にも参加しているだろうな!」
そんな自信満々なマコトの声に反応したかのように…
「おッ!見ろ、ちょうど奴が映ったぞ!」
「ッ!!?」
二人の前のモニターが…その姿を捉えた。
貸出衣装であろう忍び装束にイヤに重装備を重ね着したネイトがシャーレの先生が指揮する忍術研究部が第一関門に挑んているところを眺めていた。
「ほぉ、社長もかなり楽しんでいるではないか!…それにしても何をあんなに装備を固めてるのだ?」
首を傾げるマコトとは対照的に…
「き、きっと娘さんを救うために気合を入れてるんですよ!にゃはっにゃはははは~!」
「…大丈夫か、ニヤ部長?」
どこか顔から血の気が引いた先程のように笑うニヤなのであった。
想定外は免罪符ではない。
―――民俗学者『柳田国男』
この章の後の予定
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エデン条約2章
-
デカグラマトン編
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閑話:オリ生徒のエピソード