Fallout archive   作:Rockjaw

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小忍ばざれば則ち大謀を乱る。
―――哲学者『孔子』


The Growing Ninja and Mr. Sandman

『和楽姫』第一関門のシズコとフィーナと戦いを繰り広げる忍術研究部と先生。

 

さぞ白熱した戦いが繰り広げられるかと思われたが…

 

「はい、お疲れ様でしたー!」

 

「…え、どういうこと?」

 

「もう終わりでいいのかい、シズコ?」

 

「まぁ別に本気でやり合わなくてもそう言うアトラクションだし…?」

 

「…あっそっか。」

 

決着は割とあっさりついた。

 

考えてみればこれはあくまで公演、事情があるこちらと違ってシズコとフィーナはあくまで演者なのである程度出演者を突破させなければ成り立たないのだ。

 

「ですが、それでも胸が熱くなるようなバトルでした!フィーナ、感激デス!」

 

それでも戦いの内容自体は非常にハイレベルでフィーナも肩で息をしているほどだ。

 

「これが噂に聞く『ニンジャ』なのでデスネ!今度はそちらのニンジャさんともバトルしたいデース!」

 

「機会があればな、フィーナ。」

 

「…怖いもの知らずって恐ろしいですね。」

 

と、フィーナがネイトに挑戦状をたたきつけている中…

 

「確かに『百夜ノ春ノ桜花祭』の時には気づかなかったけど…これはもしかして集客になるかも…?」

 

百夜堂のオーナーという『経営者』の始点から算盤を弾くシズコ。

 

「…考える方向がいつも通りだ。」

 

「べっっ別に悪い事じゃないじゃないですか、先生!?」

 

彼女のある意味での『本当』の姿を知る先生の言葉にツッコミを入れるのであった。

 

「商売人ってのはそう言うもんだぞ、先生?」

 

「そーそー、分かってもらえますか!?」

 

一方、同じ『経営者』でもあるネイトからの賛同に気を良くするも…

 

「まっ利益を追求し過ぎると人の心をなくすからそこは気を付けるんだな。」

 

「うぐッ…!なんとも含蓄のある言葉ですね…!」

 

「そういうところを『死ぬほど』見てきたもので。」

 

「…気を付けます。」

 

キヴォトス、そして『連邦』から見てきた企業として超えてはならない『一線』を暗に示され頷くしかなかった。

 

「ともかく、忍者の部活とか最初は何のことかと思ったけど…うんっいいんじゃない?まぁイベント頑張ってね。」

 

「あっありがとう…。」

 

「先生とお話ししたいことはまだまだあるのですがそれについては今は置いておいて…とにかく合格です!では六名様、次のコースへどうぞ!」

 

何はともあれ第一関門突破だ。

 

「よッよし!じゃあッ張り切って進んで行こう、皆!」

 

「はい、部長!」

 

「まだ遠くまではいってないはずですしね。」

 

気を取り直し一行は先に進もうとする。

 

「先生、中々指揮がうまくなったな。」

 

「あっありがとうございます!」

 

「ところでイズナの技についてだが…。」

 

ネイトと先生も動き出しつつちょっとした反省会を兼ねた会話をしていると…

 

「…あっあの!」

 

「ん?俺か?」

 

シズコが真剣な面持ちでネイトを呼び止め…

 

「公演が終わった後…お時間があったらまた百夜堂に来てもらえますか!?」

 

事が済んだ後の顔合わせを求めてきた。

 

その表情から…どうやら商売がらみのことではないよう真剣な話のようだ。

 

「…分かった。時間があったら訪問させてもらう。」

 

なので、ネイトも彼女の提案を了承。

 

「ッありがとうございます!公演、頑張ってくださいね!」

 

「あぁ、君もな。」

 

「棟梁殿~!まだですか~!」

 

互いに健闘を祈りネイトも先生たちを追いかけるのであった。

 

一方その頃、

 

「はぁッ…はぁッ…なっなんとか追手は振り切ったが…!」

 

なおも映画村内を魑魅一座はアリスとイブキを連れて逃走中。

 

なぜか時々逃走ルートを指示されてはいるがやはり追撃の存在が気になり中々心が休まらない。

 

「お姉さんたち、大丈夫~?」

 

「スタミナ切れですか?アリスが抱っこしましょうか?」

 

「何でそうなる…!?」

 

唯一この中でも元気なままのアリスとイブキに気を使われて断ろうとするが…

 

「あ、よかったら私を…!」

 

「バカッ!魑魅一座なら志をもっと高く持て!!!」

 

部下の一人がその誘惑に負けそうになり一喝するリーダー。

 

状況が分かっていない二人に頭を抱えるリーダーだがさらに悩みの種がある。

 

《さ…さぁ相変わらずお姫様二人を誘拐した悪党は全力で逃走中!果たして誰が最初に彼女たちを捕まえられるのか~!?》

 

「あぁ、また全部放送されてるっすよ!?」

 

「あ、ネイトさんも見てくれてるかなぁ~?お~い!」

 

「パパ~見えてますか~?!」

 

「やめなって、逃げてる途中なんだから!」

 

「もう一体全体どういう状況なんだ…!?」

 

上空のカメラドローンに向け手を振る二人を部下に宥めさせリーダーは頭を抱える。

 

先程からちょくちょく映画村上空のモニター付き飛行船に自分たちの動向が放送されている。

 

これでは逃げ切ることなど不可能だ。

 

「これもニヤニヤ教授の計画か…!?クソッ次はどうすれば…!?」

 

どうすればいいか頭を悩ませていると…

 

「あっこっちこっち~。」

 

『ッ!!?』

 

そんな一行に寝起きのようなまったりとした声をかけるものが現れた。

 

数分後、

 

「さぁさぁ、誘拐されたお姫様を探して映画村内を駆け回る各い…!」

 

ニヤは各所に展開されたドローンの映像から参加者たちの途中経過をアナウンスする。

 

「ゲヘナも百鬼夜行も混ざり合って個性的な面々がたくさんですねぇ♪」

 

マコトの暴露から何とか調子を取り戻しいつものお気楽な口調で放送を続けるが…

 

「その中でも~…特に目立っているのはこちらの方々~!」

 

現在最も目覚ましい活躍を見せているチームが映し出された瞬間、

 

「ひぅ…ッ!」

 

思わずのどが絞られるように感じた。

 

ドローンが選んだ一番活躍しているチームは…

 

《聞いた話だとこっちに逃げたはず…!》

 

《おいイロハ、走れるんなら自分の足で走ってくれ。》

 

《も、もう少しだけ…私、そんな肉体派じゃないんで…。》

 

《なっなんでイロハ背負って息一つ乱れないんです、師匠…!?》

 

《さ、さすがは棟梁殿…!私もいつか、そんな体力を…!》

 

《主殿!よければイズナがおんぶして走りましょうか!?》

 

園内を凄まじい速度で駆け抜ける先生と忍術研究部にイロハを背負って彼女たちに追従するネイトだった。

 

「ほぉ、やはりこの面々か!うんうん、私の目に狂いはなかったな!」

 

と、納得のメンツにウンウンと上機嫌になるマコト。

 

対して…

 

「…オッホンっ!にっ『忍術研究部』の百鬼夜行の生徒と万魔殿の議員さんがいるチームですねぇ~!まっまぁ『忍術研究部』は未だ正式な部活ではないので同好会みたいなものですが!」

 

「…だから何をそんなに声が震えておるのだ、ニヤ部長?」

 

「そっそんなことはありませんよぉ~!?気を取り直して今回もしかしたら同好会らしからぬ台風の目になってくれるやもしれませんねぇ~!」

 

明らかに動揺で声が震えながらもなんとかアナウンスを続けるニヤ。

 

《にっにゃははっ!では、ほかの参加者各位も頑張ってくださいな、アデュ~!》

 

「…あれ大丈夫なのかな…!?」

 

そんな震え声のアナウンスを聞いたミチルは一抹の不安を覚える。

 

体裁こそまだ『和楽姫』のイベント中だが自体はすでに伝わっているはずだ。

 

なのにその進行をここまで事細かに放送しているニヤ。

 

「万魔殿の人が見たら怒るんじゃ…?」

 

「いえ、あれでいいと思いますよ。」

 

そんなミチルの疑問にネイトにおぶられているイロハが答える。

 

「むしろ変にイベントの内容を秘匿した方がマコト先輩も勘づきかねません。」

 

「なっなるほど…開き直りすぎて逆に状況がバレてない…みたいな?」

 

「そっちの方が俺達にも都合がいい。マコトが動けば余計ややこしくなるからな。」

 

現に今のところ、イブキを救い出そうという万魔殿の過激な行動は確認されていない

 

犯人を刺激する可能性もあるが…そこまで手荒なことをする気概は今のところないようだ。

 

「元々、全体の構成としては、そう言うイベントでしたし…中継が無い方が、もっとあやしいかも、です。」

 

「『正常性バイアス』ってやつさ、ミチル。堂々とやってたら『怪しい』という認知が薄れるんだ。」

 

「あ、そっか…!コソコソしてたら怪しまれるもんね…!」

 

「なんと!それは忍術の修行に使えそうなことですね、棟梁殿!『正常性バイアス』、イズナも覚えます!」

 

そんなことを周囲の面々と話しているさ中…

 

「…師匠、やはりこの事件は…!」

 

「あぁ…尻尾がつかめてきたぞ…!」

 

「全く…雑なんだか綿密なんだか…。」

 

耳打ちで会話する先生にネイトとイロハ。

 

すると、

 

「あっ部長に皆さん!あそこです!」

 

「あっうん!」

 

イズナが次の関門の会場を発見。

 

(とにかく今はあれこれ考えてる場合じゃない…!みんなのためにも立ち止まっていられない!)

 

ミチルも気を引き締め直しその会場に辿り着くと…

 

「つ、強い…!」

 

「何あれ…!?隙が全然ない…!?」

 

「にぇッ!?」

 

「おいおい…随分と激しい関門だな…!?」

 

そこには幾人もの百鬼夜行や万魔殿の生徒が倒れておりその中に…

 

「簡単には通さないよ~。」

 

防弾盾とSMG『Vz 61』を持った一人の生徒がいた。

 

「あ、『ツバキ』。」

 

「やあ先生~。」

 

どうやら先生と顔見知りの生徒のようだが…

 

「…なぁ先生。」

 

「あれはその…彼女の趣味ですか?」

 

「え?」

 

固まった表情でネイトとイロハが尋ねる。

 

服装からして百鬼夜行の生徒であろうことは間違いない。

 

間違いないのだが…

 

「その…非常~に既視感のある格好なのですが…。」

 

「あれは…服でいいのか…?」

 

その恰好がなんとも…なんともなのだ。

 

赤いセーラー服状の襟回りから延びるのはほぼ前掛け…しかもサイドはほぼがら空きで彼女の豊かな『果実』のサイドが丸見え。

 

スカートにいたってもサイドを紐で結んであるというもの。

 

はっきり言おう、布の面積より露出面積の方がはるかに多いのだ。

 

「あっいやその…!」

 

初見の二人のまっとうな疑問に言葉を詰まらせる先生だが…

 

「これ~?これは百鬼夜行伝統の制服の一つだよ~。」

 

寝ぼけ眼でその生徒が答えてくれた。

 

「そ、そうか…。昔の百鬼夜行の生徒会長は随分いい性格してることで…。」

 

「アコ行政官ですら制服を改造してあの格好なのにそれを正式に…。」

 

「なんかすごい誤解産まれてない、先生殿!?」

 

二人に途轍もない印象を植え付けてしまったのではないかとギョッとするミチルだが…

 

「その…私からは何とも…。」

 

事実は事実なので弁明のしようがない先生なのであった。

 

「忍者さんと万魔殿の議員さんは初めましてぇ~…。私は『春日ツバキ』、『修行部』っていう部活の部長の二年生だよぉ~…。」

 

と、目の前の生徒『春日ツバキ』が二人に自己紹介し…

 

「ここは第二関門『眠り姫』だよ…。ふぁぁ…。」

 

「『眠り姫』?」

 

「そう、ちょっとでも油断すると…やられる…危険な…。」」

 

地震が担当する第二関門『眠り姫』の説明のさ中…

 

「………クゥ…。」

 

まどろみの中に意識が消えかけるツバキ。

 

「寝ちゃった!?」

 

「…修行部って名前の割に随分気が抜けた子だな…。」

 

「ん…?あ、そう言えば…お姫様たちを誘拐した悪党は…この先に逃げたよ…。」

 

ミチルの声に意識が浮上し魑魅一座の動向を教え…

 

「ここの関門を突破するための…ルールは簡単…。私が寝てる間に…このラインを超えればクリアだよ~…。」

 

見るとツバキを中心とし距離にして10mほどの白いラインがひかれてある。

 

「つまり…Zzz…。」

 

と、説明の途中でまた寝息を立て始めるツバキ。

 

ヘイローも消えているので…寝たふりではないようだ。

 

「つまりどういうことでしょうか!?」

 

「何ですか、あの人…?寝てるのか起きてるのか…ここの生徒ってあぁいう方ばかりなんですか?」

 

「『そんなことないよ!』…とは…言いきれないかなぁ…。」

 

「まぁ…個性豊かってことで納得するさ。」

 

ホシノでもここまで眠ることはないと言えるほどすぐに寝るツバキだが…

 

「クッまさか眠り姫のアトラクションだなんて…!」

 

「寝てるのか起きてるのか分からない…!どうしたら…!」

 

周囲にいる彼女を知っているであろう百鬼夜行の生徒達は一歩を踏みさせずにいる。

 

「クゥ~…。」

 

と、一目見て分かる深い寝息を立てたツバキを見て…

 

「ッ今だっ!あれは完全に寝落ちしてるはず!」

 

チャンスとばかりに百鬼夜行の生徒の一団が駆け出すが…

 

「くぁ…?」

 

「あ…。」

 

ツバキが眠たげに目を開け…

 

パララララ…ッ!!!

 

「「「ギャ―!!?」」」

 

『ええええー!!?』

 

なんとそのまま寸分の狂いなくVz61をその生徒目掛け発砲。

 

「えっと…『寝ている隙にこのラインを通過できたら合格、超える瞬間に気付かれたら失格』…」

 

と寝ぼけ眼で先ほどの説明を再開し…

 

「だから…そこの皆は失格かな~…。」

 

彼女がそう告げるとどこからか作業着姿の生徒達が出現。

 

「え、ちょっと失格ってマジ!?」

 

「そんなッせっかくここまで!!?」

 

『うわああああああ!!?』

 

先程撃たれた百鬼夜行生のグループを抱えてどこかへと行ってしまった。

 

「みっみなさん、連れ去られてしまい、ましたね…。」

 

「強制退場か…はたまた振り出しか…。」

 

「やり手だな、あの子。」

 

「凝ってるなぁ…。」

 

「これさっきの関門と難易度全然違うじゃん…!急いでるのにどうすれば…!」

 

シズコとフィーナとの戦いがお遊戯レベルに見える第二関門『眠り姫』。

 

寝ぼけ眼であの戦闘力はネイトも油断できる相手ではない。

 

しかも、ここで退場させられれば大きなロスになることは確実。

 

迂闊に動けないミチルたちだが…

 

「次の挑戦者は…誰ぇ…?」

 

ツバキがそう呼び掛けると…

 

「主殿に部長!ここはイズナめにお任せを!」

 

「イズナ、ちゃん…?」

 

「なんか方法でもあるの?」

 

イズナが立候補した。

 

「はい!こんなことがあろうかと備えておいたのです!」

 

「こんな事ってそうそうないような…。」

 

「まぁそう言うな、先生。転ばぬ先の杖ってやつさ。」

 

そう言い彼女が取り出したのは…

 

「この忍具、『聞き筒』を使ってツバキ殿が寝ているかどうか、あの『狸寝入りの術』を看破して見せます!」

 

一見すればただの筒のような道具『聞き筒』だ。

 

本来は壁や地面に当てて音を探る道具だが…

 

「キヴォトス人のPerception聴覚ならそう言うことも可能なのか…。」

 

そこは人とは隔絶した存在のキヴォトス人故の使用法なのだろう。

 

「イズナちゃん、頑張って…!」

 

「よッよし!やっちゃえ、イズナ!」

 

「では…!」

 

イズナは頭頂部にある狐耳に聞き筒を当てツバキの様子を探り始め、

 

「スゥ~………クゥ~………ムニャァ………Zzz…。」

 

慎重にツバキの気配を確かめ…

 

「…今ですッ!!!シュバババババッ!!!」

 

タイミングを見極め疾風迅雷の速度で駆け抜けた。

 

肝心のツバキは…

 

「…むにゃ…。」

 

起きた様子はない。

 

「イズナ、やりました!」

 

「ん~…?あ、おめでと~。」

 

そんな彼女の完成で目を覚ましたツバキの祝福を聞き、

 

「すっ凄い!なんだ、あの技は…!?」

 

「あの眠り姫の試練を突破した…!?」

 

「誰だ、あの子!?」

 

初の突破者に辺りは沸き立つ。

 

「凄いよ、イズナ!」

 

「さすが、イズナちゃんです…!」

 

「イズナが立派に忍者として成長してる…!先生は胸がいっぱいだよ…」

 

ミチルにツクヨに先生もイズナの成長を喜ぶ中、

 

「よく分かりませんが…イズナさんを誉めたほうがいい流れですか?」

 

「まぁ突破したんだ。そこは褒めるべきだろう。」

 

「はあ…次の挑戦者はだ…れ…クゥ…。」

 

と再び眠りについたツバキ。

 

すると、

 

「ん?おーい、イズナ。聞き筒落としてるぞ。」

 

ネイトがイズナが走り出す際に置いてしまっていた聞き筒を発見。

 

それを手に取り…

 

スタスタ…

 

「クゥ…スゥ~…。」

 

ツバキの脇を通り過ぎ、

 

「ほら、大事な道具なんだからちゃんと持っておくんだぞ。」

 

「あッ!ありがとうございます、棟梁殿!」

 

聞き筒をラインの向こうのイズナに渡し…

 

スタスタ…

 

「スゥ~…むにゃあ…。」

 

「さて…俺達はどう突破した物か…。」

 

再びツバキの脇を抜け先生たちの元に戻ってきた。

 

『………。』

 

「…ん?どうかし…。」

 

辺りが静まり返っていることを不審に思うネイトだったが…

 

『ええええええええッ!!!?』

 

次の瞬間、割れんばかりの驚愕の声が巻き起こった。

 

「んむ…なぁに~…。」

 

その声にツバキも目を覚ますが…

 

「なにもないの…?じゃあ、おやすみ…。」

 

まさかネイトが往復してるとは露知らず再び眠りに落ちるのであった。

 

「何あの人!?ただ歩いてあの眠り姫の関門クリアしちゃった!?」

 

「しかもまた戻ってきたぞ!?眠り姫も全く起きてない!?」

 

「あの服装…まさか本物の『忍者』なのか!!?」

 

今までいくらそっと歩こうが確実に気付いていたツバキ。

 

そんな彼女の脇を散歩するかの如く歩きしかも戻ってきたネイト。

 

これが周囲にどれほど異常に見えたか語るまでもないだろう。

 

「と、棟梁殿~!!?一体何やったの!?忍術、これが忍術なの!?」

 

「た、ただ歩いているようにしか、見えませんでした…!」

 

「おぉー!!!これが棟梁殿の実力!!!イズナももっと精進します!」

 

ミチルたちもこれには度肝を抜かれるしかない。

 

「…あしまった。」

 

「師匠…相変わらず無茶苦茶ですね…。」

 

「一体全体どうなってるんですか…?」

 

全く意識してなかったネイトに呆れる先生とイロハ。

 

が、無理もない。

 

いかにすぐ起きようが…眠っている相手にネイトを感知できるわけがない。

 

隠密Perk『Sneak』、独自の足運びで地雷すらも感知できず視界にさえ捕えられなければ走ろうとネイトの気配を察知できないほどの隠密性を授けるPerk。

 

さらに発見される最大要素である『露光率』を格段に下げるPerk『Ace Operator』も取得しスパイの必須テキスト『米国秘密工作マニュアル』も完全収集。

 

はっきり言うと…陽の光の元でもネイトは意識されなければすぐに隠密が可能なのだ。

 

「どうやったの、棟梁殿~!?」

 

これにはさすがにミチルもがっつり食いつきどういう仕組みか尋ねる。

 

Perkのことを説明すると長くなるので…

 

「…コツはな、気配を『消す』んじゃなくて『溶け込ませる』んだ。」

 

「と、溶け込ませる、ですか?」

 

「そうだ。周囲の喧騒、風、音…それらを感じ取ってその中に自分を委ねるんだ。」

 

自分なりの隠密の心得を教授し始めるネイト。

 

「でも、それだと気配が消えないんじゃ…。」

 

「じゃあ、ミチル。色とりどりの絵があったとする。その中に一か所塗り残しがあったらどう思う?」

 

「ふぇ?それは…気になる…かなぁ?」

 

「じゃあ、その絵画の中で少し毛色が違うが溶け込んでいる色合いの色が塗られていたら?」

 

「…あ!それだとちょっと気になりにくいかも!」

 

「そう、『気配を消す』というのが前者で後者が『気配を溶け込ませる』ってことだ。動物の擬態とかがこれに当たるな。」

 

「なるほど…!」

 

「俺なりの理屈はこうだ。…さぁ、やってみろ。」

 

そう言い、ネイトはラインの上に二人を立たせる。

 

「周りを感じる…!周りに自分の気配を委ねる…!」

 

「溶け込ませる…。周りと一緒に、なる…。」

 

ミチルとツクヨはネイトの教え通り目を閉じ黙想し周囲のことを感じ取る。

 

周囲の生徒の息遣い…吹き抜ける風…遠くの方から聞こえる声…。

 

「リラックスするんだ…。体から強張りを抜いて…それを受け入れろ…。」

 

「リラックス…。」

 

「周りを、受け入れる…。」

 

ネイトの低くすっと入って来る声も反芻する。

 

それらをただ受け取るのではなく…その中に自身を委ねるように落ち着いていき…

 

「全てが整ったら…自分のタイミングで歩き出せ…。」

 

「………今だ…。」

 

「……ここ、です…。」

 

ミチルとツクヨは歩み始めた。

 

先程のイズナのように素早くはない。

 

ネイトのような気軽さもない。

 

ただ…

 

「え…嘘…?!」

 

「どうしてあんなに…!?」

 

まるでツバキのことなどいないかのような自然な歩みだ。

 

「スゥ~…んむぅ…。」

 

ツバキも…まるで起きる気配もない。

 

そのまま本当に彼女を小石ほども意識せず…

 

「…あ。」

 

「通れ…ちゃいました…。」

 

ミチルとツクヨは…ラインを超えたのだった。

 

「す、すごい…!」

 

「何なの、あの二人…!?」

 

「ただ歩いて通り抜けたようにしか…!?」

 

これには周囲のギャラリーも絶句。

 

「凄いッ凄いですよ、部長にツクヨ殿!まるで本当にただそこにいるだけのようでしたよ!!!」

 

「こ、これが棟梁殿が、見ている世界…!」

 

「あ、アハハ…!これが棟梁殿の力…!」

 

はしゃぐイズナと対照的にまさかの急成長に信じられないようなツクヨとミチル。

 

「ほぉ…さすがは忍術研究部。あそこまでの吸収力は見たことが無い…。」

 

顎を撫でつつしたり顔を浮かべるネイトだったが…

 

「た、たった少しのアドバイスであれだけ成長させたんですか…!?」

 

「全く…末恐ろしいですね…。あの二人もネイト社長も…。」

 

時間にしてほんの数分足らず、わずかなアドバイスで二人を進歩させたネイトに舌を巻くしかない先生とイロハだった。

 

「ん~…あ…二人も成功してる~…。おめでと~…」

 

と、ここでツバキも目ざめミチルとツクヨの突破を祝福、

 

「あとは…先生と忍者さんに…万魔殿の人だけだね…。」

 

「え、でもネイトさんは…。」

 

「そこまで気付かれてないんですか…。」

 

残りのメンバーである三人に眠たげな眼を向け…

 

「じゃあ、この場合はどうしたらいいんだ?」

 

「でも…同じチームで三人も突破できたわけだし…じゃあ特別ルール…。私に勝てたら…クリアってことにしよっか…。」

 

ミチルたち突破の功績も含めそう提案。

 

愛用の盾と愛銃『安眠のお供Ⅱ』を構え…

 

「じゃあ…どこからでも来て~…。ぐぅ…。」

 

そのまま立ったまま眠りに落ちた。

 

「…先生、あの状態の彼女は…。」

 

「ツバキは…あの状態でも食べたり歩いたり…戦ったりできます…!」

 

「それ…眠るために生きてるってレベルでは…?」

 

と言っても、油断できるものではない。

 

『修行部』、文字通り様々な修行を行う部活だが百鬼夜行における自警団的な立ち位置も兼ねている。

 

その部長であるツバキの実力、たとえ寝ていても並の不良では相手にならないのだ。

 

が、

 

「だったら…俺の出番か…。」

 

「し、師匠…!」

 

ネイトが一歩踏み出し、

 

「…君、その木刀貸してくれないか?」

 

「う、うっす!」

 

傍らにいた万魔殿の生徒から木刀を借りる。

 

「スゥ~…く~…。」

 

「さて…相当な修練を積んでいるようだが…。」

 

そのままツバキと相対し…

 

「眠ったまま俺に勝てるとは…傲りが過ぎるな。

 

ズォ…!

 

まるで影が伸びるかのような足運びで間合いを殺す。

 

「え…。」

 

夢うつつの中…ツバキは感じ取った。

 

まるで…自分ごと呑み込むかのような巨大な存在を。

 

「っ…。」

 

素早く『安眠のお供Ⅱ』を構えるも…

 

グワォッ!!!

 

「わ…!」

 

顎から突き上げられるように浮かびあげられ…

 

ゴォウ!!!

 

「ひ…!」

 

後頭部から地面に叩きつけられる軌跡で急降下。

 

感じたことのない恐怖に身を固めるが…

 

ポスッ

 

「あ…。」

 

まるで最高級の枕のように優しく受け止められ…

 

「グサグサグサっ…と。」

 

ネイトが持っていた木刀の切っ先を優しく喉と正中線に当てる。

 

同時にPipーBoyにベッドに寝ている人物に対しナイフを突き立てるVaultBoyのアニメーションが映し出される。

 

Perk『Mister Sandman』、ステルス時にサプレッサー装着武器のダメージの向上と睡眠中の敵に対し即死攻撃『サンドマンキル』を可能とする隠密Perkの一つだ。

 

文字通り寝込みを襲うのに最適なPerkであるが…これが眠りながら戦えるツバキ相手ならばどうなるか?

 

答えはそう…彼女に対し一撃必殺の攻撃をネイトはほぼ無条件で叩き込めると言うことである。

 

「なっなんて早業…!?」

 

「あの眠り姫が…なすすべなく…!?」

 

「あ、あれが棟梁殿の…!」

 

一瞬の決着にミチルたちは言葉をなくすしかなく、

 

「ほッ…よかったですね…。」

 

「ひやひやした~…。」

 

双方無傷なことにイロハと先生は胸をなでおろした。

 

「…大丈夫か?」

 

「…うん、痛い所はないよ…。」

 

「それはよかった。」

 

目を開けると優し気に自分を心配するネイトがいた。

 

終始、眠たげだったツバキの目は今はぱっちりと開いている。

 

「…私、負けちゃったんだね。」

 

「まだ続きがしたいのならやるが?」

 

どちらも一発も撃っておらずツバキにも一切ダメージはない。

 

この状況ならばネイトを組み伏せて勝負を続行できるが…

 

「ううん、私の負け。修行が足りなかったんだよ。」

 

ツバキは自身の敗北を認めた。

 

これがもし木刀ではなくネイトが腰に差しているナイフだったら…自分はより深い眠りを味わっていただろう。

 

それが分からないほど…ツバキは己惚れていない。

 

「そうか。立てるか?」

 

「ありがとう、えぇっと…。」

 

「俺はネイト。一応、先生の師匠をやっている。」

 

「ネイト…さん。うん、覚えたよ。」

 

ネイトの手を借りツバキは立ち上がり…

 

「先生の…お師匠…。」

 

先程の彼の言葉を反芻し…

 

「…機会があったら…修行に付き合って、ネイトさん。」

 

さらなる高みに行き着くためそうお願いするのであった。

 

自分も強さにはそこそこの自信があった。

 

だが…ネイトのそれは次元が隔絶して違っている。

 

あんな技術は見たことも聞いたこともない。

 

いったいどうすればこの境地へ立てるか…修行部の部長として興味が尽きなかった。

 

「ハハッ、いいだろう。アビドスには君ほどじゃないが寝坊助もいる。きっと気が合うさ。」

 

そんなツバキの願いをネイトもあっさり了承。

 

成長を望む者がいるなら手を差し伸べる。

 

それがネイトの役目の一つと理解している。

 

「ありがとう、他の皆も連れていくね。」

 

「楽しみにしておく。…それじゃツバキ、行っていいかな?」

 

「うん、ネイトさんと先生と万魔殿の議員さんも…第二関門クリア、だね。」

 

こうしてツバキの第二関門『眠り姫』のクリアを宣言され…

 

「次のアトラクションは真っすぐ進んで右の方だよ。」

 

「分かった。行くぞ、皆。」

 

「がってんです、棟梁殿!よぉし待っててよ、お姫様たち~!」

 

「棟梁殿!さっきの技、今度イズナに教えてくださいね!」

 

「あ、危ない事しちゃ、ダメだよ、イズナちゃん…。」

 

「フム…サボりでお昼寝するのは当面控えましょうか?」

 

「大丈夫だよ、イロハ。ネイトさんはそんな人じゃないってわかってるでしょ?」

 

次の目的地を告げられ一行はすぐに向かおうとする。

 

すると、

 

「…ところで皆が放送で行ってた『忍術研究部』なの?」

 

「あ…そっそうだけど…。」

 

ツバキがミチルたちを呼び止め…

 

「そっか。忍者って凄いね。私がそばを通られて三人も気付かなかったの初めて。」

 

自分すら気付かなかったその隠密能力の高さを素直に賞賛するのであった

 

「あ…!」

 

「…!」

 

「はい、忍者はすごいんですよ!主殿と棟梁殿のおかげでイズナ達はもっと立派な忍者になれそうです!」

 

「皆頑張ってね。私はここから応援してるから。」

 

「あ…ありがとう…!」

 

そんなツバキに礼を言い一行は次の関門へと駆け出すのであった。

 

道中、

 

「部長、その…。」

 

「うん、さっきの百夜堂のオーナー達もそうだったけど…こうして周りからちゃんと褒めてもらったのは…初めてかも…。」

 

ツクヨとミチルは少々困惑していた。

 

今まで同好会としてしか認められず動画チャンネルの登録者も伸び悩み日の目を見ることが無かった『忍術研究部』。

 

それが…今日は自分達が培ってきた技術を認められ褒めてもらった。

 

少々不慣れな事態に困惑するのも無理はない。

 

そんな二人と対照的に…

 

「当然です!忍者はすごいものなので!ですよね、主殿に棟梁殿!」

 

「うん、そうだね。忍者はカッコ良いよ。」

 

「あぁ、お前たちの技術が成し遂げたことだ。もっと胸を張ったらいい。」

 

「えへへ、二人に褒めてもらえました!ニンニン!」

 

自己肯定感の強いイズナは先生とネイトに褒められご満悦だ。

 

「とりあえず先を急ぎましょう。こうしている間にも二人が遠ざかっていますし。」

 

「そうだった!よし行こう、皆!」

 

こうして新たな技も身に着けた忍術研究部とネイト達は追跡を再開。

 

次の関門に備え気合を入れ直すのであった。




寝る子は育つ
―――古くからある諺

この章の後の予定

  • エデン条約2章
  • デカグラマトン編
  • 閑話:オリ生徒のエピソード
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